説明

モルタルコンクリート用速硬性添加剤

【課題】モルタルコンクリートの速硬するための添加剤であって、長期にわたる貯蔵安定性を確保したモルタルコンクリート用の速硬性添加剤を提供する。
【解決手段】(A)カルシウムアルミネート類の少なくとも1種、(B)アルカリ金属塩、及び(C)1分子中に2個以上のエポキシ基を有する水溶性エポキシ樹脂又はその(メタ)アクリル酸付加物を含有することを特徴とするモルタルコンクリート用速硬性添加剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モルタルやコンクリートを速硬化させることが可能であり、風化による強度発現性などの劣化が少なく、長期間にわたる貯蔵安定性の良好なモルタルコンクリート用速硬性添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントのモルタルやコンクリートを速硬化させる水硬性組成物として、カルシウムアルミネート類は、初期強度の増進と速硬性能を発揮させるために無水石膏や、アルカリ金属塩すなわち炭酸ナトリウム、カリウムなどを添加することで、注水直後の強度発現性が著しく増加することは既に知られている。
【0003】
しかし、カルシウムアルミネート類は、初期強度増進のために水和活性を極めて高くしていることから、製造後3ヶ月も放置すれば、空気中の水分と二酸化炭素とが反応することによって、速硬性が著しく衰え、凝結時間の変化と初期強度が低くなるなど風化が起こり、長期にわたる貯蔵安定性に問題があった。
【0004】
カルシウムアルミネート類の風化に対する対策としては、古くから貯蔵場所の通風を少なくするなど設備的な対応が主であり、包装容器の密閉性保持のための材料の選定や構造上の工夫などが行われてきた。しかしながら、その効果は十分ではなく、あるいはその効果を高める上で多大な手間と設備が必要になるなど、実用性を欠くものであった。そのため撥水剤を含有させることで、風化を遅れさせる方法や(例えば、特許文献1参照。)、特定の化学/鉱物組成をとすること(例えば、特許文献2〜3参照。)、特定の溶解度パラメーターの溶液を加えてスラリー化する方法(例えば、特許文献4参照。)で、風化しにくくする方法などが提案されている。
【特許文献1】特開2005−89230号公報
【特許文献2】特開2001−316147号公報
【特許文献3】特開2002−3254号公報
【特許文献4】特開2005−187267号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの方法のうち、撥水剤を添加したものは、水和活性を遅らせる目的で、水硬性物質の周囲をコーティングすることで、風化の原因となる水和活性を物理的に抑制するために、凝結時間が遅れる、さらには初期強度が低下するなど、硬化性状を変化させる傾向があるという問題がある。
【0006】
また、特定の化学/鉱物組成を持つことで、風化しにくくする方法では、風化は進んでも影響が出にくいように調整したのみで、根本的に風化を止めるというものではなく、これでもやはり長期に放置、特に気温や湿度が高いなど劣悪な環境での保管などでは、十分な効果が認められないのが現状である。
【0007】
本発明の目的は、モルタルコンクリートを速硬化するための添加剤であって、長期にわたる貯蔵安定性を確保したモルタルコンクリート用の速硬性添加剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明者は、カルシウムアルミネート類を含有する添加剤の長期保存安定性について種々検討したところ、アルカリ金属塩に加えて、水溶性エポキシ樹脂を配合すれば、長期保存後であっても速硬性を維持し、かつ強度発現性の劣化のすなモルタルコンクリート用速硬性添加剤が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、(A)カルシウムアルミネート類の少なくとも1種、(B)アルカリ金属塩、及び(C)1分子中に2個以上のエポキシ基を有する水溶性エポキシ樹脂又はその(メタ)アクリル酸付加物を含有することを特徴とするモルタルコンクリート用速硬性添加剤を提供するものである。
また、本発明は上記モルタルコンクリート用速硬性添加剤及びセメントを含有する速硬性モルタルコンクリートを提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のモルタルコンクリート用速硬性添加剤は、長期保存しても、注水後における凝結時間を変化させずに良好な速硬性が持続し、かつ強度発現性も劣化しない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のモルタルコンクリート用速硬性添加剤に用いられる(A)カルシウムアルミネート類とは、CaOとAl2O3を主要化学成分とする化合物、固溶体、ガラス質もしくはこれらのいずれか1種以上が混合したものの総称であり、本発明では、そのいずれかであって、水和活性を有するものなら特に制限されず、例えば12CaO・7Al23、11CaO・7Al23・CaF2、4CaO・3Al23・SO3などを挙げることができる他、アルミナセメントであってもよい。本発明で使用するカルシウムアルミネートの粒度は特に限定されるものではないが、望ましくはブレーン比表面積が3000〜8000g/cm2のものである。
該ブレーン比表面積のカルシウムアルミネート粒を用いることによって、モルタル・コンクリートに高い急硬作用と短時間強度発現性を安定して付与することができる。
【0012】
本発明に用いられる(B)アルカリ金属塩としては、例えばナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属の炭酸塩、硫酸塩などが挙げられる。
アルカリ金属塩の配合量は、カルシウムアルミネート100質量部に対し、0.05〜10質量部が好ましく、0.1〜5.0質量部がさらに好ましく、0.5〜3.0質量部が特に好ましい。アルカリ金属塩の配合量が少なすぎると所定の効果(速硬性)が得られず、多すぎる場合は、凝結時間が長くなったり、長期強度の伸びが小さくなるなどの弊害がおこる。
【0013】
