説明

モータ制御装置

【課題】常に効率の良い状態でモータを回転させることにより、消費電力と発熱を抑制することができるモータ制御装置を提供する。
【解決手段】制御対象物を往復運動させるために、正回転と逆回転を切り替えてモータを回転させる制御を行うモータ制御装置であって、正回転と逆回転のそれぞれについて、モータ回転速度と設定するべき進角とを関係付けた進角マップを記憶する進角マップ記憶手段と、外部からの入力信号に基づきモータの目標回転速度を設定する目標回転速度設定手段と、進角マップを参照して、設定された目標回転速度に関係付けられた進角を求め、該進角をモータの進角として設定する進角設定手段と、設定された目標回転速度と、設定された進角になるようにモータの回転を制御する駆動制御手段とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に備えられるワイパ装置等を動作させるモータの回転を制御するモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両には、ウィンドシールドに付着した雨や前車の飛沫等を拭き取り、運転者の視界を確保するワイパ装置が設けられている。ワイパ装置は、ワイパ駆動装置によって揺動制御されるワイパアームを有し、ワイパアームの先端にウィンドシールドに当接させられるワイパブレードが装着されている。ワイパブレードが装着されたワイパアームが往復運動することにより、ウインドシールドの払拭が行われることになる。ワイパアームは、モータの回転運動をリンク機構によって往復運動に変えることにより、払拭動作が行われる。
【0003】
ワイパアームは、往復運動を行う必要があるため、往復運動させるための駆動力を発生させるモータは、正回転と逆回転を切り替えながら回転させる方が、モータを一方向だけに回転させて、リンク機構によって往復運動を実現するより、往復運動させるリンク機構の不要になるとともに、効率が良い高機能なワイパ装置を実現できる。このため、近年は、モータの回転を正回転と逆回転を切り替えることにより、ワイパアームを往復運動させるワイパ装置が増えてきている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−228527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ブラシモータを使用する場合、進角を最適に設定することにより、特性の良い状態でモータを回転させることが可能である。しかし、ワイパアームを往復運動させるために正回転と逆回転を切り替えながらモータを回転させる際には、進角を正回転時に最適な設定を行うと、逆回転時には特性が悪化するという問題がある。このような問題を回避するために、正逆回転させるモータを用いたワイパ装置では、正回転時と逆回転時におけるモータ特性に差異が出ないように、ブラシの位置を進角なしの状態で使用する必要がある。
【0006】
しかしながら、進角なしの状態で使用した場合、高回転域では効率が悪く、電流を多く流す必要があり、発熱が多くなってしまうという問題がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、常に効率の良い状態でモータを回転させることにより、消費電力と発熱を抑制することができるモータ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、制御対象物を往復運動させるために、正回転と逆回転を切り替えてモータを回転させる制御を行うモータ制御装置であって、前記正回転と前記逆回転のそれぞれについて、前記モータ回転速度と設定するべき進角とを関係付けた進角マップを記憶する進角マップ記憶手段と、外部からの入力信号に基づき前記モータの目標回転速度を設定する目標回転速度設定手段と、前記進角マップを参照して、前記設定された目標回転速度に関係付けられた進角を求め、該進角を前記モータの進角として設定する進角設定手段と、前記設定された目標回転速度と、前記設定された進角になるように前記モータの回転を制御する駆動制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0009】
本発明は、前記制御対象物が車両に備えられるワイパ装置であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、正逆回転のそれぞれについて、モータ回転速度(回転数)と設定するべき進角を関係付けた進角マップを記憶しておき、目標回転速度の変化に応じて、新たに求めた目標回転速度に対応する進角も変化させるようにしたため、常にモータ特性の良い状態でモータを回転させることが可能となり、消費電力と発熱を抑制することができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態の構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示すパラメータ記憶部43のテーブル構造を示す説明図である。
