説明

モクセイ科トウネズミモチのエストロゲン性抽出物およびその使用

【課題】
クワ科の様々な種の抽出物は、エストロゲン特性を有する。例えば、モクセイ科トウネズミモチの水性およびエタノール性抽出物は、ERα+およびERβ+細胞においてエストロゲン特性を有する。これらのエストロゲン効果には、エストロゲン応答配列(ERE)の刺激および腫瘍壊死因子(TNF)の抑制が含まれる。更年期症状、乳癌および/または子宮癌、ならびに骨粗鬆症を治療する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに記載するものは、薬草抽出組成物であり、より具体的にはモクセイ科トウネズミモチ種(Ligustrum lucidum Ait. of the Oleaceae Family)に属する植物種の抽出物を含む組成物に関する。さらに、その開示によって、イボタノキ属(Ligustrum)抽出物を含む医薬品、そのような植物抽出組成物の使用法およびその製造方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2007年8月8日出願の米国仮出願第60/954,778号の利益を主張するものであり、その出願を参照により本明細書に組み込む。
【0003】
ホルモン補充療法(HRT)は、様々な状態、例えば、骨粗鬆症、閉経後の女性での高い心血管疾患の危険性、更年期症状、例えば、のぼせ、性欲減退および鬱の治療に使用して、成果を挙げてきた。しかし、単独での、またはプロゲスチンと組み合わせたエストラジオール(E)によるHRTは望ましくない影響を招きうる。実際、HRTが、乳癌の危険性を35%上昇させることと関連するという予備結果が示されたとき、近年の女性健康イニシアティブ(WHI:Women’s Health Initiative)の研究は突如中止された。
【0004】
乳癌は、タモキシフェンなどのいわゆる選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)を使用することによって、治療し、または予防することができる。(タモキシフェンの承認前は、エストロゲンの癌刺激作用を減少させるために、閉経前女性の乳癌治療は卵巣除去を含むことが多かった)。タモキシフェンは、閉経前女性の乳房組織で、エストロゲンの癌誘発作用を選択的に阻止するように見える。別のSERMであるラロキシフェンは、エストロゲン補充の代替法として、骨粗鬆症の治療に認可されている。骨組織でエストロゲン効果を選択的に誘発することに加えて、ラロキシフェン評価(MORE)研究の複数の結果において、ラロキシフェンの長期投与は、乳癌の割合の減少に関与することも示された。
【0005】
タモキシフェンおよびラロキシフェンなどのSERMは、乳房でエストロゲンの癌誘発作用を選択的に低減するが、それらの薬剤がそのような危険性を伴わないわけではない。例えば、タモキシフェンおよびラロキシフェン治療は、のぼせ発生率の上昇に関連し、タモキシフェン治療は、子宮(子宮内膜)癌の危険性を上昇させることが示されている。
【0006】
骨粗鬆症、冠動脈心疾患および更年期症状の治療におけるエストロゲン補充療法の成功、乳癌および骨粗鬆症の治療におけるタモキシフェンおよびラロキシフェンのようなSERMの成功にもかかわらず、エストロゲン特性を有する組成物は依然として必要とされている。加えて、薬物化合物の製造コストの増大を考慮すると、自然源から得られ得る、さらなるエストロゲン性組成物が必要とされる。
【0007】
モクセイ科トウネズミモチの様々な栽培品種が、主として中国の浙江省、江蘇省、湖南省、福建省、広西省、江西および四川省で栽培されている。その果実を冬熟したら採取し乾燥する。あるいは、果実を蒸し、または短時間煮て、その後乾燥する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示は、長年にわたる、さらなるエストロゲン性組成物、特に医薬品の調製に使用しうるような組成物の必要性に対処するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書に記載した実施形態は、モクセイ科トウネズミモチ種という植物種の抽出物を含む植物抽出組成物を提供する。エストロゲン性組成物で治療可能な状態または疾患を治療するために、医薬品を調製する実施形態をさらに提供する。
【0010】
対象でエストロゲン効果を引き出す方法もさらに提供する。方法は、対象に、エストロゲン的効果量のエストロゲン性モクセイ科トウネズミモチ抽出組成物を投与するステップを含む。
【0011】
エストロゲン応答配列(ERE)を活性化する方法も提供する。方法は、エストロゲン応答配列の制御下にある遺伝子とエストロゲン受容体を含む細胞に、モクセイ科トウネズミモチ抽出物を含む本明細書に記載の組成物のある量を接触させるステップを含む。使用する抽出組成物の量は、ERとエストロゲン応答配列の相互作用によって、その遺伝子を活性化するのに効果的である。
【0012】
また、腫瘍壊死因子応答配列(TNFRE)の制御下にある遺伝子を抑制する方法も提供する。方法は、ある遺伝子に作動的に連結したTNF応答配列(TNFRE)を含む細胞に、いくつかの実施形態では、腫瘍壊死因子の発現を抑制するのに効果的なモクセイ科トウネズミモチ抽出組成物のある量を投与するステップを含む。いくつかの実施形態では、その遺伝子はTNF−αである。他の実施形態では、その遺伝子はレポーター遺伝子である。
【0013】
さらに、本開示によって、いくつかの実施形態では、モクセイ科トウネズミモチ抽出組成物の製造方法を提供する。その方法は、モクセイ科トウネズミモチ種の植物から植物物質を得るステップから始まる。その方法では、抽出溶液を形成するのに適した条件下で、モクセイ科トウネズミモチ種という植物種由来の植物物質と抽出媒体とを接触させるステップが継続する。次いで、その方法によって、植物物質から抽出溶液を分離するステップ、そして任意により減量し(reduced)または希釈し、それによって抽出物を形成するステップが提供される。減量した場合、抽出溶液は、濃縮物または固体残留物(残留物)になり得る。減量しようと、しまいと、抽出溶液、濃縮物および残留物は、集合的に「抽出物」と呼ばれる。
【0014】
各個別の出版物または特許出願が明確にそして個別に、参照により組み込まれていることを表示されるのと同程度に、本明細書に記載した全ての出版物および特許出願を参照により本明細書に組み込む。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本明細書に記載した実施形態の特徴および利点は、実施形態を説明する以下の詳細な記述および添付するその図面を参照することによって、さらによく理解されるであろう。
【0016】
【図1】エストロゲン受容体α(ERα)、エストロゲン受容体β(ERβ)、またはその両方の存在下、最小チミジンキナーゼ(tk)プロモーターとルシフェラーゼ(Luc)をコードする配列に連結したエストロゲン応答配列をコードするDNAにより形質転換したU937(ヒト単球)細胞中での様々な濃度のエストラジオール(E)に対応したルシフェラーゼの発現を示すグラフである。ERβは、ERαよりも、Eの存在下でEREに対する刺激効果がずっと少ない。
【図2】エストロゲン受容体α(ERα)、エストロゲン受容体β(ERβ)またはその両方の存在下で、最小チミジンキナーゼ(tk)プロモーターとルシフェラーゼ(Luc)をコードする配列に連結したエストロゲン応答配列をコードするDNAにより形質転換したMDA−MB−435(ヒト転移性乳癌)細胞中での、様々な濃度のエストラジオール(E)に対応したルシフェラーゼの発現を示すグラフである。ERβは、ERαよりも、Eの存在下でEREに対する刺激効果がずっと少ない。注目すべきことに、この細胞株中でERαおよびERβを同時発現させたとき、ERβの発現は、Eの存在下ではERαのERE刺激効果を非常に減少させる。
【図3】エストロゲン受容体α(ERα)またはエストロゲン受容体β(ERβ)の存在下で、最小チミジンキナーゼ(tk)プロモーターとルシフェラーゼ(Luc)コード配列に連結したエストロゲン応答配列をコードするDNAにより形質転換したU2OS(ヒト骨肉腫)細胞中での、様々な濃度のモクセイ科トウネズミモチに対応したルシフェラーゼの発現を示すグラフである。モクセイ科トウネズミモチはERβ存在下ではEREに対して刺激効果を有するが、ERα存在下では刺激効果を持たない。
【図4】エストロゲン受容体α(ERα)またはエストロゲン受容体β(ERβ)の存在下で、最小チミジンキナーゼ(tk)プロモーターとルシフェラーゼ(Luc)をコードする配列に連結した腫瘍壊死因子応答配列(TNFRE)をコードするDNAにより形質転換したU2OS(ヒト骨肉腫)細胞中での、様々な濃度モクセイ科トウネズミモチに対応したルシフェラーゼの発現を示すグラフである。モクセイ科トウネズミモチは、ERβ存在下ではTNF−REの抑制を示すが、ERα存在下では抑制を示さない。
