説明

モノ−6−O−p−トルエンスルホニルシクロデキストリンの新規製造法

【課題】 本発明の課題は温和な条件下,効率良く,経済的にモノ−6−O−p−トルエンスルホニルシクロデキストリンを製造せしめることにある。
【解決手段】 上記課題解決のため,γ−ピコリンを溶媒として選択し,6−p−トルエンスルホニルクロリドをp−トルエンスルホニル化剤として用い,シクロデキストリンと反応させ,また,精製工程においては,反応混合物をアセトンに加えた。これらを行うことで簡便にモノ−6−O−p−トルエンスルホニルシクロデキストリンの粗生成物を得ることができた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はモノ−6−O−p−トルエンスルホニルシクロデキストリンの効率的合成法に関するもので,機能性材料,分析化学,有機合成化学の属する分野,およびその他の分野で要求されている高機能性ホスト化合物の合成に供するものである。
【背景技術】
【0002】
シクロデキストリンはグルコースがα−1,4グリコシド結合した環状オリゴ糖で,下記式で示され,その形状は円錐台形をしている。また,その内側は三次元的な空孔を有している。
【0003】
【化1】

(nは1,2,3から選ばれる整数)
【0004】
構成するグルコースの数が6分子から成るものはα−シクロデキストリン,7分子から成るものはβ−シクロデキストリン,8分子から成るものはγ−シクロデキストリンと呼ばれ,その空孔の内径はグルコースの数により変化し,α−シクロデキストリンでは0.45nm,β−シクロデキストリンでは0.70nm,γ−シクロデキストリンでは0.85nmである。空孔の深さはグルコースの大きさにより決まるため,いずれも0.78nmである。空孔の狭い口はグルコースの6位の第1級水酸基が,広い口は2,3位の第2級水酸基が存在し,コンホメーションが固定されている。そして,シクロデキストリンはこの空孔に適した特定のゲスト分子を取り込み,包接化合物を形成する。この性質は種々の形で,多方面で利用されている。例えば,香料をシクロデキストリンに包接させ,徐々に揮発させて香りを持続させたり,疎水性の化合物をシクロデキストリンに包接させ,水に溶解させることができる。
近年,シクロデキストリンの持つゲスト分子に対する認識能を変化させ,より厳密な分子認識を行わせることを目的として,あるいはシクロデキストリンに新たな機能を付加することを目的として修飾シクロデキストリンが盛んに合成され,活発に研究されている。例えば,上野らはβ−シクロデキストリンの7つの第1級水酸基の1つをp−トルエンスルホニル基を経てアミノ基に変え,このアミノ基にメチルレッドを導入し,水中の有機化合物を比色定量している[A.Ueno,T.Kuwabara,A.Nakamura,F.Toda,Nature,356,136(1992)]。Samalらはガン転移抑制効果など医療分野での応用が期待される水溶性C60としてシクロデキストリンアザフラーレンの合成法を報告している。それによれば,シクロデキストリンの第1級水酸基の1つをp−トルエンスルホニル基を経てアミノ基に変え,次いでアジドとした後,C60を反応,結合させ,水溶性C60を得ている[S.Samal,K.E.Geckeler,Synth.Commun.,32,3367(2002)]。また,Michaelらは牛の膵臓由来のトリプシンをシクロデキストリンの第1級水酸基に導入し,トリプシンの安定性を向上させている[F.Michael,F.Alex,C.Roberto,V.Reynaldo,J,Mol,Catal B,Enzyme,21,133(2003)]。
【0005】
このようにシクロデキストリンの化学修飾が活発に行われ,数多くの修飾シクロデキストリンが開発,報告されている。こうした修飾シクロデキストリンの中で,最も基本的な修飾シクロデキストリンとして第1級水酸基の1つを化学修飾したモノ置換シクロデキストリンが挙げられる。このモノ置換シクロデキストリンを合成するための有用な中間体としてモノ−6−O−p−トルエンスルホニルシクロデキストリンが挙げられ,多方面で利用されている。モノ−6−O−p−トルエンスルホニルシクロデキストリンの合成法としては,例えば,Meltonらはα−シクロデキストリン,p−トルエンスルホニルクロリドをピリジンに溶解,反応させ,モノ−6−O−p−トルエンスルホニル−α−シクロデキストリンを得ている[L.D.Melton,K,N.Slessor,Carbohydr.Res.,18,29(1971)]。Bradyらはβ−シクロデキストリンとp−トルエンスルホニルクロリドを水酸化ナトリウム水溶液中で反応させ,収率25%でモノ−6−O−p−トルエンスルホニル−β−シクロデキストリンを得ている[B.Brady,N.Lynam,T.O’SulLivan,C.Aharn,R.Darcy,Org.Synth.,77,220(2000)]。Byunらはβ−シクロデキストリンと6−p−トルエンスルホニルイミダゾールを水酸化ナトリウム水溶液中で反応させ,収率40%でモノ−6−O−p−トルエンスルホニル−β−シクロデキストリンを得ている[H.−S.Byun,N.Zhoung,R.Bittman,Org.Synth,,77,225(2000)]。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のようにモノ−6−O−p−トルエンスルホニルシクロデキストリンを得る優れた合成法が報告されている。しかしながら,Meltonらの方法はα−シクロデキストリン1gに対し,使用するピリジンは200mlと極めて多く,大量合成には不向きである。また,反応終了後,反応混合物に水を加え,ピリジンと共に留去する操作をピリジン臭が無くなるまで繰り返す必要があり,簡便な方法とは言い難い。Bradyらの方法は水酸化ナトリウム水溶液中でシクロデキストリンとp−トルエンスルホニルクロリドを反応させるもので,簡便な方法と言える。しかしながら,その収率は25%と低く,到底満足できるものではない。Byunらの方法は収率40%と良好な収率であるが,p−トルエンスルホニル化剤として比較的高価なp−トルエンスルホニルイミダゾールを4モル当量も使用している。経済的な方法と言い難く,到底満足できるものではない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで,発明者は鋭意研究を重ね,本発明を完成するに至った。本発明は簡便で,しかも量産化可能な経済的なモノ−6−O−p−トルエンスルホニルシクロデキストリンの合成法に関するもので,下記反応式1で示される。
【0008】
【化2】

