説明

ラクタム及びラクトン合成酵素

【課題】 抗生物質などとして有用な大環状ラクタムや大環状ラクトンを効率的に製造する手段を提供する。
【解決手段】 放線菌ストレプトミセス・ハルステディーの持つビセニスタチン生合成酵素遺伝子クラスター中に含まれるDNAがコードするタンパク質を、N-アセチルシステアミンチオエステル誘導体やエチルエステル誘導体などの環化前駆体に作用させ、大環状ラクタムや大環状ラクトンを効率的に製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大環状ラクタム及び大環状ラクトンの環化反応を触媒する酵素、並びにこの酵素を用いた大環状ラクタム及び大環状ラクトンの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
マクロリドなど薬理的に有用な大環状化合物は、有機化学的手法によって合成することが可能である。しかし、このよう合成法には、保護基の導入及び脱保護など煩雑な操作が伴う。一方、酵素を用いた方法によれば、このような煩雑な操作を伴うことなく、目的物質を効率的に合成することができる。
【0003】
マクロリド合成酵素としては、エポチロン生合成酵素中に含まれるチオエステラーゼが知られている(非特許文献1)。この酵素は、N-アセチルシステアミン(NAC)チオエステル誘導体を環状化させる反応を触媒する。また、マクロリド合成酵素ではないが、ペプチド系抗生物質の生合成酵素中に含まれるチオエステラーゼも、大環状化反応を触媒する(非特許文献2)。この酵素も、NACチオエステル誘導体を基質とする。このように大環状化合物の環化反応を触媒する酵素は幾つか知られているが、いずれもNACチオエステルを基質しており、エチルエステルのような調製容易なエステルを基質とする酵素は知られていなかった。
【0004】
ところで、本発明者らは、以前、放線菌ストレプトミセス・ハルステディー(Streptomyces halstedii)の持つビセニスタチン生合成酵素遺伝子クラスターを明らかにしている(特許文献1、非特許文献3)。ビセニスタチンは、大環状ラクタム構造を含むことから、遺伝子クラスター中には、大環状ラクタムの環化反応を触媒する酵素の遺伝子が含まれるものと予想されたが、その位置は特定できていなかった。
【0005】
【特許文献1】特開2004-89156号公報
【非特許文献1】C. N. Boddy et al. J. Am. Chem. Soc., 2003, 125, 3428-3429
【非特許文献2】R. M. Kohli et al. Chem. Commun., 2003, 297-307
【非特許文献3】Y. Ogasawara et al. Chem. Biol., 2004, 79-86
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような技術的背景の下になされたものであり、大環状ラクトンや大環状ラクタムのような大環状化合物を効率的に合成する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、ビセニスタチン生合成酵素遺伝子クラスター中の大環状ラクタムの環化反応に関与するDNA領域を明らかにした。また、そのDNAから酵素を生産し、その活性を調べたところ、その酵素はNACチオエステル体だけでなく、エチルエステル体に対しても作用することを見出した。本発明は、以上の知見に基づき完成されたものである。
【0008】
即ち、本発明は、以下の(1)〜(5)を提供するものである。
【0009】
(1)下記の(a)〜(c)に示すタンパク質、
(a)配列番号2記載のアミノ酸配列で表されるタンパク質、
(b)配列番号2記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列で表され、エステラーゼ又はアミダーゼ活性を有するタンパク質、
(c)配列番号1記載の塩基配列で表されるDNA又はそれと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがコードする細菌由来のタンパク質であって、エステラーゼ又はアミダーゼ活性を有するタンパク質。
【0010】
(2)一般式(I):
【0011】
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基、又はアセチルアミノエチル基を示し、Xは酸素原子又は硫黄原子を示し、Yは水酸基、メチル基、二重結合を有していてもよい炭素数12〜20の鎖状炭化水素基を示す。)
で表される化合物に(1)記載のタンパク質を作用させることを特徴とする一般式(III)又は一般式(V):
【0012】
【化2】

(式中、Yは前記と同意義を示す。)
【0013】
【化3】

(式中、Yは前記と同意義を示す。)
で表されるラクタムの製造方法。
【0014】
(3)一般式(I)で表される化合物が、一般式(I−a)又は一般式(I−b):
【0015】
【化4】

