説明

モノシラン生成装置およびモノシラン生成方法

【課題】固体シリコンと水素プラズマとの反応を利用してSiHを生成する際に、パーティクル等の副次生成物の発生率を大幅に低減し、固体シリコンを効率的にSiHガス化することが可能なモノシラン生成装置およびモノシラン生成方法を提供する。
【解決手段】SiH生成装置は、水素ガス雰囲気下で生成した水素プラズマと固体シリコン2とを接触反応させてモノシランを生成する。水素プラズマは、電極1と固体シリコン2との間に電力を印加することにより発生し、固体シリコン2に沿った水素ガスの流れ方向において、水素プラズマが存在する水素プラズマ領域3を通過する水素ガスの水素プラズマ領域滞在時間を、生成したモノシランが水素プラズマ領域3にて分解反応を起こす時間未満とするように制御する制御手段が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素プラズマと固体シリコンとの反応により固体シリコンを高効率にSiHガス化することが可能なSiH生成装置およびSiH生成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モノシラン(SiH)ガスは、シリコン系薄膜を利用した薄膜トランジスタ、超LSI、太陽電池等の電子デバイスを製造するためには必要不可欠なガスであり、非常に有用である。
【0003】
SiHは一般的に、トリクロロシラン(SiHCl)の不均化反応により製造されており、例えば特許文献1にその製造方法が開示されている。SiHClからのSiH生成反応は以下の化学式1で表すことができる。
【0004】
4SiHCl→SiH+3SiCl・・・(化学式1)
前記の反応式から分かるように、原料のSiHClに対するSiHの収率は25%と低く、また、SiHに対し3倍の四塩化ケイ素(SiCl)が副次生成物として生成されてしまう。SiHの収率を上げるためには、SiClを回収しSiHClへ再処理するための大規模な装置および工程、並びに、ノウハウ等が必要となるため、多大なコストおよび労力がかかる。また前記のプロセスは塩素を含むプロセスであるため、塩素腐食に対する設備上の対策が必要であり、また環境負荷が大きいという問題もある。
【0005】
一方、SiHを得る他の方法として、水素プラズマ等で発生させた原子状水素により固体原料Siを処理(エッチング)することにより、直接的にSiHを発生させるという方法が考えられる。例えば非特許文献1では、固体シリコンの水素プラズマエッチングにより、SiHおよびSiH、SiH、SiH等の発生が確認されている。この方法ならば、使用するガスは水素のみであり塩素を用いる必要がないため、前記のような腐食対策および環境負荷といった問題を回避することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭64‐3806号公報(昭和64年1月23日公開)
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Japanese journal of Applied Physics Vol.33(1994)p.L1117‐L1120
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記非特許文献1に係るモノシランの製造方法は、効率的にモノシランを生成することが困難であるという問題点を有している。
【0009】
具体的に説明すると、単純に固体シリコンを水素プラズマ処理した場合、生成されたSiHはプラズマ内に長時間晒されると分解され、SiHやSiHといった短寿命ラジカルが形成されてしまう。この不安定な短寿命ラジカルが原因となり、SiHガスの他に高次シラン(Si2X+2(Xは2以上の整数)、すなわち、Si、Si、・・・)、およびそれらが重合した微粒子(パーティクル)といった形の副次生成物を生成してしまい、効率的にモノシランガスを生成することは困難である。
【0010】
本発明は、前記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、固体シリコンと水素プラズマとの反応を利用してSiHを生成する際に、パーティクル等の副次生成物の発生率を大幅に低減し、固体シリコンを効率的にSiHガス化することが可能なSiH生成装置およびSiH生成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るモノシラン生成装置は、上記課題を解決するために、水素ガス雰囲気下で生成した水素プラズマと固体シリコンとを接触反応させてモノシランを生成するモノシラン生成装置において、固体シリコンに沿った水素ガスの流れ方向において、水素プラズマが存在する水素プラズマ領域を通過する水素ガスの水素プラズマ領域滞在時間を、生成したモノシランが水素プラズマ領域にて分解反応を起こす時間未満とするように制御する制御手段が設けられていることを特徴としている。
【0012】
前記の発明によれば、水素雰囲気下で水素プラズマを生成し固体シリコンと接触させることによりSiHが生成される。SiHはプラズマに長時間晒されると分解し、ラジカルが形成される。このラジカル同士が反応するなどによって、パーティクル等の副次生成物が発生し得る。しかしながら、水素プラズマ領域滞在時間を、SiHが分解反応を起こす時間未満に制御することにより、上記副次生成物の発生を抑制し、SiHの高効率な生成が可能となる。
【0013】
また、本発明に係るモノシラン生成装置では、前記水素プラズマは、電極と固体シリコンとの間に電力を印加することにより発生し、前記制御手段は、水素プラズマ領域への水素ガス供給流量、水素プラズマ領域からの水素ガス吸引流量、上記電極と固体シリコンとの距離、および、固体シリコンに沿った水素ガスの流れ方向に対する水素プラズマ領域の長さのうち少なくとも一つを制御することによって、上記水素プラズマ領域滞在時間を制御することが好ましい。
