説明

モロヘイヤエキスの製造方法

【課題】アデニン含有量の低減を抑制しつつ、独特の臭みや苦味を低減することができる、新たなモロヘイヤエキスの製造方法を提供する。
【解決手段】モロヘイヤを水溶性溶媒で抽出して得られたモロヘイヤ抽出物を、多孔質両性イオン交換樹脂と接触させ、吸着画分を溶出溶媒により溶出処理して回収することを特徴とするモロヘイヤエキスの製造方法を提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モロヘイヤを水溶性溶媒で抽出して得られるモロヘイヤ抽出物に由来するモロヘイヤエキスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モロヘイヤ(学名: Corchorus olitorius L.)は、エジプトを中心とした地中海地方を原産地とする黄麻の一種であり、その栄養価の高さから、近年特に注目されてきた食品素材のひとつである。
【0003】
モロヘイヤは、細かく刻んだり茹でたりすると、オクラやヤマイモの様に独特のヌメリを生じ、このヌメリは植物ゴム(Plant gum)及び粘質多糖(ムコ多糖)を含んでいる。この粘質多糖(ムコ多糖)は、血液中の過剰のコレステロールや中性脂肪を低下させる作用ならびに血糖を低下させる作用を有することが知られており、例えばグルコース、アラビノース、グルクロン酸、ガラクツロン酸等を多く含有している。
また、栄養学的にはモロヘイヤの葉及び茎が、カリウム、カルシウム等のミネラル、βカロチン及びビタミン類などの栄養素を他の野菜に比べて非常に豊富に含んでいる。例えばカロチンはブロッコリーの約12倍、ビタミンB1はトマトの約3倍、ビタミンB2はピーマンの約14倍、カルシウムは牛乳の約2.4倍、食物繊維はレタスの約20倍と言われている。
そのため、最近、我が国でも栽培され、モロヘイヤの生葉のほか、モロヘイヤから抽出される抽出物由来のエキスについても食品素材として注目されている。
【0004】
他方、モロヘイヤの野菜汁には、独特の臭みや苦味があり、これらがあまりに強いと飲み難くなるため、従来、モロヘイヤエキスの呈味を改善する方法が提案されている。
【0005】
例えば特許文献1(特開平05−111371号公報)には、野菜ジュースの苦味を除去する方法として、野菜ジュースを含水けい酸ゲルで処理する方法が開示されている。
【0006】
特許文献2(特開平10−19192257号公報)には、モロヘイヤエキスの風味を改善する方法として、抽出用の水に対して0.0025〜0.7重量%の有機酸と3〜10重量%の乾燥モロヘイヤ葉とを抽出用水に投入し、約90〜95℃、約15分〜約30分間、攪拌しながら熱水抽出した後、固液分離を行って抽出残渣から抽出液(エキス)を分離抽出し、モロヘイヤエキスを得る方法が開示されている。
【0007】
特許文献3(特開2001−275602号公報)には、キャベツに代表されるアブラナ科の野菜特有の不快臭を軽減するべく、必要に応じて野菜の塊を解す前処理を行った上で、品温を約80℃〜95℃の範囲を維持させるように野菜に蒸気を直接当てて加熱処理を行った後、細断処理及び搾汁を行い、得られた搾汁液は特殊な陰イオン交換体を用いて接触処理することによってアブラナ科野菜特有の異臭の発生をなくす方法が開示されている。
【0008】
特許文献4(特開2003−116496号公報)には、野菜汁の苦味、渋味、収斂味等の呈味を改善する方法として、野菜汁にカルボキシル基を有する水溶性酸性多糖類を添加する方法が開示されている。
【0009】
特許文献5(特開2004−000081号公報)には、緑色野菜汁の青臭さ・生臭さ、渋み、エグ味を軽減する方法として、セロリ、ほうれん草などの野菜を、細断後直ちに、−19℃〜5℃の温度において、含水エタノールなどのアルコール性溶媒で8〜96時間抽出し、ついで抽出液から溶媒を除去するという方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平05−111371号公報の要約書
