説明

メンテナンス装置及び液体噴射装置

【課題】液体を排出するためのキャップと液体噴射ヘッドのノズル内の液体の蒸発を抑制するためのキャップとを兼用しつつ、液体噴射ヘッドのメンテナンスを好適に行うことが可能なメンテナンス装置及び液体噴射装置を提供する。
【解決手段】メンテナンス装置23は、ノズル20からインクを噴射する記録ヘッド19に対してノズル20を囲うように当接可能な有底箱状のキャップ24を備えている。キャップ24には、該キャップ24内の空間を上下2つの空間である上側空間Uと下側空間Sとに仕切る可撓性の仕切部材28が設けられている。そして、仕切部材28には、該仕切部材28の弾性変形によって開放可能なスリット31が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、インクジェット式プリンターなどの液体噴射装置及びこれに備えられるメンテナンス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、液体噴射ヘッドのノズルからターゲットに対して液体を噴射する液体噴射装置としてインクジェット式プリンターが知られている(例えば、特許文献1)。こうしたプリンターでは、ノズルからのインクの噴射不良を低減するために、ノズルから増粘したインク(液体)や気泡などを強制的に吐出させるクリーニングと呼ばれるメンテナンスが適宜行われる。このクリーニングは、記録ヘッド(液体噴射ヘッド)に対してノズルを囲うようにキャップを当接した状態で、記録ヘッドとキャップとで形成される密閉空間をチューブポンプ(吸引手段)によって吸引して負圧にすることで、この負圧を利用してノズルから増粘したインクや気泡などを排出するものである。
【0003】
また、上述したプリンターでは、印刷中に記録ヘッドにおける特定のノズルからインクが噴射されない状態が連続して長時間に亘ると、そのノズル内ではインクの増粘が進んだり、インクメニスカスの表面が乾燥したりしてインクの噴射不良が生じてしまうおそれがある。そのため、印刷中に長時間にわたってインクを噴射しないノズルが存在する場合には、そのノズルから印刷とは無関係の制御信号に基づいてインクを廃液として強制的に吐出させるフラッシングと呼ばれるメンテナンスが適宜行われる。このフラッシングは、記録ヘッドを印刷領域から外れた非印刷領域に移動させ、その直下に配置されたキャップに向けてインクを強制的に吐出させるものである。
【0004】
さらに、上述したプリンターでは、該プリンターの不使用時に、ノズル内のインクが蒸発して増粘することを抑制するため、記録ヘッドに対してノズルを囲うようにキャップを当接させた状態で保たれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−55195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述したプリンターでは、プリンターの不使用時に、クリーニングやフラッシングに用いるキャップで記録ヘッドに対してノズルを囲うようにキャップを当接させている。このため、キャップ内に残存するインク中に含まれる吸湿成分によってノズル内のインクの水分が奪われてしまい、却ってノズル内のインクの増粘を促進させてしまうおそれがあるという問題がある。
【0007】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、液体を排出するためのキャップと液体噴射ヘッドのノズル内の液体の蒸発を抑制するためのキャップとを兼用しつつ、液体噴射ヘッドのメンテナンスを好適に行うことが可能なメンテナンス装置及び液体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のメンテナンス装置は、ノズルから液体を噴射する液体噴射ヘッドに対して前記ノズルを囲うように当接可能な有底箱状のキャップと、前記キャップに設けられ、該キャップ内の空間を前記ノズルに近い空間であるノズル側空間と該ノズル側空間よりも前記ノズルから離れた空間であるノズル離間側空間とに仕切る可撓性の仕切部材と、前記仕切部材に形成され、該仕切部材の弾性変形によって開放可能なスリットとを備えた。
【0009】
この発明によれば、キャップ内に液体を排出する際に、スリットが開放されるように仕切部材を弾性変形させると、該液体はほとんどノズル離間側空間に流れ込むため、ノズル側空間には液体がほとんど残ることはない。一方、ノズルから液体を長期間噴射しない場合には、仕切部材のスリットを閉塞した状態で液体噴射ヘッドに対してノズルを囲うようにキャップを当接することで、仕切部材によってノズル離間側空間と隔絶されて液体がほとんど存在しないノズル側空間のみをキャップ内空間としてノズルを囲うことができるので、ノズル内の液体の蒸発を抑制することができる。したがって、液体を排出するためのキャップと液体噴射ヘッドのノズル内の液体の蒸発を抑制するためのキャップとを兼用しつつ、液体噴射ヘッドのメンテナンスを好適に行うことが可能となる。
