説明

ヨウ化物イオンと鉄(II)イオンを含む酸性溶液の酸化処理方法

【課題】ヨウ化物イオンと、鉄(II)イオンとを含有する酸性溶液から鉄(III)イオンを効率よく且つ安定的に生産する方法を提供する。
【解決手段】下記工程(a)〜(b)を繰り返し連続的に行うことを含む方法:
(a)リアクター内で、鉄酸化微生物が付着した微生物固定化担体を用いて、ヨウ化物イオンと鉄(II)イオンとを含む酸性溶液中の鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化する工程;
(b)沈降槽内で、工程(a)で得た液の沈降分離を行って、鉄(III)イオンを含む溶液を得るのと同時に、沈降物である前記鉄酸化微生物が付着した微生物固定化担体を回収して前記(a)のリアクターに投入する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄酸化微生物を用いて鉄(III)イオンを含む酸性溶液を産生する方法に関し、特にヨウ化物イオンと鉄(III)イオンを用いた硫化銅鉱の浸出に適用される。
【背景技術】
【0002】
一般に湿式製錬による硫化銅鉱の浸出形態としては、硫酸または塩酸を用いた回分攪拌反応による浸出形態、積層体を形成しその頂部から硫酸または塩酸を供給して重力により滴り落ちる液を回収する浸出形態(ヒープリーチング法)などが知られている。また、鉄酸化微生物などのバクテリアの力を借りて銅を効率よく浸出し、回収する方法(バイオリーチング)も知られている。
【0003】
硫化銅鉱の湿式製錬は、輝銅鉱,銅藍等の二次硫化銅鉱に対してはバイオリーチング法などが実用化されている。しかしながら、黄銅鉱などの一次硫化銅鉱は鉱酸への溶解度が極めて低いため、常温で浸出を行うと浸出速度が非常に遅いという問題がある。
【0004】
上述の問題に対して、本出願人は現時点で未公開の特願2009−193197号(特許文献1)において、ヨウ化物イオンおよび酸化剤としての鉄(III)イオン共存下、常温において黄銅鉱や硫砒銅鉱を主体とする硫化銅鉱の浸出が促進されるという例を報告した。この際、酸化剤として使用する鉄(III)イオンについては、浸出反応の結果得られる鉄(II)イオンや、安価な薬品である硫酸第一鉄を、鉄酸化微生物を用いて酸化して鉄(III)イオンとして産生し供給できれば経済的にも望ましい。
【0005】
また、浸出後液についても廃棄することなく浸出液として繰り返し利用することが経済的にも環境面でも望ましい。しかしながら、ヨウ化物イオンはヨウ素分子や三ヨウ化物イオン等に変化して、鉄酸化微生物による鉄酸化を妨げ、その生育を阻害する作用があるため上述の浸出において鉄酸化微生物を用いてヨウ化物イオンを含む溶液を用いて鉄(III)イオンを再生することは困難という問題があった。
【0006】
そこで、本出願人は現時点で未公開の特願2010−060037号(特許文献2)において、銅浸出工程後に得られる溶液を活性炭処理によりヨウ素を低減させた後、溶液中の鉄(II)イオンを鉄酸化微生物により鉄(III)イオンに酸化させる方法を提案した。
【0007】
また、本出願は現時点で未公開の特願2010−128300号(特許文献3)において活性炭と鉄酸化細菌を同一の反応系に用いることで鉄(II)イオンの酸化と活性炭によるヨウ素の吸着を同時に行う方法を報告した。
【0008】
一方で上記分野とは別に、特公昭47−38981号(特許文献4)には鉄酸化微生物固定化担体として鉄酸化泥を使用した連続鉄酸化リアクターの例が報告されている。しかし同報告では硫黄鉱山等の鉄(II)イオンを含む酸性坑内水の処理方法として適用しており、ヨウ化物イオンを含んだ浸出液の処理方法への適用については検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特願2009−193197号
【特許文献2】特願2010−060037号
【特許文献3】特願2010−128300号
