説明

モルタル掘削機

【課題】鉄道のスラブ軌道を構成するモルタル層の掘削に使用されるモルタル掘削機において、狭い掘削箇所を有するスラブ軌道に対しても十分な切込み深さを確保しつつ使用可能とし、操作性を向上させ、小型化及び軽量化を実現する。
【解決手段】このモルタル掘削機11は、上下に延びる駆動軸14cと、駆動軸の下端に支持され、駆動軸回りに掘削回転する掘削刃14dとを備え、掘削刃14dが、駆動軸と同軸をなし、駆動軸から動力を受けて回転する第一軸部と、この第一軸部から水平方向にずれて位置する、第一軸部と平行な軸回りに回転する第二軸部と、第一軸部と第二軸部とに掛け渡され、周囲に切刃が形成された無限軌道とを備え、第二軸部が、スラブ軌道上に敷設されるレール3の延設方向に沿って第一軸部と平行な第一の位置と、第一軸部に対しレールの幅方向にずれた第二の位置とをとる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道のスラブ軌道を構成するモルタル層の掘削に使用されるモルタル掘削機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、鉄道のスラブ軌道は、下側から、路盤コンクリートと、モルタル層と、軌道スラブとの3層構造を有しており、軌道スラブ上に締結装置を介してレールが敷設される。モルタル層は、その厚さを調節することにより軌道スラブ表面の高低差を防止する他、レール上を車両が走行する際に発生する騒音や振動を吸収する等の作用を有している。また、モルタル層の材質には、セメントアスファルトモルタル(CAモルタル)の他、樹脂モルタル等が使用される。
【0003】
ところで、モルタル層が上記の騒音や振動を吸収するにあたり、所望の吸収作用を維持するためには、定期的に古いモルタル層を除去し、除去した部分に新たなモルタルを充填する必要がある。モルタル層の除去に際しては、モルタル掘削機が用いられる(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平1−65301号公報
【0005】
従来のモルタル掘削機の概略構造を図5に例示する。図5において、符号1はスラブ軌道である。スラブ軌道1は、上述の通り、下側から、路盤コンクリート1aと、モルタル層1bと、軌道スラブ1cとの3層構造を有し、軌道スラブ1c上には、レール締結装置2を介してレール3が敷設されている。なお、以下の記載では、特に断りのない限り、レール3の延設方向を「前後」、水平かつレール3の延設方向と直交する方向を「左右」と呼称する。また、モルタル掘削機の説明に際して使用される、「上下」「前後」「左右」等の語は、いずれもモルタル掘削機をスラブ軌道1上に設置した際における、上記レール3の延設方向を基準とした位置関係に基づくものとする。
【0006】
モルタル掘削機4は、フレーム5と、フレーム5の一端側に設けられたレール把持部6と、フレーム5の他端側に設けられた掘削部7と、フレーム5の中央部に設けられたガイドローラ部8とから概略構成されている。
レール把持部6は、レール3の頭部3aを左右から挟持する一対のローラ6a,6bを前後に備え、ハンドル6cを操作してローラ6aを回転させることにより、モルタル掘削機4をレール3の延設方向に沿って移動させることが可能となっている。
掘削部7は、本体7aと、本体7aを上下及び左右にそれぞれ移動させるスライドガイド7b,7cとを備え、本体7aは、モータ7dと、モータ7dにより駆動される、上下に延びる駆動軸と、その下端に駆動軸と同軸をなすよう支持された、円盤状の掘削刃7eとを備えている。また、符号7fは、掘削刃7eの一部を外側から覆うガードである。
ガイドローラ部8は、ローラ8aと、フレーム5に固定され、ローラ8aを上下動可能に支持する脚部8bとを備え、ローラ8aを軌道スラブ1cの上面に当接させることにより、フレーム5をレール3の延設方向に沿って移動可能に支持している。
【0007】
モルタル掘削機4は、図5に示すように、レール把持部6のローラ6a,6bにてレール3を把持し、フレーム5がレール3上を左右に延び、掘削部7がスラブ軌道1の側面1dから外側に突出し、かつガイドローラ部8のローラ8aがレール3の外側にて軌道スラブ1cの上面に当接するよう、スラブ軌道1上に設置される。この時、スライドガイド7b,7cを操作して、掘削刃7eのうち、ガード7fで覆われていない側面を、側面1d上に露出するモルタル層1bに外側から対向させる。