【0016】
【化5】

で表される化合物であり、一般式(III)で表されるラクタムが、一般式(III−a):
【0017】
【化6】

で表されるラクタムであることを特徴とする(2)記載のラクタムの製造方法。
【0018】
(4)一般式(II):
【0019】
【化7】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基、又はアセチルアミノエチル基を示し、Xは酸素原子又は硫黄原子を示し、Yは水酸基、メチル基、二重結合を有していてもよい炭素数12〜20の鎖状炭化水素基を示す。)
で表される化合物に(1)記載のタンパク質を作用させることを特徴とする一般式(IV)又は一般式(VI):
【0020】
【化8】

(式中、Yは前記と同意義を示す。)
【0021】
【化9】

(式中、Yは前記と同意義を示す。)
で表されるラクトンの製造方法。
【0022】
(5)一般式(II)で表される化合物が、一般式(II−a)又は一般式(II−b):
【0023】
【化10】

【0024】
【化11】

で表される化合物であり、一般式(VI)で表されるラクトンが、一般式(VI−a):
【0025】
【化12】

で表されるラクトンであることを特徴とする(4)記載のラクトンの製造方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明のタンパク質を用いることにより、抗生物質などとして有用な大環状ラクタムや大環状ラクトンを効率的に製造することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0028】
本発明のタンパク質には、(a)配列番号2記載のアミノ酸配列で表されるタンパク質、(b)配列番号2記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列で表され、エステラーゼ又はアミダーゼ活性を有するタンパク質、及び(c)配列番号1記載の塩基配列で表されるDNA又はそれと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがコードする細菌由来のタンパク質であって、エステラーゼ又はアミダーゼ活性を有するタンパク質が含まれる。
【0029】
(a)のタンパク質は、「VinP4-TE」と命名されたタンパク質であり、大環状ラクタムの環化を触媒するアミダーゼ活性と大環状ラクトンの環化を触媒するエステラーゼ活性とを持つ。この酵素の遺伝子(VinP4-TE遺伝子)はビセニスタチン生合成酵素遺伝子クラスター中に含まれる。(a)のタンパク質のアミノ酸配列及びそれをコードするDNAの塩基配列は、それぞれ配列番号2及び配列番号1に示すとおりである。
【0030】
(b)のタンパク質は、(a)のタンパク質に、アミダーゼ活性又はエステラーゼ活性を失わせない程度の変異が導入されたタンパク質である。このような変異は、自然界において生じる変異のほかに、人為的な変異をも含む。人為的変異を生じさせる手段としては、部位特異的変異誘発法(Nucleic Acids Res. 10, 6487-6500, 1982)などを挙げることができるが、これに限定されるわけではない。変異したアミノ酸の数は、前記した活性を失わせない限り、その個数は制限されないが、通常は、30アミノ酸以内であり、好ましくは20アミノ酸以内であり、更に好ましくは10アミノ酸以内であり、最も好ましくは5アミノ酸以内である。
【0031】
(c)のタンパク質は、DNA同士のハイブリダイゼーションを利用することにより得られる(a)と同様の機能を持つタンパク質である。(c)のタンパク質における「ストリンジェントな条件」とは、特異的なハイブリダイゼーションのみが起き、非特異的なハイブリダイゼーションが起きないような条件をいう。このような条件は、通常、37℃でのハイブリダイゼーション及び1×SSC、0.1%SDSを含む緩衝液による37℃での洗浄処理といった条件であり、好ましくは、42℃でのハイブリダイゼーション及び0.5×SSC、0.1%SDSを含む緩衝液による42℃での洗浄処理といった条件であり、更に好ましくは、65℃でのハイブリダイゼーション及び0.2×SSC、0.1%SDSを含む緩衝液による65℃での洗浄処理といった条件である。ハイブリダイゼーションにより得られるDNAは、配列番号1記載の塩基配列で表されるDNAと通常高い相同性を有する。高い相同性とは、60%以上の相同性、好ましくは75%以上の相同性、更に好ましくは90%以上の相同性を指す。
【0032】
本発明のタンパク質は、ラクタムの製造に利用することができる。
【0033】
即ち、一般式(I)で表される化合物に本発明のタンパク質を作用させ、これにより一般式(III)又は一般式(V)で表されるラクタムを製造することができる。
【0034】
一般式(I)におけるRは炭素数1〜4のアルキル基、又はアセチルアミノエチル基を示すが、好適には、エチル基を示す。
【0035】
一般式(I)におけるXは酸素原子又は硫黄原子を示すが、好適には酸素原子を示す。
【0036】
一般式(I)等におけるYは水酸基、メチル基、二重結合を有していてもよい炭素数12〜20の鎖状炭化水素基を示す。炭素数は12〜20の範囲であれば特に限定されないが、単量体である一般式(III)で表されるラクタムを製造する際には16〜18の範囲であることが好ましく、二量体である一般式(V)で表されるラクタムを製造する際には12〜14の範囲であることが好ましい。水酸基の数は特に限定されないが、1〜3の範囲が好ましい。メチル基の数も特に限定されないが、1〜4の範囲が好ましい。二重結合の数も特に限定されないが、一般式(III)で表されるラクタムを製造する際には4〜6の範囲であることが好ましく、一般式(V)で表されるラクタムを製造する際には2〜4の範囲であることが好ましい。
【0037】
一般式(I)で表される化合物の具体例としては、前記した一般式(I−a)及び一般式(I−b)で表される化合物を例示できる。一般式(III)で表されるラクタムの具体例としては、前記した一般式(III−a)で表されるラクタムを例示できる。
【0038】
本発明のタンパク質と一般式(I)で表される化合物との反応は、常法に従って行えばよく、例えば、一般式(I)を含む緩衝液中に本発明のタンパク質を添加すればよい。反応時の温度は特に制限されないが、20℃〜45℃ぐらいが適当である。反応時間も特に限定されないが、1〜12時間ぐらいが適当である。一般式(I)で表される化合物と本発明のタンパク質の量比も特に限定されないが、前者と後者の重量比は100:1〜1000:1ぐらいにするのが適当である。
【0039】
本発明のタンパク質は、ラクトンの製造にも利用することができる。
【0040】
