説明

モールド樹脂成形体

【課題】板状金属導体の離間間隔を狭くすることができると共に、板状金属導体の離間間隔の均一性を確保することができ、且つ、板状金属導体とモールド用樹脂の接着界面に剥離が生じないようにすることができる、モールド樹脂成形体を提供すること。
【解決手段】複数の板状金属導体2、3を500μm以下の一定の離間間隔を置いて積層し、モールド成形により、各板状金属導体2、3の周上を溶融粘度が50Pa・s以下の絶縁性を有する接着性樹脂組成物4で被覆すると共に前記離間間隔を前記樹脂組成物4で満たすことによって、板状金属導体2、3相互間を絶縁して、全体を積層一体化した、モールド樹脂成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電気自動車(HEV)などにおいて使用される電気機器の配線用部品の一つである、絶縁ブスバーなどに適用されるモールド樹脂成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の板状金属導体を一定の離間間隔を置いて積層し、板状金属導体相互間を絶縁して、全体を積層一体化した配線用部品が、積層配線板又は多層配線板、多層絶縁ブスバーなどという名称で用いられている。
【0003】
これらの積層配線板又は多層配線板、多層絶縁ブスバーなどの製造において、一般に板状金属導体相互間を絶縁する方法としては、例えば図4に示すように、予め絶縁ポリマーからなる絶縁フィルム12の片面にエポキシ系の熱硬化性接着剤13を薄く(数μmから数十μm程度)塗布した接着剤付き絶縁フィルム14を用意し、この接着剤付き絶縁フィルム14をその接着面を利用して板状金属導体15の片面もしくは両面に貼り付ける(ラミネート)ことにより、片面もしくは両面が絶縁された板状金属導体(ラミネート絶縁導体)16を作製し、このラミネート絶縁導体16の複数枚を積層することによって、板状金属導体相互間を絶縁する方法が採用されている(図5参照)。
【0004】
なお、このようにラミネート絶縁導体16を用いることによって、板状金属導体相互間を絶縁する方法には、2つの形式がある。その1つは、図5(a)に示すように、ラミネート絶縁導体16同士を絶縁性の接着剤で接着することによって、両者の間に所定の絶縁層17を形成する「絶縁フィルム積層一体型」と呼ばれる形式である。もう1つは、図5(b)に示すように、高電圧での使用に対応する十分な絶縁距離を確保するため、ラミネート絶縁導体相互間に所定の厚みの絶縁スペーサ18を介在させることによって、ラミネート絶縁導体相互間の絶縁距離を大きくする「絶縁スペーサ分離型」と呼ばれる形式である。
【0005】
これに対し、使用条件が、平均電界強度が数百V/mm以上という比較的高い電界強度を有する場合において、板状金属導体相互間を絶縁する方法としては、長期間にわたって安定した絶縁特性を維持するため、例えば図1(a)、(b)に示すように、夫々所定の形状に成形した複数の端子部1付き板状金属導体2、3を一定の離間間隔を置いて積層し、モールド成形により、各板状金属導体2、3の周上を絶縁ポリマーからなる樹脂組成物(モールド用樹脂)4で被覆すると共に前記離間間隔を前記樹脂組成物4で満たすことによって、板状金属導体相互間を絶縁する方法が採用されている。なお、前記端子部1に関しては、配線用部品の接続にあたり露出した状態とする必要があることから、モールド成形の際に、モールド成形用金型の型枠を利用して前記端子部1を把持するか、或いは、前記端子部1をマスキングすることによって、溶融モールド用樹脂(溶融樹脂)10が前記端子部1に触れないようにする必要がある。なお、このモールド成形は、モールド成形用金型内に予め板状金属導体2、3等の部材を配置して、前記部材の周上に溶融モールド用樹脂10を射出して一体に被覆成形する方法であり、射出成形の1種である。
【0006】
