説明

モノリシック電解質膜アセンブリーを有する燃料電池

【課題】製造が容易、高運転効率、長実用寿命の燃料電池の提供。
【解決手段】第1の化合物M1を第1のイオンM(m+)に酸化することができる陽極10;これら第1のイオンM(m+)を伝導することができ、かつ、前記陽極10と接触している第1の電解質20;第2の化合物N2を第2のイオンN(n−)に還元することができる陰極50;これら第2のイオンN(n−)を伝導することができ、かつ、前記陰極50と接触している第2の電解質40;多孔性中央膜30(ただし、その面の1つが前記第1の電解質20と接触しており、かつ、その反対側の面が前記第2の電解質40と接触している)を含む燃料電池であって、第1の電解質20、第2の電解質40および中央膜30は、M(m+)イオンおよびN(n−)イオンの両方を伝導することができる同じ材料からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1の化合物M1を第1のイオンM(m+)(ただし、mは、ゼロでない整数である)に酸化することができる陽極;これら第1のイオンM(m+)を伝導することができ、かつ、この陽極と接触している第1の電解質;第2の化合物N2を第2のイオンN(n−)(ただし、nは、ゼロでない整数である)に還元することができる陰極;これら第2のイオンN(n−)を伝導することができ、かつ、この陰極と接触している第2の電解質;多孔性中央膜(ただし、その面の1つが第1の電解質と接触しており、かつ、その反対側の面が第2の電解質と接触している)を含む燃料電池に関連する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池(FC)は、据え置き型用途のためのエネルギー生成源、しかし、同様に、より長期的には搭載型用途(例えば、自動車)のためのエネルギー生成源、すなわち、化石資源から直接に生じるエネルギー生成源の代替となることが意図される。
【0003】
FCは、下記の全体的な化学反応に従って、電気、化合物Pおよび熱が同時に生成することを伴う、第1の化合物M1および第2の化合物N2の電気化学的かつ制御された酸化還元の原理に基づいて作動する:
{nM1+mN2→pP}
式中、n、mおよびpは、ゼロでない整数である。
【0004】
M1は、酸化されたとき、第1のイオンM(m+)(またはm個の第1のイオンM)およびm個の電子を与える、同一または別個の原子からなる化合物を示す。
【0005】
N2は、n個の電子の存在下での還元により、第2のイオンN(n−)(またはn個の第2のイオンN)を与える、同一または別個の原子からなる化合物を示す。
【0006】
その場合、デバイスの動力源になり得るのが、この生じた電気である。
【0007】
例えば、FCは、第1の化合物M1が水素(H)であり、第2の化合物N2が酸素(O)であり、その全体の化学反応が下記であるようなものである:
{H+1/2O→HO}
【0008】
この反応から生じる化合物が水HOである。
【0009】
そのようなFCの例が下記において検討される。
【0010】
本発明者らは既に、図2に例示され、その作用が本明細書中下記に記載される、アニオンおよびプロトンの混合伝導を有するFCを開発している(国際特許出願公開WO2006/097663)。
【0011】
このFC1は下記の5つの主要な層を含んでおり、この場合、これらの層は対になって接触しており、それらの積み重なりが下記の順である:
・陽極10
・第1の電解質20
・中央膜30
・第2の電解質40
・陰極50。
【0012】
陽極10は下記の水素の酸化反応の場所である:
{H→2H+2e}。
【0013】
それによって生じたプロトンHが第1の電解質20を通って中央膜30に向かって移動する。したがって、この第1の電解質20は、プロトンHを伝導することができる材料である。
【0014】
生じた電子eが、陰極50に戻り、かつ、陰極50に電子を供給するために、陰極10から導体90を介してFCの外側を通って循環する(下記参照)。
【0015】
陰極Cは下記の酸素の還元反応の場所である:
{1/2O+2e→O2−}。
【0016】
それによって生じたイオンO2−が第2の電解質40を通って中央膜30に向かって移動する。したがって、この第2の電解質40は、O2−イオンを伝導することができる材料である。
【0017】
したがって、中央膜30の第1の面が第1の電解質20と接触しており、中央膜30の第2の面、すなわち、この第1の面の反対側が第2の電解質40と接触している。
【0018】