【0010】
本発明のメンテナンス装置において、前記キャップは、前記仕切部材とともに前記2つの空間を形成する2つのキャップ構成部材を備え、
前記仕切部材は、前記2つのキャップ構成部材によって挟持されている。
【0011】
この発明によれば、キャップによって仕切部材を容易に支持することが可能となる。
本発明のメンテナンス装置は、前記2つのキャップ構成部材を互いに近づく方向に付勢する付勢手段を備えた。
【0012】
この発明によれば、付勢手段の付勢力により、両キャップ構成部材と仕切部材との密着性を高めることが可能となる。
本発明のメンテナンス装置は、前記液体噴射ヘッドと前記キャップとが離間した状態で、外力を受けてその受けた外力を前記仕切部材に伝達することで、該仕切部材を前記スリットが開放されるように弾性変形させる外力伝達手段を備えた。
【0013】
この発明によれば、液体噴射ヘッドとキャップとが離間した状態で、外力伝達手段によって仕切部材に外力を伝達することで、該仕切部材のスリットを開放することが可能となる。
【0014】
本発明のメンテナンス装置は、前記キャップ内の前記ノズル離間側空間を吸引する吸引手段を備えた。
この発明によれば、キャップ内のノズル離間側空間を吸引手段によって吸引することができる。
【0015】
本発明のメンテナンス装置において、前記仕切部材は、前記吸引手段の吸引により前記スリットが開放される。
この発明によれば、液体噴射ヘッドに対してノズルを囲うようにキャップを当接した状態でキャップ内のノズル離間側空間を吸引手段によって吸引することで、該吸引手段による吸引力によって仕切部材のスリットが開放されるとともに液体噴射ヘッドのノズルから液体が強制的にキャップ内のノズル離間側空間に排出される。したがって、液体噴射ヘッドのクリーニングを容易に行うことが可能となる。
【0016】
本発明の液体噴射装置は、ノズルからターゲットに液体を噴射する液体噴射ヘッドと、該液体噴射ヘッドのメンテナンスを行うメンテナンス手段とを備え、前記メンテナンス手段を上記構成のメンテナンス装置によって構成した。
【0017】
この発明によれば、上記構成のメンテナンス装置と同様の作用効果を得ることが可能となる。
本発明の液体噴射装置において、前記仕切部材は、前記ノズル内における前記液体のメニスカスの耐圧力よりも小さい圧力で弾性変形する。
【0018】
この発明によれば、液体噴射ヘッドに対してノズルを囲うようにキャップを当接した状態でキャップ内の圧力変動があった場合に、仕切部材が撓むことでその圧力変動が吸収される。このため、ノズル内の液体のメニスカスが破壊されることを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態のインクジェット式プリンターの斜視図。
【図2】同プリンターのメンテナンス装置を示す正断面図。
【図3】同メンテナンス装置を示す側断面図。
【図4】同メンテナンス装置によるクリーニング時の状態を示す正断面図。
【図5】同プリンターにおけるフラッシング時の状態を示す正断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を液体噴射装置としてのインクジェット式プリンターに具体化した一実施形態について、図面に従って説明する。また、以下の説明において、「前後方向」、「左右方向」、「上下方向」をいう場合は図1に矢印で示す前後方向、左右方向、上下方向をそれぞれ示すものとする。
【0021】
図1に示すように、インクジェット式プリンター11の略矩形箱状をなすフレーム12内の下部には、その長手方向である左右方向に沿ってプラテン13が延設されている。プラテン13上には、フレーム12の背面下部に設けられた紙送りモーター14の駆動に基づいて、図示しない紙送り機構によりターゲットとしての記録用紙Pが後方側から給送されるようになっている。
【0022】
フレーム12内におけるプラテン13の上方には、該プラテン13の長手方向に沿ってガイド軸15が架設されている。ガイド軸15には、該ガイド軸15の軸線方向(左右方向)に沿って往復移動可能にキャリッジ16が支持されている。また、フレーム12の後壁内面におけるガイド軸15の両端部と対応する位置には、駆動プーリー17a及び従動プーリー17bが回転自在に支持されている。
【0023】
駆動プーリー17aにはキャリッジ16を往復移動させる際の駆動源となるキャリッジモーター18の出力軸が連結されるとともに、これら一対のプーリー17a,17b間には一部がキャリッジ16に連結された無端状のタイミングベルト17が掛装されている。したがって、キャリッジ16は、ガイド軸15にガイドされながら、キャリッジモーター18の駆動力により無端状のタイミングベルト17を介して左右方向に移動されるようになっている。
