説明

メッキ処理方法

【課題】 水と加圧二酸化炭素とを含む混合溶液を用いて所定の処理を行う際に、より効率よく且つ安定して所定の処理が行える容器を提供する。
【解決手段】 非ポリマー材料で形成された被処理体を水及び加圧二酸化炭素を含む混合溶液で処理するために用いられる容器であって、金属製の容器本体と、容器本体の内壁表面に形成され且つ混合溶液に対して不活性である膜とを備える容器を用いることにより、被処理体に対して、より効率よく且つ安定して所定の処理を施すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水及び加圧二酸化炭素を含む混合溶液を用いて被処理体に所定の処理を施すために用いられる容器及びそれを用いた被処理体の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水と加圧二酸化炭素とを含む混合溶液中で被処理体に何らかの処理を行う方法が様々な分野で適用されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、水と加圧二酸化炭素とを含む混合溶液中でリポソームが分散した懸濁液を生成する方法が開示されている。具体的には、まず、水溶液中に脂質を界面活性剤として添加し、さらに、炭酸ガスを導入してCO/HOのエマルジョンを得る。次いで、圧力容器中から炭酸ガスを抜くことにより、リポソームが分散した懸濁液を生成している。
【0003】
また、水と加圧二酸化炭素とを含む混合溶液を用いた処理方法の一つとして、水が主成分である無電解メッキ液に超臨界二酸化炭素を含ませて無電解メッキを行う方法が提案されている(例えば、特許文献2、非特許文献1、非特許文献2参照)。これらの文献では、無電解メッキ液と超臨界二酸化炭素とを、界面活性剤を用いて相溶させ、攪拌によりエマルジョン(乳濁状態)を形成し、該エマルジョン中でメッキ反応を起こす無電解メッキ方法が開示されている。通常、電解メッキや無電解メッキにおいては、メッキ反応中に発生する水素ガスがメッキ対象物の表面に滞留して、メッキ膜にピンホールの発生させる要因となる。しかしながら、上記文献に開示されている無電解メッキ法のように超臨界二酸化炭素を含む無電解メッキ液を用いた場合には、超臨界二酸化炭素は水素を溶解するので、上記メッキ反応中に発生する水素が取り除かれ、それによりピンホールが発生し難くなり、硬度の高い無電解メッキ膜が得られるとされる。
【0004】
【特許文献1】特開2006−131567号公報
【特許文献2】特許第3571627号公報
【非特許文献1】表面技術 Vol.56、No.2、第83頁(2005)
【非特許文献2】化学工学会 第38回秋季大会要旨集2日目 U209(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、現在、様々な分野で、水と加圧二酸化炭素とを含む混合溶液を用いて所定の処理を行うことが検討されており、それらの処理に好適な容器の開発が要望されている。
【0006】
本発明は、上記要望に応えるべくなされたものであり、本発明の目的は、水及び加圧二酸化炭素を含む混合溶液により被処理体に所定の処理を施すために用いられる容器において、被処理体に対してより効率よく且つ安定して所定の処理が行える容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に従えば、非ポリマー材料で形成された被処理体を水及び加圧二酸化炭素を含む混合溶液で処理するために用いられる容器であって、金属製の容器本体と、上記容器本体の内壁表面に形成され且つ上記混合溶液に対して不活性である膜とを備える容器が提供される。
【0008】
本明細書でいう、用語「処理」は、加水分解、脱水反応、付加重合、縮合重合(縮重合)、電解メッキ、無電解メッキ等の化学反応のみならず、混合、分離、精製、抽出、溶解、浸透等の物理的な処理も含む意味である。また、用語「被処理体」は、固体物のみならず、液状物質(液体)も含む意味である。本明細書でいう「混合溶液に対して不活性である」とは、混合溶液と化学的な反応を起こさないことをいう。また、本明細書でいう「非ポリマー材料」とは、ポリマーを含まない材料のことをいう。
【0009】
また、本明細書でいう「加圧二酸化炭素」とは、加圧された二酸化炭素のことをいう。なお、ここでいう「加圧二酸化炭素」には、超臨界状態の二酸化炭素のみならず、加圧された液状二酸化炭素及び加圧された二酸化炭素ガスも含む意味である。また、加圧二酸化炭素の圧力は、臨界点(超臨界状態)以上に加圧された二酸化炭素のみならず、臨界点より低圧力で加圧された二酸化炭素も含まれる。好ましくは5MPa以上に加圧された二酸化炭素のことをいう。
【0010】