そして、この状態でモータ7dを起動して掘削刃7eを回転させるとともに、スライドガイド7cを操作して、図5中矢印Mで示すように、本体7aを側面1d側に移動させることにより、掘削刃7eが側面1d上に露出するモルタル層1bに接触し、モルタル層1bを外側から掘削、除去する。この場合、掘削刃7eの左右方向の移動(送り)は、スライドガイド7cの操作により行われる。また、掘削刃7eの前後方向の移動(送り)は、ハンドル6cを操作してローラ6aを回転させ、それに伴いローラ8aを軌道スラブ1cの上面にて前後に回動させることにより行われる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、スラブ軌道1によっては、路盤コンクリート1a上の上記側面1dと対向する位置に、例えば図5に符号1eで示すような凸部(通路用の側壁等)が形成される場合がある。しかしながら、上記従来のモルタル掘削機4では、側面1dと、凸部1eのうち側面1dと対向する側面1fとの間に形成される溝部Gの左右の幅Wが、掘削刃7eの外径(より正確には掘削刃7eとガード7fとからなる部位の左右方向の幅)Dより小さいと、凸部1eが邪魔となって、掘削刃7eを溝部Gに挿入できなくなる。その結果、掘削刃7eの側面を側面1dのモルタル層1bに外側から対向させることができず、モルタル層1bの掘削が不可能となる。
一方、掘削刃7eを溝部Gに挿入可能とするために掘削刃7eの外径を小さくすると、掘削刃7eにより掘削されるモルタル層1bの側面1dからの深さ(切込み深さ)が小さくなり、モルタル層1bの十分な掘削、除去が不可能となる場合がある。
【0009】
また、掘削刃7eの上下左右方向への移動に際し、スライドガイド7b,7cを操作して本体7aを上下左右に移動させる必要があるが、本体7aはモータ7d等を含むため相応の重量を有しており、その結果、スライドガイド7b,7cの操作に要する労力が大きくなる。しかも、上記の通り相応の重量を有する本体7aを支持しつつ移動させる必要性から、スライドガイド7b,7c自体が大型化し、かつその重量も増大する。
【0010】
また、上記の通り、掘削刃7eの前後方向の送りは、ローラ8aが軌道スラブ1cの上面にて前後に回動することにより行われるが、例えばレール転倒防止装置等の設置により軌道スラブ1cの上面に凹凸が生じると、この凹凸が邪魔となって、軌道スラブ1cの上面におけるローラ8aの回動が困難となる場合がある。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、例えば従来の掘削刃7eを使用できないような狭い溝部Gを有するスラブ軌道1に対しても十分な切込み深さを確保しつつ使用可能で、操作性に優れ、小型化及び軽量化が実現可能なモルタル掘削機の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のモルタル掘削機は、鉄道のスラブ軌道を構成するモルタル層の掘削に使用されるモルタル掘削機であって、上下に延びる駆動軸と、上記駆動軸の下端に支持され、上記駆動軸回りに掘削回転する掘削刃とを備え、掘削刃が、上記駆動軸と同軸をなし、上記駆動軸から動力を受けて回転する第一軸部と、この第一軸部から水平方向にずれて位置する、上記第一軸部と平行な軸回りに回転する第二軸部と、上記第一軸部と第二軸部とに掛け渡され、周囲に切刃が形成された無限軌道とを備え、上記第二軸部が、上記スラブ軌道上に敷設されるレールの延設方向に沿って上記第一軸部と平行な第一の位置と、上記第一軸部に対し上記レールの幅方向にずれた第二の位置とをとることを特徴としている。
【0013】
ここで、上記掘削刃の、上記レールの幅方向に沿った幅が、上記第二軸部が上記第一の位置をとった際には、上記スラブ軌道の上記モルタル層が露出する部位に形成された溝部の、上記レールの幅方向に沿った幅よりも狭く、上記第二軸部が上記第二の位置をとった際には、上記溝部の上記レールの幅方向に沿った幅より広いことが望ましい。
【0014】
また、上記駆動軸は、上記駆動軸を回転させる駆動源に、上下動可能に接続されていることが望ましい。
【0015】
また、上記掘削刃を上記駆動軸回りに揺動させる揺動機構を備え、この揺動機構を操作して上記掘削刃を上記駆動軸回りに揺動させることにより、上記第二軸部が上記第一の位置と第二の位置とをとることが望ましい。
【0016】
また、上記スラブ軌道が、上記レールの延設方向に沿って、上面と、上記モルタル層が露出する側面とを有し、上記モルタル掘削機が、これら上面と側面との稜辺上を上記レールの延設方向に沿って回動するローラにより、上記レールの延設方向に沿って移動可能に支持されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のモルタル掘削機によれば、掘削刃が、駆動軸と同軸をなす第一軸部と、第一軸部から水平方向にずれて位置する、第一軸部と平行な軸回りに回転する第二軸部と、第一軸部と第二軸部とに掛け渡され、周囲に切刃が形成された無限軌道とを備え、第二軸部が、スラブ軌道上に敷設されるレールの延設方向に沿って第一軸部と平行な第一の位置と、第一軸部に対しレールの幅方向にずれた第二の位置とをとる。
