説明

メッキ被覆材、メッキ被覆材の製造方法、および電子部品

【課題】電子部品のリード端子などに適用した場合に、ウイスカの発生を防止でき、特殊な処理を施すことなくメッキできるメッキ被覆材の提供など
【解決手段】この発明のメッキ被覆材は、鉄を主成分とする基材と、この基材の表面に形成される錫と銅の合金のメッキ膜と、を備え、その合金の銅の含有率が10wt%以上かつ35wt%以下となるようにした。また、そのメッキ膜の厚さは、5μm以上かつ20μm以下となるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メッキ被覆材、メッキ被覆材の製造方法、およびそのメッキ被覆材を用いた電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリンダ型の水晶発振子などの電子部品のリード端子には、錫−鉛(Sn−Pb)はんだメッキが使用されていた。しかし、近年、環境保護の観点から、錫−鉛はんだメッキに代えて、鉛を含まない錫メッキ、錫−銅(Sn−Cu)合金メッキなどの使用が始まっている。
ところが、リード端子などを鉛(Pb)を含まない上記の合金で被覆(皮膜)すると、メッキ合金の種類によっては、ウイスカ(whisker)と呼ばれる錫のひげ状結晶を発生しやすくなる。ウイスカが発生して成長すると、隣接するリード端子間などで電気的な短絡障害を起こす場合があり、これを解決する必要がある。
【0003】
このような不具合を解決するために、特許文献1および特許文献2などに記載の発明が知られている。
特許文献1に記載の発明は、リード端子の表面を錫−銅の合金メッキで被覆するようにしている。そして、その合金の銅の濃度(含有率)が3重量%以上(以下、重量%をwt%として表記する)でメッキ膜厚が1μm以下であり、および銅の濃度が1wt%以上でメッキ膜厚が10μm以上であるとしている。
【0004】
特許文献2に記載の発明は、リード端子などに適用されるメッキ被覆部材に係る発明である。この発明は、銅を主成分とする基材と、その基材を被覆する錫を主成分とするメッキ皮膜と、基材とメッキ皮膜の界面に位置する錫と銅の化合物バリア層とを備え、化合物バリア層の密度は、銅の密度よりも大きくなるようにした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−152129号公報
【特許文献2】特開2007−231393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載のリード端子、または特許文献2に記載のメッキ被覆部材をからなるリード端子を、シリンダ型の水晶発振子のリード端子に適用しても、ウイスカの発生を十分に防止できないという課題がある。
さらに、引用文献2に記載のメッキ被覆部材では、メッキ層を熱処理により特別に金属間化合物にする処理がなされ、製造の際の工程が複雑になるという課題がある。
そこで、本発明の幾つかの態様の目的は、電子部品のリード端子などに適用した場合に、ウイスカの発生を防止できる上に、特殊な処理を施すことなくメッキできるメッキ被覆材などを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決し本発明の目的を達成するために、本発明は、以下のように構成される。
本発明のメッキ被覆材の態様の1つは、鉄を主成分とする基材と、前記基材の表面に形成される錫と銅の合金のメッキ膜と、を備え、前記合金の銅の含有率が10wt%以上かつ35wt%以下である。
このようなメッキ被覆材では、電子部品のリード端子などに適用した場合に、ウイスカの発生が防止できる上に、特殊な処理を施すことなくメッキできる。
【0008】
また、前記メッキ膜の厚さは、5μm以上かつ20μm以下とする。これによれば、上記のウイスカの発生をより確実に防止できる。
本発明のメッキ被覆材の態様の1つは、鉄を主成分とする基材と、前記基材と表面に形成される銅の第1メッキ膜と、前記第1メッキ膜の表面に形成される錫と銅の合金の第2メッキ膜と、を備え、前記合金の銅の含有率が10wt%以上かつ35wt%以下である。
このようなメッキ被覆材では、電子部品のリード端子などに適用した場合に、ウイスカの発生が防止できる上に、特殊な処理を施すことなくメッキできる。
【0009】
また、前記第1メッキ膜の厚さは、2μm以下であり、前記第2メッキ膜の厚さは、5μm以上かつ20μm以下とする。これによれば、上記のウイスカの発生をより確実に防止できる。