中央膜30は、プロトンHおよびイオンO2−の両方を伝導することができるように、第1の電解質20および第2の電解質40の複合材である。
【0019】
この中央膜30の内側において、これらのプロトンHと、これらのイオンO2−とが、水を生じさせるために、下記の反応に従って反応する:
{2H+O2−→HO}。
【0020】
この中央膜30はさらに、それによって生じた水のより良好な排出を可能にするために、空隙35により多孔性である。
【0021】
そのようなFCは、単純な伝導を有するFCと比較した場合、水を、電極(陽極および陰極)においてではなく、中央膜30において排出するという利点を有する:実際、水が陽極または陰極において排出されるとき、この水により、これらの電極における活性部位(水素の酸化または酸素の還元のための部位)が無効化される。
【0022】
しかしながら、このFC、ならびに、一般には、第1の化合物M1および第2の化合物N2の酸化還元によって作動するFCは欠点をいくつか有する。
【0023】
一方で、中央膜30を一般には焼結によって製造することは、第1の電解質20の材料と、第2の電解質40の材料との間における物理化学的および熱機械的な不適合性(異なる熱膨張係数)のために、また、焼結温度がこれらの材料の両者の間では異なることのために複雑である。
【0024】
他方で、これらの不適合性は、中央膜30の変形および/または亀裂形成を伴う中央膜30の早すぎる経年劣化、ならびに/あるいは、その多孔性網目組織の閉塞を引き起こす。このことの結果がFCの性能における著しい低下である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【特許文献1】国際特許出願公開WO2006/097663
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
本発明者らは、これらの欠点に対する改善法を見出すことを目的とする。
【0027】
本発明は、その製造が容易であり、かつ、その運転効率が改善され、かつ、その実用寿命が増大している燃料電池を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
この目標が、第1の電解質、第2の電解質および中央膜が、M(m+)イオンおよびN(n−)イオンの両方を伝導することができる同じ材料からなるという事実によって達成される。
【0029】
これらの構成によって、第1の電解質、中央膜および第2の電解質からなるアセンブリーが、ただ1回だけの操作で、例えば、焼結によって製造され得るので、本発明の燃料電池の製造が非常に簡略化される。このアセンブリーの機械的強度および寿命もまた改善される。
【0030】
さらに、中央膜内の可能な反応部位の表面積が強力に増大する。実際、先行技術によるFCでは、第1のイオン(例えば、プロトンH)と、第2のイオン(例えば、イオンO2−)との間の中央膜内の反応部位が、第1の電解質の材料と、第2の電解質の材料と、空隙との間での共通する境界に限定される。すなわち、これらの反応部位は一次元的である(空間における複数の曲線)。他方で、本発明によるFCでは、可能な反応部位が中央膜の材料の自由表面(すなわち、この材料と、空隙との間における境界)によって形成される。したがって、反応部位が二次元的(空間における複数の表面)であり、すなわち、はるかにより多数である。同時に、中央膜の内部抵抗が低下する。これは、後者はどの点においても同じイオン伝導率を有し、すなわち、中央膜を構成する材料のイオン伝導率を有するからである(これに対して、先行技術では、イオン伝導率が、第1の電解質のイオン伝導率と、第2の電解質のイオン伝導率との間で空間において変化し、このことはイオン循環経路をより曲がりくねったものにし、したがって、中央膜の内部抵抗を増大させる)。
【0031】
本発明が、限定されない例として例示される実施形態の下記の詳述された記載を読んだとき、よりよく理解され、その利点がよりよく明らかになる。記載は、添付された図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明による燃料電池の概略的例示である。
【図2】先行技術による燃料電池の概略的例示である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
図1は、本発明による燃料電池(FC)を例示する。
【0034】
このFC1は下記の5つの主要な層を含んでおり、この場合、これらの層が対になって接触しており、それらの積み重なりが下記の順である:
・陽極10
・第1の電解質20
・中央膜30
・第2の電解質40
・陰極50。
【0035】
下記の記載において、第1の化合物M1が水素(H)であり、かつ、第2の化合物N2が酸素(O)であるFCが検討される。しかしながら、本発明はまた、第1の化合物が水素でなく、かつ/または、第2の化合物が酸素でない反応に対しても当てはまる。
【0036】
陽極10は下記の水素の酸化反応の場所である:
{H→2H+2e}。
【0037】
陰極50は下記の酸素の還元反応の場所である:
{1/2O+2e→O2−}。
【0038】
第1の電解質20、第2の電解質40および中央膜30はそれぞれが、プロトンHを伝導することができ、かつ、イオンO2−を伝導することができる材料からなる。
【0039】
生じた電子eが、陰極50に戻り、かつ、陰極50に電子を供給するために、陰極10から導体90を介してFCの外側を通って循環する。
【0040】
したがって、中央膜30の第1の面が第1の電解質20と接触しており、中央膜30の第2の面、すなわち、この第1の面の反対側が第2の電解質40と接触している。
【0041】
この中央膜30はさらに、下記の反応においてそれによって生じた水のより良好な排出を可能にするために、空隙35を伴って多孔性である:
{2H+O2−→HO}。
【0042】
後者と異なる反応に基づいて作動するFCの場合には、空隙35を通って都合よく排出されるのが、化合物P、すなわち、この異なる反応の生成物である。
【0043】
したがって、第1の電解質20、第2の電解質40および中央膜30によって形成されるアセンブリーは同じ材料のブロックであり、この場合、中央膜30はさらに、空隙35を有しており、一方、これらの電解質は高密度である。したがって、このアセンブリーはモノリシック(一体型)である。
【0044】
例えば、この材料はセラミックであり、この場合、セラミックは、その多孔性がFCの製造期間中に、例えば、焼結によって制御されるという点で利点を有する。
【0045】
本発明者らによって行われた試験は予想外にも、中央膜30内におけるプロトンHおよびイオンO2−の同時混合伝導が不安定なものではなく、それどころか、効率的に生じることを示している。
【0046】
具体的には、本発明者らは、FC用の材料として使用することができる、混合伝導を有するそのようなセラミックが、例えば、式BaCe0.850.153−δのセリウム酸バリウム(ただし、δは正であり、1と比較して小さい)であることを示している。
【0047】
この材料はBCY15によって示され、プロトンHおよびイオンO2−の両方の良好な伝導を有する。
【0048】
好都合なことに、FCの運転が、500℃と、800℃との間から構成される温度で行われる。
【0049】
実際、本発明者らは、FCの収率がこの温度範囲においてより大きかったことを示している。
【0050】
本発明者らは、いくつかの層を含む本発明によるFCを下記の方法の組合せによって作製している:
・第1の電解質20、第2の電解質40および中央膜30を、これらの層を構成する材料の冷間圧縮成形および焼結によって形成し、組み立てる方法、
・堆積法によって、例えば、スクリーン印刷またはテープ成形によって、陽極10を第1の電解質20に取り付け、かつ、陰極50を第2の電解質40に取り付ける方法、
・第1の電解質20および第2の電解質40を焼結期間中に高密度化する方法、
・中央膜30の多孔性を調節する方法。
【0051】
この製造方法により、本発明によるFCの製造を容易にすることが可能である。
【0052】
第1の電解質20および第2の電解質40の高密度化は、高密度化剤(例えば、ZnOまたはCuOなど)を焼結期間中に添加することによって達成することができる。
【0053】
中央膜30の多孔性は、焼結期間中における細孔の形成を促進する添加物を添加することによって、および/または、より低い焼結温度によって達成および/または調節することができる。
【0054】
陽極10および陰極50は、例えば、知られている方法に従って製造されるセラミックまたはサーメット(セラミック−金属の複合材)である。
【0055】
例えば、FCの組成は、{陽極/第1の電解質/中央膜/第2の電解質/陰極}の表記法が使用される場合、下記の1つである:
BCY15−Ni/高密度BCY15/多孔性BCY/高密度BCY15/BCY15−LSCF、または
BCY15−Ni/高密度BCY15/多孔性BCY/高密度BCY15/BCY15−Ag
