説明

メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造方法

【課題】メルカプトカルボン酸またはメルカプトカルボン酸エステルと多価アルコールとを反応させるメルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造方法において、(高)臭気性のものしか製造できなかった従来の方法に代わり、臭気の改善されたメルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造方法を提供すること。
【解決手段】メルカプトカルボン酸またはメルカプトカルボン酸エステルと、分子中に水酸基を2〜6個有する多価アルコールとを、0.05〜20kPaの圧力条件下でエステル化反応させてメルカプトカルボン酸多価アルコールエステルを製造し、得られたメルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)をさらに減圧下で加熱処理して、低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a’)を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、取扱い上好ましくない臭気が低減されたメルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1分子中に2個以上のチオール基を有する化合物は、エポキシ樹脂や、ウレタン樹脂等と混合することにより容易に反応して硬化物になることから、シーリング材、塗料、接着剤等に広く用いられている。
【0003】
たとえば、「総説エポキシ樹脂(第1巻 基礎編I2003年11月19日発行)」の204頁(非特許文献1)には、低温硬化剤として種々のポリチオール系硬化剤が記載されている。
【0004】
しかしながら、従来のチオール系硬化剤は、硫黄系の臭気が強く、これが取扱い上のデメリットとなっており、それゆえ作業性に問題がある。
チオール系硬化剤としては、例えば、メルカプトカルボン酸エステルが知られている。
【0005】
このメルカプトカルボン酸エステルは、一般に、メルカプトカルボン酸とアルコールとのエステル化反応によって製造できることが知られている。
例えば、特公昭39−9071号公報(特許文献1)には、下記一般式で表されるエステルが記載され、該エステルは、ペンタエリトリツトまたは適当な1,1,1−トリメチロールアルカンを適当なメルカプトアルカン酸と反応させることによって作られることが開示されている。
【0006】
【化1】

[この式でR1は水素原子またはアルキル基であり、R2はアルキル基または式
【0007】
【化2】

で表される基であり、そしてnは1〜4の整数である]。
【0008】
そして、特許文献1の例1には、ペンタエリトリツトや70%メルカプト酢酸(30%は水)などの混合物を還流し、冷却後に分離した油を水洗などしてから1.0mmHgの圧力で160℃まで(の揮発分)を留去した後濾過することによって、ペンタエリトリツトテトラ(メルカプトアセテート)を得たと記載されている(いわゆる直接エステル化法)。
【0009】
しかしながら、例えば、特開昭57−11959号公報(特許文献2)に開示されているように、上記特許文献1に記載の製造方法では、高純度で、異臭成分の少ない高品質のメルカプトカルボン酸を、工業的に安価に得ることは困難であった。
【0010】
すなわち、異臭の少ないメルカプトカルボン酸多価アルコールエステルを製造するためには、異臭成分のもととなる不純物を含まない高純度のメルカプトカルボン酸を用いることが有利であるが、以下のメルカプトカルボン酸の性質がこれを困難にしている:
原料に含まれる臭気原因物質の量が微量であり、臭気原因物質の構造がメルカプトカルボン酸に類似しているために、一般的な蒸留精製による除去が困難。
【0011】
そこで、特許文献2では、このような課題を解決するために、メルカプトカルボン酸低級アルキルエステルと多価アルコールとを特定量の水の存在下で反応させてメルカプトカルボン酸多価アルコールエステルを製造する方法を提案している(いわゆるエステル交換法)。
【0012】
特許文献2によれば、このような方法によって、異臭成分に由来する悪臭の度合いが少ないメルカプトカルボン酸多価アルコールエステルを製造することができるとされている。
【0013】
具体的には、その実施例1において、ペンタエリスリトールと2−メルカプト酢酸エチルエステルを流出成分が少なくなるまで加熱攪拌した後、減圧下で揮発成分を留去して、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプト酢酸)を得ている。
【0014】
そして、得られたペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプト酢酸)はわずかに特有の香りがあるが、メルカプタン化合物に由来する異臭はひどくなかったと記載されている。
【0015】
その他にも、特開平11−80117号公報(特許文献3)では、上述の課題を解決する手段として、アルコールとメルカプトカルボン酸又はメルカプトカルボン酸メチルとからメルカプトカルボン酸エステルを製造する方法において、エステル化反応終了後に反応生成物を水によって洗浄することを特徴とするメルカプトカルボン酸エステルの製造方法が開示されている。
【0016】
また、特許文献3の実施例1では、ペンタエリスリトール及び3−メルカプトプロピオン酸とを反応させ、次いで段階的に減圧しながら水を留去してエステルを得た例が開示されている。
【0017】
そして、該実施例1では、得られたエステルに蒸留水を加えて洗浄した後、減圧脱水して得られたメルカプトカルボン酸エステルは、臭気も著しく改善されたと記載している。
また、特開昭59−152367号公報(特許文献4)では、多価アルコールと下記一般式(I)または一般式(II)で表されるメルカプトカルボン酸低級アルキルエステル類とを反応させて得られるメルカプトカルボン酸多価アルコールエステル類を、アルコールおよび/またはエーテル類で処理することを特徴とするメルカプトカルボン酸多価アルコールエステル類の精製法が開示されている。
【0018】
【化3】

(式中、R1は水素原子、メチル基またはエチル基を示し、nは1〜4の整数である)。
【0019】
【化4】

(式中、R1およびnは一般式(I)の場合と同じ意味であり、R2は炭素数1〜4のアルキル基を示す)。
【0020】
特許文献4には、メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルを、アルコールおよび/またはエーテル類で処理後、分離したメルカプトカルボン酸多価アルコールエステル層から低沸分を減圧下で除去することにより、異臭成分が少ないメルカプトカルボン酸多価アルコールエステルが得られると開示されている。
【0021】
そして、特許文献4の実施例1には、ペンタエリスリトールとメルカプト酢酸エチルエステルなどを加熱攪拌した後に室温まで冷却して減圧下で揮発成分を留去して得た無色透明液体は、わずかに特有の香りがあるがメルカプタンに由来する異臭はひどくなかったと記載されている。
【0022】
しかしながら、上記特許文献2〜4に記載の方法は、それぞれ次のような問題も伴っている。
特許文献2に記載の方法では、反応系に水を添加しており、これはエステル化反応の進行には不利である。また、添加した水分を留去するために多量のエネルギーを使用しなければならない。このため特許文献2に記載の方法は、エネルギー負荷の高い製法である。さらには、特許文献2に記載の方法では臭気改善が図られるものの、その改善の程度が充分であるとはいえない。
【0023】
特許文献3に記載の方法では、上記エステル反応により得られた反応液をイオン交換水、蒸留水などで洗浄することで臭気成分を除去することを提案しているが、メルカプトカルボン酸を原料として用いた場合には、臭気成分の除去効果は十分ではないと推察される。
【0024】
これは、特許文献3と同一の出願人による特許文献2に、メルカプトカルボン酸は水溶性の遊離酸であるため水洗などの精製が困難であると記載されていることからも支持されるものと推察される。
【0025】
また、メルカプトカルボン酸を原料として用いずにメルカプトカルボン酸エステルを原料として用いた場合には、遊離酸を用いないので上記遊離酸にまつわる問題を伴わないが、それでもやはり臭気成分の除去効果は十分とはいえなかった。
【0026】
特許文献4に記載の方法では、例えばその実施例において得られた生成物は、僅かに特有の香りがあるが、メルカプタン化合物に由来する異臭はほとんどなかったとされている。しかしながら、その特有の香りについてもメルカプタン化合物に由来する異臭についても臭気が十分に改善されたとはいえなかった。
【0027】
以上の通り、従来のメルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造方法には、上記メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルに含まれる臭気の問題が改善されるものもあるが、その臭気改善の程度は十分とはいえず、前述の臭気にまつわる問題を十分に解決しえるものとはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【特許文献1】特公昭39−9071号公報
【特許文献2】特開昭57−11959号公報
【特許文献3】特開平11−80117号公報
【特許文献4】特開昭59−152367号公報
【非特許文献】
【0029】
【非特許文献1】総説エポキシ樹脂(第1巻 基礎編I2003年11月19日発行)、204頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
本発明の目的は、(高)臭気性のメルカプトカルボン酸多価アルコールエステルしか得られない従来の製造方法に伴う上記臭気に関する課題を解決しうる、低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造方法を提供することにある。
【0031】
より詳しくは、メルカプトカルボン酸またはメルカプトカルボン酸エステルと多価アルコールとを反応させて、臭気の低減された低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0032】
上記課題を解決すべく、本発明者らは、低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造方法について鋭意研究を重ねたところ、以下のことを見出した。
すなわち、本発明者らは、従来の製法、例えば上記特許文献2〜4に記載の方法によって、メルカプタン化合物に由来する臭気を水との共沸や水洗などにより除去するのみでは、得られるメルカプトカルボン酸多価アルコールエステルに含まれる臭気(以下、単にメルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの臭気ともいう)の改善の効果は不十分であることを見出した。
【0033】
そこで、本発明者らは、低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造方法についてさらに鋭意研究を重ねたところ、特定の反応条件下(特に減圧条件下)でエステル化反応を行うことにより、メルカプタン化合物に由来する臭気成分に加えて、上記エステル化反応に由来する臭気成分も低減されたメルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)(以下、生成物(a)ともいう)を製造し、次いで低臭気化処理工程を設け、特定の減圧下で加熱処理することで、より臭気が改善された低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a’)(以下、低臭気生成物(a’)ともいう)を効率よく製造できることを見出した。
【0034】
より具体的には、下記一般式(1)で表されるメルカプトカルボン酸または下記一般式(2)で表されるメルカプトカルボン酸エステルと、分子中に水酸基を2〜6個有する多価アルコールとを、特定の反応条件下(特に減圧条件下)でエステル化することで、効率よく臭気を低減したメルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)を製造できることを見出した。
【0035】
更には、本発明者らは、上記の製造工程に次いで低臭気化処理工程を設け、製造された生成物(a)を特定の減圧下で加熱処理することで、より臭気が改善された低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a’)を効率良く製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0036】
すなわち、本発明は以下の[1]〜[13]に記載の、低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造方法に関する。
[1] 下記一般式(1)で表されるメルカプトカルボン酸または下記一般式(2)で表されるメルカプトカルボン酸エステルと、分子中に水酸基を2〜6個有する多価アルコールとを、0.05〜20kPaの圧力条件下でエステル化反応させて、メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)を製造し、さらに減圧下で加熱処理することを特徴とする低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a’)の製造方法。
【0037】
【化5】

(上記式(1)中、nは0〜4の整数、RxおよびRyは各々独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基または芳香族基を表す)
【0038】
【化6】

(上記式(2)中、R1は炭素数1〜4の直鎖または分岐状のアルキル基、mは0〜4の整数、RxおよびRyは各々独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基または芳香族基を表す)
[2] 前記減圧下での加熱処理を、0.05〜20kPaの圧力条件下で行なうことを特徴とする[1]に記載の低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造方法。
[3] 前記減圧下での加熱処理を、芳香族溶剤および脂肪族溶剤から選択される少なくとも1種以上の有機溶剤の存在下で行なうことを特徴とする[1]または[2]に記載の低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造方法。
[4] 前記有機溶剤が、トルエンまたはキシレンである[3]に記載の低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造方法。
[5] 前記メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)の減圧下での加熱処理を、温度が30〜150℃の範囲で行うことを特徴とする[1]〜[4]に記載の低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造方法。
[6] 前記エステル化反応の圧力条件が、0.1〜7kPaである[1]〜[5]に記載の低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造方法。
[7] 前記一般式(1)および(2)において、nおよびmが1、Rxが水素、Ryがメチル基またはエチル基である[1]〜[6]のいずれかに記載の低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造方法。
[8] 前記一般式(1)で表されるメルカプトカルボン酸が、3−メルカプトブタン酸または3−メルカプトプロピオン酸である[1]〜[7]のいずれかに記載の低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造方法。
[9] 前記分子中に水酸基を2〜6個有する多価アルコールが、下記一般式(3)で表される多価アルコールである[1]〜[8]のいずれかに記載の低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造方法。
【0039】
【化7】

(上記式(3)中、pは2〜4の整数、qは0または1を表し、かつ、p+qは3〜4である。)
[10] 分子中に水酸基を2〜6個有する多価アルコールが、下記式(4)〜(6)で表される化合物から選ばれる少なくとも一種である[9]に記載の低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造方法。
【0040】
【化8】

[11] 分子中に水酸基を2〜6個有する多価アルコールが、下記式(7)〜(11)で表される化合物から選ばれる少なくとも一種である[1]〜[8]のいずれかに記載の低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造方法。
【0041】
【化9】

