説明

ヤンカー吸引器具

【課題】人間工学的な大きさ及び形状を有するように構成されたヤンカー吸引器具を提供する。
【解決手段】本発明のヤンカー吸引器具10は、細長い吸引チューブ12、カラー14、スリーブ及びハンドル部材46を含む。吸引チューブ12は、遠位端及び近位端を有し、遠位端に吸引先端部18を備え、近位端はハンドル部材と接続するように構成されている。カラー14は、吸引チューブに沿って、後退位置から前進位置まで摺動可能である。スリーブの近位端は、吸引チューブの近位端に対して固定されており、スリーブの遠位端は、カラーと共に移動しカラーが前進位置にあるときに吸引チューブを覆うことができるようにカラーと一体に構成されている。ハンドル部材46は、人間工学的な大きさ及び形状を有するように構成されており、吸引チューブを吸引源と接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2006年12月15日に米国特許商標庁に出願された「スリーブ及びワイパーを有するヤンカー吸引器具」と題された米国特許出願第11/640,114号の一部継続出願である。この米国特許出願明細書の全体は、引用を以って本明細書の一部となす。
【0002】
本発明は、当該技術分野で「ヤンカー(Yankauer)」として知られている種類の医療用吸引器具に関する。これらの器具は、一般的に、救急患者に対する口腔ケア又は他の処置の実施中に吸引を提供するために使用される。
【背景技術】
【0003】
様々な医療処置が、患者の口腔内の吸引を必要とする。このような処置は、挿管された患者に対して口腔ケア処置が行われる場合を含む。この目的のためのヤンカー吸引器具は一般に知られており、例えば、その一端が吸引源に接続可能な細長い吸引チューブ等が挙げられる。前記吸引チューブの他端は1つ又は複数の吸引孔を備える吸引先端部を有し、前記吸引先端部は患者の口腔内に入れられる。この従来の器具は十分な吸引力を有すると共に、臨床医が前記器具を吸引が必要とされる口腔の奥の領域に至らせることができるように比較的剛性に構成される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の器具に対する懸念は、静浄度と汚染危険性である。前記吸引器具は一般的に、24時間に渡って使用され、その後廃棄される。しかしながら、不使用時に、前記器具を清浄し、口腔内から付着した細菌が定着し増殖する危険性を最小限にする環境に保管する必要がある。これは、厄介な作業であり、残念なことに、必ずしも行われるとは限らない。前記器具は、通常は、棚(ledge)又は他の非殺菌表面に置かれる、或いは、患者の枕の下に押し込まれる。したがって、前記器具は汚染されたと見なされるため、最終的には廃棄する必要がある。この状況は、コストを著しく増加させるため、患者の医療に対して不都合である。
【0005】
ヤンカー器具に関連するいくつかの問題点を改善するための試みが行われている。例えば、不使用時に吸引チューブをスリーブ又は「シース(sheath)」で覆うようにした、シースを有する器具が知られている。しかしながら、前記シースは、吸引チューブの洗浄を行わず、実際には、チューブの表面上で細菌が急速に成長するための環境を助長する。特許文献1には、収縮自在の保護シースを有する吸引器具が開示されている。この器具の使用後は、臨床医は、吸引チューブ上でシースを前方へ摺動させる。前記器具は、前記シースの遠位端に取り付けられた自動閉鎖機構(キャップ)を有する。前記キャップは、吸引チューブの吸引先端部を覆う位置へ自動的に移動し、前記吸引先端部と係合して閉じ、前記シース内に収容された前記吸引チューブを外部から実質的に隔離することができる。しかしながら、前記シース及びキャップを前進させる前に前記吸引チューブ及び吸引先端部を完全に清浄しない限り、患者の口腔内から前記吸引チューブ及び吸引先端部に付着した細菌が残留して増殖する可能性があり、細菌の再コロニー形成及び/又は前記器具を次に使用する際の患者の再感染をもたらすおそれがある。
【0006】
従来のヤンカー吸引器具に対するさらなる懸念は、それらの多くが人間工学的な大きさ及び形状を有するように構成されていないことである。例えば、ある従来のヤンカー吸引器具は吸引圧力を与えるために常に押し下げたままにする必要があるボタンを必要とする。しかし、そのような従来のヤンカー吸引器具は、長時間快適に保持するのには小さすぎる、又は、不使用時に感染する危険がなく簡便に保管するための機構を備えていない。