【特許文献4】特公昭47−38981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、黄銅鉱や硫砒銅鉱を主体とする硫化銅鉱から効率よく銅を浸出するにはヨウ化物イオンと鉄(III)イオンが必要であるが、ヨウ素が持つ鉄酸化阻害作用や生育阻害作用のため鉄酸化微生物を用いて鉄(III)イオンを再生し浸出液を循環させることは難しいという問題がある。そして、特願2010−060037号に記載の方法では、ヨウ素濃度を抑えることにより、鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化させることは可能となるものの、ヨウ素濃度を1mg/L未満まで低減させなければならなかった。さらに、特願2010−128300号の方法では、ヨウ素濃度は前記方法に比べて高くすることはできるが、活性炭を鉄酸化菌と同一の反応系で用いなければならず、また活性炭の吸着能力を超えるヨウ素が吸着した場合には活性炭を反応系から分離して再生しなければならないという問題があった。加えて特願2010−060037号、特願2010−128300号に記載の実施例は回分操作によって示された実施例であり連続的に鉄(II)イオンが添加される形態において微生物による鉄酸化が可能であるかについては未検証であった。
【0011】
従って、本発明の課題は、上記のような事情に鑑み、ヨウ化物イオンを用いた浸出において実操業レベルで汎用性ある条件で、微生物を用い効率よくヨウ化物イオンと鉄(II)イオンを含む酸性溶液を酸化処理し、さらに本方法を硫化銅鉱からの銅を浸出に適用することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ヨウ化物イオンと鉄(II)イオンを含む酸性溶液を、ジャロサイトとジャロサイトに付着した鉄酸化微生物を含むリアクター内で反応させると、同溶液中の鉄(II)イオンを鉄酸化微生物により連続的に鉄(III)イオンに酸化させることが可能になることを見出した。本発明はかかる知見により完成されたものである。
【0013】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1) ヨウ化物イオンと鉄(II)イオンとを含有する酸性溶液中の鉄(II)イオンを酸化する方法であって、下記工程(a)〜(b)を繰り返し連続的に行うことを含む方法。
(a)リアクター内で、鉄酸化微生物が付着した微生物固定化担体を用いて、ヨウ化物イオンと鉄(II)イオンとを含む酸性溶液中の鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化する工程。
(b)沈降槽内で、工程(a)で得た液の沈降分離を行って、鉄(III)イオンを含む溶液を得るのと同時に、沈降物である前記鉄酸化微生物が付着した微生物固定化担体を回収して前記(a)のリアクターに投入する工程。
(2) 前記ヨウ化物イオンと鉄(II)イオンとを含む酸性溶液中のヨウ素濃度が4mg/L以下である前記(1)に記載の方法。
(3) 前記リアクターが流動床式リアクターであり、流動床中の微生物固定化担体濃度が、10g/Lから300g/Lである前記(1)又は(2)に記載の方法。
(4) 前記微生物固定化担体の粒度が0.2μmから20μmである前記(1)から(3)の何れかに記載の方法。
(5) 前記微生物固定化担体が含鉄鉱物である(1)から(4)の何れかに記載の方法。
(6) 前記微生物固定化担体がジャロサイトである(1)から(6)の何れかに記載の方法。
(7) 鉄酸化微生物としてアシディチオバチルス・フェロオキシダンス(Acidithiobacillus ferrooxidans)を用い、大気圧下において実施する、前記(1)から(6)の何れかに記載の方法。
(8) 前記ヨウ化物イオンと鉄(II)イオンとを含有する酸性溶液中の鉄(II)イオンの濃度が0.2g/Lから10g/Lである、前記(1)から(7)の何れかに記載の方法。
(9) 前記(1)から(8)の何れかに記載の方法であって、前記ヨウ化物イオンと鉄(II)イオンとを含む酸性溶液が浸出後液であり、該浸出後液がヨウ化物イオンと鉄(III)イオンとを含有する硫酸溶液を浸出液として用いて硫化銅鉱から銅を浸出させる工程で得られる浸出後液である、該方法。
(10) 前記(1)から(9)の何れかに記載の方法であって、前記(a)〜(b)の工程の前に、前記ヨウ化物イオンと鉄(II)イオンとを含む酸性溶液を活性炭で処理してヨウ化物イオンを活性炭に吸着させる工程をさらに含む、該方法。
(11) 前記(10)に記載の方法であって、以下の溶液を混合して硫化銅鉱の浸出液として利用する工程をさらに含む、該方法。
・前記(b)の工程で得られた鉄(III)イオンを含む溶液。
・ヨウ素が吸着した前記活性炭を、亜硫酸イオンを含む溶液で処理して回収したヨウ素を含む溶液。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法によれば、