本発明の電子部品の態様の1つは、メッキ被覆材を含む電子部品において、前記メッキ被覆材が、本発明のメッキ被覆材で形成されている。
このような電子部品では、メッキ被覆材におけるウイスカの発生を回避でき、電子部品の製造の際の歩留りが向上する。
【0010】
また、本発明の電子部品の態様の1つは、振動片を収納するキャップと、外周部に封止リングを有し、前記キャップの開口部を封止するときに前記開口部に圧力を加えて押し込む封止部材と、前記封止部材を介して前記キャップ内の振動片と接続されるリード端子と、を備え、前記リード端子および前記封止リングのそれぞれが、本発明のメッキ被覆材で形成されている。
このような構成によれば、リード端子および封止リングにおけるウイスカの発生が防止でき、電子部品の製造の際の歩留りが向上する。
【0011】
本発明のメッキ被覆材の製造方法の態様の1つは、鉄を主成分とする基材の表面に、錫と銅の合金のメッキを行いメッキ膜を形成し、前記合金の銅の含有率を10wt%以上かつ35wt%以下とし、前記メッキ膜の厚さを5μm以上かつ20μm以下とした。
本発明のメッキ被覆材の製造方法の態様の1つは、鉄を主成分とする基材の表面に、銅のメッキを行い第1メッキ膜を形成する第1工程と、前記第1メッキ膜の表面に、錫と銅の合金のメッキを行い第2メッキ膜を形成する第2工程と、を含み、前記合金の前記銅の含有率を10wt%以上かつ35wt%以下とした。
このような製造方法によれば、メッキ被覆材を製造する際に、特殊な処理を施すことなくメッキすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の電子部品の実施形態の断面図である。
【図2】その実施形態を組み込んだ発振回路の一例を示す回路図である。
【図3】本発明のメッキ被覆材の完成に先立って行なわれたウイスカ促進試験の結果を示す図である。
【図4】Cuの下付けメッキの影響を調べる試験の結果を示す図である。
【図5】加熱処理とウイスカの発生との関係を調べる試験の結果を示す図である。
【図6】加熱処理後のリード端子の断面の写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
(電子部品の実施形態)
まず、本発明の電子部品の実施形態について説明する。
この電子部品に係る実施形態は、図1に示すようなシリンダ型水晶発振子1に適用したものである。このシリンダ型水晶発振子1は、図1に示すように、キャップ11と、封止部材12と、封止リング13と、リード端子(リード線)14a、14bと、水晶振動片15と、を備えている。
【0014】
そして、このシリンダ型水晶発振子1では、封止リング13およびリード端子14a、14bのそれぞれが、以下のようなメッキ被覆材で構成される。
すなわち、封止リング13およびリード端子14a、14bは、コバール材、Fe−42Ni材、ジュメット線(鉄とニッケルの合金に銅を被覆したもの)など、封止部材12と熱膨張率が近い金属材料を、基材として使用した。
【0015】
そして、その基材の表面に、以下の第1または第2の例のようなメッキ膜(メッキ層)を形成させた。
第1の例では、その基材の表面に錫−銅(Sn−Cu)合金のメッキ膜が形成され、そのSn−Cu合金のCuの含有率(含有量)を10wt%以上かつ35wt%以下とした。また、Sn−Cu合金のメッキ膜の厚さは、5μm以上かつ20μm以下とした。
【0016】
第2の例では、この基材の表面に形成されるCuの第1メッキ膜と、この第1メッキ膜の表面に形成されるSn−Cu合金の第2メッキ膜と、を備えている。そして、Sn−Cu合金のCuの含有率は、10wt%以上かつ35wt%以下になるようにした。さらに、上記の第1メッキ膜の厚さは2μm以下とし、上記の第2メッキ膜の厚さは5μm以上かつ20μm以下とした。
ここで、上記のSn−Cu合金のメッキ膜のCuの含有率の範囲、およびそのメッキ膜の厚さの範囲などは、後述の試験結果に基づくものである。
【0017】
次に、シリンダ型水晶振動子1の各部の具体的な構成について、図1を参照して説明する。
キャップ11は、水晶振動片15が収容されて封止されるようになっている。このため、キャップ11は、例えば全体が円筒形からなり、一端側が封止されるとともに他端側が開口されている。このキャップ11は、ステンレス鋼を絞り加工したもの、または銅系合金を絞り加工したのちその表面にニッケルなどを防食メッキしたものである。