【0007】
本発明は、従来の器具、特にシースを有する器具のいくつかの欠点を解決した改良されたヤンカー吸引器具に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、様々な態様の吸引処置に使用され得る吸引器具を提供する。前記吸引器具は、患者、特に挿管された患者の口腔内を吸引するためのヤンカー(yankauer)吸引器具として特に適している。前記吸引器具は、遠位端及び近位端を有し、前記遠位端に吸引先端部を備える細長い吸引チューブを含む。前記吸引チューブの近位端は、ハンドル部材と接続するように構成されている。カラーが前記吸引チューブを囲むように配置されており、前記カラーは前記吸引チューブに沿って後退位置から前進位置まで摺動可能である。前記吸引チューブの前記近位端に対して固定された近位端を有する可撓性の保護スリーブが設けられる。前記スリーブの遠位端は、前記カラーと共に移動し前記カラーが前進位置にあるときに前記吸引チューブを覆うことができるように前記カラーと一体に構成されている。ワイパーシールが前記カラー内に設置されており、前記ワイパーシールは前記吸引チューブの周面と摺動可能に摩擦係合する。
【0009】
前記ワイパーシールは、前記カラーがその前進位置に移動したときに、前記吸引チューブに沿って係合及び擦ることが可能な任意の適切なエラストマー材料から作成することができる。この材料としては、これに限定されるものではないが、エラストマー材料を含むことができる。このようにして、前記吸引器具の使用により前記吸引チューブの外面に蓄積した任意の粘液又は粒状物質を前記ワイパーシールによって前記吸引チューブから効果的に擦り取ると共に、擦り取った物質を前記吸引先端部の方に移動させて前記吸引先端部から吸引することができる。この洗浄作用は、大きな利益をもたらす。
【0010】
遠位端、近位端、上側部分及び下側部分を有するハンドル部材が、前記吸引チューブの前記近位端と接続可能である。前記ハンドル部材は、その近位端に、前記吸引チューブを吸引源に接続するように構成されたアダプタを備える。或いは、前記吸引チューブは、前記吸引源に直接的に取り付けられる。前記ハンドル部材はまた、その下側部分に、保管用チューブ留め部を備える。
【0011】
前記ヤンカー吸引器具は、前記吸引チューブの近位端を規定し、前記吸引チューブの前記近位端の直径よりも大きい直径を有し、かつ前記ハンドル部材を受容するように構成された外側接続部(吸引チューブカバー)をさらに含むことが望ましい。さらに、前記ハンドル部材の前記遠位端は、前記吸引チューブの前記近位端の直径よりも大きく前記外部接続部の直径よりも小さい直径を有し、前記外側接続部内に入れ子になるように構成されていることが望ましい。
【0012】
前記保管用チューブ留め部が前記ハンドル部材の前記遠位端に設置されること、及び、前記ハンドル部材が少なくとも1つのバルブを有することが望ましい。前記ハンドル部材は、スライダー型バルブと、前記スライダー型バルブを開閉するように構成されたスイッチとを含み得る。
【0013】
前記カラーの前記後退位置では、前記スリーブが前記吸引器具の使用を妨げないようにかつ前記吸引器具の使用中に前記スリーブを清潔に保つために、前記スリーブは前記カラーの内部に画定された収容凹部内に収容される。前記ワイパーシールと前記吸引チューブとの間の摩擦係合は、前記スリーブ及びカラーを前記後退位置に固定するための別途の留め具(latch)又は他の機構を使用せずに、スリーブが自由に摺動することなく前記後退位置に留まることを確実にする。
【0014】
前記カラーは、その遠位端に、端部が開口した細長い環状リング部分を有する。前記カラーが前記前進位置にあるときは、前記吸引先端部は前記リング部分内に収容される。前記リング部分及びワイパーシールは、前記カラーが前記前進位置にあるときにその内部に前記吸引先端部が収容されるクリーニングチャンバを概ね画定する。前記カラーが前記前進位置に摺動された後に前記吸引先端部から残留物質を除去するために、前記カラーは洗浄液が入れられた容器(例えばカップ)に浸漬される。前記カラーは端部が開口しているので、前記溶液は前記クリーニングチャンバ内及び前記吸引先端部の周囲を循環することができる。この洗浄中に、前記吸引先端部の洗浄作業をより乱流で行うために、前記吸引先端部からの吸引が行われる。この洗浄過程中に分泌物又は他の物質を前記吸引先端部又は前記クリーニングチャンバ内から除去するのをさらに補助するために、前記吸引先端部の近傍位置に追加的な吸引孔が設けられ得る。また、前記クリーニングチャンバの端部が開口した構造は前記吸引先端部を通る及びその周囲の良好な換気を促進し、使用又は洗浄後に前記吸引先端部を外部と接触させることなく乾燥させる。前記スリーブを伸張させた後に前記吸引先端部を完全に洗浄及び乾燥させるこの能力は、さらなる大きな利益をもたらす。
