モールドコイルおよびモールドコイルの製造方法
【課題】本発明は、高周波特性、直流重畳特性、温度上昇許容電流に優れた小型のモールドインダクタを提供することを目的とする。
【解決手段】
樹脂に磁性体粉末を分散させた磁性体モールド樹脂でコイルを封止したモールドコイルにおいて、磁性体モールド樹脂が主に金属系磁性体粉末からなる磁性体粉末を体積比で65〜80Vol%含有したものを用いる。さらに、コイルに自己融着性絶縁層を有する線材を外外巻きに加工させた空芯コイルを用い、プラスチック成形法を用いて成形される。
【解決手段】
樹脂に磁性体粉末を分散させた磁性体モールド樹脂でコイルを封止したモールドコイルにおいて、磁性体モールド樹脂が主に金属系磁性体粉末からなる磁性体粉末を体積比で65〜80Vol%含有したものを用いる。さらに、コイルに自己融着性絶縁層を有する線材を外外巻きに加工させた空芯コイルを用い、プラスチック成形法を用いて成形される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型のモールドコイルおよびモールドコイルの製造方法に関し、特にDC−DCコンバータ用に最適なモールドコイルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のDC−DCコンバータに使用されるコイルには、特許文献1に開示されているようなフェライトコアなどの磁性材料のコアに巻線を施し、磁気飽和防止のためにコアの磁路に適当なギャップ(隙間)を設けた構造のものや、特許文献2に開示されているような圧粉成形法を用いて磁性材料の粉末と結着剤と空芯コイルとを一体成形する構造のものが知られている。
【0003】
このようなコイルに使用される主な磁性材料には、フェライト系磁性材料と金属系磁性材料の2種類がある。これらの磁性材料はそれぞれ、フェライト系は高透磁率、低飽和磁束密度、高電気抵抗、低磁気損失という特徴を有し、金属系は高透磁率、高飽和磁束密度、低電気抵抗、高磁気損失という特徴を有する。フェライト系は金属系と比較すると電気抵抗が高いので高周波動作に適しているが、飽和磁束密度が小さいため直流重畳特性が低い。一方、金属系は電気抵抗が低く、高周波領域においては渦電流損が大きくなるため、10kHz以下のスイッチング周波数にしか対応できなかった。近年では、圧粉成形法で金属系磁性材料を用いる場合には、金属系磁性材料の粉末の表面に絶縁膜被覆や表面酸化などの絶縁処理を行って、高周波特性や絶縁性を改善させて用いる場合が多い。
【特許文献1】特開2007−201206号公報
【特許文献2】特開2007−41306号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、携帯機器などの電源として用いられているDC−DCコンバータは、小型化や軽量化、または入出力変換効率の向上を目的としてスイッチング周波数が高周波化する傾向にある。一般的に、DC−DCコンバータに使用されるコイルは漏れ磁束が小さく、ピーク時にも飽和しない高い直流重畳特性を有していることなどが要求される。このような状況においては、さらに高周波動作に適し、低損失化、高効率化といった高性能化や小型化の要求も高まってきた。
【0005】
しかしながら、従来のような磁性材料のコアを用いる構造は、コイルの大型化や製造コストの上昇を招く原因となっていた。一方、圧粉成形法は粉末材料を加圧して成形する方法である。そのため、圧粉成形法では磁性体粉末がつぶれ、表面の絶縁被覆が損傷して、高周波特性が低下することもあった。また、加圧によって内部の線材がゆがんだり、成形時に材料が均一に充填できないと成形ムラなどの不良が発生することもあり、圧粉成形法を用いて小型のコイルを精度良く成形するのは困難であった。特に、圧粉成形法では小型化に有利な平角線を外外巻に巻いた空芯コイルなどを用いて成形しようとすると、コイルの変形、または傾きなどの位置ずれが発生して特性にバラツキが生じやすかった。そのため、圧粉成形法では、通常このような空芯コイルを用いることができない。
【0006】
ところで、コイルを封止する方法には圧粉成形法だけではなく、プラスチック成形法を用いる方法もある。プラスチック成形法は、磁性材料の粉末を分散させた磁性体モールド樹脂でコイルを封止する方法である。プラスチック成形法は成形性が高く、小型や複雑な形状のコイルを成形する場合において有効な方法である。
【0007】
しかし、従来のプラスチック成形法では高い成形性を確保する観点から、磁性体モールド樹脂中にフェライトなどの磁性材料の粉末を体積比で50Vol%程度分散させたものを用いていた。これは、圧粉成形法を用いたときよりも成形体中の磁性材料の含有率が低く、透磁率などの磁気特性が劣ってしまう。そのため、所望のインダクタンス値を得るためには圧粉成形法よりもコイルの巻数を増やす必要があった。そして、巻数を増加させるとコイルの直流抵抗が高くなり、温度上昇許容電流が小さくなってしまっていた。さらには、高抵抗であるため電力のロスも増大し、回路効率を低下させる問題があった。従って、現行の方法では小型化と高性能化を同時に達成することは困難であった。
【0008】
そこで本発明は、高周波特性、直流重畳特性、温度上昇許容電流に優れ、低抵抗で高効率な小型のモールドコイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために本発明は、樹脂に磁性体粉末を分散させた磁性体モールド樹脂でコイルを封止したモールドコイルにおいて、磁性体モールド樹脂が主に金属系磁性体粉末からなる磁性体粉末を体積比で65〜80Vol%含有したものを用いる。コイルに自己融着性絶縁層を有する線材を外外巻きに加工させた空芯コイルを用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のモールドコイルは、フェライトコアなどのコアを用いずにプラスチック成形法を用いて成形され、さらに平角線を外外巻に巻いた空芯コイルなども用いることが可能である。そのため、小型化や低背化が容易であり、低抵抗で効率の良いモールドコイルとなる。また、フェライトコアなどのコアを使用しないため、圧縮成形法を用いて磁性体モールド樹脂と空芯コイルを一体成形することが可能である。そのため、材料のロスが少なく、生産性に優れる。