【0024】
図1及び図2に示すように、キャリッジ16の下端部には、液体噴射ヘッドとしての記録ヘッド19が支持されている。記録ヘッド19の下面には、複数のノズル20が開口している。各ノズル20は、左右方向において互いに平行且つ等間隔に並ぶ複数(本実施形態では3列)のノズル列20Aを構成している。すなわち、各ノズル列20Aは、前後方向に並ぶ複数のノズル20によってそれぞれ構成されている。
【0025】
キャリッジ16上には、記録ヘッド19に対して液体としてのインクを供給するためのインクカートリッジ21が着脱可能に装着されている。そして、インクカートリッジ21内のインクは、記録ヘッド19に備えられた圧電素子(図示略)の駆動により、インクカートリッジ21から記録ヘッド19へと供給され、該記録ヘッド19の各ノズル20からプラテン13上に給送された記録用紙Pに噴射されて印刷が行われるようになっている。
【0026】
また、フレーム12内の右端部に位置する記録用紙Pと対応しないホームポジション領域(非印刷領域)には、記録ヘッド19のクリーニング、フラッシング、及び印刷休止時や不使用時における各ノズル20内のインクの蒸発の抑制などのメンテナンスを行うためのメンテナンス手段としてのメンテナンス装置23が設けられている。
【0027】
次に、メンテナンス装置23の構成について詳述する。
図2に示すように、メンテナンス装置23は、上端が開口した有底四角箱状をなすキャップ24と、該キャップ24を昇降可能な図示しない昇降装置とを備えている。そして、キャリッジ16をホームポジション領域に移動させた状態で、キャップ24を昇降装置によって上昇させることで、該キャップ24が記録ヘッド19に対して各ノズル20を囲うように当接するようになっている。そして、このときのキャリッジ16の位置(図2に示す位置)は、ホームポジションとされている。
【0028】
キャップ24は、該キャップ24を構成する上下2つのキャップ構成部材、すなわち上端が開口した有底四角箱状をなす下側キャップ構成部材25と、該下側キャップ構成部材25の上側に配置された四角枠状をなす上側キャップ構成部材26とに分割されている。上側キャップ構成部材26の上面には、ゴムなどのエラストマーによって構成された四角枠状のシール部材27が装着されている。
【0029】
下側キャップ構成部材25と上側キャップ構成部材26との間には、下側キャップ構成部材25の上端の開口部を完全に閉塞するように四角板状をなす可撓性の仕切部材28が配置されている。すなわち、仕切部材28は、下側キャップ構成部材25と上側キャップ構成部材26とによって挟持されている。この仕切部材28は、ゴムなどのエラストマーによって構成されるとともに、キャップ24内の空間を上下2つの空間であるノズル側空間としての上側空間Uとノズル離間側空間としての下側空間Sとに仕切っている。すなわち、キャップ24内の空間は、仕切部材28を隔てて上下2つの空間である上側空間Uと下側空間Sとに隔絶されている。したがって、上側空間Uは下側空間Sよりも各ノズル20に近い空間である一方、下側空間Sは上側空間Uよりも各ノズル20から離れた空間であると言える。
【0030】
下側キャップ構成部材25の右側面における上端には、右方向に向かって水平に延びる矩形板状の舌片部29が設けられている。前後方向において、舌片部29の幅、キャップ24の幅、及び仕切部材28の幅は、互いに同じになっている。また、仕切部材28の前後両側面及び左側面は、キャップ24の前後両側面及び左側面とそれぞれ面一になっている。そして、仕切部材28は、その左端部のみが下側キャップ構成部材25の上面及び上側キャップ構成部材26の下面にそれぞれ固着されている。
【0031】
仕切部材28の右端部は、キャップ24の右側面よりも右側へ突出するとともに、舌片部29によって下側から支持されている。この場合、仕切部材28の右端は、舌片部29の右端よりも左側に位置している。そして、仕切部材28の上面の右端部には、左右方向においてキャリッジ16と係合可能な外力伝達手段としての丸棒状の係合部30が立設されている。
【0032】
キャップ24内における仕切部材28の上面には、前後方向に切れ込みが延びる複数(本実施形態では3つ)のスリット31がそれぞれ形成されている。各スリット31は、互いに平行且つ等間隔となるように左右方向に並んで配置されている。この場合、各スリット31は、記録ヘッド19の各ノズル列20Aと同じ間隔で配置されている。
【0033】
ここで、図5に示すように、キャップ24内にフラッシングを行う際にキャリッジ16がホームポジション領域に位置するときの該キャリッジ16の位置は、フラッシング位置とされている。このフラッシング位置は、ホームポジションよりも若干右側にずれた位置に設定されている。
【0034】