【特許文献2】特開平10−19192257号公報の要約書
【特許文献3】特開2001−275602号公報の要約書
【特許文献4】特開2003−116496号公報の要約書
【特許文献5】特開2004−000081号公報の要約書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、モロヘイヤについて研究する中で、血圧降下作用などの薬理機能を有するクロロゲン酸類やアデニンがモロヘイヤに含まれていることを見出すと共に、モロヘイヤエキスを製造する過程でクロロゲン酸類やアデニンが減少すること、特に前述のように、独特の臭みや苦味を低減するための処理をすると、アデニンが顕著に低減してしまうことを見出した。
【0012】
そこで本発明は、モロヘイヤエキスを製造する場合において、アデニン含有量の低減を抑制しつつ、独特の臭みや苦味を低減することができる、新たなモロヘイヤエキスの製造方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、モロヘイヤを水溶性溶媒で抽出して得られたモロヘイヤ抽出物を、多孔質両性イオン交換樹脂と接触させ、当該樹脂に吸着されなかった吸着画分を溶出溶媒により溶出処理して回収することを特徴とするモロヘイヤエキスの製造方法と共に、モロヘイヤを水溶性溶媒で抽出して得られたモロヘイヤ抽出物を、多孔質両性イオン交換樹脂と接触させ、当該樹脂に吸着されなかった非吸着画分を回収することを特徴とする、モロヘイヤエキスの風味改善方法を提案する。
【0014】
このようなモロヘイヤエキスの製造方法及び風味改善方法によれば、アデニン含有量の低減を抑制しつつ、独特の臭みや苦味を低減することができる。よって、得られたモロヘイヤエキスは、血圧降下剤などの薬剤の有効成分として用いることができるばかりか、飲料や食品、例えば野菜ジュースや野菜果汁ジュースへ配合することにより、これらのジュースに血圧降下剤などの薬理効果を付与することができ、その際、独特の臭みや苦味を付与することもない。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明が下記実施形態に限定されるものではない。
【0016】
<モロヘイヤエキスの製造方法>
本実施形態にかかるモロヘイヤエキスの製造方法(以下「本製法」という)は、モロヘイヤ(原料)を水溶性溶媒で抽出し、得られたモロヘイヤ抽出物を、必要に応じて酵素処理を行った後、所定の樹脂に接触させて、当該樹脂に吸着されなかった非吸着画分を回収してモロヘイヤエキスを得る一方、当該樹脂に吸着された吸着画分を除去するという方法である。
【0017】
(原料)
原料とするモロヘイヤの形態としては、特に限定されるものではない。例えば、硬い茎の部分を除去して得られた生葉、或いは、該生葉を必要に応じて加熱して破砕若しくは粉砕したもの、或いは、該生葉を必要に応じて加熱してミキサー等ですり潰したもの、或いはそれを裏ごししたもの(;ピューレ)、或いはそれらの乾燥品などを挙げることができる。中でも、本製法の原料としては、硬い茎の部分を除去して得られた生葉の乾燥品が特に好ましい。
乾燥方法としては、例えば冷凍乾燥などを挙げることができる。
また、本製法の原料としては、90℃以上の高温ブランチング処理が施されてないものが好ましい。
【0018】
(抽出)
本工程では、上述のようなモロヘイヤ(原料)を、水溶性溶媒で抽出してモロヘイヤ抽出物を得るようにする。
【0019】
抽出に用いる水溶性溶媒としては、水(硬水、軟水、イオン交換水を含む)、メタノール、エタノールなどの有機溶媒、或いは、当該有機溶媒と水との混合溶液などを挙げることができる。
また、必要に応じて、アスコルビン酸に代表される有機酸などのpH調整剤を添加してもよい。