【0011】
本発明のモールドコイルは、金属系磁性体粉末の含有率が体積比で65〜80Vol%の磁性体モールド樹脂を用いて空芯コイルを封止したものであるため、高飽和磁束密度である。これによって、漏れ磁束が少なく、非常に優れた直流重畳特性を有する。さらに、従来のモールドコイルと比較して磁性体モールド樹脂中に金属系磁性体粉末の含有率が65Vol%以上と高く、磁気特性が高いため、所望のインダクタンス値を得る際に従来のモールドコイルよりもコイルの巻数が少なくて良い。そのため、高効率で温度上昇許容電流の高いモールドコイルとなる。
【0012】
また、本発明のモールドコイルの製造方法は、圧縮成形やトランスファ成形、またはインジェクション成形などのプラスチック成形法を用いる。そのため、金属系磁性体粉末を用いても、磁性体粉末間の絶縁が良好に確保されるため高周波特性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(第1の実施例)
図1〜図8と表1〜4を参照しながら、本発明の第1の実施例を説明する。図中の参照符号はそれぞれ、1は型枠、2は上パンチ、3は下パンチ、4は空芯コイル、5は磁性体モールド樹脂、6は外部電極を示す。
【0014】
まず、本発明の実施例で用いる磁性体モールド樹脂について説明する。本発明の実施例で用いる磁性体モールド樹脂は、磁性体粉末と樹脂などを混練した混練材料であり、磁性体モールド樹脂中の磁性体粉末の含有率が体積比で74Vol%になるよう調製した。磁性体粉末には、鉄系アモルファス合金の粉末を用い、レーザー回折散乱法にて平均粒径がそれぞれ25μmと4μmの2つの磁性体粉末を重量比3:1の割合で用いた。樹脂には、ノボラック型エポキシ樹脂とフェノール樹脂を用い、重量比2:1の割合で用いた。
【0015】
磁性体粉末と樹脂を重量比94:6の割合になるように所定量秤量し、加熱混練して磁性体粉末を溶融状態の樹脂中に分散させた。その後、硬化促進剤(トリフェニルホスフィン)を加え、数分間混練し、その混練物を冷却して粉砕して、本実施例で磁性体モールド樹脂として用いる混練材料を得た。なお、この混練材料は実施例1だけではなく、後に説明する実施例2と実施例3においても共通して磁性体モールド樹脂として用いる。
【0016】
【表1】
【0017】
ここで、本発明のモールドコイルに用いる磁性体モールド樹脂の磁性体粉末の含有率について説明する。表1に磁性体粉末の含有率が異なる磁性体モールド樹脂の比透磁率を示す。表1から明らかなように、従来の磁性体粉末の含有率が体積比で50Vol%程度の磁性体モールド樹脂(試料1)では比透磁率が10以下と低く、所望のインダクタンス値を得るためにはコイルの巻数を多くしなくてはならない。一方、磁性体粉末の含有率を体積比で65Vol%以上(試料2〜4)にすると、試料1と比較して約2〜3倍の比透磁率を得ることができる。これらを用いれば、コイルの巻数を増やすことなく所望のインダクタンス値を有するモールドコイルを作成できる。磁性体粉末の含有率は65Vol%以上であれば良いが、比透磁率が20以上となる70Vol%以上であれば更に好ましい。
【0018】
また、磁性体粉末の含有率が体積比で80Vol%よりも多い場合では、磁性体モールド樹脂の流動性が悪化してプラスチック成形法では成形困難になってしまう。そのため、本発明の磁性体モールド樹脂は磁性体粉末の含有率が体積比で80Vol%以下のものを用いる。以上より、本発明のモールドコイルに使用する磁性体モールド樹脂には、磁性体粉末の含有率が体積比で65〜80Vol%のものを用いる。
【0019】
次に、第1の実施例で用いる成形金型について説明する。図1に本発明の第1の実施例で用いる圧縮成形用の成形金型を示し、図2に本発明の空芯コイルの固定方法を示す。図1に示すように、第1の実施例では型枠1と上下方向に昇降可能な上パンチ2と下パンチ3を有する成形金型を用いる。型枠1は第1の型枠1aと第2の型枠1bを有し、組み合わせることによって断面が3mm角の柱状の貫通孔が形成される。この貫通孔は上パンチ2と下パンチ3と嵌合することができ、これらを組み合わせることによって本発明のモールドコイルを成形するキャビティが形成される。また、図2に示すように、第1の型枠1aと第2の型枠1bの間に空芯コイル4の引き出し線部分を挟みながら固定することができる。
【0020】
次に、第1の実施例で用いる空芯コイルについて説明する。図3に本発明の第1の実施例で用いる2層の外外巻コイルを示す。第1の実施例では、断面が平角形状で幅が0.25mm、厚みが0.10mmの自己融着性絶縁層を有する線材を用いる。この線材を芯径1.3mmの芯材を用いて、外外巻きに2層で11ターン巻き、さらに融着させて図3に示すような空芯コイル4を得た。
【0021】
次に、本発明のモールドコイルの製造方法について説明する。図4〜図7に本発明の第1の実施例のモールドコイルの製造工程の主要部分を示す。図8に本発明のモールドコイルの斜視図を示す。なお、図4〜図7は、図2に示すA−A’位置の各段階での断面を示す。
【0022】
図2に示すように、空芯コイル4の引き出し線部分を型枠1である第1の型枠1aと第2の型枠1bで挟み、空芯コイル4がキャビティ内の所望の位置になるように固定した。図4に示すように、型枠1の貫通孔の上下両側からそれぞれ上パンチ2と下パンチ3を嵌合させて成形金型を180℃に予熱した。次に、一度上パンチ2と下パンチ3を外し、図5に示すように、所定量秤量したバルク(塊)状の磁性体モールド樹脂5をキャビティの上下両側から投入して再び上パンチ2と下パンチ3を型枠1の貫通孔に嵌合させた。
【0023】
次に、図6に示すように、キャビティ内の磁性体モールド樹脂5を成形金型の予熱によって溶融させ、上パンチ2と下パンチ3を用いて10kgfの成形圧力を加え、180℃で8分間保持して磁性体モールド樹脂5を硬化させた。次に、図7に示すように、第2の型枠1bと上パンチ2を外して成形体を離型した。次に、厚みが0.08mmのリン青銅板をL字に加工した外部電極6をエポキシ樹脂で成形体の所定の位置に貼付し、空芯コイル4の引き出し線部分を折り曲げ加工し、さらに空芯コイル4の引き出し線部分と外部電極6を半田接合して、図8に示すようなモールドコイルを得た。得られたモールドコイルは、外形寸法(図8中の長さL、幅W、高さH)を測定し、さらにインダクタンス値(L値)、直流抵抗値(Rdc)、直流重畳許容電流値(Idc)を測定して表2を得た。