本発明者らが、水及び加圧二酸化炭素を含む混合溶液を用いて所定の処理を行う方法、例えば、特許文献2や非特許文献1及び2に開示されているような超臨界二酸化炭素を含む無電解メッキ液(主成分は水)を用いて無電解メッキを行う方法について、検証実験を重ねたところ、以下のようなことが判明した。
【0011】
従来の無電解メッキ法では、一般に、メッキ液の容器として樹脂製容器が用いられるが、特許文献2及び非特許文献1及び2に記載されているようなメッキ方法では、無電解メッキ液に加圧二酸化炭素を含ませるので、高圧容器つまり耐圧の要求される金属製容器内でメッキ反応させる必要がある。しかしながら、本発明者らの検証実験によると、高圧容器にSUS等の金属材料を用いた場合、メッキ対象物以外に、高圧容器の内壁表面にもメッキ膜が成長してメッキ浴が不安定になり、その結果、メッキ対象物に均一な金属膜を成長させることが困難になることが分かった。さらに、容器の内壁表面に成長したメッキ膜の密着性は悪いので、メッキ処理の最中に容器内壁表面に成長した該メッキ膜が剥離して、メッキ対象物上に形成されたメッキ膜に異物として混入する問題も発生することがわかった。このような異物の混入はメッキ膜のピンホールの発生の原因となる。
【0012】
また、本発明者らの検証実験によると、加圧二酸化炭素を含むメッキ液で長時間メッキ処理を行うと、容器内壁が腐食し、生成された腐食物がメッキ膜へ混入することが分かった。このような現象が起こると、容器耐久性が低くなり、コストが増大するという問題が生じる。それゆえ、この問題は、この技術を用いたメッキ処理の工業化、大量生産化を図る上で大きな障害となる。特に、金型へのメッキを目的とした場合、厚膜(100μm以上)の金属膜を金型表面に形成する必要があるので、メッキ反応時間(処理時間)も非常に長くなる。そのような処理時間が長くなる場合、容器腐食により生成された腐食物がメッキ膜へ混入する可能性が高くなる。腐食物がメッキ膜へ混入すると、金型表面にピンホールが発生し、金型としては致命的な欠陥となり得る。
【0013】
さらに、上述した水及び加圧二酸化炭素を含む混合溶液による腐食(酸化)作用について検証実験を重ねたところ、イオン交換水(または水道水)及び加圧二酸化炭素を含む混合溶液を所定温度に温調された金属製の容器に注入して、混合溶液を攪拌しながら長時間保持した結果、容器の内壁に腐食が確認された。すなわち、金属製容器に対する上記混合溶液の腐食(酸化)作用は、水及び加圧二酸化炭素を含む混合溶液を用いたメッキ処理以外の処理においても発生することが確認された。
【0014】
本発明は、水及び加圧二酸化炭素を含む混合溶液で被処理体に所定の処理を施した際の上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の第1の態様に従う処理容器では、容器本体の内壁表面に混合溶液に対して不活性である膜が形成されているので、混合溶液と内壁表面との間で化学的な反応は起こらず、例えば、内壁にメッキ膜が成長したり、腐食が発生したりせず、容器内で安定して効率よく被処理体に所定の処理を施すことができる。
【0015】
本発明の第1の態様に従う容器の内壁に形成する膜の形成材料としては、膜が水及び加圧二酸化炭素を含む混合溶液に対して不活性であれば任意の材料が用い得る。例えば、ダイヤモンドライクカーボン(硬質炭素膜)等の緻密な炭素膜、超臨界二酸化炭素に侵され難いPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)やPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)等の有機物質の薄膜を用いることができる。これらの薄膜は、高周波プラズマCVD、スパッタ、溶射、塗装等を用いて形成することができる。あるいは、金(Au)やチタン等の安定な金属膜をメッキやスパッタでコーティングしてもよい。なお、本発明の第1の態様に従う容器では、上記膜が非金属材料で形成されていることが好ましく、特に、上記膜がダイヤモンドライクカーボンで形成されていることが好ましい。
【0016】
本発明に用いることのできる金属製の容器本体の材質は任意であるが、水及び加圧二酸化炭素を含む混合溶液に侵され難い材質が好ましい。例えば、SUS316、SUS316L、ハステロイ、チタン、インコネル等を用いることができる。
【0017】
本発明の第2の態様に従えば、非ポリマー材料で形成された被処理体を水及び加圧二酸化炭素を含む混合溶液で処理するために用いられる容器であって、金属製の容器本体と、上記容器本体内部に配置され、且つ、上記混合溶液に対して不活性である材料で形成された内部容器とを備える容器が提供される。
【0018】
第2の態様に従う容器では、混合溶液に対して不活性である材料で形成された内部容器を備えており、その内部容器内で所定の処理を行うので、混合溶液と容器本体及び内部容器の内壁表面との間で化学的な反応は起こらず、容器内で安定して効率よく所定の処理を行うことができる。
