説明

モノシランを製造するための設備および方法

【課題】トリクロロシラン(SiHCl)を接触的に不均化することによりモノシラン(SiH)を製造するための設備および方法を提供する。
【解決手段】トリクロロシランが触媒と接触して反応塔(100)中で変換され、次いで精留塔(109)中で精製され、反応塔(100)中の反応および蒸留の反応領域(104、105)と精留塔(109)との間に、反応塔(100)からのモノシラン含有反応生成物が部分的に凝縮される1つ以上のコンデンサー(103)が配置され、このコンデンサー(103)のどれもが−40℃より高い温度で操作される、前記設備および前記設備を用いる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリクロロシラン(SiHCl)の接触的不均化によりモノシラン(SiH)を製造するための設備、およびその設備で実施され得る付随する方法に関する。
【0002】
高純度シリコンは通常比較的高い比率の不純物を含有することのある金属シリコンから進む多段工程で製造される。金属シリコンを精製するためには、金属シリコンを例えばトリクロロシリコン(SiHCl)のようなトリハロシリコンに変換する。トリハロシリコンは、続いて熱的に分解されて高純度シリコンができる。そのような方法は、例えばドイツ特許第2919086号により公知である。あるいは、高純度シリコンは例えばドイツ特許第3311650号に記載されているように、モノシランの熱的分解によっても得ることができる。
【0003】
モノシランは、特にトリクロロシランの不均化によって得ることができる。後者のトリクロロシランは同じく、例えば金属シリコンと四塩化ケイ素および水素との反応によって製造することができる。
【0004】
他の複数の公報の中でドイツ特許第19860146号は、反応および蒸留の原理によってトリクロロシランの不均化が進むことを開示している。反応および蒸留は、1つの装置、特に1つの塔の中での反応と蒸留分離との組合せによって特徴付けられる。この装置の中では、装置の各空間構成要素の中で複数の低沸点成分又は最も低い沸点成分の平衡状態含有量と実際の含有量との最適勾配を常に保つことを試みながら、その都度最も低い沸点成分が連続的に蒸留によって除かれる。
少なくとも部分的に触媒活性固体で充填された反応および蒸留(反応/蒸留)の反応領域を有する1つの塔の中でトリクロロシランが四塩化ケイ素およびモノシランに不均化する特定の優先がある。適した固体は、例えばドイツ特許第3311650号に記載されている。
【0005】
ヨーロッパ特許第1268343号は、触媒活性固体を含有する少なくとも2つの反応および蒸留の反応領域の中でトリクロロシランの不均化を行うことを開示している。これは、中間のコンデンサー中の第一の反応および蒸留の反応領域中において、−40℃〜50℃の温度で得られたモノシラン含有の生成物混合物の中間凝縮を含んでいる。この未凝縮の生成物混合物は少なくとも1つのさらなる反応および蒸留の反応領域に移される。下流は、順に分離塔に続く最上部のコンデンサーに接続される。この最上部のコンデンサーは−40℃未満、例えば通常−60℃未満の温度で操作されることさえある。
【0006】
また、類似の方法がヨーロッパ特許第1144307号により公知である。前記公報には、トリクロロシランの不均化で得られたモノシラン含有の生成物混合物が−25℃〜50℃の温度で中間凝縮され、続いて未凝縮の生成物混合物が反応塔の最上部のコンデンサー中で全て凝縮されることが記載されている。このケースでも、さらなる別の分離塔が最上部のコンデンサーの下流に接続され得る。
【0007】
ヨーロッパ特許第1144307号およびヨーロッパ特許第1268343号に述べられている下流の分離塔は特に精留塔である。そのような塔の使用は、得られるモノシランの純度が特に重要であるときには通常必要である。クロロシランのような不純物が原因で下流の精留塔に過度に負担させないために、過去においては前記の中間および最上部のコンデンサーによって実質的な程度まで不純物を除くことが必要であると常に考えられてきた。しかしながら、これは極めて高い装置の複雑さとエネルギー消費と結び付いていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】ドイツ特許第2919086号公報
【特許文献2】ドイツ特許第3311650号公報
【特許文献3】ドイツ特許第19860146号公報
【特許文献4】ヨーロッパ特許第1268343号公報
【特許文献5】ヨーロッパ特許第1144307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、高いエネルギー効率を有していながら装置が簡易である、高純度のモノシランを製造するための技術的な解決策を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は、特許請求の範囲の請求項1の特徴を有するモノシランを製造するための設備、および特許請求の範囲の請求項13の特徴を有するモノシランを製造するための方法によって達成される。