そして、このフラッシング位置にキャリッジ16が位置する場合には、該キャリッジ16が係合部30を介して仕切部材28を右側へ向かって引っ張るように弾性変形させることで、各スリット31が開放されるようになっている。このとき、開放された各スリット31は、記録ヘッド19の各ノズル列20Aとそれぞれ対向するようになっていて、各ノズル20から吐出されるインクは各スリット31を通過して下側空間Sに貯留される。
【0035】
図3に示すように、上側キャップ構成部材26の前後両側面における左右方向の中央部の下端部には、前後方向における上側キャップ構成部材26の外側に向かって水平に延びる矩形板状の上側突出片32が対をなすように設けられている。各上側突出片32の中央部には、該各上側突出片32を上下に貫通する貫通孔32aがそれぞれ形成されている。
【0036】
下側キャップ構成部材25の前後両側面における左右方向の中央部の下端部には、前後方向における下側キャップ構成部材25の外側に向かって水平に延びる矩形板状の下側突出片33が対をなすように設けられている。各下側突出片33の上面における各上側突出片32の貫通孔32aと対応する位置には、該各貫通孔32aに遊嵌するように丸棒状の遊嵌部33aがそれぞれ立設されている。
【0037】
すなわち、各貫通孔32aに各遊嵌部33aがそれぞれ遊嵌されることで、上側キャップ構成部材26と下側キャップ構成部材25との水平方向の位置決めがなされるようになっている。なお、本実施形態では、各貫通孔32aと各遊嵌部33aとにより位置決め手段が構成されている。
【0038】
また、各上側突出片32の下面と各下側突出片33の上面との間における各遊嵌部33aの内側には、上側キャップ構成部材26と下側キャップ構成部材25とを上下方向において互いに近づく方向に付勢する付勢手段としての引っ張りコイルばね34が介装されている。したがって、各引っ張りコイルばね34の付勢力により、上側キャップ構成部材26と下側キャップ構成部材25とで仕切部材28が挟圧されるようになっている。
【0039】
この場合、各引っ張りコイルばね34の付勢力は、フラッシング位置にキャリッジ16を移動させたときの仕切部材28の弾性変形を妨げない程度に設定されている。なお、キャップ24内における下側空間Sには、インクを吸収して保持する多孔質のインク吸収材35が配置されている。
【0040】
図2及び図3に示すように、キャップ24(下側キャップ構成部材25)の底壁からは突部36が下方に向かって突設されるとともに、該突部36内にはキャップ24内からインクを排出するための排出路36aが上下方向に貫通するように形成されている。突部36には可撓性材料よりなる排出チューブ37の一端側(上流側)が接続される一方、該排出チューブ37の他端側(下流側)は直方体状をなす廃インクタンク38内に挿入されている。
【0041】
また、キャップ24と廃インクタンク38との間における排出チューブ37の途中位置には、キャップ24側から廃インクタンク38側へ向かってキャップ24内の下側空間Sを吸引する吸引手段としてのチューブポンプ39が配設されている。
【0042】
そして、記録ヘッド19に対して各ノズル20を囲うようにキャップ24を当接させた状態でチューブポンプ39を駆動することで、各ノズル20から増粘したインクが気泡等とともに吸引されてキャップ24内、排出路36a及び排出チューブ37内を介して廃インクタンク38内に排出される、いわゆるクリーニングが行われるようになっている。なお、廃インクタンク38内には、該廃インクタンク38内に排出されたインクを吸収して保持する廃インク吸収材40が収容されている。
【0043】
次に、インクジェット式プリンター11の作用について説明する。
(フラッシングを行うときの作用)
さて、インクジェット式プリンター11では、記録用紙Pの印刷中に、ほぼ一定の間隔(例えば、1パス毎)でキャリッジ16をフラッシング位置に移動させた状態でフラッシングが行われる。すなわち、キャリッジ16をフラッシング位置に移動させると、該キャリッジ16が係合部30に係合した状態で該係合部30に対して右方向に向かう押圧力(外力)を付与する。このとき、キャップ24は、記録ヘッド19から僅かに離間した位置に位置している。
【0044】
すると、係合部30が右方向に移動されるとともに、この移動に伴って仕切部材28が右方向に引っ張られて弾性変形しながら伸びる。すなわち、キャリッジ16の移動力は、係合部30により、仕切部材28を弾性変形させるための弾性変形力として該仕切部材28に伝達される。このとき、仕切部材28は、各引っ張りコイルばね34の付勢力により、上側キャップ構成部材26と下側キャップ構成部材25とで挟圧されているが、その挟圧力よりもキャリッジ16の移動力の方が大きい。これにより、図5に示すように、各スリット31が開放されて上側空間Uと下側空間Sとが該各スリット31を介して連通するとともに、開放された各スリット31が記録ヘッド19の各ノズル列20Aとそれぞれ対応した状態となる。