【0018】
封止部材12は、絶縁体であるガラスからなり、全体が円柱状に形成されている。封止部材12の長さ方向には、貫通孔16a、16bがそれぞれ形成されている。その貫通孔16a、16bには、それぞれ横断面が円形のリード線からなるリード端子14a、14bが密着状態で貫通している。
封止リング13は、円筒形からなる。そして、封止リング13の内周面は、封止部材12の外周面に密着するようになっている。また、封止リング13の外周面側は、キャップ11の開口部近傍に圧力を加えて押し込まれ、その開口部の内周面と密着するようになっている。そして、キャップ11は適度なバネ性を有するので、キャップ11が封止部材12と封止リング13を締め付けることでキャップ11の開口部を塞ぎ、キャップ11内の気密を保持するようになっている。
【0019】
水晶振動片15は、キャップ11内に収納されるともに、リード端子14a、14bの一端側と接続され、外部から通電できるようになっている。
このような構成からなるシリンダ型水晶発振子1は、例えば図2に示すような発振回路の電子部品として組み込まれて使用される。
この発振回路は、図2に示すように、シリンダ型水晶発振子1の外に、インバータINV、抵抗R1、R2、およびキャパシタC1、C2を備えている。
以上説明したように、この実施形態に係る電子部品よれば、封止リング13およびリード端子14a、14bにおけるウイスカの発生を防止できる。
【0020】
(メッキ被覆材の第1実施形態)
次に、本発明のメッキ被覆材について説明する。
本発明のメッキ被覆材は、シリンダ型水晶発振子などの電子部品のリード端子などに適用した場合に発生するウイスカの防止対策(回避対策)について鋭意研究を重ねて完成したものであり、以下のような構成からなる。
すなわち、本発明のメッキ被覆材の第1実施形態は、図1のシリンダ型水晶発振子1の封止リング13およびリード端子14a、14bなどに適用される。
【0021】
そして、この第1実施形態では、コバールなどの鉄を主成分とする基材と、その基材の表面に形成されるSn−Cu合金のメッキ膜とを備え、そのSn−Cu合金のCuの含有率を10wt%以上かつ35wt%以下となるようにした。さらに、Sn−Cu合金のメッキ膜の厚さは、5μm以上かつ20μm以下となるようにした。
このような構成のメッキ被覆材は、シリンダ型水晶発振子などの電子部品のリード端子などに適用すると、ウイスカの発生をなくすことができる。
【0022】
次に、本発明のメッキ被覆材の第1実施形態の製造方法について説明する。
この製造方法では、コバール材など鉄を主成分とする基材の表面に、一般的なSn−Cu合金メッキ浴を用いてSn−Cu合金のメッキ膜を形成する。このとき、Sn−Cu合金のCuの含有率は、10wt%以上かつ35wt%以下になるようにする。また、そのSn−Cu合金のメッキ膜の厚さは、5μm以上かつ20μm以下になるようにする。
【0023】
その後、所定の加熱温度(例えば、100°C以上かつSn−Cu合金の溶融温度以下の温度)で、所定の加熱時間(例えば、120分以下)の加熱処理を行なう。
このような製造方法によれば、Sn−Cu合金のCuの含有率を管理するとともに、そのSn−Cu合金のメッキ膜の形成時にはその厚さの管理だけを行なえば良く、工程の管理が容易になる。
ここで、第1実施形態における構成のCuの含有率やSn−Cu合金のメッキ膜の厚さなど特定は、後述の実験結果に基づくものである。
【0024】
(メッキ被覆材の第2実施形態)
本発明のメッキ被覆材の第2実施形態は、図1のシリンダ型水晶発振子1の封止リング13およびリード端子14a、14bなどに適用される。
そして、この第2実施形態では、コバールなどの鉄を主成分とする基材と、この基材の表面に形成されるCuの第1メッキ膜と、この第1メッキ膜の表面に形成されるSn−Cu合金の第2メッキ膜と、を備えている。
【0025】
また、Sn−Cu合金のCuの含有率は、10wt%以上かつ35wt%以下になるようにした。さらに、第1メッキ膜の厚さは2μm以下になるようにし、第2メッキ膜の厚さは5μm以上かつ20μm以下になるようにした。
このような構成のメッキ被覆材は、シリンダ型水晶発振子などの電子部品のリード端子などに適用すると、ウイスカの発生をなくすことができる。
【0026】
次に、本発明のメッキ被覆材の第2実施形態の製造方法について説明する。