【0020】
抽出温度は、30℃〜75℃とするのが好ましい。この温度であれば、アデニンの回収率を高めることができ、モロヘイヤエキス中のアデニン濃度を高めることができる。
アデニンの回収率を高める観点からすると、抽出温度は30℃〜75℃が好ましく、特に40℃以上、70℃以下、中でも特に50°以上、65℃以下とするのがさらに好ましい。
なお、抽出温度は、抽出時間中一定に保ってもよいし、或いは、所望の温度、例えば30℃〜75℃に加温した後、加温乃至保温を停止して徐々に放冷するようにしてもよい。
【0021】
抽出に用いる水溶性溶媒の量は、モロヘイヤ(原料)に対して15〜45重量倍量とするのが好ましく、特に20重量倍量以上、至40重量倍量以下であるのが好ましい。
抽出に用いる水溶性溶媒の量が15重量倍量以上であれば、例えば苦味成分等の望ましくない成分の抽出率を抑えることができるばかりか、モロヘイヤの膨潤によって固液分離性が低下するのを抑えることができ、さらには粘性が高くなるのを抑えることができるから、粉末化等の後処理が容易となり好ましい。また、45重量倍量以下であれば、抽出液量の増加に伴う生産性の低下を抑えることができるばかりか、アデニンの回収率を維持することができるから、好ましい。
【0022】
抽出時間が5分以上であれば、アデニンの抽出効率の低下を抑えることができ、他方、2時間以下であれば、苦味成分等の好ましくない成分の混入を抑えることができる。
かかる観点から、抽出時間は5分以上が好ましく、特に10分以上、中でも特に15分〜2時間、その中でも特に30分〜90分であるのが好ましい。
【0023】
このようにして得られた抽出液は、そのまま後工程に供給するようにしてもよいし、それを濃縮してもよい。さらに、その濃縮物を凍結乾燥等の手段によって粉末状としてもよい。
【0024】
(樹脂接触処理)
本工程では、上記工程で得られたモロヘイヤ抽出物を、所定の樹脂に接触させて、当該樹脂に吸着されなかった成分(非吸着画分)を回収することにより、当該樹脂に吸着された吸着成分(吸着画分)をモロヘイヤエキスから除去することができる。
【0025】
モロヘイヤ抽出物を接触させる樹脂の種類としては、分子量1000以下の水溶性低分子物質を吸着するのに適した多孔性の吸着剤、中でも多孔質両性イオン交換樹脂を用いるのが好ましい。
【0026】
その中でも、水酸基とアミノ基が共存した構造を持つ多孔質両性イオン交換樹脂が好ましい。水酸基とアミノ基が共存した構造を持つので、酸性、中性域においては物理吸着だけでなく化学吸着も生じ、アルカリ域では吸着した物質の脱着(溶離)作用が生じる。この作用を利用した再生法により多孔質両性イオン交換樹脂の反復使用が可能となるので廃棄物を減少させることができ、環境の面でも好ましい。
【0027】
さらに、多孔質両性イオン交換樹脂としては、樹脂母体中にミクロポア(0.1nm〜2nm)、メソポア(2nm〜50nm)又はマクロポア(50nm〜1000nm)の細孔を有する多孔質両性イオン交換樹脂がより好ましい。これらは、数十から数百m/gの比表面積を有するため吸着作用に優れている。
中でも、ミクロポア(0.1nm〜2nm)の細孔を多数有する多孔質両性イオン交換樹脂が好ましい。
【0028】
多孔質両性イオン交換樹脂としては、例えばホクエツKS、ホクエツHS、ホクエツDSがあり、その他Apollite37、Ionac B−100、Asmite 173、Duolite ES−33などを挙げることができる。
【0029】
モロヘイヤ抽出物を樹脂(多孔質両性イオン交換樹脂)に接触させる方法としては、バッチ法、カラム法の何れでもよいが、比較的少量の樹脂で効率よく処理できる点ではカラム法が好ましい。
カラム法の場合には、モロヘイヤ抽出物を水等に溶解して、樹脂(多孔質両性イオン交換樹脂)を充填したカラムに通液した後、さらに水で洗浄して非吸着画分を回収するのが好ましい。
