説明

モノリス状有機多孔質体、その製造方法、モノリス状有機多孔質イオン交換体及びケミカルフィルター

【課題】構造が均一で大きい連続マクロボイド構造を有し、水や気体等の流体を透過させた際の圧力損失が低い、吸着剤やイオン交換体として有用な新規構造のモノリス状有機多孔質体、その製造方法、モノリス状有機多孔質イオン交換体及びケミカルフィルターを提供すること。
【解決手段】互いに繋がっているマクロボイドとマクロボイドの該繋がり部分が半径0.1〜25mmの開口となる連続マクロボイド構造の有機多孔質体であって、該有機多孔質体の骨格部が、互いに繋がっているマクロポアとマクロポアの該繋がり部分が半径0.01〜100μmの開口となる連続マクロポア構造であり、前記マクロボイドの平均半径が、前記マクロポアの平均半径の2倍以上であるモノリス状有機多孔質体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着装置、脱イオン水製造装置あるいはガス状汚染物質除去装置等に用いられる吸着剤またはイオン交換体として有用な連続マクロボイド構造を有するモノリス状有機多孔質体、その製造方法、モノリス状有機多孔質イオン交換体及びケミカルフィルターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
互いにつながっているマクロポアとマクロポアの壁内に共通の開口を有する連続マクロポア構造を有するモノリス状多孔質体としては、シリカ等で構成された無機多孔質体が知られている(米国特許第5624875号)。そして、該無機多孔質体はクロマトグラフィー用充填剤として活発な用途開発がなされている。
【0003】
しかし、この無機多孔質体は親水性であるため、吸着剤として用いるためには、表面の疎水処理等の煩雑且つコストアップを伴う操作が必要であった。また、この無機多孔質体はアルカリに弱いため、イオン交換樹脂において通常行われる、アルカリを用いた再生操作が実施できないばかりでなく、単に中性の水中に長時間保持した場合でも、シリカの加水分解によって生じるシリケートイオンが水中に溶出するため、純水や超純水を製造するためのイオン交換体として用いることは不可能であった。さらに、上記無機多孔質体はその製法上、連続した空孔である共通の開口が最大でも20μm以下であるため流体を透過させる際の圧力損失が高く、低圧力損失下で大流量の水を処理する必要のある脱イオン水製造装置に充填し、イオン交換体として用いることは困難であった。
【0004】
また、同様の構造を有するモノリス状有機多孔質体や該多孔質体にイオン交換基を導入したモノリス状有機多孔質イオン交換体が特開2002−306976号に開示されている。該有機多孔質体や有機多孔質イオン交換体は、上記無機多孔質体の欠点を克服し、吸着剤、クロマトグラフィー用充填剤および脱イオン水製造装置等に用いられるイオン交換体として有用である。しかし、該有機多孔質イオン交換体はその構造上の制約から、実用的に要求される低い圧力損失を達成しようとすると、部分的に大きなボイドが形成されることで構造が不均一になる、製造上の再現性が著しく劣る、油中水滴型エマルジョンが不安定になり、ついには構造が崩壊してしまうといった欠点を有していた。
【0005】
このため、水や気体等の流体を透過させた際の圧力損失が格段に低く、構造が均一で大きい連続空孔を有したモノリス状有機多孔質イオン交換体の開発及び、該モノリス状有機多孔質イオン交換体を製造できる製造方法の開発が望まれていた。また、特開2004−321930号公報には、連続気泡構造のモノリス状有機多孔質イオン交換体を吸着層として用いるケミカルフィルターが開示されている。このケミカルフィルターによれば、気体透過速度が速くてもガス状汚染物質の吸着除去能力を保持でき、ガス状汚染物質が超微量であっても除去可能なものである。しかしながら、上記モノリスを吸着層として用いるケミカルフィルターは通気時の圧力損失が非常に高く、通気するための送風機が非常に容量の大きなものが必要であったため、通気時の圧力損失が低く、小型の送風機でも通気でき、かつ、ガス状汚染物質の吸着除去能力の高いケミカルフィルターの開発が望まれていた。
【特許文献1】米国特許第5624875号
【特許文献2】特開2002−306976号
【特許文献3】特開2004−321930号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、上記従来の技術の問題点を解決したものであって、構造が均一で大きい連続マクロボイド構造を有し、水や気体等の流体を透過させた際の圧力損失が低い、吸着剤やイオン交換体として有用な新規構造のモノリス状有機多孔質体、その製造方法及びモノリス状有機多孔質イオン交換体を提供することにある。また、本発明の目的は、通気時の圧力損失が非常に低く、高いガス状汚染物質除去能力を有するケミカルフィルターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる実情において、本発明者らは鋭意検討を行った結果、互いに繋がっているマクロボイドとマクロボイドの該繋がり部分が半径0.1〜25mmの開口となる連続マクロボイド構造の有機多孔質体であって、該有機多孔質体の骨格部が、互いに繋がっているマクロポアとマクロポアの該繋がり部分が半径0.01〜100μmの開口となる連続マクロポア構造であり、前記マクロボイドの平均半径が、前記マクロポアの平均半径の2倍以上であるモノリス状有機多孔質体であれば、水や気体等の流体を透過させた際の圧力損失が低く、吸着剤、イオン交換体あるいはケミカルフィルターとして有用であることなどを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、互いに繋がっているマクロボイドとマクロボイドの該繋がり部分が半径0.1〜25mmの開口となる連続マクロボイド構造の有機多孔質体であって、該有機多孔質体の骨格部が、互いに繋がっているマクロポアとマクロポアの該繋がり部分が半径0.01〜100μmの開口となる連続マクロポア構造であり、前記マクロボイドの平均半径が、前記マクロポアの平均半径の2倍以上であることを特徴とするモノリス状有機多孔質体を提供するものである。
【0009】
また、本発明は、ビニルモノマー、界面活性剤、水及び必要に応じて架橋剤や重合開始剤を混合し、該混合物を撹拌して油中水滴型エマルジョンを調製する工程と、容器内の該油中水滴型エマルジョン中に多数の粒子状テンプレートを存在させ静置下重合する工程と、該重合体から該粒子状テンプレートを除去する工程とを有することを特徴とするモノリス状有機多孔質体の製造方法を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、前記モノリス状有機多孔質体の骨格表面及び骨格内部にイオン交換基が導入されたものであって、水湿潤状態での体積当りのイオン交換容量が0.01mg当量/ml以上であることを特徴とするモノリス状有機多孔質イオン交換体を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、前記モノリス状有機多孔質体を吸着層として用いることを特徴とするケミカルフィルターを提供するものである。
【0012】
また、本発明は、前記モノリス状有機多孔質イオン交換体を吸着層として用いることを特徴とするケミカルフィルターを提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のモノリス状有機多孔質体は、連続マクロボイド構造が従来の連続マクロポア構造を有するモノリス状有機多孔質体のそれに比べて格段に大きいため、低圧、大流量の処理が可能で、従来用いられてきた合成吸着剤を代替可能であるばかりでなく、その優れた流体透過特性を生かして、合成吸着剤では対応できなかった高粘性成分の吸着除去、ガス状汚染物質除去等新しい用途分野への応用が可能となる。また、本発明のモノリス状有機多孔質体の製造方法によれば、前記モノリス状有機多孔質体を簡易に且つ確実に製造することができる。また、本発明のモノリス状有機多孔質イオン交換体は、連続マクロボイド構造が従来の連続マクロポア構造を有するモノリス状有機多孔質イオン交換体のそれに比べて格段に大きいため、低圧、大流量の水処理が可能で、従来用いられてきたイオン交換樹脂を代替可能であるばかりでなく、その優れた流体透過特性を生かして、イオン交換樹脂では対応できなかった高粘性成分中のイオン除去、ケミカルフィルター等のガス状汚染物質除去装置に充填して好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のモノリス状有機多孔質体及びモノリス状有機多孔質イオン交換体(以下、両者を説明する際、単に「モノリス状多孔質体等」とも言う。)の基本構造は、互いに繋がっているマクロボイドとマクロボイドの該繋がり部分が所定の開口寸法となる連続マクロボイド構造の有機多孔質体であって、該有機多孔質体の骨格部が、該連続マクロボイド構造よりも小さな流路を形成する、互いに繋がっているマクロポアとマクロポアの該繋がり部分が所定の開口寸法となる連続マクロポア構造となるものである。すなわち、モノリス状多孔質体等中、連続マクロボイド構造において、液体や気体が低い圧力損失で流れる大きな流路を形成し、連続マクロポア構造において、液体や気体が浸透する該連続マクロボイドよりも小さな流路を形成する。
