説明

モールドモータ

【課題】電食の対策としてはセラミック製のベアリングや、導電性グリスを使用したベアリングを採用する必要があるが、コストが上昇する、あるいは信頼性に欠けるなどの問題がある。
【解決手段】本発明のモールドモータは、鋼板製あるいはアルミニウムをダイカスト成型したブラケットと固定子鉄心のスロットに固定子巻線が巻回された固定子をモールド樹脂によって一体にモールドしている。このモールドモータにおいて、ブラケットの軸受ハウジング部の表面に絶縁材料からなるコーティング層が形成されている。コーティング層は10V以上の耐電圧を有する。これによって、軸受とブラケットの絶縁を確保できるので、電食を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調機器等に搭載されるモールドモータに関する。
【背景技術】
【0002】
空調機器に搭載されるモールドモータのブラケットは、例えばアルミニウムのダイカスト成型にて軸受保持部を形成し、モールドされた固定子側に、例えば圧入により固定される構造となっている。(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
図3は従来のモールドモータの構造断面図である。モールドモータ300は、アルミニウムにてダイカスト成型し軸受け保持部が形成されたブラケット315を、樹脂にて絶縁された固定子鉄心311に巻線312を巻回した固定子313をモールド樹脂314にてモールドした固定子完成品に圧入固定する構造となっている。
【0004】
上記のような構造のモールドモータ300の構造について図3に基づいて説明する。図3に示すように、モールドモータ300のブラケット315は、巻線312とモールド樹脂314を介し近接している。このため巻線312からモータを駆動する電位がブラケット315に誘起され、ブラケット315とシャフト320との間に電位が発生し、その電位により軸受A316の内部に電流が流れ、電食が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−242412号公報
【特許文献2】特開平9−154260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電食の対策としてはセラミック製のベアリングや、導電性グリスを使用したベアリングを採用する必要があるが、コストが上昇する、あるいは信頼性に欠けるなどの問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のモールドモータは、金属製のブラケットと固定子鉄心のスロットに固定子巻線が巻回された固定子をモールド樹脂によって一体にモールドしたモールドモータにおいて、ブラケットの軸受ハウジング部の表面に絶縁材料からなるコーティング層が形成され、コーティング層は10V以上の耐電圧を有する。
【0008】
これによって、軸受とブラケットの絶縁を確保できるので、電食を防止することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、軸受とブラケットの絶縁を確保できるので、電食を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態1におけるモールドモータの構造断面図
【図2】本発明の実施の形態2におけるモールドモータの構造断面図
【図3】従来のモールドモータの構造断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0012】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1におけるモールドモータの構造断面図である。本実施の形態におけるモールドモータ100及びブラケット115の構造について図1に基づいて説明する。図1に示すように、モールドモータ100は、固定子完成品にブラケット115が圧入固定された構造となっている。ここで、固定子完成品は、樹脂にて絶縁された固定子鉄心111のスロットに固定子巻線である巻線112を巻回した固定子113をモールド樹脂114にてモールドしたものである。また、モールド樹脂114を介して巻線112に近接しているアルミニウム製(金属製)のブラケット115は軸受ハウジング部115aを有し、その表面には絶縁材料からなるコーティング層115bが形成されている。そして軸受ハウジング部115aの表面のコーティング層115bは、軸受ハウジング部115aにおいて10V以上の耐電圧を確保する。
【0013】
このような構成により、巻線112からモータを駆動する電位がブラケット115に誘起されるが、軸受ハウジング部115aの表面のコーティング層115bにより絶縁される。このため、ブラケット115とシャフト120との間に電位が発生しても、その電位により軸受A116の内部に電流が流れることがなく、電食を防止することができる。
【0014】
更に、上記の電位は2〜8V程度が発生していることが多く、耐電圧が10V以上あると絶縁破壊にも至らないため軸受A116の内部に電流が流れる可能性が更に低くなり、電食を防止することができる。なお、本実施の形態では、軸受ハウジング118と、回転子119と、軸受B117とを具備している。
【0015】
また、ブラケット115において、アルミニウムにて形成された軸受ハウジング部115aの表面のコーティング層115bが、セラミック溶射にてアルミナをコーティングすることにより形成されてもよい。
【0016】