【0030】
なお、上記のような樹脂接触処理を、アルコール存在下で行ってもよい。
【0031】
樹脂接触処理に用いる樹脂は、予め前処理しておいてもよい。例えば、樹脂をメタノールなどの溶媒で洗浄して不純物を除去した後、さらに水で洗浄してメタノールなどの溶媒を除去するなどの前処理を行ってもよい。
【0032】
また、上記のような樹脂接触処理に先立って、必要に応じて、タンパク分解酵素、好ましくはエンドペプチダーゼ、より好ましくはBacillus由来のエンドペプチダーゼで酵素処理を施しておいてもよい。
蛋白質分解酵素処理を施すことにより、通常のエキスと比較して、より優れた血圧降下作用を有するエキスとすることができる。
プロテアーゼ処理する際のpH、処理温度、処理時間、処理濃度は、特に限定されるものではないが、使用酵素によって適宜選択することができる。
目安としては、pHに関しては5.0〜8.5、特にpH5.5〜7.0とするのが好ましく、処理温度は40℃乃至70℃、特に50℃乃至65℃とするのが好ましく、処理時間は30分乃至3時間、特に1時間乃至2時間とするのが好ましい。
酵素濃度に関しては、モロヘイヤの乾燥重量に換算して0.01乃至3重量%、特に0.05〜2重量%、中でも0.1〜1.5重量%とするのが好ましい。ただし、酵素の種類により、これら条件を変更してもよいことは勿論である。例えば、Bacillus subtilis由来のプロテアーゼを使用する場合には、pH6.0乃至7.0、処理温度55℃乃至60℃、処理時間1時間乃至2時間、処理濃度はモロヘイヤの乾燥重量の0.1乃至1.0重量%とするのが好ましい。また、Bacillus thermoproteolyticus由来のプロテアーゼのひとつを使用する場合には、pH6.0乃至7.0、処理温度60℃乃至70℃、処理時間1時間乃至2時間、処理濃度はモロヘイヤの乾燥重量の0.1乃至1.0重量%が好ましい。
なお、蛋白質分解酵素処理は、アデニンの溶解度に何ら影響を与えるものではなかった。
【0033】
(用途)
このようにして得られたモロヘイヤエキスは、アデニン含量が多いだけでなく、独特の臭み成分、苦味成分、粘性成分が低下されている。また、アデニンだけではなく、ウリジンやグアノシンなどの核酸塩基類を含んでいる。
【0034】
得られたモロヘイヤエキスは、回収液のままの状態で保管してもよいし、また、必要に応じて成分を調整した後、濃縮或いは乾燥処理して保管してもよい。また、保管することなく、即座に飲料原料として使用してもよい。
【0035】
例えば、モロヘイヤエキスに水分を添加してBrixを調整することができる。この際、添加する水分としては、配合する野菜や果実に由来する水のほか、ミネラル水、天然水、イオン交換水、精製水、脱気水、水道水等の水を適宜配合することができる。
【0036】
また、必要に応じてpH調整剤を添加してもよい。pH調整剤としては、例えばクエン酸、リンゴ酸、酒石酸、酢酸、乳酸、及びグルコン酸等の有機酸、レモン、アセロラ及びカムカム等の果汁を挙げることができる。
調整するpH範囲は特に限定するものではないが、一般的にはモロヘイヤ飲料の保存安定性及び飲み易さの点からpH3〜6とするのが好ましい。
【0037】
また、必要に応じて、すなわち任意成分として、通常各種飲食品へ配合される各種食品素材、例えば天然色素及びタール色素等の着色料、安息香酸及びソルビン酸等の保存料、エリソルビン酸及びアスコルビン酸等の抗酸化剤、タンパク質、糖質、乳化剤、酸味料、ビタミン剤及びミネラル等の強化剤、香料、乳製品等の任意成分を配合してもよい。但し、これらに限定するものではない。
【0038】