【0014】
上記制御部が上記制御を行うことによって、容易に水素プラズマ領域滞在時間を制御することが可能である。
【0015】
また、本発明に係るモノシラン生成装置では、前記制御手段は、水素プラズマ生成のための高周波電力をパルス状にて上記電極に出力するように制御することにより、水素プラズマ領域を通過する水素ガスの水素プラズマ領域滞在時間を制御することが好ましい。
【0016】
これにより、水素プラズマが一定期間生成され、次の一定期間には生成されないという状態を形成することができる。そのため、生成したSiHが水素プラズマの影響によって分解され難くなり、副次生成物の生成をより抑制することができる。さらに、生成したSiHが分解され難くなるため、SiHを水素プラズマ領域から脱出させるための水素ガスの流量が小さくてよいという利点ある。
【0017】
また、本発明に係るモノシラン生成装置では、前記制御手段は、前記水素プラズマ領域滞在時間を20μ秒以下となるように制御することが好ましい。
【0018】
水素プラズマ領域滞在時間の上限が20μ秒であれば、SiHの分解を効率的に抑制し、SiHの収率を向上させることができる。
【0019】
また、本発明に係るモノシラン生成装置では、前記固体シリコンを設置する固体シリコン設置部が設けられていると共に、前記固体シリコン設置部には、固体シリコンを冷却する冷却手段が設けられていることが好ましい。
【0020】
上記冷却手段が設けられていることによって、水素ガスの存在下、固体シリコンがエッチングされる際、固体シリコンを低温に維持することが可能である。固体シリコンの温度が低い方がエッチング加工速度は上昇するため、効率の良くモノシランの生成が可能となる。
【0021】
また、本発明に係るモノシラン生成装置では、前記固体シリコンからモノシランを生成するときの反応容器内の圧力を、0.133kPa以上、26.66kPa以下に保つ圧力保持手段を備えていることが好ましい。
【0022】
上記の圧力範囲であれば、水素プラズマによって固体シリコンのエッチングを効率良く行うことができ、モノシランの生成効率を高めることができる。
【0023】
本発明に係るモノシラン生成方法は、上記課題を解決するために、固体シリコンに沿った水素ガスの流れ方向において、水素プラズマが存在する水素ガス雰囲気下で生成した水素プラズマと固体シリコンとを接触反応させてモノシランを生成するモノシラン生成方法において、水素プラズマ領域を通過する水素ガスの水素プラズマ領域滞在時間を、生成したモノシランが水素プラズマ領域にて分解反応を起こす時間未満とするように制御することを特徴としている。
【0024】
上記の発明によれば、水素雰囲気下で水素プラズマを生成し固体シリコンと接触させることによりSiHが生成される。SiHはプラズマに晒されると分解し、ラジカルが形成される。このラジカル同士が反応するなどによって、パーティクル等の副次生成物が発生し得る。しかしながら、水素プラズマ領域滞在時間を、SiHが分解反応を起こす時間未満に制御することにより、上記副次生成物の発生を抑制し、SiHの高効率な生成が可能となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係るモノシラン生成装置は、固体シリコンに沿った水素ガスの流れ方向において、水素プラズマが存在する水素プラズマ領域を通過する水素ガスの水素プラズマ領域滞在時間を、生成したモノシランが水素プラズマ領域にて分解反応を起こす時間未満とするように制御する制御手段が設けられているものである。
【0026】
また、本発明に係るモノシラン生成方法は、固体シリコンに沿った水素ガスの流れ方向において、水素プラズマが存在する水素プラズマ領域を通過する水素ガスの水素プラズマ領域滞在時間を、生成したモノシランが水素プラズマ領域にて分解反応を起こす時間未満とするように制御する方法である。
【0027】
それゆえ、固体シリコンと水素プラズマとの反応を利用してSiHを生成する際に、パーティクル等の副次生成物の発生率を大幅に低減し、固体シリコンを効率的にSiHガス化することが可能なSiH生成装置およびSiH生成方法を提供するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明におけるSiH生成装置の実施の一形態を示す断面図である。
【図2】本発明におけるSiH生成装置において水素プラズマ領域の長さを変更する動作を示す断面図である。
【図3】(a)はSiHの生成反応において、水素プラズマ領域におけるSiHガスの滞在時間が長い場合の反応過程を示す図であり、(b)は水素プラズマ領域におけるSiHガスの滞在時間が短い場合の反応過程を示す図である。
【図4】本実施の形態に係る制御部と他の部材との関連を示すブロック図である。
【図5】本実施の形態に係る他のSiH生成装置を示す断面図である。
【図6】本実施の形態において、生成されたSiHガスの赤外吸収スペクトルを示した図である。
【図7】本実施の形態における、水素流量とエッチング量との相関について示したグラフである。
【図8】本実施の形態における、水素流量とSiH化率との相関について示したグラフである。
【図9】本実施の形態における、水素ガスの水素プラズマ領域滞在時間とSiH化率との相関について示したグラフである。
【図10】具体例2における、電極‐シリコン間距離とエッチング量の相関について示したグラフである。
【図11】具体例2における、電極‐シリコン間距離とSiH化率の相関について示したグラフである。
