説明

ラグスクリューの木製構造部材螺着方法

【課題】木製構造部材に形成する深い雌ねじ孔を接着剤の固化層で補強し、ねじ抜け耐力の増強を図るとともに雄ねじに対しては雌ねじとの間での軸方向のガタを排除して、ラグスクリューの木製構造部材に対する完全螺着を達成するようにする。
【解決手段】下孔3をラグスクリュー1の谷径に等しいかそれより大きいサイズの外径をもったドリルによって形成する。その下孔3にはラグスクリュー1とねじピッチは同じであるが、谷径と外径はラグスクリューのそれらと等しいかそれらよりは大きいサイズのタップが立てられる。下孔3に形成された螺旋溝間の円筒状壁面における粗質な春材をはじめ秋材もかき乱しつつタップを後進させる。タップ抜け孔の開口近傍部に接着剤を注入する。ラグスクリュー先端部により接着剤7をタップ抜け孔内で押動拡散させ、タップ抜け孔6とラグスクリュー1との間に接着剤固化層を形成すべく接着剤を充填させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はラグスクリューの木製構造部材螺着方法に係り、詳しくは、丸太材を用いてトラス構造物を構築できるようにするため、丸太材をノードに接合する継手部材を金属製とした場合でも、丸太材を強固に締結しておくことができるラグスクリュー螺着方法の改良に関する。これは、木製構造部材としてとりわけ緻密度の低い材質の木材が用いられる場合に好適となるラグスクリュー螺着法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
長尺な丸太材を木製構造部材として採用し、これをノード(節点部材)を介して三角形状に順次接続するトラス構造物も多く見られるようになってきている。木製構造部材としては材質の堅い檜等が採用される。これは、ノードとの間に介在される継手部材が接合強度の向上を指向した金属製とされることから、少しでも耐力のある素材を選定しておこうとの配慮によるものである。
【0003】
木製構造部材に継手部材を取りつけるためには長尺なラグスクリュー(木ねじ)が使用されるが、その例の一つが特開2005−97838に記載されている。図13をもとにして述べれば、継手部材21はノード22との接合機構23および木製構造部材24との接合機構25からなり、両接合機構23,25はねじ締結により一体化される。接合機構23は特開昭63−51539号公報をはじめとして多くの種類が特許公報によってよく知られたものとなっているので、その説明は省く。図14に示すように、接合機構25は木製構造部材の長手方向に螺着される何本かのラグスクリュー1と、木口10の保護と接合機構23のエンドコーン26とのねじ締結を図る周ねじ27を備えたエンドディスク9とで構成される。
【0004】
ところで、ラグスクリュー1の木製構造部材24への螺着は、木製構造部材に予めあけられた下孔にラグスクリューをインパクトレンチによりねじ込んで行われる。檜などの堅くて緻密な木質であると螺合面が崩れたり破損することがほとんどないのでラグスクリューとの螺着は確実であり、接合機構23から接合機構25を介して軸力が伝達され、ラグスクリューと木製構造部材との間に大きな引張力が働いても、ラグスクリューが木製構造部材からねじ抜けするといったことは起こらない。もちろん、必要に応じて螺着部にはねじロック剤が塗布されるなどして、総じて所望する引抜き耐力を発揮させることは難しいことでない。
【0005】
ところが、木製構造部材が杉などのように春材が粗大な細膜からなり材質が粗い場合には、下孔のほぼ全面に樹脂製接着剤を筆塗りするなどして螺着部位の強化が図られる。しかし、自ら下孔に螺旋溝を形成しながら螺進するラグスクリューの歯面部での接着剤膜の形成は容易でない結果下孔内面の強化効果が薄れ、従って引張方向ねじ保持力は高くを望み得ないことが多い。塗布するにおいても部材を立てて行わなければならないこと、筆塗りには個人差があって塗膜の厚みが一定しないこと、接着剤が下孔開口の周囲に付着して汚すこと、接着剤としてのエポキシ樹脂の主剤とその硬化剤との調合後の使用可能時間が短く、少量ずつの繰り返しが余儀なくされることなどから、結局は塗布作業性が非常に低く実用的であるとは言いがたい。
【0006】
ちなみに、上記した継手に限らず、棒材を接合する継手には種々なものがある。例えば特許文献1には、ねじ鉄筋をねじ孔成形した定着金物に螺合させるにあたり、両ねじ間にグラウトを充填することが開示されている。両者のねじ間の隙間がなくなり、締結は強固になるというものである。以上述べたように、ねじロック剤を使用したりグラウトを充填するなどして相互にかみ合うねじのガタや緩みを防止できるようにすることはすでによく知られたものとなっている。
