説明

ヨウ化水素酸の製造方法

【課題】偏光フィルム等を製造する際に生じる廃液からヨウ化水素酸を製造すると共に、廃液中のホウ素も効率よく回収することができるヨウ化水素酸の製造方法を提供する。
【解決手段】ヨウ素:全ヨウ素量で2〜300g/リットル、ホウ素:0〜50g/リットル、カリウム:0.6〜92g/リットル及び水溶性有機化合物TOC:0〜50g/リットルを含有する廃液をpHが7以下になるように調整した後、電気透析法により廃液中のヨウ素をヨウ化カリウム濃縮液として分離する。そして、ヨウ化カリウム濃縮液は、バイポーラ膜電気透析法により、ヨウ化水素酸水溶液と水酸化カリウム水溶液とに分離した後、蒸留精製してヨウ化水素酸を得る。また、廃液からヨウ素が分離された第1脱塩液は、pHが11以上となるように調整した後、電気透析法により前記脱塩液中のホウ素をホウ酸濃縮液として分離し、更にこのホウ酸濃縮液からホウ酸を晶析させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光フィルム等を製造する際に生じる廃液からヨウ化水素酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ等に使用される偏光フィルムは、ヨウ素を吸着配向させたポリビニルアルコール系フィルム(PVAフィルム)が一般的に知られている。このような偏光フィルムのうち、ヨウ素系偏光フィルムは、通常ヨウ素を吸着配向させたPVAフィルムをホウ酸(及びヨウ化カリウム)含有水溶液中で浸漬処理して製造される。その後このような偏光フィルムは、通常、偏光フィルムの少なくとも片面、好ましくは両面に保護膜を貼合した偏光板として用いられる。この製造工程においては、ヨウ素及びヨウ素イオン、ホウ酸、カリウムイオン及び水溶性有機物等を含む廃液が生じる。このような製造廃液は、一般に、凝集法、吸着法、イオン交換法及び濾過法等により、その中に含まれる特定の成分を排水基準で定められている値以下にした後、工業排水として排出するか、又は濃縮することにより減容化した後、産業廃棄物として処理されている。このような廃液の処理では世界的に貴重な資源のヨウ素の廃棄に繋がり問題となっている。
【0003】
しかしながら、近年、排水基準が一段と厳しくなっており、凝集法、吸着法、イオン交換法及び濾過法等の従来の処理方法では、排水中のホウ素濃度を基準値以下にすることは困難であり、またヨウ素による活性汚泥菌の死滅等による問題が発生する。また、産業廃棄物についても、処理コスト及び環境問題等の点から、排出量削減が望まれている。
【0004】
そこで、従来、排水からホウ素及びヨウ素を効率よく除去することを目的として、先ず、ヨウ素及びホウ素を含有する排水のpHを8〜14に調整して、その後、ホウ素濃度が0.5質量%以上になるように濃縮し、この濃縮液を冷却すると共にpHを1〜7に調整することでホウ素分を析出分離した後、ホウ素分離後の液に塩素を添加することでヨウ素を沈降させて回収する処理方法が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−231325号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述した従来の技術には、以下に示す問題点がある。即ち、特許文献1に記載の排水の処理方法は、排水からヨウ素及びホウ素を除去することを目的としているため、分離回収した後のヨウ素及びホウ素の用途又は処理方法については、何ら検討がなされていない。また、特許文献1に記載の処理方法は、加熱蒸発により水を揮散させ、濃縮する工程であるため、設備も大きくなり、処理コストもかかるという問題点がある。
また、ホウ素の析出工程をpH1〜4で行っており、ヨウ素濃度が10%位と想定される高い溶液を酸性にするとヨウ素イオンが酸化されて、遊離ヨウ素が生成してしまい、有機物を吸着させるために添加した活性炭または酸性白土に吸着し、吸着剤の劣化が促進されるという問題点もある。
【0006】
本発明は、偏光フィルム等を製造する際に生じる廃液からヨウ化水素酸を製造すると共に、廃液中のホウ素も効率よく回収することができるヨウ化水素酸の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るヨウ化水素酸の製造方法は、ヨウ素:全ヨウ素量で2〜300g/リットル、アルカリ金属:0.6〜92g/リットルを含有する廃液からヨウ化水素酸を製造する方法であって、前記廃液をpHが7以下になるように調整した後、電気透析法により前記廃液中のヨウ素をヨウ化カリウム濃縮液として分離する工程と、前記ヨウ化カリウム濃縮液を、バイポーラ膜電気透析法により、ヨウ化水素酸水溶液と水酸化カリウム水溶液とに分離する工程とを有することを特徴とする。
