説明

モケット布

【課題】拭き取り性の高い両面カットパイルモケット布を提供する。
【解決手段】本発明の両面カットパイルモケット布(20)は、地組織の表面にパイル糸(22)がカットされ立毛しており、前記パイル糸(20)は単繊維繊度1deci tex以下のポリエステルマルチフィラメント捲縮加工糸で構成され、前記パイル糸(20)は解繊され、捲縮形態を有して前記地組織の両面に立毛しており、前記地組織の緯糸は部分的に引き抜かれており、前記引き抜かれた部分の立毛パイル糸は、その他の部分に比べて相対的に立毛密度が低く、畝形状(25)を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両面カットパイルモケット布に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から両面パイル織物はよく知られている。例えば特許文献1には、地組織として撚り止めした糸を使用し、製織後に撚りを戻してパイル抜けを防止したパイル織物を提案されている。特許文献2には、地組織の緯糸を引き抜くことなく両面パイル織物を製織することが提案されている。特許文献3には、パイル織物の裏面をガーゼ風合いの平組織にすることが提案されている。特許文献4には、両面パイルの表裏のパイルを異ならせた織物が提案されている。その他、特許文献5〜7には、パイル抜けを防止したパイル織物が提案されている。
【0003】
しかし、従来の両面パイルは食器洗い、掃除用クロス、パチンコ玉磨き用コンベアー生地などのワイピングクロス、バスローブやタオルとして使用するには、拭き取り性が低いという問題があった。
【特許文献1】特開2006−283220号公報
【特許文献2】特開2002−194660号公報
【特許文献3】特開2005−232602号公報
【特許文献4】特開2000−355847号公報
【特許文献5】特開2000−314048号公報
【特許文献6】特開2000−220059号公報
【特許文献7】特開2000−027050号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、拭き取り性の高い両面カットパイルモケット布を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の両面カットパイルモケット布は、地組織の表面にパイル糸がカットされ立毛しているモケット布であって、前記パイル糸は単繊維繊度1deci tex以下のポリエステルマルチフィラメント捲縮加工糸で構成され、前記パイル糸は解繊され、捲縮形態を有して前記地組織の両面に立毛しており、前記地組織の緯糸は部分的に引き抜かれており、前記引き抜かれた部分の立毛パイル糸は、その他の部分に比べて相対的に立毛密度が低く、畝形状を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の両面カットパイルモケット布は、パイル糸の単繊維繊度が1deci tex以下のポリエステルマルチフィラメント捲縮加工糸で構成され、解繊され、捲縮形態を有して前記地組織の両面に立毛しており、前記地組織の緯糸は部分的に引き抜かれており、前記引き抜かれた部分の立毛パイル糸は、その他の部分に比べて相対的に立毛密度が低く、畝形状を有することにより、拭き取り性が高い効果を発揮する。すなわち、立毛を構成するパイル糸の単繊維繊度が極細であるため、拭き取り物体(固体又は液体を含む)に対する接触面積が広くなり、拭き取り性は良好となる。また、立毛パイル糸は解繊されていることにより、同様の理由で拭き取り性は良好となる。また、捲縮形態を有していることにより、同様の理由で拭き取り性は良好となる。さらに、畝形状を有していることにより、立毛パイル糸の側面も拭き取りに寄与し、拭き取り性は良好となる。加えて、汚れ面に汚れ物が残らず、軽い力で汚れが除去できる。以上のとおり、各構成要素が相俟って、その相乗効果により、拭き取り性は良好となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のモケット布は、地組織が上下2面に形成され、この地組織間にパイル糸が接結され、パイル糸の中間部を切断することにより、2枚のパイル織物を形成する。これにより、地組織の一表面にパイル糸が立毛しているモケット布となる。その後、地組織の緯糸を部分的に引き抜く。これにより地組織の他の表面にもパイル糸が立毛される。前記引き抜かれた部分の立毛パイル糸は、その他の部分に比べて相対的に立毛密度が低く、畝形状を形成する。ここで「畝」とは、列状の凹凸をいう。