【0015】
本発明のモノリス状多孔質体等の骨格部である連続マクロポア構造は、図1の模式図に示すように、互いに繋がっているマクロポア3とマクロポア3の該繋がり部分が半径0.01〜100μm、好ましくは0.1〜100μm、特に好ましくは5〜60μmの開口4となる構造である。すなわち、連続マクロポア構造Xは、通常、半径0.2〜500μmのマクロポア3とマクロポア3が重なり合い、この重なる部分が開口4となる構造を有するもので、その部分がオープンポア構造のものである。オープンポア構造は、液体や気体を流せば該マクロポア3と該開口4で形成される空孔構造内が流路となる。マクロポア3は、連続マクロポア構造X中、概ね同じ半径のものが均一に分散されているが、上記数値範囲を越える更に大きなポアが不均一に所々点在していてもよい。
【0016】
マクロポア3とマクロポア3の重なりは、1個のマクロポア3で1〜2個、多くのものは3〜10個である。開口4の半径が0.01μm未満であると、液体または気体透過時の圧力損失が大きくなるため好ましくない。一方、開口の半径が100μmを越えると、骨格構造の密度が減少することで、体積当りのイオン交換容量が減少してしまい、その結果、吸着特性やイオン交換特性が低下してしまうため好ましくない。
【0017】
連続マクロポア構造は、全細孔容積が1〜50ml/gであることが好ましい。全細孔容積が1ml/g未満であると、単位断面積当りの通水量が小さくなってしまい、流体が流れ難くなるため好ましくない。一方、全細孔容積が50ml/gを超えると、骨格部分のポリマーの占める割合が低下し、多孔質体の強度が著しく低下してしまうため好ましくない。連続マクロポア構造を形成する骨格部分のポリマーは、架橋構造を有する有機ポリマー材料を用い、該ポリマー材料はポリマー材料を構成する全構成単位に対して、10〜90モル%の架橋構造単位を含むことが好ましい。架橋構造単位が10モル%未満であると、機械的強度が不足するため好ましくなく、一方、90モル%を越えると、イオン交換基の導入が困難となり、イオン交換容量が低下してしまうため好ましくない。
【0018】
本発明のモノリス状多孔質体等における連続マクロボイド構造は、図1の模式図に示すように、互いに繋がっているマクロボイド1とマクロボイド1の当該繋がり部分が半径0.1〜25mm、好ましくは0.5〜15mm、特に好ましくは、0.5〜10mmの開口2となる構造である。すなわち、連続マクロボイド構造Yは、通常、半径0.5〜50mmのマクロボイド1とマクロボイド1が重なり合い、この重なる部分が開口2となる構造を有するもので、その部分がオープンポア構造のものである。オープンポア構造は、液体や気体を流せば該マクロボイド1と該開口2で形成される空孔構造内が流路となる。すなわち、モノリス状多孔質体等においては、連続マクロポア構造Xのオープンポア構造と連続マクロボイド構造Yのオープンポア構造が混在し且つ互いに繋がって流路を形成している。
【0019】
マクロボイド1とマクロボイド1の重なりは、1個のマクロボイド1で1〜2個、多くのものは3〜10個である。開口2の半径が0.1mm未満であると、液体または気体透過時の圧力損失が大きく、圧力損失を低減させるという十分な効果が得られにくいため好ましくない。一方、開口の半径が25mmを越えると、液体または気体と有機多孔質体や有機多孔質イオン交換体との接触が不十分になり、その結果、吸着特性やイオン交換特性が低下してしまうため好ましくない。マクロボイド1は、連続マクロボイド構造Y中、概ね均一に分散されている。開口の半径が25mm近傍のものは、体積が大きな吸着剤やイオン交換体を製造する場合に適用される。
【0020】
本発明のモノリス状多孔質体等において、マクロボイド1の平均半径は、マクロポア3の平均半径の2倍以上、好ましくは2〜250000倍、特に5〜10000倍、更に10〜1000倍である。マクロボイドの平均半径がマクロポアの平均半径の2倍未満であると、液体または気体透過時の圧力損失が大きく、圧力損失を低減させるという十分な効果が得られにくいため好ましくない。また、マクロボイドの半径が大き過ぎると、液体または気体と有機多孔質体や有機多孔質イオン交換体との接触が不十分になり、その結果、吸着特性やイオン交換特性が低下してしまうため好ましくない。マクロボイドとマクロポアの半径はSEM写真において明確に認識できる。このため、それらの平均半径はSEM写真における少なくも任意の10点、好ましくは任意の20点の半径を抽出してその平均を採ればよい。なお、マクロボイドの形状が真球状以外の形状の場合、真球状に換算して比較する。
【0021】
マクロボイドの形状は特に制限はなく、例えば、立方体、直方体、楕円球状、真球状あるいは不定形状等が挙げられるが、この中、該マクロボイドが、静置下重合の後、粒子状テンプレートが除去されて形成されることから、均一充填の簡易性、該テンプレート除去後のモノリス状多孔質体等の共通開口構造の均一性の観点より、真球状が好ましい。
【0022】
本発明において、連続マクロボイド構造部分の好適な空隙率はモノリス状多孔質体等中、75%前後であり、本発明のモノリス状多孔質体等の好適な空隙率は97.5%前後である。なお、本発明のモノリス状多孔質体等において、連続マクロポア構造X及び連続マクロボイド構造Yは、該多孔質体等中、それぞれ均一に存在しているため、連続マクロポア構造Xをマトリックスとして、該マトリックス中に連続マクロボイド構造Yが形成された構造であり、また、連続マクロボイド構造Yをマトリックスとして、該マトリックス中に該連続マクロポア構造Xが形成された構造である。また、本発明のモノリス状多孔質体等は、マクロボイドとマクロポアが、それぞれ均一で且つ上記範囲の半径を有する球状である場合、所謂フラクタル構造となるものである。
【0023】
本発明のモノリス状有機多孔質体を構成する材料の種類に特に制限はなく、例えば、ポリスチレン、ポリ(α−メチルスチレン)、ポリビニルベンジルクロライド等のスチレン系ポリマー;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン等のポリ(ハロゲン化ポリオレフィン);ポリアクリロニトリル等のニトリル系ポリマー;ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸グリシジル、ポリアクリル酸エチル等の(メタ)アクリル系ポリマー;スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、ビニルベンジルクロライド−ジビニルベンゼン共重合体等が挙げられる。上記ポリマーは、単独のモノマー及び、必要に応じて架橋剤を重合させて得られるポリマーでも、複数のモノマー及び、必要に応じて架橋剤を重合させて得られるポリマーであってもよく、また、二種類以上のポリマーがブレンドされたものであってもよい。これら有機ポリマー材料の中で、イオン交換基導入の容易性と機械的強度の高さ、および酸・アルカリに対する安定性の高さから、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体やビニルベンジルクロライド−ジビニルベンゼン共重合体が好ましい材料として挙げられる。
【0024】