(1)ヨウ化物イオンと鉄(II)イオンを含む酸性溶液から、鉄(III)イオンを含む溶液を効率よく産生できる。すなわち、鉄酸化微生物の固定化担体として含鉄鉱物、好ましくはジャロサイトを用いて、鉄酸化を行い、沈降分離により回収した鉄酸化微生物が付着した含鉄鉱物を鉄酸化リアクターに再び添加することで、リアクター内の鉄酸化微生物の濃度を高く保つことが可能となる。その結果、鉄酸化微生物に対して生育阻害作用を持つヨウ素を従来の回分操業で行っていたときよりも高い濃度で含む溶液でも効率良く鉄(III)イオンを産生できる。
【0015】
(2)加えて、従来回分操業であった鉄酸化工程を連続操業で実施することが可能となり、鉄酸化微生物の増殖に必要な鉄(II)イオンが連続的に供給されることにより、鉄(II)イオンを栄養源とする鉄酸化微生物の増殖が好適に促される。その結果リアクター内の鉄酸化微生物の濃度を高く保つことが可能となり、鉄酸化微生物に対して生育阻害作用を持つヨウ素を従来の回分操業で行っていたときよりも高い濃度で含む溶液でも効率良く鉄(III)イオンを産生できる。
【0016】
(3)以上の手段をヨウ化物イオンと鉄(III)イオンとを含有する硫酸溶液を浸出液として硫化銅鉱からの銅浸出に適用することにより、黄銅鉱や硫砒銅鉱を含む硫化銅鉱からの銅浸出が効率よく低コストで実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の鉄酸化微生物固定化担体に用いたジャロサイトのXRD解析データ。
【図2】本発明のヨウ化物イオン及び鉄(II)イオンを含む溶液処理する工程において鉄酸化微生物が付着した微生物固定化担体をリアクター内で使用した場合の処理フローを示す。
【図3】鉄酸化微生物が付着した微生物固定化担体を用いたときの鉄酸化工程及び沈降槽のフロー図を示す。
【図4】鉄酸化率とヨウ素濃度の推移を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.概要・定義
本発明のヨウ化物イオンと鉄(II)イオンを含有する酸性溶液の処理方法は、ヨウ化物イオンと鉄(II)イオンを含む酸性溶液を鉄酸化微生物が付着した微生物固定化担体を含む鉄酸化リアクターにて好気的に反応させて鉄(III)イオンを産生すると同時に、沈降分離によって得られた鉄酸化微生物が付着した微生物固定化担体を再びリアクターに添加することで、鉄酸化工程を連続操業で実施し、リアクター内の鉄酸化微生物の濃度を高く保ち、鉄酸化微生物の増殖に必要な鉄(II)イオンを連続的に供給し、鉄酸化微生物の増殖に好適な状態を維持することで、鉄酸化微生物に対して生育阻害作用を有するヨウ素の存在下であっても鉄(II)イオンを含有する溶液を安定に酸化処理できることを特徴とする。
【0019】
また産生した鉄(III)イオンを含む溶液と活性炭に吸着後回収したヨウ素を含む水溶液を混合し、硫化銅鉱の浸出液として利用することを特徴とする。
【0020】
本明細書中で記述する「ヨウ化物イオン」とは、「I-」で表されるイオン、「三ヨウ化物イオン」とは、「I3-」で表されるイオン、「ヨウ素分子」とは「I2」で表される分子を意味する。また、本明細書中で記述する「ヨウ素」は、前記「I-」、「I3-」、「I2」等のあらゆる状態を含めた元素としてのヨウ素を意味する。従って、本明細書中で記述する「ヨウ素濃度」は、ヨウ素分子(I2)のみならずヨウ化物イオン(I-)、三ヨウ化物イオン(I3-)等のあらゆる状態を含めた、総ヨウ素濃度を意味する。
【0021】
2.プロセス・フロー図
本発明は、例えば図2に記載のプロセス・フロー中の工程の一部として組み込んで用いることができる。以下、各工程について詳説する。
【0022】
2−1.銅浸出工程(図2A)
本発明の方法は、硫酸溶液を浸出液とする銅の湿式製錬等の浸出形態に用いることができ、例えば、回分攪拌浸出のみならず、鉱石を堆積させた上から硫酸を散布して、銅を硫酸中に浸出させるヒープリーチング、ダンプリーチングのいずれであってもよい。
【0023】
2−1−1.対象鉱物
上記銅浸出工程の対象鉱である黄銅鉱または硫砒銅鉱を含有する硫化銅鉱は、黄銅鉱または硫砒銅鉱を主体とする硫化銅鉱であっても、黄銅鉱または硫砒銅鉱を一部に含有する硫化銅鉱であってもいずれでも良く、その含量は特に限定はされないが、本発明の方法による銅浸出効果が十分に得られる点で、黄銅鉱や硫砒銅鉱を主成分とする硫化銅鉱であることが好ましい。
【0024】
2−1−2.温度条件
また、浸出の温度は特に規定しないが、特に加熱などは必要とせず、常温での浸出が可能である。
【0025】
2−1−3.浸出液