【0015】
前記吸引先端部は、任意の所望の形状及び構造を取り得る。ある特定の実施形態では、前記吸引先端部は、中央オリフィス及び1つ以上の側部オリフィスを有する球根状の端部を含む。上述したように、前記吸引先端部の洗浄を補助するために、前記吸引先端部に任意の数の追加的なオリフィスを設けることができる。前記カラーが前記前進位置にあるときは、前記ワイパーシールは前記球根状の吸引先端部と接触し、それにより、前記カラー及びスリーブのそれ以上の移動が阻止される。他の実施形態では、前記吸引先端部は、前記吸引チューブの延長部であり得、前記吸引チューブと同一の直径を有し得る。この実施形態では、前記カラー及びスリーブの前記前進位置は、前記吸引先端部が前記ワイパーシールを通過しないように、前記スリーブの長さにより規定される。
【0016】
前記ヤンカー吸引器具の前記ワイパーシールは、その表面に、シリコーン潤滑剤及び/又は抗菌コーティングをさらに含み得る。
【0017】
さらに、前記ヤンカー吸引器具の使用時は、人差し指及び親指は前記ハンドル部材の前記遠位端を実質的に覆う位置に置き、残りの指は前記保管用チューブ留め部の近傍位置に置く。このことにより、他の指を動かすことなく親指だけでスライドスイッチを近位方向に動かすことができる。
【0018】
本発明の他の態様では、遠位端及び近位端を有し、前記遠位端に吸引先端部が設置され、かつ前記近位端がハンドル部材と接続可能に構成された細長い吸引チューブを含むヤンカー吸引器具が提供される。前記吸引器具は、前記吸引チューブに沿って後退位置から前進位置まで摺動可能なカラーと、前記吸引チューブの前記近位端に対して固定された近位端、及び前記カラーと一体に構成された遠位端を有し、前記カラーと共に移動し前記カラーが前記前進位置にあるときに前記吸引チューブを覆うことができるように構成されたスリーブとを含む。前記吸引器具は、前記カラー内に設置され、前記吸引チューブの周面と摺動可能に摩擦係合するように構成されたワイパーシールと、遠位端、近位端、上側部分及び下側部分を有するハンドル部材とをさらに含む。前記ハンドル部材は、前記吸引チューブの前記近位端と接続可能である。前記ハンドル部材は、その近位端にアダプタを備える。前記アダプタは、前記吸引チューブを吸引源に接続するように構成されている。前記ハンドル部材は、さらに、その下側部分に保管用チューブ留め部を備える。加えて、前記ヤンカー吸引器具は、前記カラーの遠位端に画定された、端部が開口したクリーニングチャンバを含む。前記カラーが前記前進位置にあるときは、前記吸引先端部は、前記クリーニングチャンバ内に収容される。前記クリーニングチャンバは、前記ワイパーシールにより画定される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1A】本発明による吸引器具の動作を順番に示す斜視図である。
【図1B】本発明による吸引器具の動作を順番に示す斜視図である。
【図1C】本発明による吸引器具の動作を順番に示す斜視図である。
【図1D】カラー、スリーブ及び吸引チューブの断面図である。
【図2A】本発明による吸引器具と共に使用され得る吸引先端部の実施形態を示す斜視図である。
【図2B】本発明による吸引器具と共に使用され得る吸引先端部の実施形態を示す斜視図である。
【図3A】本発明による吸引器具のハンドル部材の一部を示す断面図である。
【図3B】本発明による吸引器具のハンドル部材の一部を示す断面図である。
【図4】本発明による吸引器具の一実施形態の遠位端を示す断面図である。
【図5】洗浄チャンバを含む本発明による吸引器具の一実施形態の遠位端を示す断面図である。
【図6】本発明による吸引器具の洗浄作業を示す斜視図である。
【図7】本発明によるハンドル部材の人間工学的な把持を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のヤンカー(yankauer)吸引器具は、スイッチのオンオフを容易に行う、手の自然な輪郭内にちょうど収まる、及び不使用時に容易に保管することができるように、人間工学的な大きさ及び形状を有するように構成された吸引器具を提供する。前記吸引器具は、病原体の吸引チューブへの伝染を最小限に抑えるための保護スリーブと、前記吸引チューブを清浄するための機構とを備えている。