図2は、そのモールド成形の具体的方法を示すものであり、この図2においては、上金型5及び下金型6からなるモールド成形用金型7のキャビティ8内に、複数の端子部1付き板状金属導体2、3を一定の離間間隔を置いて積層配置し、その際、前記端子部1を前記上金型5及び前記下金型6により挟んで固定すると共に、前記端子部1に溶融モールド用樹脂4が触れないようにして、前記キャビティ8内の各板状金属導体2、3の離間間隔を一定に保持する。この後、前記上金型5に設けられた射出ヘッド9から、前記キャビティ8内に向けて溶融モールド用樹脂10を供給し、冷却固化することにより、各板状金属導体2、3の周上をモールド用樹脂4で被覆すると共に前記離間間隔を前記モールド用樹脂4で満たすことによって、板状金属導体相互間を絶縁して、全体を積層一体化した、図1(a)、(b)に示すモールド樹脂成形体11を得る。
【0007】
一方、関連する先行技術文献の特許文献1には、絶縁板の一方の面に正の電極板を載置すると共に他方の面に負の電極板を載置して、複数の電極板を積層すると共に電極板相互間を絶縁して、ボルト等で固定し全体を積層一体化したコンデンサ電極端子が記載されている。
【0008】
また、特許文献2には、層間絶縁層を間に挟んで複数の平板状導体を積層すると共に、隣接する導体と絶縁層との間及び隣接する絶縁層同士の間に夫々接着層を介在させ、全体を積層一体化したラミネート基板が記載されている。
【0009】
また、特許文献3、4には、モールド成形において、回路基板等複雑な形状を有する電子部品を一様にモールド用樹脂で包み込むにあたり、その複雑な形状に追随し得るモールド用樹脂として、200℃における溶融粘度が、2dPa・s以上100dPa・s未満、または5〜1000dPa・s以下の、いずれも低粘度のモールド用樹脂を使用することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−143868号公報
【特許文献2】特開2005−32465号公報
【特許文献3】特開2005−319729号公報
【特許文献4】特開2004−25893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記した従来のモールド成形の方法によれば、主に以下の問題がある。
【0012】
(a)配線用部品の省スペース化、低インダクタンス化の観点から、板状金属導体の離間間隔は狭い方が良いが、モールド用樹脂として溶融時の粘度が高い樹脂を用いたり、板状金属導体の面積が大きくなると、板状金属導体の離間間隔を狭くすることには限界がある。すなわち、そのような状況になると、溶融モールド用樹脂(溶融樹脂)が板状金属導体の狭い離間間隔に入り込みにくくなり、溶融樹脂がキャビティ内の隅々まで十分に行き渡らず、ボイド(空洞)が発生するなど問題が生じ易くなる。この結果、板状金属導体相互間の絶縁特性が低下して、配線用部品であるモールド樹脂成形体の絶縁構造の信頼性が損なわれることになる。したがって、このことから、板状金属導体の離間間隔を狭くすることには限界がある。因みに、ボイドが発生しない良好な樹脂流れ性の下で射出成形可能な板状金属導体の離間間隔の限界は、1mm程度である。
【0013】
(b)また、モールド用樹脂として溶融時の粘度が高い樹脂を用いたり、板状金属導体の面積が大きくなると、溶融樹脂の射出圧力が高くなり、また、板状金属導体を金型等で把持する把持部分の面積が相対的に小さくなるが、このような状況下で積層板の最外側をモールド用樹脂で被覆する場合は、特に積層板の最外側から加わる溶融樹脂の圧力によって、薄く成形された板状金属導体が変形し、板状金属導体の離間間隔の均一性が失われ易くなる。板状金属導体の離間間隔の均一性が失われると、板状金属導体に電圧を印加した際に、板状金属導体の離間間隔が狭い部分に電界が集中してしまい、モールド樹脂成形体の絶縁構造の長期信頼性が損なわれることになる。
【0014】
(c)板状金属導体とモールド用樹脂を密着させることが難しく、両者の密着が悪いと、モールド成形時の“溶融樹脂の引け”や、モールド樹脂成形体の通電環境(又は使用環境)の温度変化により繰り返される加熱、冷却によって、板状金属導体とモールド用樹脂の接着界面に剥離が生じ易くなる。板状金属導体とモールド用樹脂の接着界面に剥離が生じると、モールド樹脂成形体の絶縁特性が低下して、使用時に、モールド樹脂成形体が絶縁破壊を起こすおそれがある。また、使用時に、その剥離部分で部分放電が起き、これによってモールド樹脂成形体の絶縁寿命が著しく低下するおそれがある。これは、板状金属導体の周端部やその離間間隔が狭い部分は、板状金属導体に電圧を印加した際に電界が集中し易い部分となるが、板状金属導体とモールド用樹脂の接着界面の剥離部分も、同じように電界が集中し易い部分となるからである。