本発明のモノリス状有機多孔質体を吸着剤として使用する場合、例えば、円筒型カラムや角型カラムに、有機多孔質体を当該カラムに挿入できる形状に切り出したものを吸着剤として充填し、これにベンゼン、トルエン、フェノール、パラフィン等の疎水性物質を含有する被処理水を通水させれば、該吸着剤に前記疎水性物質が効率よく吸着される。
【0025】
本発明のモノリス状有機多孔質イオン交換体は、前記モノリス状有機多孔質体の骨格表面及び骨格内部に更にイオン交換基を均一に導入したものであり、そのイオン交換容量としては、特に制限されないが、水湿潤状態での体積当りのイオン交換容量が0.01mg当量/ml以上、好ましくは0.05mg当量/mlのイオン交換容量を有しているものである。水湿潤状態での体積当りのイオン交換容量が0.01mg当量/ml未満であると、破過までに処理できるイオンを含んだ水の量、即ち脱イオン水の製造能力が低下してしまうため好ましくない。
【0026】
導入されたイオン交換基は、多孔質体の表面のみならず、多孔質体の骨格内部にまで均一に分布している。ここで言う「イオン交換基が均一に分布している」とは、イオン交換基の分布が少なくともμmオーダーで表面および骨格内部に均一に分布していることを指す。イオン交換基の分布状況は、EPMAやSIMS等を用いることで、比較的簡単に確認することができる。また、イオン交換基が、多孔質体の表面のみならず、多孔質体の骨格内部にまで均一に分布していると、表面と内部の物理的性質及び化学的性質を均一にできるため、膨潤及び収縮に対する耐久性が向上する。
【0027】
有機多孔質体に導入するイオン交換基としては、スルホン酸基、カルボン酸基、イミノ二酢酸基、リン酸基、リン酸エステル基等のカチオン交換基;四級アンモニウム基、三級アミノ基、二級アミノ基、一級アミノ基、ポリエチレンイミン基、第三スルホニウム基、ホスホニウム基等のアニオン交換基;アミノリン酸基、スルホベタイン等の両性イオン交換基が挙げられる。
【0028】
次に、本発明のモノリス状有機多孔質体の製造方法について説明する。すなわち、当該製造方法は、ビニルモノマー、界面活性剤、水及び必要に応じて架橋剤や重合開始剤を混合し、該混合物を撹拌して油中水滴型エマルジョンを調製するI工程と、容器内の該油中水滴型エマルジョン中に多数の粒子状テンプレートを存在させ静置下重合するII工程と、該重合体から該粒子状テンプレートを除去するIII工程とを有する。
【0029】
I工程で用いられるビニルモノマーとしては、分子中に重合可能なビニル基を含有し、水に対する溶解性が低く、親油性のモノマーであれば、特に制限はない。これらビニルモノマーの具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルベンジルクロライド等のスチレン系モノマー;エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等のα−オレフィン;ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等のジエン系モノマー;塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン、テトラフルオロエチレン等のハロゲン化オレフィン;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸グリシジル等の(メタ)アクリル系モノマーが挙げられる。これらモノマーは、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。本発明で好適に用いられるビニルモノマーは、スチレン、ビニルベンジルクロライド等のスチレン系モノマーである。
【0030】
I工程で用いられる架橋剤は、分子中に少なくとも2個の重合可能なビニル基を含有し、有機溶媒への溶解性が高いものが好適に用いられる。架橋剤の具体例としては、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルビフェニル、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ブタンジオールジアクリレート等が挙げられる。これら架橋剤は、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。好ましい架橋剤は、機械的強度の高さと加水分解に対する安定性から、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルビフェニル等の芳香族ポリビニル化合物である。
【0031】
I工程で用いられる界面活性剤は、ビニルモノマーと水を混合した際に、油中水滴型(W/O)エマルジョンを形成できるものであれば特に制限はなく、ソルビタンモノオレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレート、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート等の非イオン界面活性剤;オレイン酸カリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム等の陰イオン界面活性剤;ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド等の陽イオン界面活性剤;ラウリルジメチルベタイン等の両性界面活性剤を用いることができる。これら界面活性剤は、1種単独または2種類以上を組み合わせて使用することができる。なお、油中水滴型エマルジョンとは、油相が連続相となり、その中に水滴が分散しているエマルジョンを言う。上記界面活性剤の添加量は、油溶性モノマーの種類及び、目的とするエマルジョン粒子の大きさによって大幅に変動するため一概には言えないが、油溶性モノマーと界面活性剤の合計量に対して約2〜70%の範囲で選択することができる。
【0032】
I工程で用いられる重合開始剤としては、熱及び光照射によりラジカルを発生する化合物が好適に用いられる。重合開始剤は油溶性であるほうが好ましい。本発明で用いられる重合開始剤の具体例としては、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、テトラメチルチウラムジスルフィド等が挙げられる。重合開始剤の使用量は、モノマーの種類や重合温度等によって大きく変動するが、ビニルモノマーと架橋剤の合計量に対して、約0.01〜5%の範囲で使用することができる。
【0033】
I工程において、ビニルモノマー、界面活性剤、水、必要に応じて架橋剤や重合開始剤とを混合し、油中水滴型エマルジョンを形成させる際の混合方法としては、特に制限はなく、各成分を一括して一度に混合する方法、油溶性モノマー、架橋剤、界面活性剤及び油溶性重合開始剤である油溶性成分と、水や水溶性重合開始剤である水溶性成分とを別々に均一溶解させた後、それぞれの成分を混合する方法などが使用できる。エマルジョンを形成させるための混合装置についても特に制限はなく、通常のミキサーやホモジナイザー、高圧ホモジナイザー等を用いることができ、目的のエマルジョン粒径を得るのに適切な装置を選択すればよい。また、混合条件についても特に制限はなく、目的のエマルジョン粒径を得ることができる攪拌回転数や攪拌時間を、任意に設定することができる。
【0034】
開口の半径0.01〜100μmは、油中水滴型エマルジョンを得る工程において、界面活性剤の添加量、攪拌混合における攪拌回転数及び攪拌時間などを適宜に決定することで達成することができる。また、攪拌混合の際、アルコール、カルボン酸あるいは炭化水素を共存させることにより調整することもできる。開口の半径0.01μm近傍は、界面活性剤の添加量を多くしたり、攪拌回転数を高めたり、攪拌時間を長くとることにより、逆に半径100μm近傍は、界面活性剤の添加量を少なくしたり、攪拌回転数を低くしたり、攪拌時間を短くすることで達成することができる。
【0035】