【0007】
いずれも雌ねじを補強する意図でないゆえ、雄ねじが金属である一方、雌ねじが非金属とりわけ木質材である場合に、具体的には上で触れた柔らかい杉などに金属製ラグスクリューを螺着させるにおいては、ねじロック剤もグラウトも効果的に寄与するものでない。例えば特許文献2にあるように、ラグスクリューに代えて首下の長いボルトを採用し、丸太材にあけた長い孔の奥にナットを埋め込むなどしなければならなくなる。この場合、ナットは長孔の奥で丸太材を横断する空間を設けて挿入されることになるから、その横断孔が埋められるにしても丸太材の中実一体性の損なわれることは否めない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−159257号公報
【特許文献2】特開2001−262713
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記の問題に鑑みなされたもので、その目的は、雌ねじが形成される木製構造部材が春材の粗質な木種例えば杉である場合でも、その雌ねじを接着剤の固化層により補強してねじ抜け耐力の向上が図られるとともに、雄ねじに対しては雌ねじの歯面との間にガタが残らずラグスクリューの木製構造部材からの緩みが阻止されるラグスクリューの木製構造部材螺着方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、木製構造部材の木口からその構造部材長手方向に延びる下孔にラグスクリューを螺着させる方法に適用される。その特徴とするところは、図1、図2を参照して、木製構造部材24は杉といった春材の粗い木種の長尺材とし、下孔3は、ラグスクリュー1の谷径dL1に等しいかそれより大きいサイズの外径DD をもったドリル2によって形成される。形成されたその下孔3には、ラグスクリュー1のねじピッチpL と同じねじピッチpT (図3を参照)であるが、谷径dT1と外径DT とはラグスクリューの谷径dL1と外径DL とに等しいかそれらよりは大きいサイズのタップ4が孔奥まで進入される(図4を参照)。下孔3に形成された螺旋溝間の円筒状壁面3a(図5を参照)における粗質な春材をはじめやや硬質な秋材もかき乱しつつタップ4を後進させる。タップ抜け孔6の開口6a(図6を参照)の近傍部に接着剤7を注入する。ラグスクリュー1をタップ抜け孔6で螺進させつつラグスクリュー先端部により接着剤7を孔内に押散し(図7を参照)、タップ抜け孔6とラグスクリュー1との間に接着剤を充満させる(図1を参照)。円筒状壁面3aのかき乱し面に膠着して形成された接着剤固化層12でもってねじ抜け耐力の向上が図られるとともに、タップ抜け孔6の内部にラグスクリュー1の歯面との間にガタの生じない雌ねじが形成され、ラグスクリューが下孔に不動状態とされる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、タップの進入より下孔に螺旋溝孔を形成させた後に、そのタップを引き抜くことによって螺旋溝間の円筒状壁面における粗質な春材をはじめ秋材もかき落とすようにし、タップ抜け孔の開口近傍部に注入された接着剤を螺進するラグスクリューによりタップ抜け孔内で押散して、タップ抜け孔とラグスクリューとの間に接着剤を充満させるようにしたので、かき乱し面に膠着した接着剤固化層を形成させることができ、ねじ抜け耐力の向上が図られる。これは木製トラス部材側の荒らされた木肌に接着剤が強力に付着することで得られるものである。タップ抜け孔内にラグスクリューの歯面との間で軸方向のガタの生じない雌ねじが形成されることにもなって、緩み阻止効果も増強しておくことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るラグスクリューの木製構造部材螺着方法によって成形された接着剤固化層ならびにそれに固定されたラグスクリューの木製構造部材における縦断面図。
【図2】木製構造部材の木口から長手方向に延びる下孔をドリルにより形成している様子を示す縦断面図。
【図3】下孔にタップを立てて螺旋溝を形成している様子を示す縦断面図。
【図4】タップが孔底に到達したときの縦断面図。
【図5】タップの下孔内後進によりかき乱し拡径部が形成されている様子を示す縦断面図。
【図6】タップ抜け孔に接着剤を供給する様子を示す縦断面図。