【0019】
上記内部容器の形成材料としては、水及び加圧二酸化炭素を含む混合溶液に対して不活性であれば任意の材料が用い得る。例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド等の樹脂材料及び、それらの樹脂材料にガラス繊維等の無機物を混合した材料、並びに、金属材料としてはチタンやハステロイ、インコネル等の金属材料等が用い得る。なお、本発明の第2の態様に従う容器では、上記混合溶液に対して不活性である材料が非金属材料であることが好ましく、特に、上記混合溶液に対して不活性である材料がポリテトラフルオロエチレンであることが好ましい。
【0020】
本発明の容器では、上記加圧二酸化炭素が超臨界状態の二酸化炭素であることが好ましい。
【0021】
本発明の容器では、上記混合溶液が無電解メッキ液及び加圧二酸化炭素を含む混合溶液であることが好ましい。その場合、上記被処理体が表面に金属を有する基材であることが好ましく、特に、上記被処理体が金型製基材であることが好ましい。
【0022】
本発明の容器では、上述のように、水と及び加圧二酸化炭素を含む混合溶液と容器内壁との間で化学的な反応が起こらないので、水及び加圧二酸化炭素を含む混合溶液中で長時間メッキ処理を行っても、容器内壁にメッキ膜が成長したり、容器内壁が腐食したりしない。それゆえ、特に、膜厚が30μm〜500μmのメッキ膜を被処理体上に形成する場合(長時間メッキ処理を行う場合)に有効である。
【0023】
本発明の第3の態様に従えば、本発明の第1または第2の態様に従う容器を用いて非ポリマー材料で形成された被処理体を処理する方法であって、上記容器内に水及び加圧二酸化炭素を含む混合溶液を注入することと、上記混合溶液に上記被処理体を接触させることとを含む処理方法が提供される。
【0024】
本発明の処理方法では、本発明の容器を用いて被処理体に所定の処理を施すので、安定して効率よく所定の処理を行うことができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の容器によれば、金属製の容器本体の内壁表面に水及び加圧二酸化炭素を含む混合溶液に対して不活性である膜を形成している、あるいは、混合溶液に対して不活性である材料で形成された内部容器を備えているので、混合溶液と容器内壁との間で反応が起こらず、容器内で安定して効率よく被処理体に対して所定の処理を施すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の容器及びそれを用いた処理方法の実施例について図面を参照しながら具体的に説明するが、以下に述べる実施例は本発明の好適な具体例であり、本発明はこれに限定されない。
【実施例1】
【0027】
実施例1では、バッチ処理により光学部材成形用の金型基材(被処理体)の表面に無電解メッキ膜(金属膜)を形成する方法を説明する。なお、この例では、液晶表示装置等のバックライトユニットに用いられる導光板の成形用金型を作製した。この例で作製した導光板成形用金型の概略構成を図2に示した。図2(a)は、導光板成形用金型を成形機内の固定金型に装着した際の概略断面図であり、図2(b)はこの例で作製した導光板成形用金型の概略断面図であり、そして、図2(c)は図2(b)中の破線Aで囲まれた領域の拡大断面図である。
【0028】
この例の導光板成形用金型10は、図2(b)に示すように、金型基材1(入れ子)と、金型基材1の表面に形成された金属膜2とからなる。そして、図2(c)に示すように、金属膜2の表面には、鋸状の凹凸面が形成されている。なお、この例では、金型基材1をHPM38(SUS420J2改良鋼または焼き入れ焼き戻し鋼)で形成し、金属膜2はニッケル−リンで形成した。また、金属膜2の表面にはピッチ200μm、高さ5μmの鋸状の凹凸パターンを形成した。
【0029】
図2(b)に示すような、導光板成形用金型10を用いて導光板を成形する場合には、図2(a)に示すように、成形機100内の固定金型101に導光板成形用金型10が装着される。この際、導光板成形用金型10の金属膜2側がキャビティ11側に配置されるように装着される。
【0030】
[メッキ処理装置]
次に、この例の金型基材1上に金属膜2を形成するために用いたメッキ処理装置を説明する。この例で用いたメッキ処理装置の概略構成図を図1に示した。この例のメッキ処理装置200は、図1に示すように、主に、液体二酸化炭素ボンベ21と、加圧二酸化炭素を生成するシリンジポンプ22と、メッキ処理を行う高圧容器30と、高圧容器30から排出されるガスを回収する回収槽41と、それらの構成要素を繋ぐ配管23とで構成されている。また、配管23には、図1に示すように、処理装置200内の加圧二酸化炭素の流動を制御するための手動ニードルバルブ25,44,45及び保圧弁42が所定の位置に設けられている。
