説明

モラクセラ・エスピーの検出方法

【課題】繊維製品の生乾き臭の原因菌を、簡便、迅速かつ正確に検出するための手段を提供する。
【解決手段】特定の塩基配列で表される核酸と97%以上の同一性を有する塩基配列で表される核酸の存在を検出する、モラクセラ・エスピー(Moraxellasp.)の検出方法。該方法がモラクセラ・エスピーの16s rDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを少なくとも1種用いて前記核酸の存在を検出する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モラクセラ・エスピー(Moraxella sp.)の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タオル、寝具等のサニタリー用品や衣類等の繊維製品(以下、本明細書において、単に「繊維製品」ともいう)は、清潔に保つことで心地よい使用感・着用感が得られる。また、サニタリー用品や衣類等の繊維製品は人体に纏うものであり、タオル、寝具等は人体に直接接触させて使用するものであるため、これらを清潔に保つことは衛生面からも重要である。近年の社会的な衛生志向の高まりに伴い、サニタリー用品や衣類等の繊維製品を清潔に保つことに関する人々の関心は高まっている。
【0003】
近年、消費者の生活環境への関心の高まりから、身の回りの不快な臭気(本明細書において、「異臭」ともいう)を除去することが以前にも増して望まれている。タオル、寝具等のサニタリー用品、衣料等の繊維製品に付着する臭気は、タバコなどの外的要因の他に、繊維製品の使用を繰り返すことにより生じる、人体由来の内的要因が挙げられる。
下着、タオル及びハンカチを初めとするヒトの皮膚と直接接触するような繊維製品、又は皮脂を含んだ汗や角質などを吸収又は付着する可能性のある繊維製品は、洗濯後、被洗物を洗濯槽内等の湿気の多い場所にしばらく放置した場合、室内干しの場合、雨や汗で濡れた場合、又は乾燥が不十分の場合に、特有の臭いを生ずることがある。この臭いは一般に生乾き臭と呼ばれるものであり、十分な乾燥を行うことで大部分を除去することができる。しかしながら、十分な乾燥を行い、生乾き臭が感じられなくなった繊維製品であっても、汗や雨などで繊維製品が湿気を帯びると雑巾臭様の生乾き臭が生じることがある。繊維製品がこの生乾き臭を一度発生するようになると、洗濯後の十分な乾燥により一時的には生乾き臭を除去できるが、使用時に雑巾臭様の生乾き臭が再発し易くなる。このような再発し易い生乾き臭は、室内干しの場合のみならず、低温乾燥機能を備えた洗濯機又は乾燥機を用いた場合や、室外干し乾燥の場合でさえも湿気を帯びると生じる場合がある。
再発性の生乾き臭の特徴的な点は、洗濯し十分に乾燥した後は発生しない、ないし殆ど低減されるが、湿気を帯びるだけで臭いが発生する点にある。再発性の生乾き臭は、長期間タンスなどに収納した場合に生じ易い。しかしながら、下着、ハンカチ又はタオルなど、ヒトの肌との接触機会が多く、洗浄−使用サイクルの期間の短い使用頻度の多い繊維製品は、一度この生乾き臭が発生するようになると使用中に臭いが再発してくることが多い。さらには、洗濯回数が増えるほど生乾き臭の臭い強度が高まる傾向がある。
【0004】
この生乾き臭は、繊維製品に特定の微生物が繁殖して不快臭成分を産生することが原因の1つである。したがって、生乾き臭を抑制するためには微生物が繁殖しないように衣類等を清潔に保つことが重要である。
生乾き臭の原因となる微生物の繁殖を効果的に抑制するには、当該微生物を明らかにするとともにその存在箇所や伝播経路を明らかにし、各場面での制御が重要となってくる。これまでは生乾き臭の原因となる微生物はほとんど特定されておらず、また特定された場合においても生乾き臭原因菌の存在を確認するためには寒天培地などを用いた培養法により菌を単離する必要があった。この方法では、生乾き臭原因菌か否かの判定には専門性が必要であり、さらに非常に時間と労力がかかっていた。繊維製品の生乾き臭の発生を効果的に抑制するために、生乾き臭の原因となる微生物の簡便かつ迅速な検出方法を確立することが望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、繊維製品の生乾き臭の原因菌を、簡便、迅速かつ正確に検出するための手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は上記課題に鑑み、鋭意検討を行った結果、生乾き臭を発する繊維製品から生乾き臭を産生する微生物としてモラクセラ・エスピー(Moraxella sp.)を単離することに成功した。そして、モラクセラ・エスピーの16s rDNAの塩基配列と相同性を有する塩基配列の全部又は一部が含まれているか否かを確認することで、繊維製品の生乾き臭の原因菌を簡便、迅速かつ正確に検出できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0007】
本発明は、配列番号1、配列番号2若しくは配列番号3の塩基配列で表される核酸、又は配列番号1、配列番号2若しくは配列番号3の塩基配列と97%以上の同一性を有する塩基配列で表される核酸の存在を検出する、モラクセラ・エスピー(Moraxella sp.)の検出方法に関する。
【0008】
また、本発明は、下記(a)〜(d)のいずれかのモラクセラ・エスピー(Moraxella sp.)検出用のオリゴヌクレオチドであって、モラクセラ・エスピーの16s rDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドに関する。
(a)配列番号4の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号4の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(b)配列番号5の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号5の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(c)配列番号6の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号6の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(d)配列番号7の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号7の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
【0009】