[12] 前記低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルが、テトラキス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステルである[1]に記載の低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造方法。
[13] 前記減圧下での加熱処理を、2回またはそれ以上行うことを特徴とする[1]〜[12]のいずれかに記載の低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造方法。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、メルカプタン化合物由来の臭気成分に加えて、低沸点の臭気成分(例:低分子量カルボン酸やカルボン酸エステル、反応中の分解物など)もより効率良く低減、除去された低臭気メルカプトカルボン酸を製造することができる。
【0043】
このようにして得られた低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルは、従来の臭気に関する問題(例えば、硫黄系の臭気に起因する作業性・取扱い性の問題)などを伴うことなく、エポキシ樹脂や、ウレタン樹脂等と混合する硬化剤などとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
[メルカプトカルボン酸またはメルカプトカルボン酸エステルと多価アルコールとを、特定の反応条件下で反応させる低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造方法]
本発明の低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造方法は、メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)の製造工程と、低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a’)の製造工程(メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)の低臭気化処理工程)を含む。
【0045】
<メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)の製造工程>
本発明のメルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造方法では、下記一般式(1)で表されるメルカプトカルボン酸(メルカプトカルボン酸(1)という)または下記一般式(2)で表されるメルカプトカルボン酸エステル(メルカプトカルボン酸エステル(2)という)と、分子中に水酸基を2〜6個有する多価アルコールとを、特定の反応条件下(特に、特定圧力の減圧下)でエステル化する。
【0046】
これにより、反応中に生じた(高)臭気性不純物が低減されたメルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)が製造される。
【0047】
【化10】

(上記式(1)中、nは0〜4の整数、RxおよびRyは各々独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基または芳香族基を表す)
【0048】
【化11】

(上記式(2)中、R1は炭素数1〜4の直鎖または分岐状のアルキル基、mは0〜4の整数、RxおよびRyは各々独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基または芳香族基を表す)
【0049】
なお、上記反応の好適例として、一般式(1)で表される化合物として2−メルカプトプロピオン酸(2−TLA)あるいは3−メルカプトブタン酸(3−MBA)と、分子中に水酸基を2〜6個有する多価アルコールとしてペンタエリスリトール(PE−OH)とを反応させて、テトラキス(2−メルカプトプロピオン酸)ペンタエリスリトールエステル(PETL)あるいは、テトラキス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステル(PEMB)を製造する例を示すと下記の通りとなる(反応例AおよびB)。
【0050】
【化12】

ここで、本明細書における「メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)(生成物(a)ともいう)」とは、メルカプトカルボン酸(1)またはメルカプトカルボン酸エステル(2)と、分子中に水酸基を2〜6個有する多価アルコールとを、後述((イ−6)の項目に記載)の特定の反応条件下(特に、特定圧力の減圧下)でエステル化することで製造される低臭気のメルカプトカルボン酸多価アルコールエステルをいう。
【0051】
なお、「メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)」について、具体的な化合物名を用いて示す場合には、本明細書では、「(化合物名)(a)」と記載する。例えば上記の反応例Bの場合では、「テトラキス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステル(a)」とする。
【0052】
また、本明細書では、メルカプトカルボン酸(1)またはメルカプトカルボン酸エステル(2)と、分子中に水酸基を2〜6個有する多価アルコールとを、常圧下または微減圧下でエステル化することで得られる(高)臭気性のメルカプトカルボン酸多価アルコールエステルを(高)臭気性メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルという((高)臭気性生成物ともいう)。
【0053】
(高)臭気性メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルは、(イ−5)項記載の臭気指数相当値が通常30を超え、上記メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)((イ−5)項記載の臭気指数相当値が通常30以下)とは区別される。
【0054】
また、本明細書では、メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)を減圧下で加熱処理して製造される低臭気化されたメルカプトカルボン酸多価アルコールエステルを「低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a’)(低臭気生成物(a’)ともいう)」((イ−5)項記載の臭気指数相当値が通常25以下)として、上記生成物(a)とは区別する。
【0055】
また、単に「メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル」と記載した場合には、後述のメルカプトカルボン酸多価アルコールエステルと臭気成分とを含んだ混合物ではなく、メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルという化合物そのものを指す。
【0056】
そして、(高)臭気性不純物とは、(高)臭気性および低臭気性メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの臭気の元となる、メルカプタン化合物由来の臭気成分及び低沸点の臭気成分を含む不純物をいう。
【0057】
(高)臭気性不純物としては、(メルカプトカルボン酸エステル類およびその脱SH化合物や炭素数10以下の低級脂肪酸、ケトン類、アルデヒド類)などが挙げられ、この中でも臭気性の高い(プロピオン酸、酪酸、ペンタン酸、酢酸、ヘキサン酸およびこれらのメチルエステルあるいはエチルエステル類、メルカプトカルボン酸メチルエステル、メルカプトカルボン酸エチルエステル、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブタンアルデヒド、ヘキサンアルデヒド)などは、高臭気の原因物質としての可能性が高い。
【0058】
なお、上記生成物(a)および低臭気生成物(a’)や「(高)臭気性メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル」には、通常、主成分であるメルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの他に、上記反応によって生じた副生成物、エステル化反応や低臭気化処理に用いられた溶媒(トルエン、キシレンなど。溶媒を使用しなかった場合には含まれない。)、(高)臭気性不純物、などが含まれている。
【0059】
<低臭気メルカプトカルボン酸多化アルコールエステル(a’)の製造工程(メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)の低臭気化処理工程)>
前記の通り、製造したメルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)をさらに減圧下で加熱処理して低臭気化し、低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a’)を製造する。
【0060】
なお、本明細書における「低臭気化(処理)」とは、メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)や(高)臭気性メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルに含まれる、(高)臭気性不純物などをさらに除去して低減する、あるいは、該(高)臭気性不純物を完全に除去して、より低臭気化された低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a’)を得ることをいう。
【0061】
以下、本発明の低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造方法について、(イ)メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)の製造工程、(ロ)低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a’)の製造工程(メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)の低臭気化処理工程)の順に、具体的に説明する。
【0062】
なお、上記(イ)の製造工程の項目については、(イ−1)製造用原料であるメルカプトカルボン酸(1)およびメルカプトカルボン酸エステル(2)、(イ−2)製造用原料である多価アルコール、(イ−3)触媒、(イ−4)溶媒、(イ−5)生成物であるメルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)(生成物(a))、(イ−6)メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)の製造条件の順に、具体的に説明する。
【0063】
上記(ロ)に示す、低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a’)の製造工程(低臭気化処理工程)の項目については、(ロ−1)低臭気化処理により得られる低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a’)、(ロ−2)低臭気化処理の条件の順に、具体的に説明する。
【0064】
(イ)メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)の製造工程
本発明に係るメルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)は、メルカプトカルボン酸(1)またはメルカプトカルボン酸エステル(2)と、分子中に水酸基を2〜6個有する多価アルコールとを、特定の反応条件下(特に特定圧力の減圧下)で反応させることによって製造される。
なお、上記反応は触媒(特に酸触媒)の存在下で行なってもよく、(酸)触媒の不存在下で行なってもよい。また、溶媒を用いてもよく、用いなくともよい。
【0065】
(イ−1)メルカプトカルボン酸(1)およびメルカプトカルボン酸エステル(2)
本発明で用いられるメルカプトカルボン酸(1)は、下記化学式(1)に示すように、一方の末端にカルボキシル基を有し、他方の末端にメルカプト基と、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基または芳香族基を有する化合物である。
【0066】
【化13】

(上記式(1)中、nは0〜4の整数、RxおよびRyは各々独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基または芳香族基を表す)
【0067】
なお、上記化学式(1)で表されるメルカプトカルボン酸(1)の具体例を示せば、nが1、Rx、Ryがそれぞれ水素、メチル基のときは3−メルカプトブタン酸、nが2、Rx、Ryがそれぞれ水素、メチル基のときは4−メルカプトペンタン酸、nが1、Rx、Ryが水素のときは3−メルカプトプロピオン酸である。
【0068】
これらの中でも、上記式(1)中において、Rxが水素であり、Ryが炭素数1〜4のアルキル基である第2級メルカプトカルボン酸が好ましく、更にはnが1、Rx、Ryがそれぞれ水素、メチル基である3−メルカプトブタン酸あるいは、nが0、Rx、Ryがそれぞれ水素、メチル基である2−メルカプトプロピオン酸であることが、原料入手性の観点からより好ましい。
【0069】
本発明で用いられるメルカプトカルボン酸エステル(2)は、下記化学式(2)に示すように、一方の末端にエステル基を有し、他方の末端にメルカプト基と、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基または芳香族基を有する化合物である。
【0070】
【化14】

(上記式(2)中、R1は炭素数1〜4の直鎖または分岐状のアルキル基、mは0〜4の整数、RxおよびRyは各々独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基または芳香族基を表す)
【0071】
なお、上記化学式(2)で表されるメルカプトカルボン酸エステルを具体的に示せば、mが1、R1がメチル基、Rx、Ryがそれぞれ水素、メチル基のときは3−メルカプトブタン酸メチルエステル、mが2、R1がメチル基、Rx、Ryがそれぞれ水素、メチル基のときは4−メルカプトペンタン酸メチルエステル、mが1、R1がメチル基、Rx、Ryが水素のときは3−メルカプトプロピオン酸メチルエステルである。
【0072】
これらの中でも、上記式(2)中において、Rxが水素、Ryが炭素数1〜4のアルキル基の2級メルカプトカルボン酸アルキルエステルが好ましく、更にはmが1、Rx、Ryがそれぞれ水素、メチル基である3−メルカプトブタン酸アルキルエステルであることが、原料入手性の観点からより好ましい。
【0073】
なお、メルカプトカルボン酸(1)またはメルカプトカルボン酸エステル(2)を用いて低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルを製造する態様においては、いずれの級数のメルカプトカルボン酸(1)またはメルカプトカルボン酸エステル(2)を用いても十分低臭気のメルカプトカルボン酸多価アルコールエステルを製造できる。
【0074】
しかしながら、以下の順で、用いられるメルカプトカルボン酸(エステル)の級数に応じて、製造される低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a’)の臭気改善の効果が高い傾向にある。
第2級メルカプトカルボン酸(エステル)>第3級メルカプトカルボン酸(エステル)>第1級メルカプトカルボン酸(エステル)。
【0075】
このように、原料として用いるメルカプトカルボン酸(1)またはメルカプトカルボン酸エステル(2)の級数により製造される低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a’)の臭気性に相違が生じる理由は定かではないが、恐らく第1級メルカプトカルボン酸のメルカプト基は、近傍のアルキル基による電子的な遮蔽効果が少なく水素結合の効果が大きいため、主成分が有するこの極性官能基との作用により臭気の除去がされにくいためと推察される。
【0076】
(イ−2)多価アルコール
本発明で用いられる多価アルコールは、分子中に水酸基を2〜6個有する多価アルコールである。
【0077】
具体例を示せば、例えば、下記一般式(3)で表される多価アルコールを挙げることができる。
【0078】
【化15】

(上記式(3)中、pは2〜4の整数、qは0または1を表し、かつ、p+qは3〜4である。)
これら一般式(3)で表される多価アルコールの具体例としては、下式(4)〜(6)などを挙げることができる。
【0079】
【化16】

上記式(4)〜(6)で表される多価アルコールは、一般式(3)で表される多価アルコールの中でも、工業的に原料が容易に入手可能な点から好ましい。
【0080】
また、上記多価アルコールのその他の具体例としては、下式(7)〜(11)で表される化合物をあげることができる。
【0081】
【化17】