【図12】(a)は水素プラズマ生成時における、外装部材が無い状態のパイプ型の電極および固体シリコン付近を示した断面図であり、(b)は外装部材が電極に備えられた状態のパイプ型の電極および固体シリコン付近を示した断面図である。
【図13】具体例3における、プラズマ制限用部品の有無による、エッチング量の変化を示したグラフである。
【図14】具体例3における、プラズマ制限用部品の有無による、SiH化率の変化を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の一実施形態について図1ないし図14に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、本願の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表すものとする。本明細書におけるSiH生成装置の構成および動作についての説明は、本発明に係るモノシラン生成方法についての説明も兼ねている。
【0030】
図1は本実施の形態に係るSiH生成装置の好ましい一例を示すものであり、SiH生成装置(モノシラン生成装置)20を示す断面図である。SiH生成装置20は、水素ガス雰囲気下で生成した水素プラズマと固体シリコンとを接触反応させてモノシランを生成する装置である。SiH生成装置20は、固体シリコン2をプラズマ処理する反応場となる内部空間が設けられた反応容器4を有している。反応容器4の内部空間の上方には電極1が水平に設置されている。電極1の下方には、固体シリコン2が電極1に対向して平行に配置されており、さらに、固体シリコン2を設置する基板設置部(固体シリコン設置部)6、および、基板設置部6を冷却する冷却機構(冷却手段)7が備えられている。
【0031】
反応容器4の上面には電極1に電力を供給する高周波電源5が、左側面にはガス導入ライン8が、右側面にはガス吸引ライン9が備えられている。また、図示しないが、SiH生成装置20には、各種部材を制御する制御部(制御手段)が備えられている。
【0032】
電極1には、高周波電源5から出力された電力が供給されて作動する。高周波電源5は、パルス状の高周波電力を電極1に印加する構成であってもよい。また、電極1は、上下方向に移動可能に構成されている。電極1が上下方向に移動することにより、下方の固体シリコン2との距離を適宜変更することができる。
【0033】
また、図2に示すように、電極1が移動することによって、固体シリコン2と対向する部分の電極1の長さを変化させることができる。図2は、上記水素プラズマ領域3の長さを変更する動作を示す断面図である。図2左側に示すように、水素プラズマ領域3は、固体シリコン2に沿った水素ガスの流れ方向において(対して)、水素プラズマが存在する領域である。図2右側に示すように、電極1を横方向にスライドさせることによって、固体シリコン2と対向する部分の電極長さを変化させることができる。これにより、水素プラズマ領域3の長さを制御可能な構成となっている。また、電極1の前記動作および高周波電源5の電力量は、図示しない制御部によって制御される。
【0034】
固体シリコン2は、反応容器4の底面に対して水平に設けられた基板設置部6に載置されるようになっている。また、基板設置部6上に載置される固体シリコン2を吸着固定するための図示しない真空チャックが設けられており、基板設置部6の移動によって、プラズマ加工処理中の固体シリコン2が載置位置からずれないように固定されている。基板設置部6は接地(アース)されている。
【0035】
固体シリコン2を水素プラズマによってエッチングする際、まず、固体シリコン2の表面に原子状水素が吸着される必要がある。ここで、固体シリコン2の温度が高くなりすぎると、固体シリコン2の表面から原子状水素の脱離が顕著となる。このため、エッチング効率を高める観点から、固体シリコン2の温度は、300℃以下であることが好ましい。
【0036】
さらに、基板設置部6の内部には基板設置部6上に載置される固体シリコン2を冷却するための冷却機構7が設けられている。冷却機構7によれば、水素ガスの存在下、固体シリコン2がエッチングされる際、固体シリコン2を低温に維持することが可能である。固体シリコン2の温度が低い方がエッチング加工速度は上昇するため、効率の良くモノシランの生成が可能となる。冷却機構7で用いられる冷媒としては、特に限定されず、水、公知の冷却剤などを用いることができる。冷媒として水を用いる場合、水温は5℃以上、20℃以下であることが好ましい。
【0037】
ガス導入ライン8は図示しないガス供給源と連結されており、水素ガスが電極1と固体シリコン2との間に向けて任意の流量にて供給される構造となっている。一方、ガス吸引ライン9は、図示しない圧力保持手段である真空ポンプと連結されており、電極1と固体シリコン2との間の領域であり、固体シリコン2に沿った水素ガスの流れ方向において、水素プラズマが存在する水素プラズマ領域3を通過したシランおよび水素ガスなどのガスを任意の吸引流量にて吸引することが可能な構造となっている。前記真空ポンプは、反応容器4内部の圧力を反応条件に適した値に調整する役割も果たす。
【0038】
なお、前記圧力保持手段は、反応容器4の内部圧力を減圧して保持することができればよく、真空ポンプ以外の装置を用いてもよい。前記図示しないガス供給源および真空ポンプは前記制御部と連結されており、水素流量および水素プラズマ領域からのガス吸引流量は制御部によって制御される。
【0039】
ガス吸引ライン9のラインにはパーティクルフィルター10が備えられている。パーティクルフィルター10は、モノシランの生成過程において、副生した副次生成物であるパーティクルを捕獲し、SiHのみを取り出すことが可能な構造となっている。パーティクルフィルター10としては、高分子フィルターなどを用いることができる。ガス吸引ライン9のラインには、図示しないが、さらにフーリエ変換赤外分光光度計が備えられており、生成したモノシランの分析が可能となっている。