【0021】
次に、いくつかの実施形態を図示した図面を参照して、本発明について詳細に説明する。これらの実施形態は本発明の全ての範囲を示すものではなく、添付された特許請求の範囲の範囲を逸脱しない範囲で、変形例及び均等物の形態で幅広く適用可能であることを当業者であれば理解できるであろう。さらに、ある実施形態の一部として説明された特徴は、それらを別の実施例に適用することにより、さらに別の実施例を生じさせ得る。そのような変形例及び実施形態は全て、本発明の特許請求の範囲に含まれるものとする。
【0022】
図1A乃至1Cは、本発明による吸引器具10の一実施形態を示す。器具10は、患者、特に挿管された患者の口腔内を吸引するための外科用のヤンカー器具として特に適している。吸引器具10は、遠位端14及び近位端16を有する細長い吸引チューブ12を含む。本明細書中で使用される場合、「遠位」は患者に最も近い方向を意味し、「近位」は臨床医に最も近い方向を意味する。吸引チューブ12は、その遠位端14に吸引先端部18を有する。吸引チューブ12は、遠位端14に向かって湾曲していることが好ましい。しかし、遠位端14は真っ直ぐであってもよい。遠位端14の湾曲は、吸引チューブ12が挿入される内腔への吸引チューブ12のアクセスを容易にする。
【0023】
吸引チューブ12の近位端16は、通常は挿菅された患者に対して行うヤンカー吸引器具用のタイプの、医療施設に一般的に設けられる任意の従来の吸引源に接続されるように構成される。吸引チューブ12は、前記吸引源に直接的に接続されるように、或いは、任意の態様又は構造の中間部材(例えば、ハンドル部材46)を介して前記吸引源と連通されるように構成される。そのような中間部材は、前記吸引器具を通る吸引流を調節する能力等の、任意の所望の機能を含み得る。
【0024】
吸引器具10はカラー24を含み、カラー24の本体部26には、後述するように、器具10の操作時に臨床医の指が置かれる中央凹部が構成され得る。カラー24は吸引チューブ12を囲むように配置されている。カラー24は、図1Cに示す後退位置(retracted position)から図1Aに示す前進位置(deployed position)まで、吸引チューブ12に沿って摺動可能である。
【0025】
可撓性の保護スリーブ36が、吸引チューブ12を囲むように配置されている。保護スリーブ36は、吸引チューブ12の近位端16に対して固定された近位端38を有する(図1B)。保護スリーブ36は、後退位置(図1C)と前進位置(図1A)との間でカラー24と共に移動できるようにカラー24と一体に構成された遠位端40(図4)を有する。前記スリーブは任意の適切な可撓性材料から作成し得るが、ヤンカー器具又は該装置の一部を廃棄すべきか否かを判断できるように分泌物を見えるようにするために、前記スリーブを半透明にすることが考慮される。
【0026】
図4を参照して、カラー24の内部にワイパーシール42が設置されている。ワイパーシール42は、例えば凹部等の任意の適切な機構によってカラー内に保持される。ワイパーシール42は、任意の適切な可撓性材料(すなわちエラストマー材料)から作成され、吸引チューブ12の周面と摺動可能に摩擦係合している。ワイパーシール42は、カラー24がその前進位置に移動したときに吸引チューブ12の表面を擦り、吸引チューブ12上の粘液又は粒状物質を吸引先端部18に向かって擦り取る。擦り取った物質は、その後、吸引先端部18から吸引して除去することができる。ワイパーシール42と吸引チューブ12との間の摩擦係合は、カラー24をチューブ12表面の任意の位置に固定するのに十分なものである。したがって、カラー24及びスリーブ36が後退位置にあるときは、カラー24をチューブ12に対して固定するための別途の留め具(latch)又は他の機構は不要である。
【0027】
図3A及び3Bに図示した吸引器具10の特定の実施形態では、吸引チューブ12の近位端16にハンドル部材46が設けられる。ハンドル部材46は、遠位端62、近位端64、下側部分66及び上側部分68を有する。図3Aに示すように、ハンドル部材46は、チューブ12を取り囲むように構成されている。また、ハンドル部材46は、吸引チューブ12と係合する内部孔44を有する。内部孔44は、吸引チューブ12を通じての吸引を提供するための任意の従来の吸引源と接続可能に構成されている。