本製法により得られたモロヘイヤエキスは、水飲料、各種野菜ジュース、果汁ジュース、野菜果汁ミックスジュース、乳酸飲料等の乳製品飲料、茶飲料、コーヒー飲料、スポーツドリンク、サイダー等に添加して容器詰飲料として提供することができる。このようにして得られたモロヘイヤエキス含有容器詰飲料はアデニンを高濃度で含有し、アデニンの有する降圧作用をいかんなく発揮することが可能である。
野菜飲料や野菜果実飲料などを作製する場合には、例えばモロヘイヤエキスのほかに、ニンジン、トマト、リンゴ、グレープフルーツ、その他の果物や野菜などから得られたものを混合攪拌した後、ホモジナイザーで均質化処理を行い、ピューレやパルプ分を潰して滑らかにし、必要に応じて加熱殺菌した後、容器に充填すればよい。
【0039】
この際、殺菌方法は、通常の飲料と同様に行えばよい。例えば金属缶のように容器に充填後、加熱殺菌できる場合にあっては食品衛生法に定められた殺菌条件で殺菌を行えばよい。また、PETボトル、紙容器のようにレトルト殺菌できないものについては、例えばプレート式熱交換器などで高温殺菌後冷却して容器に充填するなどすればよい。本野菜飲料を充填する容器は、PETボトル、金属缶、金属箔やプラスチックフィルムと複合された紙容器、瓶等、通常の形態の容器を使用することができる。
【0040】
(用語の説明)
本発明において「モロヘイヤエキス」は、モロヘイヤを水溶性溶媒で抽出して得られるモロヘイヤ抽出物に由来するものであって、液状、ゲル状、粉末状、顆粒状など形態は任意である。
本明細書において、「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」及び「好ましくはYより小さい」の意を包含する。
また、「X以上」或いは「Y以下」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意を包含する。
【実施例】
【0041】
次に、各種試験に基づいて本発明について更に詳細に説明するが、本発明が以下に示す試験例の内容に限定されるものではない。
【0042】
<試験1>
野菜抽出物を、各種イオン交換樹脂又はろ過剤に接触させて、得られた処理液の含有成分量を比較検討した。
【0043】
(モロヘイヤ抽出物の作製)
硬い茎を除去したモロヘイヤ乾燥葉50gに20倍重量の60℃前後の蒸留水熱水を加水し、液温60℃に保ち、そこへ少量の水に溶解したプロテアーゼを添加した。その後、液温を60℃に保ったまま10分おきに撹拌を行った。酵素を添加してから1時間経過後に、95℃まで加温して5分間保持し、目開き850μmの篩でろ過後、次いでNo.2のろ紙を使用し吸引ろ過を行った。その後、合成吸着剤処理をして吸着物を回収し、減圧濃縮した後、凍結乾燥を行い、約3.0gの褐色の粉末(モロヘイヤ抽出物A)を得た。
【0044】
(接触処理)
モロヘイヤ抽出物Aを蒸留水(25℃)に溶解し、終濃度がモロヘイヤ抽出物10質量%となるように、処理対象溶液を調製した。得られた処理対象溶液に、モロヘイヤ抽出物Aと等重量の各種イオン交換樹脂又はろ過剤(下記参照)を添加し、30分間攪拌した後、遠心分離し、非吸着画分である上清を回収した。
【0045】
(用いたイオン交換樹脂又はろ過剤)
KS:多孔質両性イオン交換樹脂(味の素ファインテクノ社製「ホクエツKS」、官能基:アミノ基とフェノール系水酸基、ミクロポア主体)
PF:弱酸性陽イオン交換樹脂(味の素ファインテクノ社製「ホクエツPF」、官能基:フェノール系水酸基)
WK40:弱酸性陽イオン交換樹脂(三菱化学社製「ダイヤイオンWK40L」、アクリル系樹脂、官能基:カルボン酸基)
WK10:弱酸性陽イオン交換樹脂(三菱化学社製「ダイヤイオンWK10」、メタクリル系樹脂、官能基:カルボン酸基)
活性白土:ベントナイト
ミズカライフ:シリカーマグネシア系粘度層間化合物(水澤化学工業社製「ミズカライフ」)
KCフロック:粉末セルロース(日本製紙ケミカル社製「KCフロック」)
【0046】
(成分分析)
得られた回収物(モロヘイヤエキス)の成分分析を行った。