これら式(7)〜(11)で表される化合物は、工業的に原料が容易に入手できる観点から好ましい。
【0082】
なお、上記多価アルコールと上記メルカプトカルボン酸(1)またはメルカプトカルボン酸エステル(2)とを反応させる際のモル比は、理論的には、多価アルコール中の水酸基1molに対して、メルカプトカルボン酸が等モルとなるように用いればよい。
【0083】
収率、純度、コストの観点からは、上記モル比は、通常、多価アルコール中の水酸基1molに対して、メルカプトカルボン酸が、通常0.8〜1.5mol、好ましくは0.9〜1.1molである。
【0084】
(イ−3)触媒
上記メルカプトカルボン酸(1)またはメルカプトカルボン酸エステル(2)と上記多価アルコールとの反応は触媒を用いなくても進行するが、該反応を行う際に触媒を用いることもできる。
【0085】
触媒を使用することにより、反応速度を速くすることができる。
用いることのできる触媒には特に制限はないが、具体的には、固体酸触媒、有機酸触媒、無機酸触媒、イオン交換樹脂、ヘテロポリ酸などの酸触媒が挙げられ、特に酸触媒として、有機酸触媒、無機酸触媒、イオン交換樹脂が、反応性の観点から好ましい。
【0086】
酸触媒としては、特に限定されるものではないが、プロトン酸であることが好ましく、例えば、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、カンファースルホン酸、ベンゼンスルホン酸、o−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ブタンスルホン酸、イソブタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、硫酸、塩酸、リン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、H型イオン交換樹脂等を用いることができる。
【0087】
これらの酸触媒は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(酸)触媒の添加量は、反応速度や製造される低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの臭気性の観点から、多価アルコールの水酸基1molに対して0.1〜15mol%が好ましく、より好ましくは0.5〜10mol%である。
【0088】
(酸)触媒の添加量は、多価アルコールの水酸基1molに対して10mol%を超える、特に15mol%を超えると反応時に副反応により臭気原因となる分解物が生成する可能性があり、0.5モル%未満、特に0.1mol%未満であると反応速度を速くするという触媒効果が得られない傾向にある。
【0089】
(イ−4)溶媒
上記メルカプトカルボン酸(1)またはメルカプトカルボン酸エステル(2)と多価アルコールとの反応には、通常、溶媒は必要ではない。
【0090】
しかしながら、上記エステル化反応中に副生する水あるいはアルコールと溶媒の共沸を利用してこれら副生物を系内から除去するなどの目的がある場合などには、必要に応じて溶媒を用いることもできる。
【0091】
溶媒としては、芳香族溶媒や脂肪族溶媒が挙げられる。
芳香族溶媒の具体例としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、等を挙げることができる。
【0092】
脂肪族溶媒の具体例としては、ヘキサン等を挙げることができる。
これらの溶媒は1種単独で用いてもよく、2種以上を任意の割合で組み合わせて用いてもよい。
【0093】
該反応溶媒の使用量は特に限定されないが、通常、多価アルコール100質量部に対して50〜2000質量部の量で用いることができ、好ましくは100〜1000質量部の量で用いる。
【0094】
溶媒は、反応を促進する目的と臭気物質を効果的に除去する目的で加えることもできる。溶媒は、反応初期から反応系に加えてもよいし、反応を行っている際に少しずつ反応系に添加する方法でもよい。
【0095】
水の沸点や除去しようとする化合物の沸点に比較的近い沸点を有する溶媒の場合には、初めから添加して反応を行うこともできるが、それ以外の溶媒については、反応中に少量ずつ反応系に添加して反応を行うことが、反応の促進と臭気低減の観点から有効であり好ましい。
【0096】
(イ−5)メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)
上記メルカプトカルボン酸(1)またはメルカプトカルボン酸エステル(2)と上記多価アルコールとを特定圧力の減圧下反応させて得られるメルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)は、前述の通り、無臭〜極低臭気のメルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの他に副生成物や上記反応の際に使用された溶媒、あるいは(高)臭気性不純物などを含む混合物である。
【0097】
メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)について、具体的に言及すれば、例えば、前述の「反応例AおよびB」では、生成物(a)は、通常、以下の化合物を含む混合物である。
【0098】
PETLで示される反応例では、テトラキス(2−メルカプトプロピオン酸)ペンタエリスリトールエステル(PETL)、トリス(2−メルカプトプロピオン酸)ペンタエリスリトールエステル、ビス(2−メルカプトプロピオン酸)ペンタエリスリトールエステル、上記反応時に使用された溶媒(トルエン)、(高)臭気性不純物。
【0099】
PEMBで示される反応例では、テトラキス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステル(PEMB)、トリス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステル、ビス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステル、上記反応時に使用された溶媒(トルエン)、(高)臭気性不純物。
【0100】
そして、前述の「反応例A」においては、メルカプトプロピオン酸、メルカプトブタン酸、クロトン酸、プロピオン酸、ブタン酸、クロトンアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒドおよびこれらのエステル類などが(高)臭気性不純物に該当する。
【0101】
なお、常圧条件下または微減圧条件下で製造された場合の(高)臭気性メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルには、これら(高)臭気性不純物が多く含まれており(臭気相当指数30以上)、これが従来の臭気にまつわる問題を生じる原因となっていると推察される。
【0102】
これに対して、本発明に係るメルカプト多価アルコールエステル(a)は、無臭〜極低臭気のメルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの他に副生成物や上記反応の際に使用された溶媒、あるいは低沸点の臭気成分などを含む混合物であっても、これら副生成物、溶媒および(高)臭気性不純物などが(極)僅かな量まで(臭気相当指数30以下)除去されているので、常圧条件下または微減圧条件下で製造された場合に比べて低臭気である。
【0103】
上記メルカプトカルボン酸またはメルカプトカルボン酸エステルと上記多価アルコールとを反応させて得られるメルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの具体例としては、下記のものが挙げられる:
ビス(3−メルカプトプロピオン酸)ブタン−1,4−ジオールエステル、トリス(3−メルカプトプロピオン酸)1,1,1−トリメチロールエタンエステル、トリス(3−メルカプトプロピオン酸)1,1,1−トリメチロールプロパンエステル、トリス(3−メルカプトプロピオン酸)1−トリエチロールエタンエステル、トリス(3−メルカプトプロピオン酸)1,1,1−トリエチロールプロパンエステル、ビス(3−メルカプトプロピオン酸)ペンタエリスリトールエステル、トリス(3−メルカプトプロピオン酸)ペンタエリスリトールエステル、テトラキス(3−メルカプトプロピオン酸)ペンタエリスリトールエステルなどの多価アルコールと、3−メルカプトプロピオン酸とを反応させて製造されるメルカプトカルボン酸多価アルコールエステル;
ビス(3−メルカプトブタン酸)ブタン−1,4−ジオールエステル、トリス(3−メルカプトブタン酸)1,1,1−トリメチロールエタンエステル、トリス(3−メルカプトブタン酸)1,1,1−トリメチロールプロパンエステル、トリス(3−メルカプトブブタン酸)1,1,1−トリエチロールエタンエステル、トリス(3−メルカプトブタン酸)1,1,1−トリエチロールプロパンエステル、ビス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステル、トリス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステル、テトラキス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステルなどの多価アルコールと、3−メルカプトブタン酸とを反応させて製造されるメルカプトカルボン酸多価アルコールエステル;
ビス(3,3−ジメチル−3−メルカプトプロピオン酸)ブタンー1,4−ジオールエステル、テトラキス(3,3−ジメチル−3−メルカプトプロピオン酸)ペンタエリスリトールエステル、トリス(3,3−ジメチル−3−メルカプトプロピオン酸)トリメチロールプロパンエステル;
テトラキス(3,3−ジメチル−2−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステル;
ビス(2−メルカプトプロピオン酸)ブタンー1,4−ジオールエステル、テトラキス(2−メルカプトプロピオン酸)ペンタエリスリトールエステル、トリス(2−メルカプトプロピオン酸)トリメチロールプロパンエステル、ヘキサ(2−メルカプトプロピオン酸)ビスペンタエリスリトールエステル、
ビス(3−フェニル−3−メルカプトプロピオン酸)ブタンー1,4−ジオールエステル、テトラキス(3−フェニル−3−メルカプトプロピオン酸)ペンタエリスリトールエステル、ヘキサ(3−フェニル−3−メルカプトプロピオン酸)ビスペンタエリスリトールエステル;
テトラキス(2,2−ジメチル−2−メルカプト酢酸)ペンタエリスリトールエステル、テトラキス(2−メルカプト−2−フェニル酢酸)ペンタエリスリトールエステル;および
1,3,5−トリス(3−メルカプトプロピルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリス(3−メルカプトブチルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリス(3,3−ジメチル−3−メルカプトプロピオニルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリス(3−フェニル−3−メルカプトプロピオニルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリス(2−メルカプトプロピオニルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオンなどの、1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン誘導体。
【0104】
これらメルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの中でも、原材料として汎用的に使用される化合物であるという観点から、テトラキス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステル、ビス(3−メルカプトブタン酸)ブタン−1,4−ジオールエステル、1,3,5−トリス(3−メルカプトブチルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオンがより好ましい。
【0105】
本発明においては、メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)等の臭気について、後述の臭い識別装置を用いた「臭気相当指数」および官能試験により評価する。臭気相当指数は、通常の臭気評価に用いられる臭気指数に合わせた尺度でにおいの質と量を機械的に数値化した値である。
なお、参考までに臭気指数と臭気指数相当値の相違を示せば下記の通りである。
【0106】
・臭気指数
ここで、臭気指数とは、サンプルの臭気を感知しなくなるまで無臭空気で希釈した場合の希釈倍率の対数を10倍した値であり、臭気を感知できる物質に対して用いる臭気の尺度である。
悪臭防止法(平成7年環境庁告示第63号)で定められた数値であり、臭気鑑定士が官能評価で実施する。臭気指数をAとした場合、希釈倍率は次の式で示される。
希釈倍率=10(A/10)
【0107】
・臭気指数相当値
本発明では、基準ガスを用意し、これを基準に測定対象となる物質に含まれる臭気成分の測定を上記臭い識別装置により行う。得られた測定結果から測定対象となる物質に含まれる臭気成分の臭気指数に相当する参考値を機械的に算出するため、上記臭い識別装置により得られる数値を臭気指数相当値とする。
【0108】
臭気の測定は、サンプルを約0.4gのサンプルバッグに入れて2時間放置し、次いで臭い識別装置を用いて臭気指数相当値を測定することで行われる。
上記臭い識別装置が識別できる成分としては、例えば、臭気指数相当値の測定装置(商品名「FF−2AおよびFAS1」(FF−2Aは臭気測定装置本体、FAS−1はサンプルバックからFF−2Aに臭気ガスをサンプリングする装置)、株式会社島津製作所製)を用いた場合には、次の成分が挙げられる。
【0109】
硫化水素、硫黄系、アンモニア、アミン系、有機酸系、アルデヒド系、エステル系、芳香族系、炭化水素系。
なお、上記臭気指数相当値の測定装置で検出できる成分種は、検出した臭気成分を形式的に上記成分のカテゴリーに分類したものであるため、必ずしも表示された成分種が測定対象の化合物に含まれていることを示すものではない。
【0110】
また、例えば、キシレンが検出された場合には、芳香族系、炭化水素系の両方に分類されて評価される。
測定対象の化合物に含まれている臭気成分の情報は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析やガスクロマトグラフィー(GC)分析に測定対象の化合物を供することで知ることができ、測定対象の化合物に含まれている臭気成分の種類や量などを知ることができる。
【0111】
通常は上記HPLC測定やGC測定により十分な分析結果が得られるが、測定対象の化合物に含まれている臭気成分の情報をより詳細に知りたい場合などには、必要に応じて、液体クロマトグラフィー-マススペクトロメトリー(LCMS)やガスクロマトグラフィー−マススペクトロメトリー(GCMS)で臭気成分を測定することにより、測定対象の化合物に含まれている臭気成分の種類や量、分子量などを知ることもできる。
また、必要に応じて、得られた測定結果をライブラリー(対照)と照らし合わせることで各臭気成分を特定できる場合もある。
【0112】
(イ−6)メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)の製造条件
本発明に係るメルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)を製造するにあたり、上記メルカプトカルボン酸(1)またはメルカプトカルボン酸エステル(2)と、上記多価アルコールとの反応条件(反応圧力、反応温度など)は、以下の通りである。
【0113】
「反応圧力」
本発明においては、上記反応(すなわち、メルカプトカルボン酸(1)またはメルカプトカルボン酸エステル(2)と、多価アルコールとの反応)を特定の減圧条件下で行なうことを特徴とする。特定の減圧条件下でこの反応を行うことにより、臭気が十分に低減されたメルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)を製造することができる。
【0114】
上記反応を特定の減圧条件下で行って得られたメルカプトカルボン酸多価アルコールエステルを含んだ反応生成物(a)の臭気は、臭気指数相当値で表せば、通常、30以下、好ましくは、25以下である。
【0115】
また、減圧下で上記反応(生成物(a)の製造)を行なうことで、製造されるメルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの臭気を改善するのみならず、副生する水あるいはアルコールを系外に留去させながら反応を行なうことができる。これにより反応が促進されるため、反応時間の短縮、生産性の向上を図ることができる。