II工程は、容器内の油中水滴型エマルジョン中に多数の粒子状テンプレートを存在させ静置下重合する工程である。容器内に油中水滴型エマルジョンを導入し、その後、多数の粒子状テンプレートを入れてもよく(第1の方法)、容器内に多数の粒子状テンプレートを入れ、その後、油中水滴型エマルジョンを導入してもよい(第2の方法)。第1の方法では、多数の粒子状テンプレートを入れた後は、落し蓋等の方法で若干、粒子状テンプレートを押圧することが、最密充填あるいはそれに近い充填ができる点で好ましい。また、第2の方法では、油中水滴型エマルジョンを導入する際、脱気しながら行なうことが、多数の粒子状テンプレート間の隙間に油中水滴型エマルジョンを十分に行き渡らせることができ、連続マクロポア構造と連続マクロボイド構造をそれぞれ均一に形成できる点で好ましい。また、第1の方法及び第2の方法のいずれの場合も、容器への油中水滴型エマルジョンの導入はエマルジョン構造を崩壊させることなく、静かに行なうことが好ましい。
【0036】
II工程で用いる粒子状テンプレートは、静置時及び重合時にその形状を保持してエマルジョンやポリマー中に存在し、重合後は除去手段により除去されるものである。粒子状テンプレートとしては、多糖類ハイドロゲルが、油中水滴型エマルジョンに対する安定性、マクロボイド形成の容易性、充填及び除去の容易性の観点から好ましい。多糖類ハイドロゲルの具体例としては、例えば、寒天、アルギン酸カルシウム、ゼラチン、カラギナン、ペクチン、グルコマンナン等のハイドロゲルが挙げられる。これらは1種単独又は2種以上をブレンドして用いてもよい。これら粒子状テンプレートの中で、寒天、アルギン酸カルシウムのハイドロゲルが、粒子状テンプレートの入手の容易性、静置下重合した後のテンプレート除去工程の容易性から好ましい。
【0037】
また、その粒子状テンプレートの形状は特に制限はなく、例えば、立方体、直方体、楕円球状、真球状等が挙げられる。この中、真球状とすることが、マクロボイドが、静置下重合の後、該テンプレートが除去されることで形成されることから、均一充填の簡易性、該テンプレート除去後のモノリス状多孔質体等の共通開口構造の均一性などの観点より好ましい。
【0038】
粒子状テンプレートの粒子径は、真球状換算にして、半径が0.5〜50mm、好ましくは0.5〜25mm、特に好ましくは、0.5〜10mmである。すなわち、粒子状テンプレート除去後、半径0.5〜50mmのマクロボイドとマクロボイドが重なり合い、この重なる部分が開口となる構造を形成し、その部分がオープンポア構造となることから、液体や気体を流した場合、該マクロボイドと該開口で形成される空孔構造内が流路となる。該テンプレート半径が0.5mm未満であると、液体または気体透過時の圧力損失が大きく、圧力損失を低減させる十分な効果が得られにくいため好ましくない。一方、該テンプレート半径が50mmを越えると、液体または気体とモノリス状多孔質体等との接触が不十分になり、その結果、吸着特性やイオン交換特性が低下してしまうため好ましくない。なお、粒子状テンプレートの形状が立方体や直方体の場合、油中水滴型エマルジョン中に導入する際、特段の操作を行なわずとも、静置状態において、それぞれのテンプレートがランダム方向において互いが接触するため、好適な連続マクロボイド構造を形成することができる。
【0039】
本発明のモノリス状多孔質体等において、マクロポアの半径は、前述の如く、I工程において、界面活性剤の添加量、攪拌混合における攪拌回転数及び攪拌時間などを適宜に決定することで調整でき、マクロボイドの半径は、粒子状テンプレートの粒子径を選択することで調製できる。従って、マクロボイドの平均半径が、マクロポアの平均半径の2倍近傍のものを製造するためには、粒子状テンプレートの粒子径が小さいものを使用すればよい。
【0040】
II工程において、容器の油中水滴型エマルジョン中への多数の粒子状テンプレートの充填は、適当な開口を形成させるため、それぞれの粒子状テンプレートが相互に接触するような充填、特に最密充填あるいは最密充填に近い充填をすることが好ましい。粒子状テンプレートは互いの接触が点接触のような充填であっても、重合の際、ポリマー材料部が収縮するため、適度な開口を形成することができる。なお、開口において、平均半径が0.1mmに近い開口を形成するには、粒子径が小さく且つ揃ったものを選択することで得ることができ、また、半径が25mmに近い開口を形成するには、粒子径が大きく且つ最密充填することで得ることができる。
【0041】
II工程において、重合条件は、モノマーの種類、重合開始剤の種類により様々な条件が選択できる。例えば、重合開始剤として2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過硫酸カリウム等を用いたときには、不活性雰囲気下の密封容器内において、30〜100℃で1〜48時間加熱重合させればよい。
【0042】
III工程は、重合体から粒子状テンプレートを除去する工程である。すなわち、重合終了後、容器から内容物を取り出し、粒子状テンプレートを除去した後、未反応ビニルモノマーと有機溶媒の除去を目的に、2−プロパノール等の溶剤で抽出してモノリス状有機多孔質体を得る。
【0043】
粒子状テンプレートの除去方法としては、特に制限はなく、例えば、熱溶解、加水分解、酵素分解、酸化分解、エチレンジアミン四酢酸やヘキサメタりん酸ナトリウム等、キレート剤によるイオン交換処理等が挙げられる。これら粒子状テンプレート除去方法の中、熱溶解又はエチレンジアミン四酢酸やヘキサメタりん酸ナトリウム等のキレート剤によるイオン交換処理が、実験操作上の簡易性、該テンプレート除去の容易性の点で好ましい。
【0044】
次に、本発明のモノリス状有機多孔質イオン交換体の製造方法について説明する。該モノリス状有機多孔質イオン交換体は、上記の方法により得られたモノリス状有機多孔質体を製造した後、モノリス状有機多孔質体の骨格表面及び骨格内部にイオン交換基を均一に導入したものであって、水湿潤状態での体積当りのイオン交換容量が0.01mg当量/ml以上、好ましくは0.05〜5.0mg当量/mlである。このように、予めモノリス状有機多孔質体を製造し、その後、イオン交換基を導入する方法が、モノリス状有機多孔質イオン交換体の多孔構造を厳密にコントロールできる点で好ましい。
【0045】
上記モノリス状有機多孔質体の表面及び骨格内部にイオン交換基を均一に導入する方法としては、特に制限はなく、高分子反応やグラフト重合等の公知の方法を用いることができる。例えば、スルホン酸基を導入する方法としては、有機多孔質体がスチレン-ジビニルベンゼン共重合体等であればクロロ硫酸や濃硫酸、発煙硫酸を用いてスルホン化する方法;有機多孔質体の表面及び骨格内部にラジカル開始基や連鎖移動基を導入し、スチレンスルホン酸ナトリウムやアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸をグラフト重合する方法;同様にグリシジルメタクリレートをグラフト重合した後、官能基変換によりスルホン酸基を導入する方法等が挙げられる。また、四級アンモニウム基を導入する方法としては、有機多孔質体がスチレン-ジビニルベンゼン共重合体等であればクロロメチルメチルエーテル等によりクロロメチル基を導入した後、三級アミンと反応させる方法;有機多孔質体をクロロメチルスチレンとジビニルベンゼンの共重合により製造し、三級アミンと反応させる方法;有機多孔質体の表面及び骨格内部にラジカル開始基や連鎖移動基を導入し、N,N,N−トリメチルアンモニウムエチルアクリレートやN,N,N−トリメチルアンモニウムプロピルアクリルアミドをグラフト重合する方法;同様にグリシジルメタクリレートをグラフト重合した後、官能基変換により四級アンモニウム基を導入する方法等が挙げられる。また、ベタインを導入する方法としては、有機多孔質体に三級アミンを導入した後、モノヨード酢酸を反応させ導入する方法等が挙げられる。これらの方法のうち、スルホン酸基を導入する方法については、クロロ硫酸を用いてスチレン-ジビニルベンゼン共重合体にスルホン酸基を導入する方法が、四級アンモニウム基を導入する方法としては、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体にクロロメチルメチルエーテル等によりクロロメチル基を導入した後、三級アミンと反応させる方法やクロロメチルスチレンとジビニルベンゼンの共重合により有機多孔質体を製造し、三級アミンと反応させる方法が、イオン交換基を骨格表面及び骨格内部に均一かつ定量的に導入できる点で好ましい。なお、導入するイオン交換基としては、カルボン酸基、イミノ二酢酸基、スルホン酸基、リン酸基、リン酸エステル基等のカチオン交換基;四級アンモニウム基、三級アミノ基、二級アミノ基、一級アミノ基、ポリエチレンイミン基、第三スルホニウム基、ホスホニウム基等のアニオン交換基;アミノリン酸基、ベタイン、スルホベタイン等の両性イオン交換基が挙げられる。