【0045】
この状態で、記録ヘッド19の各ノズル列20A(各ノズル20)からフラッシングのためにインクをそれぞれ吐出させると、該吐出されたインクは各スリット31を通って下側空間Sのインク吸収材35に直接着弾して吸収される。このため、上側空間Uにフラッシングのインクが溜まることはない。また、フラッシングで下側空間Sに溜まったインクは、定期的または不定期に行われる下側空間Sの空吸引によって廃インクタンク38内に排出される。この空吸引とは、キャップ24を記録ヘッド19から離間させた状態でチューブポンプ39を駆動させてキャップ24内を吸引する動作のことである。
【0046】
また、フラッシングの終了後、印刷を再開するべくキャリッジ16をフラッシング位置から記録用紙P上の印刷領域に移動させると、キャリッジ16により係合部30を介して右方向に引っ張られて伸びるように弾性変形していた仕切部材28が自らの弾性復元力によって元の形状に戻るため、開放されていた各スリット31は速やかに閉塞される。
【0047】
このように、印刷中において、仕切部材28の各スリット31はフラッシングを行うとき以外に開放されることはないので、キャップ24内の下側空間Sのインクの蒸発が効果的に抑制されて湿潤状態が好適に維持される。この結果、下側空間Sのインク吸収材35に吸収されて保持されたインクの固化が抑制される。
【0048】
(クリーニングを行うときの作用)
さて、記録ヘッド19のクリーニングを行う場合には、まず、キャリッジ16をホームポジションに移動させる。この状態で、図2に示すように、記録ヘッド19に対して各ノズル列20A(各ノズル20)を囲うようにキャップ24のシール部材27を当接させた後、チューブポンプ39を駆動する。すると、キャップ24内の下側空間Sがチューブポンプ39によって吸引されるため、下側空間Sの圧力が上側空間Uの圧力よりも小さくなる。
【0049】
この下側空間Sと上側空間Uとの圧力差により、図4に示すように、仕切部材28が下側に垂れ下がるように撓んで各スリット31が開放される。これにより、キャップ24内全体が負圧になることで、各ノズル列20A(各ノズル20)から増粘したインクが気泡等とともにキャップ24内に排出される。
【0050】
すなわち、各ノズル列20A(各ノズル20)からキャップ24内に排出されるインクは、上側空間Uから各スリット31を通って下側空間Sに流れ込んだ後、排出路36a及び排出チューブ37内を介して廃インクタンク38内に排出される。これにより、記録ヘッド19のクリーニングがなされる。そして、クリーニングの終了後、キャップ24内の負圧が解消されるようにチューブポンプ39が駆動されると、撓んでいた仕切部材28が自らの弾性復元力によって元の形状に戻ることで、各スリット31がそれぞれ閉塞される。
【0051】
なお、記録ヘッド19へのキャップ24の当接力は、チューブポンプ39の負圧(吸引力)によりシール部材27が変形しないような力である。この力によって仕切部材28は上側キャップ構成部材26と下側キャップ構成部材25とに密着されている。このため、チューブポンプ39の負圧(吸引力)により仕切部材28がキャップ24内に引っ張られて移動することはない。
【0052】
(印刷休止時または不使用時の作用)
さて、インクジェット式プリンター11の印刷休止時や不使用時には、記録ヘッド19の各ノズル20内のインクの水分(溶媒成分)の蒸発を抑制するため、図2に示すように、キャリッジ16をホームポジションに移動させた後、記録ヘッド19に対して各ノズル20を囲うようにキャップ24のシール部材27を当接させた状態(キャッピング状態)に維持される。この場合、キャップ24はフラッシングやクリーニングに用いるものと兼用されるが、仕切部材28の各スリット31は閉塞されているため、キャップ24内の下側空間Sと上側空間Uとは仕切部材28によって隔絶された状態になっている。
【0053】
このため、各ノズル20は、実質的にキャップ24内の空間の半分程度の体積の閉空間である上側空間Uに臨んだ状態で、キャップ24外の大気から遮断される。そして、上述のように、フラッシングでキャップ24内に排出されるインクは全て下側空間Sのインク吸収材35に直接着弾するとともに、クリーニングでキャップ24内に排出されるインクは全て下側空間Sに流下するため、上側空間Uには、インクがほとんど残存することはない。
【0054】
この結果、各ノズル20を囲う実質的なキャップ24内の空間である上側空間Uは、狭くてインクがほとんど残存していないので、インクジェット式プリンター11の印刷休止時や不使用時における各ノズル20内のインク中の水分の蒸発が効果的に抑制される。なお、各ノズル20内のインク中の水分の蒸発を抑えることについては、各ノズル20を囲うキャップ24内の空間の体積が小さいほど有利である。