硫化銅鉱の溶解・浸出に用いる液については、例えば硫酸、鉄(III)イオン、及びヨウ化物イオン(I-)を含有する浸出液を用いることができる。前記浸出液を用いた硫化銅鉱の溶解・浸出は、下記(式1)と(式2)に示す一連のヨウ素による触媒反応によって進行すると考えられる。
【0026】
2I-+2Fe3+→I2+2Fe2+ (式1)
【0027】
CuFeS2+I2+2Fe3+→Cu2++3Fe2++2S+2I- (式2)
【0028】
上記(式1)と(式2)の両辺の和をとりヨウ素分子(I2)成分を消去すると下記(式3)となり、従来提唱されている硫化銅鉱に対する鉄(III)イオンを酸化剤とした浸出反応であることがわかる。
【0029】
CuFeS2+4Fe3+→Cu2++5Fe2++2S (式3)
【0030】
まず、式(1)の反応において、浸出液に添加したヨウ化物イオン(I-)が鉄(III)イオン(Fe3+)により酸化されてヨウ素分子(I2)が生成する。また、この反応で生じた単体ヨウ素分子(I2)が残存するヨウ化物イオン(I-)と反応することによって三ヨウ化物イオン(I3-)もまた浸出液内に生成する。このとき浸出液中の総ヨウ素濃度は反応形態や対象となる硫化銅鉱の種類・形状・銅品位などにより適宜決めることができるが、特開2010−189258号にしめした100mg/Lから300mg/Lもしくは特願2009−193197号に示した8mg/Lから100mg/Lが好ましい。
【0031】
2−2.微生物固定化担体を用いた鉄酸化工程(図2D)
また式(3)に示すとおり、硫化銅鉱浸出にはそれに対応する量の酸化剤としての鉄(III)イオンの供給が必要であり、連続的な硫化銅鉱の浸出のためには、連続的な酸化剤としての鉄(III)イオンの供給が必要となる。そのためには、鉄酸化微生物を利用することにより、Fe(II)イオンからFe(III)イオンを産生できれば、或いは安価な硫酸第一鉄等を添加(図2f)してそこからFe(III)イオンを産生できれば、理想的である。
【0032】
しかし、ヨウ素は鉄酸化微生物に対して生育阻害作用を有している。特に鉄酸化微生物を利用する場合、微生物に強い生育阻害作用を示さないヨウ化物イオンも産生する鉄(III)イオンのために酸化され、微生物に対して強い生育阻害作用を示すヨウ素分子(I2)もしくは三ヨウ化物イオン(I3-)に変換されるため、銅浸出処理後の溶液中に含まれる鉄(II)イオン、もしくは硫酸第一鉄などとして添加した鉄(II)イオンを、鉄酸化微生物を用いて酸化し鉄(III)イオンを産生させることが困難なことが知られている。
【0033】
本発明は連続的に鉄(III)イオンを産生する上で、鉄酸化微生物が付着した微生物固定化担体を用い鉄酸化反応後沈降分離によって得られた鉄酸化微生物が付着した微生物固定化担体を再び鉄酸化リアクターに再添加することで、従来回分操業で行っていた鉄酸化工程を連続操業で行い、鉄酸化リアクター内の菌濃度を高く保ち、同時に鉄酸化微生物の増殖に必要な鉄(II)イオンを連続的に供給し、鉄酸化微生物の増殖に好適な状態を維持することで、鉄酸化細菌に対して生育阻害作用を有するヨウ素分子(I2)もしくは三ヨウ化物イオン(I3-)が存在する条件においても安定的な鉄(III)イオンの産生を可能とするものである。
【0034】
2−2−1.鉄酸化微生物
鉄(II)イオンからの鉄(III)イオン産生に用いる鉄酸化微生物としては、鉄酸化能を有していればその種属を限定しないが、具体的にはAcidithiobacillus ferrooxidans, Acidimicrobium ferrooxidans, Leptosprillum属に属する微生物、Ferroplasma属に属する微生物、もしくはAcidiplasma属に属する微生物などが利用できる。
【0035】
その中でもAcidithiobacillus ferrooxidansは常温常圧での鉄酸化が可能なため本発明に有効であり、その一例として独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターにNITE BP−780として寄託されているAcidithiobacillus ferrooxidans FTH6Bが利用できる。
【0036】
鉄酸化微生物を用いた鉄酸化反応時の温度・圧力については、それぞれの微生物に適した条件を使用すればよい。
【0037】
上記Acidithiobacillus ferrooxidansを利用する場合には、大気圧下、20℃から40℃の範囲で実施することが望ましい。