【0046】
イオン交換容量の調整は、多孔質体と反応試薬の選択により適宜決定できる。例えば、0.01mg当量/gといった比較的低いカチオン交換容量の多孔質体を製造する場合には、濃硫酸やクロロスルホン酸といったスルホン化試薬との反応性が低いジビニルベンゼンを主成分とする多孔質体をスルホン化することで達成できる。また、グラフト反応によりカチオン交換基を導入する場合は、多孔質体に導入するラジカル開始基や連鎖移動基の導入量を低く抑えることで、カチオン交換容量を低くすることができる。一方、カチオン交換容量を高くしたい場合には、スルホン化試薬との反応性が高いスチレンを主成分とする多孔質体をスルホン化する。また、グラフト反応を用いる場合には、多孔質体に導入するラジカル開始基や連鎖移動基の導入量を多くすればよい。また、アニオン交換容量や両性イオン交換容量の場合も、前記カチオン交換容量の場合と同じ方法で行うことができる。
【0047】
本発明のケミカルフィルターは、上記モノリス状多孔質体等を吸着層として備えるもの、さらには、すでに公知のイオン交換樹脂やイオン交換繊維を用いた吸着層と上記モノリスを組み合わせたものを吸着層として備えるものであれば、フィルターの構成に特に制限はないが、通常、吸着層と該吸着層を支持する支持枠体(ケーシング)とで構成される。該支持枠体は吸着層を支持すると共に、既存設備(設置場所)との接合を司る機能を有する。支持部材の被処理気体流通部分は、脱ガスのないステンレス、アルミニウム、プラスチック等の素材からなる。吸着層の形状としては、特に制限されず、所定の厚みを有するブロック形状、薄板を複数枚重ね合わせた積層形状、定形状又は不定形状の粒状物を多数充填した充填構造などが挙げられる。また、吸着層からガス状有機系汚染物質が極微量発生する恐れのある場合、あるいは被処理気体中の有機性ガス状汚染物質の濃度が高い場合には、吸着層の下流側に物理吸着層を付設することが、下流側の物理吸着層で上流側の吸着層で除去できなかった残部のガス状有機系汚染物質を確実に除去できる点で好適である。
【0048】
本発明のケミカルフィルターの比表面積は1〜10m/g、好ましくは2〜9m/gである。比表面積が小さ過ぎると、処理能力が低下するため好ましくなく、大き過ぎると、モノリス状多孔質体等の強度が著しく低下するため、好ましくない。比表面積を上記範囲とするには、ビニルモノマー、架橋剤、重合開始剤及び重合温度などにより異なり一概には決定できないものの、概ね水、ビニルモノマー、架橋剤の合計使用量に対する水使用量が、75〜95%のような条件で重合すればよい。比表面積は水銀圧入法で測定することができる。
【0049】
該物理吸着層としては、脱臭用途に使用できる吸着剤が使用できる。具体的には、活性炭、活性炭素繊維及びゼオライトなどが挙げられる。該吸着剤は、比表面積が200m2/g以上の多孔質体が好ましく、比表面積が500m2/g以上の多孔質体がさらに好ましい。また、該物理吸着層から物理吸着剤などが飛散する恐れのある場合には、該物理吸着層の下流側に通気性を有するカバー材を配置することが好ましい。カバー材としては、有機高分子材料からなる不織布及び多孔質膜、並びにアルミニウム及びステンレス製のメッシュ等が挙げられる。これらの中、有機高分子材料からなる不織布や多孔質膜は低圧力損失で気体を透過でき、且つ微粒子捕集能力が高いため、特に好適である。
【0050】
本発明のケミカルフィルターは、半導体産業や医療用等に用いられるクリーンルームやクリーンベンチ等の高度清浄空間を形成するため、クリーンルーム内の空気や雰囲気中に含まれる有機系又は無機系のガス状汚染物質及びその他の汚染物質をイオン交換又は吸着により除去する。ガス状汚染物質及びその他の汚染物質としては、二酸化硫黄、塩酸、フッ酸、硝酸等の酸性ガス、アンモニア等の塩基性ガス、塩化アンモニウム等の塩類、フタル酸エステル系に代表される各種可塑剤、フェノール系及びリン系の酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系などの紫外線吸収剤、リン系及びハロゲン系の難燃剤等が挙げられる。酸性ガス、塩基性ガス及び塩類はイオン交換により除去でき、各種可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤及び難燃剤は強い極性を有するため、吸着により除去することができる。
【0051】
本発明のケミカルフィルターの使用条件としては、公知の条件で行なうことができる。使用雰囲気の湿度としては、相対湿度で30〜80%程度である。気体透過速度としては、特に制限されないが、例えば0.1〜10m/sの範囲である。従来の粒状イオン交換樹脂を吸着層として使用する場合、気体透過速度は0.3〜0.5m/s程度であるが、本発明のケミカルフィルターによれば、気体透過速度が5〜10m/sのように速くても、連続気泡構造でありイオン交換容量が大きく且つ効率良くイオン交換が行なわれるため、ガス状汚染物質を吸着除去できる。また、被処理空気中の汚染物質濃度において、従来のケミカルフィルターによれば、適用範囲はアンモニアの場合、通常0.1〜10μg/m、塩化水素の場合、通常5〜50ng/m、二酸化硫黄の場合、通常0.1〜10μg/m、フタル酸エステルの場合、通常0.1〜5μg/mであるが、本発明のケミカルフィルターによれば、上記範囲に加えて、アンモニア100ng/m以下、塩化水素5ng/m以下、二酸化硫黄100ng/m以下、フタル酸エステル100ng/m以下の極微量濃度であっても十分除去できる。なお、吸着層として用いるモノリス状有機多孔質イオン交換体は、使用に際しては、従来のイオン交換樹脂の場合と同様、得られた有機多孔質イオン交換体を公知の再生方法により処理して用いる。すなわち、多孔質陽イオン交換体は、酸処理により酸型として用い、多孔質陰イオン交換体は、アルカリ処理によりOH型として用いる。また、ケミカルフィルター処理気体が使用雰囲気の湿度になるよう、予めケミカルフィルターをその使用空間における平衡水分率となる水分保有量にしておくことが、慣らし運転を省略できる点で好ましい。本発明のケミカルフィルターをブロック状で用い、気体透過速度が5〜10m/sの場合、ブロック状の吸着層の通気方向の長さは概ね50〜200mmである。
【0052】
本発明のケミカルフィルターは、吸着層として用いるモノリス又はモノリス状イオン交換体の細孔容積や比表面積が格段に大きく、その表面や内部にイオン交換基が高密度に導入されているため、気体透過速度が速くてもガス状汚染物質の吸着除去能力を保持でき、また、ガス状汚染物質が超微量であっても除去可能である。すなわち、従来の粒状のイオン交換樹脂は、粒子内部のイオン交換が遅く、イオン交換容量の全てが有効に使用されない。例えば粒径500μmの粒状イオン交換樹脂の場合、効率よく吸着が行なわれる範囲が表面から100μmと仮定すると、表面層の体積分率は約50%であり、効率よく吸着が行なわれる範囲のイオン交換容量は約半分となる。一方、本発明に係る有機多孔質イオン交換体は壁の厚みが2〜10μmであるため、全てのイオン交換基が効率よく使用される。
【0053】
本発明のケミカルフィルターの吸着層に用いるモノリス状有機多孔質イオン交換体はイオン交換体長さについても、従来の粒状イオン交換樹脂に比べて約1/4と非常に小さく、同じ体積の吸着層を用いても寿命が長くなる。
【0054】
本発明のケミカルフィルターは、送風機ユニットと組み合わせて又は送風機ユニットに組み込まれて使用することができる。送風機ユニットとしては、特に制限はないが、通常、軸流ファンまたはブロアを送風源とする送風機と、その出力を調節するコントローラーと、該送風機と該コントローラーを収める第1ケーシングと、該ケーシングに連結される微粒子除去用のHEPAまたはULPAフィルターと、HEPAまたはULPAフィルターを収める第2ケーシングからなる。第1ケーシング及び第2ケーシングの被処理気体流通部分は、脱ガスのないステンレス、アルミニウム、プラスチック等の素材からなる。微粒子除去用フィルターのろ材についても特に制限はなく、一般的なガラス繊維やPTFEを用いることができる。クリーンルーム等で用いる場合には、ボロンや有機物を放出しないガラス繊維やPTFEがなお好ましい。
【0055】