【0028】
ハンドル部材46は、吸引器具10を通る吸引流を制御するための例えばバルブや他の器具等の、様々な態様の機能的な機構を含み得ることに留意されたい。多くの種類のバルブが本発明の使用に適するであろうと考えられ、そのようなものとしては、これに限定されるものではないが、例えば、ゲート型バルブ、ドーム型バルブ及びスライダー型バルブ等がある。ゲート型バルブ及びドーム型バルブは、特許文献2及び3に開示されている(特許文献2及び3の全文は、引用を以って本明細書の一部となす)。スライダー型バルブは、図3Aに示されている。スライダー型バルブは、スライダースイッチ72(オンオフスイッチ)を備えている。スライダー型バルブはスライダースイッチ72を近位方向又は遠位方向へ動かすことにより開閉され、このことにより分泌物を内部孔44を通じて吸引源へ吸引することを可能にする。
【0029】
図3A及び3Bを再び参照して、ハンドル部材46は、吸引器具10を吸引源又は他の中間部材に接続するための任意の適切なアダプタ48を有することが望ましい。アダプタ48は、多様な直径を有する外部吸引チューブへ挿入するための万能アダプタとして構成され得る。他の実施形態では、アダプタ48は、吸引器具10を吸引源又は他の部材と係合させるための、任意の種類の簡易脱着機構を含み得る。アダプタ48は、接続部分からの漏出を最小限に抑えるための、任意の態様の内部構造体を含み得る。例えば、アダプタ48は、内側接続部分を包囲し、内側接続部分からの漏出物をその内部に溜めるように構成された環状フランジ部分を含み得る。
【0030】
ハンドル部材46は、滑らかな表面を有することが好ましいと考えられる。滑らかな表面にすることにより、ハンドル部材46からの分泌物の除去が容易となる。また、滑らかな表面は、ハンドル部材46の表面の裂け目における細菌のコロニー形成の防止に役立つ。ハンドル部材46は、好ましくは滑らかな表面を有するため、ハンドル部材46の本体部の裂け目がハンドル部材46のしっかりとした把持を保証する必要はないと考えられる。むしろ、後述するように、前記保管用取付機構が、ハンドル部材46のしっかりかつ安定した把持を可能にする。
【0031】
図1A乃至図1C及び図3Bを参照して、ハンドル部材46はまた、不使用時に吸引器具10を保管するのに使用される保管用取付機構50を有し得る。この保管用取付機構50は、接着剤、磁石、機械的器具等の任意の種類の器具であり得る。図示した実施形態では、保管用取付機構50は、ハンドル部材46を様々な態様のチューブに取り付けることを可能にするような寸法に形成された保管用チューブ留め部52を含む。
【0032】
保管用取付機構50は、ハンドル部材46の遠位部分に配置されることが望ましい。しかし、保管用取付機構50は、ハンドル部材46の任意の位置に配置することができる。また、保管用取付機構50は、ハンドル部材46の下側部分66が下向きになったときにその遠位端先端部74が下側部分66を載置する表面上において汚染されないような寸法を有することが望ましい。
【0033】
また、保管用取付機構50は、吸引チューブ、又は例えばIVポールやベンチレータ等の病室の様々な領域への取り付けを可能にするため、実質的に「C」状の断面形状を有し得ることが考えられる。このことにより、ハンドル部材46を容易に保管することが可能となる。
【0034】
図7に示すように、保管用取付機構50は、看護師がハンドル部材46をよりしっかり握るための「トリガー」としての機能を果すとさらに考えられる。この点について、適切な使用時は、人差し指と親指はハンドル部材46の遠位端62を実質的に覆う位置に置き、残りの指は保管用チューブ留め部52の近傍位置に置く。指をこのように置くことにより、看護師は他の指を動かすことなく親指だけでスライドスイッチ72を近位方向に動かすことができる。この人間工学的な配置は、手が早く疲れることを防止し、前記器具をしっかりと掴めるようにし、かつ、前記スライダー型バルブの開閉操作を容易にする。
【0035】
図1C及び1Dを参照して、カラー24が後退位置にあるときは、スリーブ36は、吸引器具10の使用を妨げないようにカラー24の遠位端内に設けられた凹部55内に収容される。この収容機能はまた、吸引器具10の使用中にスリーブ36を清潔な環境に保つこと、及び、スリーブ36が後退位置にあるときにスリーブ36を外部環境に露出させないようにしてスリーブが裂けるのを防止することを確実にする。