即ち、一般式(II)で表される化合物に本発明のタンパク質を作用させ、これにより一般式(IV)又は一般式(VI)で表されるラクトンを製造することができる。
【0041】
一般式(II)におけるRは炭素数1〜4のアルキル基、又はアセチルアミノエチル基を示すが、好適には、エチル基を示す。
【0042】
一般式(II)におけるXは酸素原子又は硫黄原子を示すが、好適には酸素原子を示す。
【0043】
一般式(II)等におけるYは水酸基、メチル基、二重結合を有していてもよい炭素数12〜20の鎖状炭化水素基を示す。炭素数は12〜20の範囲であれば特に限定されないが、単量体である一般式(IV)で表されるラクトンを製造する際には16〜18の範囲であることが好ましく、二量体である一般式(VI)で表されるラクトンを製造する際には12〜14の範囲であることが好ましい。水酸基の数は特に限定されないが、1〜3の範囲が好ましい。メチル基の数も特に限定されないが、1〜4の範囲が好ましい。二重結合の数も特に限定されないが、一般式(IV)で表されるラクトンを製造する際には4〜6の範囲であることが好ましく、一般式(VI)で表されるラクトンを製造する際には2〜4の範囲であることが好ましい。
【0044】
一般式(II)で表される化合物の具体例としては、前記した一般式(II−a)及び一般式(II−b)で表される化合物を例示できる。一般式(VI)で表されるラクトンの具体例としては、前記した一般式(VI−a)で表されるラクトンを例示できる。
【0045】
本発明のタンパク質と一般式(II)で表される化合物との反応は、常法に従って行えばよく、例えば、一般式(II)を含む緩衝液中に本発明のタンパク質を添加すればよい。反応時の温度は特に制限されないが、20℃〜45℃ぐらいが適当である。反応時間も特に限定されないが、1〜12時間ぐらいが適当である。一般式(II)で表される化合物と本発明のタンパク質の量比も特に限定されないが、前者と後者の重量比は100:1〜1000:1ぐらいにするのが適当である。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
【0047】
〔実施例1〕 VinP4-TE遺伝子のクローニング
ビセニスタチンの生合成遺伝子(特許文献1、非特許文献3)中のチオエステラーゼをコードする遺伝子部分は、既に結晶構造が明らかにされている6-デオキシエリスリノリドB合成酵素中のチオエステラーゼやピクロマイシン合成酵素中のチオエステラーゼとのアミノ酸配列の比較により決定した。目的遺伝子は定法に従いPCR法により、ビセニスタチン生合成遺伝子を含むコスミドを鋳型として増幅した。具体的な方法は、下記の通りである。
【0048】
KOD-plus DNAポリメラーゼを用いてPCRにより目的DNAを増幅した。PCR条件は10x KOD buffer 1 mL, 2mM dNTP 1 mL, 25 mM MgSO4 0.4 mL, DMSO 0.5 mL, 1 ng/mL template DNA (cosmid containing vinP4 gene) 1 mL, 10 mM vinTE2-F 1 mL, 10 mM vinTE1-R 1 mL,KOD-plus 0.2 mL, H2O 3.9 mL, total 10 mL; denature at 94℃ for 2 min, 25 cycle of denature at 94℃ for 15 sec, annealing at 60℃ for 30 sec, extension at 68℃ for 70 secで行った。使用したプライマーの配列は下記の通りである。
【0049】
vinTE2-F: CAGCCGGCGCatatGTCGGACGACG(配列番号3)
vinTE1-R: TCCGGCGCTCGACaaGCTtATGGGG(配列番号4)
(小文字の部分はPCRで導入する変異DNA)
【0050】
増幅したDNAはアガロースゲル電気泳動後、ゲル中から回収し、制限酵素HindIIIで消化した。消化したDNAはアガロース電気泳動後、ゲル中から回収し、HindIII消化、アルカリホスファターゼ処理した汎用ベクターLITMUS28とリガーゼにより結合させた。そのプラスミドを用いて大腸菌DH5aを形質転換し、目的とする遺伝子をクローニングした。複数のコロニーから得られるプラスミドDNAを抽出し、目的の配列を有するクローンをDNA配列解析により確認した。VinP4-TE遺伝子の塩基配列を配列番号1及び図2に示す。また、VinP4-TEのアミノ酸配列を配列番号2及び図1に示す。
【0051】
目的の遺伝子を含むプラスミドは制限酵素NdeIとHindIIIで消化し、一方発現用ベクターpET30も同じ制限酵素で消化した。それぞれDNA断片をアガロースゲル電気泳動後、ゲル中から回収しリガーゼにより結合させた。その発現用プラスミドを用いて大腸菌BL21(DE3)を形質転換し、VinP4-TEの大量発現用大腸菌を作製した。
【0052】
〔実施例2〕 VinP4-TEタンパク質の調製方法
VinP4-TEの大量発現は定法に従い組み換え大腸菌をOD600が0.6-0.8になるまで培養後、最終濃度0.2 mMのイソプロピルチオガラクトシド(IPTG)により発現を誘導した。培地は2xYT(トリプトン1.6 %、酵母抽出物1 %、NaCl 0.5 %, pH 7.0)でもLB培地(トリプトン1 %、酵母抽出物0.5 %、NaCl 1 %, pH 7.0)でも培養可能であった。IPTG誘導開始後、4時間培養を続けることでVinP4-TEは大量発現された。培養菌体を遠心分離により回収し、100 mMリン酸緩衝液(pH 7.0)で洗浄後、超音波により細胞破砕し無細胞抽出液を調製した。本培養菌体は冷凍保存可能である。さらにDEAE陰イオン交換クロマトグラフィー(0 - 1.0 MのNaCl濃度勾配により溶出)、ゲルろ過により純粋なタンパクとして調製した。
【0053】
〔実施例3〕 VinP4-TEを利用した酵素法による大環状化反応
(1)NACチオエステルを原料とするビセニラクタムへの環化反応
ビセニラクタム(抗生物質ビセニスタチンのラクタムアグリコン、一般式(III−a)で表されるラクタム)を加水分解してセコ酸とし、これをNACチオエステルに導き、VinP4-TEによる反応に付した。12.5 mMの基質のDMSO溶液5 mL(最終濃度1.25 mMの基質と10%のDMSO)と約0.45 mMのVinP4-TEを10 mL(最終濃度0.09 mM)と50 mMリン酸緩衝液(pH 7.0)を35 mL混合し(計50 mL)28℃にて1時間環化反応を行った。約0.2 mLの酢酸エチルを加えて反応を停止し、ラクタム環化体を抽出した。溶媒留去後メタノールに溶解し、HPLCにより分析した結果、ラクタム環化体の生成を確認することができた。
【0054】
環化前駆体(セコ−ビセニラクタムNACチオエステル)
【0055】
【化13】