【0055】
因みに、キャップ24内の上側空間Uにインクが残存していると、この残存するインク中に含まれるグリセリンなどの吸湿成分によって各ノズル20内のインクの水分が奪われてしまい、却って該各ノズル20内のインクの増粘を促進させてしまうおそれがある。
【0056】
また、記録ヘッド19がキャップ24によるキャッピング状態にあって、周囲の温度などの環境変化によってキャップ24内の上側空間Uの圧力が変動した場合には、仕切部材28が撓むことで、こうした上側空間Uの圧力変動が吸収される。この場合、仕切部材28は、各ノズル20内のインクメニスカスが壊れない耐圧力よりも小さい圧力で弾性変形する。この結果、上側空間Uの圧力変動による各ノズル20内のインクメニスカスへの悪影響が抑制される。なお、上側空間Uの圧力変動に伴って仕切部材28が撓む場合、各スリット31は開放されてもよいし開放されなくてもよい。
【0057】
すなわち、上側空間Uの圧力変動が小さい場合には、仕切部材28の撓み量も小さくなるので、各スリット31が開放されなくても上側空間Uの圧力変動が吸収される。一方、上側空間Uの圧力変動が大きい場合には、仕切部材28の撓み量も大きくなるので、各スリット31が開放されて上側空間Uの圧力変動が吸収される。つまり、上側空間Uの圧力変動による仕切部材28の撓み量が一定の値を超えた段階で、各スリット31は開放される。
【0058】
このように、本実施形態のメンテナンス装置23は、フラッシング及びクリーニングに用いるキャップ24と、印刷休止時や不使用時に記録ヘッド19のキャッピングに用いるキャップ24とを兼用しつつ、印刷休止時や不使用時における各ノズル20内のインクの蒸発を好適に抑制することができる。
【0059】
以上、詳述した実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
(1)メンテナンス装置23のキャップ24内の空間は可撓性の仕切部材28によって上側空間Uと下側空間Sとに仕切られるとともに、仕切部材28には該仕切部材28の弾性変形によって開放可能な各スリット31が形成されている。そして、フラッシング及びクリーニングを行う場合には、各スリット31が開放されるように仕切部材28が弾性変形されるため、キャップ24内に排出されるインクは、ほとんど下側空間Sに溜まる。したがって、キャップ24内に排出されるインクが上側空間Uにほとんど残らないようにすることができる。
【0060】
一方、印刷休止時や不使用時には、仕切部材28の各スリット31が閉塞した状態でキャップ24が記録ヘッド19に対して各ノズル20を囲うように当接されるため、仕切部材28によって下側空間Sと隔絶されてインクがほとんど存在しない上側空間Uのみをキャップ内空間として各ノズル20を囲うことができる。したがって、各ノズル20内のインクの蒸発を抑制することができる。
【0061】
よって、フラッシング及びクリーニングに用いるキャップ24と、印刷休止時や不使用時に記録ヘッド19のキャッピングに用いるキャップ24とを兼用しつつ、印刷休止時や不使用時における各ノズル20内のインクの蒸発を好適に抑制することができる。
【0062】
(2)メンテナンス装置23のキャップ24は上側キャップ構成部材26と下側キャップ構成部材25とに分割されており、仕切部材28は両キャップ構成部材25,26によって挟持されている。そして、キャップ24が記録ヘッド19に当接したときには、その当接力によって仕切部材28が両キャップ構成部材25,26と密着する。このため、上側キャップ構成部材26と仕切部材28と記録ヘッド19で囲まれた空間を確実に密閉状態とすることができ、各ノズル20内のインクの蒸発を好適に抑制することができる。また、キャップ24によって仕切部材28を容易に支持することができる。
【0063】
(3)メンテナンス装置23は両キャップ構成部材25,26を互いに近づく方向に付勢する一対の引っ張りコイルばね34を備えている。このため、両引っ張りコイルばね34の付勢力によって、キャップ24が記録ヘッド19に当接していないときにも両キャップ構成部材25,26と仕切部材28との密着性を高めることができる。
【0064】
(4)メンテナンス装置23は、両キャップ構成部材25,26の水平方向の位置決めを行う各貫通孔32aと各遊嵌部33aとを備えている。このため、各貫通孔32aに各遊嵌部33aを遊嵌することで、両キャップ構成部材25,26が互いに水平方向にずれることを抑制することができる。
【0065】
(5)メンテナンス装置23は、キャリッジ16と係合することで、該キャリッジ16の移動力を、各スリット31が開放されるように仕切部材28を弾性変形させる弾性変形力として該仕切部材28に伝達する係合部30を備えている。このため、キャリッジ16の移動によって仕切部材28の各スリット31を開放することができる。この動作は、記録ヘッド19とキャップ24が離間した状態で行う。このとき、仕切部材28は引っ張りコイルばね34の付勢力によって両キャップ構成部材25,26と密着している状態なので、この密着している力よりも大きな力でキャリッジ16を移動することで、仕切部材28を弾性変形させることができる。