また、本発明は、前記(a)及び(c)のオリゴヌクレオチド対、前記(b)及び(c)のオリゴヌクレオチド対、又は前記(b)及び(d)のオリゴヌクレオチド対を含むモラクセラ・エスピー(Moraxella sp.)検出用の核酸増幅反応用プライマーセットであって、モラクセラ・エスピーの16s rDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、プライマーセットに関する。
【0010】
また、本発明は、上記オリゴヌクレオチド又は上記プライマーセットを含む、モラクセラ・エスピー(Moraxella sp.)検出用の検出キットに関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、繊維製品の生乾き臭の原因菌を、簡便、迅速かつ正確に検出することができる。また、本発明によれば、上記検出に使用できるオリゴヌクレオチド、プライマーセット及び検出キットが提供される。また、本発明によれば、繊維製品が生乾き臭を発生しうることの評価を行うことができる。また、本発明によれば、繊維製品の衛生状態、洗濯状態の評価を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1−1】単離された菌株を試料として、本発明のプライマーセットを用いてPCRにより核酸増幅反応を行い、反応液をアガロースゲル電気泳動した結果を示す写真である。図中の番号は表3に記載の試料番号を表し、Mは分子量マーカーを表す。
【図1−2】単離された菌株を試料として、本発明のプライマーセットを用いてPCRにより核酸増幅反応を行い、反応液をアガロースゲル電気泳動した結果を示す写真である。図中の番号は表3に記載の試料番号を表し、Mは分子量マーカーを表す。
【図1−3】単離された菌株を試料として、本発明のプライマーセットを用いてPCRにより核酸増幅反応を行い、反応液をアガロースゲル電気泳動した結果を示す写真である。図中の番号は表3に記載の試料番号を表し、Mは分子量マーカーを表す。
【図1−4】単離された菌株を試料として、本発明のプライマーセットを用いてPCRにより核酸増幅反応を行い、反応液をアガロースゲル電気泳動した結果を示す写真である。図中の番号は表3に記載の試料番号を表し、Mは分子量マーカーを表す。
【図2】単離された菌株を試料として、本発明のプライマーセットを用いてPCRにより核酸増幅反応を行い、反応液をアガロースゲル電気泳動した結果を示す写真である。図中の番号は表3に記載の試料番号を表し、Mは分子量マーカーを表す。
【図3】単離された菌株を試料として、本発明のプライマーセットを用いてPCRにより核酸増幅反応を行い、反応液をアガロースゲル電気泳動した結果を示す写真である。図中の番号は表3に記載の試料番号を表し、Mは分子量マーカーを表す。
【図4】生乾き臭を発するタオル4種から抽出したDNAを試料として、本発明のプライマーセットを用いてPCRにより核酸増幅反応を行い、反応液をアガロースゲル電気泳動した結果を示す写真である。Mは分子量マーカーを表す。
【図5】居住環境から菌叢をサンプリングして培養し、これから抽出したDNAを試料として、本発明のプライマーセットを用いてPCRにより核酸増幅反応を行い、反応液をアガロースゲル電気泳動した結果を示す写真である。図中の番号は表5に記載のサンプリング番号を表し、Mは分子量マーカーを表す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明における「モラクセラ・エスピー」とは、生乾き臭を発するタオル、バスタオル及びTシャツからサンプリングした菌叢を培養法により解析した結果、すべての菌叢において検出された、いわゆる生乾き臭産生菌である。
モラクセラ・エスピーの分離株であるモラクセラ・エスピー4−1株の16s rDNAの塩基配列を配列番号1に、モラクセラ・エスピーの分離株であるモラクセラ・エスピー4−4株の塩基配列を配列番号2に示す。モラクセラ・エスピー4−1株及びモラクセラ・エスピー4−4株の塩基配列は、配列番号3に示すモラクセラ・オスロエンシス(Moraxella osloensis)ATCC19976株の16s rDNAの塩基配列と高い同一性(identity)を有し、モラクセラ・オスロエンシスも繊維製品において生乾き臭を産生することが明らかとなっている。したがって、本発明における「モラクセラ・エスピー」は、モラクセラ・オスロエンシスも包含する。
なお、後述の実施例でも示すように、本明細書における「生乾き臭」は、モラクセラ・エスピーが繊維製品中に生存又はそこで増殖して産生される臭い、又は、乾燥によって繊維に囚われていた臭いが繊維製品の湿潤により再び解放され、低閾値であるため感じられ易い臭いである。そして再発性の生乾き臭が、4−メチル3−ヘキセン酸(本明細書において、「4M3H」ともいう)を主とする中級分岐脂肪酸臭であることを見出した。
【0014】
本発明において「モラクセラ・エスピー」とは、その16S rDNA遺伝子の塩基配列が、配列番号1、配列番号2又は配列番号3の塩基配列と95%以上、より好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上の同一性を有する塩基配列を含む微生物を意味する。本発明の検出方法で検出されるモラクセラ・エスピーは、その16S rDNA遺伝子の塩基配列中に、配列番号1、配列番号2又は配列番号3の1〜504位の塩基配列と98%以上の同一性を有する塩基配列を含むことが好ましく、99%以上の同一性を有する塩基配列を含むことがより好ましい。塩基配列の同一性(%)については、Lipman-Pearson法(Science,227,1435,1985)等によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx-Win(ソフトウェア開発製)のホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、パラメーターであるUnit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出することができる。
【0015】
本発明の検出方法で検出されるモラクセラ・エスピーは、生乾き臭を産生する生乾き臭原因菌であることが好ましく、該生乾き臭成分として4−メチル3−ヘキセン酸(4M3H)を産生することがより好ましい。また、本発明の検出方法で検出されるモラクセラ・エスピーは、下記表1に示すモラクセラ・エスピー分離株(4−1株)やモラクセラ・オスロエンシスATCC19976株などのモラクセラ・オスロエンシスの菌学的性質と同一の菌学的性質を有することが好ましい。
【0016】
【表1】

【0017】