1H NMR (400 MHz, CD3OD): δ 7.22 (dd, J = 15.2, 9.8 Hz, 1H, C3-H), 6.30 (d, J = 15.2 Hz, 1H, C2-H), 6.27-6.21 (m, 2H, C4, C14-H), 6.19 (dd, J = 15.1, 11.5 Hz, 2H, C5-H), 5.80 (d, J = 10.8 Hz, 1H, C13-H), 5.55 (dt, J = 14.3, 6.8 Hz, 1H, C15-H), 5.28 (t, J = 6.8 Hz, 1H, C9-H), 3.50 (q, J = 5.8 Hz, 1H, C7-H ), 3.30 (t, J = 6.7 Hz, 2H, C25-H), 3.06 (t, J = 6.7 Hz, 2H, C24-H), 2.69 (s, 2H, C11-H), 2.53 (dd, J = 12.6, 7.5 Hz, 1H, C19-H), 2.36 (dd, J = 12.6, 6.6 Hz, 1H, C19-H), 2.23-2.07 (m, 4H, C8, C16-H), 1.5 (m, 3H, C18, C17-H), 1.64 (s, 3H, C22-H), 1.49 (s, 3H, C21-H), 1.08 (d, 3H, J = 6.8 Hz, C20-H), 0.95 (d, 3H, J = 6.6 Hz, C23-H).
ラクタム環化体(ビセニラクタム)
【0056】
【化14】

