説明

モジュール式頸部型プロテーゼ要素及びプロテーゼ集合体

【課題】当該技術の現状における短所を解決し、特に、プロテーゼ要素及び同要素を有する大腿プロテーゼ集合体を提供する。
【解決手段】本発明は、長尺状且つテーパ形状を有する軸部1を備えるモジュール式大腿プロテーゼ要素に関する。軸部1は長手方向軸線XXに対して軸線方向に対称形状を成す骨幹下部1aと、骨幹端部1bの平坦面20と直交する長手方向軸線YYにより画定される長尺状横断面を有する凹部2が設けられた骨幹端上部1bとにより構成される。凹部2は平坦面20に設けられると共に、対応する形状を有する頸部を収容するよう形成されている。平坦面20は長手方向軸線XXに対して39度±2度で傾斜しており、骨幹端部は凹部2に横方向に対向して配置された肉厚部3を備え、凹部2は平坦面20の下縁に向かって軸線がオフセットしている。プロテーゼ要素集合は、前述の要素と、凹部2内に直接適合可能な少なくとも1つの頸部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体内に固定される大腿プロテーゼの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、股関節プロテーゼは、基本的に、大腿骨の髄管に導入されるのに適した幹部又は軸部と、腸骨の寛骨臼と協働するように設けられたカップを直接的又は間接的に収容すべく配置された頸部とを備える。
基本的に、3つの型のプロテーゼが知られている。第1の型は、一般に「モノブロック」と呼ばれ、一体形成された軸部、頸部、及び球状ヘッドを備える。第2の型のプロテーゼは固定頸部型、第3の型はモジュール式頸部型と呼ばれる。固定頸部型プロテーゼでは幹部と頸部とが一体形成されているが、モジュール式頸部型プロテーゼは、基本的に、2つのピース、即ち、長尺状ピース(軸部又は幹部とも呼ばれる)及び頸部にて形成されている。より詳しくは、モジュール式頸部型プロテーゼでは、頸部は異なる方法で幹部上に適合され得る。後者2つの型のプロテーゼでは、プロテーゼヘッドは頸部及び軸部とは独立である。
【0003】
固定頸部型プロテーゼについては、例えば、特許文献1に記載されているように、幹部と頸部とは、局所的な延出部分を有する特殊な形状のプレートによって連結されており、更に、頸部は、脱臼現象を回避すべく適正な間隙を確保するように空中独楽状に形成されている。
【0004】
また、特許文献2は、幹部の長さは可変であるが、幹部の長手方向軸線と頸部の長手方向軸線との間の角度(頸部−骨幹角度)が固定されている大腿プロテーゼを開示している。プロテーゼのセット又は集合体もまた製造されている。それぞれの集合体に、例えば、1つの頸部−骨幹角度と複数の幹部長さとが関連付けられている。特許文献2に関し且つ記載されている角度は135°、あるいは133°又は132°又はそれ未満であり、一般に、135°が標準値と考えられている。関連付けられている幹部長さは、選択されるプロテーゼに応じて135〜175mmで可変である。プロテーゼはモノブロックであるため、角度−長さの組み合わせは限定的であると理解される。従って、外科医が自由に裁量できるプロテーゼの選択は限られており、このことは、患者の完全な適合を阻止し得る。このようなプロテーゼの最適化は患者独自の規格を設けることによって実現され得るが、このことは特に高コストである。
【0005】
上記の問題に対する既知の解決策として、1つは軸部又は幹部でありもう1つは頸部といった、2つの別個の部分からプロテーゼを形成することがある。このようにすれば、患者の形態に応じて、これら2つの要素の連結を最適にすべく、同要素のそれぞれを独立に製造し選択することが可能になる。
【0006】
特許文献3には、頸部の一部を成すと共に対応する形状の凸部を収容可能な凹部が形成された上部を有する軸部を備えた前述の型のプロテーゼが記載されている。同軸部はテーパ形状を有し、外側に複数の長手方向スリットを備える。更に、凹部は、頸部の凸部と同様に、楕円状の横断面を有する。同プロテーゼの姿勢の効果として、2つのピースは、組付け後は互いに強固に連結され、それによって、プロテーゼの最終的な後退が困難になる。
【0007】
同型のプロテーゼが、本出願人によって、2008年1月2日に出願された特許文献4に記載されている。特許文献4は、患者の形態に完全に適合させるように軸部及び長尺状のコーンを連結することに関する。更に、同プロテーゼは、特に、軸部上部の円柱状凹部の底部に設けられたネジ山付き開口部によって、インプラントの容易な後退を許容する。同プロテーゼで有利な別の要素は、軸部のそれぞれが、長手方向寸法において、他の軸部及び頸部とは異なり得ることである。また、選択された組み合わせにかかわらず、頸部−骨幹角度が標準的に135°に固定され、一定である。