【0116】
上記効果(臭気低減、反応時間の短縮、生産性の向上)などを考慮すると、上記反応は反応圧力が通常0.05〜20kPa、好ましくは0.07〜15kPa、より好ましくは0.08〜10kPa、最も好ましくは0.1〜7kPaの低圧となる範囲で行われる。
なお上記反応を常圧条件下で行って製造した(高)臭気性メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの臭気は、臭気指数相当値で表せば、通常、30を超えることが多い。
【0117】
「反応温度」
上記多価アルコールとメルカプトカルボン酸(1)またはメルカプトカルボン酸エステル(2)との反応における反応温度は、通常30〜150℃、好ましくは50〜140℃である。
【0118】
「反応時間」
上記反応の反応時間は、メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)を効率よく、特に、工業的に許容できる時間内で製造するというという観点からは、上記温度で通常、1〜10時間、好ましくは4〜8時間程度である。
【0119】
「反応スケール」
上記反応のスケールは、数百mLのスケールから数千Lの工業スケールまで広く実施可能である。
【0120】
「原料の純度」
各原料の純度について、臭気原因物質となる前記の不純物が1%以下である原料を使用することが好ましい。
【0121】
上記の条件にて反応を行なうことで副反応が抑えられ、良好な収率で、メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)を効率よく得ることができる。
このように、メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルを製造する際の反応条件(特に減圧条件)によって、製造されるメルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの臭気に相違が生じる理由としては、次のことが推察される。
【0122】
本発明では、上記エステル化を特定の反応条件下(特に、特定圧力の減圧下)で行うため、副反応が抑えられるとともに臭気成分の発生も抑えられ、しかも生じた臭気成分についても上記反応中に反応系外に効率よく留去することができる。
【0123】
これに対して、上記エステル化を常圧もしくは微減圧下で行った場合には、上記副反応や臭気成分の発生を十分に抑制できず、また、発生した臭気成分を十分に留去できないため、臭気成分が十分に除去されていない(高)臭気性メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルが製造される。
【0124】
しかも、該(高)臭気性メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルは、水、アルコールあるいはエーテルなどの溶媒で洗浄を行っても、原料に含まれる臭気原因物質あるいは反応によって生成する臭気原因物質の官能基によっては、洗浄により除去される可能性があるものの必要レベルまで完全には除去されないために低臭気のメルカプトカルボン酸多価アルコールエステルを効率よく得ることができない。
【0125】
以上のように、本発明のメルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)の製造工程では、メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)の製造と、反応中に発生した(高)臭気性不純物の留去とを、同時に行なうことができる。
【0126】
このように、(高)臭気性不純物の除去やメルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)の製造などを同時に行なえることから、本発明の製造方法は、メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)の製造に要する時間や生産効率などの点で優れている。
【0127】
さらに、上記製造工程では、従来技術のように反応系内に水を(加えてもよいが)加える必要もないことから、水を反応系内に加えなければならない方法に比してエネルギー的にも有利である。
【0128】
このため、本発明のメルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)の製造工程では、従来方に比して、少ない工程数で、より効率よく(特により短時間で)比較的低臭気性のメルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)を製造することができる。
【0129】
(ロ)低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a’)の製造工程(メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)の低臭気化処理工程)
上述(イ)の製造工程により製造されたメルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)をより効果的に低臭気化した製品とすることなどを目的に、本発明の低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造方法は、上記(イ)の製造工程に加えてさらに(ロ)メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)の低臭気化処理の工程を含む。
【0130】
(ロ)の低臭気化処理の工程では、具体的には、(イ)の製造工程により製造されたメルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)を後述の特定圧力の減圧下で加熱処理して、さらに低臭気化された低臭気化メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a’)を製造する。
【0131】
また、上記低臭気化処理を行うにあたっては、溶媒を用いても用いなくてもよいが、後述のように(特定の)溶媒を用いた方が効率よくメルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)を低臭気化できる。
【0132】
なお、エステル化を常圧または微減圧下で行って製造される(高)臭気性メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルを減圧下で加熱処理(該処理には、臭気性メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル合成後における分液・洗浄後の溶媒除去処理時の減圧下での加熱処理なども含む)しても低臭気化すること自体は可能である。
【0133】
このような方法を採用した場合には、本発明の製造方法以外の方法で製造された臭気性メルカプト酸多価アルコールエステル(市販の(臭気性)製品なども含めて)を低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルとして使用することができる。
【0134】
しかしながら、(高)臭気性メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルは、メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)と異なり(高)臭気性不純物を多く含む混合物であるため、メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)を低臭気化する場合に比べて、十分に(例えば、後述の臭気相当指数が30以下となるまで)低臭気化するまでに本発明に比べて多くの時間を要したり、必要な処理回数が多くなったりする傾向にある。
【0135】
そのため、(高)臭気性メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルを減圧下で加熱処理して低臭気化する態様と比較すると、メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)を減圧下で加熱処理して低臭気化処理する本発明では、低臭気化処理工程を設けても製造効率上大きな負担とはならず、低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a’)を非常に効率よく製造することができる。
【0136】
また、本低臭気化処理においては、第1〜3級のいずれのメルカプトカルボン酸(1)あるいはメルカプトカルボン酸エステル(2)を用いて得られた低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)を処理しても低臭気化することができる(以下、原料のメルカプトカルボン酸(1)あるいはメルカプトカルボン酸エステル(2)の級数を文頭に括弧書きで示して、(第1〜3級)低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)などと示す)。
【0137】
しかしながら、本低臭気化処理においては、(第1級)低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)を低臭気化処理した場合よりも、(第2あるいは3級)低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)を低臭気化処理した場合の方が、その低臭気化の度合いが大きい傾向にある。
【0138】
これは、上記製造工程において(第2あるいは3級)メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)は、本低臭気化工程で得られる低臭気化度の付近まで十分に低臭気化される傾向にあり、これに対して、(第1級)前記メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)は、低臭気化がそこまでに達しない傾向にあることによると推察される。
【0139】
すなわち、本低臭気化処理工程においては、上記のような処理対象に含まれる臭気成分の構造に由来すると想定される原因により(第1級)メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)よりも、(第2あるいは3級)メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)の方が、低臭気化処理の効果を享受する度合いが大きい傾向にある。
【0140】
また、本低臭気化処理の工程においては、メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)の特定圧力の減圧下での加熱処理を2回またはそれ以上行うことが好ましい(下記前処理に上記特定圧力の減圧下での加熱処理が含まれる場合にはこれも回数に数える)。
なお、上記低臭気化処理をおこなう前に、通常、以下の前処理を行なう。
【0141】
[前処理]
上記エステル化反応により得られた生成物(a)に希釈したアルカリ水溶液を加えて、アルカリ条件で水相側に抽出可能な不純物の除去を行なう。
【0142】
上記アルカリ条件とするために使用されるアルカリとしては、一般的に使用されるアルカリ成分であれば特に限定されず、アルカリ金属の水酸化物やアルカリ土類金属の水酸化物、アミン類などが使用可能である。
【0143】
上記のように生成物(a)を上記アルカリ水溶液で洗浄することにより、主成分であるメルカプトカルボン酸多価アルコールを有機層として得ることができる。化合物の性質に応じて、トルエンやキシレン、エーテルなどの抽出溶剤を抽出の際に使用してもよい。
【0144】
アルカリによる洗浄により、未反応のメルカプトカルボン酸(1)または極少量のメルカプトカルボン酸エステル(2)や、カルボキシル基を有する低沸点臭気成分のような不純物の大部分が有機層から水層ヘ移動し、これら不純物が低減ないし除去された有機層が得られる。
【0145】
このようにして得られた有機層は、そのまま上記低臭気化処理に供してもよいが、更に数回イオン交換水や蒸留水などで洗浄して、上記不純物の除去率をさらに向上させてから、上記低臭気化処理に供することが望ましい。
【0146】
[有機溶剤]
本発明に係る低臭気化処理工程では、上述の製造方法により得られたメルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)を減圧下で加熱処理する。
【0147】
前記低臭気化処理の際には、単に生成物(a)を減圧下で加熱処理してもよいが、生成物(a)に有機溶剤(以下、有機溶剤(b)という)を加えて減圧下で加熱処理することが更に好ましい。
【0148】
この際に添加する有機溶剤(b)は、溶剤自体が低臭気化処理において分解して臭気原因となりえる化合物を生じない溶剤を用い、通常、芳香族溶剤または脂肪族溶剤である。
上記芳香族溶剤としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等を挙げることができる。
【0149】
上記脂肪族溶剤としては、ヘキサン等を挙げることができる。
これら溶剤の中でも、共沸効果の観点から、芳香族溶剤が好ましく、トルエンおよびキシレンが特に好ましい。
【0150】
これらの有機溶剤(b)は1種単独で用いてもよく、2種以上を任意の割合で組み合わせて用いてもよいが、経済性の観点からは、1種単独(例えばトルエンのみ)を用いることが好ましい。
【0151】
また、メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)を減圧下で加熱処理する際に用いる有機溶剤(b)の種類は、メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)の製造時に使用した溶媒と同一であっても異なっていてもよいが、同一の溶剤である方が生産効率、経済性の点で好ましい。
【0152】
このように有機溶剤(b)を加えてメルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)を上記特定圧力の減圧下で加熱処理すると、臭気の原因成分である低沸点(例:沸点が50〜150℃/圧力:6kPa条件下)の臭気成分(例:低級カルボン酸、低級メルカプトカルボン酸、またそのエステル体など。)をより効率よく低減・除去できる。その結果、より短時間で目的とする臭気相当指数(例:15〜25)を有する低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a’)を製造することができる。
【0153】
例えば、メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)を、有機溶剤(b)の不存在下、0.5kPaの減圧下において100℃で加熱処理する場合、臭気指数相当値が15に達するまでの時間は通常18時間程度である。
【0154】
これに対して、生成物(a)100重量部に対して50〜200重量部の量となるようにメルカプトカルボン酸多価アルコールエステルエステル(a)に有機溶剤(b)を加えて(有機溶剤(b)の存在下において)減圧下で加熱処理した場合には、臭気指数相当値が15に達するまでの時間が通常5時間程度にまで短縮される。
【0155】
なお、メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)を有機溶剤(b)の存在下で減圧下において加熱処理する際に、有機溶剤(b)と異なる溶剤(エステル化反応に用いた溶媒や生成する水、未反応の原料など)が存在していてもよい。
【0156】
しかしながら、メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)を効率よく十分に低臭気化する観点からは、有機溶剤(b)と異なる溶剤の量は、生成物(a)100重量部に対して200重量部以下の量であることが好ましく、150重量部以下の量であることがより好ましい。
【0157】
この際に用いる有機溶剤(b)は、一般的に入手可能な試薬グレード(例えば1級〜特級)あるいは、一般的に汎用の工業グレードのものを用いることができる。
このように、メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)に有機溶剤(b)(トルエン、キシレン等)を加えて(有機溶剤(b)の存在下で)特定の減圧下において加熱処理すると、効率よく十分に低臭気化された低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(すなわち低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a’))を製造できる理由は次のように推察される。