【0040】
SiH生成装置20を用いて、固体シリコン2および水素ガスからSiHを生成する方法の一例について以下に説明する。まず、ガス吸引ライン9を介して真空ポンプによって反応容器4内部のガスを十分に排気した後、ガス導入ライン8から水素ガスを反応容器4の内部に導入する。ここで、水素ガスの供給とガス吸引ライン9からのガス吸引を同時に行うことにより、反応容器4内部の圧力を所定の圧力に維持する。
【0041】
前記所定の圧力とは、固体シリコン2のSi原子を水素プラズマによってエッチングすることができればよく、特に限定されるものではない。しかしながら、1Torr以上、200Torr以下(0.133kPa以上、26.666kPa以下)の圧力であれば、エッチングを効率的に行うことができるため好ましい。
【0042】
その後、反応容器4の外部に設けられた高周波電源5から電力を電極1に印加する。この高周波電力が電極1に印加されると、電極1と基板設置部6との間に電場が生じる。上記電場は、電極1と固体シリコン2の表面との間に供給された水素ガスを分解および励起こさせ、電極1と固体シリコン2の表面との間に水素プラズマを形成する。この水素プラズマが固体シリコン2の表面に接触することによって生成した原子状水素が固体シリコン2の表面に作用してSi原子をエッチングすることにより、SiHガスが生成する。
【0043】
その後、生成したSiHガスは、ガス吸引ライン9側に吸引され、パーティクルフィルター10を通り、SiHガスと共に吸引された副次生成物が取り除かれ、SiHガスのみが捕集され、取り出される。
【0044】
パーティクルなどの上記副次生成物が生成する過程を、図3に基づいて説明する。図3は、SiHの生成反応における反応過程を示す図である。まず、図3(a)に該当するSiHの水素プラズマ領域3における滞在時間が長い場合について説明する。なお、SiHの水素プラズマ領域3における滞在時間を水素プラズマ領域滞在時間(以下適宜「領域滞在時間」と略す)と称する。
【0045】
上述のように、水素プラズマ領域3に入った水素分子は原子状水素に分解され、原子状水素がSi原子と反応することにより、SiHが生成される。
【0046】
ここで、SiHガスの水素プラズマ領域3における滞在時間が長いため、生成されたSiHは水素プラズマ領域3を進行中に水素プラズマ中の原子状水素または電子との接触によってSiHやSiHといった不安定な短寿命ラジカルへと分解されることとなる。一般的にSiHやSiH等の上記短寿命ラジカルは、高次シランやパーティクルを発生させる原因となると言われている。すなわち、上記短寿命ラジカル同士、短寿命ラジカルおよびSi原子の反応などが原因となり、生成したSiHは、水素プラズマ領域3を脱出する際には、SiHでは無く、高次シランやパーティクルに変換されることとなる。
【0047】
一方、図1(b)に該当する水素プラズマ領域3におけるSiHガスの滞在時間が短い場合について説明する。図1(a)の場合と同様に、水素プラズマ領域3中で発生した原子状水素とSi原子との反応によりSiHが生成されるが、SiHの滞在時間は短い。このような場合、生成したSiHはラジカルに分解する前に水素プラズマ領域3を脱出することができる。すなわち、領域滞在時間をSiHが分解反応を起こす時間未満とするように制御することにより、SiHが分解することを抑制することができる。これにより、SiHのまま水素プラズマ領域3外へ脱出させることができ、高効率にSiHを生成することが可能となる。
【0048】
このように本発明に係るSiH生成装置20によれば、固体シリコンと水素ガスのみによりSiHを得ることが可能であり、従来のSiH生成時に発生するSiClのような副次生成物を生じないため、原料に対するSiHの収率を高くすることが可能である。また、SiClを回収しSiHClへ再処理するための大規模な装置および工程、並びに、ノウハウ等が不要となるため、多大なコストや労力を削減することができる。また、塩素を用いる必要がないため、塩素腐食に対する設備上の対策が必要無く、環境負荷を小さくすることが可能である。
【0049】
本発明に係るSiH生成装置20では、制御部によって上記領域滞在時間の制御を行うことができる。図4は、制御部30と他の部材との関連を示すブロック図である。SiH生成装置20が備える制御部30は、インターフェイス式であり、制御部30はインターフェイス部40に連結されている。インターフェイス部40は、ユーザの操作入力を受け付けて、指示信号を制御部30に送信する役割を果たし、表示部41および入力部42を備えている。
【0050】
表示部41は、入力部42と連結されており、制御部30へ送信された指示信号の内容等を表示するものであり、公知の液晶ディスプレイ等で構成することができる。入力部42は、インターフェイス部40に設けられた、図示しない入力手段に入力された入力データを制御部30に送信する。上記入力手段としては、例えば、入力キーやタッチパネルで構成することができる。なお、制御部30と直接インターフェイス部とが連結されていなくともよく、無線等で信号を送受信できる構成であってもよい。
【0051】
入力部42から送信された指示信号に基づき制御部30は、電極1、高周波電源5、ガス供給源31および真空ポンプ32に制御信号を送信する。上記制御信号に基づき、電極1、高周波電源5、ガス供給源31および真空ポンプ32が制御される。以下に各部材を制御する動作について説明する。
【0052】