【0008】
頸部−骨幹角度によって摩耗の問題が生じると共に、プロテーゼの回転中心の最適化が不可能になることから、殆どの場合、同角度は極めて重要であることが確認されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】仏国特許発明第2667785号明細書
【特許文献2】仏国特許出願公開第2784576号明細書
【特許文献3】欧州特許第0310566号明細書
【特許文献4】仏国特許出願第08/00013号明細書(仏国特許出願公開第2925842号明細書)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、当該技術の現状における短所を解決し、特に、プロテーゼ要素及び同要素を有する大腿プロテーゼ集合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
同目的を達成するために、長尺状且つテーパ形状を有する軸部を備えるモジュール式大腿プロテーゼ要素が提供される。軸部は長手方向軸線XXに対して軸線方向に対称形状を成す骨幹下部と、骨幹端部の一面と直交する第2の長手方向軸線YYにより画定される長尺状横断面を有する凹部が設けられた骨幹端上部とにより構成される。凹部は平坦面に設けられると共に、長尺状且つテーパ形状を有する軸部を備えるモジュール式大腿プロテーゼ要素が提供され、前記凹部は対応する形状を有する頸部を収容するように設けられている。
【0012】
本発明の一態様によると、前記凹部が開口する平坦面は長手方向軸線XXに対して39度±2度で傾斜しており、骨幹端部が長手方向軸線XXに対して当該凹部に対向して配置された肉厚部を備え、凹部は平坦面の下縁に向かい軸線がオフセットに配置されている。
【0013】
平坦面の「下縁」とは、骨幹下部に最も近い位置に配置された縁部を指す。
前述のように骨幹端部の重力中心を前記肉厚部に向かってオフセットすることにより、骨幹端部の下縁近傍に配置された凹部を考慮に入れても、機械的な抵抗を最適化することができる。上記のように構成されたプロテーゼ要素は、大脱臼への抵抗を示す。
【0014】
また、前記骨幹端部は、プロテーゼを大腿骨内に陥入させるための陥入ツールを収容し得るように、軸線XX上又は軸線XX近傍に設けられた半球形状の凹部を備えることが好ましい。
【0015】
また、骨幹端部は長手方向軸線XXと直交する頂面を有してもよく、同頂面は、患者の大腿骨の髄管に軸部を挿入するためのインパクト面を形成する。
更に、長尺状断面を有する前記凹部は、円筒形状を有するネジ山付き開口部によって、内部が延長されている。この特徴によって、移植先の骨に対する軸部の容易な抜出が許容される。
【0016】
好ましくは、長尺状断面を有する凹部は、長手方向軸線YYに対して軸線方向に対称形状を成す。
また、本発明は、1つのプロテーゼ要素又は軸部と、同プロテーゼ要素に選択的に連結され得る少なくとも3つの頸部とを備える大腿プロテーゼ要素集合体を目的とし、当該プロテーゼ要素に連結された際、同3つの頸部のうち2つが異なる長手方向寸法を有し、3つの頸部のうち2つが長手方向軸線YYに対して異なる角度配向を有する。
【0017】
好ましくは、頸部のそれぞれが、軸部の凹部内に収容されるべき第1の端部と大腿骨頭を受け得ると共に長手方向軸線ZZを有する第2の部分とを備え、頸部がプロテーゼ要素に連結された際、長手方向軸線ZZが長手方向軸線XXと共に114度から144度の間の頸部−骨幹角度を成すように、当該第2の部分は当該第1の部分に対して位置決めされる。好ましくは、頸部−骨幹角度は129度である。
【0018】
好ましくは、要素及び頸部の少なくとも1つはチタンで形成される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の軸部によって、多数の頸部が適合可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の好適な一実施形態におけるプロテーゼ要素を示す長手方向断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のその他の特徴及び長所は、添付図面を参照し、以下の記載を読むことによって明らかになる。