【図5】エストロゲン受容体結合アッセイを示すグラフである。各キット(インビトロジェン#P2698または#P2700)と共に含まれていたデータシートに略記されていたプロトコル従って、コーニング黒色低容量384ウェルプレートで、エストロゲン受容体結合アッセイを実施した。各ウェルに対する総容量は20μLであり、全反応を三つ組で実施した。提供されていた1×スクリーニング緩衝液で、化合物を2×濃度に希釈した。化合物の終濃度は、1.4×10−2mg/mL〜2.724×10−11mg/mLの範囲にあった。各ウェルは、2×濃度の化合物が10μL、および2×濃度のフルオロモン(fluoromone)が10μl、および同様に各キットに提供されていたエストロゲン受容体からなった。希釈化合物をフルオロモンおよびエストロゲン受容体と混合したら、プレートを静かに混合し暗所で2時間インキュベートした。各プレートは、蛍光偏光リーダー(Tecan GeniosPro)を使用し読み取り、Sigmaプロットを用いてデータを分析した。モクセイ科トウネズミモチは、エストロゲン受容体α(ERα)、エストロゲン受容体β(ERβ)の存在下で、類似の結合親和性を有する。
【図6】既知のSERMアンタゴニストであるラロキシフェンおよびタモキシフェンに競合して、エストロゲン受容体β(ERβ)の存在下で、最小チミジンキナーゼ(tk)プロモーターとルシフェラーゼ(Luc)をコードする配列に連結したエストロゲン応答配列をコードするDNAにより形質転換したU2OS(ヒト骨肉腫)細胞中での、様々な濃度のモクセイ科トウネズミモチに対応したルシフェラーゼの発現を示すグラフである。モクセイ科トウネズミモチは、ラロキシフェンの存在下では阻害されたが、ERβの存在下ではEREに対して刺激効果を生じる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
いくつかの実施形態は、モクセイ科トウネズミモチと称する分類学的植物種の抽出物を含む植物抽出組成物を提供する。いくつかの実施形態の組成物を使用するエストロゲン的方法をもいくつかの実施形態は提供する。そのようなエストロゲン的方法には、インビボ法およびインビトロ法が含まれる。本エストロゲン性組成物は、エストラジオール(E)とエストロゲン受容体(ER)による、エストロゲン応答配列(ERE)制御下の遺伝子の活性化に拮抗する能力を有する。従って、好適なインビボ法には、Eに刺激された遺伝子発現の活性化の拮抗に応答する医学的適応の治療および/または予防が含まれる。好適なインビトロ方法には、エストロゲン応答配列(ERE)の制御下にある遺伝子を活性化する方法、および腫瘍壊死因子応答配列(TNFRE)の制御下にある遺伝子の発現を抑制する方法における使用が含まれる。いくつかの実施形態での抽出物の製造方法をいくつかの実施形態ではさらに提供する。
【0018】
乳癌は、女性で診断される最も一般的癌である。2000年に、184,000件の乳癌の新規症例が診断され、45,000名の女性が乳癌により亡くなった。乳癌の原因は、おそらく多因性であろうが、エストロゲンが乳癌を促進することを示唆する、説得力のある臨床的、疫学的および生物学的研究がある。(a)51例の研究のメタ分析により、ホルモン補充療法(HRT)は、乳癌の危険性が35%上昇することと関連している;(b)乳房細胞において、ERに結合しエストロゲン作用と拮抗する、タモキシフェンまたはラロキシフェンによって乳癌を予防することができる;(c)閉経前乳癌女性で両側卵巣摘出術を行うことによって生存率は上昇する;(d)エストロゲンへの曝露を増やすと(初期初経または後期閉経、それぞれ相対リスク=1.3および1.5〜2.0)、乳癌発生率は高まる;(e)エストロゲンは、ER陽性乳癌細胞の増殖を増大させる;かつ(f)エストロゲンは、サイクリンD1、c−myc、およびc−fosなどの増殖促進遺伝子の産生を増大させる。
【0019】
乳房の腫瘍の約60〜70%がエストロゲン受容体を含む。数十年間、乳房の腫瘍については、ERが存在するかどうか分析されてきた。ER+腫瘍の約70%は、抗エストロゲン剤治療に応答する。この観察から、ER+腫瘍は、ER陰性腫瘍よりも予後が良いという概念が導かれた。しかし、ERβの発見は、これらの解釈を複雑にし、いくつかの深刻な臨床的問題を提起した。ERαおよびERβの役割を理解することは、最重要課題である。なぜなら、腫瘍がER+かどうかを決定する現在の方法は、ERαのみを検出する抗体を使用するからである。従って、臨床結果で、胸部腫瘍中のERの効果を検証するほとんどの研究は、ERαのみの状況を反映している。しかし、近年の数例の研究では、ヒト乳房の腫瘍中にERβmRNAの存在が検出された。研究のほとんどは、ERβの測定をRT−PCRに頼ったが、ERβに特異的かつ感受性である抗体がないためである。Dotzlawらは、乳房の腫瘍生検試料で、RT−PCRによりERβを検出した最初のグループであった。彼らは、乳房の腫瘍の70%がERβを発現し、90%がERαを発現することを見出した。さらに、彼らは、数個のER陰性細胞株がERβmRNAを発現することも実証した。これらの知見は、ERβは乳房の腫瘍で高度に発現し、ERαとERβは多くの腫瘍で同時に発現することが多いことを示唆している。実際、いくつかのER−腫瘍はERβを含む。Dotzlawらは、ERβ mRNAは、ER+/PR+(PRはプロゲスチン受容体である)腫瘍と比較して、ER+/PR−腫瘍で著しく低いことも示した。ER+/PR+は、タモキシフェンに応答する可能性がより高いので、この観察から、ERβの発現が予後不良と関連していることが示されることを著者らは示唆した。他の研究も、ERβの存在が予後不良をもたらすことを示唆している。Speirsらは、ほとんどの乳房の腫瘍が、ERβ mRNAを単独で、またはERα mRNAと組み合わせて発現することを見出した。両ERαおよびERβmRNAを発現する腫瘍は、陽性リンパ節に関連しており、等級がより高い腫瘍として特徴付けられる傾向にあった。さらに、ERβの発現は、化学発癌性物質で処理したMCF−10F細胞で増大し、ERβの発現は、乳癌の発生および進行の一因となりうることが示唆されている。近年、Jensenらは、29件の乳房の浸潤性腫瘍で、免疫組織化学(IHC)によりERβの発現を分析した。彼らは、ERβの発現が、細胞増殖特異的マーカーKi67およびサイクリンAの上昇と関連していることを見出した。さらに、これらの増殖マーカーの最大の発現はERα+/ERβ+腫瘍中に存在した。ERα−TERβ+の事例数は非常に少なかったが(n=7)、著者らは、乳房の腫瘍ではERβが細胞増殖を媒介することを示唆した。Speirsらは、タモキシフェン感受性腫瘍と比較して、タモキシフェン耐性腫瘍でERβmRNAが著しく高いことも報告した。
【0020】
これに反して、他の研究は、ERβの存在によって良好な予後がもたらされることを示唆している。Iwaoらは、乳房の腫瘍は前浸潤性腫瘍から浸潤性腫瘍に進行することから、ERαmRNAが上方調節され、ERβ mRNAが下方調節されることを実証した。凍結腫瘍断面のIHCを使用して、Jarvinenらは、ERβの発現が、腋窩リンパ節の状態が陰性であること、等級が低いこと、およびS相画分が少ないことに関連していることを見出した。Omotoらによる研究によって、ERβを含む腫瘍で無病生存率が高かったので、ERβ陽性腫瘍は、ERβ陰性腫瘍よりも良好な予後に相関することも見出された。ERβの発現が、プロゲステロン受容体の存在、および十分に分化した胸部腫瘍と強い関連することも示された。ERβレベルは、正常乳房組織で最高であり、腫瘍が前癌病変から癌病変へ進行するにつれ、減少することも報告されている。これらの研究から、ERβは、腫瘍サプレッサーとして機能しうること、およびERβの消失は乳癌の発癌を促進することが示唆される。Mannらによる研究では、10%を超える癌細胞でERβが発現することは、タモキシフェンで治療した女性での生存率が上昇することと関連していることが示された。これらの研究を集めた物から、ERβの存在が良好な予後をもたらすことが示される。RT−PCRとIHCのデータに一致するのは、アデノウイルスが介在するERβの発現によって、ER陰性細胞株MDA−MB−231の増殖がリガンドに依存しないで阻害されることを示したレポートである。
【0021】
これらの結果によって、乳癌の病因および予後におけるERβの役割は不明であることが実証されている。これらの研究の明らかな相違点は、いくつかの理由によって説明することができる。第一に、ERβmRNAとERβタンパク質の間の相関が低いことであろう。この考えは、リガンド結合アッセイによって検出できるERを含まない、いくつかのER陰性細胞株中にERβmRNAが存在することに一致する。第二に、IHC研究は、市販の異なるERβ抗体を使用したが、それらの抗体は、特異性および感受性の特徴づけが不十分であった。第三に、結論のほとんどが、数例の乳癌の症例に基づくものであった。明らかに、乳癌でのERαとERβの役割を明白にするためには、より多くの研究が必要である。
【0022】
乳癌でのアジュバント療法および化学防御としてのSERMの役割:エストロゲンは、乳癌細胞の増殖を促進するので、乳房の腫瘍に対するこのエストロゲンの作用を阻止するために、いくつかの治療的手法が実行されてきた。卵巣切除、抗エストロゲン剤、ゴナドトロピン放出ホルモン類似体またはアロマターゼ阻害薬を含むこれらの戦略は、エストロゲンの産生を減少し、またはエストロゲンの作用を阻止することによって働く。これらの戦略の全ては、ERαとERβの作用を非選択的に阻止する。乳房の腫瘍を予防し、治療するために臨床的に使用される最も一般的な手法は、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)であるタモキシフェンおよびラロキシフェンである。