【図3】図1に示すモータ2の動作を示す説明図である。
【図4】図1に示す進角マップ記憶部44に記憶されるモータ回転数と進角の関係を定義した進角マップの構成を示す説明図である。
【図5】図1に示す制御部4の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態によるモータ制御装置を説明する。図1は同実施形態の構成を示すブロック図である。ここでは、モータ制御装置によって制御されるモータの回転によって制御される制御対象物として、車両に備えられるワイパ装置を例にして説明する。この図において、符号1は、ウインドシールドを払拭するワイパアームである。符号2は、ワイパアーム1に払拭動作を行わせるためのブラシレスモータであり、流す電流パターンを変化させることにより、進角を変更することが可能である。ワイパアーム1は、モータ2の回転軸とリンク機構によって接続されており、回転軸の回転方向を正回転と逆回転で切り替えてワイパアーム1を往復運動させることにより、払拭動作を行う。符号21は、モータの回転軸の回転角度を検出して出力する角度センサである。ここでは、説明を簡単にするために、モータ2の回転軸の回転角度とワイパアーム1の動作角度が一致しているものとして説明する。すなわち、ワイパアーム1の動作角度が0度〜150度であれば、モータ2の回転軸の回転角度も0度〜150度の間を正逆回転することにより往復運動するものとする。符号3は、駆動指令に応じて、供給する電力を制御してモータ2を駆動するモータ駆動部である。
【0013】
符号4は、モータ2の回転を制御するために、モータ駆動部3に対して駆動指令を出力する制御部であり、マイクロコンピュータで構成する。符号41は、車両内に備えられた車内LAN、例えば、CAN(Controller Area Network)やLIN(Local Interconnect Network)を介して、車両内で送受信される信号を入力する信号入力部である。信号入力部41によって入力した信号には、ワイパ装置に対して払拭動作開始/停止を指示するワイパスイッチの状態を示す信号や払拭動作の速さ(低速、高速、間欠等)を示す信号が含まれる。
【0014】
符号42は、信号入力部41において入力した信号に基づき、モータ2の動作を制御することにより、ワイパアーム1の払拭動作を制御する駆動制御部である。符号43は、信号入力部41において入力された入力信号のパターンと、モータ2を制御するためのパラメータとを予め関係付けて記憶したパラメータ記憶部である。符号44は、モータ回転数と進角の関係を定義した進角マップデータを記憶する進角マップ記憶部である。
【0015】
次に、図2を参照して、図1に示すパラメータ記憶部43のテーブル構造を説明ずる。図2は、図1に示すパラメータ記憶部43のテーブル構造を示す図である。パラメータ記憶部43は、入力信号パターン毎に、制御パラメータが関係付けられて記憶されている。入力信号パターンとは、入力信号の場合分けをしたものである。入力される信号が、ワイパスイッチ信号である場合、それぞれの信号値(例えば、Lo、Hi、間欠)毎に場合分けしたものである。このような場合分けが、信号入力部41に入力する信号に応じて、ワイパ装置の動作を制御する必要がある場合全てについて予め関係付けて記憶されている。
【0016】
制御パラメータには、「最大回転速度」、「動作開始位置」、「動作終了位置」の3つのパラメータがある。「最大回転速度」とは、ワイパアーム1が現在位置または所定位置から目的の位置までに動作する際のモータ2の回転速度の最大値である。ここでは、回転速度を回転数[rpm]で表現する。「動作開始位置」とは、所定の動作を開始させる時点のワイパアーム1の位置のことである。ここでは、ワイパアーム1の位置を角度で表現し、ワイパアーム1の格納位置を0度とし、最大の払拭範囲におけるワイパアーム1の折り返し位置を150度であるものとする。「動作終了位置」とは、所定の動作を終了させるときのワイパアーム1の位置のことである。例えば、ワイパアームを最大の払拭範囲で払拭させる場合の「動作開始位置」は0度であり、「動作終了位置」は、150度である。
【0017】
