説明

ラインパイプ鋼板用鋳片の連続鋳造方法

【課題】輸送用ラインパイプ鋼板の製造に適した鋳片を連続鋳造する場合につき、その鋳造鋳片の中心偏析を軽減して品質の改善を図るとともに、軽圧下帯を構成するセグメントにおける負荷を軽減できる方法を提案する。
【解決手段】鋳型より引き抜かれた鋳造鋳片の軽圧下帯における圧下を、厚み中心部の固相率に応じて、δ+A(X−X)≧22.2×CP−20.2(0.91<C)、δ=0(CP≦0.91)‥‥(1)CP=4.46×[mass%C]+2.37×[mass%Mn]÷6+{1.18×[mass%Cr]+1.95×[mass%Mo]+1.74×[mass%V]}÷5+{1.74×[mass%Cu]+1.7×[mass%Ni]}÷15+22.36×[mass%P]‥‥(2)の条件を充足するように軽圧下する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラインパイプ鋼板用鋳片の連続鋳造方法に関し、とくに、耐水素誘起割れ性(耐HIC性)に優れた高強度ラインパイプ鋼板用鋳片の製造に有用な連続鋳造方法を提案する。
【背景技術】
【0002】
鋼の凝固過程では、炭素、燐、硫黄などの溶質元素は、凝固時の再分配により未凝固の液相側に濃化される。これがいわゆるデンドライト樹間に形成されるミクロ偏析といわれるものである。
【0003】
連続鋳造機により鋳造されつつある鋳造鋳片では、凝固収縮あるいは連続鋳造機のロール間で発生する凝固シェルのバルジングなどによって該鋳造鋳片の厚み中心部に空隙が形成されたり、負圧が生じやすい。
【0004】
そして、鋳片の凝固末期の未凝固層には、十分な量の溶鋼が存在しないことから、上記のミクロ偏析によって濃縮された溶鋼が、その中心部に集積して凝固することになる。
【0005】
かかる凝固によって形成された偏析スポットは、溶質元素の濃度が鋳造にかかわる溶鋼の初期濃度に比べて格段に高くなっている。これは、一般にマクロ偏析と称されるものであり、その存在部位から、中心偏析とも称されている。
【0006】
原油や天然ガスなどの輸送用ラインパイプに適用される鋼材は、上記中心偏析によって品質が悪化しやすい。それは、中心偏析部にMnSやNb炭化物が生成されると、腐食反応により鋼の内部に侵入した水素が鋼中のMnSやNb炭化物のまわりに拡散・集積して、その内圧により割れが発生するからである。
【0007】
前記中心偏析部は、硬度が高いため、割れが一旦発生するとその割れが伝播しやすく、これがいわゆる水素誘起割れ(以下、「HIC」と略記する)である。
【0008】
上記HIC防止にかかわる先行技術としては、連続鋳造機内において、未凝固層を有する鋳片の凝固末期を、鋳片支持ロールによって凝固収縮量程度の圧下速度で徐々に圧下を施した、特許文献1に開示のような偏析防止技術が知られている。
【0009】
また、連続鋳造機内において、中心偏析部の硬さが所定レベル以下になるように鋼中成分の規制を図った、特許文献2に開示のような成分規制技術も知られている。
【0010】
上記特許文献1は、具体的には、鋳片の鋳造方向に並べた複数対のロールを用い、凝固収縮量に見合った圧下速度で鋳片を徐々に圧下して未凝固層の体積を減少させ、鋳片の厚み中心部における空隙あるいは負圧部の形成を抑制すると同時に、デンドライト樹間に形成される濃化溶鋼の集積を防止することによって鋳片の中心偏析を軽減する軽圧下技術ともいえるものであって、鋳片の凝固完了位置を、軽圧下帯の範囲内で制御している。
【0011】
また、上記特許文献2は、熱力学的な平衡分配係数に基づいて、最終的に形成される偏析部の濃度を求め、これにより、該偏析部における偏析係数を算出し、炭素当量に対応する値を一定値以下にすることにより中心偏析部の硬さを、割れが生じる限界硬さ以下に抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭49−121738号公報