【図7】タップ抜け孔へのラグスクリュー進入による接着剤の押散、およびかき乱し拡径部に膠着した接着剤固化層成形の様子を示す縦断面図。
【図8】接着剤固化層を含むタップ抜け孔の構造部材縦断面図および左端面略図。
【図9】接着剤固化層単体の縦断面図。
【図10】接着剤固化層単体の内面からの斜視図。
【図11】図14におけるB−B線矢視拡大図。
【図12】エンドディスクとラグスクリューとの取付関係図。
【図13】ノードを介して接合された木製構造部材の外観図。
【図14】木製構造部材の接合箇所における一例の縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明に係るラグスクリューの木製構造部材螺着方法を、その実施の形態を表した図面に基づいて詳細に説明する。図13はトラス構造物を形成すべく、ノード22を介して左右二つの木製構造部材24,24が接合されている様子を示す。ノード22の表面には幾つもの方向へ木製構造部材を接合することができるようにノード孔22aが形成され、継手部材21を構成する図14に示す接合ボルト28が螺着できるようになっている。継手部材21はノード側接合機構23と木製構造部材側接合機構25とからなるが、本発明は木製構造部材側の接合機構25で使用されるラグスクリュー1の木製構造部材24に対する螺着の新規な方法を提案するものである。
【0014】
ラグスクリュー1は、木製構造部材の一方の木口10において図11のように例えば4本が使用される。このラグスクリューは図12に示すようにエンドディスク9を座金的に使用し、ヘッドが直接接触しないようにして木口10の保護を図っている。それだけでなく、それぞれのラグスクリューの締結力を木口で均すように軸荷重の分散機能も果たす。ちなみに、エンドディスク9は図14に示すようにエンドコーン26と左ねじ27で螺合され、最終的に六角スリーブ29を右回転させて接合ボルト28をノード22にねじ込むとき、緩みが生じないように配慮されている。コイルスプリング30は接合ボルト28の先端を六角スリーブ29内に退避させた後に弾発力を発揮して、接合ボルト端をノード孔22aに臨ませたとき、螺進する接合ボルト28の後押しをするものである。
【0015】
このようなトラス構造物を形成するにおいて、構造材が木製である場合、とりわけ緻密度の低い材質の丸太材、例えば杉といった粗い春材を有する木種の場合といえども、ラグスクリューのねじ抜け耐力の低下は許されない。ラグスクリューは秋材の箇所にも螺着されるとはいえ材質が粗い春材の箇所にも螺着することは避けられないから、ラグスクリューにおいてはねじ抜け耐力にばらつきの少ないことが望まれる。
【0016】
以下に、杉といった春材の粗い長尺な木製構造部材の木口からその構造部材長手方向に延びる下孔にラグスクリューを螺着させる方法を、順を追って説明する。それは、木製構造部材の木口から長手方向に延びる下孔を形成する工程、下孔にタップを立てての螺旋溝を成形する工程、タップの下孔後進によるかき乱し拡径部を形成する工程、かき乱し拡径部を持ったタップ抜け孔へ接着剤を供給する工程、タップ抜け孔へのラグスクリュー進入による接着剤の押動拡散とそれによるねじ間に接着剤を充満させる工程からなるものである。
【0017】
図を参照しながら、タップ抜け孔内にねじ抜け耐力を高めた雌ねじを形成し、バックラッシュ(背隙、ガタ)のないラグスクリューの不動螺着を達成する工程を順次見ていく。まず、ラグスクリュー1(図1を参照)の谷径dL1に等しいかそれより大きいサイズの外径DD (図2を参照)をもったドリル2によって下孔3を形成する。通常はDD =dL1+1mmとしておけばよい。次に述べるタップの谷径もラグスクリューの谷径に等しいかそれより大きいサイズに選定されるので、ラグスクリューの谷径より小さいサイズの下孔ではタップを進行させることができなくなるからである。ちなみに、穿孔用ドリルの最大径DD max はM12の場合DL −2mm程度(DL :ラグスクリューの外径)、M16の場合DL −3mm程度としておけばよい。ラグスクリューのねじ山と螺着する雌ねじを下孔壁面に形成する余地を残しておくことができればよいからである。
【0018】