第二軸部が第一の位置をとることにより、掘削刃のレールの幅方向に沿った幅を最小とする一方、第二軸部が第二の位置をとることにより、掘削刃のレールの幅方向に沿った幅を相対的に拡げることが可能となる。その結果、第二軸部が第一の位置をとることにより、レールの幅方向に沿った幅が狭い掘削箇所にも、掘削刃を設置することが可能となる。一方、第二軸部が第二の位置をとることにより、掘削刃のレールの幅方向に沿った幅を相対的に拡げ、十分な切込み深さを確保することが可能となる。
【0018】
例えば、掘削刃の、レールの幅方向に沿った幅を、第二軸部が第一の位置をとった際には、スラブ軌道のモルタル層が露出する部位に形成された溝部の、レールの幅方向に沿った幅よりも狭く、第二軸部が第二の位置をとった際には、上記溝部のレールの幅方向に沿った幅より広くなるよう設定しておくことにより、第二軸部が第一の位置をとった状態で上記溝部内に掘削刃を挿入後、第二軸部を第二の位置に移動させ、掘削刃のレールの幅方向に沿った幅を相対的に拡げ、モルタル層を掘削することが可能となる。
【0019】
更に、第二軸部が第二の位置をとる際の、第一軸部に対する第二軸部のレールの幅方向に沿った位置を変えることにより、切込み深さの調節が可能となる。従って、切込み深さの調節に際し、駆動源を始めとするモルタル掘削機の主要部分を移動させる必要がない。その結果、可動部分の小型化、軽量化が可能となり、操作性が向上する。
【0020】
また、駆動軸が駆動源に上下動可能に接続されているため、掘削刃の上下動に際しては、駆動軸と掘削刃のみを移動させればよい。従って、掘削刃の上下動に際し、駆動源を始めとするモルタル掘削機の主要部分を移動させる必要がない。その結果、可動部分の小型化、軽量化が可能となり、操作性が向上する。
【0021】
また、上記掘削刃を上記駆動軸回りに揺動させる揺動機構を備え、この揺動機構を操作して上記掘削刃を上記駆動軸回りに揺動させることにより、上記第二軸部が上記第一の位置と第二の位置とをとるため、上記第二軸部を上記揺動機構の操作により容易に移動可能となり、操作性が向上する。
【0022】
また、モルタル掘削機が、スラブ軌道の上面と側面との稜辺上をレールの延設方向に沿って回動するローラによりレールの延設方向に沿って移動可能に支持されているため、スラブ軌道の上面に凹凸等が存在していても、ローラをレールの延設方向に沿って回動させ、モルタル掘削機をレールの延設方向に沿って移動させることが可能となる。その結果、モルタル掘削機の操作性及び汎用性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るモルタル掘削機の構造の例を示す、図2中矢印Aに沿った側面図である。
【図2】図1に示すモルタル掘削機の図1中矢印Bに沿った上面図である。
【図3】図1に示すモルタル掘削機の掘削部の構造を示す、前後方向に沿った一部断面図である。
【図4】図1に示すモルタル掘削機に使用される掘削刃の構造を示す上面図である。
【図5】従来のモルタル掘削機の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態について説明する。
本発明に係るモルタル掘削機11の構造の例を図1及び図2に示す。図1は、モルタル掘削機11の図2中矢印Aに沿った側面図、図2は、モルタル掘削機11の図1中矢印Bに沿った上面図である。
モルタル掘削機11は、フレーム12と、フレーム12の一端側に設けられたレール把持部13と、フレーム12の他端側に設けられた掘削部14及びガイドローラ部15から概略構成されている。
【0025】
フレーム12は、レール把持部13が設けられた第一フレーム12aと、掘削部14及びガイドローラ部15が設けられた第二フレーム12bと、第一フレーム12aと第二フレーム12bとを連結する前後一対の連結部12cとを備え、図2に示すように、上方視して矩形状をなしている。また、図1に示すように、モルタル掘削機11をスラブ軌道1上に設置した際に、第一フレーム12a及び第二フレーム12bはレール3の上方及びスラブ軌道1の側面1dから外側に突出した位置にそれぞれ水平に配設され、かつ第二フレーム12bが第一フレーム12aより低く位置するよう、連結部12cは第一フレーム12a側から第二フレーム12b側に向け下方に傾斜している。更に、軽量化の目的で、フレーム12にはアルミニウム系の材質が使用されている。