【0038】
2−2−2.微生物固定化担体
前記鉄酸化微生物は、鉄酸化反応時に微生物固定化担体に付着・固定させて用いる。鉄酸化微生物用の微生物固定化担体として、鉄酸化微生物が良好に生育できる等の理由から含鉄鉱物が好適に用いられる。本発明で用いる含鉄鉱物は、マグネタイト、ヘマタイトなどの鉄酸化物、ジャロサイト・シュベルトマナイトなどの硫酸塩など、表面が親水性の含鉄二次鉱物であることが望ましく、特にジャロサイトが望ましい。
【0039】
これらは天然鉱物・化学的に合成・調製した鉱物であってもかまわない。また、ジャロサイト・シュベルトマナイトなどについては鉄(II)イオン添加した培地に鉄酸化細菌を培養させて調製することも可能である。
【0040】
また、含鉄鉱物の粒度は、一定の細粒であることが必要となる。例えば、0.2μmから20μmが好ましく、1μmから10μmがさらに好ましい。表面積が多いほうが、鉄酸化菌も分散付着し、鉄の酸化反応においても有効であるからである。なお、ここで述べる「粒度」とはレーザー回折式粒度分布測定法にて測定した大きさを言う。具体的には島津製作所(株)製SALD−2100を用いた。さらに、含鉄鉱物は、後述するリアクター内で濃度が10g/Lから300g/Lであることが好ましく、100g/Lから200g/Lであることがさらに好ましい。
【0041】
2−2−3.含鉄鉱物への鉄酸化微生物の固定化
また含鉄鉱物への微生物の付着固定化は、含鉄鉱物と微生物を一定時間常温もしくは微生物の生育に好ましい温度にて混合することによって可能となる。
【0042】
固定化に際し特別な薬剤及び処理は必要なく、含鉄鉱物を鉄酸化微生物の培養液に添加し微生物の生育に好ましい温度で混合・攪拌することで微生物の付着固定化が可能となる。
【0043】
またジャロサイト・シュベルトマナイトについては鉄酸化微生物を用いて鉱物調製する際、同時に鉄酸化微生物を付着・固定化した鉱物の調製も可能となる。
【0044】
または天然鉱物・化学的に合成・調製したものであれば鉄酸化微生物の培養液に添加し、微生物の生育に好ましい温度で混合・攪拌することで微生物の付着固定化が可能となる。
【0045】
マグネタイト、ヘマタイトなど培養時に発生しない含鉄鉱物についても鉄酸化微生物の培養液に添加し、微生物の生育に好ましい温度で混合・攪拌することで微生物の付着固定化が可能となる。
【0046】
2−2−4.リアクター及び沈降槽(図3)
上述した鉄酸化微生物が付着した微生物固定化担体を用いた酸化工程は、リアクター内で実施することができ、前記リアクターとしては特に流動床式リアクターが好ましい。図3は、前記酸化工程を行うための流動床式リアクターの一例を示す。
【0047】
流動床式リアクター内(図3(I))には、鉄酸化微生物が付着した微生物固定化担体が投入されており、そこにヨウ化物イオンと鉄(II)イオンを含む酸性溶液(図3A)(例えば、上述したように、ヨウ化物イオンと鉄(III)イオンとを含有する硫酸溶液を浸出液として用いて硫化銅鉱から銅を浸出させる工程で得られる浸出後液)が投入され、さらに下部からは空気が投入される(図3B)。そして前記リアクター内で、鉄酸化微生物により鉄(II)イオンの酸化反応が起こり、鉄(III)イオンが産生される。
【0048】
前記酸化工程後の溶液は沈降槽(図3(II))に送られ、そこで沈降分離が行われる。ここで沈降分離により、鉄酸化微生物が付着した含鉄鉱物が沈降物として得られる。前記沈降物は沈降槽から回収され(図3D)、再びリアクターへ添加し、鉄酸化工程に利用することができる。また上澄みからは、前記リアクター内で産生された鉄(III)イオンを含む溶液(図3C)が得られ、前述した銅浸出工程に利用することができる。
【0049】
本発明におけるリアクターで処理する前の溶液中のヨウ素濃度は、特に規定はしないが、上記酸化工程を良好に進行させるために、4mg/L以下であることが好ましい。また下限についても、特に規定はしないが、典型的には0.5mg/L以上、又は1.0mg/L以上である。
【0050】
また本発明におけるリアクターで処理する溶液中の鉄(II)イオン濃度は、特に規定しないが、鉄酸化微生物の生育が良好となる範囲として0.2g/Lから10g/Lの範囲であることが好ましく、1g/Lから7g/Lであることがさらに好ましい。滞留時間として1時間から48時間が好ましい。またpHの範囲については0.5から4が好ましい。
【0051】