【0024】
ここで、各特性値の測定方法を説明する。インダクタンス値(以下、L値)は、Agilent Technologies社製のLCRメータ4284Aを用いて、測定周波数100kHzにて測定した。直流抵抗(以下、Rdc)は、Advantest社製のデジタルマルチメータTR6871を用いて測定した。直流重畳許容電流(以下、Idc)は、直流重畳電流を流したときインダクタンス値が初期値よりも30%減少する直流電流値である。
【0025】
【表2】
【0026】
表2に第1の実施例のモールドコイルの外形寸法と特性値を示す。実施例1−1〜1−4は、磁性体モールド樹脂の磁性体粉末の含有率を変えずに磁性体モールド樹脂の投入量を変えて、高さ寸法Hを変化させたものである。表2から明らかなように、磁性体モールド樹脂の高さ寸法Hが増加するにつれて、L値とIdcが上昇した。一方、Rdcはすべての試料において60mΩ程度だった。
【0027】
次に、本実施例のコイルと従来のDC−DCコンバータ用のコイルを比較する。比較例1はフェライトコアに平角線を巻いたコイルであり、外形寸法は長さLが3.0mm、幅Wが3.2mm、高さHが1.2mmのものである。比較例2は丸線で作製したコイルを圧粉成形法にて金属系磁性材料と樹脂とで封止したコイルであり、外形寸法は長さLが3.0mm、幅Wが3.0mm、高さHが1.2mmのものである。なお、比較例1において、L値が1.2μHのものを比較例1−1とし、2.0μHのものを比較例1−2とする。
【0028】
【表3】
【0029】
表3はL値を1.2μHとしたときの実施例1−1と比較例1−1の外形寸法と特性値を示す。表3から明らかなように、L値は同じであるが高さ寸法Hにおいて実施例1−1は比較例1−1より2/3に低背化できた。また、実施例1−1はRdcにおいて比較例1−1より上昇したが、Idcが2.4Aから3.5Aへと大きく向上した。
【0030】
【表4】
【0031】
表4に高さ寸法Hを1.2mmにしたときの実施例1−4と比較例1−2、比較例2の外形寸法と特性値を示す。実施例1−4は外形寸法がL*W=3.0*3.0mm角、H=1.2mm、比較例1−2はL*W=3.0*3.2mm角、H=1.2mm、比較例2はL*W=3.0*3.0mm角、H=1.2mmである。
【0032】
表4から明らかなように、実施例1−4とフェライトコアを用いた比較例1−2を比較すると、実施例1−4は幅寸法Wが比較例1−2より少し小さくL値は同程度であるが、Rdcが小さく、Idcにおいては比較例1−2の1.8Aに対して実施例1−4では4.6Aへと大きく向上した。次に、実施例1−4と外形寸法が同じである圧粉成形法を用いた比較例2を比較すると、L値はやや劣るが、Rdcにおいて比較例2が145mΩに対して実施例1−4では59mΩへと大きく低減でき、さらにIdcも比較例2の2.6Aに対して実施例1−4では4.6Aへと大きく向上した。
【0033】
従って、本実施例のモールドコイルは、低抵抗で非常に優れた直流重畳特性を得ることができるため、低損失で高効率化が実現できる。また、本実施例のモールドコイルは、磁性体モールド樹脂として、鉄系アモルファス合金の粉末が65Vol%以上の高比率で樹脂に分散されているものを用い、空芯コイルには平角線の外外巻コイルを用いている。このことから、空芯コイルの巻数を多くすることなく所望のインダクタンス値を得ることができるため、温度上昇許容電流や電力のロスを改善することができる。さらに、本実施例のモールドコイルは、プラスチック成形法の1つである圧縮成形法を用いている。これより、本発明のモールドコイルは生産性が高く、小型化や低背化が容易であり、さらに高周波特性も改善することができる。
【0034】
(第2の実施例)
図9〜図11と表5を参照しながら、本発明の第2の実施例を説明する。第2の実施例は、第1の実施例と同じ磁性体モールド樹脂と空芯コイルを用い、トランスファ成形法にてモールドコイルを成形する。本実施例では実施例1−4と同じ外形寸法のモールドコイルを成形した。なお、第1の実施例と共通する部分の説明は割愛する。また、図中の参照記号はそれぞれ、7は型枠、8は上型、9は下型、10はプランジャー、11はキャビティ、12はゲート、13はスプルー、14はチャンバーポットを示す。
【0035】
まず、第2の実施例で用いる成形金型について説明する。図9に本発明の第2の実施例で用いるトランスファ用の成形金型を示す。図9に示すように、第2の実施例では型枠7と上型8と下型9とプランジャー10を有する成形金型を用いる。型枠7は、第1の実施例と同様に、第1の型枠7aと第2の型枠7bからなり、組み合わせることによって断面が3mm角の柱状の貫通孔が形成される。また、型枠7は、第1の実施例と同様に、第1の型枠7aと第2の型枠7bの間に空芯コイル4の引き出し線部分を挟みながら固定することができる。型枠7と上型8と下型9を組み合わせることによってキャビティ11とチャンバーポット14が形成される。
【0036】
上型8は第1の上型8aと第2の上型8bからなりスプルー13を形成する、同様に下型9も第1の下型9aと第2の下型9bからなりスプルー13を形成する。第1の上型8aと第1の下型9aは、それぞれ空芯コイル4を中心に対向する位置にキャビティ11とスプルー13を結合するゲート12を有しており、チャンバーポット14に投入された磁性体モールド樹脂は、プランジャー10に押し出されてチャンバーポット14からスプルー13を通過し、さらにゲート12を通過してキャビティ11へと充填される。
【0037】
次に、第2の実施例のモールドコイルの製造方法について説明する。図10、図11に第2の実施例のモールドコイルの製造方法の主要部分を示す。まず、図10に示すように、空芯コイル4と型枠7、上型8、下型9を固定し、チャンバーポット14に磁性体モールド樹脂5を充填してプランジャー10をセットした。このとき空芯コイル4は、第1の実施例と同様に、空芯コイル4の引き出し線部分を第1の型枠7aと第2の型枠7bに挟み固定した。