【0031】
高圧容器30は、図1に示すように、容器本体31と、蓋32とからなり、公知のバネが内蔵されたポリイミド製シール33でシールされ、容器内部が密閉される構造になっている。容器本体31及び蓋32の形成材料としては、SUS316Lを用いた。また、高圧容器30の蓋32には、容器内部に導光板成形用の金型基材1を吊り下げるための吊り下げ部材34を設けた。なお、高圧容器30は、温調流路36を流れる図示しない温調機により温度制御された温調水により30℃から145℃の任意の温度により温調することができる構造になっている。また、図1に示すように高圧容器30の容器本体31には、加圧二酸化炭素の導入口38及び排出口39が形成されており、導入口38及び排出口39には配管23が繋がれている。それゆえ、高圧容器30の内部はその導入口38及び排出口39を介して、それぞれシリンジポンプ22及び回収槽41と流通している。
【0032】
そして、この例の高圧容器30では、図1に示すように、容器本体31の内壁にダイヤモンドライクカーボン(DLC)で形成された反応防止膜40(加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液に対して不活性な膜)を形成した。反応防止膜40は、DLCをCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相法)により形成し、膜厚は約100nmとした。なお、反応防止膜40の膜厚はある程度の厚さが必要であり、薄すぎると膜内にピンホール等が存在する可能性があり、その場合には遮蔽性が十分でなくなる。一方、反応防止膜40の膜厚が厚すぎると不経済である。
【0033】
この例のメッキ処理を行う高圧容器30では、上述のように、容器本体31の内壁に加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液に対して不活性な反応防止膜40が形成されているので、メッキ処理の最中に内壁にメッキ膜が成長したり、腐食が発生したりすることはなく、良好な析出レートで安定してメッキ膜を金型基材1上に形成することができる。
【0034】
[導光板成形用金型の製造方法]
次に、この例の導光板成形用金型10の金型基材1の表面に金属膜2を形成する工程から金属膜2の表面を切削加工して導光板成形用金型10を作製するまでの一連の製造工程について説明する。まず、所定形状の金型基材1を用意し、図示しないメッキ装置により、金型基材1の表面にストライクメッキを施し、厚さ約1μmのニッケルメッキ膜を金型基材1の表面に形成した。
【0035】
次いで、還元剤(次亜リン酸ナトリウム)及び金属塩(硫酸ニッケル)を含む無電解メッキ液37(奥野製薬社製ニコロンDK)を用意した。なお、この例では、金属塩に対する還元剤のモル比(還元剤/金属塩)が10となるように無電解メッキ液37を調製した。また、この例では、無電解メッキ液37に界面活性剤として、東信油化製トーレックス1000を1wt%添加した。界面活性剤を添加することにより、無電解メッキ液に導入する加圧二酸化炭素とメッキ液とをより相溶させることができ、また、その混合溶液を攪拌することによりエマルジョン(乳濁状態)を形成することができる。
【0036】
次いで、予め90℃に温調された高圧容器30内に、調整したメッキ液37を高圧容器30に導入(注入)した。この際、高圧容器30の内容積(500ml)の70%をメッキ液37が占めるように注入した。次いで、ストライクメッキされた金型基材1及びマグネチックスターラー35を高圧容器30内に挿入し、金型基材1をメッキ液37中に浸漬した。ここで、該光学部材成型用金型は、それに取り付けられる樹脂等からなる非メッキ成長性の被覆プレートと一緒に仕込んでも良い。これは、光学部材成型用金型(入れ子)の被覆プレートに接触する部分にメッキ膜が厚く形成されると、寸法変化で入れ子が金型本体に収まらなくなる恐れがあるので、入れ子の被覆プレートに接触する部分にメッキが成長しないようにするためである。
【0037】
次いで、二酸化炭素ボンベ21からフィルター24を介して、シリンジポンプ22に液体二酸化炭素を供給し、シリンジポンプ22で液体二酸化炭素を15MPaに昇圧した(加圧二酸化炭素を生成した)。次いで、手動バルブ25を開いて、導入口38より圧力15MPaの加圧二酸化炭素を高圧容器30内に導入した。その後、マグネチックスターラー35を高速で回転させて加圧二酸化炭素とメッキ液37と攪拌して相溶させた。そして、その状態を15時間保持し、ストライクメッキが施された金型基材1の表面にニッケルーリン皮膜を形成した。また、この際、高圧容器30内のメッキ液は図示しない自動分析供給システムにより浴内の濃度が一定になるように調整した。この例では、このようにして、金型基材1上にニッケルーリンからなる金属膜2を形成した。