【特許文献2】特開2009―133005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、上記特許文献献1のような軽圧下技術を適用した方法では、圧下ロールが鋳造鋳片に常時作用しているため、セグメントにおける外的負荷(荷重、熱)が大きく、その寿命が早期のうちに到来するのが避けられない不具合があり、生産性の向上を図るにも限界があった。
【0014】
また、上記引用文献2のような方法では、炭素当量に対応する値(CP値)が閾値に近くまで達する場合も多く、溶鋼を溶製した後に炭素当量に対応する値が閾値よりも高いことが判明した場合には、その鋳片を廃棄処理せざるを得ず、この場合にも生産性が損なわれることになっていた。
【0015】
そこで、本発明の目的は、ラインパイプ鋼板の製造に適した鋳造鋳片を連続鋳造する場合につき、その鋳造鋳片の中心偏析を軽減して品質の改善を図るとともに、軽圧下帯を構成する、とくにセグメントにかかる外的負荷を低減できる方法を提案するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、ラインパイプ製造用鋼板に供するための鋳造鋳片を連続鋳造する際に、
連続鋳造用の鋳型より引き抜かれた鋳造鋳片の軽圧下帯における圧下を、厚み中心部の固相率に応じて、下記(1)(2)の条件を充足するように軽圧下することを特徴とするラインパイプ鋼板用鋳片の連続鋳造方法である。
【0017】
δ+A(X−X)≧22.2×CP−20.2 (0.91<CP)、
δ=0 (CP≦0.91) ‥‥(1)
CP=4.46×[mass%C]+2.37×[mass%Mn]÷6+{1.18×
[mass%Cr]+1.95×[mass%Mo]+1.74×[mass%V]}
÷5+{1.74×[mass%Cu]+1.7×[mass%Ni]}÷15+
22.36×[mass%P] ‥‥(2)
【0018】
ここに、
δ:軽圧下帯のセグメントにおける入側ロールと出側ロールのロール開度の設定値の差(mm)、
:軽圧下帯のセグメントにおける入側の支柱上部に取り付けられた過荷重防止用皿ばねの変位量(mm)、
:軽圧下帯のセグメントにおける出側の支柱上部に取り付けられた過荷重防止用皿ばねの変位量(mm)、
A:過荷重防止用の皿ばねが変位した時にロール開度が設定値からどれだけ変位したかを示す傾き(─)、
である。
【0019】
なお、本発明においては、厚み中心部の固相率が、0.3〜0.8の領域で軽圧下するのが望ましい。
【0020】
また、本発明におけるラインパイプ製造用鋼板としては、
C :0.02〜0.06mass%、 Mn:0.8〜1.6mass%、
P :≦0.008mass%、 Cu:≦0.5mass%、
Ni:≦0.5mass%、 Cr:≦0.5mass%、
Mo:≦0.5mass%、 V :≦0.1mass%を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有するものがとくに望ましい。
【発明の効果】
【0021】
上記のような構成を有する本発明によれば、鋳造すべき溶鋼の成分組成の違いに応じて圧下量を決定することができる(圧下量は、ロール開度の設定値と皿ばね変位から正確に算出することができる)ため、溶鋼の成分組成がHICに対して有利な場合には、圧下が不要となるか、あるいは圧下量が小さくて済み、セグメントにおける外的負荷を小さくすることができる。
【0022】
また、本発明によれば、溶鋼成分がHIC防止に対して不利な場合には、中心偏析を軽減するのに有利な十分な圧下量を確保することができるので、鋳造鋳片の品質の改善が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ロール開度と皿ばねの関係を示したグラフである。
【図2】圧下量とCP値の関係を示したグラフである。