【0023】
タモキシフェンは、プロトタイプSERMである非ステロイド系トリフェニルエチレン誘導体である。なぜなら、タモキシフェンは、乳房などのいくつかの組織ではアンタゴニスト作用を示すが、子宮内膜および骨などの他の組織ではアゴニスト作用を有する。タモキシフェンは、エストロゲン受容体陽性乳癌の女性で、乳房の腫瘍の再発を減少させるアジュバント療法として、その臨床効果が広範囲に研究されてきた。5年のタモキシフェン治療によって、再発の危険性が42%、乳癌死亡率が22%減少し、二次的反対側原発性乳房の腫瘍が減少する。ER陽性乳房の腫瘍のおよそ2/3はタモキシフェンに応答するが、アジュバントのタモキシフェンがER陰性腫瘍の女性に効果があるという証拠はほとんどない。つい最近、米国乳癌予防試験(BCPT:Breast Cancer Prevention Trial)により、乳癌の危険性が高いと考えられる女性で、タモキシフェンが原発性浸潤性乳癌の危険性を49%減少させることが実証された。これらの研究は、タモキシフェンが、乳癌歴のある女性では第一線の効果的アジュバント療法であり、乳癌を発症する危険が高い女性にとって効果的な化学防御剤であることを実証するものである。
【0024】
ラロキシフェンは、骨粗鬆症(osteoporsosis)の予防および治療として近年認可されたSERMのベンゾチオフェンクラスの構成要素である。ラロキシフェンは、乳癌女性に対するアジュバント療法としての効果がまだ評価されていない。しかし、ラロキシフェンの多面的アウトカム(MORE:Multiple Outcomes of Raloxifene)試験により、乳癌予防に対するラロキシフェンの効果が評価された。MORE試験は、7705名の閉経後骨粗鬆症女性の3年間のランダムプラセボ制御研究であった。MORE試験では、中程度の40ヵ月の追跡後、乳癌は、ラロキシフェン治療群の5129名の女性中13件に見つかり、対するプラセボ投与の2576名の女性中27名(RR=0.24)で見つかった。タモキシフェンのように、ラロキシフェンは、エストロゲン受容体陽性腫瘍の発生率の減少に有効であるが、エストロゲン受容体陰性腫瘍では有効ではない。乳癌の促進におけるエストロゲンの役割のさらなる証拠は、血清エストラジオール濃度が検出可能な閉経後の女性で、ラロキシフェンが乳癌のみを予防することを示した近年の研究から来ている。
【0025】
エストロゲン受容体の構造:SERMが、ER陽性腫瘍にのみ効くという事実は、乳房にその保護効果を発揮するためには、SERMはエストロゲン受容体と相互作用する必要があるということを示す。既知のエストロゲン受容体は2個、ERαおよびERβあるが、それらは、ステロイド核内受容体スーパーファミリーのメンバーである。ERαは、1986年に初めてクローン化され、驚くべきことに約10年遅れてERβと称する第二のERが発見された。ERαは、595のアミノ酸を含み、それに対してERβは530のアミノ酸を含む。両受容体は、3個の別個のドメインから構成されたモジュラータンパク質である。アミノ末端ドメイン(A/Bドメイン)は、最少保存領域であり、ERαとERβとの間の相同性はわずか15%である。このドメインは、エストラジオールの非存在下で、遺伝子の転写活性化を活性化できる活性化機能(AF−1)を収容する。ERの中心領域は、2個の亜鉛フィンガーモチーフを含み、このモチーフは、標的遺伝子のプロモーター中に位置する3個のヌクレオチドによって分離された逆回文構造の反復配列に結合する。ERαおよびERβ中のDNA結合ドメイン(DBD)は、実質的に同一であり、95%相同性を示す。カルボキシ末端ドメインは、基本的な数機能を実施するリガンド結合ドメイン(LBD)を含む。LBDは、エストロゲン性化合物が結合する大きな疎水性ポケットを形成する領域と、ERの二量体化に関与する領域とを含む。LBDは、同時調節(coregulatory)タンパク質と相互作用する第二活性化機能(AF−2)も有する。AF−2は、遺伝子転写のエストロゲンの活性化および抑制に必要である。ERαとERβのLBDの相同性は、わずか約55%である。ERαとERβのLBDのアミノ酸組成の特筆すべき違いは、進展して別個の転写役割を有するERを形成したであろう。これにより、ERαおよびERβは、異なる遺伝子の活性を調節し、異なる生理作用を引き出せるようになったのであろう。この考えは、ERαおよびERβノックアウトマウスの研究によって裏付けられている。例えば、ERαノックアウトマウスの乳房および子宮の発達は原始的であるが、ERβノックアウトマウスの乳腺および子宮は正常に発達する。これらの観察によって、ERαのみがこれらの組織の発達に必要であることが実証されている。さらに、本発明者らは、ERαは、遺伝子を活性化させるのにERβよりも有効であり、それに対してERβは、遺伝子の転写を抑制するのにERαよりも有効であることを発見した。
【0026】
エストロゲンの作用機序:エストロゲンは、遺伝子の転写を活性化し、または抑制することができる。遺伝子の転写活性化に対する特徴付けられた経路には2つ、すなわち従来のERE(エストロゲン応答配列)経路とAP−1経路がある。エストロゲンが遺伝子の転写を調節するために必要な少なくとも3つの必須成分、すなわちER(ERαおよび/またはERβ)と、標的遺伝子中のプロモーター成分と、同時調節タンパク質がある。エストラジオールとERの結合によって立体配座が変化し、その結果、転写経路を開始する主要な数ステップが得られる。まず、EとERが相互に作用して、シャペロンタンパク質が解離し、これにより、ERの二量体化表面とDNA結合ドメインが露出する。シャペロンタンパク質の消失により、ERが二量体化し、標的遺伝子のプロモーター領域中のEREに結合できるようになる。
【0027】
次に、Eの結合によって、ERLEDのへリックス12が移動し、ERのAF−2機能を集める表面を形成する。AF−2は、ERのへリックス3、5および12から構成された保存疎水性ポケットからなり、これらのへリックスは、一緒になって、活性化補助因子タンパク質(活性化補助因子)のp160クラス、例えば、ステロイド受容体活性化補助因子−1(SRC−1)またはグルココルチコイド受容体と相互作用するタンパク質1(GRIP1)のための結合表面を形成する。(「同時調節」としても知られている)活性化補助因子は、LXXLLから構成された数個の反復アミノ酸モチーフを含み、それらは、AF−2へリックスにより囲まれた疎水性間隙中に投射されている。活性化補助因子は、ヒストンアセチラーゼ活性を有する。遺伝子の活性化は、ERと活性化補助因子タンパク質がERE上に複合体を形成した後に生じ、それによりDNAに結合したヒストンタンパク質のアセチル化が引き起こされると考えられる。ビストン(bistones)のアセチル化によってクロマチン構造が変化し、その結果、ER/同時調節因子複合体は、EREと、標的遺伝子のTATAボックス領域に集合した基礎転写タンパク質との間にブリッジを形成し、遺伝子の転写が開始可能となる。
【0028】
ERE経路におけるSERMの効果:エストロゲンとは異なって、SERMはERE経路を活性化しない。その代わり、SERMは、ERE経路におけるエストロゲンの効果を競合的に阻止する。エストロゲンのように、SERMは、高親和性をもってERαとERβとに結合し、シャペロンタンパク質の解離、ERの二量体化、およびERとEREの結合を引き起こす。従って、SERMのアンタゴニスト作用は、ERとそのプロモーター領域との結合の遠位にあるステップで生じる。SERMのアンタゴニスト作用の分子メカニズムは、ERαとERβのLBDの結晶化により判明している。E、タモキシフェン、およびラロキシフェンが同じ結合ポケットに結合することは、ERLBDsの構造から明らかである。しかし、タモキシフェンおよびラロキシフェンは、Eに存在しない大きな側鎖を含む。SERMの大きい側鎖がLBDの動きを妨害することは、ERのX線構造によって判明しているが、これにより機能性AF−2表面の形成が妨げられる。注目すべきことに、SERMがERαと結合すると、LXXLLモチーフと類似するへリックス12中の配列(LXXML)が、AF−2表面の疎水性間隙と相互作用して、活性化補助因子の認識部位を閉塞する。従って、エストロゲンとは異なって、SERMは機能性AF−2表面を形成せず、これにより活性化補助因子の結合が妨げられる。活性化補助因子タンパク質は、SERMの存在下でAF−2表面に結合しないので、活性化経路は突然停止する。活性化補助因子を動員する代わりに、SERMと結合したERが、N−CoRなどのコリプレッサーを動員する。
【0029】
これらの研究により、SERMのアンタゴニスト特性は、少なくとも3つの要因によることが実証された。第一に、SERMは、エストロゲンと同じ結合ポケットに結合し、エストロゲンがERと結合するのを競合的に阻止する。第二、SERMは、ERが、ERE経路の転写活性化に必要な活性化補助因子タンパク質と相互作用するのを防止する。第三に、SERMは、遺伝子の転写活性化を防止するコリプレッサーを動員する。ラロキシフェンおよびタモキシフェンが、どのように乳房細胞でアンタゴニストとして作用し乳癌の発生を阻害するかは、SERMのこれらの作用によって最もよく説明される。