次に、図3を参照して、モータ2の動作を説明する。図3は、ワイパアーム1を動作開始位置から動作終了位置まで動作させる場合のモータ2の回転速度の変化を示した図である。駆動制御部42は、入力信号パターンに応じて、3つの制御パラメータ(最大回転速度、動作開始位置、動作終了位置)が特定されると、まず、動作開始位置と動作終了位置とから減速開始位置を演算によって求める。そして、減速開始位置の角度において、モータ2の回転速度が最大回転速度になるように、回転速度を加速させる。
【0018】
続いて、減速開始位置になった時点(最大回転速度になった時点)で、回転速度を減速に転じ、動作終了位置の角度において回転速度が0になるように、回転速度を減速させる。このとき、図3に示すカーブのように、回転速度を滑らかに変化させることにより、違和感のないワイパアーム1の動作を実現することができる。ワイパアーム1の動作は、図3に示す動作の動作開始位置と動作終了位置を入れ換えることにより、ワイパアーム1が往復運動となり、払拭動作とすることができる。
【0019】
次に、図4を参照して、図1に示す進角マップ記憶部44に記憶されるモータ回転数と進角の関係を定義した進角マップの構成を説明する。図4は、図1に示す進角マップ記憶部44に記憶されるモータ回転数と進角の関係を定義した進角マップの構成を示す説明図である。進角マップは、モータ回転数(rpm)と進角(deg)との関係が予め定義されており、正回転時の回転数が大きくなると、正の進角が大きくなるように定義されている。また、逆回転時の回転数が大きくなると(負の回転数の絶対値が大きくなると)、負の進角が大きくなる(負の進角の絶対値が大きくなる)ように定義されている。モータの回転数(正または負の回転数)が特定されると、設定するべき進角を特定することができる。
【0020】
次に、図5を参照して、図1に示す制御部4がモータ2の回転を制御する動作を説明する。まず、信号入力部41は、入力信号を読み取り、駆動制御部42に対して、読み取った入力信号を出力する(ステップS1)。駆動制御部42は、信号入力部41から出力された入力信号のパターンを特定し、特定した入力信号パターンと一致する入力信号パターンに関係付けられている制御パラメータをパラメータ記憶部43から読み込む(ステップS2)。ここでは、制御パラメータとして、最大回転速度「65」、動作開始位置「0」、動作終了位置「150」が読み出されたものとして説明する。
【0021】
次に、駆動制御部42は、動作開始位置「0」と、動作終了位置「150」とから減速開始位置を算出する(ステップS3)。減速開始位置は、例えば、動作開始位置と動作終了位置の中間点((0+150)/2=75)とする。そして、駆動制御部42は、予め決められた初速値を目標回転速度とする指令をモータ駆動部3に対して出力する(ステップS4)。これにより、モータ2が回転を開始する。
【0022】
次に、駆動制御部42は、角度センサ21の出力である角度値を読み取る(ステップS5)。角度センサ21が出力する角度値は、ワイパアーム1の位置を示す値に相当する。そして、駆動制御部42は、読み取った角度値が、減速開始位置に到達したか否かを判定する(ステップS6)。この判定の結果、減速開始位置に到達していなければ、駆動制御部42は、制御周期のトリガが入力されたか否かを判定しながら制御周期のトリガが入力するまで待機する(ステップS7、S8)。
【0023】
そして、制御周期のトリガが入力された時点で、駆動制御部42は、現時点の目標回転速度(回転数)に所定の加算量を加算することにより新たな目標回転速度(回転数)を求める(ステップS9)。そして、駆動制御部42は、進角マップ記憶部44に記憶されている進角マップを参照して、新たに求めた回転数に対応する進角を求める(ステップS10)。続いて、駆動制御部42は、求めた目標回転速度値と進角を新たな目標回転速度と進角とする指令をモータ駆動部3に対して出力する(ステップS11)。駆動制御部42は、減速開始位置に到達するまで、ステップS5〜S11の処理動作を繰り返し行う。これにより、モータ2は、図3に示すように、動作開始位置から回転速度が上がりながら、減速開始位置に到達することになる。このとき、モータ2は、回転数に対応する最適な進角が設定されるため、効率よく回転することが可能となる。
【0024】
次に、減速開始位置に到達した時点で、駆動制御部42は、角度センサ21の出力である角度値を読み取る(ステップS12)。そして、駆動制御部42は、読み取った角度値が、動作終了位置に到達したか否かを判定する(ステップS13)。この判定の結果、動作終了位置に到達していなければ、駆動制御部42は、制御周期のトリガが入力されたか否かを判定しながら制御周期のトリガが入力するまで待機する(ステップS14、S15)。
【0025】