【図3】皿ばねの変位と設定の圧下量との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明者等は、鋳造方向に沿う、長さ14mの軽圧下帯を有する垂直曲げ型連続鋳造機を用いて、溶鋼成分と圧下量を変更した種々の鋳造鋳片を鋳込む連続鋳造を実施した。
【0025】
本発明において規定する軽圧下帯とは、二次冷却帯に設けられ、溶鋼成分に見合った圧下量で、未凝固状態にある鋳造鋳片をその引き抜き方向の下流に向けて徐々に圧下する領域と定義する。なお、この軽圧下帯による軽圧下は、セグメントに配列された複数のロール対によって行われる。
【0026】
そして、その連続鋳造で得られた鋳造鋳片を、ラインパイプの製造に適した厚鋼板に圧延し、得られた板製品から試料を採取するとともに、該試料につき、HIC試験(耐水素誘起割れ評価試験)を行い、鋳片における品質の評価を行った。
【0027】
なお、HIC試験は、試験溶液としては、NACE溶液(5%NaCl+0.5%CHCOOH硫化水素飽和溶液、pH=3.7)を用い、浸漬時間は96時間、試験溶液温度は25℃とした。
【0028】
そして、試験片に割れが発生した場合は、その試験片を超音波で調べ、割れ部の面積率を算出し、CAR(Crack Area Ratio)(%)として整理をした。
【0029】
連続鋳造は、連続鋳造用の鋳型内にモールドパウダーを添加しつつ、1.3〜1.4m/minの引き抜き速度のもと、厚さ250mm、幅2100mmになる鋳造鋳片(スラブ)を引き抜き、該鋳型内の湯面から15〜29mの範囲に設置された軽圧下帯において、0〜1.8mmの圧下量で該鋳造鋳片に軽圧下を施した。
【0030】
圧下量は、セグメントの入り側ロールと出側ロールのロール開度の設定値をそれぞれL(mm)、L(mm)とし、設定上の圧下量を(L−L)で算出した。
【0031】
また、セグメントのロール開度が設定値より拡がるとセグメントにかかる荷重を逃がす(過加重防止)のために、セグメントの入り側と出側の支柱上部にはそれそのものが変位する皿ばねが取り付けられている。
【0032】
このため、セグメントの入り側と出側の支柱の皿ばね変位をそれぞれX(mm)、X(mm)とし、入り側と出側のロール開度の拡大分はそれぞれAX(mm)、AX(mm)で表わした。
【0033】
ここに、A(−)は、図1に示すように、過荷重防止用の皿ばねが変位(x)した時にロール開度が設定値(y)からどれだけ変位するか(y)を示した傾き(y/x)であり、これは、皿ばねに依存する。また、本発明に使用した連続鋳造機の軽圧下帯のAは0.5であった。
【0034】
以上より、実際の入り側のロール開度は(L+AX)、出側のロール開度は(L+AX)で表される。従って実際の圧下量はロール開度の差分なので、(L+AX)−(L+AX)と表される。
【0035】
また、圧下量の設定値δ(mm)は、δ=L−Lになるので、実際の圧下量はδ+A(X−X)となり、式(1)の左辺となる。
【0036】
皿ばねの変位については支柱付近のフレームに渦電流式の変位計を設置して測定した。
【0037】
また、セグメントにかかる荷重は、皿ばねの変位量から算出した。
【0038】
ここに、セグメントにかかる荷重が、皿ばねの変位量から算出できるのは、以下の理由による。
【0039】
すなわち、連続鋳造鋳型より引き抜かれた鋳片はその引き抜き過程でロール間でバルジングすることになるが、軽圧下帯の圧下ロールにはセグメントから供給される油圧が作用しており、圧下ロールによりロール間バルジングは矯正されることになる。
【0040】
ところで、鋳片に対する圧下量がさらに大きくなると、セグメント耐荷重以上の荷重がかかり、支柱に設置された皿ばねに荷重が逃げる構造になっているので、該支柱の変位を測定することにより、セグメントにかかる荷重を算出することができるからである。
【0041】