本発明の検出方法は、配列番号1、配列番号2若しくは配列番号3の塩基配列で表される核酸、又は配列番号1、配列番号2若しくは配列番号3の塩基配列と97%以上の同一性を有する塩基配列で表される核酸の存在を検出するものであり、これによりモラクセラ・エスピーを特異的に検出することができる。前記塩基配列で表される核酸の存在を検出する方法としては、シークエンス法、ハイブリダイゼーション法、核酸増幅法(ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法、Loop-Mediated Isothermal Amplification(LAMP)法)等の遺伝子工学的手法が挙げられる。これら方法は通常の方法により行うことができるが、特定の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドを用いることで、モラクセラ・エスピーを簡便、迅速かつ正確に検出することができる点から好ましい。
【0018】
本発明の検出方法に好ましく用いられるオリゴヌクレオチド(以下、本発明のオリゴヌクレオチドと呼ぶことがある。)は、下記(a)〜(d)のいずれかのオリゴヌクレオチドであって、モラクセラ・エスピーの16s rDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするものである。
(a)配列番号4の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号4の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(b)配列番号5の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号5の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(c)配列番号6の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号6の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(d)配列番号7の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号7の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
【0019】
なお、配列番号4の塩基配列において「1若しくは数個」とは、1〜5個であることが好ましく、1〜4個であることがより好ましく、1〜3個であることがより好ましく、1〜2個であることがさらに好ましく、1個であることが特に好ましい。配列番号5の塩基配列において「1若しくは数個」とは、1〜4個であることが好ましく、1〜3個であることがより好ましく、1〜2個であることがさらに好ましく、1個であることが特に好ましい。配列番号6の塩基配列において「1若しくは数個」とは、1〜5個であることが好ましく、1〜4個であることがより好ましく、1〜3個であることがより好ましく、1〜2個であることがさらに好ましく、1個であることが特に好ましい。配列番号7の塩基配列において「1若しくは数個」とは、1〜6個であることが好ましく、1〜5個であることがより好ましく、1〜4個であることがより好ましく、1〜3個であることがより好ましく、1〜2個であることがさらに好ましく、1個であることが特に好ましい。
また、本発明のオリゴヌクレオチドは、配列番号4〜7のいずれかの塩基配列又は該塩基配列と好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは86%以上、より好ましくは87%以上、より好ましくは88%以上、より好ましくは89%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは91%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは93%以上、より好ましくは94%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上の同一性を有する塩基配列を有するものであってもよい。
本明細書において「ストリンジェントな条件」とは、前記オリゴヌクレオチドの塩基配列と、該オリゴヌクレオチドがハイブリダイズする塩基配列の相補配列の同一性が高い領域(例えば同一性が80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは86%以上、より好ましくは87%以上、より好ましくは88%以上、より好ましくは89%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは91%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは93%以上、より好ましくは94%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上)でハイブリダイズし、同一性が低い領域ではハイブリダイズしない条件を指す。例えば、Molecular Cloning-A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION[Joseph Sambrook,David W.Russell.,Cold Spring Harbor Laboratory Press]記載の方法が挙げられる。このような条件として、例えば、6×SSC(1×SSCの組成:0.15M塩化ナトリウム、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)、0.5%SDS、5×デンハート及び100mg/mLニシン精子DNAを含む溶液、より好ましくは3×SSC、0.5%SDS、5×デンハート及び100mg/mLニシン精子DNAを含む溶液、さらに好ましくは1×SSC、0.5%SDS、5×デンハート及び100mg/mLニシン精子DNAを含む溶液にて、60℃、より好ましくは65℃、さらに好ましくは68℃で8〜16時間恒温してハイブリダイズさせる条件が挙げられる。また、上記「ストリンジェントな条件」として、通常のサザンハイブリダイゼーションの洗浄条件である60℃、1×SSC、0.1%SDS、好ましくは、60℃、0.5×SSC、0.1%SDS、より好ましくは、60℃、0.1×SSC、0.1%SDS、さらに好ましくは65℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する温度及び塩濃度で、1回、より好ましくは2〜3回洗浄する条件が挙げられる。
【0020】
本発明のオリゴヌクレオチドには、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)ペプチド核酸(PNA)等やこれらのキメラ核酸の他、DNAやRNAにおけるホスホジエステル結合の一部又は全部をホスホロチオエート結合等の他の結合に置き換えた核酸が含まれる。
本発明のオリゴヌクレオチドは、通常の方法で化学合成することができるし、試薬メーカーから購入することもできる。
【0021】