1H NMR (400 MHz, pyridine-d5): δ 8.37 (d, J = 7.2 Hz, 1H, C19-NH), 7.57 (dd, J = 15.2, 11.6 Hz, 1H, C3-H), 6.75 (dd, J = 14.8, 11.2 Hz, 1H, C14-H), 6.31 (d, J = 5.6 Hz, 1H, C7-OH), 6.23 (dd, J = 14.4, 11.6 Hz, 1H, C4-H), 6.21 (d, J = 15.2 Hz, 1H, C2-H), 5.96 (dd, J = 14.4, 9.2 Hz, 1H, C5-H), 5.93 (d, J = 11.2 Hz, 1H, C13-H), 5.66 (ddd, J = 14.8, 8.8, 5.2 Hz, 1H, C15-H), 5.24 (t, J = 7.6 Hz, 1H, C9-H), 3.94 (dt, J =,14.0, 10.0 Hz, 1H, C19-H), 3.58 (q, J = 8.4 Hz, 1H, C7-H), 3.02 (ddd, J = 14.0, 4.8, 3.2 Hz, 1H, C19-H), 2.67 (d, J = 14.4 Hz, 1H, C11-H), 2.58 (d, J = 14.4 Hz, 1H, C11-H), 2.34-2.47 (m, 4H, C16, C8-H), 2.01-2.09 (m, 1H, C6-H), 1.85-1.75 (m, 1H, C18-H), 1.89 (s, 3H, C22-H), 1.49-1.58 (m, 1H, C17-H), 1.51 (s, 3H, C-21-H), 1.37-1.45 (m, 1H, C17-H), 1.29 (d, J = 6.4 Hz, 3H, C20-H), 0.80 (d, J = 6.8 Hz, 3H, C23-H).
【0057】
(2) エチルエステルを原料とするビセニラクタムへの環化反応
最も通常のエステルであるエチルエステルを原料として、VinP4-TEによる反応に付した。最終濃度1.25 mMの基質のDMSO溶液と最終濃度0.4 mMのVinP4-TEを混合し28℃における環化反応の経時変化を追跡した。先と同様に環化体を抽出しHPLCにより分析した結果、驚くべきことに1時間後にはほぼ原料が消費され、ラクタム環化体の生成が観測された。また副反応で起こると予想された加水分解も本酵素反応では確認されなかった。この発見は従来の概念を変えるものである。
【0058】
環化前駆体(セコ−ビセニラクタムエチルエステル)
【0059】
【化15】