【0038】
上記状態を15時間保持した後、マグネチックスターラー35を停止させ、二酸化炭素とメッキ液を2相分離させた。その後、手動バルブ25を閉じ、手動バルブ45を開いて、二酸化炭素を回収槽41に排気した。その後、高圧容器30内から金型基材1を取り出した。取り出した金型基材1の表面には、厚さ105μmのピンホールのない均一な金属膜2が形成されていた。また、目視により、高圧容器30の内壁を観察したところ、内壁にはメッキ膜の成長は見られず、腐食も見られなかった。
【0039】
次に、上述のようにして厚さ105μmの金属膜2が表面に形成された金型基材1の表面を鏡面研磨した。次いで、単結晶ダイヤモンドバイトを用いて、金属膜2の表面を切削加工して溝を形成し、図2(c)に示すような鋸状の凹凸パターンを金属膜2の表面に形成した。この例では、以上のようにして、図2(b)に示すような構造の導光板成形用金型10を作製した。
【0040】
この例で作製した導光板成形用金型10の金属膜2の表面をレーザ顕微鏡で観察したところ、欠陥及びピンホール等が観測されなかった。また、この例の導光板成形用金型10を用いて導光板を作製し、その光学特性を評価したところ、良好な光学特性が得られた。
【実施例2】
【0041】
実施例2では、実施例1と同様に、バッチ処理により光学部材成形用の金型基材(被処理体)の表面に無電解メッキ膜(金属膜)を形成する方法を説明する。なお、この例においても、実施例1と同様に、導光板の成形用金型を作製した。ただし、この例では、金型基材の表面にメッキ処理を施すメッキ処理装置を実施例1とは変えた。
【0042】
[メッキ処理装置]
この例の金型基材1上に金属膜2を形成するために用いたメッキ処理装置の概略構成図を図3に示した。この例のメッキ処理装置300は、図3に示すように、主に、液体二酸化炭素ボンベ21と、加圧二酸化炭素を生成するシリンジポンプ22と、メッキ処理を行う高圧容器50と、高圧容器50から排出されるガスを回収する回収槽41と、それらの構成要素を繋ぐ配管23とで構成されている。また、配管23には、図3に示すように、処理装置300内の加圧二酸化炭素の流動を制御するための手動ニードルバルブ25,44,45及び保圧弁42が所定の位置に設けられている。すなわち、この例では、高圧容器50以外は、実施例1のメッキ処理装置200と同じものを用いた。
【0043】
高圧容器50は、図3に示すように、容器本体51と、蓋52と、容器本体51の内部に収容される内部容器60とからなる。蓋52は、実施例1のように金型基材1を保持する保持部材を備えないこと以外は、実施例1と同様の構造である。この例の容器本体51では、その内壁表面に、反応防止膜を設けなかったこと以外は、実施例1と同様の構造とした。そして、この例のメッキ処理装置300では、金属製の容器本体51の内部に収容可能なPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製の内部容器60を用い、この内部容器60内で金型基材1に無電解メッキ処理を施した。PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)は加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液に対して不活性な材料である。
【0044】
内部容器60は、図3に示すように、無電解メッキ液37及び金型基材1が収容される容器本体部61と、蓋部62とからなる。蓋部62の無電解メッキ液37側の表面(下面)には、金型基材1を無電解メッキ液37内に吊るして保持することのできる保持部材63が設けられている。この保持部材63は、実施例1の保持部材と同様の構造を有する。一方、容器本体部61内の底部には、無電解メッキ液37を攪拌するためのマグネチックスターラー35を挿入した。また、容器本体部61の上端付近の外壁にはネジ溝が形成されており、蓋部62内壁には容器本体部61の上端の外壁に設けられたネジ溝と勘合するネジ溝が形成されている。そして、容器本体部61のネジ溝と蓋部62のネジ溝とを勘合させることにより、内部容器60を閉める構造になっている。
【0045】
この例の高圧容器50では、上述のように、容器本体51の内部に配置され且つ加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液に対して不活性な材料で形成された内部容器60内でメッキ処理を行うので、メッキ処理の最中に容器本体51及びた内部容器60の内壁にメッキ膜が成長したり、腐食が発生したりすることはなく、良好な析出レートで安定してメッキ膜を金型基材1上に形成することができる。