【0036】
特定の実施形態では、吸引チューブ12の近位端16の周囲に配置された外側接続部60を備えることが望ましい。外側接続部60は、吸引チューブ12の近位端16及びハンドル部材46の遠位端先端部74の両方の直径よりも大きな直径を有し得る。このことにより、吸引チューブ12の近位端16よりも直径が大きいハンドル部材46の遠位端先端部74の吸引チューブ12(遠位端先端部74に挿入される)に対する緊密な接続を維持すること、及び遠位端先端部74を外側接続部60内に入れ子にすることを可能にする。このように、外側接続部60は、ハンドル部材46の遠位端62の構造的な支持を強化し、分泌物が吸引源へ移動するために吸引チューブ12を通ってハンドル部材46の内部孔44へ移動する際に漏出する可能性を最小限に抑えるように構成されている。
【0037】
吸引チューブ12の吸引先端部18は、任意の所望の形状又は構造を取り得る。例えば、図2A及び2Bに、吸引先端部18の様々な実施形態が示されている。図2Aの実施形態では、吸引先端部18は、中央吸引オリフィス22と複数の側部オリフィス23とを有する球根状端部20を含む。丸みを帯びた非刺激性の表面を有するという球根状端部20の構造は、患者の様々な不快を最小限に抑えることができるので望ましい。また、より完全な吸引を提供するために、並びに吸引先端部18の洗浄を補助するために、任意の構造のオリフィス21を近傍に設けることもできる。図2Bの実施形態では、吸引先端部18は、中央吸引オリフィス22と側部オリフィス23とを有する概ね円筒状の本体部30を含む。円筒状の本体部30は、吸引チューブ12の直径と概ね一致する直径を有する。この特定の実施形態は、より大きな吸引先端部18ではアクセスすることができないより離れた領域を清浄するために吸引器具10を使用する必要がある場合に望ましい。
【0038】
球根状の吸引先端部18を有する吸引チューブ12の実施形態が、図4に示されている。この特定の構造では、必要以上の力がかかならければ、球根状の吸引先端部18の比較的大きな直径により、吸引先端部18がワイパーシール42を完全に通過するのを防止することを理解されたい。したがって、カラー24の前進位置は、ワイパーシール42が吸引先端部18の球根状端部20に対して隣接する位置と規定される。吸引先端部18が吸引チューブ12の直径と一致する概ね円筒状の本体部30を含む実施形態では、吸引チューブ12の吸引先端部18がワイヤシール42を完全に通過して保護スリーブ36内に引き込まれないように、スリーブ36の伸張長さによりカラー24の前進位置を規定するように、スリーブ36の長さを綿密に調節することができる。
【0039】
また、吸引先端部18がカラー24を完全に通過するのを防止するために、カラー24の内部におけるワイパーシール42の両側に内壁又はフランジ構造を設けることができることを理解されたい。
【0040】
図4を参照して、特に、吸引器具10の特定の実施形態では、カラー24はその遠位端に、端部が開口した細長い環状リング部分32を有する。図4に示すように、環状リング部分32は、カラー24が前進位置にあるときに吸引先端部18が収納されるチャンバ34を画定する。チャンバ34はワイパーシール42と共に、吸引先端部18が収容されるクリーニングチャンバを画定する。特に図6を参照して、カラーが前進位置にある状態の吸引器具10の遠位端を、洗浄液56が入れられた容器58に浸漬させる洗浄作業が示されている。前記洗浄液は、チャンバ34内の吸引先端部18の周囲を循環する。洗浄作業をより乱流で行うために、吸引器具10を洗浄液中に浸した状態で、吸引先端部18からの吸引が行われる。この乱流での洗浄作業は、ワイパーシール42の作用により吸引先端部18へと擦り取られた残留粘液又は粒状物質を除去するのに十分なものであろう。近位側に配置された吸引オリフィス21は、吸引先端部18の近位側に堆積し得るいかなる物質をもこの洗浄過程で除去することを確実にする。
【0041】
前記吸引器具の個々の構成要素は、複数の材料の任意の適切な組み合わせから作成し得ることを理解されたい。例えば、前記吸引チューブは、患者から吸引された分泌物を臨床医が見ることを可能にする、任意の透明な医療グレードのポリマーから作成することができる。前記カラーは、高分子材料、例えばポリプロピレン材料から作成することができる。保護スリーブ36は、ポリエチレン又はポリプロピレンから作成することができる。ワイパーシール42は、任意の適切な可撓性材料、例えば医療グレードのシリコーンから作成することができる。さらに、ワイパーシールは、潤滑剤、例えばシリコーン潤滑剤により被覆され得る。シリコーン潤滑剤は、ワイパーシールのヤンカーチューブのシャフトに対する滑らかな摺動を可能にする。シリコーン潤滑剤は、チューブ上の分泌物の除去を手助けするという、さらなる利益をもたらす。この点について、潤滑されていないチューブよりも潤滑されたチューブの方が、分泌物が接着又は粘着する可能性が低くなる。