まず、制御部30は電極1に制御信号を送信し、電極1と固体シリコン2との距離を調整することができる。すなわち、電極1を固体シリコン2に対して上下方向に移動させることができる。電極1と固体シリコン2との距離を延長させることによって、水素プラズマ領域3を拡張することができる。一方、電極1と固体シリコン2との距離を短縮させることによって、水素プラズマ領域3は縮小される。これらにより、生成したSiHが受けるエネルギー量を増減させることができる。
【0053】
制御部30によれば、SiHを生成する際に副次生成物が生成する場合、電極1と固体シリコン2との距離を短縮させることによって、水素ガスの流速上昇により領域滞在時間を短縮させ、SiHの分解を抑制して副次生成物の生成率を低下させる。すなわち、生成したSiHが受けるエネルギー量をSiHが分解する量未満に止めるように制御することができる。換言すると、領域滞在時間をSiHが分解反応を起こす時間未満とするように制御することができると表現できる。
【0054】
さらに、制御部30は電極1に制御信号を送信し、電極1の電極長さを調整することができる。電極1の電極長さを延長することによって、固体シリコン2に沿った水素ガスの流れ方向に対する水素プラズマ領域3の長さを延長することができる。すなわち、水素プラズマ領域3を拡張することができる。一方、電極1の電極長さを短縮させることによって、固体シリコン2に沿った水素ガスの流れ方向に対する水素プラズマ領域3の長さを短縮することができる。すなわち、水素プラズマ領域3を縮小することもできる。
【0055】
制御部30によれば、SiHを生成する際に副次生成物が生成する場合、電極1の電極長さを短縮させることによって、領域滞在時間を短縮させ、SiHの分解を抑制して副次生成物の生成率を低下させることができる。これにより、電極1と固体シリコン2との距離を調整する際と同様に、領域滞在時間をSiHが分解反応を起こす時間未満とするように制御できる。
【0056】
また、制御部30は高周波電源5に制御信号を送信し、高周波電源5から電極1に印加される水素プラズマ生成のための高周波電力を制御(調整)することができる。上記電力を増減量させると、水素プラズマ領域における電力密度を増減させることができる。
【0057】
したがって、制御部30によれば、SiHを生成する際に副次生成物が生成する場合、上記電力を低減させることによって、水素プラズマ領域3における電力密度を低減させ、水素分子の分解率が低下する結果、SiHの分解を抑制して副次生成物の生成率を低下させることが可能である。すなわち、領域滞在時間をSiHが分解反応を起こす時間未満とするように制御できる。なお、電力密度が過剰に高いと、水素プラズマ領域3におけるSiHの分解反応が促進される。
【0058】
さらに、上記電力がパルス状の高周波電力となるように、制御部30によって高周波電源5を制御することが好ましい。連続的に出力される通常の電力ではなく、パルス状の高周波電力を印加することによって、水素プラズマが一定期間生成され、次の一定期間は生成されないという状態を形成することができる。これにより、生成したSiHが水素プラズマの影響によって分解され難くなり、副次生成物の生成を抑制することができる。さらに、生成したSiHが分解され難くなるため、SiHを水素プラズマ領域から脱出させるための水素ガスの流量が小さくてよいという利点ある。
【0059】
また、制御部30はガス供給源31に制御信号を送信し、ガス供給源31から供給される水素ガスの供給流量を増減量させることができる。これにより、ガス導入ライン8を介して供給される水素ガスの濃度を増減できる。水素プラズマ領域3においてプラズマ化される水素ガスの濃度が増減されると、水素プラズマの濃度が増減する結果となる。
【0060】
制御部30によれば、SiHを生成する際に副次生成物が生成する場合、水素ガスの供給流量を増加させることによって、水素プラズマ領域3を通過する水素ガスの流速を上昇させることができる。これにより、領域滞在時間を短縮することができ、SiHが水素プラズマの影響で分解され難い条件下にて、SiHの生成を行うことができる。換言すると、領域滞在時間を短縮させ、SiHの分解を抑制して副次生成物の生成率を低下させることによって、領域滞在時間をSiHが分解反応を起こす時間未満とするように制御できる。
【0061】
また、制御部30は真空ポンプ(圧力保持手段)32に制御信号を送信し、真空ポンプ32による水素ガスの吸引流量を調整することができる。これにより、水素プラズマ領域3においてプラズマ化される水素ガスの濃度を増減させることができる。したがって、ガス供給源31によって水素ガスの供給流量を調整する際と同様に、領域滞在時間をSiHが分解反応を起こす時間未満とするように制御できる。
【0062】
上述のように、制御部30は、電極1、高周波電源5、ガス供給源31および真空ポンプ32を制御することができるが、電極1、高周波電源5、ガス供給源31および真空ポンプ32のうち少なくとも一つを制御することによって、領域滞在時間をSiHが分解反応を起こす時間未満とするように制御することができる。換言すると、電極1と固体シリコン2との距離、固体シリコンに沿った水素ガスの流れ方向に対する水素プラズマ領域3の長さ、水素プラズマ領域3への水素ガス供給流量および水素プラズマ領域3からの水素ガス吸引流量のうち少なくとも一つを制御することによって、領域滞在時間をSiHが分解反応を起こす時間未満とするように制御することができる。
【0063】
SiH生成装置20では、制御部30が上記制御を行うことによって、容易に水素プラズマ領域滞在時間を制御することが可能である。なお、もちろん制御部30は、領域滞在時間をSiHが分解反応を起こす時間未満とするために、電極1、高周波電源5、ガス供給源31および真空ポンプ32の全てを制御してもよい。