【0038】
次に図11に示すように、磁性体モールド樹脂5をチャンバーポット14内で180℃に加熱して溶融状態にし、プランジャー10を用いて加圧して磁性体モールド樹脂5をキャビティ11内に注入し、200kgfで8分間保持して磁性体モールド樹脂5を硬化させた。次に、成形金型から磁性体モールド樹脂5の硬化したものを離型して成形体を得て、第1の実施例と同様に成形体に外部電極を取り付けてモールドコイルを得た。得られたモールドコイルは、第1の実施例と同様の方法で外形寸法と各特性を測定した。
【0039】
(第3の実施例)
図12と表6を参照しながら、本発明の第3の実施例を説明する。第3の実施例は、2種融着線の3層11ターンの外外巻コイルを用い、圧縮成形法にてモールドコイルを成形する。成形金型は第1の実施例と同様のものを用い、実施例1−4と同じ外形寸法のモールドコイルを成形した。なお、第1の実施例と共通する部分の説明は割愛する。
【0040】
第3の実施例で用いる空芯コイルについて説明する。図12に第3の実施例で用いる3層の外外巻コイルを示し、(a)は斜視図、(b)は(a)のB−B’断面図である。なお、図11(b)に示した空芯コイル15の断面の数字は線材を巻く順番を示している。図12に示すように、直径が0.13mmで自己融着性絶縁層を有する丸線を用い、芯径1.3mmの芯材を用いて、外外巻きに3層で11ターン巻き、さらに融着させて空芯コイル15を得た。
【0041】
空芯コイル15と第1の実施例で用いた磁性体モールド樹脂と外部電極を用いて、第1の実施例と同様の方法で第3の実施例のモールドコイルを得た。得られたモールドコイルの外形寸法と各特性を第1の実施例と同様の方法で測定した。
【0042】
【表5】
【0043】
表5に第2の実施例、第3の実施例で得られたモールドコイルと第1の実施例のモールドコイルの外形寸法と各特性における比較を示す。表5から明らかなように、実施例2は実施例1−4とほぼ同程度の特性を示した。また、実施例3は丸線を用いているため、実施例1−4と実施例2よりもRdcが大きくなったが、L値とIdcは同程度であった。従って、本発明のモールドコイルは、圧縮成形法だけではなくトランスファ成形法を用いても成形が可能である。また、平角線ではなく丸線を用いて本発明のモールドコイルを作製しても、本発明の効果を奏する。
【0044】
上記実施例では、金属系磁性材料に鉄系アモルファス合金の粉末を用いたが、これに限られることはなく、使用周波数や用途に合わせて変更が可能である。また、樹脂にはノボラック型エポキシ樹脂とフェノール樹脂を用いたが、これに限られることはなく、その他の熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を用いてもよい。
【0045】
上記実施例では、磁性体モールド樹脂の磁性体粉末の含有率を高めるために、平均粒径の異なる磁性体粉末を複数用いる方法を用いたが、粒形の制御や表面改質などのその他の方法を用いても良い。
【0046】
上記実施例では、圧縮成形法とトランスファ成形法を用いた方法を示したが、インジェクション成形法を用いても成形可能である。また、上記実施例に示した成形金型に限られることはなく、適正に本発明のモールドコイルが成形できれば、どのような成形金型を用いても良い。
【0047】
以上より、本発明のモールドコイルは、小型でありながら、高周波特性、直流重畳特性などに優れ、低損失で高効率なモールドコイルを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の第1の実施例で用いる成形金型を説明する図である。
【図2】本発明の空芯コイルの固定方法を説明する図である。
【図3】本発明の第1の実施例で用いる2層の外外巻コイルを示す斜視図である。
【図4】本発明の第1の実施例のモールドコイルの製造方法を示す断面図である。
【図5】本発明の第1の実施例のモールドコイルの製造方法を示す断面図である。
【図6】本発明の第1の実施例のモールドコイルの製造方法を示す断面図である。
【図7】本発明の第1の実施例のモールドコイルの製造方法を示す断面図である。
【図8】本発明のモールドコイルの斜視図である。
【図9】本発明の第2の実施例で用いる成形金型を説明する図である。
【図10】本発明の第2の実施例のモールドコイルの製造方法を示す図である。
【図11】本発明の第2の実施例のモールドコイルの製造方法を示す図である。
【図12】本発明の第3の実施例で用いる3層の外外巻コイルを示す図であり、(a)は斜視図、(b)は(a)のB−B’断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1:型枠(1a:第1の型枠、1b:第2の型枠)
2:上パンチ
3:下パンチ
4:空芯コイル
5:磁性体モールド樹脂
6:外部電極
7:型枠(7a:第1の型枠、7b:第2の型枠)
8:上型(8a:第1の上型、8b:第2の上型)
9:下型(9a:第1の下型、9b:第2の下型)
10:プランジャー
11:キャビティ
12:ゲート
13:スプルー
14:チャンバーポット
15:空芯コイル
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型のモールドコイルおよびモールドコイルの製造方法に関し、特にDC−DCコンバータ用に最適なモールドコイルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のDC−DCコンバータに使用されるコイルには、特許文献1に開示されているようなフェライトコアなどの磁性材料のコアに巻線を施し、磁気飽和防止のためにコアの磁路に適当なギャップ(隙間)を設けた構造のものや、特許文献2に開示されているような圧粉成形法を用いて磁性材料の粉末と結着剤と空芯コイルとを一体成形する構造のものが知られている。
【0003】