【0158】
すなわち、有機溶剤(b)の存在下で生成物(a)を減圧下において加熱処理すると、生成物(a)に含まれる低沸点の臭気成分と有機溶剤(b)とが共沸するため、生成物(a)から該低沸点の臭気成分が効率よく除去できるものと推察される。
【0159】
なお、メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)の製造時に溶媒を用いなかった場合には、生成物(a)に上記有機溶剤(b)を添加せずに減圧下の加熱処理を行なってもよいが、生成物(a)に上記有機溶剤(b)を添加して減圧下の加熱処理を行って低臭気化処理することが、より効率よく低臭気化処理を行う観点から好ましい。
【0160】
メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)の製造時に溶媒として上記有機溶剤(b)と同様の溶剤(トルエン、キシレン等)を用いた場合には、製造後に生成物(a)をそのまま減圧下の加熱処理による低臭気化処理に供してもよいし、減圧下で生成物(a)の製造時に使用した溶媒を留去した後に、上記有機溶剤(b)を添加して減圧下の加熱処理による低臭気化処理を行ってもよい。
【0161】
メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)の製造時に溶媒として上記有機溶剤(b)と異なる溶剤を用いた場合には、製造後に得られた生成物(a)に上記有機溶剤(b)を添加してから減圧下の加熱処理による低臭気化処理に供してもよいし、減圧下で生成物(a)の製造時に使用した溶媒を留去した後に、上記有機溶剤(b)を添加して減圧下の加熱処理による低臭気化処理を行ってもよい。
【0162】
メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)の製造時に溶媒として上記有機溶剤(b)と該有機溶剤(b)と異なる溶剤の混合溶剤を用いた場合には、製造後に得られた生成物(a)をそのまま減圧下の加熱処理による低臭気化処理に供してもよいし、減圧下で生成物(a)の製造時に使用した混合溶媒を留去した後に、上記有機溶剤(b)を添加して減圧下の加熱処理による低臭気化を行ってもよい。
【0163】
有機溶剤(b)の存在下で上記低臭気化処理を行う場合、上記態様の中でも、経済性や生産効率などの点からは、メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)の製造時に溶媒を用いずに生成物(a)を製造し、得られた生成物(a)に上記有機溶剤(b)を添加して減圧下の加熱処理する態様が好ましい。
【0164】
また、メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)を効率よく低臭気化するという観点からは、メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)の製造時に有機溶媒(b)(但し有機溶媒(b)以外の溶媒は用いない)を用いて生成物(a)を製造し、得られた生成物(a)を含む有機溶剤(b)の溶液から有機溶剤(b)を留去し、次いで上記有機溶剤(b)を添加して減圧下の加熱処理する態様が好ましい。
【0165】
なお、低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a’)の臭気指数相当値が目標とする臭気指数相当値より大きい場合には、再度上記有機溶剤を添加して、上記特定圧力の減圧下での加熱処理による低臭気化処理を臭気指数相当値が目標とする値になるまで繰り返し行なえばよい。
【0166】
(ロ−1)低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a’)
本発明の低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造方法により製造される低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a’)は、低沸点の臭気成分などの不純物が効率よく低減されているため、前述の従来の臭気に関する問題などを伴うことなく使用することができる。
【0167】
本発明のメルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造方法により得られた低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a’)の臭気は、前述の臭気相当指数(臭気指数相当値)で評価される。
【0168】
臭気指数相当値の測定方法については、前述の「(イ−5)メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)」の項目で述べた通りである。
本発明により得られる低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの臭気指数相当値(a’)は、通常25以下、好ましくは20以下である。
【0169】
なお、参考までに言及すれば、上記臭気指数相当値が、15以下であると、人間の嗅覚においては、全くあるいは殆ど臭いを気にすることなく使用できる程度に低臭気化されたこととなる。
【0170】
本発明の製造方法により得られた低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a’)は、上記臭気相当指数が上記の範囲(25以下、好ましくは20以下)にあるため、エポキシ樹脂や、ウレタン樹脂等と混合する硬化剤などに好適に使用できる。
【0171】
なお、低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの臭気成分は、前述の「(イ−5)メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)」の項目で述べたと同様に、HPLCやGCにより分析することができ、また、必要に応じて液体クロマトグラフィー-マススペクトロメトリーやガスクロマトグラフィー−マススペクトロメトリーによる分析を行なうことで、より詳細な分析を行うことができる。
【0172】
(ロ−2)低臭気化処理の条件
本発明における低臭気化処理は、下記の圧力(減圧)、温度(加熱)、時間などの条件下で行なう。
【0173】
「圧力」
上記減圧処理の際における圧力は、通常、0.05〜20kPaであり、好ましくは0.1〜7kPaである。
【0174】
0.05kPa未満の圧力で上記の減圧処理をすると、設備が大規模なものとなり、経済性の面で不利となる傾向にある。
20kPaを越える圧力で上記の減圧処理をすると、低沸点の臭気成分が十分に気化されない、長時間(例えば24時間以上)の処理時間を要するなどの理由で、メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)を後述の処理時間内(通常数分〜10時間)では十分に低臭気化できないなどの傾向にある。
【0175】
「温度」
上記減圧処理は通常加熱下で行われ、その際における温度は、通常、30〜150℃であり、好ましくは50〜140℃である。
【0176】
30℃未満の温度で上記の減圧処理をすると、低沸点の臭気成分が十分に気化されないなどの理由で、メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)を十分に低臭気化できないなどの傾向にある。
150℃を越える温度で上記の減圧処理をすると、メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)が分解する可能性があるなどの傾向にある
【0177】
「時間」
上記低臭気化処理の際における減圧時間は、より低圧下、かつより高温下で行うほど、短時間に低臭気化メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルを効率よく得ることができるが、上記圧力範囲および上記温度範囲では、通常、数分〜10時間であり、好ましくは10分〜8時間で、十分に低臭気化できる傾向にある。
【0178】
1時間未満の時間で上記の減圧処理をすると、低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)を十分に低臭気化できないなどの傾向にある。
10時間を越える時間で上記の減圧処理をすると、低臭気化処理によるこれ以上の効果は望めない(低臭気化の効果が飽和状態になる)などの傾向にあることや、工業的な生産性の問題が発生する可能性がある。
【0179】
なお、低臭気化処理の度合いは、低臭気化処理する際の圧力、温度、減圧時間などの組み合わせにより変化するが、圧力が0.1〜7kPaであり、温度が50〜140℃であり、減圧時間が10分〜8時間である条件で上記反応生成物(a)の低臭気化処理を行なうことが、より効率的に低沸点の臭気成分(例:低級メルカプトカルボン酸など)を低減・除去でき、臭気成分を殆どないし全く含まないような、高度な低臭気化を行なうことができるようになる観点より特に好ましい。
【0180】
以上の条件で、メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)を減圧下で加熱処理することにより、より効率よく、更に低臭気化されたメルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a’))を製造することができる。
【実施例】
【0181】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの記載により何らの限定を受けるものではない。
なお、実施例中の「部」は「質量部」を意味する。
【0182】
また、低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルおよび臭気性メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの分析に用いたHPLCおよびGCの測定条件は下記の通りである。
【0183】
[HPLC]
カラム: Shodex 5C8−4E 2本
カラム温度: 40℃
溶離液: アセトニトリル/0.1wt%リン酸水溶液(v/v)=2/1
流速: 1.0ml/min
サンプル注入量: 20μL
検出器: UV 210nm あるいは RI検出器
[GC]
GCカラム:DB−5ms 0.25mm×30m、膜圧0.25μm
インジェクション部分温度:250℃
ディテクター部分温度:250℃
昇温条件:40℃(5min)→320℃(10min)、20℃/min
サンプル注入量:1μL
【0184】
必要に応じてヘッドスペース式分析方法やSPME(固相マイクロ抽出:Solid Phase Micro Extraction)法を使用しても良い。
また、各実施例及び比較例で製造したメルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの臭気指数相当値の測定及び官能試験は、下記の通り実施した。
【0185】
[1.臭気指数相当値の測定]
臭気指数相当値は、以下の通り測定した。
【0186】
サンプル約0.4gを高純度N2ガス(99.99995%)で満たした2Lのサンプルバッグ(型番:Flek−Sampler、サンプルバッグ2L(2KFタイプ)、NS光研社製に入れ、室温で2時間放置した。次いで、臭い識別装置(装置名:「FF−2A」および「FAS1」、いずれも株式会社島津製作所製)を用いて、下記条件に従って測定し、株式会社島津製作所基準9ガスを用いた評価により、臭気指数相当値を求めた。基準9ガス:硫化水素、アンモニア、酢酸ブチル、トルエン、ヘプタン、メチルメルカプタン、トリメチルアミン、ブチルアルデヒド、プロピオン酸。
測定:ダイレクトモードおよび捕集管モードを併用
ダイレクトモード:硫化水素ならびにアンモニアの臭気を評価
捕集管モード:島津基準9ガスより、ダイレクトモードでの2種以外の7種のガスを評価
サンプリング時間:180秒
サンプリング流量:165ml/分
パージ温度(ダイレクトモード):40℃
パージ温度(捕集管モード):220℃
【0187】
なお、臭気の強い物質については、サンプルの臭気の測定値が臭い識別装置の検出可能範囲に収まるように適宜高純度N2でサンプルの臭気を希釈した後、上記測定を行った。
【0188】
[2.官能試験]
まず、基準サンプルとして、常圧〜微減圧下で製造した各メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(表3もしくは4において官能評価が「−」となっているもの)について、約20gを50mlガラス瓶に入れ密栓し、室温で1時間静置した。その後臭気評価を行ってこの結果を基準値とした。
【0189】
次いで、上記基準サンプルの測定対象となるサンプルとして、対応するメルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(表3もしくは4において本願発明の反応条件化で生成したメルカプトカルボン酸多価アルコールエステル)についても同様にそれぞれ臭気評価を行い、基準サンプルと比較して測定対象のサンプルの臭気が改善されているかについて下記の基準で評価した。
官能評価 0:6人のパネラー全てが改善していないと感じた
官能評価 1:6人のパネラーのうち、1−2名が臭気改善効果を認めた。
官能評価 2:6人のパネラーのうち、3−4名が臭気改善効果を認めた。
官能評価 3:6人のパネラーのうち、5−6名が臭気改善効果を認めた。
【0190】
なお、臭気評価は、パネラーがガラス瓶の栓を外して、ガラス瓶の口の付近、約3cmに鼻を近づけて臭気を直接嗅ぐことで行った。
また、上記基準サンプルと比較対象となるサンプルの対応関係については、後述の表2及び表3において、同メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルを用いた実施例あるいは比較例あるいは参考例が上記対応関係にある。例えば、比較例1を基準とすれば、参考例1及び実施例1−2がそれぞれ比較例1に対する比較対象である。
【0191】
[参考例1]
[低臭気テトラキス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステルの合成]
ペンタエリスリトール(150g、1.10mol)、3−メルカプトブタン酸(662g、5.51mol)、p−トルエンスルホン酸・1水和物(10.5g、0.055mol)を4つ口フラスコに投入し、該4つ口フラスコに、温度計、圧力計および冷却管を備えた留出水トラップを接続した。留出水トラップの末端には、真空ポンプおよび減圧調節弁をゴムホースで接続して圧力調節弁により指定の圧力となるようにコントロールできる装置とした。
【0192】
次いで、内容物を攪拌しながらフラスコ内を1.3kPaまで徐々に減圧し、次いで約1時間かけて100℃まで内容物を加熱した。さらに、1.3kPa、100℃で6時間反応を行った。反応終了後、反応生成物を室温まで冷却した。
【0193】
次いで、トルエン750gを添加し反応生成物をトルエンに溶解した後、トルエン溶液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液750gで洗浄した。混合液を静置して2層とした後、上層のトルエン層を採取して1回当たり純水750mLを使用して2回洗浄した。
【0194】
洗浄後のトルエン層を、水流アスピレーターを用いて、水浴温度約70℃、減圧下で濃縮し、次いで、100℃に昇温し0.5kPaまで減圧して、同条件下で得られた濃縮物を3時間処理して揮発物を留去した。
【0195】
その結果、淡黄色液体としてテトラキス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステル(a)を575g(1.06mol、ペンタエリスリトールをベースとした収率は96.0%)得た。
【0196】
このように製造したテトラキス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステル(a)は、HPLC分析に供したところ、主成分であるテトラキス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステルの他にも、トリス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステル、ビス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステル、式2で表される過エステル化合物を微量含有する混合物であることがわかった。
【0197】
また、テトラキス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステル(a)の臭気指数相当値は19.8であった。
【0198】
【化18】