ただし、LSCFは、式La1−XSrCo1−YFe3−δのセラミック(ただし、XおよびYは、0と1との間に含まれ、δは正であり、1と比較して小さい)を表す。
【0056】
好都合なことではあるが、陽極10を電解質20の1つの面に取り付け、かつ、陰極50を第2の電解質40の1つの面に取り付ける前に、陽極10および陰極50への付着のために使用される多孔性材料の層がこれらの面に堆積させられる。
【0057】
FCが、第1の化合物(M1)および第2の化合物(N2)の電気化学的かつ制御された酸化還元の原理に従って作動するという一般的な場合には、第1の電解質、第2の電解質および中央膜として使用される同じ材料は、M(m+)イオンおよびN(n−)イオンの両方を伝導することができるので、上記結論が適用可能である。
【0058】
この物質は、例えば、セラミックである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
・第1の化合物M1を第1のイオンM(m+)(ただし、mは、ゼロでない整数である)に酸化することができる陽極(10)、
・これら第1のイオンM(m+)を伝導することができ、かつ、前記陽極(10)と接触している第1の電解質(20)、
・第2の化合物N2を第2のN(n−)イオン(ただし、nは、ゼロでない整数である)に還元することができる陰極(50)、
・これら第2のイオンN(n−)を伝導することができ、かつ、前記陰極(50)と接触している第2の電解質(40)、
・多孔性中央膜(30)(ただし、その面の1つが前記第1の電解質(20)と接触しており、かつ、その反対側の面が前記第2の電解質(40)と接触している)
を含む燃料電池(1)であって、
前記第1の電解質(20)、前記第2の電解質(40)および前記中央膜(30)が、M(m+)イオンおよびN(n−)イオンの両方を伝導することができる同じ材料からなることにおいて特徴づけられる燃料電池(1)。
【請求項2】
前記第1の化合物M1が、Hイオンに酸化される水素Hであり、かつ、前記第2の化合物N2が、O2−イオンに還元される酸素Oであることにおいて特徴づけられる、請求項1に記載の燃料電池(1)。
【請求項3】
前記中央膜(30)を構成する前記材料がセラミックであることにおいて特徴づけられる、請求項1または2に記載の燃料電池(1)。
【請求項4】
前記セラミックが式BaCe0.850.153−δのセリウム酸バリウム(ただし、δは正であり、1と比較して小さい)であることにおいて特徴づけられる、請求項2および3に記載の燃料電池(1)。
【請求項5】
その運転が、500℃と800℃との間から構成される温度で行われることにおいて特徴づけられる、請求項2〜4のいずれかに記載の燃料電池(1)。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載される燃料電池を製造するための方法であって、下記の工程:
・前記第1の電解質(20)、前記第2の電解質(40)および前記中央膜(30)を、これらの層を構成する材料の熱間圧縮成形および焼結によって形成し、組み立てる工程、
・堆積法によって、陽極(10)を前記第1の電解質(20)に取り付け、かつ、陰極(50)を前記第2の電解質(40)に取り付ける工程、
・前記第1の電解質(20)および前記第2の電解質(40)を焼結期間中に高密度化する工程、
・前記中央膜(30)の多孔性を調節する工程
を含むことにおいて特徴づけられる方法。
【請求項7】
前記中央膜(30)の多孔性の調節が、細孔の形成を焼結期間中に促進する添加物の添加によって、および/または、より低い焼結温度によって達成されることにおいて特徴づけられる、請求項6に記載の燃料電池(1)製造方法。
【請求項8】
前記陽極(10)を前記第1の電解質(20)の1つの面に取り付け、かつ、前記陰極(50)を前記第2の電解質(40)の1つの面に取り付ける前に、前記陽極(10)および前記陰極(50)への付着のために使用される多孔性材料の層がこれらの面に堆積させられることにおいて特徴づけられる、請求項6または7に記載の燃料電池(1)製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−142274(P2012−142274A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−274744(P2011−274744)
【出願日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【出願人】(597019632)
【Fターム(参考)】