本発明の設備の好適な実施態様は従属する請求項2〜12に規定されている。全ての請求項に係る表現は参照により本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の反応塔、精留塔および精留塔の上流に接続されたコンデンサーを有する設備の略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
モノシランを製造するための本発明の設備は、ヨーロッパ特許第1268343号およびヨーロッパ特許第1144307号に記載の設備に類似していて、トリクロロシランが触媒と接触して不均化され得る反応および蒸留の反応領域を備えた1つの反応塔を有する。前記反応塔は、不均化で形成されたモノシラン含有反応生成物のための1つの出口を含む。この反応生成物は続いて、同様に本発明の設備の一部である精留塔で精製される。
【0013】
本発明の設備は、反応塔の反応および蒸留の反応領域と精留塔との間に、モノシラン含有反応生成物が精留塔で精製される前に部分的に凝縮される1つ以上のコンデンサーを有する。
【0014】
本発明の設備は、反応塔の反応および蒸留の反応領域と精留塔との間に配置された複数のコンデンサーのどれもが−40℃未満の操作温度を有さないことに特に注目すべきである。
【0015】
本発明においては、反応および蒸留の反応領域と精留塔との間の1つ又は複数のコンデンサーの操作温度は好適には−20℃〜−40℃である。この領域内では、−20℃〜−30℃の値がさらに好適である。特に、前記操作温度は約−25℃である。
【0016】
それゆえ、反応塔と精留塔との間の1つ又は複数のコンデンサーは、好適には−40℃より高い、好適には−20℃〜−40℃、特に−20℃〜−30℃、その中でも約−25℃の温度を有する冷却剤で充填されている。この温度範囲に適した冷却剤は当業者に周知である。
【0017】
前記の1つ又は複数のコンデンサーは例えば反応塔の最上部内で統合され得る。しかしながら、反応塔と精留塔との間に1つ以上の別々のコンデンサーを接続することも可能である。
【0018】
これに関連して、本発明の設備が1つより多い反応塔および/又は1つより多い精留塔を有し得ることも当然考えられるということも言及されるべきである。例えば、本発明の設備による変換を増加させるために並行して複数の反応塔と精留塔とを接続することは困難を伴うことなく可能である。また、同様のことが複数の精留塔と複数の反応塔との間に配置される複数のコンデンサーに当てはまる。
【0019】
精留塔と反応塔との間に配置された1つ又は複数のコンデンサーが操作される比較的低い温度の結果として、クロロシラン、特にモノクロロシランがそれらを通り抜けることも可能である。その結果は、精留塔に入るモノシラン含有の生成物混合物が通常かなりの割合のクロロシラン、特にモノクロロシランを有しているということである。
【0020】
精留塔は、好適には反応塔から入るモノシラン含有の又はモノクロロシラン含有の反応生成物が完全に蒸発され得る加熱領域を有している。好適な実施態様において、この加熱領域は0℃〜20℃の温度に設定される。この温度では、四塩化ケイ素又はトリクロロシランのみは蒸発されることがない。しかしながら、これらの2成分は通常上流のコンデンサーを仮に通過するとしてもほんのわずかである。
【0021】
精留塔は、好適には精留塔の加熱領域に直接続く冷却領域を有している。この冷却領域内では、温度が精留塔の加熱領域から始まって徐々に下降する。前記温度が−80℃〜−100℃、好適には約−90℃まで下降することが好適である。精留塔の冷却された領域での圧力は好適には1バール〜5バール、特に2〜3バールである。その温度では、基本的に純モノシランが精留塔を出るように、全てのクロロシランを通常完全に除去できる。さらなる貯蔵の目的のため、このモノシランは、続いて完全に凝縮され得るか又は適切な場合さらに直接さらなる精製に進むかあるいは精製に送られる。しかしながら、そのようなさらなる精製は、極めて高い要求がモノシランの純度になされるときにのみ必要である。驚いたことに、特に上記のおよび下記の反応塔および精留塔のための好適な反応条件に従うときは、−40℃未満の操作温度でクロロシランを除くための上流の複数のコンデンサーがなくても、モノシランを高純度で製造するために1つの精留塔だけで全く可能であることが見出された。
【0022】
そのようなコンデンサーなしで済ますことは様々な利点を生じさせる。先ず、設備が装置の観点から比較的簡素に保ち得る。従来技術により周知のように、−60℃未満の操作のためよりも−25℃での操作のための方がコンデンサーの設計が簡易である。異なる、安価な冷却剤を用い得て、低温冷却装置が必要でなく、そして単離費用が低い。さらに、従来技術により周知の多くの設備と比較して、特に反応塔の最上部に到達するモノシラン含有の生成物混合物の全凝縮が予測される設備と比較して、顕著なエネルギー利益が生じる。このような場合でも精留塔中での下流の精製は避けられず、そしてどのような場合でも凝縮したモノシラン含有生成物は再度蒸発されねばならないであろうから、全凝縮なしで済ますことは疑う余地なく適切である。