分析は、下記条件のHPLC分析によって各成分の含有量を測定し、各成分の残存率(%)は、コントロール(モロヘイヤ抽出物A)における各成分の含有量を100とした場合の相対値として表2に示した。
【0047】
(HPLC条件)
カラム:Atlantis(3.0mmI.D.×150mm、3.3μm)
カラム温度:35℃
移動相A:10mM酢酸アンモニウム
移動相B:100%アセトニトリル
pH:5.0(酢酸で調整)
流速:0.6mL/分
検出:UV260nm
グラジエントプログラム:A,Bのグラジエントで分析(表1参照)
アデニンのリテンションタイム:9.0分
【0048】
【表1】

【0049】
(官能評価)
得られた回収物(モロヘイヤエキス)の風味について官能評価を行い、モロヘイヤ独特の臭みや苦味が低減されたか否かを評価した。
官能評価は、得られた回収物(モロヘイヤエキス)をBx3に濃縮し、この濃縮エキス10gを100gの純水に溶解し、これを7名のパネラーが試飲し、コントロール(モロヘイヤ抽出物A)に比べて、モロヘイヤ独特の臭みや苦味が低減されたか否かを検査し、これらの風味が改善された場合には「○」、改善されなかった場合には「×」と評価し、より多かった評価を表2に示した。
【0050】
【表2】

【0051】
活性白土やミズカライフは、顕著にアデニンが吸着されてしまった。また、KCフロックについても、風味の改善が認められなかった。
これに対し、KS(多孔質両性イオン交換樹脂)、PF(弱酸性陽イオン交換樹脂)、および、WK40、WK10(弱酸性陽イオン交換樹脂)については、風味の改善が認められ、中でもKS(多孔質両性イオン交換樹脂)は、アデニンの残存率も高いことが認められた。
【0052】
<試験2>
次に、エタノール存在下で樹脂と接触させた場合の成分変化及び風味改善効果について検討した。
【0053】
試験1で作製したモロヘイヤ抽出物Aを蒸留水(25℃)に溶解した後、エタノールを加え、終濃度がモロヘイヤ抽出物1質量%、エタノール40質量%となるように、処理対象溶液を調製した。
この処理対象溶液に、モロヘイヤ抽出物Aと等重量の各樹脂(下記参照)を添加し、30分間攪拌した後、金属メッシュによって樹脂を除去した後、0.45μmメンブレンフィルターによって吸引濾過し、非吸着画分である濾液からエタノールを除去して濃縮し、フリーズドライしてモロヘイヤエキスを得た。
【0054】
KS:多孔質両性イオン交換樹脂(味の素ファインテクノ社製「ホクエツKS」、官能基:アミノ基とフェノール系水酸基、ミクロポア主体)
HS:多孔質両性イオン交換樹脂(味の素ファインテクノ社製「ホクエツHS」、官能基:アミノ基とフェノール系水酸基、マクロポア主体)
WK40:弱酸性陽イオン交換樹脂(三菱化学社製「ダイヤイオンWK40L」、アクリル系樹脂、官能基:カルボン酸基)
【0055】
(官能評価)
得られたモロヘイヤエキス350mgを、野菜果汁飲料(伊藤園社製「緑の野菜」)200mLに配合し、官能評価を実施した。
その結果、WK40に比べ、KS及びHSはともに、味の厚みを残しつつ臭みが低減されていた。特にKSの場合には、後味がすっきりしていた。
【0056】
(成分分析)
得られたモロヘイヤエキスを、試験1と同様の条件でHPLC分析を行い、各成分の含有量を測定した。
【0057】
【表3】

【0058】
アデニンの維持率及び風味改善効果を総合的に評価すると、多孔質両性イオン交換樹脂との接触処理、中でもアルコール存在下での接触処理することが好ましく、特にミクロポアを主体とする多孔質両性イオン交換樹脂を用いて接触することが好ましいことが分かった。
【0059】
<試験3:抽出温度及び加水倍率に関する検討>
乾燥葉の抽出温度及び乾燥葉に対する加水倍率による野菜エキス中のアデニン溶出量への影響について以下のとおり試験を行った。
【0060】
(抽出温度に関する検討)