【0026】
レール把持部13は、レール3の頭部3aを左右から挟む一対のローラ13a,13bと、頭部3aの上端面に上方から当接するローラ13cとを備え、ローラ13a,13bにてレール3の頭部3aを左右から挟み、ローラ13a,13bの下端に設けられたフランジ部13d,13eを頭部3aの下面に左右下方から当接させることにより、モルタル掘削機11が、レール3に支持される。ここで、ローラ13aは、第一フレーム12aの端部に支持されたフレーム13h(後述)に、垂直な軸回りに回転自在に支持されるとともに、ローラ13bは、第一フレーム12aの前後端から突出する水平なプレート13fに、垂直な軸回りに回転自在に支持されている。また、ローラ13cは、第一フレーム12aの前後端から突出する左右一対の垂直なプレート13g間に、水平な軸回りに回転自在に支持されている。その結果、これらローラ13a,13b,13cの回動により、モルタル掘削機11が、レール3の延設方向に沿って移動可能となっている。
【0027】
フレーム13hは、第一フレーム12aの端部に前後に配設された部材で、その前項端には、第一フレーム12aの前後端からレール3の幅方向に延びる前後一対の端部12dがそれぞれ挿通されている。上記端部12dからは、周囲に雄ネジが形成された軸12eがそれぞれレール3の幅方向に延設され、これらの軸12eにフレーム13hの外側(図1及び2における左側)からそれぞれ係合された押さえ部材13i及び押さえ部材13iの外側から軸12dにそれぞれ螺合されたクランプハンドル13jにより、フレーム13hが第一フレーム12aに着脱自在に支持されている。
また、上述した通り、フレーム13hの前後端部において、フレーム13hの下面には、ローラ13aが、垂直な軸回りに回転自在に支持されている。更に、前後に位置するローラ13aのうち、一方のローラ13a(図2にて下側に位置するローラ13a)には、フレーム13hの上面に水平に設置されたハンドル13kの軸が、図示しないスパーギヤを介して接続されている。そして、このハンドル13kを操作してローラ13aを回転させることにより、モルタル掘削機11をレール3の延設方向に沿って移動させることが可能となっている。
【0028】
掘削部14は、モータ(駆動源)14aと、減速機14bを介してモータ14aに接続された駆動軸14cと、駆動軸14cの下端に支持された掘削刃14dと、掘削刃14dを駆動軸14c回りに揺動させる揺動機構14eとを備えている。掘削部14は第二フレーム12b上に設置され、その位置は、図1及び図2に示すようにモルタル掘削機11をスラブ軌道1上に設置した際に、掘削刃14dがスラブ軌道1の側面1d上に露出するモルタル層1bの略側方に位置するよう、予め定められている。
【0029】
掘削部14の構造を図3に示す。モータ14aは、その出力軸(図示せず)が左右に延設されるよう、第二フレーム12b上に設置されている。減速機14bは、モータ14aの回転を減速させるとともに、その回転方向を水平から垂直に変換するもので、上下に延びる円筒状の出力軸(図示せず)を備えている。また、減速機14bの出力軸の内周面には、径方向内方に向け突出するキーが、上下方向に延設されている。
【0030】
駆動軸14cは、減速機14bの出力軸の内径と略同一の外径を有し、減速機14bの出力軸内に同軸をなすよう挿入され、減速機14bを上下に貫通している。また、駆動軸14cの上端部には、長手方向に沿ってキー溝14fが上下に形成されている。キー溝14fは、駆動軸14cの外周面の一部を径方向内方に窪ませたもので、その幅は上記キーと略同一とされ、その長さは上記キーよりも長くなっている。そして、駆動軸14cの上端部を減速機14bの出力軸内に挿入し、キーとキー溝14fとを係合させることにより、モータ14aの回転による減速機14bの出力軸の回転に伴う、駆動軸14cの回転が可能となっている。また、キー溝14fの長さが上記キーよりも長いため、キーとキー溝14fとを係合させた状態、すなわち駆動軸14cが減速機14bを介してモータ14aに接続された状態で、駆動軸14cを、モータ14a及び減速機14bに対し上下動させることが可能となっている。
【0031】
減速機14bの上端には、駆動軸14cを上下動させる上下動機構14gが配設されている。上下動機構14gは、駆動軸14cと同軸をなす円筒状の外部ケーシング101及び内部ケーシング102と、内部ケーシング102の内部に固定され、駆動軸14cの上端を回転可能に支持するベアリング103とを備えている。