【0023】
本発明の設備の好適な実施態様において、精留塔で凝縮されそして除かれたクロロシランを反応塔に戻すことができるように、精留塔はリサイクルラインを通って反応塔に接続される。
【0024】
本発明の設備における反応塔の反応および蒸留の反応領域は、好適な実施態様においては、2つ以上の別々の反応および蒸留の個々の領域で形成され得る。これらは互いに直列および/又は並列に配置され得る。さらに好適には、2つ以上の反応および蒸留の個々の領域は反応塔に重ねて配置されて、この場合には好適には上方の反応領域は下方の反応領域よりも低い温度で操作される。
【0025】
好適な実施態様において、本発明の設備は、2つのそのような個々の領域間に配置された少なくとも1つの中間コンデンサーを有する。そのような中間コンデンサーは、例えば−20℃〜+30℃、好適には0℃〜25℃の温度で操作され得る。例えば、冷却水を用いた室温での操作が可能である。
【0026】
反応および蒸留の反応領域中の温度は通常10℃〜200℃、特には10℃〜150℃の値に設定される。反応塔内の圧力は、好適には1バール〜5バール、特に2バール〜3バールである。個々の反応領域中で設定される温度が大きく異なることはない。
【0027】
また、既に述べたように、モノシランを製造するための方法も本願の主題の一部をなす。また、特に、本発明による方法は本発明の設備において効果的に実施され得る。
【0028】
本発明による方法において、1つの反応および蒸留の反応領域を有する反応塔中でトリクロロシランを変換してモノシラン含有反応生成物を形成する。このモノシラン含有反応生成物を、続いて精留塔内に移す前に少なくとも1つのコンデンサー中で部分的に凝縮し、−40℃未満の温度で操作されるコンデンサーを通過することなく精留塔内で精製する。
【0029】
反応塔、精留塔そして中間コンデンサーの操作パラメーター、およびそれらの最も重要な他の特性は既に前に述べたので、繰り返しを避けるために対応する説明が参照される。
【0030】
本発明のさらなる特徴は、従属項と併せて続く好適な実施態様の記載から明らかである。本明細書では、個々の特徴にとって各々のケースを単独であるいは互いにいくつかを組み合わせて、本発明の実施態様において実施することが可能である。記載された好適な実施態様は、本発明の説明と理解のために単に役立つもので、決して制限的に解釈されてはならない。
【0031】
図1は、反応塔、精留塔および精留塔の上流に接続されたコンデンサーを有する本発明の設備の略図である。
【0032】
図1は、不均化条件下にトリクロロシランが変換され得る反応塔100を示す。トリクロロシランは入口101に通って供給され得る。反応塔は、トリクロロシランを蒸発させるために必要なエネルギーが提供される加熱領域106を有する。実際の変換は、互いに反応塔100の反応および蒸留の反応領域を形成する反応および蒸留の個々の領域104および105中で進行する。触媒的に活性な固体は2つの個々の領域の各々の中に存在する。それゆえ、入口101を通って反応塔に導入されたトリクロロシランは、個々の領域104中の第1段階で変換され、個々の領域105に流出し得るモノシラン含有の生成物混合物を形成する。逆に言えば、高密度で且つ高沸点を有する不均化生成物、例えばテトラクロロシランは下方に降下する。個々の領域105中では、第2のさらなる不均化が進み得て、この場合は変換された反応混合物中のモノシランの比率がさらに増える。最後に、モノシラン含有反応混合物は出口102を通って精留塔109中に移され、その中では反応混合物のさらなる分離が進行し得る。
【0033】
精留塔109と個々の領域105又は反応塔100の反応および蒸留の反応領域との間には、反応塔100の最上部に統合されそして−25℃の温度で操作されるコンデンサー103が配置されている。加えて、反応塔は、個々の領域104および105の間に配置され且つ約20℃の温度で操作される中間のコンデンサー108を有する。
【0034】
精留塔109に入るモノシラン含有の生成物混合物は約0℃の温度で操作される加熱領域110内で蒸発され得る。精留塔の下流の冷却領域では、さらなる分離が進行する。凝縮されたクロロシランはライン111を通って除去される。この場合、凝縮されたクロロシランを反応塔に戻すことができるように、ライン111は反応塔100に接続される。精留塔の最上部では、約−90℃の温度が設定される。ここでは、基本的にモノシランのみが通過可能であり、モノシランはそのさらなる使用のため出口112を通って送り出される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリクロロシランが反応領域中の触媒と接触してモノシラン含有反応生成物に変換される反応および蒸留の反応領域(104、105)、およびモノシラン含有反応生成物のための1つの出口(102)を備えた1つの反応塔(100)、