本発明のオリゴヌクレオチドを用いて、シークエンス法、ハイブリダイゼーション法、核酸増幅法(ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法、Loop-Mediated Isothermal Amplification(LAMP)法)等の通常の方法によりモラクセラ・エスピーを検出することができる。
【0022】
ハイブリダイゼーション法によりモラクセラ・エスピーを検出する場合、本発明のオリゴヌクレオチドをモラクセラ・エスピーのゲノムDNAを含みうる試料溶液に添加して該ゲノムDNA中の標的DNAと本発明のオリゴヌクレオチドをストリンジェントな条件下でハイブリダイズさせる。モラクセラ・エスピーのゲノムDNAを含みうる試料に特に制限はないが、衣類、タオル類、カーテンやバスマットなどのファブリック類、洗面台や洗濯機およびキッチンシンクなどの住環境設備、土壌や埃など、又はこれらからのDNA抽出物などが挙げられる。ここで用いる本発明のオリゴヌクレオチドは標識物によって標識されていることが好ましい。該標識物に特に制限はないが、放射性物質、酵素、蛍光物質、発光物質、抗原、ハプテン、酵素基質、不溶性担体などの通常の標識物を用いることができる。標識方法は、末端標識でも、配列の途中に標識してもよく、また、糖、リン酸基、塩基部分のいずれの部分に標識してもよい。標的DNAが存在する場合には標識された本発明のオリゴヌクレオチドが該標的DNAとハイブリダイズするため、該標的DNAとハイブリダイズした本発明のオリゴヌクレオチドの該標識を検出することで、モラクセラ・エスピーを検出することができる。かかる標識の検出手段としては、例えば本発明のオリゴヌクレオチドが放射性同位元素で標識されている場合にはオートラジオグラフィー等、蛍光物質で標識されている場合には蛍光顕微鏡等、化学発光物質で標識されている場合には感光フイルムを用いた解析やCCDカメラを用いたデジタル解析等が挙げられる。上記ハイブリダイゼーション反応は、試料又は試料中のDNAを固相担体に固定化させた状態で実施することが好ましい。これにより未反応のオリゴヌクレオチドを洗浄により除去することができ、正確な検出が可能になる。
別のハイブリダイゼーション反応の形態として、上記オリゴヌクレオチドを捕捉プローブとして用いることもできる。この場合、該捕捉プローブと、検出対象である標的核酸の塩基配列のうち該捕捉プローブとは異なる部位で結合する標識核酸プローブとの組み合わせでサンドイッチアッセイを行うこともできるし、該標的核酸自体を標識して捕捉プローブに捕捉された標的核酸を検出することもできる。
例えば、検出対象となる微生物がモラクセラ・エスピー4−1株又は4−4株である場合において、配列番号4の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを核酸プローブとして用いると、それぞれ配列番号1及び配列番号2の塩基配列で表されるモラクセラ・エスピー4−1株及び4−4株の16s rDNAの176〜197位の相補配列部分にストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる。同様に、配列番号5の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを核酸プローブとして用いると、配列番号1及び配列番号2の179〜197位の塩基配列の相補配列部分にストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる。配列番号6の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを核酸プローブとして用いると、配列番号1及び配列番号2の428〜452位の塩基配列部分にストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる。配列番号7の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを核酸プローブとして用いると、配列番号1及び配列番号2の458〜485位の塩基配列部分にストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる。ここで、ストリンジェントな条件とは上記のストリンジェントな条件と同義である。
【0023】
核酸増幅法(PCR法、LAMP法等)によりモラクセラ・エスピーを検出する場合、本発明のオリゴヌクレオチドは、PCR法、LAMP法等の核酸増幅反応において、DNAポリメラーゼによる複製開始点を提供する核酸増幅反応用プライマー(好ましくは、ポリメラーゼ連鎖反応用プライマー)として使用することができる。核酸増幅法においては標的核酸を増幅するために、通常には、本発明のオリゴヌクレオチドと、本発明のオリゴヌクレオチドとペアとなって標的核酸を増幅するための他のオリゴヌクレオチドとを含むプライマーセットが必要となる。当該他のオリゴヌクレオチドは通常の方法で設計・作製することができる。この場合において、核酸増幅反応により増幅されるDNAは16s rDNAの断片であることが好ましい。
【0024】
PCR法及びLAMP法は、少なくとも下記(i)〜(iii)の工程を含む。
(i)モラクセラ・エスピーを含みうる試料又はそのDNA抽出物と、dNTPと、DNAポリメラーゼと、本発明のオリゴヌクレオチドを含むプライマーセットとを混合して核酸増幅用反応液を調製する工程、
(ii)上記核酸増幅用反応液を核酸増幅反応に付する工程、
(iii)増幅された核酸を検出する工程。
【0025】
PCR法の条件は、目的のDNA断片を検出可能な程度に増幅することができれば特に制限されない。例えば、2本鎖DNAを1本鎖にする熱変性反応を95℃〜98℃で10〜60秒間行い、プライマーを1本鎖DNAにハイブリダイズさせるアニーリング反応を50〜60℃で約60秒間行い、DNAポリメラーゼを作用させる伸長反応を約72℃で約60秒間行い、これらを1サイクルとしたものを約30〜35サイクル行うことができる。また、リアルタイムPCR法を用いれば、標的DNAを定量することもでき、これにより検出対象である微生物の数を測定することも可能になる。PCRはサーマルサイクラーを用いて行う。
一方、LAMP法では60℃付近の等温で増幅反応が進行するのでサーマルサイクラーを要せず、恒温槽で反応を進行させることができる。LAMP法においては4種類のオリゴヌクレオチドプライマーが必要になるが、このようなプライマーの設計は専用のソフトウェアを用いて行うことができる。
【0026】
