説明

ヨウ素吸着用フィルムと簡易型ヨウ素モニターの製造方法

【課題】福島原発事故では、放射性ヨウ素による放射線障害とは別に、ヨウ素分子自身の化学作用による弊害が非常に懸念されているが、これまで空気中のガス状ヨウ素分子を高感度に検知できるヨウ素モニターがなかった。
【解決手段】新規水溶性キトサン誘導体を合成し、その透明なフィルムを得る方法を確立した。このフィルムがガス状ヨウ素分子を強く吸着する(ヨウ素分子の保持率160という世界最高値を示す)ことを見出し、このフィルムを利用して高感度簡易型ヨウ素モニターを製造した。これを使用すれば、どんな場所でも簡単にヨウ素を検出し、結果に対して直ちに対策がとれるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中に存在しているガス状のヨウ素分子を強く捕獲するフィルム(ヨウ素吸着剤としては世界最高の能力を示す)と、このフィルムを利用した高感度簡易型ヨウ素モニターの製造に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所内で漏れ出した放射性ヨウ素の検出・除去や、今回の福島原発事故で周辺地域に大量に漏れ出した放射性ヨウ素の検出・除去に重大な関心が払われている。ヨウ素の除去に関しては、活性炭や各種捕獲剤が開発・使用されてきている。検出はすべて放射能測定で行われてきており、放射能の計測から空気中ヨウ素の濃度を測定・監視する装置をヨウ素モニターと呼んでいるが、放射性ヨウ素の半減期は短いので、放射能測定だけでは空気中のヨウ素分子の濃度を正確には把握できない。しかしヨウ素の場合、放射線による障害とは別に、ヨウ素分子自身の特有な化学作用による弊害が見られるようになり、空気中のヨウ素分子の濃度を正確に把握する必要が出てきた。そのためには空気中のガス状ヨウ素をヨウ素分子として検知できる高感度ヨウ素モニターが求められているが、現在でも満足すべきものはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】 特公昭59−020382
【特許文献2】 特願2002−283632
【特許文献3】 特願2006−212651
【特許文献4】 特願平7−328430
【特許文献5】 特願平10−151946
【特許文献6】 特開2004−131622
【特許文献7】 WO2008−075448
【特許文献8】 特開2002−241405
【特許文献9】 特許公報2007−502893
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
福島原発事故では、放射性ヨウ素による放射線障害とは別に、ヨウ素分子自身の化学作用による弊害が非常に懸念されているが、これまで空気中のヨウ素分子を高感度に検知できるヨウ素モニターがなかった。本発明では、ガス状のヨウ素分子を強く捕獲するフィルムを利用した高感度簡易型ヨウ素モニターを提供し、家庭・学校・公園などで多くの方々が手軽に利用できるようにする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は目的を達成するために、まずキトサンがヨウ素分子を捉える能力があることに注目し、キトサンのガス状ヨウ素分子の捕獲能力を上げるためと、ヨウ素分子の検出を肉眼で容易に判定できるようにするために、キトサンを透明なフィルム状にする技術を開発した。
【0006】
キトサンから透明なフィルムを得るには、水に難溶のキトサンを易溶性の誘導体に変換する必要がある。これまでに水溶性キトサンを得る方法としては主として2つの手法が用いられてきた。ひとつはキトサンをいろいろな酸に溶かして水溶性にして、最終的に用いた酸を除去するものであり、もう一つは水溶性のキトサン誘導体を合成する手法である。
一番目の酸を用いる手法でキトサンを水に溶かすことはでき、膜の形成についても報告されているがヨウ素との反応については記載がない(特許文献 7,8)。キトサンとアミノ反応性ポリマーとの反応からフィルムが得られているが、ヨウ素との反応に関する記載はない(特許文献 9)。二番目の水溶性キトサン誘導体を得る方法であるが、これまでの手法はすべて副反応が生じやすく、最終生成物の精製が非常に難しい。これらの化合物についてはヨウ素との結合についての記載はあるが、その保持率や、フィルムに関する記載はない(特許文献 2,3)。
本発明では、新規キトサン誘導体の合成において、副反応がなく、純度の高い製品を得られる手法を採用している点に特徴があり、この新しい水溶性キトサン誘導体より透明なフィルムが容易に得られ、かつそのフィルムとヨウ素分子との強い結合(非常に高い保持率)が確認された。
【0007】
キトサンは第1級アミンを含む化合物であるが、第1級アミンはアクリルニトリル(モノマー)と反応して定量的に(1:1)付加体を形成することが知られているのでそれを利用した(下の式、参照)。