【0030】
SERMは、Eよりも、AP−1成分による遺伝子の活性化においても効果的である。実際、Eは、SERMが介在するAP−1成分の活性化のアンタゴニストである。SERMは、AP−1経路を活性化することにより、骨および子宮内膜などの組織で、アゴニスト作用を示すと推測されてきた。興味深いことに、SERMは、ERβの存在下ではAP−1経路の活性化により強力であり、それは、ERβの豊富な組織では、SERMがより効率よくAp−1経路を誘発することを示している。エストロゲンが介在する乳癌発癌では、AP−1経路の役割はよく分かっていない。エストロゲンが、AP−1経路の活性化ではSERMと比較して極めて弱いからである。しかし、乳房の腫瘍では、AP−1経路がタモキシフェンへの抵抗性と関わっている可能性があることが提案されてきた。
【0031】
ERβは、ERE−tkLucの活性化においてERαよりも弱く、ERβは、TNF−RE−tkLucの抑制においてERαよりも効果的であり、ERβは、ERαが介在する、ERE−tkLucの転写活性化を阻害することを実証する研究が行われてきた。詳細な実験については、以下の実施例の節で述べる。
【0032】
いくつかの実施形態では、モクセイ科トウネズミモチという分類学的種の抽出物を含む植物抽出組成物を提供する。「抽出物」は、植物物質から抽出媒体に一種または複数の化学物質を引いて抽出溶液を形成するのに適した条件下で、抽出媒体(溶媒)を植物物質と接触させるステップによって調製した物質の組成物である。次いで、抽出溶液を植物物質から分離し、任意により希釈または減量して抽出物を形成する。
【0033】
いくつかの実施形態では、抽出物には、モクセイ科トウネズミモチという植物種由来の植物物質から入手した植物化学物質が含まれる。植物物質については、下記にさらに定義する。
【0034】
モクセイ科トウネズミモチ種は、イボタ果実またはトウネズミモチ(glossy privet)と様々に呼ばれる。モクセイ科トウネズミモチは、高さ30フィート(9.1m)になる常緑性低木または小型の木であり、光沢のある4〜6インチ(10.2〜15.2cm)の先鋭形の(先端のとがった)葉が対立して茎に並んで付いている。葉は、典型的には、中央脈からVのように上向き畳まれている。晩夏に小さく白い悪臭を放つ花が現れ、長さ10インチ(25.4cm)になる直立した円錐花序に列をなす。果実は、長さ約0.25インチ(0.6cm)の楕円形の青黒い核果であり、およそ一年、その植物になっている。様々な栽培品種が入手可能であり、一般的には、苗木屋などの市販業者から入手されよう。
【0035】
抽出媒体は、好適な液体溶媒、例えば酢酸エチル、水、またはエタノールである。抽出媒体は、場合によっては、酢酸エチル、水、エタノール、または比較的極性のある別の液体溶媒である。場合によっては、抽出媒体は希釈または減量される。
抽出媒体は、十分に減量してよく、それによって抽出物は残留物(残渣抽出物)の形態を取る。従って、抽出物は、少なくとも一種または複数の植物由来化合物(植物化学物質)を含み、任意に溶媒に溶解される。減量抽出物または残渣抽出物は、好適な希釈剤、例えば、酢酸エチル、水および/またはエタノールを加えて再構成抽出物を形成することによって再構成しうる。
【0036】
いくつかの実施形態では、植物抽出物を含む組成物は、混ぜ物を含まない抽出物(水性もしくはエタノール、濃縮物、残留物)と、そのような抽出物と一種以上の追加成分の組合せとを含む。いくつかの実施形態では、組成物には、固体、半固体、液体、コロイドなどを含む様々な物理的形状の組成物が含まれる。いくつかの実施形態による組成物が医薬的使用を意図している場合、追加成分は製薬上許容されるものである。本開示による組成物が、アッセイでの使用、または生体を対象とするものではない他の使用を意図している場合、追加成分は、製薬上許容されるものであっても、またはそうでなくてもよい。
【0037】
好適な追加成分には、溶媒が含まれる。溶媒は、製薬上許容される溶媒と製薬上許容されない溶媒にさらに分割できる。この意味において、当然のことながら、いくつかの製薬上許容される溶媒には、pH調整することも、および/または予め選択したpHまたはpH範囲、例えば約2〜約8、さらに具体的には約4.0〜約7.5、さらに詳しくは約4.9〜約7.2に緩衝化することもできる注射水(WFI:water for injection)が含まれる。
【0038】
さらに、製薬上許容される溶媒には、一種以上の製薬上許容される酸、塩基、塩、または他の化合物、例えば、担体、賦形剤などが含まれてよい。製薬上許容される酸には、HCl、HSOPO、安息香酸などが含まれる。製薬上許容される塩基には、NaOH、KOH、NaHCOなどが含まれる。製薬上許容される塩には、NaCl、NaBr、KClなどが含まれる。酸および塩基は、好適な割合で、特定の予め選択したpHで、特に約2〜8の範囲のpHで、さらに特には約5.0〜約7.2の範囲のpHで、製薬上許容される溶液を中和するために加え得る。
【0039】
本明細書に記載したいくつかの実施形態による植物抽出物は、エストロゲン応答配列(ERE)の制御下にある遺伝子をエストロゲン的に活性化する。従って、いくつかの細胞では、例示する植物抽出物は、エストロゲン特性を有する−すなわちEREとER(ERα、ERβ、または両方)を含む細胞を、例示する植物抽出物と接触させると、EREの制御下にある遺伝子が刺激される。インビトロ細胞株では、例示するエストロゲン性植物抽出物により、ERE媒介活性化を行うと、EREに作動的に連結している遺伝子が発現することになる。特定の実施形態では、ERと、最小のチミジンキナーゼプロモーターおよびルシフェラーゼ遺伝子に連結したEREとの、エストロゲン的相互作用によって、ルシフェラーゼの発現が増強される。従って、いくつかの実施形態の植物抽出物を使用して、ルシフェラーゼなどのレポーター遺伝子に作動的に連結したERE含有プロモーターを含む、ERα+細胞株、ERβ+細胞株、および/またはERα+/ERβ+細胞株を同定することができる。基準を含め、ER+細胞株においてエストロゲン効果を有する化合物を同定するためのアッセイ試薬として、いくつかの実施形態の植物抽出物を使用することもできる。
【0040】
いくつかの実施形態では、そのような一アッセイ法で、まず、既知の活性または濃度の植物抽出物を調製する。いくつかの実施形態では、植物抽出物の定量は、容器の風袋を量るステップ、既知の容量の植物抽出物を容器に測りとるステップ、残留物を得るために、蒸発または凍結乾燥によって植物抽出物を減量するステップ、および容器と植物抽出物を足した質量を得るステップによって好都合に実施される。容器と植物抽出物を足した和と、風袋質量との質量差が、植物抽出物の乾燥質量である。植物抽出物容量当たりの植物抽出物乾燥質量の割合が、単位容量当たりの濃度である。その濃度を特定する前記定量法の結果を用いて、植物抽出物はその初期の形態で使用しうる。水または別の好適な溶媒系を加えて、既知濃度の植物抽出溶液を形成することによって、残留物を再構成することもできる。
【0041】
植物抽出物の濃度が分かったなら、検量線を準備する。一般に、ER+細胞を植物抽出物と接触させ、エストロゲン活性に関連するシグナルを記録する。特に、ER+細胞は、EREの制御下にあるレポーター遺伝子を有する。このER+細胞を、本明細書に記載した植物抽出物と接触させ、それにより、加えた植物抽出物の量に比例してレポーターシグナルが生じる。このステップは、同じ植物抽出物濃度により、異なる植物抽出物濃度により、または両濃度により、複数の試料を用いて実施してもよい。一例としては、9試料:第一の濃度で1回目の3試料を、1回目よりも半対数(half-log)高い濃度で次の3試料を、および1回目よりも全対数(whole-log)高い濃度でその次の3試料を試験してよい。次いで、レポーターシグナルを観察し記録し、従来の曲線適合法(例えば、最小2乗法)により、得られたデータ点(植物抽出物濃度:レポーターシグナル強度)を検量線にあてはめる。
【0042】
候補化合物のエストロゲン効果を評価するために、候補化合物を、EREの制御下にレポーター遺伝子を含むE+細胞と接触させる。レポーター遺伝子のシグナルを観察し、検量線と比較して候補化合物の相対的エストロゲン効果を定量する。
【0043】
前記方法で使用されるER+細胞株は、自然にERを発現する細胞株、例えばヒト由来のER+乳房細胞癌細胞株であってよい。いくつかの実施形態では、ER+組織は、不死化ヒト細胞株統、例えば、不死化骨髄細胞株または不死化乳房細胞株である。例示的な細胞株には、ヒト単球、骨芽細胞、悪性乳癌および不死化上皮乳房細胞株が含まれる。挙げられる特定の細胞株には、U937、U2OS、MDA−MB−435およびMCF−7細胞株が含まれる。不死化細胞株を含む他のER+細胞株を使用してもよい。また、ER+細胞株は、ER発現ベクターで形質転換した細菌細胞株など、自然にはERを発現しない細胞株であってよい。
【0044】