このようなコイルに使用される主な磁性材料には、フェライト系磁性材料と金属系磁性材料の2種類がある。これらの磁性材料はそれぞれ、フェライト系は高透磁率、低飽和磁束密度、高電気抵抗、低磁気損失という特徴を有し、金属系は高透磁率、高飽和磁束密度、低電気抵抗、高磁気損失という特徴を有する。フェライト系は金属系と比較すると電気抵抗が高いので高周波動作に適しているが、飽和磁束密度が小さいため直流重畳特性が低い。一方、金属系は電気抵抗が低く、高周波領域においては渦電流損が大きくなるため、10kHz以下のスイッチング周波数にしか対応できなかった。近年では、圧粉成形法で金属系磁性材料を用いる場合には、金属系磁性材料の粉末の表面に絶縁膜被覆や表面酸化などの絶縁処理を行って、高周波特性や絶縁性を改善させて用いる場合が多い。
【特許文献1】特開2007−201206号公報
【特許文献2】特開2007−41306号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、携帯機器などの電源として用いられているDC−DCコンバータは、小型化や軽量化、または入出力変換効率の向上を目的としてスイッチング周波数が高周波化する傾向にある。一般的に、DC−DCコンバータに使用されるコイルは漏れ磁束が小さく、ピーク時にも飽和しない高い直流重畳特性を有していることなどが要求される。このような状況においては、さらに高周波動作に適し、低損失化、高効率化といった高性能化や小型化の要求も高まってきた。
【0005】
しかしながら、従来のような磁性材料のコアを用いる構造は、コイルの大型化や製造コストの上昇を招く原因となっていた。一方、圧粉成形法は粉末材料を加圧して成形する方法である。そのため、圧粉成形法では磁性体粉末がつぶれ、表面の絶縁被覆が損傷して、高周波特性が低下することもあった。また、加圧によって内部の線材がゆがんだり、成形時に材料が均一に充填できないと成形ムラなどの不良が発生することもあり、圧粉成形法を用いて小型のコイルを精度良く成形するのは困難であった。特に、圧粉成形法では小型化に有利な平角線を外外巻に巻いた空芯コイルなどを用いて成形しようとすると、コイルの変形、または傾きなどの位置ずれが発生して特性にバラツキが生じやすかった。そのため、圧粉成形法では、通常このような空芯コイルを用いることができない。
【0006】
ところで、コイルを封止する方法には圧粉成形法だけではなく、プラスチック成形法を用いる方法もある。プラスチック成形法は、磁性材料の粉末を分散させた磁性体モールド樹脂でコイルを封止する方法である。プラスチック成形法は成形性が高く、小型や複雑な形状のコイルを成形する場合において有効な方法である。
【0007】
しかし、従来のプラスチック成形法では高い成形性を確保する観点から、磁性体モールド樹脂中にフェライトなどの磁性材料の粉末を体積比で50Vol%程度分散させたものを用いていた。これは、圧粉成形法を用いたときよりも成形体中の磁性材料の含有率が低く、透磁率などの磁気特性が劣ってしまう。そのため、所望のインダクタンス値を得るためには圧粉成形法よりもコイルの巻数を増やす必要があった。そして、巻数を増加させるとコイルの直流抵抗が高くなり、温度上昇許容電流が小さくなってしまっていた。さらには、高抵抗であるため電力のロスも増大し、回路効率を低下させる問題があった。従って、現行の方法では小型化と高性能化を同時に達成することは困難であった。
【0008】
そこで本発明は、高周波特性、直流重畳特性、温度上昇許容電流に優れ、低抵抗で高効率な小型のモールドコイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために本発明は、樹脂に磁性体粉末を分散させた磁性体モールド樹脂でコイルを封止したモールドコイルにおいて、磁性体モールド樹脂が主に金属系磁性体粉末からなる磁性体粉末を体積比で65〜80Vol%含有したものを用いる。コイルに自己融着性絶縁層を有する線材を外外巻きに加工させた空芯コイルを用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のモールドコイルは、フェライトコアなどのコアを用いずにプラスチック成形法を用いて成形され、さらに平角線を外外巻に巻いた空芯コイルなども用いることが可能である。そのため、小型化や低背化が容易であり、低抵抗で効率の良いモールドコイルとなる。また、フェライトコアなどのコアを使用しないため、圧縮成形法を用いて磁性体モールド樹脂と空芯コイルを一体成形することが可能である。そのため、材料のロスが少なく、生産性に優れる。
【0011】
本発明のモールドコイルは、金属系磁性体粉末の含有率が体積比で65〜80Vol%の磁性体モールド樹脂を用いて空芯コイルを封止したものであるため、高飽和磁束密度である。これによって、漏れ磁束が少なく、非常に優れた直流重畳特性を有する。さらに、従来のモールドコイルと比較して磁性体モールド樹脂中に金属系磁性体粉末の含有率が65Vol%以上と高く、磁気特性が高いため、所望のインダクタンス値を得る際に従来のモールドコイルよりもコイルの巻数が少なくて良い。そのため、高効率で温度上昇許容電流の高いモールドコイルとなる。
【0012】
また、本発明のモールドコイルの製造方法は、圧縮成形やトランスファ成形、またはインジェクション成形などのプラスチック成形法を用いる。そのため、金属系磁性体粉末を用いても、磁性体粉末間の絶縁が良好に確保されるため高周波特性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(第1の実施例)
図1〜図8と表1〜4を参照しながら、本発明の第1の実施例を説明する。図中の参照符号はそれぞれ、1は型枠、2は上パンチ、3は下パンチ、4は空芯コイル、5は磁性体モールド樹脂、6は外部電極を示す。
【0014】
まず、本発明の実施例で用いる磁性体モールド樹脂について説明する。本発明の実施例で用いる磁性体モールド樹脂は、磁性体粉末と樹脂などを混練した混練材料であり、磁性体モールド樹脂中の磁性体粉末の含有率が体積比で74Vol%になるよう調製した。磁性体粉末には、鉄系アモルファス合金の粉末を用い、レーザー回折散乱法にて平均粒径がそれぞれ25μmと4μmの2つの磁性体粉末を重量比3:1の割合で用いた。樹脂には、ノボラック型エポキシ樹脂とフェノール樹脂を用い、重量比2:1の割合で用いた。
【0015】