【0009】
(上記式において,nは1,2,3の整数から選ばれ,Tsはp−トルエンスルホニル基を示す)
【0010】
第1工程はγ−ピコリンとシクロデキストリンを反応,結合させる工程である。具体的にはγ−ピコリンにシクロデキストリンを溶解させ,この溶液にp−トルエンスルホニルクロリドを加え,反応させる。この時の反応温度は−20℃から100℃の間で適宜選択されるが,好ましくは0℃から室温の間で選択される。反応時間は反応温度,p−トルエンスルホニルクロリドとシクロデキストリンの濃度により異なるが,30分から12時間の間で適宜選択されるが,通常,1時間から5時間の間で選択される。第2工程はモノ−6−O−p−トルエンスルホニルシクロデキストリンの精製工程である。反応終了後,反応混合物をアセトンに加え,モノ−6−O−p−トルエンスルホニルシクロデキストリンの粗生物を析出せしめる。この粗生物をカラム精製することで目的とするモノ−6−O−p−トルエンスルホニルシクロデキストリンの白色粉末を収率35%で得ることができる。
【0011】
Meltonらの方法において,シクロデキストリン1gに対し,反応溶媒としてピリジン200mlを必要としている。それに対し,本発明に係る方法ではシクロデキストリン1gに対してγ−ピコリン10mlと極めて少量である。このことは大量合成を行う上で極めて重要である。また,精製工程において,本発明に係る方法ではアセトンに反応混合物を加えることで,粗生物を得ることができる。Bradyらの方法では収率25%であるが,本発明に係る方法では収率35%と1.4倍の収率である。Byunらの方法ではp−トルエンスルホニル化剤として比較的高価なp−トルエンスルホニルイミダゾールを4モル当量使用しているが,本発明に係る方法では安価なp−トルエンスルホニルクロリドを2モル当量使用することでp−トルエンスルホニル化を行うことができる。
【発明の効果】
【0012】
上記のように,従来から知られている合成法と比較し,本発明の合成法は優れた特徴を有し,特有の効果を有する。例えば,Meltonらの方法と比較して溶媒量を20分の1にすることができ,Bradyらの方法と比較して1.4倍の収率であり,Byunらの方法と比較して安価なp−トルエンスルホニル化剤を用いて2分の1の量で目的物を得ることができる。溶媒量の減少は大量合成を可能にし,また,安価なp−トルエンスルホニル化剤の使用と簡便な合成法は経済的なモノ−6−O−p−トルエンスルホニルシクロデキストリンの合成法と言える。
【実施例】
【0013】
以下に本発明の好ましい実施例を示し,本発明の有用性を明らかにする。これは例示のためであって,本発明を限定するものではない。
【0014】
実施例1モノ−6−O−p−トルエンスルホニル−α−シクロデキストリンの合成
α−シクロデキストリン50gをγ−ピコリン500mlに溶解させ,5℃以下に冷却し,p−トルエンスルホニルクロリド20gを加え,室温にて3時間攪拌する。反応混合物に少量の水を加え,その後,この反応混合物をアセトン3500mlに加え,析出物としてモノ−6−O−p−トルエンスルホニル−α−シクロデキストリンの粗生成物を得る。この粗生成物をアセトン500mlで洗浄した後,カラム精製を行いモノ−6−O−p−トルエンスルホニル−α−シクロデキストリンの白色粉末20.3gを得た。この時の収率は35.1%であった。
【0015】
得られたモノ−6−O−p−トルエンスルホニル−α−シクロデキストリンの物性値を示す。
融点:159−162℃(分解),元素分析値[理論値(C436632S)C,45.82%;H,5.90%;S,2.84%]:実測値C,45.64%;H,5.69%;S,2.72%,比旋光度[α]=111°(c0.41,HO)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式
【化1】

(nは1,2,3の整数から選ばれる)で示されるシクロデキストリンをγ−ピコリンに溶解させ,p−トルエンスルホニルクロリドを加え,反応させ,少量の水を加えた後,反応混合物をアセトンに注ぎ,下記構造式
【化2】

(.Tsはp−トルエンスルホニル基を示し,nは1,2,3の整数から選ばれる)で示されるモノ−p−トルエンスルホニル基で置換されたシクロデキストリンを析出せしめることを特徴とするモノ−6−O−p−トルエンスルホニルシクロデキストリンの製造方法。

【公開番号】特開2006−45480(P2006−45480A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−254968(P2004−254968)
【出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(591105993)東京化成工業株式会社 (24)
【Fターム(参考)】