【0008】
パイル糸は単繊維繊度1deci tex(deci texは長さ1万m当たりの質量)以下のポリエステルマルチフィラメント捲縮加工糸で構成されている。繊度が1deci tex以下であれば、拭き取り性は良好となる。下限値は0.01deci tex程度である。このような極細繊維は分割型複合繊維を使用して、分割することにより得られる。非分割繊維の場合は、0.3〜1deci texの範囲が好ましい。
【0009】
パイル糸は、長繊維であるポリエステルマルチフィラメント捲縮加工糸に実撚を掛け、軽いヒートセットして撚りを一時的に仮固定しておく。ヒートセットは80〜100℃程度のスチーム又は乾熱を使用するのが好ましい。これにより実撚は仮固定され、両面立毛モケット布とした後に、いずれかの工程で前記撚り留めのヒートセットより高い温度で熱処理することにより、熱収縮と捲縮を発現させる。これにより拭き取り性を更に向上できる。
【0010】
ポリエステルマルチフィラメント捲縮加工糸の実撚数は、繊度にもよるが、100〜400回/mの範囲であることが好ましい。ポリエステルマルチフィラメント捲縮加工糸のトータル繊度は、200〜500deci texが好ましい。
【0011】
両面立毛モケット布の立毛長さは、2〜7mmの範囲が好ましく、更に好ましくは3〜6mmの範囲である。この範囲であれば、立毛性と拭き取り性が良好である。
【0012】
地組織はポリエステル紡績糸を使用することが好ましい。立毛を含めて全体がポリエステルであれば、形態安定性はよく、耐久性も高い。加えて、紡績糸は抜け毛の発生を少なくできる。
【0013】
地組織は、例えば平組織とし、パイル糸を地組織の糸にU字形又はW字形に絡ませるのが好ましい。
【0014】
本発明の両面立毛モケット布は、製織工程と、緯糸抜き工程と、両面シャーリング工程と、水洗工程と、タンブラー乾燥工程と、テンターによるセット工程により製造できる。前記水洗工程の前後で、抗菌加工、消臭加工、染色加工することもできる。
【0015】
前記両面シャーリング工程では、パイル糸はカットして毛足をそろえる。水洗工程とタンブラー乾燥工程で撚りは戻り、解繊され、極細繊維にばらける。これを毛割りともいう。別に独立して毛割り処理してもよい。また、前記タンブラー乾燥工程では、立毛パイル糸は熱収縮と捲縮を発現する。
【0016】
両面カットパイルモケット布の周囲は、縁縫いされていてもよいし、溶断されていてもよい。これにより地組織のほつれを防止できる。風合いを軟らかくする観点からすると縁縫いが好ましい。縁縫いは、地組織の周囲をかがり糸でオーバーロック縫いする方法、又はヘムと呼ばれる縁縫いを採用できる。
【0017】
本発明の両面カットパイルモケット布は、食器洗い、掃除用クロス、パチンコ玉磨き用コンベアー生地などのワイピングクロス、バスローブ、バスタオル、フェイスタオル、洗髪タオル、ハンカチ、めがね拭き、ガラス磨き布、靴磨き布、自動車の洗浄布、ワックス塗布布などの拭き取り用途に好適である。
【実施例】
【0018】
以下実施例を用いて、さらに本発明を具体的に説明する。本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0019】
(実施例1)
(1)パイル糸
ポリエチレンテレフタレート(PET)ウーリー加工糸繊度83.3deci tex、144fil.を4本引き揃え、トータル繊度333.3deci tex、576fil.とし、300回/mで実撚りを掛け、100℃で撚り止めセットした。パイル糸の総経糸本数は2,632本とした。
(2)地組織
PET紡績糸20/2(メートル番手20番の糸を2本撚糸)を経糸5,744本とした。
(3)製織
織物幅1400mmとし、筬羽22羽/インチ、緯糸密度55本/インチ、経糸密度44本/インチ、パイル目付け約450g/m2、地組織目付け約400g/m2とした。織物組織は図1A−C、図2A−Bに示す十割(とわり)という組織にした。他に十二割組織でも製織できる。図1A−Cにおいて、P1〜P4はパイル糸、5〜12は経糸、(1)〜(12)は緯糸を示す。緯糸(5)(6)(10)(11)は抜き糸であり、製織後この糸を抜くことにより、カットパイル糸P3,P4が裏面に出ることになる。図2A−Bはパイル糸の上下の動きを説明しており、緯糸(5)(6)(10)(11)を抜くことにより、パイル糸が裏面に出ることを示している。また、図2A−Bの上下カット線は、地組織が上下2面に形成され、この地組織間にパイル糸が接結され、パイル糸の中間部を切断することにより、2枚のパイル織物とする工程を示している。