本発明に用いられる(C)水溶性エポキシ樹脂は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する水溶性エポキシ樹脂又はその(メタ)アクリル酸添加物である。この(C)水溶性エポキシ樹脂の添加により、速硬性添加剤の長期保存にする劣化が防止できる。この(C)水溶性エポキシ樹脂による長期保存性改善効果の作用機序は明確ではないが、カルシウムアルミネート類を始めとする水硬性無機粒子の表層部をコーティングし、空気中の二酸化炭素との接触を妨げるために、炭酸化による風化を抑制することができるものと考えられる。また、該コーティング層は、水を加えた混練操作の過程で大半を消失させることができるので水和反応活性に支障をきたす可能性が実質無いものと考えられる。
【0014】
(C)水溶性エポキシ樹脂としては、長期保存性改善効果の点から、エポキシ当量が100〜2000のものが好ましい。ここでエポキシ当量とは、分子量をエポキシ基の数で割った値、すなわちエポキシ基1個当たりの分子量をいう。また、ここでいう水溶性とは、水に溶解するか、又はエマルションにできる程度に水に分散すれば含まれる。このような水溶性エポキシ樹脂としては、例えは、ビスフェノールA、ハロゲン化ビスフェノールA、ビスフェノールFのジグリシジルエーテル型エポキシ、ノボラック型多価フェノールエポキシ、クレゾール型多価フェノールエポキシ及び脂環状エポキシ樹脂等の水溶化エマルション;及びポリエチレングリコールジ(又はポリ)グリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジ(又はポリ)グリシジルエーテル、ポリグリセリンジ(又はポリ)グリシジルエーテル等からなる群から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。この中でも、特にビスフェノールAのジグリシジルエーテル型エポキシ、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリグリセリンジグリシジルエーテルが好ましい。
【0015】
また、本発明においては、上記水溶性エポキシ樹脂の(メタ)アクリル酸付加物も用いることができる。かかる(メタ)アクリル酸付加物としては、上記水溶性エポキシ樹脂の(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0016】
これらの(C)水溶性エポキシ樹脂の含有量は、カルシウムアルミネート100質量部に対し、3〜30質量部、さらに5〜20質量部、特に5〜15質量部が好ましい。成分(C)が少なすぎると長期保存性改善効果が得られず、多すぎると粘度が高くなり、貯蔵やハンドリング性が低下する。
【0017】
本発明のモルタルコンクリート用速硬性添加剤には、さらに(D)ポルトランドセメント及び/又は(E)無水石膏を含有するのが好ましい。石膏の添加に長期強度の伸びを改善するので特に好ましい。使用する無水石膏はII型無水石膏であれば特に限定されない。また、ポルトランドセメントはいずれの種類のものでも用いることができ、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメントおよび低熱セメントなどが挙げられる。無水石膏及び/又はポルトランドセメントの使用量はカルシウムアルミネート100質量部に対し1500質量部〜2000質量部が好ましい。少なすぎると膨張などの障害が見られ、多すぎると速硬性の効果が得られない。
【0018】
さらに、本発明の添加剤には、凝結遅延剤を添加することができる。凝結遅延剤はモルタルやコンクリートに使用可能なものであれば、いずれのものでよい。例えばクエン酸、酒石酸に代表されるオキシカルボン酸などが挙げられるが、これらに限定されるものでは無く、配合にもよるが、硫酸塩のような遅延作用があるもの等の無機系の遅延剤であっても良い。凝結遅延剤は、カルシウムアルミネート100質量部に対し、0.05〜7.0質量部、特に0.1〜5.0質量部使用するのが好ましい。
【0019】
本発明の急硬性添加剤は、本発明の効果を喪失しない限り前記成分以外の成分を含有することができる。このような成分としては例えば、石灰石粉、スラグ、石炭灰、セメントやモルタルに使用可能な分散材等が挙げられる。
【0020】
本発明の速硬モルタル・コンクリートは、前記のモルタルコンクリート用速硬性添加剤を少なくともセメントを含有するベースモルタルやベースコンクリートに添加したものである。ここでモルタルとは広義なモルタルを指し、骨材を実質含有しない所謂セメントペーストも含まれる。本発明の速硬モルタル・コンクリートは前記のモルタルコンクリート用添加剤を、ベースモルタルやベースコンクリート中のセメント100質量部に対して5〜30質量部添加するのが好ましい。少なすぎると速硬性が得られないことがあり、多すぎると過膨張の虞があるので適当ではない。尚、モルタルやコンクリートを作製する際の混練水量は、セメント100質量部に対し、10〜70質量部が推奨される。また、本発明の速硬モルタル・コンクリートは、前記添加剤以外の成分を本発明の効果を喪失させない限り含有することができ、このような成分として、例えば、何れもモルタルやコンクリートに使用できる繊維、収縮低減剤、ポゾラン反応性物質、保水剤、増粘剤、防錆剤等を挙げることができる。
【実施例】
【0021】
以下の材料を使用し、表1の配合量(質量部)となるように高速回転型ミキサ(ヘンシェルミキサー)で混練することで添加剤を作製した。表1中、モルタルへの添加量は、モルタル中のセメント100質量部に対する添加剤の添加量である。
アルミナセメント:(商品名:太平洋アルミナセメント、太平洋マテリアル社製)
カルシウムサルホアルミネート:石膏と生石灰、珪石およびアルミナ粉末を所定鉱物となるように調合、焼成し、ロータリーキルンで1330℃の焼成温度で焼成して得られた焼成物で、X線回折でカルシウムサルフォアルミネート(アーウィン)とビーライトが生成しているのが確認されたものであり、ブレーン比表面積が4000cm2/gとなるように粉砕して得たもの。
無水石膏:市販品
炭酸リチウム:市販試薬
炭酸ナトリウム:市販試薬(和光純薬社製)
ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(商品名:ディナコール、ナガセ化成社製)
普通ポルトランドセメント:太平洋セメント社製
凝結遅延剤:(商品名:フローリック)
パラフィン:流動パラフィン(和光純薬社製)
【0022】
【表1】