磁性体粉末と樹脂を重量比94:6の割合になるように所定量秤量し、加熱混練して磁性体粉末を溶融状態の樹脂中に分散させた。その後、硬化促進剤(トリフェニルホスフィン)を加え、数分間混練し、その混練物を冷却して粉砕して、本実施例で磁性体モールド樹脂として用いる混練材料を得た。なお、この混練材料は実施例1だけではなく、後に説明する実施例2と実施例3においても共通して磁性体モールド樹脂として用いる。
【0016】
【表1】
【0017】
ここで、本発明のモールドコイルに用いる磁性体モールド樹脂の磁性体粉末の含有率について説明する。表1に磁性体粉末の含有率が異なる磁性体モールド樹脂の比透磁率を示す。表1から明らかなように、従来の磁性体粉末の含有率が体積比で50Vol%程度の磁性体モールド樹脂(試料1)では比透磁率が10以下と低く、所望のインダクタンス値を得るためにはコイルの巻数を多くしなくてはならない。一方、磁性体粉末の含有率を体積比で65Vol%以上(試料2〜4)にすると、試料1と比較して約2〜3倍の比透磁率を得ることができる。これらを用いれば、コイルの巻数を増やすことなく所望のインダクタンス値を有するモールドコイルを作成できる。磁性体粉末の含有率は65Vol%以上であれば良いが、比透磁率が20以上となる70Vol%以上であれば更に好ましい。
【0018】
また、磁性体粉末の含有率が体積比で80Vol%よりも多い場合では、磁性体モールド樹脂の流動性が悪化してプラスチック成形法では成形困難になってしまう。そのため、本発明の磁性体モールド樹脂は磁性体粉末の含有率が体積比で80Vol%以下のものを用いる。以上より、本発明のモールドコイルに使用する磁性体モールド樹脂には、磁性体粉末の含有率が体積比で65〜80Vol%のものを用いる。
【0019】
次に、第1の実施例で用いる成形金型について説明する。図1に本発明の第1の実施例で用いる圧縮成形用の成形金型を示し、図2に本発明の空芯コイルの固定方法を示す。図1に示すように、第1の実施例では型枠1と上下方向に昇降可能な上パンチ2と下パンチ3を有する成形金型を用いる。型枠1は第1の型枠1aと第2の型枠1bを有し、組み合わせることによって断面が3mm角の柱状の貫通孔が形成される。この貫通孔は上パンチ2と下パンチ3と嵌合することができ、これらを組み合わせることによって本発明のモールドコイルを成形するキャビティが形成される。また、図2に示すように、第1の型枠1aと第2の型枠1bの間に空芯コイル4の引き出し線部分を挟みながら固定することができる。
【0020】
次に、第1の実施例で用いる空芯コイルについて説明する。図3に本発明の第1の実施例で用いる2層の外外巻コイルを示す。第1の実施例では、断面が平角形状で幅が0.25mm、厚みが0.10mmの自己融着性絶縁層を有する線材を用いる。この線材を芯径1.3mmの芯材を用いて、外外巻きに2層で11ターン巻き、さらに融着させて図3に示すような空芯コイル4を得た。
【0021】
次に、本発明のモールドコイルの製造方法について説明する。図4〜図7に本発明の第1の実施例のモールドコイルの製造工程の主要部分を示す。図8に本発明のモールドコイルの斜視図を示す。なお、図4〜図7は、図2に示すA−A’位置の各段階での断面を示す。
【0022】
図2に示すように、空芯コイル4の引き出し線部分を型枠1である第1の型枠1aと第2の型枠1bで挟み、空芯コイル4がキャビティ内の所望の位置になるように固定した。図4に示すように、型枠1の貫通孔の上下両側からそれぞれ上パンチ2と下パンチ3を嵌合させて成形金型を180℃に予熱した。次に、一度上パンチ2と下パンチ3を外し、図5に示すように、所定量秤量したバルク(塊)状の磁性体モールド樹脂5をキャビティの上下両側から投入して再び上パンチ2と下パンチ3を型枠1の貫通孔に嵌合させた。
【0023】
次に、図6に示すように、キャビティ内の磁性体モールド樹脂5を成形金型の予熱によって溶融させ、上パンチ2と下パンチ3を用いて10kgfの成形圧力を加え、180℃で8分間保持して磁性体モールド樹脂5を硬化させた。次に、図7に示すように、第2の型枠1bと上パンチ2を外して成形体を離型した。次に、厚みが0.08mmのリン青銅板をL字に加工した外部電極6をエポキシ樹脂で成形体の所定の位置に貼付し、空芯コイル4の引き出し線部分を折り曲げ加工し、さらに空芯コイル4の引き出し線部分と外部電極6を半田接合して、図8に示すようなモールドコイルを得た。得られたモールドコイルは、外形寸法(図8中の長さL、幅W、高さH)を測定し、さらにインダクタンス値(L値)、直流抵抗値(Rdc)、直流重畳許容電流値(Idc)を測定して表2を得た。
【0024】
ここで、各特性値の測定方法を説明する。インダクタンス値(以下、L値)は、Agilent Technologies社製のLCRメータ4284Aを用いて、測定周波数100kHzにて測定した。直流抵抗(以下、Rdc)は、Advantest社製のデジタルマルチメータTR6871を用いて測定した。直流重畳許容電流(以下、Idc)は、直流重畳電流を流したときインダクタンス値が初期値よりも30%減少する直流電流値である。
【0025】
【表2】
【0026】
表2に第1の実施例のモールドコイルの外形寸法と特性値を示す。実施例1−1〜1−4は、磁性体モールド樹脂の磁性体粉末の含有率を変えずに磁性体モールド樹脂の投入量を変えて、高さ寸法Hを変化させたものである。表2から明らかなように、磁性体モールド樹脂の高さ寸法Hが増加するにつれて、L値とIdcが上昇した。一方、Rdcはすべての試料において60mΩ程度だった。
【0027】
次に、本実施例のコイルと従来のDC−DCコンバータ用のコイルを比較する。比較例1はフェライトコアに平角線を巻いたコイルであり、外形寸法は長さLが3.0mm、幅Wが3.2mm、高さHが1.2mmのものである。比較例2は丸線で作製したコイルを圧粉成形法にて金属系磁性材料と樹脂とで封止したコイルであり、外形寸法は長さLが3.0mm、幅Wが3.0mm、高さHが1.2mmのものである。なお、比較例1において、L値が1.2μHのものを比較例1−1とし、2.0μHのものを比較例1−2とする。
【0028】
【表3】
【0029】
表3はL値を1.2μHとしたときの実施例1−1と比較例1−1の外形寸法と特性値を示す。表3から明らかなように、L値は同じであるが高さ寸法Hにおいて実施例1−1は比較例1−1より2/3に低背化できた。また、実施例1−1はRdcにおいて比較例1−1より上昇したが、Idcが2.4Aから3.5Aへと大きく向上した。