レポーター遺伝子を制御するEREを含むプロモーターを有するベクターで、ER+細胞株を形質転換する。例えば、ベクターは、ERE、最小チミジンキナーゼプロモーター(tk)、およびルシフェラーゼ遺伝子(Luc)を含むウイルスベクターであってよい。例示的なERE−tk−Luk構造体を配列番号1に記載するが、その際、EREをヌクレオチド1−によって表し、tkをヌクレオチドnn−によって表し、そしてLukをヌクレオチドmm−によって表す。公知の方法によって、構造体を標的細胞に形質移入し、ER−ERE−tk−Luk系の発現は、例えば所定量のEの存在下で、前記アッセイを推定上のER+細胞で実施することによって確認する。ER+細胞が首尾よく転換されたことを検証する他の方法には、既知のER抗体による免疫染色が含まれる。
【0045】
ERE含有プロモーターは、ERE配列とプロモーター配列を含むDNAである。そのプロモーター配列は、最小チミジンキナーゼ(tk)プロモーター配列など、当技術分野で認識されているプロモーター配列である。(参照、配列番号1、ヌクレオチドnn−)。他のERE含有プロモーターも可能であり、本開示の範囲内にある。EREおよびプロモーター配列は、一緒に作動してレポーター遺伝子の発現を制御する。本明細書に記載したように、エストロゲン性化合物(例えば植物抽出物またはE)がERと結合し、ER二量体が生じ、AF−2表面を形成する。次いで、ER二量体がEREと結合し、プロモーターの制御下にある遺伝子を活性化する。いくつかの実施形態では、EREは、直接ライゲートするプロモーターのすぐ上流(5'−to)にある。一例として、ERE−tkプロモーター構造体を配列番号1、ヌクレオチド1−nn−1に示す。
【0046】
レポーター遺伝子は、発現されると、検出可能なシグナルを生じる遺伝子である。ルシフェラーゼ遺伝子は、好適なレポーター遺伝子である。なぜなら、ルシフェラーゼ遺伝子は、単一試薬であるルシフェリンの存在下で検出可能な光シグナルを発生するタンパク質ルシフェラーゼを産生するからである。特に、ルシフェラーゼ遺伝子のcDNAが発現し、62kDaの酵素タンパク質であるルシフェラーゼが産生する。ルシフェラーゼ酵素は、Mg2+と酸素の存在下でルシフェリンとATPの反応を触媒し、オキシルシフェリン、AMP、ピロリン酸塩(PPi)、および放射光を形成する。放射光は、黄緑色(560nm)であり、標準的光度計を使用し容易に検出できる。ATP、OおよびMg2+は、既に細胞中に存在しているので、検出可能なシグナルを発生させるために、このレポーター遺伝子に必要なのはルシフェリン試薬を添加することだけであり、レポーター遺伝子は本開示のアッセイで使用するのに非常に適している。当技術分野で入手できるものとして挙げられる他のレポーター遺伝子には、クロラムフェニコールトランスアセチラーゼ(CAT)、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(neo)およびβ−グルクロニダーゼ(GUS)が含まれる。
【0047】
本明細書に示したいくつかのアッセイ法では、一種以上のエストロゲン性化合物やSERMなど比較することによって、標準的植物抽出物をさらに特徴付けることは有用である。そのようなアッセイ法は、基本的に上記のように、本方法の適切なパートで、標準的エストロゲン性化合物および/またはSERMを、植物抽出物に適切に置換して実施する。
【0048】
本開示による植物抽出物はまた、TNFREが介在する経路による遺伝子の発現を抑制する。場合によっては、本明細書に示した植物抽出物は、インビトロで、特に、TNFREの制御下にあるレポーター遺伝子(例えば、ルシフェラーゼ遺伝子、Luc)を含む細胞で、遺伝子発現を抑制する。場合によっては、本明細書に示した植物抽出物は、主として単球およびマクロファージによって産生されるサイトカインであるTNF−αの発現を抑制する。このサイトカインは、様々な組織の滑膜細胞およびマクロファージ中に存在し、リューマチ性関節炎(RA)と強く関連している。TNF−αはまた、他の炎症性疾患で、そして細菌からエンドトキシンへの応答としても発現する。TNFREリプレッサー経路が介在するTNFの発現のリプレッサーとして、本明細書に記載した植物抽出物は、高レベルのTNFが関連する炎症性疾患の治療に重要である。
【0049】
本明細書に示したいくつかの実施形態では、ERαおよびERβの片方または両方を発現し、同様にTNFREの制御下にあるレポーター遺伝子を発現する細胞株を作った。一般的に、TNF REは、レポーター遺伝子の上流(5'−to)にあり、先に本明細書に述べたようにシグナルを検出する。TNF REの制御下にあるレポーター遺伝子、この場合はルシフェラーゼ遺伝子を含むDNAの配列を配列番号(SEQ ED NO:)2に記載する。ヌクレオチド1−はTNFREに相当し、ヌクレオチドnn−はルシフェラーゼ遺伝子に相当する。
【0050】
前記細胞のTNFRE含有細胞株は、さらに、ER遺伝子、すなわちERα、ERβまたは両方の一つ以上のコピーを含む。前記方法で使用するER+細胞株は、自然に、ER、例えば、ヒト由来ER+乳房細胞癌の細胞株を発現する細胞株でありうる。いくつかの実施形態では、ER+組織は、不死化ヒト細胞株、例えば、不死化骨髄細胞株または不死化乳房細胞株である。例示的な細胞株には、ヒト単球、骨芽細胞、悪性乳癌および、不死化上皮乳房細胞株が含まれる。挙げられる特定の細胞株には、U937、U2OS、MDA−MB−435およびMCF−7細胞株が含まれる。不死化細胞株を含む他のER+細胞株を使用してもよい。また、ER+細胞株は、ER発現ベクターで形質転換した細菌細胞株など、自然にはERを発現しない細胞株であってもよい。
【0051】
所定量のルシフェリンの存在下、かつEなどのエストロゲン性化合物または本明細書に示した植物抽出物の非存在下で、細胞株は、「対照強度」または「基線強度」と呼ぶ強度で黄色光(560nm)を発する。560nmでの発光を光学密度単位(O.D.560nm)で好都合に定量する。Eなどのエストロゲン性化合物、またはいくつかの実施形態では、植物抽出物の一つを加えると、560nmの発光強度は対照と比較して減弱する。注目すべきことに、タモキシフェンまたはラロキシフェンなどのSERMの存在下では、ルシフェラーゼの発現は増大し、560nmの発光強度も増大する。従って、本明細書に示した植物抽出物は、エストロゲン性TNFREに制御された遺伝子発現の抑制を誘発できる。
【0052】
TNFRE含有細胞株は、本明細書に記載したアッセイ法に使用することができる。本明細書に記載したアッセイ法のいくつかの実施形態では、ルシフェラーゼ活性の減弱(すなわち560nm光での発光の減少)は、エストロゲン活性の上昇と相関し、それに対してルシフェラーゼ活性の活性化(すなわち560nmでの発光の上昇)は、抗エストロゲン活性と相関する。本明細書に記載したように、いくつかの実施形態では、検量線は所定量の植物抽出物を使用して作ることができる。そのような検量線は、公知の他のエストロゲン標準もしくは抗エストロゲン標準、例えば、Eもしくはいくつかの公知の他のエストロゲン性化合物、および/または抗エストロゲン性SERM、例えばタモキシフェンもしくはラロキシフェンを使用することによってさらに増大させうる。
【0053】
次いで、本明細書に記載したように、形質転換したE+細胞株から得た細胞を候補化合物に曝露し、ルシフェラーゼシグナルを観察し、そしてそのシグナルと予め作った検量線と比較する。対照(基線)と比較してルシフェラーゼ活性を上昇させる化合物は、抗エストロゲン性SERMとして特徴付けられ、それに対し対照と比べてルシフェラーゼ活性を減少させる化合物は、エストロゲン系として分類されよう。次いで、いくつかの実施形態では、植物抽出物によってもたらされる減少に対する、ルシフェラーゼの発現の減少もしくは増大、ならびに任意に、E、タモキシフェンおよび/またはラロキシフェンによってもたらされる、各シグナルの減少もしくは増大の程度と比較することによって、エストロゲン効果または抗エストロゲン効果を定量することができる。
【0054】
いくつかの実施形態では、本明細書に示した植物抽出組成物は、E−ERとEREの相互作用にも拮抗する。特に、モクセイ科トウネズミモチ抽出物が、ERβおよびERαと直接相互作用することによって、EによるERE−tk−Lucの活性化に拮抗するという点でそれは示されている。ERE制御遺伝子のE−ER活性化のアンタゴニストとして、いくつかの実施形態では、植物抽出組成物は、乳癌および子宮癌に対して予防的、緩和的および/または抗増殖的活性を有するタモキシフェンに、効果が類似すると考えられる。
【0055】
いくつかの実施形態は、本明細書に記載の組成物を使用する、インビボエストロゲン的方法を提供している。一般に、インビボ法は、対象にエストロゲン効果をもたらすのに十分な、その植物抽出物のある量を対象に投与するステップを含む。インビボ法は、エストロゲン性EREに制御された遺伝子を活性化し、TNFREに制御された遺伝子を抑制し(例えば、TNF−αの抑制)、または両方を行う。従って、インビボ法によって、インビボで多様な陽性表現型効果が生じる。
【0056】
対象は、哺乳動物、例えば、マウス、ラット、ウサギ、サル、チンパンジー、犬、ネコまたはヒツジであってよく、一般的に雌である。対象はヒト、特にヒト女性であってもよい。いくつかの実施形態では、対象は、閉経後または卵巣摘出後の女性で、エストロゲン療法が必要な人である。そのような症例では、対象は、更年期症状、例えば、のぼせ、不眠、膣の乾燥、性欲減退、尿失禁、および鬱にかかっているであろう。他のそのような症例では、対象は、骨粗鬆症になりやすいか、またはこれに罹患しているであろう。好適なインビボ法には、エストロゲン補充療法に反応する医療兆候の治療および/または予防が含まれる。