【0015】
一方、特許文献1、2に記載のコンデンサ電極端子及びラミネート基板は、いずれも複数の板状金属導体を絶縁板を介して積層して、板状金属導体相互間を絶縁したものであり、複数の板状金属導体を一定の離間間隔を置いて積層すると共に、その離間間隔をモールド用樹脂で満たすことによって、板状金属導体相互間を絶縁したものではない。要するに、モールド樹脂成形体ではない。
【0016】
また、特許文献3、4には、いずれも低粘度のモールド用樹脂を使用したモールド樹脂成形体が記載されているが、このモールド樹脂成形体は、複数の板状金属導体を一定の離間間隔を置いて積層したものではない。したがって、特に、上記(a)、(b)のような問題は生じ得ない。
【0017】
したがって、本発明の目的は、板状金属導体の離間間隔を狭くすることができると共に、板状金属導体の離間間隔の均一性を確保することができ、且つ、板状金属導体とモールド用樹脂の接着界面に剥離が生じないようにすることができる、モールド樹脂成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、複数の板状金属導体を500μm以下の一定の離間間隔を置いて積層し、モールド成形により、各板状金属導体の周上を溶融粘度が50Pa・s以下の絶縁性を有する接着性樹脂組成物で被覆すると共に前記離間間隔を前記樹脂組成物で満たすことによって、板状金属導体相互間を絶縁して、全体を積層一体化したことを特徴とするモールド樹脂成形体を提供する。
【0019】
上記において、前記溶融粘度が50Pa・s以下であるとする理由は、それが50Pa・sを越えると、複数の板状金属導体を500μm以下の一定の離間間隔を置いて積層した場合に、板状金属導体の離間間隔に溶融樹脂が入り込みにくくなり、ボイド(空洞)が発生するなど問題が生じ易くなるからである。これは発明者らによる多くの実験、検討結果から明らかにされたものである。
【0020】
このモールド樹脂成形体によれば、上記構成の採用により、特にモールド用樹脂として溶融粘度が50Pa・s以下の絶縁性を有する接着性樹脂組成物を用いることにより、その低い溶融粘度によって、板状金属導体の狭い離間間隔に溶融樹脂が入り易くなり、ボイド(空洞)が発生するなど問題が生じないので、板状金属導体の離間間隔を狭くすることができると共に、モールド成形時の溶融樹脂の射出圧力を低く抑えることができるので、板状金属導体の離間間隔の均一性を確保することができ、また、そのモールド用樹脂の接着性によって、板状金属導体とモールド用樹脂の接着界面に剥離が生じないようにすることができる。これにより、複数の板状金属導体を500μm以下の一定の離間間隔を置いて積層した場合であっても、信頼性の高い、健全な絶縁構造を有する、モールド樹脂成形体を得ることができる。
【0021】
請求項2の発明は、前記樹脂組成物が、エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリエステル共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンナフタレート、無水マレイン酸グラフトポリエチレン、無水マレイン酸グラフトポリプロピレン、エチレン/アクリル酸/無水マレイン酸ターポリマーのうち、1種もしくは2種以上を組み合わせた、絶縁性及び接着性を有するポリマーからなることを特徴とする請求項1に記載のモールド樹脂成形体を提供する。
【0022】
このモールド樹脂成形体によれば、上記構成に併せて、モールド用樹脂として上記特定の接着性樹脂組成物を用いることにより、その接着性によって、上記効果を確実に得ることができる。
【0023】
請求項3の発明は、前記樹脂組成物が、その前記板状金属導体との接着力が0.1N/mm以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のモールド樹脂成形体を提供する。