【0030】
【表4】
【0031】
表4に高さ寸法Hを1.2mmにしたときの実施例1−4と比較例1−2、比較例2の外形寸法と特性値を示す。実施例1−4は外形寸法がL*W=3.0*3.0mm角、H=1.2mm、比較例1−2はL*W=3.0*3.2mm角、H=1.2mm、比較例2はL*W=3.0*3.0mm角、H=1.2mmである。
【0032】
表4から明らかなように、実施例1−4とフェライトコアを用いた比較例1−2を比較すると、実施例1−4は幅寸法Wが比較例1−2より少し小さくL値は同程度であるが、Rdcが小さく、Idcにおいては比較例1−2の1.8Aに対して実施例1−4では4.6Aへと大きく向上した。次に、実施例1−4と外形寸法が同じである圧粉成形法を用いた比較例2を比較すると、L値はやや劣るが、Rdcにおいて比較例2が145mΩに対して実施例1−4では59mΩへと大きく低減でき、さらにIdcも比較例2の2.6Aに対して実施例1−4では4.6Aへと大きく向上した。
【0033】
従って、本実施例のモールドコイルは、低抵抗で非常に優れた直流重畳特性を得ることができるため、低損失で高効率化が実現できる。また、本実施例のモールドコイルは、磁性体モールド樹脂として、鉄系アモルファス合金の粉末が65Vol%以上の高比率で樹脂に分散されているものを用い、空芯コイルには平角線の外外巻コイルを用いている。このことから、空芯コイルの巻数を多くすることなく所望のインダクタンス値を得ることができるため、温度上昇許容電流や電力のロスを改善することができる。さらに、本実施例のモールドコイルは、プラスチック成形法の1つである圧縮成形法を用いている。これより、本発明のモールドコイルは生産性が高く、小型化や低背化が容易であり、さらに高周波特性も改善することができる。
【0034】
(第2の実施例)
図9〜図11と表5を参照しながら、本発明の第2の実施例を説明する。第2の実施例は、第1の実施例と同じ磁性体モールド樹脂と空芯コイルを用い、トランスファ成形法にてモールドコイルを成形する。本実施例では実施例1−4と同じ外形寸法のモールドコイルを成形した。なお、第1の実施例と共通する部分の説明は割愛する。また、図中の参照記号はそれぞれ、7は型枠、8は上型、9は下型、10はプランジャー、11はキャビティ、12はゲート、13はスプルー、14はチャンバーポットを示す。
【0035】
まず、第2の実施例で用いる成形金型について説明する。図9に本発明の第2の実施例で用いるトランスファ用の成形金型を示す。図9に示すように、第2の実施例では型枠7と上型8と下型9とプランジャー10を有する成形金型を用いる。型枠7は、第1の実施例と同様に、第1の型枠7aと第2の型枠7bからなり、組み合わせることによって断面が3mm角の柱状の貫通孔が形成される。また、型枠7は、第1の実施例と同様に、第1の型枠7aと第2の型枠7bの間に空芯コイル4の引き出し線部分を挟みながら固定することができる。型枠7と上型8と下型9を組み合わせることによってキャビティ11とチャンバーポット14が形成される。
【0036】
上型8は第1の上型8aと第2の上型8bからなりスプルー13を形成する、同様に下型9も第1の下型9aと第2の下型9bからなりスプルー13を形成する。第1の上型8aと第1の下型9aは、それぞれ空芯コイル4を中心に対向する位置にキャビティ11とスプルー13を結合するゲート12を有しており、チャンバーポット14に投入された磁性体モールド樹脂は、プランジャー10に押し出されてチャンバーポット14からスプルー13を通過し、さらにゲート12を通過してキャビティ11へと充填される。
【0037】
次に、第2の実施例のモールドコイルの製造方法について説明する。図10、図11に第2の実施例のモールドコイルの製造方法の主要部分を示す。まず、図10に示すように、空芯コイル4と型枠7、上型8、下型9を固定し、チャンバーポット14に磁性体モールド樹脂5を充填してプランジャー10をセットした。このとき空芯コイル4は、第1の実施例と同様に、空芯コイル4の引き出し線部分を第1の型枠7aと第2の型枠7bに挟み固定した。
【0038】
次に図11に示すように、磁性体モールド樹脂5をチャンバーポット14内で180℃に加熱して溶融状態にし、プランジャー10を用いて加圧して磁性体モールド樹脂5をキャビティ11内に注入し、200kgfで8分間保持して磁性体モールド樹脂5を硬化させた。次に、成形金型から磁性体モールド樹脂5の硬化したものを離型して成形体を得て、第1の実施例と同様に成形体に外部電極を取り付けてモールドコイルを得た。得られたモールドコイルは、第1の実施例と同様の方法で外形寸法と各特性を測定した。
【0039】
(第3の実施例)
図12と表6を参照しながら、本発明の第3の実施例を説明する。第3の実施例は、2種融着線の3層11ターンの外外巻コイルを用い、圧縮成形法にてモールドコイルを成形する。成形金型は第1の実施例と同様のものを用い、実施例1−4と同じ外形寸法のモールドコイルを成形した。なお、第1の実施例と共通する部分の説明は割愛する。
【0040】
第3の実施例で用いる空芯コイルについて説明する。図12に第3の実施例で用いる3層の外外巻コイルを示し、(a)は斜視図、(b)は(a)のB−B’断面図である。なお、図11(b)に示した空芯コイル15の断面の数字は線材を巻く順番を示している。図12に示すように、直径が0.13mmで自己融着性絶縁層を有する丸線を用い、芯径1.3mmの芯材を用いて、外外巻きに3層で11ターン巻き、さらに融着させて空芯コイル15を得た。
【0041】
空芯コイル15と第1の実施例で用いた磁性体モールド樹脂と外部電極を用いて、第1の実施例と同様の方法で第3の実施例のモールドコイルを得た。得られたモールドコイルの外形寸法と各特性を第1の実施例と同様の方法で測定した。
【0042】
【表5】
【0043】