この製造方法では、コバール材など鉄を主成分とする基材の表面に、フラッシュメッキまたは一般的なCuのメッキを行い、第1メッキ膜を形成する。このとき、第1メッキ膜の厚さは2μm以下になるようにする。
次に、第1メッキ膜の表面に、一般的なSn−Cu合金メッキ浴を用いてSn−Cu合金のメッキを行い、第2メッキ膜を形成する。このとき、Sn−Cu合金のCuの含有率は、10wt%以上かつ35wt%以下になるようにする。また、第2メッキ膜の厚さは、5μm以上かつ20μm以下となるようにする。
【0027】
その後、所定の加熱温度(例えば、100°C以上かつSn−Cu合金の溶融温度以下の温度)で、所定の加熱時間(例えば、120分以下)の加熱処理を行なう。
このような製造方法によれば、Sn−Cu合金のCuの含有率を管理するとともに、そのSn−Cu合金のメッキ膜の形成時にはその厚さの管理だけを行なえば良く、工程の管理が容易になる。
ここで、第2実施形態における構成のCuの含有率やSn−Cu合金のメッキ膜の厚さなど特定は、後述の実験結果に基づくものである。
【0028】
(発明完成のための試験)
本発明のメッキ被覆材は、その完成のためにシリンダ型水晶発振子についてウイスカの促進試験を行ない、その結果に基づいてその構成を上記のように特定するようにしたものである。
まず、この試験の背景について説明する。一般に、図1に示すようなシリンダ型水晶発振子のリード端子の表面に形成されるSn−Cuハンダ(Sn−Cu合金)のCuの含有率は数wt%から5wt%程度である。この理由は、一般にハンダ濡れ性、接着物に対するハンダ量の確保のためである。
【0029】
また、図1に示すシリンダ型水晶発振子1において、キャップ11の内部を真空に保持する場合には、キャップ11と封止リング13の部分の密着性が必要である。つまり、キャップ11と封止リング13の間に軟らかいSnが存在することで、密着状態を得ることができる。
しかし、Cuの含有率が大きなハンダメッキ(合金メッキ)では柔軟性を持たない金属間化合物が多くなり、この気密保持が不可能とされている。しかし、Sn−Cuハンダにおいて、Cuの含有率が数wt%程度の組成ではウイスカ発生の確率が極めて高くなる。このため、シリンダ型水晶発振子で発振回路を構成する場合には発振停止を起こし、発振回路を使用する電子機器に重大な問題を起こすことになる。
かかる背景の下に、本発明を完成するのに先立って、以下のような試験を行なったので、その試験の内容と結果について説明する。
【0030】
まず、図3のような16個のサンプルNo1〜No16を作成し、ウイスカの発生とその影響などを確認するために、以下の試験を行なった。
サンプルNo1〜No16は、それぞれ、図1に示すような形状のシリンダ型水晶発振子とした。そして、キャップ11はステンレス鋼を絞り加工して形成し、外径φが3mm、長さLを8mmとした。封止部材12は所定のガラスで形成した。
また、封止リング13およびリード端子14a、14bのそれぞれは、その基材としてコバール材やコバール線材を使用した。そして、このコバール材またはコバール線材の表面に、前処理としてCuフラッシュメッキあるいは所定のCuメッキを行った。
【0031】
その後、そのCuメッキの表面に、一般的なSn−Cu合金メッキ浴を用いてSn−Cu合金のメッキ膜を形成した。さらに、サンプルNo1〜No16では、そのSn−Cu合金のメッキ膜の組成およびそのメッキ膜の厚さが、図3に示すようにそれぞれ異なるようにした。
このようにして完成させたサンプルNo1〜NO16を、図2に示す一般的な発振回路のシリンダ型水晶発振子1として組み込んで16個の発振回路を作成し、これらの発振回路を80℃の恒温槽内で作動させ、200日間の連続運転を行い、図3に示す結果を得ることができた。
【0032】
次に、図3の結果について検討する。
(1)Cuの含有率(濃度)が10wt%以下では、発振回路の発振停止に至り、これは長いウイスカの発生が原因であることがわかった(サンプルNo1〜No3参照)。
(2)Cuの含有率が10wt%以上かつ15wt%以下では、発振回路が発振停止には至らないが、10μm前後の短いウイスカの発生があることがわかった(サンプルNo4、No5参照)。
【0033】
(3)Sn−Cu合金のメッキ膜の厚さが5μm以下では、真空封止が不十分であることがわかった(サンプルNo8参照)。一方、メッキ膜の厚さが5μm以上であればCuの含有率に関係なく気密性が保たれることがわかった。