外部ケーシング101は減速機14bの上端に固定され、外部ケーシング101の内周面には雌ネジが形成されるとともに、内部ケーシング102の外周面には雄ネジが形成されている。そして、これら雌ネジと雄ネジとを螺合させ、内部ケーシング102をその軸回りに回転させることにより、内部ケーシング102と、ベアリング103を介して内部ケーシング102に支持された駆動軸14cとを、外部ケーシング101に対し上下動させることが可能となっている。また、符号104は、内部ケーシング102の上端に設けられた、内部ケーシング102回転用のハンドル、符号105は、外部ケーシング101の上方にて内部ケーシング102に螺合し、内部ケーシング102の不要な下降を規制するロックナットである。
【0032】
掘削刃14dは、図4に示すように、駆動軸14cの下端に、駆動軸14cと同軸をなすよう支持された円盤状の第一軸部106と、第一軸部106から水平方向にずれて位置し、第一軸部と平行な軸107回りに回転する円盤状の第二軸部108と、第一軸部106と第二軸部108とに掛け渡され、周囲に切刃109が形成された無限軌道110とを備えている。
また、符号111は、第二軸部108を回転可能に支持するステー、符号112は、第一軸部106に掛け渡された無限軌道110を、後述する掘削時におけるモルタル掘削機11の移動方向後方側(図4中左側)から覆うカバーである。これらステー111及びカバー112は、いずれも後述するベース114の下端に固定されている。
ここで、カバー112を含む掘削刃14dの左右の幅(レール3の幅方向に沿った幅)Dは、第一軸部106と第二軸部108とをレール3の延設方向に沿って平行に配置した際に(第二軸部108が後述する第一の位置をとった際に)、幅Dが、軌道スラブ1cの側面1dと凸部1eの側面1fとの間に形成される溝部Gの左右の幅Wよりも小さくなるよう、予め設定されている。
【0033】
揺動機構14eは、駆動軸14cの下端部に、ベアリング113を介して相対回転可能に支持された水平なベース114と、ベース114の両端部から、駆動軸14cを挟むよう上方に延びる、円柱状をなす一対のアーム115と、第二フレーム12bに、ベアリング116を介して下方から回転可能に支持され、駆動軸14cの周囲を所定の隙間を介して覆う円筒状のホルダ117と、ホルダ117の周囲に固定され、かつアーム115が挿通された水平なウォームホイール118と、ウォームホイール118と螺合するネジ歯車119とを備えている。ここで、ホルダ117とウォームホイール118とは、いずれも駆動軸14cと同軸をなしている。
更に、上記一対のアーム115は、ウォームホイール118に駆動軸14cを挟むよう形成された一対の穴120及び穴120から下方に延びる円筒状のカラー121に、下方からそれぞれ上下動可能に挿通されている。また、アーム115の外径は、穴120及びカラー121との内径と略同一とされている。
【0034】
ネジ歯車119は、第二フレーム12bに回転可能に支持されるとともに、その側面がウォームホイール118と螺合するよう側方(図1中右方)に延び、その先端には、ハンドル122が設けられている。ハンドル122を回転させると、ハンドル122の回転が、ネジ歯車119を介してウォームホイール118に伝達され、ウォームホイール118が回転する。その結果、アーム115と、ベース114と、上述した掘削刃14dのステー111及びカバー112が、ウォームホイール118に従動して、駆動軸14cの周囲を回転(揺動)する。
すなわち、本実施形態に係るモルタル掘削機11の場合、揺動機構14e(具体的にはハンドル122)を操作して掘削刃14dのステー111を駆動軸14c回りに揺動させることにより、ステー111に支持された第二軸部108が、レール3の延設方向に沿って第一軸部106と平行な第一の位置(図4に符号(a)で示す位置)と、第一軸部106に対しレール3の幅方向にずれた第二の位置(図4に符号(b)で示す位置)とをとることが可能となっている。
【0035】
ハンドル122を操作して第二軸部108を第一の位置から第二の位置へと移動させることにより、掘削刃14dの第二軸部108側の端部が、符号(c)で示す位置から、例えば符号(d)で示す位置へと移動(揺動)する。その結果、掘削刃14dの左右の幅Dが、例えば図1及び図4に符号D1で示すように、第二軸部108が第一の位置をとった場合と比べ、掘削刃14dの揺動側に拡大する。
この場合、掘削刃14dの左右の幅Dは、レール3の延設方向を基準とし、かつ駆動軸14cを支点とした、第二軸部108の揺動角θ(但し、θは0度以上90度以下)の増加に伴い拡大する。すなわち、第二軸部108が第一の位置にある場合、揺動角θは0度となり、揺動角θが大きくなる程、掘削刃14dの左右の幅Dも広くなる。なお、図3は、揺動角θが90度の状態を示している。