2次冷却水の比水量(鋳片1kgあたりの冷却水量(リットル)を表す数値)は、1.71L/kgで鋳造した。
【0042】
CP値は、溶鋼成分の値に凝固末期での偏析係数を掛けたものであり、鋳片の厚み中心部の偏析部分のC当量に対応する値に相当する。該CP値は、連続鋳造において用いた溶鋼の成分組成から上記式(2)を使用して算出した(式(2)は特許文献2に記載されものであり、このCP値を一定以下とすることで中心偏析部の硬さを、割れが発生する限界硬さ以下に抑制することができる)。
【0043】
また、この連続鋳造における鋳造鋳片の引き抜き速度は、鋳片の厚み中心部の固相率が、0.3〜0.8の領域までが、軽圧下帯に位置するように制御した(制御方法については後述する)。
【0044】
図2は、CP値と圧下量が及ぼすCARへの影響について示したグラフである。
【0045】
厚鋼板においては、CARが5%を超えると問題となる場合が多いので、この試験では、CAR=5%を基準とした。
【0046】
図2より、CP値が小さくなるほど、CAR5%以上が発生する臨界の圧下量は小さくなっていることが分かる。
【0047】
また、CP値が0.91より小さくなると、圧下量=0、すなわち、軽圧下帯で軽圧下を施さなくてもCARが5%以下になることも明らかである。
【0048】
軽圧下により厚み中心部の偏析度は軽減され、圧下量が大きくなるほど偏析度は低減される。つまり、これは、同じCP値でも、圧下量が大きいと中心偏折が軽減されるので、偏析部の硬度が下がり、CARが低減されるということである。
【0049】
CARが5%を超える試料が発生した領域と、CARが5%より小さい試料が発生した領域を分類すると、圧下量≧22.2×CP−20.2(0.91<CP)、圧下量=0(CP≦0.91)という線が引ける。
【0050】
この線よりも圧下量を大きくすれば成分によらず、十分なCAR低減が期待できるので、CP値の高い溶鋼であっても品質劣化をきたすことなしに鋳造することが可能となる。
【0051】
また、CP値が低い溶鋼においては、圧下量を0もしくは小さい圧下量で鋳造することが可能となる。
【0052】
図3は、予め設定された圧下量と皿ばねの変位(セグメントの入側と出側における皿ばねの変位の平均値)の関係を示したグラフである。
【0053】
図3から明らかなように、予め設定された圧下量が大きくなるほど皿ばねの変位が大きくなることが分かる。つまり、圧下量が大きいほどセグメントにかかる荷重が大きい。
【0054】
CP値が低い場合は、圧下量が0あるいは小さい圧下量でよいため、セグメントに付加される荷重も小さくなり、結果として、連続鋳造機の寿命の延長に寄与することになる。
【0055】
本発明においては、鋳造鋳片の軽圧下を、望ましくは、鋳片の厚み中心部の固相率が0.3の領域から開始し、0.8となる領域まで行う。
【0056】
鋳造鋳片に対する軽圧下を、上記の範囲で行うのが望ましい理由は、鋳片厚み中心部の固相率が0.3を越えてから軽圧下を開始したとしても、その固相率に達する前に既に濃化した溶鋼が鋳造鋳片の厚み中心部に集積している可能性があり、これにより中心偏析が発生し、軽圧下による効果を十分に発揮させることができないことが懸念されるからである。
【0057】
一方、鋳片厚み中心部の固相率が0.8を超えていても、鋳造鋳片内の未凝固溶鋼がなお流動している場合があり、そのような状態で軽圧下を停止してしまうと、濃化溶鋼の、厚み中心部への集積が避けられず、軽圧下による効果を十分に発揮させることができないからである。
【0058】
そこで、本発明においては、鋳造鋳片の軽圧下の領域を、鋳片厚み中心部の固相率が0.3〜0.8の範囲で行うこととした。
【0059】
鋳造鋳片に対して軽圧下を施す際の、より好ましい固相率(開始点)としては、具体的には、0.3〜0.4とするのがよく、軽圧下を停止する際の固相率としては、0.7〜0.8とするのがよい。
