説明

モロヘイヤ葉由来多糖類による食品の離水抑制効果

【課題】 食品(特に、冷凍食品)の離水抑制効果が高い増粘多糖類を提供すること。
【解決手段】 食品にモロヘイヤ葉由来の多糖類を添加することを特徴とする離水抑制方法によって達成される。このとき、多糖類は、食品全体の0.1%〜2.0%であること、または食品が冷凍食品であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モロヘイヤ葉由来多糖類による食品の離水抑制効果に関する。
【背景技術】
【0002】
食品に添加される増粘多糖類として、アラビアガム、グァーガム、カラギーナン、ペクチンなどが知られている。本発明者は、新たな増粘多糖類を提供するために開発を行っており、その成果の一部を特許出願した。例えば、特許文献1には、硫安水溶液を用いることにより、モロヘイヤ、ツルムラサキ、オクラ、伊勢いも等から多糖類を抽出するできることが開示されている。これらの増粘多糖類は、増粘性・乳化性・保水性などを向上させるために、極めて多種類の食品に添加されている。特に、冷凍食品に保水性を持たせる目的で、増粘多糖類を用いることがある。スーパー等において冷凍食品を陳列する際に、消費者の利便性を高めるために開放型の冷凍機を用いることがある。
【0003】
開放型の冷凍機では、冷凍食品を保存する内部空間に外気が自由に流入し得るために、一日に数回の霜取りが必要とされる。霜取り時には、庫内は一時的に30℃以上に上昇するため、冷凍食品の表面から解凍が進行する。一旦解凍された水は、再冷凍時に冷凍食品の表面で氷となる。この氷は、食品内部からの水の供給によって、徐々に成長する。こうして、霜取り操作が繰り返されると、冷凍食品の表面に水(氷)が蓄積し、食品内部が乾燥してくる。この現象を離水という。離水が起こると、冷凍食品の表面が水浸しとなって外観を損なうだけでなく、食感が大きく劣化してしまう。
冷凍食品を製造する際に、増粘多糖類を添加しておくことにより、離水抑制効果があることが知られており、この効果に基づき各種の開発がなされている。例えば、特許文献2には、20℃で900cP未満の粘度であり、電子レンジ加熱調理した後に20℃に冷却した際の粘度が1500〜7000cPとなる増粘多糖類を添加しておくことにより、食品を電子レンジ加熱しても、ソースの焦げの発生が抑制されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−231266号公報
【特許文献2】特開2002−223730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これまでの増粘多糖類の離抑制効果は、凍結・解凍が繰り返されると、低下してくるという問題点があった。
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、食品(特に、冷凍食品)の離水抑制効果が高い増粘多糖類を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、鋭意検討の結果、モロヘイヤから抽出した多糖類が、高い離水抑制効果を示すことを見出し、基本的には本発明を完成するに至った。
こうして、本発明に係る離水抑制方法は、食品にモロヘイヤ葉由来の多糖類を添加することを特徴とする。
モロヘイヤ(Molokheiya)とは、シナノキ科の一年生草本であり、シマツナソ(縞綱麻、Corchorus olitorius)のアラビア名である。モロヘイヤは、タイワンツナソ、ナガミツナソ、ジュートとも称される。モロヘイヤは、茎を醗酵させて繊維として利用されるが、果実には毒性があり食用には適さない。古くから葉を食用としたことが報告されており、カルシウム、カロテン、ビタミンB、ビタミンCなどに富む。葉を刻んだりゆでたりすると、多糖類であるムチン特有の粘りを呈する。
【0007】
多糖類とは、単糖分子がグリコシド結合によって多数重合した糖のことを意味する。多糖類は、構成単位となる単糖とは異なる性質を示す。多糖類は、一般に親水性であり水を吸着しやすいものの、様々な物性を示す。例えば、水に不溶性のもの(セルロース、キチンなど)、可溶性のもの(デンプン、グリコーゲン、アガロース、ペクチンなど)がある。多糖類の中には、その水溶液が高い粘度を呈し、さらにはゲル可能を有するものもあることから、増粘安定剤または食品添加物として、食品に用いられる。モロヘイヤ葉由来の多糖類は、本発明者が開示した特許文献1のように、硫安水溶液を用いて抽出した後、水で再抽出し、脱塩処理することにより分画できる。しかしながら、その性質については良く知られていなかった。本発明により、モロヘイヤ葉由来の多糖類が、極めて良好な離水抑制効果を備えていることが判明した。
【0008】
また、本発明において、モロヘイヤ葉由来の多糖類は、食品全体の0.1%〜2.0%であることが好ましい。モロヘイヤ葉由来の多糖類は、単独で食品に添加することができるし、他の多糖類(例えば、カラギーナン、キサンタンガム、アルギン酸、ローカストビーンガム、ペクチン、グアーガム)と共に食品に添加することもできる。
また、前記食品が、冷凍食品であることが好ましい。モロヘイヤ葉由来の多糖類を添加することにより、食品の粘性・ゲル化・乳化性などを向上させることができる。しかしながら、この多糖類は特に離水抑制効果に優れているので、冷凍食品に添加することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、食品(特に、冷凍食品)の離水抑制効果が高いものが提供できるので、凍結・解凍が繰り返されても外観が良好であり、且つ食感の良い食品となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】凍結・解凍処理を5サイクル繰り返し、凍結させたときの様子を写した写真図である。左から、水、ローカストビーンガム水溶液(1%w/w)、グアーガム水溶液(1% w/w)、およびモロヘイヤ多糖類水溶液(1% w/w)の各サンプルである。
【図2】トウモロコシデンプンに各多糖類を添加し、凍結・解凍処理を5サイクル繰り返したときの各サイクル毎の離水(%)を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施例1> モロヘイヤ多糖類の製造
モロヘイヤ葉(10g)を室温で50%w/w硫安水溶液(300ミリリットル)に分散させ、1時間攪拌後遠心分離(6000×g、10分間)によって沈殿を回収し、沈殿に300ミリリットルの水を加え1時間攪拌後、遠心分離(6000×g、10分間)で上清を回収した。上清にイソプロパノールを徐々に添加し、沈殿を得た。沈殿は、順次高濃度のイソプロパノールで洗浄(最終100%)し、多糖類を精製し、50℃で一晩乾燥し、モロヘイヤ多糖類とした。
<実施例2> モロヘイヤ多糖類の保水効果確認試験1
モロヘイヤ多糖類(1% w/w)25mLを50 mLのポリプロピレン製遠沈管に入れた。-20℃にて20時間凍結および60℃にて4時間加熱解凍の凍結・解凍処理を1サイクルとし、計5サイクルの凍結・解凍処理を終了後、-20℃で凍結させた。比較対照として、水、ローカストビーンガム水溶液(1%w/w)、グアーガム水溶液(1% w/w)を使用した。ローカストビーンガム水溶液(LBG)は、80℃で15分間加熱してローカストビーンガムを溶解させ、室温に戻して一晩攪拌して調製した。グアーガムは、室温で水に分散させ、一晩攪拌して調製した。いずれの試料についても、上記モロヘイヤ多糖類に施したものと同じ凍結・解凍処理を行った後、-20℃で凍結させた。
【0012】
結果を図1に示した。モロヘイヤ多糖類以外の試料は、凍結・解凍の繰り返しで水溶液の体積が増加し、遠沈管立てに収まらず、底部が空中に浮いてしまった。水は凍結により、体積が増加することが知られている。ローカストビーンガム水溶液とグアーガム水溶液は、凍結・解凍の繰り返しで多糖類に水和していた水分子が多糖類から離れ、凍結時に氷が成長したと考えられた。一方、モロヘイヤ由来多糖類は、凍結・解凍の繰り返しでも体積変化が少なく、試験管立てに収まったままであった。モロヘイヤ由来多糖類は高い保水力によって、冷解凍の繰り返しでも水分子の分離が抑制され、氷が発達しなかったためと考えられた。なお、試験管立ての位置およびポリプロピレン製遠沈管の違いによる影響は見られなかった。
【0013】
<実施例3> モロヘイヤ多糖類の保水効果確認試験2
コーンスターチ(トウモロコシデンプン)ゲルに、各種多糖類(モロヘイヤ多糖類・アルギン酸ナトリウム・ペクチン・グアーガム・ローカストビーンガム)をそれぞれ共存させ、凍結・解凍の繰り返しで発生する離水を経時的に測定した。各試料は、5.3% w/wコーンスターチに0.7% w/w各種多糖類を添加し、総多糖類濃度が6% w/wとなるように水に懸濁した。各試料を沸騰水中で15分間加熱溶解し、50 mLのポリプロピレン製遠沈管に注いだ。-40℃にて22時間凍結および30℃にて2時間加熱解凍の凍結・解凍処理を1サイクルとし、計5サイクルの凍結・解凍処理を行った。各サイクルの終了毎に遠沈管からゲルを取り出し、ワットマンジャパン社製ベクタスピン20のポリプロピレンメッシュ付き遠心ろ過容器にゲルを移し、重力加速度100×gで15分間遠心分離し、離水を分離した。
【0014】
遠心分離前後のゲル重量をそれぞれaおよびbとし、離水率を式(1)に従って計算した。各サイクル毎に3回離水量を測定し、その平均を算出した。
式(1) 離水(%)=(a−b)/a×100
結果を表1、表2および図2に示した。
【0015】
【表1】

【0016】
【表2】

【0017】
表1には、各多糖類を添加したときの凍結・解凍回数に依る離水(%)データ(n=3)を、表2には、各データを平均値±標準偏差として示した。また、図2には、凍結・解凍処理毎の離水(%)を示した。
デンプンのみでは、1サイクル目で約60%の離水が発生しているが、多糖類を添加することにより、離水が抑制された。特に、モロヘイヤ多糖類を添加した場合には、離水抑制効果が高く、5サイクル後においても離水が約20%に抑制され、既存の多糖類を使用した場合を凌ぐ好結果を得ることができた。
このように本実施形態によれば、モロヘイヤ由来の多糖類を用いることにより、従来の多糖類を用いた場合よりも非常に良好な離水抑制効果を得られることが分かった。モロヘイヤ多糖類は、数千年間食材として活用されてきた植物由来の天然物であるので食品への利用が期待できる特に冷凍食品に用いた場合には、外観を良好に保持できると共に、食感の劣化を抑制できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品にモロヘイヤ葉由来の多糖類を添加することを特徴とする離水抑制方法。
【請求項2】
前記モロヘイヤ葉由来の多糖類は、食品全体の0.1%〜2.0%であることを特徴とする請求項1に記載の離水抑制方法。
【請求項3】
前記食品が、冷凍食品であることを特徴とする請求項1または2に記載の離水抑制方法。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2011−97870(P2011−97870A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254486(P2009−254486)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(594156880)三重県 (58)
【Fターム(参考)】