この鉄(II)イオン濃度、滞留時間の範囲は、硫化銅鉱からの浸出後液中の鉄(II)イオン濃度、産生する鉄(III)イオンを含む溶液をヨウ素含有溶液と混合して硫化銅鉱の浸出液として利用するために必要な鉄(II)イオン濃度としても適当である。
【0052】
また、他の条件として、反応温度は10℃から50℃が好ましい。さらにリアクター内への空気の投入量は0.1v/v/minから5v/v/minの範囲の速度で添加することが好ましい。
【0053】
2−2−5.連続工程
リアクターでの鉄酸化反応、沈降槽での鉄酸化微生物が付着した含鉄鉱物の回収、及び回収した含鉄鉱物のリアクターへの投入という一連の工程を連続的に行うことにより、従来回分操業であった鉄酸化工程を連続操業で実施することが可能となり、リアクター内の菌濃度を高濃度に維持することが可能となる。また、鉄酸化微生物の増殖に必要な鉄(II)イオンを連続的に供給することにより鉄酸化微生物の増殖を好適に促し、リアクター内の菌濃度を高濃度に維持することに寄与する。そして、リアクター内の菌濃度が高濃度に維持することによって、前述したヨウ素等の悪影響を低減させることができる。
【0054】
2−3.活性炭ヨウ素回収工程
従って、上記方法を用いることによって、ヨウ素存在下でも鉄(II)イオンとを含有する溶液中の鉄(II)イオンを酸化することが可能となる。しかし、さらに良好に鉄酸化反応を促進する目的で、鉄酸化工程の前に、溶液中のヨウ素濃度を低減させる処理を行っても良い。
【0055】
2−3−1.活性炭処理工程(図2B)
ヨウ素濃度低減には活性炭を用いる方法があるが、活性炭以外の疎水性表面を有する固体、例えばコークスや疎水性樹脂などの利用も可能である。ただし、比表面積が高く、ヨウ素除去能も高いため、活性炭が特に優れている。
【0056】
本発明に用いる活性炭の種類・原料等は特に規定しないが、表面積が大きく、かつ液相中での利用に適し、かつ安定性に優れたものが好ましく、形状としては粒状もしくは球状のものが好ましい。例えば太平化学産業製ヤシコールMc、日本エンバイロケミカルズ製白鷺X7000Hなどが使用可能である。
【0057】
2−3−2.ヨウ素回収工程
前記工程によってヨウ素が吸着した活性炭については、薬液・加熱・燃焼処理などによりヨウ素を回収することができる(図2d)。具体的には、活性炭を亜硫酸イオンを含む溶液で処理・溶出させることによって、ヨウ化物イオンとして活性炭から遊離させ、溶液として回収する。このとき溶出させるヨウ素に対して、重量比で1倍から100倍の亜硫酸イオンを含む溶液を用いてヨウ素を回収することが好ましい。回収したヨウ素を含む溶液は、ヨウ素含有水溶液として銅浸出工程の浸出液に利用することができる。このとき、ヨウ素含有水溶液には、回収したヨウ素に加えて、適宜ヨウ化物イオンを補充してもよい(図2c)。また、前記ヨウ素含有水溶液は、前述の鉄酸化工程で得られた鉄(III)イオンを含む溶液と混合して、銅浸出工程の浸出液に利用してもよい(図2a)。
【0058】
2−4.銅の回収工程(図2C、E、e)
また、銅浸出工程後の溶液から銅を回収する際には、一般に銅を選択的に抽出する抽出剤をもちいる溶媒抽出法、まれにセメンテーション法が用いられる。これら方法については本発明におけるヨウ素回収・鉄酸化工程の前段・後段等どの段階でも実施可能である。
【0059】
3.その他
プロセスは図2に示すような直列的なフローに限る必要はなく、銅抽出工程もしくはヨウ素回収・鉄酸化工程をバイパスさせて並列的に設置することも可能である。
【0060】
実際には、ヨウ素の抽出剤への阻害性や抽出剤の微生物毒性などの影響を考慮し、最適なプロセスフローを適用すればよい。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0062】
1.測定方法
溶液中の銅濃度及び鉄濃度は、ICP発光分光分析装置(ICP−AES、セイコーインスツル株式会社製、SPS7700)で測定した。鉄(II)イオン濃度は、二クロム酸カリウムによる酸化還元滴定法で測定した。鉄(III)オン濃度は、ICP−AESで得られた鉄全体の濃度と鉄(II)イオン濃度との差から算出した。ヨウ素濃度はヨウ素電極を用いて定量した。具体的には亜鉛粉末を適量添加することでヨウ素分子(I2)及び三ヨウ化物イオン(I3-)として存在するヨウ素を全てヨウ化物イオンに還元し、同様に鉄(III)イオンを全て鉄(II)イオンに還元した後、ヨウ素イオン電極を用いて測定した。鉄イオンの妨害を除去する為、キレート剤であるクエン酸を用いて鉄(II)イオンのマスキングを行った。菌濃度は、リアクター内のジャロサイトを10分間超音波洗浄を行いpH2の希硫酸で10倍希釈を3回繰り返し、1000倍希釈液となったものをトーマ血球計数盤により顕微鏡観察した。ジャロサイトの粒度はレーザー回折式粒度分布測定法にて測定した具体的にはレーザー回折式粒度分布測定装置、島津製作所(株)製SALD−2100を用いた。