【0042】
さらに、ワイパーシール、スリーブ、及び/又は吸引チューブは、微生物負荷、及び吸引チューブ上での感染又は再コロニー形成をさらに減少させるのを手助けするために、抗菌コーティングにより被覆し得ることを理解されたい。適切な抗菌性材料としては、これに限定されるものではないが、例えば、トリクロサン、クロルヘキシジン、荷電された銀、ポリヘキサメチレンビグアナイド、キトサングリコール酸塩、オクタデシルアミノジメチルトリメトキシシリルプロピルアンモニウム塩化物、N−アルキルポリグリコキシド、PG−ヒドロキシエチルセルロースココジモニウムクロリド(第4級アンモニウムセルロース塩)、キシリトール、2−ヒドロキシ−1,2,3−プロパントリカルボン酸、ベンゼンカルボン酸、2−ヒドロキシ安息香酸、メタンカルボン酸、1,3−プロパンジカルボン酸、ヨード、エチルヒドロキシエチルセルロース、又はポリビニルピロリドン等がある。
【0043】
本明細書中で説明された本発明の実施形態の改変及び変更が可能であることは、当業者であれば容易に理解できるであろう。そのような改変は、添付した特許請求の範囲に規定された本発明の範囲及び精神から逸脱しない限り、本発明に含まれるものとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0044】
【特許文献1】米国特許第6,500,142号明細書
【特許文献2】米国特許第6,129,547号明細書
【特許文献3】米国特許第6,632,097号明細書

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヤンカー吸引器具であって、
遠位端及び近位端を有し、前記遠位端に吸引先端部を備え、かつ前記近位端がハンドル部材に接続可能に構成された細長い吸引チューブと、
前記吸引チューブに沿って後退位置から前進位置まで摺動可能なカラーと、
前記吸引チューブの前記近位端に対して固定された近位端、及び前記カラーと一体に構成された遠位端を有し、前記カラーと共に移動し前記カラーが前記前進位置にあるときに前記吸引チューブを覆うことができるように構成されたスリーブと、
前記カラー内に設置され、前記吸引チューブの周面と摺動可能に摩擦係合するワイパーシールと、
遠位端、近位端、遠位端先端部、上側部分及び下側部分を有し、前記遠位端が前記吸引チューブの前記近位端と接続可能であり、前記近位端が前記吸引チューブを吸引源に接続するように構成されたアダプタを備え、かつ前記下側部分が保管用チューブ留め部を備えるハンドル部材とを含むことを特徴とするヤンカー吸引器具。
【請求項2】
請求項1に記載のヤンカー吸引器具であって、
前記吸引チューブの近位端を規定し、前記吸引チューブの前記近位端の直径よりも大きい直径を有し、かつ前記ハンドル部材を受容するように構成された外側接続部をさらに含むことを特徴とするヤンカー吸引器具。
【請求項3】
請求項2に記載のヤンカー吸引器具であって、
前記ハンドル部材の前記遠位端先端部は、前記吸引チューブの前記近位端の直径よりも大きく前記外部接続部の直径よりも小さい直径を有し、前記外側接続部内に入れ子になるように構成されていることを特徴とするヤンカー吸引器具。
【請求項4】
請求項1に記載のヤンカー吸引器具であって、
前記保管用チューブ留め部が、前記ハンドル部材の前記遠位端に設置されることを特徴とするヤンカー吸引器具。
【請求項5】
請求項1に記載のヤンカー吸引器具であって、
前記カラーが前記後退位置にあるときは、前記スリーブが前記カラー内に設けられた収容凹部内に収容されることを特徴とするヤンカー吸引器具。
【請求項6】
請求項1に記載のヤンカー吸引器具であって、
前記カラーは、その遠位端に、端部が開口した細長い環状リング部分を有し、
前記カラーが前記前進位置にあるときは、前記吸引先端部が前記リング部分内に収容されることを特徴とするヤンカー吸引器具。
【請求項7】
請求項6に記載のヤンカー吸引器具であって、
前記吸引先端部が球根状の端部を有し、