【0024】
上記において、前記接着力は、JIS K6854−3に準拠して測定した。すなわち、厚さ0.5mmの板状金属導体の片面にモールド用樹脂を厚さ0.5mmとなるように加熱溶融して貼り合わせた試料板を作成し、この試料板を幅10mmに切断した試料片を用いて、この試料片の接着界面を引き剥がす際の張力をもって接着力を測定した。
【0025】
また、前記接着力が0.1N/mm以上であるとする理由は、それが0.1N/mm未満だと、モールド成形時の“溶融樹脂の引け”や、モールド樹脂成形体の通電環境(又は使用環境)の温度変化により繰り返される加熱、冷却によって、板状金属導体とモールド用樹脂の接着界面に剥離が生じ易くなるからである。
【0026】
このモールド樹脂成形体によれば、上記構成に併せて、モールド用樹脂として上記特定の接着力の接着性樹脂組成物を用いることにより、その接着力によって、板状金属導体とモールド用樹脂の接着界面に剥離が生じないようにすることができるので、その剥離に起因した、モールド樹脂成形体の絶縁破壊や部分放電の発生がなく、上記効果をより確実に得ることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明のモールド樹脂成形体によれば、板状金属導体の離間間隔を狭くすることができると共に、板状金属導体の離間間隔の均一性を確保することができ、且つ、板状金属導体とモールド用樹脂の接着界面に剥離が生じないようにすることができる。これにより、複数の板状金属導体を500μm以下の一定の離間間隔を置いて積層した場合であっても、信頼性の高い、健全な絶縁構造を有する、モールド樹脂成形体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施の形態に係るモールド樹脂成形体の構造説明図であり、(a)はその平面図、(b)はその側面図である。
【図2】図1のモールド樹脂成形体のモールド成形の具体的方法を示す説明図である。
【図3】本発明の実施例、比較例に係る電気試験用モールド樹脂成形体の構造説明図であり、(a)、(b)は夫々異なる形状に成形した板状金属導体からなる電極板の平面図、(c)はそれら電極板を積層しモールド成形により作製した試験用モールド樹脂成形体の斜視図である。
【図4】従来例に係る接着剤付き絶縁フィルムの構造説明図である。
【図5】図4に示す接着剤付き絶縁フィルムを用いて板状金属導体相互間を絶縁する絶縁形式を示す説明図であり、(a)は「絶縁フィルム積層一体型」、(b)は「絶縁スペーサ分離型」の夫々絶縁形式を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明モールド樹脂成形体の好適な実施の形態を図1〜3に基づいて詳述する。図1は本発明の一実施の形態に係るモールド樹脂成形体の構造説明図であり、図2は図1のモールド樹脂成形体のモールド成形の具体的方法を示す説明図である。
【0030】
既に述べた従来技術の説明と重複するところがあるが、図1(a)、(b)においては、夫々所定の形状に成形した複数の端子部1付き板状金属導体2、3を500μm以下の一定の離間間隔を置いて積層し、図2のモールド成形により、各板状金属導体2、3の周上を特定の絶縁ポリマーからなる接着性樹脂組成物(モールド用樹脂)4で被覆すると共に前記離間間隔を前記モールド用樹脂4で満たすことによって、板状金属導体相互間を絶縁する。なお、前記端子部1に関しては、配線用部品の接続にあたり露出した状態とする必要があることから、モールド成形の際に、モールド成形用金型7の型枠を利用して前記端子部1を把持するか、或いは、前記端子部1をマスキングすることによって、溶融モールド用樹脂(溶融樹脂)が前記端子部1に触れないようにする。
【0031】