【0064】
上記領域滞在時間は、用いる水素ガスの流量(濃度)、電極1に印加する電力量などによって適宜変更されるため一義的に規定することは困難であるが、SiHの分解を抑制し、副次生成物の発生を抑制させてSiHの収率を向上させる観点から、概して20μ秒以下であることが好ましい。また、SiHの生成量が低下しすぎないように領域滞在時間は、10μ秒以上であることが好ましい。
【0065】
<具体例1.SiH化率と水素ガスのプラズマ滞在時間との相関検討>
以下、本発明のSiH生成装置21によりSiHを生成する場合に、高次シランやそれらが重合したパーティクルの発生を抑制し、高効率にSiHを生成する最適条件を設定するための実験を行ったため、その結果について説明する。
【0066】
SiHの生成確認のため、および、高効率にSiHを生成する最適条件を見出すため、図5に示すSiH生成装置21にて固体シリコン2の水素プラズマエッチングによるSiH生成実験を行った。
【0067】
図5に示すように、SiH生成装置21には、マイクロ波電源である高周波電源5、導波管11、マイクロ波整合器12、可動短絡端13が設けられている。固体シリコン2に対して直交するよう(垂直になるよう)パイプ型の電極(パイプ電極)1が設けられており、導波管11および誘電体14を介してパイプ型の電極1にマイクロ波電力が供給される構造となっている。SiH生成装置21によれば、パイプ型の電極1と固体シリコン2の間とに水素プラズマを発生させることによって、SiHの生成がなされる。水素プラズマ発生のためには周波数2.45GHzのマイクロ波を用いた。
【0068】
実験条件は表1に示す通りである。なお、60Torrは7.998kPaである。実験中は、表1の水素供給流量にてパイプ型の電極1内から水素プラズマ領域3へ直接水素ガスを供給し続けている。また、水素ガスの排気速度を変化させることによって、雰囲気圧力を表1の範囲内で一定に保っている。また、表1に示すように、電極1の電極外径を3.2mm、6.4mm、12.7mmと変更して実験を行った。また、プラズマ状態が等しくなるよう、電極面積に応じて電力を設定し、それぞれ100W(電極外径3.2mm)、200W(電極外径6.4mm)、400W(電極外径12.7mm)に設定した。また、実験中は冷却機構7に20℃の冷却水を供給し続け、固体シリコン2の冷却を行った。電極外径3.2mm、電極外径6.4mm、電極外径12.7mmの各場合において、水素流量は5〜27.5L/minにて条件設定をした。
【0069】
【表1】

【0070】
SiHの生成確認およびSiH発生量の測定には、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)15を用いた。SiHをFTIR分析した場合、波数2189cm−1および913cm−1付近に顕著なピークが得られることが知られているため、エッチング後に生成されたガスをFTIR分析することによりSiHの発生を確認することができる。また、濃度既知のSiHとHの混合ガスにより予め検量線を作成することにより、エッチングにより生成されたガスのSiH濃度を定量することが可能であり、SiHの発生量(mol数)を算出することも可能である。ここで、FTIR分析により求めたSiH発生量(mol数)とエッチング量(mol数)の比を“SiH化率(%)”と定義する。この値は、エッチングされたSi原子のうち、SiH化されたものの割合を示している。
SiH化率(%)=SiH発生量(mol数)/エッチング量(mol数)×100
エッチングにより生成されたガスのFTIRスペクトルの一例を図6に示す。図6は、本実施の形態において、生成されたSiHガスの赤外吸収スペクトルを示した図である。同図に示すように、波数2189cm−1および913cm−1付近に顕著なピークが得られることから、エッチングによりSiHが生成されていることが分かる。またSiが存在する場合は、波数843cm−1の位置に顕著なピークが見られることが知られているが、波数843cm−1の位置にはピークが見られないことから、ほぼSiHという形で生成されていることが分かる。
【0071】
次に、図7のグラフに、エッチング量の水素流量依存性を示す。図7は、表1の条件下における、各水素流量(5〜27.5L/min.)とエッチング量との相関について示したグラフである。同図から分かるように、水素流量が増加するに従いエッチング量も増加するという傾向が得られた。これは、水素流量の増加に伴い水素分子の絶対量が増え、エッチングに寄与する原子状水素の数が増えるためであると考えられる。ただし、図7から分かるように、一定の投入電力に対して水素流量は最適値を持っており、ある流量以上では電力不足となり逆にエッチング量は低下してしまうこととなる。
【0072】
図8のグラフに、SiH化率の水素流量依存性を示す。図8は、本実施の形態における、水素流量とSiH化率との相関について示したグラフである。同図から分かるように、水素流量の増加に伴い、SiH化率も上昇するという結果が得られた。例えば、電極外径が12.6mmの場合、流量5L/minではSiH化率が20%と低い。これはエッチングされたSi原子のうちSiHとして得ることができた割合は20%程度であり、残りの80%は高次シランやパーティクル化したということを示している。一方、流量25L/minでは、SiH化率は90%と高く、高効率にSiHを生成できたことを示している。
【0073】