核酸増幅反応により増幅したDNA断片の確認は通常の方法で行うことができる。例えば増幅産物について電気泳動を行い増幅した遺伝子の大きさに対応するバンドの有無を確認する方法、増幅産物量を経時的に計測する方法、増幅産物の塩基配列を解読する方法等が挙げられるが、本発明はこれらの方法に限定されるものではない。本発明においては、遺伝子増幅処理後に電気泳動を行い、増幅した遺伝子の大きさに対応するバンドの有無を確認する方法が好ましい。また、本発明において、増幅産物の検出は通常の方法で行うことができる。例えば増幅反応時に放射性物質などで標識されたヌクレオチドを取り込ませる方法、蛍光物質などで標識されたプライマーを用いる方法、増幅したDNA2本鎖の間にエチジウムブロマイドなどのDNAと結合することにより蛍光強度が強くなる蛍光物質を入り込ませる方法、増幅産物による反応液の濁度を検出する方法等が挙げられるが、本発明はこれらの方法に限定されるものではない。本発明においては、増幅したDNA2本鎖の間にDNAと結合することにより蛍光強度が強くなる蛍光物質を入り込ませる方法が好ましい。
検体にモラクセラ・エスピーが含まれる場合、本発明のオリゴヌクレオチド対をプライマーセットとして使用してPCR反応を行い、得られたPCR反応産物について電気泳動を行うと、特定のサイズを有するDNA断片の増幅が認められる。具体的には、検体にモラクセラ・エスピーが含まれる場合、本発明のオリゴヌクレオチド対を核酸プライマーとして用いてPCR反応を行うと、約300bpのDNA断片が増幅される。このような操作を行うことにより、検体にモラクセラ・エスピーが含まれているかを確認することができる。
【0027】
PCR法で使用するDNAポリメラーゼは、Taqポリメラーゼ等の高温耐性のDNAポリメラーゼであることが好ましい。また、LAMP法等の等温増幅反応においてはAacDNAポリメラーゼやBstDNAポリメラーゼ等の鎖置換型のDNAポリメラーゼを用いる。核酸増幅用反応液には試料、プライマー、dNTP、DNAポリメラーゼ等の他、プライマーと標的DNAとのハイブリダイゼーションや使用するDNAポリメラーゼに適した緩衝液等の他の成分を含ませてもよい。
【0028】
本発明のモラクセラ・エスピーの検出方法において、前記(a)〜(d)のいずれかのオリゴヌクレオチドを少なくとも1種用いることが好ましく、少なくとも2種のプライマーからなるプライマーセットを用いた核酸増幅反応を行い、前記少なくとも2種のプライマーのうち少なくとも1種のプライマーが前記(a)〜(d)のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドであることがより好ましく、前記(a)及び(c)のオリゴヌクレオチド対、前記(b)及び(c)のオリゴヌクレオチド対、又は前記(b)及び(d)のオリゴヌクレオチド対を含むプライマーセットを用いてポリメラーゼ連鎖反応を行うことがさらに好ましい。
本発明のモラクセラ・エスピーの検出方法において、前記プライマーが増幅しうる標的DNAはモラクセラ・エスピーの16s rDNAの連続した部分塩基配列であることが好ましい。PCR法において、2種類のプライマー(1種類のプライマー対)からなるプライマーセットでは増幅される該部分塩基配列は1種類であり、3種類以上のプライマー(2種類以上のプライマー対)からなるプライマーセットでは該部分塩基配列は2種類以上となる。また、2種類以上の該部分塩基配列は一部重複していてもよい。2種類以上の該部分塩基配列が一部重複しているケースとしては、1つのプライマーに対して、対になるプライマーが2種類以上含まれる場合が挙げられる。前記プライマーセットを構成する少なくとも2種のプライマーは、ストリンジェントな条件下で16s rDNAの中の標的DNAにハイブリダイズする。ここで、ストリンジェントな条件は上述の条件と同一である。
【0029】
本発明のプライマーセットは、前記(a)及び(c)のオリゴヌクレオチド対、前記(b)及び(c)のオリゴヌクレオチド対、又は前記(b)及び(d)のオリゴヌクレオチド対を含むモラクセラ・エスピー(Moraxella sp.)検出用の核酸増幅反応用プライマーセットであって、モラクセラ・エスピーの16s rDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズする。このようなプライマーセットはPCR法に好適に用いることができる。
【0030】
本発明の検出キットは、本発明のオリゴヌクレオチド又は本発明のプライマーセットと、ハイブリダイゼーション反応や核酸増幅反応に必要な各種の試薬類が予めパッケージングされた、モラクセラ・エスピー検出するためのキットである。本発明の検出キットには、本発明のオリゴヌクレオチド若しくは本発明のプライマーセット又はこれらの標識物の他、目的に応じて、標識検出物質、緩衝液、核酸合成酵素(DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、逆転写酵素等)酵素基質(dNTP、rNTP等)等、微生物の遺伝子検出に通常用いられる物質を含有する。本発明の検出キットは、本発明のプライマーセットによって検出反応が正常に進行することを確認するための陽性対照(ポジティブコントロール)等を含んでいてもよい。陽性対照としては、例えば、本発明のオリゴヌクレオチドがハイブリダイズしうる塩基配列を含むDNA断片や、本発明のプライマーセットが増幅しうる塩基配列を含むDNA断片等が挙げられる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0032】
試験例1 生乾き臭原因物質の特定
洗濯乾燥の後に生乾き臭が強く発生した木綿のタオルを家庭より回収して50gを裁断し、ジクロロメタン500mLよりニオイ成分を抽出後減圧濃縮した。さらに、1M水酸化ナトリウム水溶液200mLを抽出溶液に添加し、水層を回収し、2M塩酸200mL添加し酸性にした。この溶液に、ジクロロメタン200mLを加え有機層を減圧濃縮し、酸性成分の濃縮物を1mLに定容した。
【0033】
続いて、アジレント社製ガスクロマトグラフィーにゲステル社製Preparative Fraction Collector(PFC)装置を接続したものを用い、濃縮物を下記の条件下でGC保持時間により分画し、目的成分周辺のGC30回分を内径6mm、長さ117mmのガラス管に充填した充填剤(商品名:TENAX TA、ジーエルサイエンス社製)200mgに捕集した。
(GC−PFC条件)
GC:Agilent 6890N(商品名、アジレント社製)
カラム:DB-1(商品名、アジレント社製)、長さ30m、内径0.53mm、膜厚1μm
40℃1min.hold→6℃/min.to 60℃→4℃/min.to 300℃
Injection volume:2μL
PFC(Gerstel社製):trap time 18min.to 24min.、30times
trap:TENAX TA(商品名、ジーエルサイエンス社製)200mg
【0034】
最後にTENAXに捕集した目的成分をゲステル社製Thermal Desorption system(TDS)をアジレント社製GC−MSに接続した装置にて、下記条件下で分析した。
(TDS−GC−MS条件)
GC:Agilent 6890N(商品名、アジレント社製)
MS:Agilent 5973(商品名、アジレント社製)
TDS脱着条件:250℃、パージ流量50mL/min、パージ時間 3min.