【0046】
[導光板成形用金型の製造方法]
次に、この例の導光板成形用金型10の金型基材1の表面に金属膜2を形成する工程から金属膜2の表面を切削加工して導光板成形用金型10を作製するまでの一連の製造工程について説明する。
【0047】
まず、実施例1と同様にして、金型基材1の表面にストライクメッキを施し、厚さ約1μmのニッケルメッキ膜を金型基材1の表面に形成した。次いで、実施例1と同様にして調製された無電解メッキ液37を用意した。なお、この例では、実施例1と同様に、金属塩に対する還元剤のモル比(還元剤/金属塩)が10となるように無電解メッキ液37を調製した。また、無電解メッキ液37には、実施例1と同様に、界面活性剤も添加した。
【0048】
次に、上述のようにして用意した無電解メッキ液37を高圧容器50の外で、内部容器60に導入し、次いで、ストライクメッキが施された金型基材1及びマグネチックスターラー35を内部容器60に挿入し、金型基材1を無電解メッキ液37に浸漬した。次いで、予め90℃に温調された高圧容器本体51内に、内部容器60を挿入し、蓋52を閉めた。
【0049】
次に、二酸化炭素ボンベ21からフィルター24を介して、シリンジポンプ22に液体二酸化炭素を供給し、シリンジポンプ22で液体二酸化炭素を15MPaに昇圧した(加圧二酸化炭素を生成した)。次いで、手動バルブ25を開いて、導入口58を介して圧力15MPaの加圧二酸化炭素を高圧容器50内に導入した。この際、内部容器60の容器本体部61と蓋部62は、上述のように、ネジで勘合されているが、その状態においても、加圧二酸化炭素は、粘度が低く拡散性が高いので、内部容器60のネジで勘合されている部分のわずかの隙間から内部容器60の内部に充分に導入される。その後、マグネチックスターラー35を高速で回転させて加圧二酸化炭素とメッキ液37と攪拌して相溶させた。そして、その状態を15時間保持し、ストライクメッキが施された金型基材1の表面にニッケルーリン皮膜を形成した。また、この際、高圧容器50内のメッキ液は図示しない自動分析供給システムにより浴内の濃度が一定になるように調整した。この例では、このようにして、金型基材1上にニッケルーリンからなる金属膜2を形成した。
【0050】
上記状態を15時間保持した後、マグネチックスターラー35を停止させ、二酸化炭素とメッキ液を2相分離させた。その後、手動バルブ25を閉じ、手動バルブ45を開いて、二酸化炭素を回収槽41に排気した。その後、高圧容器50内から内部容器60を取り出し、次いで、金型基材1を内部容器60から取り出した。取り出した金型基材1の表面には、厚さ103μmのピンホールのない均一な金属膜2が形成されていた。また、目視により、高圧容器50の内壁を観察したところ、内壁にはメッキ膜の成長は見られず、腐食も見られなかった。
【0051】
次に、上述のようにして厚さ103μmの金属膜2が表面に形成された金型基材1の表面を実施例1と同様にして切削加工して、図2(c)に示すような鋸状の凹凸パターンを金属膜2の表面に形成した。この例では、以上のようにして、図2(b)に示すような構造の導光板成形用金型10を作製した。
【0052】
この例で作製した導光板成形用金型10の金属膜2の表面をレーザ顕微鏡で観察したところ、欠陥及びピンホール等が観測されなかった。また、この例の導光板成形用金型10を用いて導光板を作製し、その光学特性を評価したところ、良好な光学特性が得られた。
【実施例3】
【0053】
実施例3では、実施例2で用いたメッキ処理装置(図3)を用いて、実施例1の導光板成形用の金型基材1上に10〜200μmの範囲で膜厚が異なる種々の金属膜2を形成した。具体的には、メッキの処理時間を1.5時間〜30時間の範囲で変化させて、金型基材1上に種々の膜厚を有する金属膜2を形成した。そして、この例では、各メッキ処理時間後の容器腐食の状況を目視により調べて、メッキ処理時間(金属膜の膜厚)と容器腐食との関係(耐食性)を調べた。
【0054】
[比較例1]
また、この例では、比較のために、内部容器を備えず、且つ金属製の容器本体の内壁に反応防止膜を備えない高圧容器を用意し、その高圧容器についても、上記と同様の評価実験を行った。なお、比較例1の高圧容器の評価実験においては、10〜50μmの範囲(1.5時間〜7.5時間)で膜厚が異なる種々の金属膜を金型基材上に形成した。また、上記評価実験で、容器内壁に腐食が発生した場合には、容器内壁の腐食をサンドブラストにより除去した後、その高圧容器を次の実験に用いた。
【0055】
上記評価実験の結果を下記表1に示した。なお、表1では容器腐食の評価結果を○、△及び×で表わしたが、これらの評価基準は以下の通りとした。
○:容器内壁の腐食及びメッキ膜成長なし