【0023】
試験は、表1の配合で製造した添加剤を製造1ヶ月以内にセメントに添加したものと、大気中に放置し3ヶ月および6ヶ月後にセメントに添加し、モルタルとしてのフロー値および圧縮強度を評価した。また、モルタルの評価はJIS R5201に準拠し、セメントに添加剤を添加し、注水直後のフロー値および圧縮強度試験を実施した。評価結果を表2に示す。
【0024】
【表2】

【0025】
本発明の添加剤を用いたフロー値は、1ヶ月に比べ、3ヶ月、6ヶ月と放置時間が経過しても相違はない。
比較例をみてわかるように、本発明でない添加剤の場合はフロー値はやや大きくなる傾向が認められた。
圧縮強度は、1ヶ月に比べ、6ヶ月では1日初期強度も小さければ、28日後の長期強度の伸びも低迷しているのに対し、本発明の添加剤を用いた場合は、1日初期および28日長期ともに相違ない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)カルシウムアルミネート類の少なくとも1種、(B)アルカリ金属塩、及び(C)1分子中に2個以上のエポキシ基を有する水溶性エポキシ樹脂又はその(メタ)アクリル酸付加物を含有することを特徴とするモルタルコンクリート用速硬性添加剤。
【請求項2】
(C)水溶性エポキシ樹脂又はその(メタ)アクリル酸付加物が、ビスフェノールAのグリシジルエーテル型エポキシ、ポリエチレングリコールジクリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジクリシジルエーテル、ポリグリセリンジグリシジルエーテル及びこれらの(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる1種以上である請求項1記載のモルタルコンクリート用速硬性添加剤。
【請求項3】
さらに(D)ポルトランドセメント及び/または(E)無水石膏を含有してなる請求項1又は2記載のモルタルコンクリート用速硬性添加剤。
【請求項4】
さらに(F)凝結遅延剤を含有する請求項1〜3のいずれか1項記載のモルタルコンクリート用速硬性添加剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載のモルタルコンクリート用速硬性添加剤及びセメントを含有する速硬性モルタルコンクリート。

【公開番号】特開2008−156186(P2008−156186A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−349629(P2006−349629)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】