[参考例2]
[テトラキス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステル(a)の合成]
ペンタエリスリトールと3−メルカプトブタン酸とを、1.3kPa、100℃で2時間反応させた以外は、参考例1に準じて合成および精製を行い、淡黄色液体としてテトラキス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステル(a)を565g(1.04mol、ペンタエリスリトールベースをベースとした収率は94.5%)得た。
【0199】
この生成物(a)をHPLC分析に供したところ、参考例1と同様、主成分であるテトラキス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステルの他にも、トリス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステル、ビス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステル、式2で表される過エステル化合物を微量含有する混合物であることがわかった。また、生成物(a)の臭気指数相当値は21.0であった。
【0200】
[参考例3]
[ビス(3−メルカプトブタン酸)ブタン−1,4−ジオールエステル(a)の合成]
表1に示す化合物を原料および触媒として用いた以外は、参考例1に準じて合成および精製を行い、無色透明液体としてビス(3−メルカプトブタン酸)ブタン−1,4−ジオールエステル(a)を318g(0.98mol、ブタン−1,4−ジオールをベースとした収率は89%)得た。
【0201】
この生成物(a)をHPLC分析に供したところ、ビス(3−メルカプトブタン酸)ブタンジオールエステルの他にも、モノ(3−メルカプトブタン酸)ブタン−1,4−ジオールエステル、ビス(3−メルカプトブタン酸)ブタン−1,4−ジオールエステルのメルカプト基に3−メルカプトブタン酸がチオエステル結合した過エステル化合物を微量含有する混合物であることがわかった。また生成物(a)の臭気指数相当値は21.5であった。
【0202】
[参考例4]
[トリス(3−メルカプトブタン酸)トリメチロールエタンエステル(a)の合成]
表1に示す化合物を原料および触媒として用いた以外は、参考例1に準じて合成および精製を行い、無色透明液体としてトリス(3−メルカプトブタン酸)トリメチロールエタンエステル(a)を481.6g(1.02mol、トリメチロールエタンをベースとした収率は93%)得た。
【0203】
この生成物(a)をHPLC分析に供したところ、主成分であるトリス(3−メルカプトブタン酸)トリメチロールエタンエステルの他にも、ビス(3−メルカプトブタン酸)トリメチロールエタンエステル、トリス(3−メルカプトブタン酸)トリメチロールエタンエステルのメルカプト基に3−メルカプトブタン酸がチオエステル結合した過エステル化合物を微量含有する混合物であることがわかった。また生成物(a)の臭気指数相当値は21.8であった。
【0204】
[参考例5]
[トリス(3−メルカプトブタン酸)トリメチロールプロパンエステル(a)の合成]
表1に示す化合物を原料および触媒として用いた以外は、参考例1に準じて合成および精製を行い、無色透明液体としてトリス(3−メルカプトブタン酸)トリメチロールプロパンエステル(a)を513.5g(1.06mol、トリメチロールプロパンをベースとした収率は96%)得た。
【0205】
この生成物(a)をHPLC分析に供したところ、主成分であるトリス(3−メルカプトブタン酸)トリメチロールプロパンエステルの他にも、ビス(3−メルカプトブタン酸)トリメチロールプロパンエステル、トリス(3−メルカプトブタン酸)トリメチロールプロパンエステルのメルカプト基に3−メルカプトブタン酸がチオエステル結合した過エステル化合物を微量含有する混合物であることがわかった。また生成物(a)の臭気指数相当値は20.1であった。
【0206】
[参考例6]
[トリス(3−メルカプトブタン酸)トリエタノールエタンエステル(a)の合成]
表1に示す化合物を原料および触媒として用いた以外は、参考例1に準じて合成および精製を行い、無色透明液体としてトリス(3−メルカプトブタン酸)トリエタノールエタンエステル(a)を534.8g(1.04mol、トリエタノールエタンをベースとした収率は94%)得た。
【0207】
この生成物(a)をHPLC分析に供したところ、主成分であるトリス(3−メルカプトブタン酸)トリエタノールエタンエステルの他にも、ビス(3−メルカプトブタン酸)トリエタノールエタンエステル、トリス(3−メルカプトブタン酸)トリエタノールエタンエステルのメルカプト基に3−メルカプトブタン酸がチオエステル結合した過エステル化合物を微量含有する混合物であることがわかった。また生成物(a)の臭気指数相当値は20.8であった。
【0208】
[参考例7]
[トリス(3−メルカプトブタン酸)トリエタノールプロパンエステル(a)の合成]
表1に示す化合物を原料および触媒として用いた以外は、参考例1に準じて合成および精製を行い、無色透明液体としてトリス(3−メルカプトブタン酸)トリエタノールプロパンエステル(a)を550.8g(1.04mol、トリエタノールプロパンをベースとした収率は94%)得た。
【0209】
この生成物(a)をHPLC分析に供したところ、主成分であるトリス(3−メルカプトブタン酸)トリエタノールプロパンエステルの他にも、ビス(3−メルカプトブタン酸)トリエタノールプロパンエステル、トリス(3−メルカプトブタン酸)トリエタノールプロパンエステルのメルカプト基に3−メルカプトブタン酸がチオエステル結合した過エステル化合物を微量含有する混合物であることがわかった。また生成物(a)の臭気指数相当値は21.1であった。
【0210】
[参考例8]
[ヘキサ(3−メルカプトブタン酸)ビスペンタエリスリトールエステル(a)の合成]
表1に示す化合物を原料および触媒として用いた以外は、参考例1に準じて合成および精製を行い、無色透明液体としてヘキサ(3−メルカプトブタン酸)ビスペンタエリスリトールエステル(a)を979g(1.02mol、ビスペンタエリスリトールをベースとした収率は93%)得た。
【0211】
この生成物(a)をHPLC分析に供したところ、主成分であるヘキサ(3−メルカプトブタン酸)ビスペンタエリスリトールエステルの他にも、テトラキス(3−メルカプトブタン酸)ビスペンタエリスリトールエステル、ペンタ(3−メルカプトブタン酸)ビスペンタエリスリトールエステル、ヘキサ(3−メルカプトブタン酸)ビスペンタエリスリトールエステルのメルカプト基に3−メルカプトブタン酸がチオエステル結合した過エステル化合物を微量含有する混合物であることがわかった。また生成物(a)の臭気指数相当値は21.3であった。
【0212】
[参考例9]
[1,3,5−トリス(3−メルカプトブチルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン(a)の合成]
表1に示す化合物を原料および触媒として用いた以外は、参考例1に準じて合成および精製を行い、無色透明液体として1,3,5−トリス(3−メルカプトブチルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン(a)を647.8g(1.04mol、N,N,N−トリエタノール−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオンをベースとした収率は94%)得た。
【0213】
この生成物(a)をHPLC分析に供したところ、主成分である1,3,5−トリス(3−メルカプトブチルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオンの他にも、1,3−ビス(3−メルカプトブチルオキシエチル)−5−ヒドロキシエチル−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリス(3−メルカプトブチルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオンのメルカプト基に3−メルカプトブタン酸がチオエステル結合した過エステル化合物を微量含有する混合物であることがわかった。また生成物(a)の臭気指数相当値は18.9であった。
【0214】
[参考例10]
[ビス(3,3−ジメチル−3−メルカプトプロピオン酸)ブタン−1,4−ジオールエステル(a)の合成]
表1に示す化合物を原料および触媒として用いた以外は、参考例1に準じて合成および精製を行い、無色透明液体としてビス(3,3−ジメチル−3−メルカプトプロピオン酸)ブタン−1,4−ジオールエステル(a)を35.5g(0.099mol、ブタン−1,4−ジオールをベースとした収率は90%)得た。
【0215】
この生成物(a)をHPLC分析に供したところ、主成分であるビス(3,3−ジメチル−3−メルカプトプロピオン酸)ブタン−1,4−ジオールエステルの他にも、ビス(3,3−ジメチル−3−メルカプトプロピオン酸)ブタン−1,4−ジオールエステルのメルカプト基に3,3−ジメチル−3−メルカプトプロピオン酸がチオエステル結合した過エステル化合物を微量含有する混合物であることがわかった。また生成物(a)の臭気指数相当値は20.8であった。
【0216】
[参考例11]
[テトラキス(3,3−ジメチル−3−メルカプトプロピオン酸)ペンタエリスリトールエステル(a)の合成]
表1に示す化合物を原料および触媒として用いた以外は、参考例1に準じて合成および精製を行い、無色透明液体としてテトラキス(3,3−ジメチル−3−メルカプトプロピオン酸)ペンタエリスリトールエステル(a)を70.4g(0.105mol、ペンタエリスリトールをベースとした収率は95%)得た。
【0217】
この生成物(a)をHPLC分析に供したところ、主成分であるテトラキス(3,3−ジメチル−3−メルカプトプロピオン酸)ペンタエリスリトールエステルの他にも、トリス(3,3−ジメチル−3−メルカプトプロピオン酸)ペンタエリスリトールエステル、テトラキス(3,3−ジメチル−3−メルカプトプロピオン酸)ペンタエリスリトールエステルのメルカプト基に3,3−ジメチル−3−メルカプトプロピオン酸がチオエステル結合した過エステル化合物を微量含有する混合物であることがわかった。また生成物(a)の臭気指数相当値は20.0であった。
【0218】
[参考例12]
[トリス(3,3−ジメチル−3−メルカプトプロピオン酸)トリメチロールプロパンエステル(a)の合成]
表1に示す化合物を原料および触媒として用いた以外は、参考例1に準じて合成および精製を行い、無色透明液体としてトリス(3,3−ジメチル−3−メルカプトプロピオン酸)トリメチロールプロパンエステル(a)を55.6g(0.104mol、トリメチロールプロパンをベースとした収率は94%)得た。
【0219】
この生成物(a)をHPLC分析に供したところ、主成分であるトリス(3,3−ジメチル−3−メルカプトプロピオン酸)トリメチロールプロパンエステルの他にも、ビス(3,3−ジメチル−3−メルカプトプロピオン酸)トリメチロールプロパンエステル、トリス(3,3−ジメチル−3−メルカプトプロピオン酸)トリメチロールプロパンエステルのメルカプト基に3,3−ジメチル−3−メルカプトプロピオン酸がチオエステル結合した過エステル化合物を微量含有する混合物であることがわかった。また生成物(a)の臭気指数相当値は20.3であった。
【0220】
[参考例13]
[1,3,5−トリス(3,3−ジメチル−3−メルカプトプロピオニルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン(a)の合成]
表1に示す化合物を原料および触媒として用いた以外は、参考例1に準じて合成および精製を行い、無色透明液体として1,3,5−トリス(3,3−ジメチル−3−メルカプトプロピオニルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン(a)を69.5g(0.105mol、N,N,N−トリエタノール−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオンをベースとした収率は95%)得た。
【0221】
この生成物(a)をHPLC分析に供したところ、主成分である1,3,5−トリス(3,3−ジメチル−3−メルカプトプロピオニルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオンの他にも、1,3−ビス(3,3−ジメチル−3−メルカプトプロピオニルオキシエチル)−5−ヒドロキシエチル−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリス(3,3−ジメチル−3−メルカプトプロピオニルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオンのメルカプト基に3,3−ジメチル−3−メルカプトプロピオン酸がチオエステル結合した過エステル化合物を微量含有する混合物であることがわかった。また生成物(a)の臭気指数相当値は19.8であった。
【0222】
[参考例14]
[ビス(3−フェニル−3−メルカプトプロピオン酸)ブタン−1,4−ジオールエステル(a)の合成]
表1に示す化合物を原料および触媒として用いた以外は、参考例1に準じて合成および精製を行い、無色透明液体としてビス(3−フェニル−3−メルカプトプロピオン酸)ブタン−1,4−ジオールエステル(a)を46.1g(0.101mol、ブタン−1,4−ジオールをベースとした収率は92%)得た。
【0223】
この生成物(a)をHPLC分析に供したところ、主成分であるビス(3−フェニル−3−メルカプトプロピオン酸)ブタン−1,4−ジオールエステルの他にも、ビス(3−フェニル−3−メルカプトプロピオン酸)ブタン−1,4−ジオールエステルのメルカプト基に3−フェニル−3−メルカプトプロピオン酸がチオエステル結合した過エステル化合物を微量含有する混合物であることがわかった。また生成物(a)の臭気指数相当値は19.5であった。
【0224】
[参考例15]
[テトラキス(3−フェニル−3−メルカプトプロピオン酸)ペンタエリスリトールエステル(a)の合成]
表1に示す化合物を原料および触媒として用いた以外は、参考例1に準じて合成および精製を行い、無色透明液体としてテトラキス(3−フェニル−3−メルカプトプロピオン酸)ペンタエリスリトールエステル(a)を91.5g(0.106mol、ペンタエリスリトールをベースとした収率は96%)得た。
【0225】
この生成物(a)をHPLC分析に供したところ、主成分であるテトラキス(3−フェニル−3−メルカプトプロピオン酸)ペンタエリスリトールエステルの他にも、トリス(3−フェニル−3−メルカプトプロピオン酸)ペンタエリスリトールエステル、テトラキス(3−フェニル−3−メルカプトプロピオン酸)ペンタエリスリトールエステルのメルカプト基に3−フェニル−3−メルカプトプロピオン酸がチオエステル結合した過エステル化合物を微量含有する混合物であることがわかった。また生成物(a)の臭気指数相当値は18.9であった。
【0226】
[参考例16]
[ヘキサ(3−フェニル−3−メルカプトプロピオン酸)ビスペンタエリスリトールエステル(a)の合成]
表2に示す化合物を原料および触媒として用いた以外は、参考例1に準じて合成および精製を行い、無色透明液体としてヘキサ(3−フェニル−3−メルカプトプロピオン酸)ビスペンタエリスリトールエステル(a)を138.1g(0.102mol、ビスペンタエリスリトールをベースとした収率は93%)得た。
【0227】
この生成物(a)をHPLC分析に供したところ、主成分であるヘキサ(3−フェニル−3−メルカプトプロピオン酸)ビスペンタエリスリトールエステルの他にも、テトラキス(3−フェニル−3−メルカプトプロピオン酸)ビスペンタエリスリトールエステル、ペンタ(3−フェニル−3−メルカプトプロピオン酸)ビスペンタエリスリトールエステル、ヘキサ(3−フェニル−3−メルカプトプロピオン酸)ビスペンタエリスリトールエステルのメルカプト基に3−フェニル−3−メルカプトプロピオン酸がチオエステル結合した過エステル化合物を微量含有する混合物であることがわかった。また生成物(a)の臭気指数相当値は17.9であった。
【0228】
[参考例17]
[1,3,5−トリス(3−フェニル−3−メルカプトプロピオニルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン(a)の合成]
表2に示す化合物を原料および触媒として用いた以外は、参考例1に準じて合成および精製を行い、無色透明液体として1,3,5−トリス(3−フェニル−3−メルカプトプロピオニルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン(a)を85.5g(0.106mol、N,N,N−トリエタノール−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオンをベースとした収率は96%)得た。
【0229】
この生成物(a)をHPLC分析に供したところ、主成分である1,3,5−トリス(3−フェニル−3−メルカプトプロピオニルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオンの他にも、1,3−ビス(3−フェニル−3−メルカプトプロピオニルオキシエチル)−5−ヒドロキシエチル−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリス(3−フェニル−3−メルカプトプロピオニルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオンのメルカプト基に3−フェニル−3−メルカプトプロピオン酸がチオエステル結合した過エステル化合物を微量含有する混合物であることがわかった。また低臭気生成物(a)の臭気指数相当値は17.9であった。
【0230】
[参考例18]
[テトラキス(3,3−ジメチル−2−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステル(a)の合成]
表2に示す化合物を原料および触媒として用いた以外は、参考例1に準じて合成および精製を行い、無色透明液体としてテトラキス(3,3−ジメチル−2−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステル(a)を77.1g(0.105mol、ペンタエリスリトールをベースとした収率は95%)得た。
【0231】
この生成物(a)をHPLC分析に供したところ、主成分であるテトラキス(3,3−ジメチル−2−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステルの他にも、トリス(3,3−ジメチル−2−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステル、テトラキス(3,3−ジメチル−2−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステルのメルカプト基に3,3−ジメチル−2−メルカプトブタン酸がチオエステル結合した過エステル化合物微量含有する混合物であることがわかった。また生成物(a)の臭気指数相当値は19.8であった。
【0232】
[参考例19]
[ビス(2−メルカプトプロピオン酸)ブタン−1,4−ジオールエステル(a)の合成]
表2に示す化合物を原料および触媒として用いた以外は、参考例1に準じて合成および精製を行い、無色透明液体としてビス(2−メルカプトプロピオン酸)ブタン−1,4−ジオールエステル(a)を30.7g(0.101mol、ブタン−1,4−ジオールをベースとした収率は92%)を得た。
【0233】
この生成物(a)をHPLC分析に供したところ、主成分であるビス(2−メルカプトプロピオン酸)ブタン−1,4−ジオールエステルの他にも、ビス(2−メルカプトプロピオン酸)ブタン−1,4−ジオールエステルのメルカプト基に2−メルカプトプロピオン酸がチオエステル結合した過エステル化合物を微量含有する混合物であることがわかった。また生成物(a)の臭気指数相当値は22.1であった。
【0234】
[参考例20]
[テトラキス(2−メルカプトプロピオン酸)ペンタエリスリトールエステル(a)の合成]
表2に示す化合物を原料および触媒として用いた以外は、参考例1に準じて合成および精製を行い、無色透明液体としてテトラキス(2−メルカプトプロピオン酸)ペンタエリスリトールエステル(a)を58.1g(0.104mol、ペンタエリスリトールをベースとした収率は94%)得た。
【0235】