カラム:DB-FFAP(商品名、アジレント社製)、長さ30m、内径250μm、膜厚0.25μm
40℃1min.hold→6℃/min.to 60℃→2℃/min.to 240℃
【0035】
解析の結果、生乾き臭の主原因物質は4M3Hをはじめとする中級分岐脂肪酸であることが明らかとなった。
【0036】
試験例2 生乾き臭原因菌の特定
(1)菌株の単離
洗濯乾燥の後に生乾き臭が発生した木綿のタオル又はバスタオルを裁断し、LP(レシチン・ポリソルベート)希釈液(日本製薬社製)を添加後、攪拌した溶液0.1mLをSCD−LP(レシチン・ポリソルベート添加ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト)寒天培地(日本製薬社製)に塗沫し、35℃、24時間培養後、得られたコロニーから微生物を単離した。単離された各菌株の同定は16s rDNA遺伝子の上流領域約500bpの塩基配列を決定し、当該塩基配列と基準株との同一性に基づき行なった。塩基配列の同一性は、遺伝子情報処理ソフトウェアClustalWを用いて算出した。なおモラクセラ・エスピーに関してはモラクセラ・オスロエンシスATCC19976の塩基配列を決定し、その塩基配列と比較することで同定した。
各タオル又はバスタオルから単離された菌株を表2に示す。
【0037】
(2)繊維製品での生乾き臭再現試験
上記で単離された各種菌株をそれぞれ生乾き臭が発生した木綿のタオル、あるいは使用後洗濯して保管していた木綿のタオルを滅菌処理したものに接種し、35℃で24時間加湿条件下(湿度100%)で培養後、生乾き臭の発生の有無を下記基準に基づいて、香料評価の訓練を受けた専門評価者(N=3)により、合意により判定した。
1:生乾き臭の発生が非常に強い
2:生乾き臭の発生が強い
3:生乾き臭の発生が弱い
4:生乾き臭が全くしない
その結果を表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
(3)結果
表2の結果から、すべての生乾き臭発生タオル・バスタオルから、モラクセラ・エスピーが単離された。また、単離されたモラクセラ・エスピーは、その菌数も多かった。さらに、単離したモラクセラ・エスピーを生乾き臭が発生したタオルを滅菌処理したものに接種したところ、非常に強い生乾き臭が発生することが確認された。
したがって、生乾き臭には本菌種などの特定の微生物が関与していることが明らかとなった。
【0040】
試験例3 モラクセラ・オスロエンシス ATCC19976(ATCCより購入)からの生乾き臭発生の確認
(1)タオルでの不快臭再現試験
モラクセラ・オスロエンシスATCC19976を用いて試験例2と同様の方法で生乾き臭発生の有無を確認した結果、モラクセラ・オスロエンシスATCC19976を接種したタオルから非常に強い生乾き臭が発生することを確認した。
【0041】
実施例1 モラクセラ・エスピーの検出
(1)検体の調製
下記表3に示す種々の菌株を検体として用意した。
試料番号1の菌株はDSM(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen)、試料番号2の菌株はATCC(American Type Culture Collection)、試料番号3の菌株はNCIMB(National Collection of Industrial,Marine and Food Bacteria)、試料番号4〜7に示す菌株はNBRC(NITE Biological Resource Center)からそれぞれ購入した。
また、試料番号8〜26の菌株は、不快なニオイが発生したタオルからLP希釈液中に抽出された菌株をSCD−LP寒天培地で30℃、48時間培養後、得られたコロニーを再単離することで単離した。単離された各菌株の同定は、16s rDNA遺伝子の中の上流域約500bp又は約1500bpの塩基配列を決定し、該塩基配列の同一性に基づき行った。
【0042】
また、単離された菌株であるモラクセラ・エスピー4−1株、モラクセラ・エスピー4−4株及びモラクセラ・オスロエンシスの16s rDNAの塩基配列を基準として、各菌株の16s rDNAの塩基配列の同一性を比較した。ここで、モラクセラ・オスロエンシスの16s rDNAの塩基配列は、モラクセラ・オスロエンシスの基準株であるモラクセラ・オスロエンシスATCC19976の16S rDNAの塩基配列(配列番号3)を用いた。配列番号3の塩基配列は、モラクセラ・オスロエンシスATCC19976株からゲノムDNAを抽出し、16s rDNAの塩基配列を解析することで決定した。塩基配列の同一性は、遺伝子情報処理ソフトウェアClustalW(http://clustalw.ddbj.nig.ac.jp/top-j.html)を用いて算出した。なお、モラクセラ・エスピー4−1株は、2010年10月14日付で、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1−1−1つくばセンター中央第6)に、受託番号FERM P-22030として寄託された。
その結果を表3に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
(2)ゲノムDNAの調製
上記各菌株をSCD寒天培地に接種して35℃で24時間培養後、白金耳を用いて各菌体を寒天培地から回収した。回収した菌体から、ゲノムDNA調製用キット(アプライドバイオシステムズ社製、PrepMan Ultra Reagent(商品名))を用いてゲノムDNA溶液を調製した。
【0045】
(3)プライマーの合成
配列番号4〜7の各々の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドをそれぞれ合成して脱塩により精製し、プライマーとした。
【0046】
(4)PCR反応
DNAテンプレート(前記(2)で調製したゲノムDNA溶液を無菌蒸留水で100倍希釈した溶液)1μL、TaKaRa EX Taq HS(商品名、タカラバイオ社製)0.1μL、4種類のデオキシリボヌクレオチド三リン酸(dNTP)混合液(タカラバイオ社製、TaKaRa EX Taq Hot Start Versionに付属のdNTP混合液)1.6μL、10倍濃縮反応用バッファー(タカラバイオ社製、TaKaRa EX Taq Hot Start Versionに付属のバッファー)2μL、配列番号5の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー(20pmol/μL)0.4μL、配列番号7の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー(20pmol/μL)0.4μL、無菌蒸留水14.5μL混合することで、20μLのPCR反応液を調製した。
陰性対照(ネガティブコントロール)として滅菌蒸留水をDNAテンプレートの代わりに混合したPCR反応液も同様に調製した。
上記配列番号5の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーと配列番号7の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーの組み合わせに代えて、配列番号5の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーと配列番号6の塩基配列の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーの組み合わせ、及び配列番号4の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーと配列番号6の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーの組み合わせについても同様にPCR反応液を調製した。
PCR反応液について、自動遺伝子増幅装置サーマルサイクラーDICE(タカラバイオ社製)を用いて遺伝子増幅処理を行なった。PCR反応条件は、(i)98℃、10秒間の熱変性反応、(ii)68℃、1分間のアニーリングおよび伸長反応を30サイクル行なった。
【0047】
(5)アガロースゲル電気泳動