より明確な理解のために、同一又は類似の要素には、図面及び後続の説明において同一の参照符号を付与する。
【0022】
図1に、本発明のプロテーゼ要素、詳しくは軸部を示す長手方向断面図である。幾何学的軸線XXに沿って画定される軸部は、テーパ形状を有すると共に、一般に、骨幹部と呼ばれる下部1aを備え、例えば、円錐形状の端部を有する。より詳細には、下部1aは長手方向軸線XXに対して軸線方向に対称形状を成す。スリット及び/又は溝(図示せず)は、後述するように、軸部がコーンに連結された後のプロテーゼの回転を阻止すべく、同軸部の外壁に形成され得る。
【0023】
更に、軸部は、凹部2が開口する面20と対向するような軸心合わせを施されていない長手方向軸線YYによって画定される長尺状の凹部2を有する、骨幹端部と呼ばれる上部1bを備える。軸線YYは面20と直交し、面20の下部に向かってオフセットする。
【0024】
また、図1に示すように、骨幹端部1bは、長手方向軸線XXに対して凹部2に対向して配置される肉厚部3を備える。これにより、骨幹端部1bの重力中心は同肉厚部の方に移動し、骨幹端部1bにおける機械的な脆弱化が低減する。
【0025】
更に、面20は、長手方向軸線XXに対して39°±2°に等しい角度で下部1aに向かって傾斜している。同傾斜は、軸線XXと軸線YYとの間の129°±2°の角度、即ち、一般に、頸部−骨幹角度と呼ばれる角度に対応する。
【0026】
前述の配置によって、軸部を可変長さ及び角度を有する複数の型の頸部に連結することが可能になることから、上記の配置は、モジュール式頸部型プロテーゼの場合に特に有利である。
【0027】
従って、凹部2の横断面に適合された長尺状の横断面を有する頸部が、凹部2に収容され得る。
点H1、点H2、及び点H3によって示すように、異なる高さの頸部は、組み付けられた状態のプロテーゼの良好な姿勢又は機能性のいずれにも影響を及ぼすことなく、軸部1に連結され得る。
【0028】
同様に、本発明の軸部は、凹部2の外側における長手方向軸線が凹部2の長手方向軸線YYと合流しない頸部との結合も可能にする。この態様を、角度を示す矢印F1,F2,F3,及びF4によって示す。組み付けられた状態におけるプロテーゼのモジュール性にとって非常に有利であるこのような可能性によって、いかなる不都合ももたらされることはない。
【0029】
その結果、本発明の軸部によって、多数の頸部が適合可能になる。
有利なことに、骨幹端部1bの頂面30は軸部1の長手方向軸線XXと直交するように配向されている。また、頂面30上には、患者の大腿骨軸線において軸部1の中心を自動的に決定すべく形成された陥入ドーム4が設けられてもよい。
【0030】
本発明の範囲を逸脱することなく、ドーム4は、プロテーゼの移植後はリッドによって保護される円筒状の穿孔であってもよい。このような配置によって陥入及び抜出が共に許容され、リッドによってネジ山が線維の成長から保護される。
【0031】
別例として、例えば、円筒状のネジ山付き開口部5によって凹部2の内部を延長することによって、抜出を可能にしてもよい。これによって、頸部が軸部1から離間した後、容易且つ信頼性の高い方法で軸部を抜出すべく、適合された任意のツールをネジ山に係合させることが出来る。この別例では、特に、患者の体内にプロテーゼを移植する間、凹部2内に頸部の一部が存在することによって、ネジ山付き開口部5があらゆる外部汚染から確実に保護されるという点で、同別例は有利である。
【0032】
プロテーゼを構成する要素はチタンで形成されてもよい。また、ステンレス及びクロム−コバルト合金を用いてもよい。
実例として、50〜70mmの間の凹部長手方向寸法に対して、軸部の長手方向寸法は125〜170mmであり得る。
【0033】
角度F1〜F4の数値は、114°〜144°の間で変更されてもよい。
頸部に関しては、頸部の総長手方向寸法は軸線に沿って約18mmの範囲で可変である。
【符号の説明】
【0034】
1…軸部、1a…骨幹下部、1b…骨幹端部(骨幹上部)、2…凹部、3…肉厚部、4…ドーム、5…開口部、20…面、30…頂面、XX,YY…長手方向軸線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状且つテーパ形状を有する軸部(1)を備えるモジュール式大腿プロテーゼ要素において、前記軸部(1)は長手方向軸線XXに対して軸線方向に対称形状を成す骨幹下部(1a)と、骨幹端部(1b)の平坦面(20)と直交する第2の長手方向軸線YYにより画定される長尺状横断面を有する凹部(2)が設けられた骨幹端上部(1b)とにより構成され、前記凹部(2)は前記平坦面(20)に設けられるとともに、対応する形状を有する頸部を収容するよう設けられており、当該凹部(2)が開口する平坦面(20)は長手方向軸線XXに対して39度±2度で傾斜しており、骨幹端部(1b)が長手方向軸線XXに対して凹部(2)に対向して配置された肉厚部(3)を備えることを特徴とするプロテーゼ要素。