アルミナは耐電圧が10000V/μmの絶縁材料であり、0.001μm以上の厚さが確保できれば10V以上の耐電圧を確保できる。そのため、軸受ハウジング部115aの表面のコーティング層115bが5μm以上の厚さを確保すれば50000V以上の耐電圧を確保でき、軸受A116の内部に電流が流れることなく、電食を防止できる。 また、ブラケット115において、アルミニウムにて形成された軸受ハウジング部115aの表面のコーティング層115bが、カチオン塗装にてエポキシ樹脂をコーティングすることにより形成されてもよい。
【0017】
エポキシ樹脂は耐電圧として100V/μmの絶縁材料であり、0.1μm以上の厚さが確保できれば10V以上の耐電圧を確保できる。そのため、軸受ハウジング部115aの表面のコーティング層115bが5μm以上の厚さを確保すれば500V以上の耐電圧を確保でき、軸受A116の内部に電流が流れることなく、電食を防止できる。
【0018】
また、カチオン塗装は電着工法のため、コーティング層115bの厚さを±3μm程度の公差に抑えることができる。このため、コーティングにより軸受A116の内部の挿入性の悪化も抑えることができる。 また、ブラケット115において、アルミニウムにて形成された軸受ハウジング部115aの表面のコーティング層115bが、粉体塗装にてエポキシ樹脂をコーティングすることにより形成されてもよい。
【0019】
エポキシ樹脂は耐電圧として100V/μmの絶縁材料であり、0.1μm以上の厚さが確保できれば10V以上の耐電圧を確保できる。そのため、軸受ハウジング部115aの表面のコーティング層115bが5μm以上の厚さを確保すれば500V以上の耐電圧を確保でき、軸受A116に電流が流れることなく、電食を防止できる。
【0020】
粉体塗装はガス等での吹き付け塗装のため、塗装設備を容易かつ安価に構築できる。このため、コーティング層115bの形成を安価に実現可能である。 また、ブラケット115において、アルミニウムにて形成された軸受ハウジング部115aの表面のコーティング層115bが、粉体塗装にてフッ素樹脂をコーティングすることにより形成されてもよい。
【0021】
フッ素樹脂は耐電圧として100V/μmの絶縁材料であり、0.1μm以上の厚さが確保できれば10V以上の耐電圧を確保できる。そのため、軸受ハウジング部115aの表面のコーティング層115bが5μm以上の厚さを確保すれば500V以上の耐電圧を確保でき、軸受A116に電流が流れることなく、電食を防止できる。粉体塗装はガス等での吹き付け塗装のため、塗装設備を容易かつ安価に構築できる。このため、コーティング形成を安価に実現可能である。 さらに、ブラケット115において、アルミニウムにて形成された軸受ハウジング部115aの表面のコーティング層115bが、アルマイト処理にて形成されてもよい。
【0022】
アルマイトは耐電圧として10000V/μmの絶縁材料であり、0.001μm以上の厚さが確保できれば10V以上の耐電圧を確保できる。そのため、軸受ハウジング部115aの表面のコーティング層115bが5μm以上の厚さを確保すれば50KV以上の耐電圧を確保でき、軸受A116に電流が流れることなく、電食を防止できる。また、アルマイト処理は表面改質工法のため、コーティング層115bの厚さを±3μm程度の公差に抑えることができるため、コーティングにより軸受A116の挿入性の悪化も抑えることができる。 (実施の形態2)
以下、本発明の実施の形態2を図2に基づいて説明する。図2は、本発明の実施の形態2におけるモールドモータの構造断面図である。本実施の形態のモールドモータ200は、固定子完成品に鋼鈑製(金属製)ブラケット215が圧入固定された構造となっている。ここで、固定子完成品は、樹脂にて絶縁された固定子鉄心211のスロットに固定子巻線である巻線212を巻回した固定子213を、モールド樹脂214にてモールドしたものである。シャフト220は、軸受ハウジング218に設けられた軸受B217と、鋼鈑製ブラケット215の軸受ハウジング部215aに設けられた軸受A216で支えられ、回転子219とともに回転する。
【0023】
鋼鈑製ブラケット215の軸受ハウジング部215aの表面には絶縁材料からなるコーティング層215bが形成されており、コーティング層215bは10V以上の耐電圧を確保している。
【0024】
このような構成により、巻線212からモータを駆動する電位が鋼鈑製ブラケット215に誘起されるが、軸受ハウジング部215aの表面のコーティング層215bにより絶縁される。このため、ブラケット215とシャフト220との間に電位が発生しても、その電位により軸受A216内に電流が流れることがなく、電食を防止することができる。
【0025】
更に、上記の電位は2〜8V程度が発生していることが多く、耐電圧が10V以上あると絶縁破壊にも至らないため軸受A216内に電流が流れる可能性が更に低くなり、電食を防止することができる。なおコーティング層の厚さは、製造ばらつきやコスト等を考慮して、5〜50μmであることが望ましい。
【0026】
具体的なコーティング層215bとしては、セラミック溶射にてアルミナをコーティングして形成することがあげられる。アルミナは耐電圧として10000V/μmの絶縁材料であり、0.001μm以上の厚さが確保できれば10V以上の耐電圧を確保できる。そのため、軸受ハウジング部215aの表面のコーティング層215bが5μm以上の厚さを確保すれば50000V以上の耐電圧を確保でき、軸受A216に電流が流れることなく、電食を防止できる。
【0027】