本発明のケミカルフィルターは微粒子除去用のHEPAまたはULPAフィルターの上流側に付設される。本発明のケミカルフィルターと送風機ユニットを組み合わせる形態としては、互いのケーシング同士を接続して一体化して使用する方法が挙げられる。本発明のケミカルフィルターを送風機ユニットに組み込む形態としては、吸着層を送風機ユニットに組み込む形態である。ケミカルフィルターを送風機ユニットに組み込む形態において、送風機とケミカルフィルターの位置は、どちらが上流側にきてもよい。本発明のケミカルフィルターを送風機ユニットとを組み合わせて使用すれば、ガス状汚染物質と微粒子を共に除去できる点で好ましい。
【0056】
本発明においては、モノリス状多孔質体等をケミカルフィルターの吸着層として用いるため、マクロボイドによる大きな流路と均一に導入されたイオン交換基により、静圧の小さな小型の送風機においても効率よく被処理気体中の不純物を除去できる。また、体積当たりのイオン交換容量、比表面積が非常に大きく均一にイオン交換基が導入されているため、除去率の向上と長寿命化が図れる。
【0057】
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【実施例1】
【0058】
(モノリス状有機多孔質体の製造)
スチレン4.91g、ジビニルベンゼン0.26g、ソルビタンモノオレート0.27g及び、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)0.06gを混合し、均一に溶解させた。次に、当該スチレン/ジビニルベンゼン/ソルビタンモノオレート/2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)混合物を49.5gの純水に添加し、遊星式撹拌装置である真空撹拌脱泡ミキサー(イーエムイー社製)を用いて13.3kPaの減圧下、公転回転数1000回転/分、自転回転数330回転/分で2分間撹拌し、油中水滴型エマルジョンを得た(I工程)。
【0059】
I工程で得られた油中水滴型エマルジョンを円筒容器内に静かに注入した。次いで、該エマルジョン中に真球状で粒子半径が約1.5mmのアルギン酸カルシウムハイドロゲルを最密充填し、系内を窒素で十分置換した後密封し、静置下60℃で24時間重合させた(II工程)。
【0060】
重合終了後、内容物を取り出し、10%ヘキサメタりん酸ナトリウム水溶液中で4時間撹拌することで、アルギン酸カルシウムハイドロゲルを除去した。その後、2−プロパノールで6時間ソックスレー抽出し、未反応モノマー、水及び、ソルビタンモノオレートを除去した後、85℃で一昼夜減圧乾燥することで、スチレン/ジビニルベンゼン共重合体よりなる架橋成分を3.3モル%含有した、連続マクロボイド構造を有するモノリス状有機多孔質体を得た(III工程)。
【0061】
この有機多孔質体の内部構造を、SEMにより観察した結果を図2に示す。この有機多孔質体の内部構造は、連続マクロポア構造と連続マクロボイド構造が均一に混在し互いに繋がったものであった。連続マクロボイド構造は、平均半径1.5mmのマクロボイドの大部分が重なり合い、マクロボイドとマクロボイドの重なりで形成される開口の平均半径は0.8mmであった。また、連続マクロポア構造は、平均半径30μmのマクロポアの大部分が重なり合い、マクロポアとマクロポアの重なりで形成される開口の平均半径は10μmであった。得られた多孔質体は、重量4.2g、直径71.0mm、高さ41.4mmの円柱状であった。
【0062】
(モノリス状有機多孔質カチオン交換体の製造)
実施例1で得られた有機多孔質体に、ジクロロメタン1800mlを加え、35℃で1時間加熱した後、10℃以下まで冷却し、クロロ硫酸22.3gを徐々に加え、昇温して35℃で24時間反応させた。その後、メタノールを加え、残存するクロロ硫酸をクエンチした後、メタノールで洗浄してジクロロメタンを除き、更に純水で洗浄して連続マクロボイド構造を有するモノリス状有機多孔質カチオン交換体を得た。得られたカチオン交換体の直径は106.5mm、体積当りのイオン交換容量は、水湿潤状態で0.065mg当量/mlであった。
【0063】
水湿潤状態での有機多孔質カチオン交換体において、連続マクロボイド構造のマクロボイド平均半径は2.1mm、マクロボイドとマクロボイドの重なりで形成される開口の平均半径は1.1mmであった。また、水湿潤状態の細孔半径を、有機多孔質体の細孔半径と水湿潤状態のカチオン交換体の膨潤率から見積もったところ、連続マクロポア構造のマクロポアの平均半径は45μm、マクロポアとマクロポアの重なりで形成される開口の平均半径は15μmであった。得られたモノリス状有機多孔質カチオン交換体の外観写真を図3に示す。
【実施例2】
【0064】
(モノリス状有機多孔質体の製造)
粒子半径約1.5mmのアルギン酸カルシウムハイドロゲルに代えて、粒子半径約2.5mmのアルギン酸カルシウムハイドロゲルを使用した以外は、実施例1と同様の方法でモノリス状有機多孔質体を製造した。このモノリス状有機多孔質体の内部構造を、SEMにより観察した結果を図4に示す。
【0065】
この有機多孔質体の内部構造は、連続マクロポア構造と連続マクロボイド構造が均一に混在し互いに繋がったものであった。連続マクロボイド構造は、平均半径2.5mmのマクロボイドの大部分が重なり合い、マクロボイドとマクロボイドの重なりで形成される開口の平均半径は1.2mmであった。また、連続マクロポア構造は、平均半径31μmのマクロポアの大部分が重なり合い、マクロポアとマクロポアの重なりで形成される開口の平均半径は11μmであった。得られた多孔質体は、重量4.5g、直径71.5mm、高さ42.0mmの円柱状であった。
【0066】
(モノリス状有機多孔質カチオン交換体の製造)
実施例2で得られたモノリス状有機多孔質体を、実施例1と同様の方法でクロロ硫酸と反応させ、モノリス状有機多孔質体を製造した。得られたカチオン交換体の直径は104.0mm、体積当りのイオン交換容量は、水湿潤状態で0.064mg当量/mlであった。
【0067】
水湿潤状態での有機多孔質カチオン交換体において、連続マクロボイド構造のマクロボイド平均半径は3.6mm、マクロボイドとマクロボイドの重なりで形成される開口の平均半径は1.8mmであった。また、水湿潤状態の平均細孔半径を、有機多孔質体の平均細孔半径と水湿潤状態のカチオン交換体の膨潤率から見積もったところ、連続マクロポア構造のマクロポアの平均半径は45μm、マクロポアとマクロポアの重なりで形成される開口の平均半径は16μmであった。
【実施例3】
【0068】
(モノリス状有機多孔質体の製造)
粒子半径約1.5mmのアルギン酸カルシウムハイドロゲルに代えて、粒子半径約12.5mmの寒天を使用したこと、テンプレート除去条件をpH≒1に調製した硫酸水溶液中、80℃に加熱しながら4時間撹拌としたこと以外は、実施例1と同様の方法でモノリス状有機多孔質体を製造した。このモノリス状有機多孔質体の内部構造を、SEMにより観察した結果を図5に示す。
【0069】
この有機多孔質体の内部構造は、連続マクロポア構造と連続マクロボイド構造が均一に混在し互いに繋がったものであった。連続マクロボイド構造は、平均半径12.5mmのマクロボイドの大部分が重なり合い、マクロボイドとマクロボイドの重なりで形成される開口の平均半径は6.3mmであった。また、連続マクロポア構造は、平均半径30μmのマクロポアの大部分が重なり合い、マクロポアとマクロポアの重なりで形成される開口の平均半径は11μmであった。得られた多孔質体は、重量4.3g、直径71.1mm、高さ42.0mmの円柱状であった。
【0070】
(モノリス状有機多孔質カチオン交換体の製造)
実施例3で得られたモノリス状有機多孔質体を、実施例1と同様の方法でクロロ硫酸と反応させ、連続マクロボイド構造を有するモノリス状有機多孔質体を製造した。得られたカチオン交換体の直径は113.6mm、体積当りのイオン交換容量は、水湿潤状態で0.061mg当量/mlであった。
【0071】
水湿潤状態での有機多孔質カチオン交換体において、連続マクロボイド構造のマクロボイド平均半径は20.0mm、マクロボイドとマクロボイドの重なりで形成される開口の平均半径は10.0mmであった。また、水湿潤状態の平均細孔半径を、有機多孔質体の平均細孔半径と水湿潤状態のカチオン交換体の膨潤率から見積もったところ、連続マクロポア構造のマクロポアの平均半径は48μm、マクロポアとマクロポアの重なりで形成される開口の平均半径は18μmであった。