【0020】
得られた両面立毛モケット布は、両面シャーリングし、水洗し、タンブラー乾燥し、テンターにより熱セットをした。この両面立毛モケット布の模式的断面図を図3に示す。図3において、20は両面立毛モケット布、21は地組織部、22,23は立毛パイル糸である。立毛パイル糸22,23の長さは、タンブラー乾燥前は5mm、タンブラー乾燥により収縮させて最終製品では4mmとした。
【0021】
図4は得られた両面立毛モケット生地20を例えば縦24cm、横24cmに切断し、周囲をかがり糸24でオーバーロック縫いし、食器洗い製品としたものである。点線は、緯糸を抜いた後の畝形状25である。
【0022】
この食器洗い製品を実際に家庭用の食器洗いに使用したところ、洗剤なしでも食器がきれいになり、1月間毎日使用したが破損することなく、拭き取り性も低下することなく使用できた。また家庭の床面掃除用クロスとして1月間実用試験をしたところ、破損することなく、拭き取り性も低下することなく使用できた。また、汚れ面に汚れ物は残らず、力がない女性でもガスコンロなどのしつこい汚れを軽い力で除去できた。
【0023】
(実施例2)
パイル糸としてポリエチレンテレフタレート(PET)ウーリー加工糸繊度180deci tex、288fil.を2本引き揃えて使用した以外は、実施例と同様に両面立毛モケット生地を製造した。得られた両面立毛モケット生地は実施例1と同様に家庭用の食器洗いに使用したところ、洗剤なしでも食器がきれいになり、1月間毎日使用したが破損することなく、拭き取り性も低下することなく使用できた。また家庭の床面掃除用クロスとして1月間実用試験をしたところ、破損することなく、拭き取り性も低下することなく使用できた。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1A−Cは本発明の一実施例におけるモケット布の織物組織図である。
【図2】図2A−Bは同、パイル糸の上下の動きを説明する図である。
【図3】図3は同、モケット布の模式的断面斜視図である。
【図4】図4は同、モケット布を食器洗い布にした斜視図である。
【符号の説明】
【0025】
P1〜P4 パイル糸
5〜12 経糸
(1)〜(12) 緯糸
(5)(6)(10)(11) 抜き糸
20 両面立毛モケット布
21 地組織部
22,23 立毛パイル糸
24 かがり糸によるオーバーロック縫い部
25 畝形状

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地組織の表面にパイル糸がカットされ立毛しているモケット布であって、
前記パイル糸は単繊維繊度1deci tex以下のポリエステルマルチフィラメント捲縮加工糸で構成され、
前記パイル糸は解繊され、捲縮形態を有して前記地組織の両面に立毛しており、
前記地組織の緯糸は部分的に引き抜かれており、前記引き抜かれた部分の立毛パイル糸は、その他の部分に比べて相対的に立毛密度が低く、畝形状を有することを特徴とする両面カットパイルモケット布。
【請求項2】
前記両面カットパイルモケット布の周囲は、縁縫いされている請求項1に記載の両面カットパイルモケット布。
【請求項3】
前記パイル糸の立毛長さが、2〜7mmの範囲である請求項1又は2に記載の両面カットパイルモケット布。
【請求項4】
前記パイル糸は、分割型複合繊維を分割したもの又は非分割繊維である請求項1〜3のいずれか1項に記載の両面カットパイルモケット布。
【請求項5】
前記地組織はポリエステル紡績糸である請求項1〜4のいずれか1項に記載の両面カットパイルモケット布。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−13529(P2009−13529A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−176641(P2007−176641)
【出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(506419098)
【Fターム(参考)】