この生成物(a)をHPLC分析に供したところ、主成分であるテトラキス(2−メルカプトプロピオン酸)ペンタエリスリトールエステルの他にも、トリス(2−メルカプトプロピオン酸)ペンタエリスリトールエステル、テトラキス(2−メルカプトプロピオン酸)ペンタエリスリトールエステルのメルカプト基に2−メルカプトプロピオン酸がチオエステル結合した過エステル化合物を微量含有する混合物であることがわかった。また生成物(a)の臭気指数相当値は21.8であった。
【0236】
[参考例21]
[トリス(2−メルカプトプロピオン酸)トリメチロールプロパンエステル(a)の合成]
表2に示す化合物を原料および触媒として用いた以外は、参考例1に準じて合成および精製を行い、無色透明液体としてトリス(2−メルカプトプロピオン酸)トリメチロールプロパンエステル(a)を49.9g(0.104mol、トリメチロールプロパンをベースとした収率は94%)得た。
【0237】
この生成物(a)をHPLC分析に供したところ、主成分であるトリス(2−メルカプトプロピオン酸)トリメチロールプロパンエステルの他にも、ビス(2−メルカプトプロピオン酸)トリメチロールプロパンエステル、トリス(2−メルカプトプロピオン酸)トリメチロールプロパンエステルの2−メルカプトプロピオン酸にカルボン酸がチオエステル結合した過エステル化合物を微量含有する混合物であることがわかった。また生成物(a)の臭気指数相当値は21.5であった。
【0238】
[参考例22]
[ヘキサ(2−メルカプトプロピオン酸)ビスペンタエリスリトールエステル(a)の合成]
表2に示す化合物を原料および触媒として用いた以外は、参考例1に準じて合成および精製を行い、無色透明液体としてヘキサ(2−メルカプトプロピオン酸)ビスペンタエリスリトールエステル(a)を90.3g(0.10mol、ビスペンタエリスリトールをベースとした収率は92%)得た。
【0239】
この生成物(a)をHPLC分析に供したところ、主成分であるヘキサ(2−メルカプトプロピオン酸)ビスペンタエリスリトールエステルの他にも、テトラキス(2−メルカプトプロピオン酸)ビスペンタエリスリトールエステル、ペンタ(2−メルカプトプロピオン酸)ビスペンタエリスリトールエステル、ヘキサ(2−メルカプトプロピオン酸)ビスペンタエリスリトールエステルのメルカプト基に2−メルカプトプロピオン酸がチオエステル結合した過エステル化合物を微量含有する混合物であることがわかった。また生成物(a)の臭気指数相当値は19.7であった。
【0240】
[参考例23]
[1,3,5−トリス(2−メルカプトプロピオニルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン(a)の合成]
表2に示す化合物を原料および触媒として用いた以外は、参考例1に準じて合成および精製を行い、無色透明液体として1,3,5−トリス(2−メルカプトプロピオニルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン(a)を60.0g(0.104mol、N,N,N,−トリエタノール−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオンをベースとした収率は94%)を得た。
【0241】
この生成物(a)をHPLC分析に供したところ、主成分である1,3,5−トリス(2−メルカプトプロピオニルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオンの他にも、1,3−ビス(2−メルカプトプロピオニルオキシエチル)−5−ヒドロキシエチル−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリス(2−メルカプトプロピオニルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオンのメルカプト基に2−メルカプトプロピオン酸がチオエステル結合した過エステル化合物を微量含有する混合物であることがわかった。また生成物(a)の臭気指数相当値は19.5であった。
【0242】
[参考例24]
[テトラキス(2,2−ジメチル−2−メルカプト酢酸)ペンタエリスリトールエステル(a)の合成]
表2に示す化合物を原料および触媒として用いた以外は、参考例1に準じて合成および精製を行い、無色透明液体としてテトラキス(2,2−ジメチル−2−メルカプト酢酸)ペンタエリスリトールエステル(a)を52.0g(0.105mol、ペンタエリスリトールをベースとした収率は95%)を得た。
【0243】
この生成物(a)をHPLC分析に供したところ、主成分であるテトラキス(2,2−ジメチル−2−メルカプト酢酸)ペンタエリスリトールエステルの他にも、トリス(2,2−ジメチル−2−メルカプト酢酸)ペンタエリスリトールエステル、テトラキス(2,2−ジメチル−2−メルカプト酢酸)ペンタエリスリトールエステルのメルカプト基に2,2−ジメチル−2−メルカプト酢酸がチオエステル結合した過エステル化合物を微量含有する混合物であることがわかった。また生成物(a)の臭気指数相当値は20.1であった。
【0244】
[参考例25]
[テトラキス(2−メルカプト−2−フェニル酢酸)ペンタエリスリトールエステル(a)の合成]
表2に示す化合物を原料および触媒として用いた以外は、参考例1に準じて合成および精製を行い、無色透明液体としてテトラキス(2−メルカプト−2−フェニル酢酸)ペンタエリスリトールエステル(a)を67.8g(0.106mol、ペンタエリスリトールをベースとした収率は96%)を得た。
【0245】
この生成物(a)をHPLC分析に供したところ、主成分であるテトラキス(2−メルカプト−2−フェニル酢酸)ペンタエリスリトールエステルの他にも、トリス(2−メルカプト−2−フェニル酢酸)ペンタエリスリトールエステル、テトラキス(2−メルカプト−2−フェニル酢酸)ペンタエリスリトールエステルのメルカプト基に2−メルカプト−2−フェニル酢酸がチオエステル結合した過エステル化合物を微量含有する混合物であることがわかった。また生成物(a)の臭気指数相当値は19.9であった。
【0246】
[実施例1−2]
参考例1で製造したテトラキス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステル(a)(250g)を1Lナスフラスコに採取し、トルエン(250g)を加えてテトラキス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステル(a)を溶解した。
【0247】
真空ポンプと水銀圧力計(マノメーター)を接続したエバポレーターに前記1Lナスフラスコを取り付け、該1Lナスフラスコを60℃のシリコンオイルの入ったオイルバスに浸けた。
【0248】
次いで、真空ポンプの調圧弁を調製しながら徐々に0.5kPaまで減圧して、トルエンをほぼ全量留去した。この留去に必要な時間は、約1.5時間であった。
次いで、系内の圧力を0.5kPaに維持したまま、オイルバスの温度を100℃に昇温して、エバポレーターを回転させながら残渣を減圧下で2時間加温した。
【0249】
このようにして、テトラキス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステル(a’)を得た。
上記操作(テトラキス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステル(a)の加熱、減圧処理)終了後に、残留分として得られたテトラキス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステル(a’)の重量を測定したところ、250g(0.46mol)であった。
【0250】
テトラキス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステル(a’)をHPLC分析に供したところ、上記操作前と操作後の組成(すなわちテトラキス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステル(a)の組成とテトラキス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステル(a’)の組成)はほぼ同じであった。
【0251】
また、得られたテトラキス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステル(a’)の臭気指数相当値は19.5であり、前記操作前(テトラキス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステル(a)、臭気指数相当値は19.8)と比較して改善されていた。
【0252】
[実施例12−2、13−2、16−2、18−2]
処理対象を参考例12、13、16または18で製造した生成物(a)(25g)に代えた以外は、実施例1−2と同様の方法により低臭気化処理を行った。なお、溶剤は、生成物(a)に対する溶剤の重量比率が実施例1−2と同じになる量を使用した。
【0253】
上記操作終了後に得られた残留分の重量を測定したところ、いずれも25gであり、また、HPLC分析に供したところ、上記低臭気化処理前後の組成はほぼ同じであった。それぞれの低臭気生成物(a’)の臭気指数相当値を表3に示す。
なお、実施例X−2(Xは整数)とは、参考例Xで得られた生成物を実施例1−2と同様の方法で低臭気化処理を行ったことを示す。
【0254】
[比較例1]
[臭気性テトラキス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステルの合成]
ペンタエリスリトール(150g、1.10mol)、3−メルカプトブタン酸(528g、4.4mol)、p−トルエンスルホン酸・1水和物(10.5g、0.055mol)、トルエン(1500ml)を3Lの4つ口フラスコに投入し、該4つ口フラスコに、温度計、圧力計および冷却管を備えた留出水トラップを接続した。
【0255】
次いで、内容物を攪拌しながら反応溶液をオイルバスで加熱した。反応溶液の温度が87℃程度となった時点で還流が始まった。この還流が始まった時点を反応開始時間として、該反応開始時間から約7時間反応を行った。なお、反応温度は、前記還流開始後約2時間後にほぼ110℃となり、その後ほぼ一定であった。
【0256】
反応終了後、反応生成物を室温まで冷却した。次いで、冷却した反応溶液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液1,000gを加えて反応溶液を洗浄した。混合液を静置して2層とした後、上層のトルエン層を採取して、トルエン層を1回当たり純水1,000mLを使用して2回洗浄した。洗浄後のトルエン層を、水流アスピレーターを用いて、水浴温度約70℃、減圧下に濃縮して、次いで、100℃に昇温し0.5kPaまで減圧して、同条件下で得られた濃縮物を3時間処理して揮発物を留去した。その結果、淡黄色液体として臭気性テトラキス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステルを553g(1.03mol、ペンタエリスリトールをベースとした収率は94.0%)を得た。
【0257】
このように製造した臭気性生成物をHPLC分析に供したところ、参考例1と同様、主成分であるテトラキス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステルの他にも、トリス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステル、ビス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステル、式2で表される過エステル化合物を微量含有する混合物であることがわかった。また臭気性生成物の臭気指数相当値は42.1であった。
【0258】
[比較例2]
[(高)臭気性テトラキス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステルの合成]
ペンタエリスリトール(150g、1.10mol)、3−メルカプトブタン酸(612g、5.09mol)、p−トルエンスルホン酸・1水和物(11.2g、0.058mol)を1Lの4つ口フラスコに投入し、該4つ口フラスコに、温度計、圧力計および冷却管を備えた留出水トラップを接続した。留出水トラップの末端には、真空ポンプおよび減圧調節弁をゴムホースで接続して圧力調節弁により指定の圧力となるようにコントロールできる装置とした。
【0259】
次いで、内容物を攪拌しながらフラスコ内を50kPaまで減圧し、徐々に100℃まで加熱した。次いで、内容物を100℃で4時間加熱し、さらに、110℃で2.5時間反応を行った。
【0260】
反応終了後、反応生成物を室温まで冷却した。トルエン750gを添加し反応生成物をトルエンに溶解した後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液750gでトルエン溶液の中和洗浄を行った。
【0261】
次いで、水層とトルエン層とを分液し、得られたトルエン層を、1回あたり、純水750mlを使用して2回洗浄を行った。
洗浄後のトルエン層を、水流アスピレーターを用いて、水浴温度約70℃、減圧下で濃縮し、次いで、100℃に昇温し0.5kPaまで減圧して、同条件下で得られた濃縮物を3時間処理して揮発物を留去した。
【0262】
その結果、淡黄色液体の(高)臭気性テトラキス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステルを534g(1.02mol、ペンタエリスリトールをベースとした収率は93.0%)で得た。
【0263】
この(高)臭気性生成物をHPLC分析に供したところ、参考例1と同様、主成分であるテトラキス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステルの他にも、トリス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステル、ビス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステル、式2で表される過エステル化合物を微量含有する混合物であることがわかった。また(高)臭気性生成物の臭気指数相当値は39.1であった。
【0264】
[比較例3]
[(高)臭気性ビス(3,3−ジメチル−3−メルカプトプロピオン酸)ブタン−1,4−ジオールエステルの合成]
表1に示す化合物を原料および触媒として用いた以外は、比較例1に準じて合成および精製を行い、無色透明液体として臭気性ビス(3,3−ジメチル−3−メルカプトプロピオン酸)ブタン−1,4−ジオールエステルを34.7(0.099mol、ブタン−1,4−ジオールをベースとした収率は90%)を得た。また、(高)臭気性生成物の臭気指数相当値は40.8であった。
【0265】
[比較例4]
[(高)臭気性ビス(3,3−ジメチル−3−メルカプトプロピオン酸)ブタン−1,4−ジオールエステルの合成]
表1に示す化合物を原料および触媒として用いた以外は、比較例2に準じて合成および精製を行い、無色透明液体として(高)臭気性ビス(3,3−ジメチル−3−メルカプトプロピオン酸)ブタン−1,4−ジオールエステルを35.6g(0.101mol、ブタン−1,4−ジオールをベースとした収率は92%)を得た。また、(高)臭気性生成物の臭気指数相当値は40.0であった。
【0266】
[比較例5]
[(高)臭気性トリス(3,3−ジメチル−3−メルカプトプロピオン酸)トリメチロールプロパンエステルの合成]
表1に示す化合物を原料および触媒として用いた以外は、比較例1に準じて合成および精製を行い、無色透明液体として(高)臭気性トリス(3,3−ジメチル−3−メルカプトプロピオン酸)トリメチロールプロパンエステルを54.1g(0.102mol、トリメチロールプロパンをベースとした収率は93%)を得た。また、(高)臭気性生成物の臭気指数相当値は39.7であった。
【0267】
[比較例6]
[(高)臭気性1,3,5−トリス(3,3−ジメチル−3−メルカプトプロピオニルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオンの合成]
表1に示す化合物を原料および触媒として用いた以外は、比較例1に準じて合成および精製を行い、無色透明液体として(高)臭気性1,3,5−トリス(3,3−ジメチル−3−メルカプトプロピオニルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオンを69.1g(0.103mol、N,N,N−トリエタノール−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオンをベースとした収率は94%)を得た。また、(高)臭気性生成物の臭気指数相当値は39.4であった。
【0268】
[比較例7]
[(高)臭気性ヘキサ(3−フェニル−3−メルカプトプロピオン酸)ビスペンタエリスリトールエステルの合成]
表2に示す化合物を原料および触媒として用いた以外は、比較例1に準じて合成および精製を行い、無色透明液体として(高)臭気性ヘキサ(3−フェニル−3−メルカプトプロピオン酸)ビスペンタエリスリトールエステルを127.0g(0.10mol、ビスペンタエリスリトールをベースとした収率は90%)を得た。また、(高)臭気性生成物の臭気指数相当値は38.4であった。
【0269】
[比較例8]
[(高)臭気性テトラキス(3,3−ジメチル−2−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステルの合成]
表2に示す化合物を原料および触媒として用いた以外は、比較例1に準じて合成および精製を行い、無色透明液体として(高)臭気性テトラキス(3,3−ジメチル−2−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステルを73.9g(0.105mol、ペンタエリスリトールをベースとした収率は95%)を得た。また、(高)臭気性生成物の臭気指数相当値は39.6であった。
【0270】
[比較例9]
[(高)臭気性ビス(2−メルカプト乳酸)ブタン−1,4−ジオールエステルの合成]
表2に示す化合物を原料および触媒として用いた以外は、比較例1に準じて合成および精製を行い、無色透明液体として(高)臭気性ビス(2−メルカプト乳酸)ブタン−1,4−ジオールエステルを29.8g(0.100mol、ブタン−1,4−ジオールをベースとした収率は91%)を得た。また、(高)臭気性生成物の臭気指数相当値は43.8であった。
【0271】
[比較例10]
[(高)臭気性テトラキス(2,2−ジメチル−2−メルカプト酢酸)ペンタエリスリトールエステルの合成]
表2に示す化合物を原料および触媒として用いた以外は、比較例1に準じて合成および精製を行い、無色透明液体として(高)臭気性テトラキス(2,2−ジメチル−2−メルカプト酢酸)ペンタエリスリトールエステルを48.8g(0.102mol、ペンタエリスリトールをベースとした収率は93%)を得た。また、(高)臭気性生成物の臭気指数相当値は42.9であった。
【0272】
[比較例11]
[(高)臭気性テトラキス(2−メルカプト−2−フェニル酢酸)ペンタエリスリトールエステルの合成]
表2に示す化合物を原料および触媒として用いた以外は、比較例1に準じて合成および精製を行い、無色透明液体として(高)臭気性テトラキス(2−メルカプト−2−フェニル酢酸)ペンタエリスリトールエステルを65.5g(0.106mol、ペンタエリスリトールをベースとした収率は96%)を得た。また、(高)臭気性生成物の臭気指数相当値は39.5であった。
【0273】
上記各実施例及び比較例及び参考例の臭気評価および官能試験の結果を表3〜5に示す。
表3は、メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルを常圧または微減圧で製造する態様、メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルを減圧下で製造する態様、および、メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルを減圧下で製造し、さらに、加熱減圧処理する態様、の3態様間の比較結果を表す。
【0274】
表4は、メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルを常圧または微減圧で製造する態様、および、メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルを減圧下で製造する態様、の2態様間の比較結果を表す。
【0275】
表5は、その他態様の結果を表す。
なお、表3および表4の官能評価の欄に記載の「−」は、臭気評価を比較検討する際に基準物質として用いたことを示す。
【0276】
また、表1および表2の「参考例/実施例Y」(Yは整数)との表記は、「参考例Yと実施例Y」を示す。
【0277】
【表1】