【0036】
また、上記操作に伴う掘削刃14dの揺動に際しては、図1及び図2に示すようにモルタル掘削機11をスラブ軌道1上に設置した際に、掘削刃14dの第二軸部108側の端部が、対向するスラブ軌道1の側面1d側(図1中左方。すなわちハンドル122の突出側と逆方)に揺動するよう、その方向が定められている。また、掘削刃14dを構成する無限軌道110の掘削回転方向及び切刃109の向きは、掘削刃14dの第二軸部108側の端部が掘削時における前後の移動(送り)方向前方に位置し、かつ掘削時に、切刃109が上記送り方向後方から前方に移動しつつモルタル層1bに接触してモルタル層1bを掘削するよう、定められている。例えば、図4の場合、掘削時における前後の送り方向は図中右方となり、無限軌道110の掘削回転方向は矢印Rで示す方向となる。
【0037】
ガイドローラ部15は、円筒状の固定ケース15aと、固定ケース15aの先端から、その延設方向に沿って伸縮自在に突出する円柱状の伸縮アーム15bと、伸縮アーム15bの先端に支持されたホルダ15cと、ホルダ15cに回転可能に支持されたローラ15dと、固定ケース15aの基端に設けられ、伸縮アーム15bを伸縮操作するハンドル15eとを備えている。
ガイドローラ部15は、図2に示すように、第二フレーム12bの前後端に、ローラ15dを第一フレーム12a側に向けた状態で、ベース15fを介してそれぞれ固定されている。また、ガイドローラ部15は、図1及び図2に示すようにモルタル掘削機11をスラブ軌道1上に設置した際に、ローラ15dの側面が、スラブ軌道1の上面(具体的には軌道スラブ1cの上面)とスラブ軌道1の側面(モルタル層1bが露出する側面)1dとの稜辺1gに斜め上方から当接し、ローラ15dが稜辺1g上をレール3の延設方向に沿って回動可能となるよう、第二フレーム12b側から第一フレーム12a側に向け下方に傾斜している。
【0038】
次に、上記構成を有するモルタル掘削機11によるモルタル層1bの掘削手順について以下に説明する。
モルタル掘削機11は、図1及び図2に示すようにスラブ軌道1上に設置される。この時、掘削刃14dの第二軸部108は、レール3の延設方向に沿って第一軸部106と平行な第一の位置とする。また、フレーム13hはフレーム12から外しておく。
【0039】
この状態で、ローラ13bをレール3の頭部3aに側方(図1中右方)から当接させるとともに、ローラ13cを頭部3aの上端面に上方から当接させる。また、ローラ15dをスラブ軌道1の稜辺1gに斜め上方から当接させる。次いで、フレーム13hの前後端に第一フレーム12aの端部12dをそれぞれ挿通させ、端部12dから延びる軸12eに押さえ部材13iを係合させた後、クランプハンドル13jを軸12dに螺合させ、クランプハンドル13jを締め付ける。その結果、クランプハンドル13jにより押された押さえ部材13iによりフレーム13hがレール3側に押し付けられ、フレーム13hに設けられたローラ13aが、レール3の頭部3aに側方(図1中左方)から当接する。これにより、図1及び図2に示すように、頭部3aがローラ13a,13b,13cにより上下左右から把持される。
【0040】
また、ガイドローラ部15のハンドル15eを操作して、掘削刃14dがモルタル層1bに対し平行となり、かつローラ15dが稜辺1g上をレール3の延設方向に沿って回動可能となるよう、固定ケース15aからの伸縮アーム15bの突出量を調節する。更に、上下動機構14gのハンドル104を操作して、駆動軸14cと、駆動軸14cの下端に支持された掘削刃14dを上下動させ、掘削刃14dがモルタル層1bのうち所望の掘削箇所の側方に来るよう、掘削刃14dの高さを調節する。この場合、揺動機構14eのうち、掘削軸14cに支持されたベアリング113、ベース114及びアーム115は掘削軸14cとともに上下動するが、揺動機構14eを構成する他の部材(ベアリング116〜ハンドル122)は、掘削軸14cではなく第二フレーム12bに支持されているため上下動しない。
【0041】
そして、この状態でモータ14aを駆動し、掘削刃14dを回転させるとともに、ハンドル122を操作して第二軸部108を第一の位置から第二の位置へと移動させることにより、掘削刃14dの第二軸部108側の端部を、図に符号(c)で示す位置から、例えば符号(d)で示す位置へと揺動させる。その結果、切刃109が側方(図1及び図2中右方)からモルタル層1bに接触し、モルタル層1bを掘削する。ここで、掘削刃14dにより掘削されるモルタル層1bの側面1dからの深さ(切込み深さ)は、揺動に伴う掘削刃14dの第二軸部108側の端部の、スラブ軌道1の側面1d側への突出量を調節することにより行われる。