反応液中の目的DNA断片の増幅を、アガロースゲル電気泳動およびSYBER safe DNA gel stain in 1×TAE(インビトロジェン社製)による染色により確認した。反応液を2%アガロールゲルにアプライし、TBAバッファー中、100ボルトで30分電気泳動を行った。次いでゲルを取り出し、SYBER safe DNA gel stain in 1×TAE(インビトロジェン社製)溶液中に30分浸漬して染色後、UVランプ照射の下ポラロイドカメラで撮影した。DNA断片の長さは、電気泳動時に塩基対数が既知のDNA断片を一緒に流しておくことで、移動度の相対比較によって算出した。
【0048】
(6)結果
配列番号5で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーと配列番号7で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーとを組み合わせた場合の電気泳動の写真を図1−1、図1−2、図1−3及び図1−4に示す。なお、図中の番号は表3に記載の試料番号を表し、Mは分子量マーカーを表す。
また、配列番号5で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーと配列番号7で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーを組み合わせた場合のPCR反応における遺伝子断片増幅の有無をまとめたものを下記表4に示す。
【0049】
【表4】

【0050】
また、配列番号5で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーと配列番号6で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーとを組み合わせた場合の電気泳動の写真を図2に、配列番号4で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーと配列番号6で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーとを組み合わせた場合の電気泳動の写真を図3に示す。なお、図中の番号は表3に記載の試料番号を表し、Mは分子量マーカーを表す。
【0051】
本発明のオリゴヌクレオチドを用いた場合、モラクセラ・エスピー分離株11株及びモラクセラ・オスロエンシスでゲル上の約300bpの位置に目的のDNA断片が検出された一方、モラクセラ・エスピー以外の10株ではゲル上の300bpの位置の付近に目的のDNA断片は検出されなかった。
以上の結果から、本発明のオリゴヌクレオチドを用いることで、モラクセラ・エスピーを特異的に検出することができることがわかった。
【0052】
実施例2 環境試料からのモラクセラ・エスピーの検出
モラクセラ・エスピーが単離された生乾き臭を発するタオルを試料としてモラクセラ・エスピーの検出を試みた。
【0053】
(1)検体からのゲノムDNAの調製
生乾き臭発生タオル4種を用意し(それぞれ試料T1〜T4と呼ぶ)、これを検体として使用した。タオルを細かく裁断し、ゲノムDNA調製用キット(アプライドバイオシステムズ社製、PrepMan Ultra Reagent(商品名))を用いてゲノムDNA溶液を調製した。
【0054】
(2)PCR反応
DNAテンプレート(前記(1)で調製したゲノムDNA溶液を無菌蒸留水で100倍希釈した溶液)5μL、TaKaRa EX Taq HS(商品名、タカラバイオ社製)0.1μL、4種類のデオキシリボヌクレオチド三リン酸(dNTP)混合液(タカラバイオ社製、TaKaRa EX Taq Hot Start Versionに付属のdNTP混合液)1.6μL、10倍濃縮反応用バッファー(タカラバイオ社製、TaKaRa EX Taq Hot Start Versionに付属のバッファー)2μL、配列番号5の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー(20pmol/μL)0.4μL、配列番号7の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー(20pmol/μL)0.4μL、無菌蒸留水10.5μL混合することで、20μLのPCR反応液を調製した。
陰性対照(ネガティブコントロール)として滅菌蒸留水をDNAテンプレートの代わりに混合したPCR反応液も同様に調製した。
PCR反応液について、自動遺伝子増幅装置サーマルサイクラーDICE(タカラバイオ社製)を用いて遺伝子増幅処理を行なった。PCR反応条件は、(i)98℃、10秒間の熱変性反応、(ii)68℃、1分間のアニーリングおよび伸長反応を40サイクル行なった。
【0055】
(3)アガロースゲル電気泳動
反応液中の目的DNA断片の増幅を、アガロースゲル電気泳動およびSYBER safe DNA gel stain in 1×TAE(インビトロジェン社製)による染色により確認した。反応液を2%アガロールゲルにアプライし、TBAバッファー中、100ボルトで30分電気泳動を行った。次いでゲルを取り出し、SYBER safe DNA gel stain in 1×TAE(インビトロジェン社製)溶液中に30分浸漬して染色後、UVランプ照射の下ポラロイドカメラで撮影した。DNA断片の長さは、電気泳動時に塩基対数が既知のDNA断片を一緒に流しておくことで、移動度の相対比較によって算出した。
【0056】
(4)結果
電気泳動の結果を示す写真を図4に示す。
モラクセラ・エスピーが単離された生乾き臭を発する4種のタオル(T1〜T4)すべてにおいて、ゲル上の約300bpの位置に増幅されたDNA断片が検出された。以上の結果から、本発明のオリゴヌクレオチドを用いることによって、様々な菌種の菌株が存在する環境試料からもモラクセラ・エスピーを検出できることがわかった。
【0057】
実施例3 居住環境におけるモラクセラ・エスピーの存在の評価
本発明のオリゴヌクレオチドを用いて住居内からのモラクセラ・エスピーの検出を試みた。
【0058】
(1)検体の調製
下記表5に示す箇所から菌叢をSCD−LPスタンプ培地(日水製薬社製)を用いて採取し、そのまま30℃で24時間培養した。
【0059】
【表5】

【0060】
(2)ゲノムDNAの調製
培養後のコロニーはサンプリング箇所ごとに複数菌株まとめて白金耳を用いて回収し、ゲノムDNA調製用キット(アプライドバイオシステムズ社製PrepMan Ultra(商品名))を用いてゲノムDNA溶液を調製した。
【0061】
(3)PCR反応
DNAテンプレート(前記(2)で調製したゲノムDNA溶液を無菌蒸留水で100倍希釈した溶液)1μL、TaKaRa EX Taq HS(タカラバイオ社製、商品名)0.1μL、4種類のデオキシリボヌクレオチド三リン酸(dNTP)混合液(タカラバイオ社製、TaKaRa EX Taq Hot Start Versionに付属のdNTP混合液)1.6μL、10倍濃縮反応用バッファー(タカラバイオ社製、TaKaRa EX Taq Hot Start Versionに付属のバッファー)2μL、配列番号5の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー(20pmol/μL)0.4μL、配列番号7の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー(20pmol/μL)を0.4μL、無菌蒸留水を14.5μL混合することで、20μLのPCR反応液を調製した。
陰性対照(ネガティブコントロール)として滅菌蒸留水をテンプレートの代わりに混合したPCR反応液も同様に調製した。
PCR反応液について、自動遺伝子増幅装置サーマルサイクラーDICE(タカラバイオ社製)を用いて遺伝子増幅処理を行なった。PCR反応条件は、(i)98℃、10秒間の熱変性反応、(ii)68℃、1分間のアニーリングおよび伸長反応を30サイクル行なった。
【0062】
(4)アガロースゲル電気泳動
反応液中の目的DNA断片の増幅を、アガロースゲル電気泳動およびSYBER safe DNA gel stain in 1×TAE(インビトロジェン社製)による染色により確認した。反応液を2%アガロールゲルにアプライし、TBAバッファー中、100ボルトで30分電気泳動を行った。次いでゲルを取り出し、SYBER safe DNA gel stain in 1×TAE(インビトロジェン社製)溶液中に30分浸漬して染色後、UVランプ照射の下ポラロイドカメラで撮影した。DNA断片の長さは、電気泳動時に塩基対数が既知のDNA断片を一緒に流しておくことで、移動度の相対比較によって算出した。
【0063】
(5)結果
電気泳動の結果を示す写真を図5に示す。