【実施例4】
【0072】
(モノリス状有機多孔質体の製造)
スチレン4.91g、ジビニルベンゼン0.26gに代えて、スチレン5.01g、ジビニルベンゼン0.16gとした以外は、実施例1と同様の方法で行い、スチレン/ジビニルベンゼン共重合体よりなる架橋成分を1.9モル%含有したモノリス状有機多孔質体を得た。このモノリス状有機多孔質体の内部構造を、SEMにより観察した結果を図6に示す。
【0073】
この有機多孔質体の内部構造は、連続マクロポア構造と連続マクロボイド構造が均一に混在し互いに繋がったものであった。連続マクロボイド構造は、平均半径1.5mmのマクロボイドの大部分が重なり合い、マクロボイドとマクロボイドの重なりで形成される開口の平均半径は0.8mmであった。また、連続マクロポア構造は、平均半径30μmのマクロポアの大部分が重なり合い、マクロポアとマクロポアの重なりで形成される開口の平均半径は13μmであった。得られた多孔質体は、重量4.1g、直径72.5mm、高さ43.4mmの円柱状であった。
【0074】
(モノリス状有機多孔質アニオン交換体の製造)
実施例4で得られた有機多孔質体にジメトキシメタン1405ml、四塩化スズ44.6gを加え、10℃以下まで冷却した後、クロロ硫酸978.7gを徐々に加え、昇温して35℃で5時間反応させた。その後、再び10℃以下まで冷却し、容器より反応溶液を抜き取り、テトラヒドロフラン/水=1/1混合溶液1800mlを加え洗浄し、クロロメチル化有機多孔質体を得た。該クロロメチル化有機多孔質体に、テトラヒドロフラン1800mlを加え、そこにトリメチルアミン30%水溶液879.1gを加え、昇温して50℃で6時間反応させた。その後、容器より反応溶液を抜き取り、メタノール/水=1/1混合溶液1800mlを加え洗浄を行い、更に純水で洗浄して連続マクロボイド構造を有するモノリス状有機多孔質アニオン交換体を得た。得られたアニオン交換体の直径は110.0mm、体積当りのイオン交換容量は、水湿潤状態で0.048mg当量/mlであった。
【0075】
水湿潤状態での有機多孔質アニオン交換体において、連続マクロボイド構造のマクロボイド平均半径は2.3mm、マクロボイドとマクロボイドの重なりで形成される開口の平均半径は1.2mmであった。また、水湿潤状態の平均細孔半径を、有機多孔質体の平均細孔半径と水湿潤状態のアニオン交換体の膨潤率から見積もったところ、連続マクロポア構造のマクロポアの平均半径は46μm、マクロポアとマクロポアの重なりで形成される開口の平均半径は20μmであった。
【0076】
比較例1
(モノリス状有機多孔質体の製造)
スチレン4.91g、ジビニルベンゼン0.26g、ソルビタンモノオレート0.27g、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)0.06g及び純水49.5gの原料を、スチレン19.24g、ジビニルベンゼン1.09g、ソルビタンモノオレート1.07g、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)0.26g及び純水180gの原料に変更したこと、アルギン酸カルシウムハイドロゲルビーズの使用を省略したこと以外は、実施例1と同様の方法で有機多孔質体を製造した。
【0077】
比較例1で得られた有機多孔質体は、粒子状テンプレートを用いないことで、得られた有機多孔質体は連続マクロボイド構造を形成しておらず、スチレン/ジビニルベンゼン共重合体よりなる架橋成分を3.3モル%含有した連続マクロポア構造のみを形成した。この有機多孔質体の内部構造は、連続マクロポア構造を有しており、平均半径30μmのマクロポアの大部分が重なり合い、マクロポアとマクロポアの重なりで形成される開口の平均半径は10μmであった。得られた多孔質体は、重量16.5g、直径69.6mm、高さ41.4mmの円柱状であった。
【0078】
(連続気泡型モノリス状有機多孔質カチオン交換体の製造)
比較例1で得られた連続マクロポア構造のモノリス状有機多孔質体を、実施例1と同様の方法でクロロ硫酸と反応させ、モノリス状有機多孔質カチオン交換体を製造した。得られた該カチオン交換体には連続マクロボイド構造は形成しておらず、直径110.5mm、体積当りのイオン交換容量は、水湿潤状態で0.255mg当量/mlであった。この有機多孔質カチオン交換体の内部構造は、連続マクロポア構造を有しており、水湿潤状態の平均細孔半径を、有機多孔質体の平均細孔半径と水湿潤状態のカチオン交換体の膨潤率から見積もったところ、マクロポアの平均半径48μm、マクロポアとマクロポアの重なりで形成される開口の平均半径は16μmであった。
【実施例5】
【0079】
(イオン除去性能試験)
実施例1で得られたモノリス状有機多孔質カチオン交換体を、内径10mm、高さ100mmのカラムに充填し、0.004mol/l 塩化ナトリウム水溶液(Naイオン濃度:92.0ppm)を、線速度10m/hで通液し、Naイオンの除去性能を測定した。その結果、Naイオン除去率は99%以上であり、圧力損失は0.002MPaであった。また、モノリス状有機多孔質カチオン交換体は、イオン除去性能試験に耐える強度を有するものであった。
【0080】
比較例2
(イオン除去性能試験)
実施例1で得られたモノリス状有機多孔質カチオン交換体に代えて、比較例1で製造した連続マクロポア構造のモノリス状有機多孔質カチオン交換体を用いたこと以外は、実施例5と同様のイオン除去性能試験を行った。その結果、Naイオン除去率は99%以上であったが、圧力損失は0.013MPaであった。
【実施例6】
【0081】
(モノリス状有機多孔質カチオン交換体を用いた塩基性ガスの吸着)
実施例1で得られたモノリス状有機多孔質カチオン交換体を3N塩酸中に24時間浸漬した後、純水で十分洗浄し、乾燥させた。得られたモノリス状有機多孔質カチオン交換体を25℃、相対湿度40%の状態で48時間放置した後、直径50mm、厚み50mmの円盤状に切り出し、円筒状カラムに充填してケミカルフィルターを作製した。このフィルターに25℃、40%の温湿度条件下、アンモニア濃度5,000ng/mの空気を面風速0.5m/sで供給したときの通気差圧を測定し、透過気体を超純水インピンジャー法でサンプリングし、イオンクロマトグラフ法でアンモニウムイオンの定量を行った。その結果、面風速0.5m/sのときの通気差圧は48Paと非常に低圧損であり、除去率は約95%であった。
【0082】
比較例3
スチレン38g、ジビニルベンゼン2.0g、ソルビタンモノオレート2.1gおよびアゾビスイソブチロニトリル0.1gを混合し、均一に溶解させた。次に当該スチレン/ジビニルベンゼン/ソルビタンモノオレート/アゾビスイソブチロニトリル混合物を360gの純水に添加し、遊星式攪拌装置である真空攪拌脱泡ミキサー(イーエムイー社製)を用いて13.3kPaの減圧下、底面直径と充填物の高さの比が1:1、公転回転数1000回転/分、自転回転数330回転/分で2分間攪拌し、油中水滴型エマルジョンを得た。乳化終了後、系を窒素で十分置換した後密封し、静置下60℃で24時間重合させた。重合終了後、内容物を取り出し、イソプロパノールで18時間ソックスレー抽出し、未反応モノマー、水およびソルビタンモノオレエートを除去した後、85℃で一昼夜減圧乾燥した。このようにして得られたスチレン/ジビニルベンゼン共重合体よりなる架橋成分を3モル%含有した有機多孔質体の内部構造をSEMにより観察した結果、当該有機多孔質体は連続気泡構造を有していた。
【0083】
次いで上記有機多孔質体を切断して18gを分取し、ジクロロエタン2400mlを加え60℃で30分加熱した後、室温まで冷却し、クロロ硫酸90gを徐々に加え、室温で24時間反応させた。その後、酢酸を加え、多量の水中に反応物を投入し、水洗して有機多孔質陽イオン交換体を得た。この有機多孔質陽イオン交換体のイオン交換容量は、乾燥多孔質体換算で4.8mg当量/gであり、EPMAを用いた硫黄原子のマッピングにより、スルホン酸基がμmオーダーで有機多孔質体に均一に導入されていることを確認した。また、SEM観察により、有機多孔質体の連続気泡構造はイオン交換基導入後も保持されていることを確認した。また、この有機多孔質陽イオン交換体のメソポアの平均径は、30μm、全細孔容積は10.2ml/gであった。