【0057】
本明細書に記載した組成物の投与は、通常使用されている投与経路を介してなされるが、ただしその経路を介して、標的組織で植物抽出物の一種以上を利用できる限りである。挙げられるいくつかの投与経路には、経口、経鼻、経頬腔、経直腸、経膣、および/または局所的(真皮性)経路が含まれる。また、投与は、正所性、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内または静脈内注射によってもよい。そのような組成物であれば、通常、上記の製薬上許容される組成物として投与されよう。
【0058】
疾患、疾病、症候群、状態または症状の治療{およびその文法的変形−例えば、治療(treat)、治療(to treat)、治療(treating)、治療(treated)など}には、そのような治療を受け入れる対象を特定するステップ、および対象に本明細書に示した組成物を投与するステップを臨床医であれば講じるようなステップが含まれる。従って、治療には、本明細書に記載したエストロゲン性植物抽出物を対象に投与することによって、寛解、緩和、改善、除去、治癒する可能性が高い疾患、症候群、状態、または症状の診断が含まれる。治療には、疾患、疾病、症候群、状態、または症状の付随的な寛解、緩和、改善、除去、または治癒が含まれる。いくつかの実施形態では、治療は、疾患、疾病、症候群、状態、または症状m(すなわち予防法)の発症の予防もしくは遅延;疾患、疾病、症候群、状態、または症状の進行の予防もしくは遅延;および/または疾患、疾病、症候群、状態、または症状の重症度の軽減を意味する。新生物増殖の場合には、特に、治療は、新生物増殖の緩和、ならびにその反転、停止または遅延を含む。この点で、治療には、完全および部分的緩解を含む緩解も含まれる。更年期症状の場合には、治療は、様々な症状の予防および緩和を含む。
【0059】
疾患、疾病、症候群、状態、または症状の予防(およびその文法的変形形態)には、疾患、疾病、症候群、状態、または症状を発生する危険性がある対象を特定するステップ、およびいくつかの実施形態では、前記疾患、疾病、症候群、状態、または症状の発症を除去しまたは遅らせる可能性が高い十分な量の植物抽出物をその対象に投与するステップが含まれる。場合によっては、予防には、臨床医が考える閉経後の女性を特定するステップ、ホルモン補充療法が必要とされる合法的な標準医療を適用するステップ、およびその女性に本明細書に記載した植物抽出物(または前記植物抽出物を含む医薬品)を投与するステップが含まれ、それによって一種以上の更年期症状が阻止または遅延される。場合によっては、骨粗鬆症の予防は、臨床医が考える閉経後の女性を特定するステップ、骨粗鬆症を発生する危険性があるが、合法的な標準医療を適用するステップ、および本明細書に記載した植物抽出物(または前記植物抽出物を含む医薬品)をその女性に投与するステップを含み、それによって骨喪失の発症が阻止または遅延される。
【0060】
緩和には、疾患、疾病、症候群、状態、または症状の重症度、数および/または出現頻度の軽減が含まれる。更年期症状の緩和には、のぼせ、不眠、失禁、鬱などの頻度および/または重症度の軽減が含まれる。
【0061】
骨粗鬆症の治療は、骨喪失の危険性がある閉経後の女性など、人を特定するステップ、および本明細書に記載した植物抽出物(または前記植物抽出物を含む医薬品)をその女性に投与するステップを含み、それによって骨喪失は、重症度が軽減し発症が遅れ、または予防される。いくつかの実施形態では、骨粗鬆症の治療には骨量の添加を含めることができる。
【0062】
さらに、本明細書に記載したモクセイ科トウネズミモチ抽出物の製造方法を開示によって提供する。具体的には、本開示によって、例示するエストロゲン性植物抽出物の製造方法を提供する。方法は、モクセイ科トウネズミモチ種の植物からある量の植物物質を得るステップ、任意に該植物物質を粉末状にするステップ、該植物物質を抽出媒体と接触させるステップ、および該抽出媒体から該植物物質を分離するステップを含む。
【0063】
植物物質は、モクセイ科トウネズミモチ種由来の少なくとも一種の植物の任意の部分(単数または複数)を意味する。植物物質には、その植物の全部または任意の部分(単数または複数)、例えば、根、樹皮、木、葉、類(または花:例えば、萼片、花弁、雄しべ、雌しべなど)、果実、種子および/もしくは部分、または前記のいずれかの混合物が含まれる。植物物質は、新鮮片、乾燥片(凍結乾燥片を含む)、凍結片などであってよい。植物物質は、全体であっても、または小片に分離してもよい。例えば、葉を刻み、破砕し、または磨砕してよい。根を刻み、または磨砕してよい。果実を刻み、スライスし、または混合してよい。種子を刻み、または磨砕してよい。茎を破砕し、刻み、または磨砕してよい。特定の実施形態では、使用する植物部分は、モクセイ科トウネズミモチの葉である。
【0064】
本明細書に示した植物抽出組成物は、モクセイ科トウネズミモチの少なくとも一種の抽出物を含む。「抽出物」は、植物由来の一種以上の化合物を植物物質から抽出物溶媒に分割するのに適した条件下で、一植物部分を抽出物溶媒と接触させたとき、得られる溶液、濃縮物、または残留物である。次いで、濃縮物または残留物を形成するために溶液を任意に減量する。
【0065】
モクセイ科トウネズミモチ抽出物を調製するのに好適な抽出媒体には、水およびエチルアルコールが含まれる。具体的には、水が抽出物溶媒であるとき、精製水が適している。精製水には、蒸留水、脱イオン水、注射用水、限外濾過水、および水の他の精製形態が含まれる。いくつかの実施形態で使用するエチルアルコールは、穀物エタノール、具体的には未変性エタノール(例えば、純粋穀物エタノール、いくらかの水、例えば約10%までの水を任意に含む)である。いくつかの実施形態では、抽出物溶媒は、水、エタノール、またはそれらの混合物である。濃縮物または残留物は、抽出溶液を減量(例えば、蒸発または凍結乾燥)することによって調製しうる。元の抽出物溶媒、減量濃縮物、または残留物形であっても、これらの調製物のそれぞれは、本開示の目的の「抽出物」と考えられる。
【0066】
本開示による植物抽出物の製造方法は、容量比に対するその表面積を増大し、抽出過程の効率を同時に高めるために、第一に、植物物質を粉末状にするステップを任意に含む。植物物質を粉末状にする方法には、磨砕、刻むこと、混合、破砕、微粉砕、微粉化などが含まれる。
【0067】
次いで、植物物質から抽出媒体に分割するために、一種以上の植物化学物質、具体的にはエストロゲン性植物化学物質を得るのに適した条件下で、抽出媒体(溶媒)は植物物質と接触させる。そのような条件には、場合によっては、抽出媒体を室温より高い温度に加熱すること、攪拌、接触時間などが含まれる。例示的な抽出温度は、約50℃から抽出物溶媒の沸点までである。水が抽出物溶媒であるとき、抽出温度は、一般的に室温から約100℃であり、約50℃〜約80℃の温度が特に適しており、約75℃の温度がとりわけ適切である。抽出物溶媒としてエタノールの場合には、抽出温度は、一般的にほぼ室温から約78.5℃まで、約50℃〜約78℃の温度が特に適しており、約75℃の温度がとりわけ適切である。一方で抽出効率と、他方で植物化学物質の安定性との間で、適切なバランスを引き出さなければならないことを当業者は認識しているであろう。
【0068】
抽出媒体と植物物質をいったん混合したら、植物物質から抽出媒体にエストロゲン性化合物の効率的交換が確実にされるようにするために、それらを任意に攪拌し、そして植物物質から抽出媒体に有用量の植物化学物質を抽出するのに十分な時間、接触させたまま放置する。そのような時間の経過後(例えば、約5分〜約10時間、より具体的に約10分〜約5時間、特に約30分〜約2時間)、植物化学物質を含む抽出媒体を植物物質から分離する。そのような分離は、当技術分野で認識されている方法、例えばろ過、デカンテーションなどによって実施される。
【0069】
本開示による組成物には、本明細書に記載したモクセイ科トウネズミモチ抽出物を含む植物抽出物または組成物が含まれる。そのような実施形態では、組成物は任意に一種以上の追加成分を含むであろう。そのような追加成分は不活性または活性であってよい。不活性成分には、溶媒、賦形剤および他の担体が含まれる。活性成分には、モクセイ科トウネズミモチの植物抽出物と組み合せて、相乗的活性を示す成分を含む活性医薬成分(API)が含まれる。
【0070】
追加の実施形態には、モクセイ科トウネズミモチの抽出物(またはその部分)を含む、疾病を治療しまたは予防する医薬品が含まれる。医薬品には、追加成分を含めてよい。医薬品は、特定の疾病もしくは疾患状態の治療、例えば乳癌の治療、緩和、もしくは予防、更年期の一つ以上の症状の治療もしくは予防、または骨粗鬆症の治療もしくは予防に適合し得る。
【0071】
モクセイ科トウネズミモチ抽出物は、疾病を治療または予防する医薬品を調製するために使用することができる。剤形、例えば、経口剤形を調製するには、モクセイ科トウネズミモチ抽出物を、一種以上の賦形剤、希釈剤、崩壊剤、コーティングなどと任意に組み合わせる。
【0072】
(実施例)