図3に示すように、形成されたその下孔3には、ラグスクリューのねじピッチpL と同じねじピッチpT であるが、谷径dT1と外径DT はラグスクリューのそれらdL1、DL に等しいかそれらよりは大きいサイズのタップ4が立てられる。通常はタップの谷径dT1も外径DT もラグスクリューのそれらと等しいものでよい。それらより少し大きいサイズのタップを使用するなら、ラグスクリューの螺進は余裕あるものとなる。なお、タップの外径DT がラグスクリューのそれDL より少し大きいサイズの場合、厳格に言えばタップの刻み角θT = tan-1(pT /πDT )とラグスクリューの刻み角θL = tan-1(pL /πDL )との間に違いが生じることになる。しかし、それは僅かでありしかも雌ねじ側が変形容易な木質であるから、ほとんど問題となることはない。
【0019】
図4のように孔奥まで進入したタップ4は、図5に示すように逆回転させて引き出される。このタップの後進(引き抜き)は、下孔3に形成された螺旋溝間の円筒状壁面3aにおける粗質な春材をはじめやや硬質の秋材もかき乱す。この「かき乱し」は、タップを後進させるとき生じる手振れなどにより達成される。タップは下孔センターに対して自然と交差したりその交差姿勢を僅かであっても変化させながら抜き出されるから、進入時に形成した螺旋溝間の円筒状壁面に接触する。その箇所が春材(年輪間の柔らかい部分)であればそれを簡単に剥ぎ取るなどして欠落させ、秋材(堅い年輪)のところでも金属タップの歯面が当たるなどすれば押し潰される。図5の右箇所の円内から取り出して濃く示した部分5が、タップによるかき乱しにより削り取られた箇所の断面を示す。結果的に、下孔はかき乱し拡径部を持ったタップ抜け孔6となる。言うまでもなく、そのかき乱し拡径部の径dS は当然にタップ4の谷径dT1より大きい。
【0020】
このようにして形成されたタップ抜け孔6は、その中に残る木くずが除去された後、その開口近傍部に、図6に示すように、エポキシ樹脂などの接着剤7が注入される。例えば「あと施工アンカー」工事などにおいては、孔に接着剤を供給するのは孔奥に対してである。アンカーを進入させると、その先端部が接着剤を排除しようとするから、その排除された分の接着剤は孔壁に沿って孔開口に向け上昇(逆流)する。これによって空気も押し出されるから、エア溜まりのない接着剤層が形成される。それは下孔が連続したストレート壁を持つ円筒形であるからであるが、タップ抜け孔6においてはタップ抜け孔とラグスクリューとの間に残る空間がいりくんでいて複雑であり、接着剤の溢流的流動を期待するには無理がある。
【0021】
そこで、試行錯誤を繰り返すことになるが、如何ほどの量をタップ抜け孔の開口6aに注入すれば、ラグスクリューの全長にわたって充填することができるかを調査する。接着剤の量が少なければ樹脂抜け箇所が生じる。多すぎるとラグスクリューの所定長さの進入が阻害される。いわゆる適量を見つけることが課題の一つでもある。発明者による研究では、軸長にもよるが、M12のラグスクリューに対しての樹脂注入量は4cc(=4ミリリットル)、M16に対しては8ccでよいことが突きとめられた。従って、使用可能時間に余裕の少ない主剤と硬化剤との混練物を、このような実地検証された量だけの調合とすればよい。接着剤の歩留りが高くなれば、工費の無用の高騰も抑えられる。
【0022】
タップ抜け孔の開口に所定量の接着剤が、例えば「あと施工アンカー」用注入機を使用するなどして注入されるが、その注入機は、樹脂カートリッジ(エポキシ樹脂主剤と硬化剤を格納)、ミキシングノズル、ガンからなっている。主剤と硬化剤はミキシングノズルの中で混合され、ガン8から調合済みのエポキシ樹脂7が吐出される。樹脂は、適度の粘性を持っているので木製構造部材の木口に垂らすこともなければ、筆塗り時に課せられた木製構造部材の立て置きやその支持の必要もなく、塗布作業者の力量の違いによる不均一厚みの発生もなくなる。
【0023】
ちなみに、座金としてのエンドディスク9は図示しないピンなどによって位置決めしてから木口10にあてがわれ、ジャッキにより次に述べる爪を圧入して密着させた後に接着剤が注入される。エンドディスク9の周縁部分に突設されている爪11はエンドディスクと同心状のリングとされており、木口の周縁部に突き刺さる。図11に示したように、この爪11がラグスクリュー1の進入により生じたひび割れ31の外方への進行を阻止し、それとともに木口10の事後的な膨脹変形等も抑止する。
【0024】
最後に、図7のように、ラグスクリュー1をタップ抜け孔6に螺進させつつラグスクリュー先端部により接着剤7を孔奥まで押動しつつ拡散させる。図1に示したごとくラグスクリュー1により孔奥すなわち孔底3bに到達するまで押動された接着剤7は、タップ抜け孔とラグスクリューとの間に残る空間を埋める。養生期間をおいて硬化すると接着剤固化層12としてのライニングが形成される。この固化層は木製構造部材側のかき乱し拡径部に膠着しているから木製構造部材との一体化は強固になされ、ねじ抜け耐力は檜に勝とも劣らないものになる。それゆえ、安価な杉材の構造部材への使用の途も開かれる。