【0084】
(連続気泡構造の有機多孔質陽イオン交換体を用いた塩基性ガスの吸着)
上記方法で得られた連続気泡構造の有機多孔質陽イオン交換体を3N塩酸中に24時間浸漬した後、純水で十分洗浄し、乾燥させた。得られたモノリスカチオン交換体を25℃、相対湿度40%の状態で48時間放置した後、直径50mm、厚み50mmの円盤状に切り出し、円筒状カラムに充填してケミカルフィルターを作製した。このフィルターに実施例6と同様の方法でアンモニア除去試験を行った結果、面風速0.5m/sのときの通気差圧は2500Paと非常に高圧損であり、除去率は約98%と実施例6に比べて同等程度であった。
【実施例7】
【0085】
(モノリス状有機多孔質アニオン交換体を用いた酸性ガスの吸着)
実施例4により製造したモノリス状有機多孔質アニオン交換体を1N水酸化ナトリウム水溶液中に24時間浸漬した後、純水で十分洗浄し、乾燥させた。得られたモノリス状有機多孔質アニオン交換体を25℃、相対湿度40%の状態で48時間放置した後、直径50mm、厚み50mmの円盤状に切り出し、円筒状カラムに充填してケミカルフィルターを作製した。このフィルターに25℃、40%の温湿度条件下、二酸化硫黄濃度5,000ng/mの空気を面風速0.5m/sで供給したときの通気差圧を測定し、透過気体を超純水インピンジャー法でサンプリングし、イオンクロマトグラフ法で硫酸イオンの定量を行った。その結果、面風速0.5m/sのときの通気差圧は48Paと非常に低圧損であり、除去率は約94%であった。
【0086】
比較例4
スチレンに代えてクロロメチルスチレンを用いたこと及びソルビタンモノオレートの量を4.5gに変更したこと以外は、比較例3と同様の方法で連続気泡型モノリス状有機多孔質体を製造した。この有機多孔質体を切断して15.0gを分取し、テトラヒドロフラン1500gを加え60℃で30分加熱した後、室温まで冷却し、トリメチルアミン(30%)水溶液195gを徐々に加え、50℃で3時間反応させた後、室温で一昼夜放置した。反応終了後、有機多孔質体を取り出し、アセトンで洗浄後水洗し、乾燥して有機多孔質陰イオン交換体を得た。この有機多孔質陰イオン交換体のイオン交換容量は、乾燥多孔質体換算で3.7mg当量/gであり、SIMSにより、トリメチルアンモニウム基が有機多孔質体にμmオーダーで均一に導入されていることを確認した。また、SEM観察により、有機多孔質体の連続気泡構造はイオン交換基導入後も保持されていることを確認した。また、この有機多孔質陰イオン交換体のメソポアの平均径は、25μm、全細孔容積は9.8ml/gであった。
【0087】
得られたアニオン交換体を実施例7と同様の方法で二酸化硫黄の除去試験を行った。その結果、面風速0.5m/sのときの通気差圧は2500Paと非常に高圧損であり、除去率は約96%と実施例7に比べて同等程度であった。
【実施例8】
【0088】
(モノリス状有機多孔質体の製造)
I工程の試薬量を2倍にしてモノリス状有機多孔質体を製造したこと以外は、実施例1に準拠してモノリス状有機多孔質体を製造した。
【0089】
(モノリス状有機多孔質体を用いた有機性ガスの吸着)
上記方法で得られたモノリス状有機多孔質体を純水で十分洗浄し、乾燥させた。得られたモノリス状有機多孔質体を25℃、相対湿度40%の状態で48時間放置した後、直径50mm、厚み50mmの円盤状に切り出し、円筒状カラムに充填してケミカルフィルターを作製した。このフィルターに25℃、40%の温湿度条件下、トルエン濃度1,000ng/mの空気を面風速0.5m/sで供給したときの透過気体を固体吸着剤(TENAX−GR)を用いて捕集し、ガスクロマトグラフ質量分析法でトルエンの定量を行った。その結果、面風速0.5m/sのときの通気差圧は48Paと非常に低圧損であり、約75%の除去率であった。
【0090】
比較例5
比較例3に準じて連続気泡型モノリス状有機多孔質体を製造し、実施例8と同様に直径50mm、厚み50mmの円盤状ケミカルフィルターを作製した。
【0091】
このフィルターを実施例8と同様の条件でトルエン除去試験を行った結果、面風速0.5m/sのときの通気差圧は2500Paと非常に高圧損であり、除去率は約80%であり、実施例8に比べて同等程度であった。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明のモノリス状多孔質体等は、連続マクロボイド構造と連続マクロポア構造が均一に混在したユニークな構造である。このことから、水や気体などの流体を流した際圧力損失が極めて低くなることが期待でき、フィルターや吸着剤;2床3塔式純水製造装置や電気式脱イオン水製造装置に充填して用いられるイオン交換体;固体酸/塩基触媒として有用であり、広範な用途分野に応用することができる。また、本発明のケミカルフィルターは、大きな細孔容積と比表面積を有し、またイオン交換基密度が高いため、高いガス状汚染物質除去能力を有しており、気体透過速度が速くてもガス状汚染物質の吸着除去能力を保持でき、超微量ガス状汚染物質も除去可能である。そのため、既存の半導体産業や医療用クリーンルームを対象としたケミカルフィルターとして応用できるばかりでなく、今後、要求清浄度が10倍以上厳しくなると予想される半導体産業でのクリーンルーム向けケミカルフィルターとして特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明のモノリス状多孔質体等の基本骨格構造を示す模式図である。
【図2】実施例1のモノリス状有機多孔質カチオン交換体のSEM画像である。
【図3】実施例1のモノリス状有機多孔質カチオン交換体の外観写真である。
【図4】実施例2で得られたモノリス状有機多孔質体のSEM画像である。
【図5】実施例3で得られたモノリス状有機多孔質体のSEM画像である。
【図6】実施例4で得られたモノリス状有機多孔質体のSEM画像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに繋がっているマクロボイドとマクロボイドの該繋がり部分が半径0.1〜25mmの開口となる連続マクロボイド構造の有機多孔質体であって、該有機多孔質体の骨格部が、互いに繋がっているマクロポアとマクロポアの該繋がり部分が半径0.01〜100μmの開口となる連続マクロポア構造であり、前記マクロボイドの平均半径が、前記マクロポアの平均半径の2倍以上であることを特徴とするモノリス状有機多孔質体。
【請求項2】
前記マクロボイドの平均半径が、前記マクロポアの平均半径の2〜250000倍であることを特徴とする請求項1記載のモノリス状有機多孔質体。
【請求項3】
ビニルモノマー、界面活性剤、水及び必要に応じて架橋剤や重合開始剤を混合し、該混合物を撹拌して油中水滴型エマルジョンを調製する工程と、
容器内の該油中水滴型エマルジョン中に多数の粒子状テンプレートを存在させ静置下重合する工程と、
該重合体から該粒子状テンプレートを除去する工程とを有することを特徴とするモノリス状有機多孔質体の製造方法。
【請求項4】
前記粒子状テンプレートが、多糖類ハイドロゲルであることを特徴とする請求項3記載のモノリス状有機多孔質体の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2記載のモノリス状有機多孔質体の骨格表面及び骨格内部にイオン交換基が導入されたものであって、水湿潤状態での体積当りのイオン交換容量が0.01mg当量/ml以上であることを特徴とするモノリス状有機多孔質イオン交換体。
【請求項6】
請求項1又は2記載のモノリス状有機多孔質体を吸着層として用いることを特徴とするケミカルフィルター。
【請求項7】
請求項5記載のモノリス状有機多孔質イオン交換体を吸着層として用いることを特徴とするケミカルフィルター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−19187(P2009−19187A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−81524(P2008−81524)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】