【0063】
2.ヨウ化物イオン及び鉄(II)イオンを含む浸出後液
鉱石として、チリ国カセロネス産の硫化銅鉱を用いた。浸出液は、ヨウ化カリウム、硫酸鉄(III)を含有させ、pHは硫酸で調整した。当該浸出液をポンプで滴下供給し、浸出反応を行い、回収した浸出液を浸出後液とした。
【0064】
銅鉱石浸出工程から出る浸出後液を活性炭カラムに供しヨウ素濃度を低減した後、脱銅工程として鉄粉セメンテーション法を適用し銅濃度を低減した。その後、同溶液に硫酸第一鉄及び濃硫酸を添加した。
【0065】
以上の工程で得られる浸出後液は、銅1g/L以下、鉄(II)イオン4g/L、pH1.8であった。また、溶液中鉄全体の量は4g/Lであった。従って、前記浸出後液を後述のリアクターに投入する前の鉄酸化率は0%であった。実施期間においてヨウ素濃度が1.5mg/Lから6mg/Lの範囲で変動した。ヨウ素濃度の変動は活性炭によるヨウ素の除去が不十分であったことに起因する。
【0066】
3.鉄酸化微生物及び微生物固定化担体
微生物固定化担体としてのジャロサイトは鉄酸化微生物アシディチオバチルス・フェロオキシダンス(Acidithiobacillus ferrooxidans)FTH6B(NITE BP−780)の回分培養により産生した沈殿物として得られた。該沈殿物は、図1に示すXRDによりジャロサイトと確認したのち試験に用いた。また得られたジャロサイトの粒度は平均で1.6μmであった。
【0067】
4.鉄酸化工程
鉄酸化工程では、流動床式リアクター(2.2L容)を用いて、酸化処理を行った。リアクター内のジャロサイト濃度は150g/Lとした。培養開始時はアシディチオバチルス・フェロオキシダンス(Acidithiobacillus ferrooxidans)FTH6B(NITE BP−780)を2.0×108cells/mlの濃度で添加したが、特に無菌操作等は行わなかった。
【0068】
リアクター下部から1v/v/min(2L/min)の空気を添加し、温度30℃に保ちながら大気圧下でリアクターに上記鉄(II)イオン4g/L、pH1.8の酸性溶液を1L/hから4L/hの範囲の速度で添加した。1v/v/minであればリアクター容積が2.2Lであるので空気の添加量は2.2L/minであった。前記酸性溶液のリアクター内での滞留時間は平均42時間であった。
【0069】
鉄酸化工程後には鉄酸化微生物が付着したジャロサイトを回収するための沈降槽(0.5L容)を設けた。
【0070】
沈降槽で得られたスラリー状の沈殿は再びリアクターに添加し、その添加速度は上記鉄(II)イオン4g/L、pH1.8の酸性溶液の添加速度の1/4とした。鉄酸化工程から沈降槽までの概略を図3に示す。
【0071】
5.リアクター内の菌濃度
リアクター内の菌濃度は58日間の平均値が1.2×1011±2.7×1010cells/mlであり、ジャロサイトを鉄酸化微生物の固定化担体として用いれば、リアクター内では通常液体培養で得られる菌濃度1.0〜4.0×108cells/mlと比較して高い菌濃度の保持が可能となることが示された。
【0072】
6.反応後の鉄酸化率及びヨウ素濃度
反応後の鉄(III)イオン濃度から算出された鉄酸化率と鉄酸化工程前液のヨウ素濃度を図4に示す。
【0073】
結果としてジャロサイトを鉄酸化微生物の固定化担体として用いればリアクター内の菌濃度を高く保つことが可能になり、同リアクターを用い鉄酸化工程前液中にヨウ素濃度が存在しても安定的に鉄(III)イオンを産生することが可能であることが判明した。特にヨウ素濃度が4mg/L以下であれば100%に近い鉄酸化率を達成できることが示された。
【0074】
これは、従来特願2010−060037号にあるようにヨウ素濃度が、1mg/L以下ではなくては、鉄の酸化が進行しないとされたより、高濃度のヨウ素を許容できる点で有利である。また、特願2010−128300号のように、鉄酸化工程とヨウ素除去工程を同時に行っていないため、活性炭のヨウ素吸着能力の限界を考慮する必要もない。
【0075】
7.連続操業の効果
この結果は、先行特許において上記鉄酸化工程や沈降分離工程が、回分(バッチ)操作であったが、連続操作にしたため鉄酸化微生物の増殖に必要な鉄(II)イオンが連続的に供給され、鉄酸化微生物の増殖に好適なヨウ素濃度の上限が、上がったものと思われる。