1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 7.26 (dd, J = 15.4, 10.5 Hz, 1H, C3-H), 6.24 (dd, J = 14.9, 10.5 Hz, 1H, C14-H), 6.22 (dd, J = 15.4, 10.5 Hz, 1H, C4-H), 6.10 (dd, J = 15.4, 7.7 Hz, 1H, C5-H), 5.82 (d, J = 15.4, 1H, C2-H), 5.80 (d, J = 10.5 Hz, 1H, C13-H9), 5.59 (dt, J = 14.9, 7.1Hz, 1H, C15-H), 5.21 (t, J = 6.9 Hz, 1H, C9-H), 4.20 (q, J = 7.1Hz, 2H, C24-H), 3.54 (ddd, J = 8.6, 5.6, 4.2 Hz, 1H, C7-H), 2.71 (s, 2H, C11-H), 2.62 (dd, J = 12.4, 5.2 Hz, 1H, C19-H), 2.50 (dd, J = 12.4, 6.6 Hz, 1H, C19-H), 2.42 (dd, J = 13.4, 7.1 Hz, 1H, C16-H), 2.24-2.03 (m, 4H, C16, C6, C8-H), 1.5 (m, 3H, C18, C17-H), 1.64 (s, 3H, C22-H), 1.54 (s, 3H, C21-H), 1.29 (t, J = 7.1 Hz, 3H, C25-H), 1.10 (d, J = 6.8 Hz, 3H, C20-H), 0.90 (d, J = 6.6 Hz, 3H, C23-H)
【0060】
(3)鎖状脂肪酸化合物のNACチオエステルを原料とする大環状ラクトン化合物の合成
本発明者の研究室内に所蔵していた鎖状脂肪酸化合物のNACチオエステルを原料として、VinP4-TEによる反応に付した。基質6 mg/0.2 mL DMSO (final 7.4 mM)と2 mLのVinP4-TE (final 0.3 mM)を混合し、28℃にて12時間反応させた。大過剰の酢酸エチルにより反応停止後、酢酸エチル相を抽出、飽和食塩水で洗浄した。その溶液は、セライトでろ過、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。残留物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶出溶媒は酢酸エチル:ヘキサン = 2:1, 酢酸エチルのみ, 酢酸エチル:メタノール = 5:1と段階的に変化させた。)で精製し、二量化した大環状ラクトン化合物2.1mg (25.9%) を白色油状物として得た。
【0061】
鎖状脂肪酸化合物のNACチオエステル
【0062】
【化16】

1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 7.12 (s, 3H, C3-H), 6.02 (br-s, 1H, C17-NH), 5.69 (dt, J = 15.2, 6.8 Hz, 1H, C9-H), 5.50 (dd, J = 15.2, 6.8 Hz, 1H, C8-H), 3.96 (t, 1H, J = 6.4 Hz, C7-H), 3.64 (t, J = 7.2 Hz, 2H, C12-H), 3.45 (q, J = 6.4 Hz, 2H, C17-H), 3.08 (t, J = 6.4 Hz, 2H, C16-H), 2.68 (m, 1H, C6-H), 2.10 (q, J = 7.2 Hz, 2H, C10-H), 2.04 (d, J = 1.2 Hz, 3H, C13-H), 1.96 (s, 3H, C18-H), 1.89 (d, J = 1.2 Hz, 3H, C14-H), 1.65 (quint, J = 7.2 Hz, C11-H), 1.04 (d, J = 6.8 Hz, 3H, C15-H).
二量化した大環状ラクトン化合物
【0063】
【化17】