△:容器内壁の一部に腐食及びメッキ膜成長あり
×:容器内壁の腐食およびメッキ膜成長があり且つメッキ液中及び金属膜中に腐食物の混入あり
【0056】
【表1】

【0057】
表1から明らかなように、本実施例のメッキ処理装置の高圧容器(図3)では、評価したメッキ膜厚(処理時間)の範囲では、容器腐食が見られなかった。また、本実施例の高圧容器では、容器内壁のメッキ膜成長も見られなかった。
【0058】
一方、比較例1の高圧容器では、表1に示すように、メッキ膜厚が10μm(処理時間:1.5時間)の場合(処理時間が比較的短い場合)には、容器内壁に腐食は見られなかった。しかしながら、メッキ膜厚が30μm(処理時間:4.5時間)になると、比較例1では、容器内壁の一部に腐食及びメッキ膜成長が確認された(△評価)。さらに、メッキ膜厚50μm(処理時間:7.5時間)となると、容器内壁に腐食及びメッキ膜成長が発生するだけでなく、メッキ液中及び金属膜中にサビ等の腐食物が混入していることが確認された。
【0059】
上記評価結果から、本実施例のように、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液に対して不活性な材料で形成された内部容器内でメッキ処理を行うことにより、メッキ処理時間(メッキ膜厚)が増大しても、高圧容器の内壁に腐食及びメッキ膜成長が発生せず、ピンホール等の無い良好な金属膜を安定して形成することができることが分かった。特に、メッキ膜を30μm以上の厚さで形成する場合には、特に、本実施例の高圧容器を用いることが有効であることが分かった。なお、本発明のメッキ膜の形成方法で形成し得るメッキ膜の上限は、用途等を考慮すると500μm程度である。実際、本実施例のような光学部材用金型を作製する場合には、メッキ膜が500μm程度あれば十分である。それ以上の厚さを形成する必要が場合には、成膜レートを考慮して、本発明の方法で無電解メッキ膜を形成した後、電気メッキを行うことが好ましい。
【0060】
なお、実施例3では、実施例2で用いた高圧容器を用いた場合を説明したが、実施例1で用いた高圧容器、すなわち、高圧容器内壁にDLC膜をコーティングした高圧容器を用いて、上記実施例3と同様の評価実験を行ったところ、同様の結果が得られた。
【実施例4】
【0061】
実施例4では、特許文献1と同様に、水と加圧二酸化炭素を含む混合溶液中で、リポソームが分散した懸濁液を生成する方法について説明する。なお、この例の処理装置は、実施例2(図3)と同様の装置300を用いた。なお、内部容器60の形成材料も、実施例2と同様に、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)とした。
【0062】
まず、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)0.2g、及び、グルコース水溶液20g(グルコース濃度0.15mM)を高圧容器50の外で内部容器60に導入した後、予め60℃に温調された高圧容器50内に内部容器60を装着した。ただし、この例では、この混合水溶液を内部容器60の内容積の70%を満たすように導入した。
【0063】
次いで、実施例2と同様にして、高圧容器50内に圧力20MPaで加圧二酸化炭素を導入した。具体的には、液体二酸化炭素ボンベ21からフィルター24を介して液体二酸化炭素をシリンジポンプ22で吸い上げ、次いで、シリンジポンプ22内で液体二酸化炭素を20MPaに昇圧にした(加圧二酸化炭素を生成した)。次いで、手動バルブ25を開いて20MPaの加圧二酸化炭素を高圧容器50内部に導入した。この際、内部容器60の容器本体部61と蓋部62はネジで勘合されているが、その状態においても、加圧二酸化炭素は、粘度が低く拡散性が高いので、内部容器60のネジで勘合されている部分のわずかの隙間から内部容器60の内部に充分に導入される。
【0064】
その後、内部容器60内のマグネチックスターラー35を高速で回転させ、40分間撹拌した。そして、40分保持後、高圧容器50内の加圧二酸化炭素を実施例2と同様にして排気し、リポソームが分散した懸濁液を得た。上記処理後、高圧容器50の内壁を観察したところ、高圧容器50内壁の腐食は認められなかった。
【0065】
なお、実施例4では、実施例2で用いた高圧容器を用いた場合を説明したが、実施例1で用いた高圧容器、すなわち、高圧容器内壁にDLC膜をコーティングした高圧容器を用いて、上記実施例4と同様の処理を行ったところ、高圧容器の内壁に腐食は認められなかった。
【0066】
[比較例2]
また、比較のため、内部容器を備えず、且つ金属製の容器本体の内壁に反応防止膜を備えない高圧容器を用意し、その高圧容器を用いて、上記実施例4と同じ処理を行った。その結果、高圧容器内壁において変色及び腐食が起きていることが確認された。