【0008】
このヨウ化水素酸の製造方法では、更に前記廃液はホウ素:0〜50g/リットルを含有し、上記分離する工程においてヨウ素が分離された脱塩液を、pHが11以上となるように調整した後、電気透析法により前記脱塩液中のホウ素をホウ酸濃縮液として分離する工程を有するようにしてもよい。
このヨウ化水素酸の製造方法では、更に、前記ヨウ化水素酸水溶液を蒸留して精製する工程を有していてもよい。
【0009】
また、前記ホウ酸濃縮液を酸性にして、ホウ酸を晶析させる工程を有することもできる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電気透析法により廃液からヨウ素及びホウ素を夫々分離すると共に、バイポーラ膜電気透析法によりヨウ化カリウムからヨウ化水素酸を生成しているため、偏光フィルム等を製造する際に生じる廃液からヨウ化水素酸を製造できると共に、廃液中のホウ素も濃縮、分離出来、効率よく回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付の図面を参照して詳細に説明する。本発明のヨウ化水素酸の製造方法は、少なくとも、ヨウ素:全ヨウ素量で2〜300g/リットル、ホウ素:0〜50g/リットル、アルカリ金属を含有する廃液から、ヨウ化水素酸を製造する方法である。この廃液には、水溶性有機化合物(TOC):0〜50g/リットルが含有するものであってもよい。ちなみに、この廃液には、ホウ素が含まれていない場合もある。また、上述したアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等であるが、以下の例においては、カリウムが0.6〜92g/リットル含まれている場合を例にとり説明をする。このような組成を有する廃液としては、例えば、液晶ディスプレイ等に使用される偏光フィルムの製造工程で発生する廃液等が挙げられるが、これに限定されるものではない。そして、これらの製造廃液においては、上記成分に加えて、更に、ナトリウム:0〜5g/リットル、エタノール:0〜50g/リットル、硫酸イオン:0〜1g/リットル、ケイ素:0〜0.1g/リットルが含まれている場合がある。
【0012】
図1は本発明の実施形態に係るヨウ化水素酸の製造方法を示すブロック図である。図1に示すように、本実施形態のヨウ素化水素酸の製造方法においては、先ず、廃液のpHを7以下に調整した後、電気透析装置に導入する。本実施形態において使用する電気透析装置は、例えば、陽極と陰極との間にカチオン交換膜とアニオン交換膜とが交互に配置され、これらカチオン交換膜及びアニオン交換膜により複数のセルが構成されているものである。この電気透析装置は、陽極と陰極との間に直流電流を印加した状態で、中央のセルに廃液を導入すると、廃液中のヨウ素イオン及びカリウムイオンが夫々陽極側及び陰極側に移動し、中央のセルの両側のセルにおいて、ヨウ化カリウム(KI)が生成する。そして、KIを2〜300g/リットル程度含む水溶液(KI濃縮液)と、ヨウ素量が0.5g/リットル以下に低減された第1脱塩液とが、電気透析装置から排出される。
【0013】
このとき、電気透析装置に導入する廃液のpHが7を超えていると、ホウ酸(HBO)が解離してホウ酸イオンの量が多くなるため、電気透析時にホウ酸イオンがKI濃縮液に混入し、電機透析装置から排出される脱塩液中のホウ素量が低下する。一方、廃液のpHが7以下の場合、ホウ酸の大部分は解離せずに分子として存在しているため、電気透析を行っても、ホウ酸はほとんど移動せず、そのままの状態で排出される。これにより、廃液中のホウ素とヨウ素とを効率よく分離することができる。なお、廃液が酸性の場合、遊離ヨウ素が生成し、イオン交換膜が劣化して電気透析の効率が低下することがある。よって、廃液のpHは3以上とすることが好ましい。これにより、ヨウ素イオンの空気酸化による遊離ヨウ素の生成も抑制することができる。または遊離ヨウ素が生成しないように亜硫酸カリウム等の還元剤により酸化還元電位を制御しても良い。そのときは陰イオン交換膜を1価のイオンのみを移動出来る選択性膜を使用すれば、KI濃縮液に硫酸イオンが混入するのを防止することが出来る。
【0014】