1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 7.08 (s, 2H, C3, C3'-H), 5.67 (dt, J = 15.0, 6.4 Hz, 2H, C9, C9'-H), 5.50 (dd, J = 15.0, 7.4 Hz, 2H, C8, C8'-H), 5.34 (d, J = 10.0 Hz, 2H, C5, C5'-H), 4.15 (dt, J = 10.8, 6.4 Hz, 2H, C12, C12'-H), 4.10 (dt, J = 10.8, 6.8 Hz, 2H, C12, C12'-H), 3.91 (dd, J = 7.4, 6.8 Hz, 2H, C7, C7'-H), 2.69 (m, 2H, C6, C6'-H), 2.15 (dt, J = 6.4, 5.2 Hz, 4H, C10, C10'-H), 1.97 (d, 1.2 Hz, 6H, C13, C13'-H), 1.85 (d, J = 1.2 Hz, 6H, C14, C14'-H), 1.75 (m, 4H, C11, C11'-H), 1.06 (d, J = 6.8 Hz, 6H, C15, C15'-H).
【0064】
(4)鎖状脂肪酸化合物のエチルエステルを原料とする大環状ラクトン化合物の合成
先と同じ鎖状脂肪酸化合物のエチルエステルを原料として、VinP4-TEによる反応に付した。最終濃度0.625 mMの基質のDMSO溶液と最終濃度0.42 mMのVinP4-TEを混合し28℃で1時間反応させた。先同様に大過剰の酢酸エチルで生成物を抽出しHPLC分析した。原料は全て消費され、二量化した大環状ラクトン化合物と加水分解物が生成したことがわかった。
【0065】
鎖状脂肪酸化合物のエチルエステル
【0066】
【化18】

1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 7.10 (s, 1H, C3-H), 5.68 (dt, J = 15.2, 6.8 Hz, 1H, C9-H), 5.50 (dd, 1H, J = 15.2, 6.8 Hz, C8-H), 5.40 (d, J = 10.0 Hz, 1H, C5-H), 4.20 (q, J = 7.2 Hz, 1H, C16-H), 3.95 (t, J = 6.8 Hz, 1H, C7-H), 3.65 (t, J = 6.8 Hz, 2H, C12-H), 2.65 (m, 1H, C6-H), 2.13 (q, J = 6.8 Hz, 2H, C10-H), 1.98 (d, J = 1.2 Hz, 3H, C13-H), 1.85 (s, 3H, C14-H), 1.65 (quint, J = 6.8 Hz, 2H, C11-H), 1.30 (t, J = 7.2 Hz, 3H, C17-H), 1.04 (d, J = 8.4 Hz, 1H, C15-H).
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】VinP4-TEのアミノ酸配列を示す図。
【図2】VinP4-TE遺伝子の塩基配列を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(a)〜(c)に示すタンパク質、
(a)配列番号2記載のアミノ酸配列で表されるタンパク質、
(b)配列番号2記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列で表され、エステラーゼ又はアミダーゼ活性を有するタンパク質、
(c)配列番号1記載の塩基配列で表されるDNA又はそれと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがコードする細菌由来のタンパク質であって、エステラーゼ又はアミダーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項2】
一般式(I):
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基、又はアセチルアミノエチル基を示し、Xは酸素原子又は硫黄原子を示し、Yは水酸基、メチル基、二重結合を有していてもよい炭素数12〜20の鎖状炭化水素基を示す。)
で表される化合物に請求項1記載のタンパク質を作用させることを特徴とする一般式(III)又は一般式(V):
【化2】

(式中、Yは前記と同意義を示す。)
【化3】

(式中、Yは前記と同意義を示す。)
で表されるラクタムの製造方法。
【請求項3】
一般式(I)で表される化合物が、一般式(I−a)又は一般式(I−b):
【化4】

【化5】

で表される化合物であり、一般式(III)で表されるラクタムが、一般式(III−a):
【化6】

で表されるラクタムであることを特徴とする請求項2記載のラクタムの製造方法。
【請求項4】
一般式(II):
【化7】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基、又はアセチルアミノエチル基を示し、Xは酸素原子又は硫黄原子を示し、Yは水酸基、メチル基、二重結合を有していてもよい炭素数12〜20の鎖状炭化水素基を示す。)
で表される化合物に請求項1記載のタンパク質を作用させることを特徴とする一般式(IV)又は一般式(VI):
【化8】

(式中、Yは前記と同意義を示す。)
【化9】

(式中、Yは前記と同意義を示す。)
で表されるラクトンの製造方法。
【請求項5】
一般式(II)で表される化合物が、一般式(II−a)又は一般式(II−b):
【化10】

【化11】

で表される化合物であり、一般式(VI)で表されるラクトンが、一般式(VI−a):
【化12】

で表されるラクトンであることを特徴とする請求項4記載のラクトンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−204169(P2006−204169A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−19886(P2005−19886)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】