以上のように、いずれの電極においても水素流量が増加するに従いSiH化率が上昇するという結果が得られた。ここで重要なのは“水素流量”では無く、水素流量に伴い変化する“流速”および“ガスのプラズマ滞在時間”が重要であると本発明者らは考察した。そこで、水素流量、圧力、電極1‐固体シリコン2間ギャップから水素プラズマ領域3を通過するガスの流速を計算した。そして、算出した水素の流速と、水素プラズマ領域3のうち固体シリコン2に沿って水素ガスが通過する距離である水素プラズマ領域3の長さ(プラズマ長さ)から水素ガスのプラズマ滞在時間を算出し、図8のグラフの横軸を水素プラズマ領域滞在時間(領域滞在時間)に変換した。
【0074】
その結果、プラズマ滞在時間とSiH化率との間に図9のような相関があることが分かった。図9は、本実施の形態における、水素ガスの領域滞在時間とSiH化率との相関について示したグラフである。同図から、領域滞在時間にてSiH化率を整理した場合、電極形状が異なる場合においても、SiH化率は同じ線上に乗ることが分かる。この結果から、SiH化率を決定するパラメータは“水素流量”ではなく、“プラズマ滞在時間”であると考えることができる。
【0075】
前述の通り、プラズマ滞在時間が長い場合は、エッチングにより生成したSiHが水素プラズマ中を通過する間に気相中で再反応してしまい高次シランやパーティクルが形成されてしまう。しかし、領域滞在時間を短くすることにより、発生したSiHが再反応する前にSiHのままプラズマ外へ脱出させることにより、高いSiH化率を達成することが可能となる。
【0076】
なお、図9から分かるように、領域滞在時間を短くすることによりSiH化率を飛躍的に上昇させることができる。また、プラズマ滞在時間を約20μ秒以下にすることによって、SiH化率は80%〜90%となり、高効率にSiHを生成することが可能となる。ただし、本相関検討では、電極面積に応じて電力を変え、電力密度をほぼ等しく(電力密度が240W/cm以上、280W/cm以下)しているが、電力密度が異なる場合には、SiH高効率生成のために必要なプラズマ滞在時間はシフトすると考えられ、電力密度が高くなるにつれ、プラズマ滞在時間を短くする必要があると考えられる。
【0077】
<具体例2.電極‐Si間距離の狭ギャップ化によるSiH化率の向上>
上述のように、水素流量を増加させプラズマ滞在時間を短くすることにより、SiH化率を上昇させることができることを示したが、電極‐Si間距離を小さくして水素ガスの通過断面積を小さくした場合も、水素ガス流速が上昇して領域滞在時間が短くなる。これにより、SiH化率が上昇すると考えられる。そこで、電極‐Si間距離を小さくすることにより、同一の水素流量においてもSiH化率が上昇するか確認した。
【0078】
表2に実験条件を示す。水素供給流速流量は5L/minで一定とし、電極‐Si間距離を0.6mmおよび0.2mmの2つの場合について実験を行い、エッチング量およびSiH化率を測定した。SiH化率測定は上記具体例1と同じくFTIRを用いた。
【0079】
【表2】

【0080】
図10および図11は、エッチング量およびSiH化率の電極‐Si間距離依存性を示している。図から分かるように、電極‐Si間距離が小さくなることにより、エッチング量自体はほとんど変化していないが、SiH化率が上昇していることが分かる。これは、ガス通過断面積が小さくなることによりガス流速が上昇し、領域滞在時間が短くなったためであると考えられる。
【0081】
以上の結果から、SiH化率を制御する一つのパラメータとして、電極‐Si間距離が重要であると言える。
【0082】
<具体例3.水素プラズマ領域3の制限によるSiH化率向上>
具体例3では、水素プラズマの範囲を制限する外装部材について説明する。図1は、水素プラズマ生成時における、パイプ型の電極1および固体シリコン2付近を示した断面図であり、(a)は外装部材が無い状態、(b)は外装部材が電極1に備えられた状態である。
【0083】
SiH生成装置21では図12(a)に示すようなパイプ型の電極1を備えている。パイプ型の電極1の場合、プラズマは図12(a)のように電極1の上方に広がりを持った形で生成され、水素プラズマ領域3は、固体シリコン2に沿った水素ガスの流れ方向における範囲に加えて、電極1の外周部にまで拡がってしまう。
【0084】
電極1の表面と固体シリコン2とが近接する電極1直下の部分では水素ガス流速が大きくプラズマ滞在時間は短いが、電極周囲のプラズマが上方に広がった部分ではガス流速が低下してしまうため、プラズマ滞在時間が長くなりSiH化率は低下してしまうものと考えられる。そこで、発明者らは鋭意検討を行い、図12(b)に示すように、電極1の周囲に水素プラズマ領域3を制限するための外装部材16を設置する構成を見出した。
【0085】
外装部材16はパイプ型の電極1の外周に備えられており、電極1の固体シリコン2側端面と同一面でありかつ固体シリコン2の表面と平行となる表面を有している。SiH生成装置21が外装部材16を備えることより、水素ガスが水素プラズマ領域3を通過するまでの間、大きな流速を維持することができ、SiH化率を向上できるのではないかと発明者らは考えた。また、外装部材16が備えられていることによって、空間が制限されることによって、水素プラズマが拡がることも制限され、ガスがプラズマを脱出するまでの距離を短くする効果もさらに加わると考えられる。
【0086】
そこで、図12(b)のように電極1の周囲に石英からなる外装部材16を設置して実験を行い、エッチング量およびSiH化率がどのように変化するか検討した。この外装部材16の材料は、水素プラズマの移動を抑制することができると共に、水素プラズマによる劣化が生じなければ特に限定されない。なお、外装部材16が、金属などの導体である場合、外装部材16および固体シリコン2の間にも電界が生じ、プラズマが広がってしまうため、水素プラズマ領域3が図12(a)と同様の状態となってしまう。このため、外装部材16の材料は、絶縁体(誘電体)であることが好ましい。具体的には、石英(SiO)、一般的なセラミックとして用いられるアルミナ(Al)、窒化アルミニウム(AlN)およびボロンナイトライド(BN)などを例示することができる。また、外装部材の厚さは特に限定されないが、例えば、5mm以上、10mm以下とすることができる。