次に、電気透析装置から排出されたKI濃縮液をバイポーラ膜電気透析装置に導入する。図2はバイポーラ膜電気透析装置の構成を模式的に示す図である。本実施形態で使用するバイポーラ膜電気透析装置1は、例えば、図2に示すように、陽極(+)2と陰極(−)3との間に、カチオン交換膜4kとアニオン交換膜4aとが交互に配置され、それらの間にバイポーラ膜4bが配置されているものである。即ち、このバイポーラ膜電気透析装置1では、陽極(+)2側から、カチオン交換膜4k、バイポーラ膜4b、アニオン交換膜4aが、この順に配置されている。ただし、最も電極側の膜は、カチオン交換膜4kになるように配列されている。また、バイポーラ電気透析装置1におけるバイポーラ膜4bは、カチオン交換膜とアニオン交換膜とを貼り合わせたものであり、一方の面がカチオン交換膜として作用し、他方の面がアニオン交換膜として作用する。
【0015】
そして、最も外側に配置されたカチオン交換膜4kと陽極(+)2又は陰極(−)3との間に、電極液としてKOH水溶液を通流させると共に、アニオン交換膜4aとカチオン交換膜4kとの間にKI濃縮液を導入し、陽極(+)2と陰極(−)3との間に直流電流を印加する。これにより、KI濃縮液中のKIが電気分解され、Iは陽極(+)2側に移動し、Kは陰極(−)3側に移動し、更に、カチオン交換膜4k、バイポーラ膜4b及びアニオン交換膜4aで分離されるため、バイポーラ電気透析装置1からは、ヨウ化水素酸水溶液(HI液)と水酸化カリウム水溶液(KOH液)とが排出される。その後、HI液を蒸留して精製し、ヨウ化水素酸を得る。
【0016】
このように、KI濃縮液からHI水溶液を得る工程に、バイポーラ電気透析装置を使用すると、水の解離により生成した水素イオンと水酸イオンを利用することとなるため、操作も良く、更にカリウムをKOHとして回収出来るのでpH調整として再利用とすることができる。
【0017】
一方、ホウ酸(HBO)及び有機物等を含む第1脱塩液は、NaOH、KOH等の水酸化アルカリを添加してpHを11以上に調整した後、電気透析装置に導入する。この電気透析装置ではホウ素が分離され、NaB(OH)、KB(OH)を300〜500g/リットル程度含む水溶液(ホウ酸濃縮液)と、ヨウ素に加えて、ホウ素量も0.1g/リットル以下に低減された第2脱塩液とが排出される。そして、ホウ酸濃縮液は、pHを酸性にすることでホウ酸を晶析させ、回収する。一方、有機物等を含有する第2脱塩液は、活性汚泥処理等の処理を行い、有機物の値を排水基準値以下にし、更にpHを所定の範囲内(例えば、pH5.8〜8.6)に調整した後、放流する。
【0018】
上述の如く、本実施形態のヨウ化水素酸の製造方法においては、電気透析により廃液中のヨウ素及びホウ素を分離しているため、他の成分の混入がなく、容易にかつ効率的にKI濃縮液及びホウ酸濃縮液を回収することができる。また、KI濃縮液からHI水溶液を得る際に、バイポーラ膜電気透析を適用しているため、ヨウ化水素酸と水酸化カリウムとの分離することが出来、水酸化カリウムはpH調整剤として再利用することができる。その結果、本実施形態のヨウ化水素酸の製造方法は、廃液から効率よくヨウ化水素酸を製造することができると共に、廃液中のホウ素もホウ酸として効率よく回収することができる。
【0019】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
【実施例1】
【0020】
ヨウ素量が16g/リットル、ホウ素量が5.4g/リットル、カリウム量が4.9g/リットル、TOCが0.01g/リットルで、pHが5.2の偏光フィルム製造廃液10リットルを、電気透析装置(株式会社アストム製 アシライザーS3型)により、濃縮液として水1リットルを使用し、10Vの定電圧で6時間透析を行った。なお、この電気透析装置における膜面積は0.055mである。陰イオン交換膜にはACS−8T、陽イオン交換膜にはK501−SBを使用した。その結果、電気透析後の濃縮液はヨウ素量が150g/リットル、ホウ素量が1.0g/リットル、カリウムが46g/リットル、TOCが0g/リットルであり、ヨウ素移動率は94%、ホウ素移動率は1.9%であった。また、脱塩液はヨウ素量が1.0g/リットル、ホウ素量が5.3g/リットル、カリウム量が0.3g/リットル、TOCが0.01g/リットルであった。
【実施例2】
【0021】