【0060】
鋳片厚みの中心部の固相率は、2次元の伝熱凝固計算によって求めればよい。鋳片厚み中心部の固相率が1.0となる位置が凝固完了位置になる。
【0061】
また、鋳片の厚み中心部の固相率は、横波超音波または縦波超音波を鋳片に透過させ、これら超音波の鋳片の伝播時間から凝固完了位置を検知する凝固完了位置検知装置によっても求めることができる。
【0062】
つまり、凝固完了位置検出装置によって凝固完了位置(固相率=1.0)の正確な位置を求め、その位置を基準とし、伝熱計算などの手法を併用して鋳片中心部の鋳造方向の固相率を求めればよい。
【0063】
凝固完了位置は、2次冷却水の水量、水温などによって容易に制御することが可能であり、上記の手法によって、鋳片の厚み中心部の固相率を算出しておくことで、鋳造鋳片の適切な軽圧下を施すことができる。
【0064】
本発明では、垂直曲げ型の連続鋳造機を適用して連続鋳造を行うことができるが、湾曲型連続鋳造機を適用することも可能であり、この点については限定されない。
【0065】
鋳造鋳片は、その成分組成が、C:0.02〜0.06mass%(以下、単に「%」で表示する)、Mn:0.8〜1.6%、P :≦0.008%、Cu:≦0.5%、Ni:≦0.5%、Cr:≦0.5%、Mo:≦0.5%、さらに、V:≦0.1%を含有するものを適用するが、その理由は、以下のとおりである。
【0066】
Cは、鋼の強度を高めるのに最も有効な元素である。しかしながら、C量が0.02%未満では十分な強度を確保することができない。一方、C量が0.06%を超えると靭性および耐HIC性が劣化する。このため、本発明では、Cの含有量を0.02〜0.06%とした。
【0067】
また、Mnは、鋼の強度および靭性を向上させるために添加されるが、Mn量が0.8%未満ではその効果が十分でない。一方、Mnの含有量が1.6%を超える靭性や溶接性が劣化する。このため、本発明では、Mnの含有量を0.8〜1.6%の範囲とした。
【0068】
Pは、不可避的不純物である。Pは中心偏析部の硬さを上昇させることで耐HIC性を劣化させる。この傾向は、Pの含有量が0.008%を超えると顕著になる。このため、本発明においては、Pの含有量を0.008%以下とした。
【0069】
Cuは、靭性の改善と強度を上昇させるのに有効な元素であるが、0.5%を超えて添加されると、溶接性が劣化する。このため、本発明では、Cuの含有量を0.5%以下とした。
【0070】
Niは、靭性の改善と強度の上昇に有効な元素である。しかし、0.5を超えて添加されると溶接性が劣化する。このため、本発明では、Niの含有量を0.5%以下とした。
【0071】
Crは、焼入れ性を高めることで強度を上昇させるのに有効な元素である。しかしながら、0.5を超えて添加されると溶接性が劣化する。このため、本発明では、Crの含有量を0.5%以下とした。
【0072】
Moは、靭性の改善と強度の上昇に有効な元素であるが、0.5%を超えて添加すると溶接性が劣化する。このため、本発明では、Moの含有量を0.5%以下とした。
【0073】
Vは、靭性を劣化させることなしに鋼の強度を上昇させる元素である。しかし、0.1%を超えて添加すると溶接性を著しく損なう。このため、本発明では、Vの含有量を0.1%以下とした。
【0074】
上記の成分を除いた残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。
【実施例】
【0075】
鋳造鋳片の引き抜き方向に沿う、長さ14mの軽圧下帯を有する垂直曲げ型連続鋳造機を用い、表1に示した成分組成になる溶鋼について、引き抜き速度:1.4m/min、2次冷却水の比水量:1.71L/kg、とする条件のもとに連続鋳造を行い、厚さ250mm、幅2100ミリのサイズになる鋳片を鋳造した。
【0076】
そして、得られた鋳片につき、圧延を施し、輸送用ラインパイプの製造に適した厚鋼板を製造したのち、該厚鋼板から試料を採取し、HIC試験を実施した。