モノシラン含有反応生成物が精製される精留塔(109)、および
反応塔(100)中の反応および蒸留の反応領域(104、105)と精留塔(109)との間に、モノシラン含有反応生成物が精留塔(109)中で精製される前に部分的に凝縮される1つ以上のコンデンサー(103)
を有するトリクロロシランを接触的に不均化することによりモノシランを製造するための設備であって、
反応および蒸留の反応領域(104、105)と精留塔(109)との間に配置された前記コンデンサー(103)のどれもが−40℃未満の操作温度を有しない、前記設備。
【請求項2】
前記反応および蒸留の反応領域(104、105)と精留塔(109)との間の1つ又は複数のコンデンサー(103)の操作温度が、−20℃〜−40℃、好適には−20℃〜−30℃、特に約−25℃であることを特徴とする請求項1に記載の設備。
【請求項3】
前記1つ又は複数のコンデンサー(103)が、反応塔(100)の最上部に統合されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の設備。
【請求項4】
前記精留塔(109)が、前記反応塔(100)から入るモノシラン含有反応生成物が完全に蒸発され得る加熱領域(110)を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の設備。
【請求項5】
前記加熱領域(110)が0℃〜20℃の温度に設定されていることを特徴とする請求項4に記載の設備。
【請求項6】
前記精留塔(109)が、温度が精留塔(109)の加熱領域(110)から徐々に下降する冷却領域を有することを特徴とする請求項4又は5に記載の設備。
【請求項7】
前記精留塔(109)内の温度が、−80℃〜−100℃、好適には約−90℃に下降することを特徴とする請求項6に記載の設備。
【請求項8】
前記精留塔(109)が、精留塔(109)内で凝縮したクロロシラン含有生成物が反応塔(100)に戻り得るようにリサイクルラインを通って反応塔(100)に接続されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の設備。
【請求項9】
前記反応および蒸留の反応領域が、互いに直列および/又は並列で配置された2つ以上の別個の反応および蒸留の個々の領域(104、105)から形成されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の設備。
【請求項10】
前記反応および蒸留の反応領域が、2つの個々の領域(104、105)の間に配置された少なくとも1つの中間コンデンサー(108)を有することを特徴とする請求項9に記載の設備。
【請求項11】
前記少なくとも1つの中間コンデンサー(108)が、−20℃〜30℃、好適には0℃〜25℃の温度で操作されることを特徴とする請求項10に記載の設備。
【請求項12】
前記反応および蒸留の反応領域(104、105)中の温度が50℃〜200℃の値に設定されていることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の設備。
【請求項13】
トリクロロシラン(SiHCl)を接触的に不均化することによる、特に請求項1〜12のいずれか1項に記載の設備中でモノシラン(SiH)を製造するための方法であって、
トリクロロシランを反応および蒸留の反応領域(104、105)を備えた反応塔(100)中で変換してモノシラン含有反応生成物を形成し、このモノシラン含有反応生成物を、続いて精留塔(109)に移す前に少なくとも1つのコンデンサー(103)中で部分的に凝縮し、−40℃未満の温度で操作されるコンデンサーを通過することなく精留塔(109)中で精製する、前記方法。

【図1】
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【公表番号】特表2013−500927(P2013−500927A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−523306(P2012−523306)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【国際出願番号】PCT/EP2010/061199
【国際公開番号】WO2011/015548
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(510261201)シュミット シリコン テクノロジー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (9)
【Fターム(参考)】