実施例1でヨウ素を移動させた後の廃液、ヨウ素量が1.0g/リットル、ホウ素量が5.3g/リットル、カリウム量が0.3g/リットル、TOCが0.01g/リットルでpHが5.2の溶液1リットルに48%NaOH水溶液を0.026リットル添加してpHを11にし、電気透析装置により、濃縮液として水0.2リットルを使用し、10Vの定電圧で3時間透析を行った。陰イオン交換膜にはAHA、陽イオン交換膜にはCMBを使用した。その結果、電気透析後の濃縮液はヨウ素濃度が4.75g/リットル、ホウ素濃度が25g/リットルであった。ホウ素の移動率は94%であった。また、脱塩液はヨウ素量が0.05g/リットル、ホウ素濃度が0.3g/リットル、TOCが0.01g/リットルであった。
【実施例3】
【0022】
実施例1でヨウ素を移動させた濃縮液、ヨウ素量が150g/リットル、ホウ素量が1.0g/リットル、カリウムが46g/リットルの溶液1リットルをバイポーラ膜電気透析装置(株式会社アストム製 アシライザーEX3B型)により、酸回収液0.7リットル、アルカリ回収液1リットルを使用し、25Vの定電圧で6時間透析を行った。バイポーラ膜はBP−1E、イオン交換膜にはACS、陽イオン交換膜にはCMBを使用した。その結果。電気透析後の酸液のヨウ化水素酸濃度が211g/リットルでpHは0以下、アルカリ液の水酸化カリウム濃度が45g/リットルでpHは14以上であった。ヨウ素、カリウムの移動率は共に98%であった。また、脱塩液のヨウ素濃度は2g/リットル、ホウ素濃度は1.0g/リットル、カリウム濃度は0.6g/リットルであった。
【実施例4】
【0023】
実施例3でヨウ化水素酸にした酸液、ヨウ化水素酸が211g/リットル溶液1リットルを単蒸留装置に入れ、140℃で加熱した。フラスコ内温度は100℃で、初留として水が0.72リットル蒸留後、HI液が0.2リットル得られた。回収率は85%であった。得られたHI液を分析した結果、ヨウ化水素濃度は56.2%でJISK8917のJIS試薬よう化水素酸の濃度に適合するものであった。
【実施例5】
【0024】
実施例2でホウ素を移動した濃縮液、ヨウ素濃度が5.3g/リットル、ホウ素濃度が25/リットルの溶液に70%硫酸0.021リットルを入れて、pHを3に調整後、10℃の冷水下で1時間撹拌した。析出した結晶を濾過、水洗、乾燥した後、ホウ酸として117g回収した。回収率は80%であった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係るヨウ化水素酸の製造方法を示すブロック図である。
【図2】バイポーラ電気透析装置の構成を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1 バイポーラ電気透析装置
2 陽極
3 陰極
4a アニオン交換膜
4b バイポーラ膜
4k カチオン交換膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ素:全ヨウ素量で2〜300g/リットル、カリウム:0.6〜92g/リットルを含有する廃液からヨウ化水素酸を製造する方法であって、
前記廃液をpHが7以下になるように調整した後、電気透析法により前記廃液中のヨウ素をヨウ化カリウム濃縮液として分離する工程と、
前記ヨウ化カリウム濃縮液を、バイポーラ膜電気透析法により、ヨウ化水素酸水溶液と水酸化カリウム水溶液とに分離する工程とを有することを特徴とするヨウ化水素酸の製造方法。
【請求項2】
前記廃液は、更にホウ素:0〜50g/リットルを含有し、
上記分離する工程においてヨウ素が分離された脱塩液を、pHが11以上となるように調整した後、電気透析法により前記脱塩液中のホウ素をホウ酸濃縮液として分離する工程を有すること
を特徴とする請求項1記載のヨウ化水素酸の製造方法。
【請求項3】
更に、前記ヨウ化水素水溶液を蒸留して精製する工程を有することを特徴とする請求項1に記載のヨウ化水素酸の製造方法。
【請求項4】
更に、前記ホウ酸濃縮液を酸性にして、ホウ酸を晶析させる工程を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のヨウ化水素酸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−23847(P2009−23847A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−177640(P2007−177640)
【出願日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(392000888)合同資源産業株式会社 (16)
【Fターム(参考)】