図2は、そのモールド成形の具体的方法を示すものであり、この図2においては、上金型5及び下金型6からなるモールド成形用金型7のキャビティ8内に、複数の端子部1付き板状金属導体2、3を一定の離間間隔を置いて積層配置し、その際、前記端子部1を前記上金型5及び前記下金型6により挟んで固定することによって、溶融樹脂4が前記端子部1に触れないようにして、前記キャビティ8内の各板状金属導体2、3の離間間隔を一定に保持する。このように複数の板状金属導体2、3を一定の離間間隔に保持した状態でモールド成形用金型7内に位置固定させるためには、前記上金型5及び/又は前記下金型6に図示しない固定用ピンを設けることができる。
【0032】
この後、前記上金型5に設けられた射出ヘッド9から、前記キャビティ8内に向けて溶融樹脂10を供給し、冷却固化することにより、各板状金属導体2、3の周上をモールド用樹脂4で被覆すると共に前記離間間隔を前記モールド用樹脂4で満たすことによって、板状金属導体相互間を絶縁して、全体を積層一体化した、図1(a)、(b)に示すモールド樹脂成形体11を得る。
【0033】
なお、このモールド成形の方法としては、モールド成形用金型内7に溶融樹脂10を供給する加圧供給機構により、射出成形(インジェクション成形)やトランスファー成形などがあり、いずれも採用することができる。また、モールド成形の際には、溶融樹脂10の射出圧力によって、板状金属導体2、3が変形しないように、溶融樹脂10の射出圧力を上げ過ぎないようにすることが好ましい。また、溶融樹脂10の射出圧力を上げ過ぎないようにするという意味では、上記方法のほか、吐出圧力の小さいホットメルト成形も適しており、有利な方法として採用することができる。
【0034】
このモールド樹脂成形体11によれば、既に述べた通り、モールド用樹脂4として溶融粘度が50Pa・s以下の絶縁性を有する接着性樹脂組成物を用いることにより、その低い溶融粘度によって、板状金属導体2、3の狭い離間間隔に溶融樹脂が入り易くなり、ボイド(空洞)が発生するなど問題が生じないので、板状金属導体2、3の離間間隔を狭くすることができると共に、モールド成形時の溶融樹脂10の射出圧力を低く抑えることができるので、板状金属導体2、3の離間間隔の均一性を確保することができ、また、そのモールド用樹脂4の接着性によって、板状金属導体2、3とモールド用樹脂4の接着界面に剥離が生じないようにすることができる。これにより、複数の板状金属導体2、3を500μm以下の一定の離間間隔を置いて積層した場合であっても、信頼性の高い、健全な絶縁構造を有する、モールド樹脂成形体11を得ることができる。また、モールド用樹脂4の接着力(0.1N/mm以上)によっては、板状金属導体2、3とモールド用樹脂4の接着界面に剥離が生じないので、その剥離に起因した、モールド樹脂成形体の絶縁破壊や部分放電の発生が無くなり、これにより、より信頼性の高い、健全な絶縁構造を有する、モールド樹脂成形体11を得ることができる。勿論、高電圧での使用条件にも十分対応することができる。
【実施例】
【0035】
(実施例1)
図1及び図2を参照して説明すると、板状金属導体2として、図3(a)に示す長さ100mm、幅15mm、厚さ2mmの銅電極板を用いると共に、板状金属導体3として、図3(b)に示す長さ100mm、幅60mm、厚さ2mmの銅電極板を用い、両電極板を、その離間間隔が500μmとなるように積層した状態で所定の金型内にセットする。一方、モールド用樹脂4として、200℃における溶融粘度が26Pa・sのポリエステル系樹脂組成物(東洋紡績《株》製、GM960)を用い、図示しないホットメルト成形機にて、前記両電極板の周上に隙間なく、図3(c)に示すように長さ120mm、幅50mm、厚さ6.5mmの輪郭形状にモールド用樹脂4を被覆成形し、試験用モールド樹脂成形体(試料)11を作製した。モールド用樹脂の溶融粘度は、ASTM D3236に準拠し、Brookfield型粘度計を用いて測定した。
【0036】
(実施例2)
モールド用樹脂4として、200℃における溶融粘度が26Pa・sのポリエステル系樹脂組成物(東洋紡績《株》製、GM955)を用いる以外は、実施例1と同じ方法により、試験用モールド樹脂成形体11を作製した。
【0037】
(実施例3)
モールド用樹脂4として、200℃における溶融粘度が13Pa・sのポリオレフィン系接着性樹脂組成物(アロンエバーグリップ リミテッド《株》製、PPET6125)を用いる以外は、実施例1と同じ方法により、試験用モールド樹脂成形体11を作製した。