抽出に用いる原料としては、茎を除去したモロヘイヤ葉を、ブランチング処理を施すことなく、熱風乾燥して得られたモロヘイヤ乾燥葉(モロヘイヤ乾燥チップ)を用いた。
モロヘイヤ乾燥チップ5gに20重量倍量の蒸留水からなる温水乃至常温水を加水した。常温水(26.7℃)を除き、それぞれ95℃、80℃、63.5℃、44℃になるように攪拌しながら加熱し、設定温度に達した後、加熱を中止した。2時間後に抽出を終了し、850μm及び106μmの金属メッシュを用いてこれを濾過してモロヘイヤエキスを得た。
【0061】
この結果、各抽出温度におけるアデニン含量は、常温近辺(26.7℃)では11.75ppm、44℃では19.7ppm、63.5℃では26.5ppm、80℃では11.4ppm、95℃では6.1ppmであり、また、Brix1.0当りのアデニン濃度(ppm)はそれぞれ9.79ppm、15.15ppm、22.08ppm、8.77ppm、4.36ppmであった。
このように、モロヘイヤ乾燥葉を比較的高温(例えば、80℃、95℃)で抽出すると、溶液中のアデニン含量が低くなる結果となった。また、常温抽出でもアデニン含量は低い結果となった。
これら試験結果から、アデニンリッチな抽出物を得るためには、抽出時の加熱温度は30℃乃至75℃、より好ましくは40℃乃至70℃、特に好ましくは50℃乃至65℃であるが好適であることが判明した。また、このようにして得られたモロヘイヤエキスのBrix1.0当りのアデニン濃度(ppm)は10ppm以上であった。
【0062】
(乾燥葉に対する加水倍率に関する検討)
乾燥モロヘイヤチップに対し、8、15、20、40、60、80倍に加水倍率を変えて抽出試験を行った。それぞれの加水倍率の試験において、抽出後60℃のまま固液分離を行った場合と60℃抽出後95℃に加温後固液分離を行った場合の2パターンで試験を行った。
より具体的には、60℃の温水200mlを用意し、これに加水倍率が8、15、20、40、60、80倍となるように、モロヘイヤチップを25g、13.33g、10g、5g、3.33g、2.5g加えて60分間抽出し、更に95℃で5分間加熱した後、850μmメッシュを通過した液を、さらに75μmに通過させてモロヘイヤエキスを得た。
このモロヘイヤエキスは、上記と同様にしてHPLCにより分析を行った。ただし、一方は、60℃で抽出した後に更に95℃で5分間の加熱処理を施し、他方は、この加熱処理を施すことなく直ちに850μmメッシュを通過した。
【0063】
この結果、加水倍率が8倍のケースでは、固液分離の際の液切れが悪く、60℃抽出後に高温処理を行っても抽出液がほとんど得られないことが分かった。
15倍加水であれば、60℃抽出後に高温処理を行う事により良好な固液分離が可能となった。
一方、60倍、80倍加水のケースでは、加水倍率を高くするに従って抽出液のアデニン濃度が低下するのみで、アデニン抽出効率が著しく低下し、また、抽出液中のアデニン濃度が低下してしまうために、飲料に配合したり凍結乾燥して粉末化したりするに当っても不都合を生じ好ましくないことが分かった。
【0064】
<試験4:抽出前における高温加熱処理の影響の検討>
次に、抽出前における高温加熱処理、即ちブランチング処理の影響について試験を行った。
【0065】
モロヘイヤチップ5gに20重量倍(100mL)の蒸留水を加え、抽出前に一方は95℃で高温加熱処理し、もう一方は高温加熱処理を行わず、それぞれ40℃、60℃、80℃の温度に保って1時間抽出した。加熱処理を行ったものと加熱処理を行わなかったものを、ともに500μmのふるいを通過した液を、さらに75μmに通過させモロヘイヤエキスを得た。
このモロヘイヤエキスは、上記と同様にしてHPLCにより分析を行った。
【0066】
この結果、モロヘイヤチップに加水後、95℃以上の高温で処理することでアデニンが7ppm程度しか溶出されなくなった。