【実施例】
【0008】
市販のキトサン(フレーク状)を6%−酢酸溶液に懸濁し、それに少し過剰のアクリルニトリルを加えて48時間、攪拌放置する。反応終了後、未反応のアクリルニトリルを減圧下で除き、透明な水溶液を大きな器に移して放置し、数日後に透明なフィルムを得た。
【0009】
第1級アミンとアクリロニトリル(モノマー)との(1:2)化合物は高温でないと得られないことと、合成のためには少し過剰のアクリルニトリルを使用するが、未反応のアクリルニトリルを簡単に除くことができるので、目的の化合物が高純度で得られる。
【発明の効果】
【0010】
今回得たフィルムを室温でヨウ素分子の雰囲気下に放置すると、1時間後で無色のフィルムが黄色くなり、5時間後には褐色、24時間後にはほとんど黒色となり、このフィルムは大量のヨウ素分子を捕獲できることがわかった。
96時間経過した黒色フィルムについて次式に従って保持率(%)を求めてみると、
保持率(%)=[ 吸着されたヨウ素(g)/( 試料(g))] × 100
160であった。保持率はフィルムの厚さ・実験条件などにも依存するが、今回のフィルムでの値はこれまでの最高であり(これまでの最高値は73である)、ヨウ素吸着剤としては世界最高の性能を示す化合物であることが判る。ちなみに同条件下での粉末状キトサンの保持率は10で、通常の活性炭のそれは28である(特許文献 1)。
【0011】
今回得たフィルムの分子状ヨウ素の捕獲力は異常に強く、このフィルムのヨウ素捕獲力の異常な強さを利用して高感度「簡易型ヨウ素モニター」を製作した。実際には、フィルムを厚紙に挟んで大気中に一定時間(1週間位)放置した後に、フィルムをデンプン溶液に浸す。青く着色すれば、ヨウ素が捕獲されていることになり、これより簡単に空気中のヨウ素分子を検出でき、かつその濃度を知ることができる。この簡易型ヨウ素モニターは空気中に吊るしておくだけでよいので、市役所・学校・一般家庭・保育所・公園などで手軽に利用できる。
【0012】
これまでの放射能測定用のヨウ素モニターではいわゆるフィルターが使用されているが、そのフィルターの分子状ヨウ素の捕獲力が弱ければ、当然のことながら測定値の信頼性は低いものになる。放射能測定用のヨウ素モニターのフィルターに今回のフィルムを使用すれば、測定値の信頼度は格段に上がると期待できる。
【0013】
今回得たフィルムをイソジン溶液に漬けると、透明なフィルムは直ちに褐色になり、20時間後も褐色のままであるがフィルムという形態をずっと保持しているので、水道水や各種排水中に溶け込んでいるヨウ素分子の検出にも利用できる。
【0014】
今回得たフィルムは、ヨウ素分子を強く捕獲できるので、これらのフィルムを各種建造物の壁・天井に貼ることで、ヨウ素分子の多い部屋・空間での大気中のヨウ素分子の除去剤として利用できる。
【0015】
この水溶性キトサン溶液にいろいろな布(ガーゼ、さらしなど)を浸して、乾燥させるとキトサン誘導体でコートされた布を得ることができる。このようにして得られた布もヨウ素を強く吸着する性質を示した。このようにいろいろな固体表面をキトサン誘導体で被膜するのにも利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キトサンとアクリルニトリル(モノマー)との反応で得られる新規水溶性キトサン誘導体の製造方法。
【請求項2】
請求項1の水溶性キトサン誘導体の水溶液を展開して製膜することを特徴とする新規キトサンフィルムの製造方法。
【請求項3】
請求項2で得られた新規キトサンフィルムの異常に高いヨウ素分子捕獲能を利用した高感度簡易型ヨウ素モニターの製造方法。
【請求項4】
請求項1で得られた新規キトサン誘導体の水溶液を展開して布やいろいろな固体表面に製膜することを特徴とする新規キトサン膜の形成方法。

【公開番号】特開2013−36017(P2013−36017A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185302(P2011−185302)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(511209745)
【Fターム(参考)】