【0042】
また、上記操作に並行して、ハンドル13kを操作してローラ13aを回転させることにより、モルタル掘削機11をレール3の延設方向に沿って移動させる。この時、図2に矢印Fで示すように、掘削刃14dの第二軸部108側の端部が移動方向前方側に位置するよう、ハンドル13kを操作する。その結果、モルタル掘削機11が、上記ハンドル13kの操作(回転量)に応じた速度でレール3の延設方向に沿って移動し、それに伴い、掘削刃14dが、モルタル掘削機11の移動速度に応じた送り量でレール3の延設方向に沿って移動しつつ、上記切込み深さに応じた深さで、モルタル層1bを順次掘削、除去する。
また、モルタル掘削機11の移動に伴い、ローラ13a,13b,13cが頭部3aを把持しつつ回動するとともに、ローラ15dが稜辺1g上を回動し、モルタル掘削機11を支持しつつ、それぞれレール3の延設方向に沿って移動する。
【0043】
掘削の終了に際しては、モータ14aを停止して掘削刃14dの回転を停止した後、ハンドル122を操作して第二軸部108を第二の位置から第一の位置へと戻す。そして、モルタル掘削機11の設置と逆の操作を行いフレーム13hをフレーム12から外した後、モルタル掘削機11をレール3及びスラブ軌道1上から撤去する。
【0044】
本発明のモルタル掘削機11では、掘削刃14dが、駆動軸14cと同軸をなす第一軸部106と、第一軸部106から水平方向にずれて位置する、第一軸部106と平行な軸回りに回転する第二軸部108とを備え、第二軸部108が、レール3の延設方向に沿って第一軸部106と平行な第一の位置と、第一軸部106に対しレール3の幅方向にずれた第二の位置とをとる。第二軸部108が第一の位置をとることにより、掘削刃14dの左右の幅Dを最小とすることが可能となる。その結果、左右の幅が狭い掘削箇所にも、掘削刃14dを設置することが可能となる。
例えば、路盤コンクリート1a上の上記側面1dと対向する位置に、例えば図1及び図2に符号1eで示すような凸部(通路用の側壁等)が形成される場合であっても、第二軸部108が後述する第一の位置をとった際における掘削刃14dの左右の幅Dを、軌道スラブ1cの側面1dと凸部1eの側面1fとの間に形成される溝部Gの左右の幅Wよりも小さくなるよう予め設定しておくことにより、第二軸部108が第一の位置をとった状態であれば、掘削刃14dを溝部G内に設置することが可能となる。
【0045】
一方、第二軸部108が第二の位置をとることにより、掘削刃14dの左右の幅Dを相対的に拡げ、十分な切込み深さを確保することが可能となる。
よって、このモルタル掘削機11によれば、第二軸部108が第一の位置をとった状態で掘削箇所に掘削刃14dを設置後、第二軸部108を第二の位置に移動させ、掘削刃14dの左右の幅を相対的に拡げ、モルタル層1bを掘削することが可能となる。すなわち、例えば従来の掘削刃7eを使用できないような狭い溝部Gを有するスラブ軌道1に対しても、十分な切込み深さを確保しつつ掘削を行うことが可能となる。因みに本実施形態のモルタル掘削機11の場合、切込み深さは150mm程度となり、従来のモルタル掘削機4(切込み深さが100mm程度)に比して、切込み深さが大幅に増加している。しかも、周囲に切刃109が形成された無限軌道110を回転させる形式の掘削刃14dを採用したため、掘削力が増大し、その結果、CAモルタルの他、従来は掘削が困難であった、樹脂モルタルからなるモルタル層1bを掘削することが可能となっている。
【0046】
また、第二軸部108が第二の位置をとる際の、第二軸部108の揺動角θ(第一軸部106に対する第二軸部108の相対位置)を変えることにより、切込み深さの調節が可能となる。従って、切込み深さの調節に際し、モータ14aから駆動軸14cに至る駆動系を始めとするモルタル掘削機11の主要部分を移動させる必要がない。その結果、モルタル掘削機11の可動部分の小型化、軽量化が可能となり、操作性が向上する。因みに本実施形態のモルタル掘削機11の場合、総重量は100kg程度となり、従来のモルタル掘削機4(総重量は180kg程度)に比して、重量が大幅に軽減している。
【0047】
また、駆動軸14cがモータ14aに上下動可能に接続されているため、掘削刃14dの上下動に際しては、駆動軸14dと掘削刃14d(及び揺動機構14eのベース114及びアーム115)のみを移動させればよい。従って、掘削刃14dの上下動に際し、上記したようなモルタル掘削機11の主要部分を移動させる必要がない。その結果、モルタル掘削機11の可動部分の小型化、軽量化が可能となり、操作性が向上する。