【0038】
(実施例4)
モールド用樹脂4として、200℃における溶融粘度が13Pa・sのポリオレフィン系接着性樹脂組成物(アロンエバーグリップ リミテッド《株》製、PPET6427)を用いる以外は、実施例1と同じ方法により、試験用モールド樹脂成形体11を作製した。
【0039】
(実施例5)
モールド用樹脂4として、200℃における溶融粘度が24Pa・sのポリオレフィン系接着性樹脂組成物(三菱化学《株》製、P908)を用いる以外は、実施例1と同じ方法により、試験用モールド樹脂成形体11を作製した。
【0040】
(実施例6)
モールド用樹脂4として、200℃における溶融粘度が10Pa・sとなるように、ポリオレフィンエラストマー(三井化学《株》製、ノティオPN−2070)に接着性ポリマー(クラリアントジャパン(株)製、PPMA6252)をブレンドした樹脂組成物を用いる以外は、実施例1と同じ方法により、試験用モールド樹脂成形体11を作製した。
【0041】
(実施例7)
モールド用樹脂4として、200℃における溶融粘度が10Pa・sとなるように、ポリプロピレン(日本ポリプロ《株》製、PPBC8)に接着性ポリマー(クラリアントジャパン(株)製、PPMA6252)をブレンドした樹脂組成物を用いる以外は、実施例1と同じ方法により、試験用モールド樹脂成形体11を作製した。
【0042】
(実施例8)
モールド用樹脂4として、200℃における溶融粘度が70Pa・sのポリエステル系樹脂組成物(東洋紡績《株》製、GM950)を用いる以外は、実施例1と同じ方法により、試験用モールド樹脂成形体11を作製した。
【0043】
(比較例1)、(比較例2)
モールド用樹脂4として、いずれも、200℃における溶融粘度が150Pa・sのポリエステル系樹脂組成物(東洋紡績《株》製、GM950)を用いる以外は、実施例1と同じ方法により、試験用モールド樹脂成形体11を作製した。
【0044】
(比較例3)
モールド用樹脂4として、200℃における溶融粘度が10Pa・sとなるように、ポリプロピレン(日本ポリプロ《株》製、BC8)にポリオレフィン(クラリアントジャパン(株)製、PP6102)をブレンドした樹脂組成物を用いる以外は、実施例1と同じ方法により、試験用モールド樹脂成形体11を作製した。
【0045】
ここで、上記実施例1〜8及び比較例1〜3により作製した各試験用モールド樹脂成形体(試料)について、1.絶縁体(被覆モールド樹脂)の健全性を判定する指標となる部分放電発生消滅電圧を、感度10pCで夫々測定した。それと共に、試験用モールド樹脂成形体を解体して、試験用モールド樹脂成形体の銅電極板間及び銅電極板の周囲の絶縁体中の、絶縁性に悪影響を与える大きさのボイドの有無や、絶縁体と銅電極板の接着界面における剥離の有無を夫々観察した。
【0046】
なお、部分放電発生消滅電圧の測定方法については、部分放電測定器を用い、その2枚の電極板の間に試験用モールド樹脂成形体(絶縁体)を挟んで、50Hzの電圧をかけて昇圧した際に10pCの部分放電が発生するときの電圧を測定すると共に、その後電圧を降下した際に部分放電が消滅するときの電圧を測定した。
【0047】
また、上記試験を終えた上記各試料について、2.−40℃〜140℃のヒートサイクルを100回繰り返した後、再度、絶縁体(被覆モールド樹脂)の健全性を判定する指標となる部分放電発生消滅電圧を、感度10pCで夫々測定した。これにより、ヒートサイクルを加える前(初期)と加えた後の、部分放電発生消滅電圧の測定値の変化を見た。
【0048】
また、上記各試料で用いた接着性樹脂組成物と夫々同じ樹脂組成物からなる厚さ1mmの樹脂板と、厚さ0.2mmの銅電極板を、220℃のホットプレス機で接着して、上記各試料に対応する、幅10mm、長さ100mmの短冊状の試験片を夫々作製した。そして、これらの試験片について、3.前記樹脂板と前記銅電極板との接着力を判定する指標となる剥離強度を夫々測定した。なお、この剥離強度の試験結果については、その接着力が0.1N/mm以上のものを「良」とし、0.1N/mm未満のものを「悪」とした。
これらの試験結果をまとめると、表1の通りである。