そして、制御周期のトリガが入力された時点で、現時点の目標回転速度(回転数)から所定の減算量を減算することにより新たな目標回転速度(回転数)を求める(ステップS16)。そして、駆動制御部42は、進角マップ記憶部44に記憶されている進角マップを参照して、新たに求めた回転数に対応する進角を求める(ステップS17)。続いて、駆動制御部42は、求めた目標回転速度値と進角を新たな目標回転速度と進角とする指令をモータ駆動部3に対して出力する(ステップS18)。駆動制御部42は、動作終了位置に到達するまで、ステップS12〜S18の処理動作を繰り返し行い、動作終了位置に到達した時点でモータ2の回転が停止する。これにより、モータ2は、図3に示すように回転速度が下がりながら、動作終了位置に到達することになる。このとき、モータ2は、回転数に対応する最適な進角が設定されるため、効率よく回転することが可能となる。
【0026】
なお、前述した説明においては、入力信号パターン毎に5つの制御パラメータを関係付けて記憶したパラメータ記憶部43を制御部4内に設け、入力された信号に応じて、5つの制御パラメータを選択し、この選択した制御パラメータに基づき、モータ2の回転制御を行うようにしたが、5つの制御パラメータを制御部4の外部(例えば、車両の動作を統括的に制御するコンピュータ等)から入力し、駆動制御部42は、入力した5つの制御パラメータに基づきモータ2の回転制御を行うようにしてもよい。これは、駆動制御部42内部において、目標回転速度を演算によって求めるようにしたからこそ可能となる。また、前述した説明においては、新たな目標回転速度を所定量を加減算することにより求めるようにしたが、角度センサ21に出力に基づき、予め角度毎に決められた目標回転速度の値を使用するようにしてもよい。
【0027】
また、図4に示す進角マップは、正回転、逆回転それぞれについて、モータ回転数と設定するべき進角とを関係付けた例を示したが、一方向のみの回転の場合は、正回転のモータ回転数と正の進角とを関係付けた進角マップを用いれば、常にモータ特性の良い状態で回転させることが可能となり、消費電力と発熱を抑制することが可能となる。
【0028】
以上説明したように、正逆回転のそれぞれについて、モータ回転速度(回転数)と設定するべき進角を関係付けた進角マップを制御部4内に記憶しておき、目標回転速度の変化に応じて、新たに求めた目標回転速度に対応する進角も変化させるようにしたため、常にモータ特性の良い状態で回転させることが可能となり、消費電力と発熱を抑制することが可能となる。
【0029】
また、図1における制御部4の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによりワイパの制御処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとするまた、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0030】
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0031】
モータの回転軸に接続されたリンク機構を介して、制御対象物の動作を制御することが不可欠な用途に適用でき、例えば、車両に備えられる電動のテイルゲート、スライドドア、パワーウインドウ等の動作の制御にも適用可能である。
【符号の説明】
【0032】
1・・・ワイパアーム、2・・・モータ、21・・・角度センサ、3・・・モータ駆動部、4・・・制御部、41・・・信号入力部、42・・・駆動制御部、43・・・パラメータ記憶部、44・・・進角マップ記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象物を往復運動させるために、正回転と逆回転を切り替えてモータを回転させる制御を行うモータ制御装置であって、
前記正回転と前記逆回転のそれぞれについて、前記モータ回転速度と設定するべき進角とを関係付けた進角マップを記憶する進角マップ記憶手段と、
外部からの入力信号に基づき前記モータの目標回転速度を設定する目標回転速度設定手段と、
前記進角マップを参照して、前記設定された目標回転速度に関係付けられた進角を求め、該進角を前記モータの進角として設定する進角設定手段と、
前記設定された目標回転速度と、前記設定された進角になるように前記モータの回転を制御する駆動制御手段と
を備えたことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記制御対象物が車両に備えられるワイパ装置であることを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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