【0048】
また、掘削刃14dを駆動軸14c回りに揺動させる揺動機構14eを備え、この揺動機構14e(具体的にはハンドル122)を操作して掘削刃14dを駆動軸14c回りに揺動させることにより、第二軸部108が第一の位置と第二の位置とをとるようになっている。そのため、ハンドル122の操作による第二軸部108の容易な揺動が可能で、操作性が向上する。
【0049】
また、モルタル掘削機11が、スラブ軌道1の上面と側面1dとの稜辺1g上をレール3の延設方向に沿って回動するローラ15dによりレール3の延設方向に沿って移動可能に支持されている。そのため、スラブ軌道1の上面に例えば図1に符号9で示すような部材(転倒防止装置等)を設置する等の理由によりスラブ軌道1の上面に凹凸等が存在していても、ローラ15dをレール3の延設方向に沿って回動させ、モルタル掘削機11をレール3の延設方向に沿って移動させることが可能となる。その結果、モルタル掘削機11の操作性及び汎用性が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上説明した通り、本発明によれば、従来の掘削刃を使用できないような狭い掘削箇所を有するスラブ軌道に対しても十分な切込み深さを確保しつつ使用可能で、操作性に優れ、小型化及び軽量化が実現可能なモルタル掘削機を提供することができる。
【符号の説明】
【0051】
1…スラブ軌道、1b…モルタル層、1g…スラブ軌道の上面と側面との稜辺、3…レール、11…モルタル掘削機、14a…モータ(駆動源)、14c…駆動軸、14d…掘削刃、14e…揺動機構、15…ローラ、106…第一軸部、107…軸、108…第二軸部、109…切刃、110…無限軌道

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道のスラブ軌道を構成するモルタル層の掘削に使用されるモルタル掘削機であって、
上下に延びる駆動軸と、
上記駆動軸の下端に支持され、上記駆動軸回りに掘削回転する掘削刃とを備え、
上記掘削刃が、上記駆動軸と同軸をなし、上記駆動軸から動力を受けて回転する第一軸部と、この第一軸部から水平方向にずれて位置する、上記第一軸部と平行な軸回りに回転する第二軸部と、
上記第一軸部と第二軸部とに掛け渡され、周囲に切刃が形成された無限軌道とを備え、
上記第二軸部が、上記スラブ軌道上に敷設されるレールの延設方向に沿って上記第一軸部と平行な第一の位置と、上記第一軸部に対し上記レールの幅方向にずれた第二の位置とをとることを特徴とするモルタル掘削機。
【請求項2】
上記掘削刃の、上記レールの幅方向に沿った幅が、上記第二軸部が上記第一を位置とった際には、上記スラブ軌道の上記モルタル層が露出する部位に形成された溝部の、上記レールの幅方向に沿った幅よりも狭く、上記第二軸部が上記第二の位置をとった際には、上記溝部の上記レールの幅方向に沿った幅より広いことを特徴とする請求項1に記載のモルタル掘削機。
【請求項3】
上記駆動軸が、上記駆動軸を回転させる駆動源に、上下動可能に接続されていることを特徴とする請求項1または2に記載のモルタル掘削機。
【請求項4】
上記掘削刃を上記駆動軸回りに揺動させる揺動機構を備え、この揺動機構を操作して上記掘削刃を上記駆動軸回りに揺動させることにより、上記第二軸部が上記第一の位置と第二の位置とをとることを特徴とする請求項1、2または3に記載のモルタル掘削機。
【請求項5】
上記スラブ軌道が、上記レールの延設方向に沿って、上面と、上記モルタル層が露出する側面とを有し、
これら上面と側面との稜辺上を上記レールの延設方向に沿って回動するローラにより、上記レールの延設方向に沿って移動可能に支持されていることを特徴とする請求項1、2、3または4に記載のモルタル掘削機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−21355(P2011−21355A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166186(P2009−166186)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【出願人】(591075641)東鉄工業株式会社 (36)
【出願人】(391054475)鉄友工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】