他には、カチオン塗装にてエポキシ樹脂をコーティングしてコーティング層215bを形成することも有効である。エポキシ樹脂は耐電圧として100V/μmの絶縁材料であり、0.1μm以上の厚さが確保できれば10V以上の耐電圧を確保できる。そのため、軸受ハウジング部215aの表面のコーティング層215bが5μm以上の厚さを確保すれば500V以上の耐電圧を確保でき、軸受A216に電流が流れることなく、電食を防止できる。カチオン塗装は電着工法のため、コーティング層215bの厚さを±3μm程度の公差に抑えることができる。このため、コーティングにより軸受A216の挿入性の悪化も抑えることができる。
【0028】
また、粉体塗装にてエポキシ樹脂をコーティングしてコーティング層215bを形成することも可能である。エポキシ樹脂は耐電圧として100V/μmの絶縁材料であり、0.1μm以上の厚さが確保できれば10V以上の耐電圧を確保できる。そのため、軸受ハウジング部215aの表面のコーティング層215bが5μm以上の厚さを確保すれば500V以上の耐電圧を確保でき、軸受A216に電流が流れることなく、電食を防止できる。粉体塗装はガス等での吹き付け塗装のため、塗装設備を容易かつ安価に構築できる。このため、コーティング層215bの形成を安価に実現可能である。
【0029】
また他には、粉体塗装にてフッ素樹脂をコーティングしてコーティング層215bを形成することも有効である。フッ素樹脂は耐電圧として100V/μmの絶縁材料であり、0.1μm以上の厚さが確保できれば10V以上の耐電圧を確保できる。そのため、軸受ハウジング部215aの表面のコーティング層215bが5μm以上の厚さを確保すれば500V以上の耐電圧を確保でき、軸受A216に電流が流れることなく、電食を防止できる。粉体塗装はガス等での吹き付け塗装のため、塗装設備を容易かつ安価に構築できる。このため、コーティング層215bの形成を安価に実現可能である。
【0030】
以上説明したように、本発明のモールドモータは、鋼板製またはアルミニウムをダイカスト成型したブラケットと固定子鉄心のスロットに固定子巻線が巻回された固定子をモールド樹脂によって一体にモールドしたモールドモータにおいて、ブラケットの軸受ハウジング部の表面に絶縁材料からなるコーティング層が形成され、コーティング層は10V以上の耐電圧を有する。これにより、軸受とブラケット間の絶縁を確保できる。
【0031】
また本発明のモールドモータは、軸受ハウジング部の表面のコーティング層をセラミック溶射にてアルミナをコーティングして形成している。これにより、熱による変形を防止し、かつ軸受けとブラケット間の絶縁を確保できる。
【0032】
また本発明のモールドモータは、軸受ハウジング部の表面のコーティング層をカチオン塗装にてエポキシ樹脂をコーティングして形成している。これにより、塗装厚さの管理が容易であり、かつ寸法精度を下げることなく絶縁を確保できる。
【0033】
また本発明のモールドモータは、軸受ハウジング部の表面のコーティング層を粉体塗装にてエポキシ樹脂をコーティングして形成している。これにより、塗装設備が容易に構築でき絶縁を確保できる。
【0034】
また本発明のモールドモータは、軸受ハウジング部の表面のコーティング層を粉体塗装にてフッ素樹脂をコーティングして形成している。これにより、塗装設備が容易に構築でき絶縁を確保できる。
【0035】
また本発明のモールドモータは、軸受ハウジング部の表面のコーティング層をアルマイト処理して形成している。これにより、塗装厚さの管理が容易であり、かつ寸法精度を下げることなく絶縁を確保できる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
以上のように、本発明にかかるモールドモータは、小型空調機器に搭載するモータ等の用途に有用である。
【符号の説明】
【0037】
111,211,311 固定子鉄心
112,212,312 巻線
113,213,313 固定子
114,214,314 モールド樹脂
115,215,315 ブラケット
115a,215a 軸受ハウジング部
115b,215b コーティング層
116,216,316 軸受A
117,217,317 軸受B
118,218 軸受ハウジング
119,219 回転子
120,220,320 シャフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製のブラケットと固定子鉄心のスロットに固定子巻線が巻回された固定子をモールド樹脂によって一体にモールドしたモールドモータにおいて、前記ブラケットの軸受ハウジング部の表面に絶縁材料からなるコーティング層が形成され、前記コーティング層は10V以上の耐電圧を有するモールドモータ。
【請求項2】
前記ブラケットが鋼板製またはアルミニウムをダイカスト成型したものである請求項1に記載のモールドモータ。
【請求項3】
前記絶縁材料はアルミナとし、セラミック溶射にて前記コーティング層を形成した請求項1に記載のモールドモータ。
【請求項4】
前記絶縁材料はエポキシ樹脂とし、カチオン電着塗装にて前記コーティング層を形成した請求項1に記載のモールドモータ。
【請求項5】
前記絶縁材料はエポキシ樹脂とし、粉体塗装にて前記コーティング層を形成した請求項1に記載のモールドモータ。
【請求項6】
前記絶縁材料はフッ素樹脂とし、粉体塗装にて前記コーティング層を形成した請求項1に記載のモールドモータ。
【請求項7】
前記絶縁材料をアルマイト処理にて前記コーティング層を形成した請求項1に記載のモールドモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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