前記カラーの前記前進位置が、前記ワイパーシールが前記球根状の端部と接触する位置と規定されることを特徴とするヤンカー吸引器具。
【請求項8】
請求項7に記載のヤンカー吸引器具であって、
前記吸引先端部が前記吸引チューブの直径と概ね一致する直径を有し、
前記吸引先端部が前記ワイパーシールを通過しないように、前記カラーの前記前進位置が前記スリーブの長さにより規定されることを特徴とする吸引器具。
【請求項9】
請求項1に記載のヤンカー吸引器具であって、
前記ワイパーシールがその表面にシリコーン潤滑剤をさらに含むことを特徴とするヤンカー吸引器具。
【請求項10】
請求項1に記載のヤンカー吸引器具であって、
前記ワイパーシールがその表面に抗菌コーティングをさらに含むことを特徴とするヤンカー吸引器具。
【請求項11】
請求項1に記載のヤンカー吸引器具であって、
使用時は、人差し指及び親指を前記ハンドル部材の前記遠位端を実質的に覆う位置に置き、残りの指を前記保管用チューブ留め部の近傍位置に置き、
他の指を動かすことなく親指だけでスライドスイッチを近位方向に動かすようにしたことを特徴とするヤンカー吸引器具。
【請求項12】
ヤンカー吸引器具であって、
遠位端及び近位端を有し、前記遠位端に吸引先端部を備え、かつ前記近位端が吸引源に接続可能に構成された細長い吸引チューブと、
前記吸引チューブに沿って後退位置から前進位置まで摺動可能なカラーと、
前記吸引チューブの前記近位端に対して固定された近位端、及び前記カラーと一体に構成された遠位端を有し、かつ前記カラーと共に移動し前記カラーが前記前進位置にあるときに前記吸引チューブを覆うことができるように構成されたスリーブと、
前記カラー内に設置され、前記吸引チューブの周面と摺動可能に摩擦係合するワイパーシールと、
遠位端、近位端、遠位端先端部、上側部分及び下側部分を有し、前記遠位端が前記吸引チューブの近位端と接続可能であり、前記近位端が前記吸引チューブを吸引源に接続するように構成されたアダプタを備え、かつ前記下側部分が保管用チューブ留め部を備えるハンドル部材と、
前記カラーの遠位端に画定された、端部が開口したクリーニングチャンバとを含み、
前記カラーが前記前進位置にあるときは、前記吸引先端部が前記クリーニングチャンバ内に収容されることを特徴とするヤンカー吸引器具。
【請求項13】
請求項12に記載のヤンカー吸引器具であって、
前記クリーニングチャンバが、前記ワイパーシールにより画定されることを特徴とするヤンカー吸引器具。
【請求項14】
請求項13に記載のヤンカー吸引器具であって、
前記吸引先端部が球根状の端部を有し、
前記カラーの前記前進位置は、前記ワイパーシールが前記球根状の端部と接触する位置と規定されることを特徴とするヤンカー吸引器具。
【請求項15】
請求項13に記載のヤンカー吸引器具であって、
前記吸引先端部が前記吸引チューブの直径と概ね一致する直径を有し、
前記カラーの前記前進位置は、前記吸引先端部が前記ワイパーシールを通過しないように、前記スリーブの長さにより規定されることを特徴とするヤンカー吸引器具。
【請求項16】
請求項1又は12のいずれかに記載のヤンカー吸引器具であって、
前記ハンドル部材が少なくとも1つのバルブを有することを特徴とするヤンカー吸引器具。
【請求項17】
請求項16に記載のヤンカー吸引器具であって、
前記少なくとも1つのバルブがスライダー型バルブであることを特徴とするヤンカー吸引器具。
【請求項18】
請求項17に記載のヤンカー吸引器具であって、
前記ハンドル部材が、前記スライダー型バルブを開閉するように構成されたスライドスイッチをさらに備えることを特徴とするヤンカー吸引器具。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−512824(P2010−512824A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−540913(P2009−540913)
【出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際出願番号】PCT/IB2007/054946
【国際公開番号】WO2008/075241
【国際公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(504460441)キンバリー クラーク ワールドワイド インコーポレイテッド (396)
【Fターム(参考)】