【0067】
上記実施例1〜3では、加圧二酸化炭素を含む無電解メッキ液を用いたメッキ処理について説明し、実施例4では、水と加圧二酸化炭素を含む混合溶液中で、リポソーム懸濁液を生成する方法について説明したが、本発明の高圧容器及びそれを用いた処理方法はこれらの処理に限定されず、水と加圧二酸化炭素を含む混合溶液を用いて行う任意の処理に適用可能である。例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)、半導体等のレジストパターンの乾燥処理やアルコールの分離精製、抽出等の処理においても、本発明は適用可能であり、同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の容器及びそれを用いた処理方法では、加圧二酸化炭素及び水の混合溶液中で被処理体に何らかの処理を行っても、容器内壁と加圧二酸化炭素及び水の混合溶液とが反応しないので(例えば、メッキ膜が成長したり、腐食したりしないので)、安定して効率よく所定の処理を行うことができる。それゆえ、本発明の容器及びそれを用いた処理方法は、加圧二酸化炭素と水とを含む混合溶液を用いた種々の処理、特に、長時間処理が必要な処理に最適な容器及び処理方法である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】図1は、実施例1で用いたメッキ処理装置の概略構成図である。
【図2】図2は、実施例1で作製した導光板成形用金型の概略構成図であり、図2(a)は成形機に導光板成形用金型を装着した際の成形機の概略断面図であり、図2(b)は導光板成形用金型の概略断面図であり、図2(c)は図2(b)中の破線Aで囲まれた領域の拡大図である。
【図3】図3は、実施例2で用いたメッキ処理装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0070】
1 金型基材
2 金属膜
10 導光板成形用金型
21 液体二酸化炭素ボンベ
22 シリンジポンプ
30,50 高圧容器
31,51 容器本体
32,52 蓋
37 無電解メッキ液
40 反応防止膜
60 内部容器
200,300 メッキ処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非ポリマー材料で形成された被処理体を水及び加圧二酸化炭素を含む混合溶液で処理するために用いられる容器であって、
金属製の容器本体と、
上記容器本体の内壁表面に形成され且つ上記混合溶液に対して不活性である膜とを備える容器。
【請求項2】
上記膜が非金属材料で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の容器。
【請求項3】
上記膜がダイヤモンドライクカーボンで形成されていることを特徴とする請求項2に記載の容器。
【請求項4】
非ポリマー材料で形成された被処理体を水及び加圧二酸化炭素を含む混合溶液で処理するために用いられる容器であって、
金属製の容器本体と、
上記容器本体内部に配置され、且つ、上記混合溶液に対して不活性である材料で形成された内部容器とを備える容器。
【請求項5】
上記混合溶液に対して不活性である材料が非金属材料であることを特徴とする請求項4に記載の容器。
【請求項6】
上記混合溶液に対して不活性である材料がポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする請求項5に記載の容器。
【請求項7】
上記加圧二酸化炭素が超臨界状態の二酸化炭素であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の容器。
【請求項8】
上記混合溶液が無電解メッキ液及び加圧二酸化炭素を含む混合溶液であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の容器。
【請求項9】
上記被処理体が表面に金属を有する基材であることを特徴とする請求項8に記載の容器。
【請求項10】
上記処理が上記被処理体上に膜厚30μm〜500μmのメッキ膜を形成するメッキ処理であることを特徴とする請求項8または9に記載の容器。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の容器を用いて非ポリマー材料で形成された被処理体を処理する方法であって、
上記容器内に水及び加圧二酸化炭素を含む混合溶液を注入することと、
上記混合溶液に上記被処理体を接触させることとを含む処理方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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