【0087】
実験条件は表3に示すとおりである。
【0088】
【表3】

【0089】
図13および図14に、外装部材16の有無によるエッチング量およびSiH化率の変化を示す。外装部材16の厚さは、6mmである。図13に示されるように、石英で構成された外装部材16の有無によりエッチング量はほとんど変化していない。しなしながら、図14に示されるように、SiH化率が大きく上昇していることが分かる。これは外装部材16により水素ガスが移動できる空間が制限されたことにより、SiHがプラズマ外へ脱出するまでのガス流速が上昇し、尚且つ水素プラズマ領域3が制限されたことが原因であると考えられる。
【0090】
以上の結果から、SiHを制御するパラメータとして、“プラズマ領域の電極‐Si間距離”、“プラズマ領域のガス流速”、“プラズマ長さ”が重要であると言える。
【0091】
なお、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明によれば、モノシランガスを効率良く製造できるため、薄膜トランジスタ、LSI、太陽電池等のモノシランガスを原料とするシリコン系薄膜を利用した電子デバイスの製造工程において好適に利用される。
【符号の説明】
【0093】
1 電極
2 固体シリコン
3 水素プラズマ領域
4 反応容器
5 高周波電源
6 基板設置部(固体シリコン設置部)
7 冷却機構(冷却手段)
8 ガス導入ライン
9 ガス吸引ライン
10 パーティクルフィルター
11 導波管
12 マイクロ波整合器
13 可動短絡端
14 誘電体
15 フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)
16 外装部材
20・21 SiH生成装置(モノシラン生成装置)
30 制御部(制御手段)
32 真空ポンプ(圧力保持手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ガス雰囲気下で生成した水素プラズマと固体シリコンとを接触反応させてモノシランを生成するモノシラン生成装置において、
固体シリコンに沿った水素ガスの流れ方向において、水素プラズマが存在する水素プラズマ領域を通過する水素ガスの水素プラズマ領域滞在時間を、
生成したモノシランが水素プラズマ領域にて分解反応を起こす時間未満とするように制御する制御手段が設けられていることを特徴とするモノシラン生成装置。
【請求項2】
前記水素プラズマは、電極と固体シリコンとの間に電力を印加することにより発生し、
前記制御手段は、
水素プラズマ領域への水素ガス供給流量、水素プラズマ領域からの水素ガス吸引流量、上記電極と固体シリコンとの距離、および、固体シリコンに沿った水素ガスの流れ方向に対する水素プラズマ領域の長さのうち少なくとも一つを制御することによって、上記水素プラズマ領域滞在時間を制御することを特徴とする請求項1記載のモノシラン生成装置。
【請求項3】
前記制御手段は、
水素プラズマ生成のための高周波電力をパルス状にて上記電極に出力するように制御することにより、水素プラズマ領域を通過する水素ガスの水素プラズマ領域滞在時間を制御することを特徴とする請求項2記載のモノシラン生成装置。
【請求項4】
前記制御手段は、
前記水素プラズマ領域滞在時間を20μ秒以下となるように制御することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のモノシラン生成装置。
【請求項5】
前記固体シリコンを設置する固体シリコン設置部が設けられていると共に、
前記固体シリコン設置部には、固体シリコンを冷却する冷却手段が設けられていることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のモノシラン生成装置。
【請求項6】
前記固体シリコンからモノシランを生成するときの反応容器内の圧力を、1Torr以上、200Torr以下に保つ圧力保持手段を備えていることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のモノシラン生成装置。
【請求項7】
前記水素プラズマは、水素ガスを導入しかつ固体シリコンに直交するパイプ電極と固体シリコンとの間に電力を印加することにより発生すると共に、
前記パイプ電極の外周には、パイプ電極の固体シリコン側端面と同一面でありかつ固体シリコンの表面と平行となる表面を有する外装部材が設けられていることを特徴する請求項1〜6の何れか1項に記載のモノシラン生成装置。
【請求項8】
水素ガス雰囲気下で生成した水素プラズマと固体シリコンとを接触反応させてモノシランを生成するモノシラン生成方法において、
固体シリコンに沿った水素ガスの流れ方向において、水素プラズマが存在する水素プラズマ領域を通過する水素ガスの水素プラズマ領域滞在時間を、生成したモノシランが水素プラズマ領域にて分解反応を起こす時間未満とするように制御することを特徴とするモノシラン生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−1207(P2011−1207A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143461(P2009−143461)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】