【0049】
【表1】

【0050】
表1より、実施例1においては、1.の(初期の)部分放電発生消滅電圧は、5kV以上の値が得られ、また、絶縁体(被覆モールド樹脂)中に、絶縁性に悪影響を与える大きさのボイドは見られず、絶縁体と銅電極板との接着界面における剥離も見られなかった。なお、銅電極板間の離間間隔の寸法の変化も見られなかった。また、2.の(ヒートサイクル後の)部分放電発生消滅電圧も、初期と同じ5kV以上の値が得られた。このことから、ヒートサイクル後においても、絶縁体(被覆モールド樹脂)と銅電極板が十分密着しており、前記したようなボイドや剥離が絶縁体中に存在してないことが確認された。また、3.の剥離強度については、樹脂板と銅電極板の接着力が、0.1N/mm以上であることが確認された。
【0051】
実施例2〜8においても、いずれも同様の結果が得られた。このことから、モールド用樹脂として、200℃における溶融粘度が50Pa・s以下の絶縁性を有する接着性樹脂組成物を用いることにより、銅電極板間の離間間隔が狭くても部分放電発生消滅電圧が高く、信頼性の高い健全な絶縁構造を有する、モールド樹脂成形体を得ることができることが確認された。
【0052】
これに対し、比較例1〜3においては、いずれも樹脂板と銅電極板の接着力が0.1N/mm未満と低く、絶縁体中にボイドや剥離が残存していることが確認された。また、部分放電発生消滅電圧も5kV未満と低い値であることが確認された。
【0053】
以上述べた実施例、比較例は、いずれもホットメルト成形による場合であるが、これに限定されるものではなく、射出成形(インジェクション成形)やトランスファー成形による場合においても、同様の結果が得られることは勿論である。
【0054】
また、本発明は、以上述べた実施の形態に限定されることなく、その発明の範囲において種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 端子部
2、3 板状金属導体
4 樹脂組成物(モールド用樹脂)
5 上金型
6 下金型
7 モールド成形用金型
8 キャビティ
9 射出ヘッド
10 溶融樹脂(溶融モールド用樹脂)
11 モールド樹脂成形体
12 絶縁フィルム
13 熱硬化性接着剤
14 接着剤付き絶縁フィルム
15 板状金属導体
16 ラミネート絶縁導体
17 絶縁層
18 絶縁スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の板状金属導体を500μm以下の一定の離間間隔を置いて積層し、モールド成形により、各板状金属導体の周上を溶融粘度が50Pa・s以下の絶縁性を有する接着性樹脂組成物で被覆すると共に前記離間間隔を前記樹脂組成物で満たすことによって、板状金属導体相互間を絶縁して、全体を積層一体化したことを特徴とするモールド樹脂成形体。
【請求項2】
前記樹脂組成物が、エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリエステル共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンナフタレート、無水マレイン酸グラフトポリエチレン、無水マレイン酸グラフトポリプロピレン、エチレン/アクリル酸/無水マレイン酸ターポリマーのうち、1種もしくは2種以上を組み合わせた、絶縁性及び接着性を有するポリマーからなることを特徴とする請求項1に記載のモールド樹脂成形体。
【請求項3】
前記樹脂組成物が、その前記板状金属導体との接着力が0.1N/mm以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のモールド樹脂成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−274602(P2010−274602A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−131240(P2009−131240)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】