【0077】
なお、表1中の本発明例は、軽圧下帯で、式(1)、(2)で算出した圧下量以上の圧下量で軽圧下を行った場合であり、比較例は、式(1)、(2)で算出した圧下量より小さい圧下量で軽圧下をした場合である。
【0078】
【表1】

【0079】
また、表2に、必要な圧下量、軽圧下帯で付与した圧下量、HIC試験によるCAR値、皿ばねの変位(セグメントの支柱の変位)、設定圧下量、品質にかかわる合否を示す。
【0080】
【表2】

【0081】
表2より明らかなように、本発明例No.1〜5においては、CARは3%以下と良好な結果であり、全て合格であった。また、支柱の変位は圧下量が小さくなるほど低減しており、過剰な転圧下付与によるセグメントの負荷の増加を防止することが確認できた。
【0082】
また、連続鋳造において、軽圧下帯におけるセグメントの交換に至るまでの期間が、どのくらいになるかを調査したところ、通常は、約3000チャージでセグメントの交換を余儀なくされていたのに対して、本発明に従う連続鋳造では、セグメントの交換までの鋳造チャージが5000チャージを上回り、セグメントの寿命を格段に延長できることが明らかとなった。
【0083】
一方、式(1)(2)を満たさない圧下量で軽圧下を施した比較例No.6〜10においては、CAR値は8%以上となり、内部品質が悪化しており、全て不合格であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラインパイプ製造用鋼板に供するための鋳造鋳片を連続鋳造する際に、
連続鋳造用鋳型より引き抜かれた鋳造鋳片の軽圧下帯における圧下を、厚み中心部の固相率に応じて、下記式(1)(2)の条件を充足するように軽圧下することを特徴とするラインパイプ鋼板用鋳片の連続鋳造方法。

δ+A(X−X)≧22.2×CP−20.2 (0.91<CP)、
δ=0 (CP≦0.91) ‥‥(1)
CP=4.46×[mass%C]+2.37×[mass%Mn]÷6+{1.18×
[mass%Cr]+1.95×[mass%Mo]+1.74×[mass%V]}
÷5+{1.74×[mass%Cu]+1.7×[mass%Ni]}÷15+
22.36×[mass%P] ‥‥(2)
ここに、
δ:軽圧下帯のセグメントにおける入側ロールと出側ロールのロール開度の設定値の差(mm)、
:軽圧下帯のセグメントにおける入側の支柱上部に取り付けられた過荷重防止用皿ばねの変位量(mm)、
:軽圧下帯のセグメントにおける出側の支柱上部に取り付けられた過荷重防止用皿ばねの変位量(mm)、
A:過荷重防止用の皿ばねが変位した時にロール開度が設定値からどれだけ変位したかを示す傾き(─)、
【請求項2】
軽圧下を施す厚み中心部の固相率が、0.3〜0.8の領域であることを特徴とする請求項1に記載のラインパイプ鋼板用鋳片の連続鋳造方法。
【請求項3】
前記ラインパイプ製造用鋼板は、
C :0.02〜0.06mass%、 Mn:0.8〜1.6mass%、
P :≦0.008mass%、 Cu:≦0.5mass%、
Ni:≦0.5mass%、 Cr:≦0.5mass%、
Mo:≦0.5mass%、 V :≦0.1mass%を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする請求項1または2に記載のラインパイプ鋼板用鋳片の連続鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−10112(P2013−10112A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143650(P2011−143650)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】