ただし、メッキ膜の厚さが20μmを超えると、キャップ11の開口部に封止リング13を圧入したときに、その開口部においてバリが発生することがわかった(サンプルNo12参照)。
【0034】
(4)Cuの含有率が35wt%では、リード端子14a、14bを曲げた際にメッキ膜にクラックが発生するが、剥離には至らず、実際の使用面では問題は無いことがわかった(サンプルNo14参照)。
一方、Cuの含有率が35wt%以上になると、リード端子14a、14bを曲げた際にクラックが発生し、メッキ膜がリード端子14a、14bから剥離することがわかった(サンプルNo15、No16参照)。
(5)これらの検討により、本発明のメッキ被覆材では、Sn−Cu合金のCuの含有率が10wt%以上かつ35wt%以下となるようにした。また、Sn−Cu合金のメッキ膜の厚さは、5μm以上かつ20μm以下となるようにした。
【0035】
次に、図4に示すような5個のサンプルNo20〜No24を作成し、Cuの下付けメッキの影響について以下のような試験を行った。
サンプルNo20〜No24は、上記と同様に図1に示す形状からなり、封止リング13およびリード端子14a、14bのそれぞれは、その基材としてコバール材やコバール線材を使用した。このコバール材またはコバール線材の表面に、図4に示すように厚さの異なるCuの下付きメッキをそれぞれ行った。
【0036】
その後.その下付きメッキの表面に、一般的なSn−Cu合金メッキ浴を用いてSn−Cu合金のメッキ膜を形成した。そのSn−Cu合金のメッキ膜の組成およびそのメッキ膜の厚さは、図4に示すようにそれぞれ同一になるようにした。
このようにして完成させたサンプルNo20〜NO24を、図2に示す一般的な発振回路のシリンダ型水晶発振子1として組み込んで5個の発振回路を作成し、これらの発振回路を80℃の恒温槽内で作動させ、200日間の連続運転を行い、図4に示す結果を得ることができた。
【0037】
次に、図4の結果について検討する。
ここでは、ウイスカの発生の有無の他に、リード端子14a、14bの曲げによるメッキ膜のクラックと剥離について観察した。この曲げによる観察は、リード端子14a、14bを半径1mmで90度曲げ、メッキ膜のクラックと剥離を観察するようにした。
(1)下付けのCuメッキがない場合には、リード端子14a、14b上のSn−Cu合金のメッキ膜が剥離する場合があることが確認された(サンプルNo20参照)。
【0038】
(2)下付けのCuメッキが1μmを超えると短いウイスカが発生し(サンプルNo23、No24参照)、2μmを超えると発振回路の発信停止に至る長いウイスカが発生することが確認された(サンプルNo24参照)。
(3)これらの検討により、本発明のメッキ被覆材では、リード端子14a、14bを曲げない状態で使用するような場合には、下付けCuメッキは必ずしも必要としない。一方基材の表面に下付けCuメッキを施す場合には、そのCuメッキの厚さは2μm以下になるようにすれば良い。
【0039】
次に、図5に示すようなサンプルNo30〜No38を作成し、加熱処理とウイスカの発生との関係を調べる試験を行った。
サンプルNo30〜No38は、図1に示す形状からなり、封止リング13およびリード端子14a、14bのそれぞれは、その基材としてコバール材やコバール線材を使用した。このコバール材またはコバール線材の表面に、図5に示すような厚さからなるCuの下付きメッキをそれぞれ行った。
【0040】
その後.その下付きメッキの表面に、一般的なSn−Cu合金メッキ浴を用いてSn−Cu合金のメッキ膜を形成した。そのSn−Cu合金のメッキ膜の組成およびそのメッキ膜の厚さは、図5に示すようにそれぞれ同一になるようにした。
さらに、サンプルNo30〜No38について、図5に示すような温度と時間の下で、加熱処理を行なった。
このようにして完成させたサンプルNo30〜NO38を、図2に示す一般的な発振回路のシリンダ型水晶発振子1として組み込んで9個の発振回路を作成し、これらの発振回路を80℃の恒温槽内で作動させ、200日間の連続運転を行い、図5に示す結果を得ることができた。
【0041】
次に、上記の加熱処理の効果について、図6に示すリード端子(リード線)の断面の一部を示す写真を参照して説明する。