【0278】
【表2】

【0279】
【表3】

【0280】
【表4】

【0281】
【表5】

表3〜5に示す結果より、次のことが分かる。
【0282】
メルカプトカルボン酸(1)またはメルカプトカルボン酸エステル(2)と、多価アルコールとをエステル化させて得られるメルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造において、該エステル化反応を常圧または微減圧にて行う場合は、臭気指数相当値が30より大きい(高)臭気性のメルカプトカルボン酸多価アルコールエステルが製造される。
【0283】
これに対して、上記エステル化反応を特定圧力の減圧下で行い次いで減圧下で加熱処理した場合には、臭気指数相当値が30以下である低臭気性のメルカプトカルボン酸多価アルコールエステルを製造することができ、製造されるメルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの臭気を大幅に低減できる。
【産業上の利用可能性】
【0284】
本発明の製造方法によれば、メルカプトカルボン酸またはメルカプトカルボン酸エステルと多価アルコールとの反応を、特定の減圧下で反応を行うことで、反応中に副生成する臭気成分を除去しながらメルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)を製造することができる。
【0285】
さらに得られたメルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)を減圧下で加熱処理することにより、さらに臭気成分を効率よく除去してより高度に低臭気化された低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a’)を効率よく製造することができる。
【0286】
そのため、従来例に比して、低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルを効率よく製造することができる。
このようにして得られた低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルは、硫黄系の臭気に起因する作業性の問題などを伴うことなく、エポキシ樹脂や、ウレタン樹脂等と混合する硬化剤などとして好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるメルカプトカルボン酸または下記一般式(2)で表されるメルカプトカルボン酸エステルと、分子中に水酸基を2〜6個有する多価アルコールとを、0.05〜20kPaの圧力条件下でエステル化反応させて、メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)を製造し、さらに減圧下で加熱処理して低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a’)を製造することを特徴とする低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造方法。
【化1】

(上記式(1)中、nは0〜4の整数、RxおよびRyは各々独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基または芳香族基を表す)
【化2】

(上記式(2)中、R1は炭素数1〜4の直鎖または分岐状のアルキル基、mは0〜4の整数、RxおよびRyは各々独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基または芳香族基を表す)
【請求項2】
前記減圧下での加熱処理を、0.05〜20kPaの圧力条件下で行なうことを特徴とする請求項1に記載の低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造方法。
【請求項3】
前記減圧下での加熱処理を、芳香族溶剤および脂肪族溶剤から選択される少なくとも1種以上の有機溶剤の存在下で行なうことを特徴とする請求項1または2に記載の低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造方法。
【請求項4】
前記有機溶剤が、トルエンまたはキシレンである請求項3に記載の低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造方法。
【請求項5】
前記メルカプトカルボン酸多価アルコールエステル(a)の減圧下での加熱処理を、温度が30〜150℃の範囲で行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造方法。
【請求項6】
前記エステル化反応の圧力条件が、0.1〜7kPaである請求項1〜5のいずれかに記載の低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造方法。
【請求項7】
前記一般式(1)および(2)において、nおよびmが1、Rxが水素原子、Ryがメチル基またはエチル基である請求項1〜6のいずれかに記載の低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造方法。
【請求項8】
前記一般式(1)で表されるメルカプトカルボン酸が、3−メルカプトブタン酸または3−メルカプトプロピオン酸である請求項1〜7のいずれかに記載の低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造方法。
【請求項9】
前記分子中に水酸基を2〜6個有する多価アルコールが、下記一般式(3)で表される多価アルコールである請求項1〜8のいずれかに記載の低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造方法。
【化3】

(上記式(3)中、pは2〜4の整数、qは0または1を表し、かつ、p+qは3〜4である。)
【請求項10】
分子中に水酸基を2〜6個有する多価アルコールが、下記式(4)〜(6)で表される化合物から選ばれる少なくとも一種である請求項9に記載の低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造方法。
【化4】

【請求項11】
分子中に水酸基を2〜6個有する多価アルコールが、下記式(7)〜(11)で表される化合物から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜8のいずれかに記載の低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造方法。
【化5】

【請求項12】
前記低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルが、テトラキス(3−メルカプトブタン酸)ペンタエリスリトールエステルである請求項1に記載の低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造方法。
【請求項13】
前記減圧下での加熱処理を、2回またはそれ以上行うことを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の低臭気メルカプトカルボン酸多価アルコールエステルの製造方法。

【公開番号】特開2011−84479(P2011−84479A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−236221(P2009−236221)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】