【0066】
逆に、記録ヘッド19とキャップ24が当接した状態では、仕切部材28と両キャップ構成部材25,26との密着力は引っ張りコイルばね34の付勢力よりも格段に大きいため、キャリッジ16を移動することにより仕切部材28を弾性変形させることはできない。
【0067】
(6)メンテナンス装置23のキャップ24内の下側空間Sには、インクを吸収するインク吸収材35が配置されている。このため、キャップ24内の下側空間Sに排出されたインクをインク吸収材35によって吸収して保持することができるので、該下側空間Sの湿潤状態を好適に維持することができる。
【0068】
(7)メンテナンス装置23は、キャップ24内の下側空間Sを吸引するチューブポンプ39を備えている。このため、記録ヘッド19に対して各ノズル20を囲うようにキャップ24を当接した状態でキャップ24内の下側空間Sをチューブポンプ39によって吸引することで、該チューブポンプ39による吸引力によって仕切部材28を弾性変形させて各スリット31を開放しつつ各ノズル20からインクを強制的にキャップ24内の下側空間Sに排出させることができる。したがって、記録ヘッド19のクリーニングを容易に行うことができる。
【0069】
(8)メンテナンス装置23のキャップ24内の仕切部材28は、各ノズル20内のインクメニスカスの耐圧力よりも小さい圧力で弾性変形するようになっている。このため、記録ヘッド19に対して各ノズル20を囲うようにキャップ24を当接させた状態でキャップ24内の圧力変動があった場合に、仕切部材28が撓むことによりその圧力変動を吸収することができる。この結果、各ノズル20内のインクメニスカスが破壊されることを抑制することができる。
(変更例)
なお、上記実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
【0070】
・メンテナンス装置23において、係合部30を省略し、変形手段としてエアシリンダーなどのアクチュエーターを用いて、各スリット31が開放されるように仕切部材28を弾性変形させるようにしてもよい。このようにすれば、キャリッジ16やキャリッジモーター18に負荷をかけることなく、アクチュエーターによって各スリット31を開放することができる。
【0071】
・メンテナンス装置23において、仕切部材28に磁性体を取着して電磁石による磁力によって各スリット31が開放されるように仕切部材28を弾性変形させるようにしてもよい。
【0072】
・メンテナンス装置23において、仕切部材28は、キャリッジ16の移動方向の両側(左右両側)から引っ張られることで、各スリット31が開放されるように弾性変形されるように構成してもよい。この場合、仕切部材28は、両キャップ構成部材25,26に固着する必要はない。
【0073】
・メンテナンス装置23において、仕切部材28の各スリット31は、各ノズル20から吐出されたインクが通過可能であれば、十字状や放射状に形成してもよい。
・メンテナンス装置23において、仕切部材28に形成するスリット31の数は、対向するノズル列の数に合わせて、1つ、2つあるいは4つ以上であってもよい。この場合、スリット31の数は、対向するノズル列の数よりも多くてもよい。
【0074】
・メンテナンス装置23において、チューブポンプ39は省略してもよい。この場合、インク吸収材35も省略して、下側空間S内のインクが重力によって廃インクタンク38内に流下するように構成することが好ましい。
【0075】
・メンテナンス装置23において、チューブポンプ39の代わりにピストンポンプやダイヤフラムポンプなどを吸引手段として採用してもよい。
・メンテナンス装置23において、インク吸収材35は省略してもよい。
【0076】
・メンテナンス装置23において、各引っ張りコイルばね34は省略してもよい。
・メンテナンス装置23において、各引っ張りコイルばね34の代わりにゴムを付勢手段として用いてもよいし。
【0077】
・メンテナンス装置23において、各貫通孔32a及び各遊嵌部33aは省略してもよい。
・インクジェット式プリンター11において、ターゲットは、プラスチックフィルム、布、金属箔などであってもよい。
【0078】