さて、以下に例示的かつ非限定的実施例について言及する。これにより、本明細書に記載したモクセイ科トウネズミモチ抽出物のエストロゲンに与える効果を実証する。
【実施例1】
【0073】
ERE−tkLucの活性化ではERβはERαより弱い:ルシフェラーゼレポーターcDNAに連結した最小チミジンキナーゼ(tk)プロモーターの上流に従来のEREを含むプラスミドと、ERαまたはERβ発現ベクターとをトランスフェクトすることによって、Eの転写活性に与える効果を検証した。ERαの存在下、ヒト単球性U937細胞で、Eにより、ERβと比較して10倍大きくEREが活性化されたが、EC50値は類似していた。
【実施例2】
【0074】
ERβは、ERαよりもTNF−RE−tkLucを抑制するのに効果的である:次いで、腫瘍壊死因子−応答配列(TNF−RE)として知られる、TNF−αプロモーターの−125〜−82領域を使用し、ERαおよびERβが介在する転写抑制に与えるEの効果を比較した。TNF−αによって、tkプロモーター(TNF−REtkLuc)の上流にあるTNF−RE(−125〜−82)の3つのコピーが5〜10倍活性化した。Eは、ERαとERβの存在下で、TNF−REtkLucのTNF−αの活性化を60〜80%だけ抑制した。しかし、ERβは、抑制では、ERαよりも約20倍効果的であった(IC50は、それぞれ、ERαでの241pM:ERβでの15pM)。ERβは、ERαよりも、未変性−1044〜+93TNF−αプロモーターを抑制するのに効果的であることも発見された。従って、ERαは、ERβよりも転写活性化においてはるかに効果的であり、それに対してERβはERαよりも転写抑制において効果的である。Eとは対照的に、抗エストロゲン剤、タモキシフェン、ラロキシフェンおよびICI182、780は、TNF−REtkLucを2倍活性化させた。さらに、これらの抗エストロゲン剤は、Eによって誘発された抑制を無効にする。
【実施例3】
【0075】
ERβは、ERαが介在するERE−tkLucの転写活性化を阻害する:驚くべきことに、ERαまたはERβが、U937細胞で同時発現したとき、ERαによる活性化は著しく阻害される(図1)。これらのデータは、ERβが、ERαによるERE−tkLucの活性化に対して抑制効果を発揮することを示している。乳癌細胞株MDA−MB−435で、同様の結果が観察された(図2)。他の研究者らは、異なる細胞型で、ERαのトランス活性化に対する、類似のERβの抑制効果を発見した。これらの研究は、ERE−tkLucに対するERαおよびERβの異なる活性化、およびERαが媒介する転写に対するERβの抑制効果が、細胞型特異的ではなく、ERの固有特性の結果生じることを示唆している。ERPによるERαの抑制には、ERα/ERβヘテロ二量体を形成する必要がある。二量体化を防止するERβのへリックス11中の変異が、その抑制活性を阻害するからである(データ非提示)。
【実施例4】
【0076】
材料および方法:試薬。フェノールレッド不含ダルベッコ改変イーグル/F-12 Coon改変培地はSigma製であった。BiobreneをApplied Biosystemsから購入した。U937細胞株は、アメリカ培養細胞系統保存機関から得た。ヒト組換えTNF−αは、R & D Systemsから得た。
【0077】
プラスミド構築。ルシフェラーゼcDNAの上流に、ヒトTNF−α遺伝子pLTのPstI〜AhaIIフラグメント(−1044〜+93)をクローン化した。特有の制限部位である−125欠失用ApaI、および−82欠失用StyIを使用することによって5’欠失を構築した。ヒトTNF−αプロモーターフラグメント−125〜−82[TNF−応答配列(TNF−RE)]の3コピー、またはカエルのビテロゲニンA2遺伝子由来のEREの1コピー(vitA2−ERE,5’−TCAGGTCACAGTGACCTGA−3’)を、ルシフェラーゼに連結した−32〜+45単純ヘルペスチミジンキナーゼ(TK)プロモーターの上流にライゲートした(それぞれTNF−REtkLucおよびERE TKLuc)。ERβ変異体は、QuikChange部位特異的突然変異誘発キット(Stratagene)により、その変異を含むオリゴヌクレオチドを使用することによって作製した。Sequenase kits(Amersham Pharmacia)により変異体を配列決定して、変異の存在を検証した。
【0078】
細胞培養、トランスフェクション、およびルシフェラーゼアッセイ−U937(ヒト単球)、U2OS(ヒト骨肉腫)、MDA−MB−435(ヒト転移性乳癌)、およびMCF−7(ヒト乳癌)細胞をサンフランシスコのカリフォルニア大学細胞培養施設から入手した。U937細胞は既に記載したように維持し、それに対してU2OS、MDA−MB−435、およびMCF−7細胞は、5%ウシ胎仔血清、2mMグルタミン、50単位/mlペニシリン、および50μg/mlストレプトマイシンを含むフェノールレッド不含ダルベッコ改変イーグル培地/F−12培地で維持し継代した。実験では、細胞を採取し、キュベットに移し、次いで既に記載したように、3μgのレポータープラスミドおよび1μgのERαまたはERβの発現ベクターを使用し、Bio-Rad遺伝子パルサーによって電気穿孔した。電気穿孔後、細胞を培地に再懸濁し、12ウェルマルチプレートに1ml/ディッシュで播種した。E、ゲニステイン、ダイゼイン、またはビオカニンA(Sigma-Aldrich)で3時間、細胞を処理した後、5ng/mlTNF−α(R & D Systems)に37℃で24時間曝露した。細胞を1×溶解緩衝液200μlで可溶化し、市販のキット(Promega)を使用してルシフェラーゼ活性を定量した。ルシフェラーゼ活性の最大半量の誘発(EC50)または阻害(IC50)を得るのに必要なホルモン濃度はPrism曲線適合化プログラム(Graph Pad Software, version 2.0b)を用いて算出した。増殖研究については、0.1nMEの存在下、1細胞/ウェルで親MCF−7細胞をサブクローン化し、最速で増殖するクローンを実験用に選択した。これらの細胞は、ERαを排他的に発現し、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)によって定量した。細胞は、二つ組で、3%精製(stripped)ウシ胎仔血清を含む組織培養培地に25,000細胞/35−mmプレート密度で播種した。播種から一日後、それらはEまたはゲニステインの濃度を増やして処理した。一日おきに培地を交換し、E2またはゲニステインを培地に加え、8日後、細胞をCoulterカウンターによりカウントした。図に示した全ての実験は、少なくとも3回実施したが、データは実験間で類似していた。
【0079】
クワ(Morus albs L)の調製:市販の電気式薬草グラインダーを使用し、クワの試料を磨砕して微粉末にした。5gを秤量しa)100%EtOH50mlまたはb)蒸留HO50mlに抽出し、75℃で45分間温めた。次いで、抽出物(aおよびb)をデカントし、可溶性物質のみを使用した。
【0080】
結果:ルシフェラーゼアッセイを使用し、U2OS骨細胞での選択的エストロゲン受容体調節活性を測定した。U2OS骨肉腫細胞に、最小チミジンキナーゼ(tk)プロモーター(ERE−tk−Luc)の上流の従来のERE、およびヒトERαまたはERβ用発現ベクターを共トランスフェクトした。ERβおよびERαによるERE−tk−Lucのモクセイ科トウネズミモチの活性化。ERβは、1μl/mlのモクセイ科トウネズミモチによってERE−tk−Lucを4.67倍活性化し、ERαでは1μl/mlでERE−tk−Lucを4.03倍活性化した。これらの結果から、モクセイ科トウネズミモチは、ERβと直接相互作用することによって、ERE−tk−Lucを活性化することが示される。
【0081】
転写抑制に対するモクセイ科トウネズミモチの効果を検討するために、TNF−αプロモーター(TNF−α−応答配列、(TNF−RE))の−125〜−82領域を使用した。というのは、この領域が、TNF−αの活性化とEの抑制を媒介するからである。U2OS細胞で、Eは、ERαまたはERβをトランスフェクトした最小tkプロモーター(TNF−REtkLuc)の上流にあるTNF−REのTNF−αの活性化を著しく抑制した。Eは、ERβ(100%抑制)に対するTNF−α活性を消失させることができるが、ERαにはできない(73.3%抑制)。モクセイ科トウネズミモチは、ERβ(109.6%)およびERα(102.8%)の存在下で、TNF−REのTNF−αの活性化を大きく抑制した。これらの結果は、モクセイ科トウネズミモチが、ERβおよびERαと直接相互作用することによって、TNFRE−tk−Lucを通じTNF−αの活性化を抑制することを示している。
【0082】
これらの実験では、エストロゲン活性に効果的なモクセイ科トウネズミモチ抽出物の最低用量は1.2μgである。しかし、他の細胞株ではこの数字は変動するであろうと推定される。
【0083】
本明細書に引用した全ての参照文献は、その全体を本明細書に組み込む。
【0084】