表5に第2の実施例、第3の実施例で得られたモールドコイルと第1の実施例のモールドコイルの外形寸法と各特性における比較を示す。表5から明らかなように、実施例2は実施例1−4とほぼ同程度の特性を示した。また、実施例3は丸線を用いているため、実施例1−4と実施例2よりもRdcが大きくなったが、L値とIdcは同程度であった。従って、本発明のモールドコイルは、圧縮成形法だけではなくトランスファ成形法を用いても成形が可能である。また、平角線ではなく丸線を用いて本発明のモールドコイルを作製しても、本発明の効果を奏する。
【0044】
上記実施例では、金属系磁性材料に鉄系アモルファス合金の粉末を用いたが、これに限られることはなく、使用周波数や用途に合わせて変更が可能である。また、樹脂にはノボラック型エポキシ樹脂とフェノール樹脂を用いたが、これに限られることはなく、その他の熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を用いてもよい。
【0045】
上記実施例では、磁性体モールド樹脂の磁性体粉末の含有率を高めるために、平均粒径の異なる磁性体粉末を複数用いる方法を用いたが、粒形の制御や表面改質などのその他の方法を用いても良い。
【0046】
上記実施例では、圧縮成形法とトランスファ成形法を用いた方法を示したが、インジェクション成形法を用いても成形可能である。また、上記実施例に示した成形金型に限られることはなく、適正に本発明のモールドコイルが成形できれば、どのような成形金型を用いても良い。
【0047】
以上より、本発明のモールドコイルは、小型でありながら、高周波特性、直流重畳特性などに優れ、低損失で高効率なモールドコイルを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の第1の実施例で用いる成形金型を説明する図である。
【図2】本発明の空芯コイルの固定方法を説明する図である。
【図3】本発明の第1の実施例で用いる2層の外外巻コイルを示す斜視図である。
【図4】本発明の第1の実施例のモールドコイルの製造方法を示す断面図である。
【図5】本発明の第1の実施例のモールドコイルの製造方法を示す断面図である。
【図6】本発明の第1の実施例のモールドコイルの製造方法を示す断面図である。
【図7】本発明の第1の実施例のモールドコイルの製造方法を示す断面図である。
【図8】本発明のモールドコイルの斜視図である。
【図9】本発明の第2の実施例で用いる成形金型を説明する図である。
【図10】本発明の第2の実施例のモールドコイルの製造方法を示す図である。
【図11】本発明の第2の実施例のモールドコイルの製造方法を示す図である。
【図12】本発明の第3の実施例で用いる3層の外外巻コイルを示す図であり、(a)は斜視図、(b)は(a)のB−B’断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1:型枠(1a:第1の型枠、1b:第2の型枠)
2:上パンチ
3:下パンチ
4:空芯コイル
5:磁性体モールド樹脂
6:外部電極
7:型枠(7a:第1の型枠、7b:第2の型枠)
8:上型(8a:第1の上型、8b:第2の上型)
9:下型(9a:第1の下型、9b:第2の下型)
10:プランジャー
11:キャビティ
12:ゲート
13:スプルー
14:チャンバーポット
15:空芯コイル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂に磁性体粉末を分散させた磁性体モールド樹脂でコイルを封止したモールドコイルにおいて、
該磁性体モールド樹脂が主に金属系磁性体粉末からなる該磁性体粉末を体積比で65〜80Vol%含有し、
該コイルが自己融着性絶縁層を有する線材を外外巻きに加工させた空芯コイルであることを特徴とするモールドコイル。
【請求項2】
前記空芯コイルに用いられる線材が平角線であることを特徴とする請求項1に記載のモールドコイル。
【請求項3】
樹脂に磁性体粉末を分散させた磁性体モールド樹脂でコイルを封止したモールドコイルの製造方法において、
該磁性体モールド樹脂に主に金属系磁性体粉末からなる該磁性体粉末を体積比で65〜80Vol%含有するものを用い、
該コイルに自己融着性絶縁層を有する線材を外外巻きに加工させた空芯コイルを用い、
プラスチック成形を用いたことを特徴とするモールドコイルの製造方法。
【請求項4】
前記プラスチック成形が圧縮成形、トランスファ成形、インジェクション成形のいずれかの方法であることを特徴とする請求項3に記載のモールドコイルの製造方法。
【請求項1】
樹脂に磁性体粉末を分散させた磁性体モールド樹脂でコイルを封止したモールドコイルにおいて、
該磁性体モールド樹脂が主に金属系磁性体粉末からなる該磁性体粉末を体積比で65〜80Vol%含有し、
該コイルが自己融着性絶縁層を有する線材を外外巻きに加工させた空芯コイルであることを特徴とするモールドコイル。
【請求項2】
前記空芯コイルに用いられる線材が平角線であることを特徴とする請求項1に記載のモールドコイル。
【請求項3】
樹脂に磁性体粉末を分散させた磁性体モールド樹脂でコイルを封止したモールドコイルの製造方法において、
該磁性体モールド樹脂に主に金属系磁性体粉末からなる該磁性体粉末を体積比で65〜80Vol%含有するものを用い、
該コイルに自己融着性絶縁層を有する線材を外外巻きに加工させた空芯コイルを用い、
プラスチック成形を用いたことを特徴とするモールドコイルの製造方法。
【請求項4】
前記プラスチック成形が圧縮成形、トランスファ成形、インジェクション成形のいずれかの方法であることを特徴とする請求項3に記載のモールドコイルの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−260116(P2009−260116A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−108794(P2008−108794)
【出願日】平成20年4月18日(2008.4.18)
【出願人】(000003089)東光株式会社 (243)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月18日(2008.4.18)
【出願人】(000003089)東光株式会社 (243)
【Fターム(参考)】
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