この試験結果から、ブランチング等の抽出前の高温加熱、例えば90℃以上の加熱はアデニンの収量低減の原因となり望ましくないことが分かった。したがって、抽出前の高温加熱はアデニン収率に悪影響を及ぼすものであり、ブランチング処理等は好ましくないと考えられる。
また、Brix1.0当りのアデニン濃度は、40℃抽出で17.67ppm、95℃加熱後40℃抽出で4.25ppm、60℃抽出で30.67ppm、95℃加熱後60℃抽出で4.53ppm、80℃抽出で13.89ppm、95℃加熱後80℃抽出で3.59ppmとなった。
【0067】
この結果、アデニン含量の点で、抽出に用いる原料としては、モロヘイヤ等の乾燥野菜が好ましく、特に90℃以上の加熱履歴を有さない乾燥野菜が好適であることが明らかとなった。
アデニンリッチな水溶液を得るためには、アデニン含量が多いエキスを用いる方が好ましいことは勿論である。上記試験結果から、加熱履歴を有さないモロヘイヤ等の乾燥野菜を原材料とし、これを30℃乃至70℃の温度で抽出したエキスが好適であると考えられる。
【0068】
<試験5:抽出時間の検討>
次に、抽出時間に関する検討を行った。モロヘイヤチップを20倍加水し、60℃でそれぞれ3分、5分、10分、20分、40分、60分、90分間抽出した。これをNo.2ろ紙でろ過した後、アデニン含量を測定した。
【0069】
その結果、抽出時間は5分以上、好ましくは10分以上より好ましくは15分乃至2時間、特に好ましくは30分乃至90分である。抽出時間は5分以下の場合はアデニンの抽出効率が悪く、2時間以上の長時間抽出は苦味成分等の好ましくない成分が混入し、好ましくないことが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モロヘイヤを水溶性溶媒で抽出して得られたモロヘイヤ抽出物を、多孔質両性イオン交換樹脂と接触させ、当該樹脂に吸着されなかった非吸着画分を回収することを特徴とする、モロヘイヤエキスの製造方法。
【請求項2】
多孔質両性イオン交換樹脂は、樹脂母体中に0.1nm〜2nmの細孔を有する多孔質両性イオン交換樹脂であることを特徴とする請求項1記載のモロヘイヤエキスの製造方法。
【請求項3】
モロヘイヤ抽出物を、アルコール存在下で多孔質両性イオン交換樹脂と接触させることを特徴とする請求項1又は2に記載のモロヘイヤエキスの製造方法。
【請求項4】
モロヘイヤが、90℃以上の高温ブランチング処理を施していない乾燥モロヘイヤであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のモロヘイヤエキスの製造方法。
【請求項5】
モロヘイヤを水溶性溶媒で抽出して得られたモロヘイヤ抽出物を、多孔質両性イオン交換樹脂と接触させ、当該樹脂に吸着されなかった非吸着画分を回収することを特徴とする、モロヘイヤエキスの風味改善方法。
【請求項6】
多孔質両性イオン交換樹脂は、樹脂母体中に0.1nm〜2nmの細孔を有する多孔質両性イオン交換樹脂であることを特徴とする請求項5に記載のモロヘイヤエキスの風味改善方法。
【請求項7】
モロヘイヤエキスを、アルコール存在下で多孔質両性イオン交換樹脂と接触させることを特徴とする請求項5又は6に記載のモロヘイヤエキスの風味改善方法。
【請求項8】
モロヘイヤが、90℃以上の高温ブランチング処理を施していない乾燥モロヘイヤであることを特徴とする請求項5〜7の何れかに記載のモロヘイヤエキスの風味改善方法。

【公開番号】特開2011−205918(P2011−205918A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74365(P2010−74365)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(591014972)株式会社 伊藤園 (213)
【Fターム(参考)】