本明細書に好ましい実施形態を示し記載したが、そのような実施形態はほんの一例として提供されていることは当業者には明らかであろう。当業者であれば、本開示の範囲から逸脱することなく多数の変形例、変化、および置き換えを思いつくであろう。当然のことながら、本明細書に記載した組成物、医薬品および方法を実施するのに、実施形態の様々な代替法が使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モクセイ科トウネズミモチという分類学的種から選択される植物種の抽出物を含む植物抽出組成物。
【請求項2】
前記抽出物が、水性またはエタノール性抽出物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記抽出物が、エタノール性抽出物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の組成物のエストロゲン的有効量を対象に投与するステップを含む、エストロゲン効果を引き出す方法。
【請求項5】
前記抽出物が、水性またはエタノール性抽出物である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記抽出物が、エタノール性抽出物である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記エストロゲン効果が、少なくとも一種の更年期症状を治療または予防する効果、骨粗鬆症を治療または予防する効果、子宮癌を治療または予防する効果、および心血管疾患を治療または予防する効果からなる群から選択される少なくとも一つの効果である、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記エストロゲン効果が、のぼせ、不眠、膣の乾燥、性欲減退、尿失禁、および鬱を治療または予防する効果からなる群から選択される、少なくとも一種の更年期症状を治療または予防する効果を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記エストロゲン効果が、骨粗鬆症を治療または予防する効果を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記エストロゲン効果が、のぼせを治療または予防する効果を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記エストロゲン効果が、子宮癌を治療または予防する効果を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
エストロゲン応答配列の制御下にある遺伝子を活性化する方法であって、前記遺伝子を活性化するのに十分な請求項1に記載の組成物のある量を、前記遺伝子に作動的に連結したエストロゲン応答配列とエストロゲン受容体を有する細胞に投与するステップを含む方法。
【請求項13】
前記細胞が、インビトロである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞が、インビボである、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞が、ERα+乳房組織中にある、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記細胞が、ERβ+乳房組織中にある、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記細胞が、ERα/ERβ+乳房組織中にある、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記エストロゲン応答配列が、形質転換細胞中で発現する、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前記エストロゲン応答配列と前記エストロゲン受容体が、形質転換細胞中で発現する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記エストロゲン応答配列が、前記細胞中で異種発現する、請求項12に記載の方法。
【請求項21】
前記エストロゲン応答配列と前記エストロゲン受容体が、前記細胞中で異種発現する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記細胞が、EREに制御された遺伝子で形質転換したU937、U2OS、MDA−MB−435、およびMCF−7細胞からなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項23】
前記細胞がERαを発現する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記細胞がERβを発現する、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記EREに制御された遺伝子がERE−tk−Lucである、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
TNFREに制御された遺伝子の発現を抑制する方法であって、前記TNF REに制御された遺伝子を抑制するのに効果的な、請求項1に記載の組成物のある量を、TNF応答配列とエストロゲン受容体の制御下にある遺伝子を含む細胞に投与するステップを含む方法。
【請求項27】
前記TNFREに制御された遺伝子が、TNF−αである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記TNFREに制御された遺伝子が、TNF RE−Lucである、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記細胞がインビトロである、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
前記細胞がインビボである、請求項26に記載の方法。
【請求項31】
前記細胞が、ER+乳房組織中にある、請求項26に記載の方法。
【請求項32】
前記細胞が、ERα+乳房組織中にある、請求項26に記載の方法。
【請求項33】
前記細胞が、ERβ+乳房組織中にある、請求項26に記載の方法。
【請求項34】
前記TNF応答配列が、前記細胞中で内在的に発現する、請求項26に記載の方法。
【請求項35】
前記TNF応答配列と前記エストロゲン受容体が、前記細胞中で内在的に発現する、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記TNF応答配列が、前記細胞中で異種発現する、請求項26に記載の方法。
【請求項37】
前記TNF応答配列と前記エストロゲン受容体が、前記細胞中で異種発現する、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記細胞が、エストロゲン受容体遺伝子を含み、TNF応答配列に制御された遺伝子で形質転換し、U937、U2OS、MDA−MB−435およびMCF−7細胞からなる群から選択されている、請求項26に記載の方法。
【請求項39】
前記エストロゲン受容体遺伝子が、ERαを発現する遺伝子である、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記エストロゲン受容体遺伝子が、ERβを発現する遺伝子である、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
モクセイ科トウネズミモチ種の植物からある量の植物物質を得るステップ、および約25℃〜100℃の温度で該植物物質と水を含む抽出媒体とを接触させるステップ、および該植物から該抽出媒体を分離するステップを含む、請求項1に記載の植物抽出物を作製する方法。
【請求項42】
前記温度が約50℃〜80℃である、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記温度が約75℃である、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
モクセイ科トウネズミモチ属の植物からある量の植物物質を得るステップ、および約25℃〜約78℃の温度で該植物物質とエタノールを含む抽出媒体とを接触させるステップ、および該植物物質から該抽出媒体を分離するステップを含む、請求項1に記載の植物抽出物を作製する方法。
【請求項45】
前記温度が約50℃〜78℃である、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記温度が約75℃である、請求項44に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−535815(P2010−535815A)
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−520329(P2010−520329)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【国際出願番号】PCT/US2008/072651
【国際公開番号】WO2009/021196
【国際公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(507200569)バイオノボ・インコーポレーテッド (24)
【Fターム(参考)】