このリード端子は、コバールの線材を基材とし、この基材の表面にCuの下付けメッキ膜を形成し、さらにそのCu下付けメッキ膜の表面にSn−Cu合金のメッキ膜を形成し、その後に加熱処理を施したものである。
このように、加熱処理すると、Cu下付けメッキ膜とSn−Cu合金のメッキ膜との間の材料の拡散が促され、その境界部にSn−Cu合金であってCuの含有率が38wt%の安定なε相が形成され(図6参照)、このε相の形成によってウイスカの発生に関与するCuSn化合物の過剰形成が抑制される。このため、加熱処理は有用である。
【0042】
次に、このような加熱処理の効果を踏まえて、図5の結果について検討する。
(1)熱処理を行わない場合には、図4のサンプルNo24の場合と同様に、下付けCuメッキの影響でウイスカが発生し、発振回路の発振が停止することがわかる(サンプルNo30、No31参照)。
(2)加熱条件は、温度が100℃以上、加熱時間が10分以上であれば、発振回路の発振停止に及ぶウイスカの発生は防止可能であることわかる(サンプルNo34〜No38参照)。
【0043】
(3)Cuの下付け厚さと加熱条件に関連があり、Cuの下付けが厚くても加熱温度を高くすると良いといえるが、経済性を考慮してCuの下付け厚さは2μm未満とするのが好ましい。
(4)加熱の最高温度はSn−Cu合金のメッキ膜の融点温度以下であれば、加熱時間は多くても構わないが、加工の経済性を考慮して120分で良いといえる。
【0044】
(その他の実施形態など)
(1)上記の電子部品の実施形態では、本発明に係るメッキ被覆材を、シリンダ型水晶発振子の封止リングおよびリード端子に適用した場合について説明した。
しかし、本発明に係るメッキ被覆材は、ウイスカの発生が回避できるメッキ被覆部材を含む各種の電子部品に適用可能である。例えば、集積回路のリードフレーム、抵抗やコンデンサのリード端子(リード線)などに適用可能である。
【符号の説明】
【0045】
1・・・シリンダ型水晶発振子、11・・・キャップ、12・・・封止部材、13・・・封止リング、14a、14b・・・リード端子(リード線)、15・・・水晶振動片、16a、16b・・・貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄を主成分とする基材と、
前記基材の表面に形成される錫と銅の合金のメッキ膜と、を備え、
前記合金の銅の含有率が10wt%以上かつ35wt%以下であることを特徴とするメッキ被覆材。
【請求項2】
前記メッキ膜の厚さは、5μm以上かつ20μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のメッキ被覆材。
【請求項3】
鉄を主成分とする基材と、
前記基材と表面に形成される銅の第1メッキ膜と、
前記第1メッキ膜の表面に形成される錫と銅の合金の第2メッキ膜と、を備え、
前記合金の銅の含有率が10wt%以上かつ35wt%以下であることを特徴とするメッキ被覆材。
【請求項4】
前記第1メッキ膜の厚さは、2μm以下であり、
前記第2メッキ膜の厚さは、5μm以上かつ20μm以下であることを特徴とする請求項3に記載のメッキ被覆材。
【請求項5】
メッキ被覆材を含む電子部品において、
前記メッキ被覆材が、請求項1乃至請求項4のうちの1項に記載のメッキ被覆材で形成されることを特徴とする電子部品。
【請求項6】
振動片を収納するキャップと、
外周部に封止リングを有し、前記キャップの開口部を封止するときに前記開口部に圧力を加えて押し込む封止部材と、
前記封止部材を介して前記キャップ内の振動片と接続されるリード端子と、を備え、
前記リード端子および前記封止リングのそれぞれが、請求項1乃至請求項4のうちの1項に記載のメッキ被覆材で形成されることを特徴とする電子部品。
【請求項7】
鉄を主成分とする基材の表面に、錫と銅の合金のメッキを行いメッキ膜を形成し、
前記合金の銅の含有率を10wt%以上かつ35wt%以下とし、
前記メッキ膜の厚さを5μm以上かつ20μm以下としたことを特徴とするメッキ被覆材の製造方法。
【請求項8】
鉄を主成分とする基材の表面に、銅のメッキを行い第1メッキ膜を形成する第1工程と、
前記第1メッキ膜の表面に、錫と銅の合金のメッキを行い第2メッキ膜を形成する第2工程と、を含み、
前記合金の前記銅の含有率を10wt%以上かつ35wt%以下としたことを特徴とするメッキ被覆材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate