説明

モーア

【課題】下方に開放されたデッキの内部に、縦軸駆動される複数の刈刃を横方向に並列装備してあるモーアにおいて、高い効率で細断を行えるようにする。
【解決手段】デッキ7の内部に刈刃8,9の先端回動軌跡に沿った平面形状が略円形の切断室24,25を各刈刃8,9ごとに形成し、隣接する刈刃8,9を互いに逆向きに回転駆動するとともに、隣接する刈刃8,9の切断室24,25の間に刈草の流動通過を許容する開口26を形成し、各切断室24,25の周壁と上壁とを、上方ほど切断室中心に近づくよう傾斜されたコーナー案内面で接続してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下方に開放されたデッキの内部に、縦軸駆動される複数の刈刃を横方向に並列装備したモーアに係り、特には、刈取った草をデッキ内で細断して刈り跡に放置してゆくマルチング作業を行うに好適なモーアに関する。
【背景技術】
【0002】
上記モーアとしては、例えば、特許文献1あるいは特許文献2に示されているように、デッキの横端に刈草排出口を備えてサイドディスチャージ仕様に構成されたモーアに細断用バッフルを装着し、各刈刃の先端回動軌跡に沿った略円形の切断室を形成することで、マルチング作業を行えるよう構成したものが知られている。
【特許文献1】特開2004−41060号公報(図9)
【特許文献1】特開2004−350630号公報(図5及び図6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に記載のモーアにおいては、細断用バッフルを装着して並列形成した複数の切断室はそれぞれ隔絶されており、各切断室ごとで刈草を持ち回り細断するよう構成されている。特許文献2に記載のモーアにおいては、細断用バッフルを装着して並列形成した複数の切断室は開口を介して互いに連通されているが、各切断室の刈草が隣接する切断室に流出しないように細断用バッフルにおける開口部位の形状が設定されている。
【0004】
このように、従来のマルチング作業においては、各切断室ごとで刈草を持ち回り切断することで刈草を繰り返し切断するようにしているのであるが、刈草は刈刃によって生起された切断風にのって刈刃回動方向に流動するので、刈刃と同方向に移動している刈草を切断することになり、充分に失速しない刈草を効率よく細断することが困難となるものであった。
【0005】
本発明は、このような点に着目してなされたものであって、より効率の高い細断を行うことのできるモーアを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、下方に開放されたデッキの内部に、縦軸駆動される複数の刈刃を横方向に並列装備してあるモーアにおいて、
前記デッキの内部に刈刃の先端回動軌跡に沿った平面形状が略円形の切断室を各刈刃ごとに形成し、隣接する刈刃を互いに逆向きに回転駆動するとともに、隣接する刈刃の切断室の間に刈草の流動通過を許容する開口を形成し、各切断室の周壁と上壁とを、上方ほど切断室中心に近づくよう傾斜されたコーナー案内面で接続してあることを特徴とする。
【0007】
この構成によると、各切断室で切断された刈草は刈刃の回転によって持ち回り回動しながら繰り返し細断される。この場合、刈刃によって生起された切断風に乗った刈草は周壁に沿って周方向に流動しながらコーナー案内面に案内されて上壁に向かい、失速して落下して再び刈刃の切断作用を受ける。
【0008】
切断室を回動する刈草の一部は開口を経て他方の切断室に流入し、他方の切断室で回動している刈刃の切断作用を受ける。この場合、流入した切断室の刈刃は逆向きに回動しているので、流入してきた刈草は他方の切断室を回動する切断風に交差するようにぶつかって失速するとともに、他方の切断室で流動している刈草も流入してきた刈草とのぶつかりによって失速して再度の切断作用を受けやすくなる。
【0009】
従って、第1の発明によると、刈草は当初に切断された切断室のみならず隣接する他方の切断室においても逆回転する刈刃でも細断され、互いに逆向きに回動する刈刃によって効率のよい切断作用を受けることになり、各切断室で独自に切断作用を受ける場合に比べて効率の良い細断が行える。
【0010】
第2の発明は、上記第1の発明において、
一方の切断室における周壁内面の前記開口に臨む周方向端部に、一方の刈刃で飛散される刈草を他方の刈刃の切断室に導く周部案内面を設けてあるものである。
【0011】
この構成によると、一方の切断室で切断した刈草を他方の切断室における所定位置に所定の方向から流入させることができ、逆回転している他方の刈刃で好適に切断することができる。
【0012】
第3の発明は、上記第2の発明において、
前記周部案内面の延長線が他方の刈刃の回転軸心の近くに向かうよう設定してあるものである。
【0013】
この構成によると、一方の切断室から他方の切断室に流入した刈草は他方の切断室で逆向きに流動している切断風にその流動方向と略直交するようにぶつかり、刈草の失速が促進されて刈刃による切断作用を効率よく与えることができ、細断効率の向上に有効となる。
【0014】
第4の発明は、下方に開放されたデッキの内部に、縦軸駆動される複数の刈刃を横方向に並列装備してあるモーアにおいて、
前記デッキの内部に刈刃の先端回動軌跡に沿った平面形状が略円形の切断室を各刈刃ごとに形成し、隣接する刈刃を互いに逆向きに回転駆動するとともに、隣接する刈刃の切断室の間に刈草の流動通過を許容する開口を形成し、一方の切断室の横外端に刈草排出口を備えてあることを特徴とする。
【0015】
この構成によると、一方の切断室を回動する刈草の一部は開口を経て他方の切断室に流入し、他方の切断室で回動している刈刃の切断作用を受ける。この場合、流入した切断室の刈刃は逆向きに回動しているので、流入してきた刈草は他方の切断室を回動する切断風に交差するようにぶつかって失速するとともに、他方の切断室で流動している刈草も流入してきた刈草とのぶつかりによって失速して切断作用を受けやすくなる。
【0016】
このようにして切断および細断された刈草は一方の切断室の横外端に流動して刈草排出口から排出され、刈り跡の横外側に放置されてゆく。
【0017】
従って、第4の発明によると、互いに逆向きに回動する刈刃によって効率よく細断して排出することができ、細断され排出された刈草を回収容器などに回収する際にも嵩張り少なく詰め込むことができて、回収作業の能率向上に有効となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1に、本発明に係るモーアMを装着した乗用型芝刈り機の全体側面図が、図2に、その全体平面図がそれぞれ示されている。この乗用型芝刈り機は、操向操作される前輪1と操向不能な後輪2を装備して後輪駆動型に構成された走行機体3の下部に、モーアMがリンク機構4を介して平行昇降可能に吊り下げ連結された構造となっている。走行機体3の前部には縦軸型のエンジン5が搭載され、このエンジン5の下方に突出された出力軸6から取出された縦軸回転動力が、後輪2を装備した伝動ケース31とモーアMにそれぞれベルト伝達されるようになっている。
【0019】
図2の平面図に示すように、前記モーアMは、横長の長円形に形成されたデッキ7に縦軸駆動される2枚の刈刃8,9が左右並列して装備されたツインブレード構造となっており、デッキ7の上面左右に貫通装着された刈刃駆動軸10,11のデッキ内端部に各刈刃8,9が連結されている。刈刃8,9は、帯板状の鋼板素材における両端部の一側に切刃aが形成されるとともに、両端部の他側に起風羽根bが折り上げ形成されたバーブレードが使用されている。
【0020】
デッキ7の上面における左右中央の後方箇所に入力軸12が設けられ、この入力軸12に取り付けられた入力プーリ13と、
エンジン5の出力軸6に取り付けられた出力プーリ14とにベルト15が巻回張設されている。入力軸12に取り付けられた刈刃駆動プーリ16、各刈刃駆動軸10,11に取り付けられた受動プーリ17,18、デッキ7に配備されたガイドプーリ19およびテンションプーリ20に亘って1本のベルト21が巻回張設され、両刈刃8,9が互いに逆向きに回転駆動されるようになっている。両刈刃8,9の回転方向は、回転軸心p,qより機体後方において両刈刃8,9の先端回動軌跡が互いに内向きに対向するよう設定されている。
【0021】
モーアMは、平面視において機体左側の刈刃8の回転軸心pが、機体右側の刈刃9の回転軸心qよりも前方に位置するように少し傾斜して配備され、両刈刃8,9の先端回動軌跡を前後に少し重複させることで、両刈刃8,9の間で刈り残しが発生しないように構成されている。
【0022】
図3に示すように、デッキ7の内部における前方中央部と後方中央部には平面形状山形の前部バキュームプレート22と後部バキュームプレート23が装着され、刈刃8,9の先端回動軌跡に沿った略円形の切断室24,25が各刈刃8,9ごとに形成されている。前部バキュームプレート22と後部バキュームプレート23との頂部同士は間隔をもって対向され、両切断室24,25の間に刈草の流動通過を許容する開口26が形成されている。
【0023】
図4の縦断側面図に示すように、各切断室24,25における周壁sと上壁uとが、内方下方に向けて凹入湾曲された断面円弧状のコーナー案内面cで接続されている。図3に示すように、機体左側に位置する切断室24において、後部バキュームプレート23によって形成される周壁sの前記開口26に臨む周方向端部に、機体左側の刈刃8で生起された切断風にのって流動する刈草を機体右側の切断室25に導く周部案内面gが直線状に形成されるとともに、この周部案内面gの延長線が機体右側の刈刃9の回転軸心qの近くに向かうよう設定されている。
【0024】
機体右側の切断室25における横外方箇所に、蓋カバー27で閉塞された刈草排出口28が形成されており、この刈草排出口28を閉塞した状態が、刈り取った刈草を切断室24,25で持ち回る間に繰り返し細断して刈り跡に放置してゆくマルチング仕様となる。蓋カバー27を取外して刈草排出口28を開放することで、刈草を刈草排出口28に導いて機体右方に排出するサイドディスチャージ仕様となる。
【0025】
マルチング仕様においては、各切断室24,25で切断された刈草は刈刃8,9の回転によって持ち回り回動されながら繰り返し細断される。この場合、刈刃8,9によって生起された切断風にのった刈草は周壁sに沿って周方向に流動しながらコーナー案内面cに案内されて上壁に向かい、失速して落下し再び刈刃8,9の切断作用を受ける。
【0026】
機体左側の切断室24を回動する刈草の一部は周部案内面gに沿って開口26に導かれ、機体右側の切断室25に流入し、刈刃9の切断作用を受ける。この場合、周部案内面gが刈刃9の回転軸心「q」の近くに向けられているので、切断室25に流入した刈草は刈刃9の回動方向と略直交するように流動し、切断室25を流動する切断風および刈草にぶつかって失速するとともに、刈刃9による切断作用を効率よく受ける。
【0027】
蓋カバー27を取外して刈草排出口28を開放したサイドディスチャージ仕様においては、機体右側の切断室25の刈草は機体前側の周壁sに沿って流動した後、刈草排出口28から機体右側に排出される。機体左側の切断室24の刈草は後側の周壁sに沿って流動する間に開口26を通って機体右側の切断室25に流入し、刈刃9の切断風に乗って刈草排出口28から排出される。このサイドディスチャージ仕様においては、デッキ7の右端に起伏揺動可能に装着されている排出カバー29を刈草排出口28の上方に張り出した姿勢に切換えておくことで、刈草排出口28から排出された刈草を上方に飛散させることなく地上に案内することができる。
【0028】
〔他の実施例〕
(1)図5に示すように、周壁sと上壁uとを接続するコーナー案内面cを斜め下方に向かう直線状の傾斜面で構成することもできる。
(2)図6に示すように、前記デッキ7を、周壁sと上壁uとが直角に連なる断面形状に形成し、その角部に樹脂材などからなるバッフル部材30を取り付けて内方下方に向かうコーナー案内面cを形成することもできる。
【0029】
(3)図7に示すように、後部バキュームプレート23によって形成される周壁sの前記開口26に臨む周方向端部に、機体左側の刈刃8で飛散される刈草を機体右側の切断室25に導く周部案内面gと、機体右側の刈刃9で飛散される刈草を機体左側の切断室24に導く周部案内面gを形成するとともに、各周部案内面gの延長線が刈刃9,8の回転軸心q,pの近くに向かうよう設定して、両切断室24,25での刈草相互流動を促進させて細断効率を高めるよう構成することもできる。
【0030】
(4)図8に示すように、右側の切断室25から左側の切断室24への刈草流動を促す周部案内面gだけを備えた形態で実施することもできる。
【0031】
(5)刈草排出口28を備えないマルチング専用の仕様に構成して実施することもできる。
【0032】
(6)本発明を、縦軸駆動される3枚の刈刃を左右に並列したモーアに適用して、隣接する2枚の刈刃について上記構成を導入した形態で実施することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】乗用型芝刈り機の全体側面図
【図2】モーアの平面図
【図3】モーアの横断平面図
【図4】モーアの縦断側面図
【図5】モーアの別の実施例を示す縦断側面図
【図6】モーアの更に別の実施例を示す縦断側面図
【図7】モーアのその他の実施例を示す横断平面図
【図8】モーアのその他の実施例を示す横断平面図
【符号の説明】
【0034】
7 デッキ
8 刈刃
9 刈刃
24 切断室
25 切断室
26 開口
28 刈草排出口
c コーナー案内面
g 周部案内面
s 周壁
u 上壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下方に開放されたデッキの内部に、縦軸駆動される複数の刈刃を横方向に並列装備してあるモーアにおいて、
前記デッキの内部に刈刃の先端回動軌跡に沿った平面形状が略円形の切断室を各刈刃ごとに形成し、隣接する刈刃を互いに逆向きに回転駆動するとともに、隣接する刈刃の切断室の間に刈草の流動通過を許容する開口を形成し、各切断室の周壁と上壁とを、上方ほど切断室中心に近づくよう傾斜されたコーナー案内面で接続してあることを特徴とするモーア。
【請求項2】
一方の切断室における周壁の前記開口に臨む周方向端部に、一方の刈刃で飛散される刈草を他方の刈刃の切断室に導く周部案内面を設けてある請求項1記載のモーア。
【請求項3】
前記案内面の延長線が他方の刈刃の回転軸心の近くに向かうよう設定してある請求項2記載のモーア。
【請求項4】
下方に開放されたデッキの内部に、縦軸駆動される複数の刈刃を横方向に並列装備してあるモーアにおいて、
前記デッキの内部に刈刃の先端回動軌跡に沿った平面形状が略円形の切断室を各刈刃ごとに形成し、隣接する刈刃を互いに逆向きに回転駆動するとともに、隣接する刈刃の切断室の間に、刈草の流動通過を許容する開口を形成し、一方の切断室の横外端に刈草排出口を備えてあることを特徴とするモーア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−330170(P2007−330170A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−166051(P2006−166051)
【出願日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】