・上記実施形態では、液体噴射装置をインクジェット式プリンター11に具体化したが、インク以外の他の液体を噴射したり吐出したりする液体噴射装置を採用してもよい。微小量の液滴を吐出させる液体噴射ヘッド等を備える各種の液体噴射装置に流用可能である。なお、液滴とは、上記液体噴射装置から吐出される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう液体とは、液体噴射装置が噴射させることができるような材料であればよい。例えば、物質が液相であるときの状態のものであればよく、粘性の高い又は低い液状体、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状態、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散又は混合されたものなどを含む。また、液体の代表的な例としては上記実施形態で説明したようなインクや液晶等が挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インク及び油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。液体噴射装置の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルターの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散又は溶解のかたちで含む液体を噴射する液体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置、捺染装置やマイクロディスペンサ等であってもよい。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置を採用してもよい。そして、これらのうちいずれか一種の液体噴射装置に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0079】
11…液体噴射装置としてのインクジェット式プリンター、19…液体噴射ヘッドとしての記録ヘッド、20…ノズル、23…メンテナンス装置(メンテナンス手段)、24…キャップ、25…下側キャップ構成部材(キャップ構成部材)、26…上側キャップ構成部材(キャップ構成部材)、28…仕切部材、30…外力伝達手段としての係合部、31…スリット、34…付勢手段としての引っ張りコイルばね、39…吸引手段としてのチューブポンプ、P…ターゲットとしての記録用紙、S…ノズル離間側空間としての下側空間、U…ノズル側空間としての上側空間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルから液体を噴射する液体噴射ヘッドに対して前記ノズルを囲うように当接可能な有底箱状のキャップと、
前記キャップに設けられ、該キャップ内の空間を前記ノズルに近い空間であるノズル側空間と該ノズル側空間よりも前記ノズルから離れた空間であるノズル離間側空間とに仕切る可撓性の仕切部材と、
前記仕切部材に形成され、該仕切部材の弾性変形によって開放可能なスリットと
を備えたことを特徴とするメンテナンス装置。
【請求項2】
前記キャップは、前記仕切部材とともに前記2つの空間を形成する2つのキャップ構成部材を備え、
前記仕切部材は、前記2つのキャップ構成部材によって挟持されていることを特徴とする請求項1に記載のメンテナンス装置。
【請求項3】
前記2つのキャップ構成部材を互いに近づく方向に付勢する付勢手段を備えたことを特徴とする請求項2に記載のメンテナンス装置。
【請求項4】
前記液体噴射ヘッドと前記キャップとが離間した状態で、外力を受けてその受けた外力を前記仕切部材に伝達することで、該仕切部材を前記スリットが開放されるように弾性変形させる外力伝達手段を備えたことを特徴とする請求項3に記載のメンテナンス装置。
【請求項5】
前記キャップ内の前記ノズル離間側空間を吸引する吸引手段を備えたことを特徴とする請求項1〜請求項4のうちいずれか一項に記載のメンテナンス装置。
【請求項6】
前記仕切部材は、前記吸引手段の吸引により前記スリットが開放されることを特徴とする請求項5に記載のメンテナンス装置。
【請求項7】
ノズルからターゲットに液体を噴射する液体噴射ヘッドと、
該液体噴射ヘッドのメンテナンスを行うメンテナンス手段と
を備え、
前記メンテナンス手段を請求項1〜請求項5のうちいずれか一項に記載のメンテナンス装置によって構成したことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項8】
前記仕切部材は、前記ノズル内における前記液体のメニスカスの耐圧力よりも小さい圧力で弾性変形することを特徴とする請求項7に記載の液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−116033(P2012−116033A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266221(P2010−266221)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】