【請求項2】
前記骨幹端部(1b)は、プロテーゼを大腿骨内に陥入させるための陥入ツールを収容し得るように、長手方向軸線XX上又は長手方向軸線XX近傍に設けられた半球形状の凹部(4)を更に備えることを特徴とする、請求項1に記載のプロテーゼ要素。
【請求項3】
前記骨幹端部(1b)は長手方向軸線XXと直交する頂面(30)を有することを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のプロテーゼ要素。
【請求項4】
長尺状断面を有する前記凹部(2)は、円筒形状を有するネジ山付き開口部によって、内部が延長されていることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のプロテーゼ要素。
【請求項5】
長尺状断面を有する前記凹部(2)は長手方向軸線YYに対して軸線方向に対称形状を成すことを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のプロテーゼ要素。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載のプロテーゼ要素と、前記プロテーゼ要素に選択的に連結され得る少なくとも3つの頸部とを備える大腿プロテーゼ要素集合体において、当該プロテーゼ要素に連結された際、前記3つの頸部のうち2つが異なる長手方向寸法を有し、3つの頸部のうち2つが長手方向軸線YYに対して異なる角度配向を有する、集合体。
【請求項7】
頸部のそれぞれが、軸部(1)の凹部(2)内に収容されるべき第1の端部と、大腿骨頭を受容可能であると共に長手方向軸線ZZを有する第2の部分とを備え、頸部がプロテーゼ要素に連結された際、長手方向軸線ZZは長手方向軸線XXとともに114度から144度の間の頸部−骨幹角度を成すように、当該第2の部分は第1の部分に対して位置決めされることを特徴とする、請求項6に記載の集合体。
【請求項8】
頸部−骨幹角度が129度であることを特徴とする、請求項7に記載の集合体。
【請求項9】
前記要素(1)及び前記頸部の少なくとも1つはチタンで形成されることを特徴とする、請求項6〜請求項8のいずれか一項に記載の集合体。

【図1】
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【公開番号】特開2011−194229(P2011−194229A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59602(P2011−59602)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(505257763)セラム コンセプト エル.エル.シー. (4)
【氏名又は名称原語表記】CERAM CONCEPT L.L.C.
【住所又は居所原語表記】113 Barksdale,Professional Center,Newark,DE 19711−3258 U.S.A.
【出願人】(511070237)
【氏名又は名称原語表記】Jerome LACROIX
【出願人】(511070248)
【氏名又は名称原語表記】Edouard DECRETTE
【出願人】(511070259)
【氏名又は名称原語表記】Christophe JARDIN
【出願人】(511070260)
【氏名又は名称原語表記】Franck MABESOONE
【出願人】(511070282)
【氏名又は名称原語表記】Slawomir Stefan PROCYK
【出願人】(511070293)
【氏名又は名称原語表記】Ali MAJED
【出願人】(511070307)
【氏名又は名称原語表記】Jean−Louis BENSADOUN
【出願人】(511070329)
【氏名又は名称原語表記】Christophe CATIMEL
【出願人】(511070330)
【氏名又は名称原語表記】Philippe LESAGE
【Fターム(参考)】