【0076】
同時に、リアクター内の菌濃度を高く保つことでヨウ化物イオンと鉄(II)イオンを含む酸性溶液を処理し効率的且つ安定的な鉄(III)イオンの産生が可能となることも示された。
【0077】
この実施例によりヨウ化物イオンと、鉄(II)イオンとを含有する酸性溶液を、ジャロサイトを鉄酸化微生物の固定化担体として用いたリアクター内で反応させることにより、同溶液中のヨウ素濃度が4mg/L程度であってもヨウ素分子(I2)もしくは三ヨウ化物イオン(I3-)が持つ生育阻害作用の影響を受けることなく同溶液中の鉄(II)イオンを鉄酸化微生物により鉄(III)イオンに酸化させることが可能となることが示された。
【0078】
また同時に、同鉄(III)イオンを含む水溶液とヨウ化物イオンを含む水溶液を混合した溶液を硫化銅鉱の浸出に用いれば、硫化銅鉱からの銅の浸出を促進させることが可能となることも示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ化物イオンと鉄(II)イオンとを含有する酸性溶液中の鉄(II)イオンを酸化する方法であって、下記工程(a)〜(b)を繰り返し連続的に行うことを含む方法:
(a)リアクター内で、鉄酸化微生物が付着した微生物固定化担体を用いて、ヨウ化物イオンと鉄(II)イオンとを含む酸性溶液中の鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化する工程;
(b)沈降槽内で、工程(a)で得た液の沈降分離を行って、鉄(III)イオンを含む溶液を得るのと同時に、沈降物である前記鉄酸化微生物が付着した微生物固定化担体を回収して前記(a)のリアクターに投入する工程。
【請求項2】
前記ヨウ化物イオンと鉄(II)イオンとを含む酸性溶液中のヨウ素濃度が4mg/L以下である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記リアクターが流動床式リアクターであり、流動床中の微生物固定化担体濃度が、10g/Lから300g/Lである請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記微生物固定化担体の粒度が0.2μmから20μmである請求項1から3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
前記微生物固定化担体が含鉄鉱物である請求項1から4の何れかに記載の方法。
【請求項6】
前記微生物固定化担体がジャロサイトである請求項1から5の何れかに記載の方法。
【請求項7】
鉄酸化微生物としてアシディチオバチルス・フェロオキシダンス(Acidithiobacillus ferrooxidans)を用い、大気圧下において実施する請求項1から6の何れかに記載の方法。
【請求項8】
前記ヨウ化物イオンと鉄(II)イオンとを含有する酸性溶液中の鉄(II)イオンの濃度が0.2g/Lから10g/Lである、請求項1から7の何れかに記載の方法。
【請求項9】
請求項1から8の何れかに記載の方法であって、前記ヨウ化物イオンと鉄(II)イオンとを含む酸性溶液が浸出後液であり、該浸出後液がヨウ化物イオンと鉄(III)イオンとを含有する硫酸溶液を浸出液として用いて硫化銅鉱から銅を浸出させる工程で得られる浸出後液である、該方法。
【請求項10】
請求項1から9の何れかに記載の方法であって、前記(a)〜(b)の工程の前に、前記ヨウ化物イオンと鉄(II)イオンとを含む酸性溶液を活性炭で処理してヨウ化物イオンを活性炭に吸着させる工程をさらに含む、該方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法であって、以下の溶液を混合して硫化銅鉱の浸出液として利用する工程をさらに含む、該方法:
・前記(b)の工程で得られた鉄(III)イオンを含む溶液;
・ヨウ素が吸着した前記活性炭を、亜硫酸イオンを含む溶液で処理して回収したヨウ素を含む溶液。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−188725(P2012−188725A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55594(P2011−55594)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】