キッチンのシンク、洗面台、シャワー室、便器周り由来の菌叢からゲル上の約300bpの位置に遺伝子断片が検出され、モラクセラ・エスピーは衣類だけではなく、台所、洗面所、トイレなど様々な住環境に存在することが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1、配列番号2若しくは配列番号3の塩基配列で表される核酸、又は配列番号1、配列番号2若しくは配列番号3の塩基配列と97%以上の同一性を有する塩基配列で表される核酸の存在を検出する、モラクセラ・エスピー(Moraxella sp.)の検出方法。
【請求項2】
モラクセラ・エスピー(Moraxella sp.)の16s rDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズする下記(a)〜(d)のいずれかのオリゴヌクレオチドを少なくとも1種用いて前記核酸の存在を検出する、請求項1に記載の検出方法。
(a)配列番号4の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号4の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(b)配列番号5の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号5の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(c)配列番号6の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号6の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(d)配列番号7の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号7の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
【請求項3】
前記オリゴヌクレオチドを核酸増幅反応用プライマーとして用いる、請求項2に記載の検出方法。
【請求項4】
前記核酸増幅反応用プライマーがポリメラーゼ連鎖反応用プライマーである、請求項3に記載の検出方法。
【請求項5】
少なくとも2種のプライマーからなるプライマーセットを用いた核酸増幅反応を行い、前記少なくとも2種のプライマーのうち少なくとも1種のプライマーが前記(a)〜(d)のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドである、請求項2〜4のいずれか1項に記載の検出方法。
【請求項6】
前記(a)及び(c)のオリゴヌクレオチド対、前記(b)及び(c)のオリゴヌクレオチド対、又は前記(b)及び(d)のオリゴヌクレオチド対を含むプライマーセットを用いてポリメラーゼ連鎖反応を行う、請求項2〜5のいずれか1項に記載の検出方法。
【請求項7】
前記モラクセラ・エスピーが、生乾き臭原因菌である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の検出方法。
【請求項8】
前記モラクセラ・エスピーが、4−メチル3−ヘキセン酸を産生する微生物である、請求項7に記載の検出方法。
【請求項9】
下記(a)〜(d)のいずれかのモラクセラ・エスピー(Moraxella sp.)検出用のオリゴヌクレオチドであって、モラクセラ・エスピーの16s rDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチド。
(a)配列番号4の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号4の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(b)配列番号5の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号5の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(c)配列番号6の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号6の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(d)配列番号7の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号7の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
【請求項10】
核酸増幅反応用プライマーとして用いられる、請求項9に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項11】
前記核酸増幅反応用プライマーがポリメラーゼ連鎖反応用プライマーである、請求項10に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項12】
前記モラクセラ・エスピーが、生乾き臭原因菌である、請求項9〜11のいずれか1項に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項13】
前記モラクセラ・エスピーが、4−メチル3−ヘキセン酸を産生する微生物である、請求項12に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項14】
下記(a)及び(c)のオリゴヌクレオチド対、下記(b)及び(c)のオリゴヌクレオチド対、又は下記(b)及び(d)のオリゴヌクレオチド対を含むモラクセラ・エスピー(Moraxella sp.)検出用の核酸増幅反応用プライマーセットであって、モラクセラ・エスピーの16s rDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、プライマーセット。
(a)配列番号4の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号4の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(b)配列番号5の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号5の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(c)配列番号6の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号6の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(d)配列番号7の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は配列番号7の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
【請求項15】
前記核酸増幅反応用プライマーがポリメラーゼ連鎖反応用プライマーである、請求項14に記載のプライマーセット。
【請求項16】
前記モラクセラ・エスピーが、生乾き臭原因菌である、請求項14又は15に記載のプライマーセット。
【請求項17】
前記モラクセラ・エスピーが、4−メチル3−ヘキセン酸を産生する微生物である、請求項16に記載のプライマーセット。
【請求項18】
請求項9〜13のいずれか1項に記載のオリゴヌクレオチド又は請求項14〜17のいずれか1項に記載のプライマーセットを含む、モラクセラ・エスピー(Moraxella sp.)検出用の検出キット。




【図1−1】
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【図1−2】
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【図1−3】
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【図1−4】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−254807(P2011−254807A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83030(P2011−83030)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】