【0025】
図8はラグスクリューを省いて描かれたものであって、ラグスクリューを抜き取ることができることを意味していない。孔底3bに押し込まれた部分の接着剤も固化して残っている。この孔底の接着剤7aは余剰塊であるものの、ねじ間充填部の略円筒の形状の一体性を高め従って固化層12の捩じり剛性の向上等にも多少は寄与する。図9はその接着剤固化層12の単体を表したものである。図10は成形された固化層12を内部から見た斜視図である。図中の上部の色の薄い箇所Aがねじ間を埋める充填層である。その上端はねじ山に準じた山状部12aで、それに連なる非ねじ山部12b(螺旋溝間の円筒状壁面)もほとんどエア溜まりなく連なる。なお、若干のエア溜まりが残存したとしても、機能的には特に問題となることはない。
【0026】
その図において、上は小さな波13を打ったように表されているが、これはタップ抜け孔6の内面がタップの後進時にかき乱された木肌となっていることを意味し、その凹凸が木製構造部材と接着剤固化層とのずれを阻止する。ねじ山に準じた山状部12aよりは厚みのひときわ大きい非ねじ山部12bは、図5中符号5で示した欠け落ちによって下孔径よりも拡径したことによる厚肉化が図られている。固化層の内面は機械的に成形されたラグスクリューの表面に密着する関係で極めて滑らかになっている。しかし、この固化層はラグスクリューとの間に軸方向のガタを与えることがないので、ラグスクリューの固定はゆるぎないものとなる。
【0027】
本方法によれば、木製トラス部材側の荒れた木肌(かき乱し面)には接着剤固化層が強力に膠着する結果、著しく向上したねじ抜け耐力が発揮される。杉などの緻密さに欠ける木質材であっても、ねじ抜け耐力については少なくとも檜以上に改質することができる。木製トラス構造物の構築にあたっての木種選定の幅が拡げられることになるのは言うまでもない。また、タップ抜け孔内に歯面間ガタのない雌ねじが形成されるから緩み阻止力が増大し、下孔にラグスクリューを不動状態にした完全螺着固定が達成される。
【0028】
ちなみに、木材にタップを立てて雌ねじを予め形成しておくことはあるが、その全ては木製ボルトを螺着させるためである。金属性のラグスクリューを螺着させるために木材に予めタップを立ててねじ孔を形成しておくという思想は原則的に存在しない。何故なら、金属製ラグスクリューと木材とは硬さが違いすぎる結果、タップによって下孔に螺旋溝を形成しておいたとしても、ラグスクリューの進入で成形されている螺旋溝が破損されやすく、ねじ抜け耐力が却って激減するからである。ラグスクリューはドリルで穿孔された単なる直線壁孔に対してセルフタッピング的に螺進・螺着させていくねじ棒として使用されるものである点で木ねじと同じ概念である。しかし、本発明におけるラグスクリューは構造部材側とラグスクリュー側とに強力に付着する接着剤固化層なる鎧を着せた格好となっている点で、木ねじの螺着概念とは著しく異なる。木製構造部材としてとりわけ緻密度の低い材質の丸太材が用いられる場合に特に好適となるラグスクリュー螺着方法が提供されていることに注目すべきである。
【符号の説明】
【0029】
1…ラグスクリュー、2…ドリル、3…下孔、3a…円筒状壁面、3b…孔底、4…タップ、5…濃く示した部分、6…タップ抜け孔、6a…開口、7……接着剤、10…木口、12…接着剤固化層、24…木製構造部材、DD …ドリルの外径、dL1…ラグスクリューの谷径、DL …ラグスクリューの外径、dT1…タップの谷径、DT …タップの外径、pT …タップのピッチ、pL …ラグスクリューのピッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木製構造部材の木口から該構造部材長手方向に延びる下孔にラグスクリューを螺着させる方法において、
前記木製構造部材は、杉といった春材の粗い木種の長尺材であり、
前記下孔は、前記ラグスクリューの谷径に等しいかそれより大きいサイズの外径をもったドリルによって形成され、
形成されたその下孔には、前記ラグスクリューとねじピッチは同じであるが、谷径と外径はラグスクリューのそれらと等しいかそれらよりは大きいサイズのタップが立てられ、 下孔に形成された螺旋溝間の円筒状壁面における粗質な春材をはじめやや硬質の秋材もかき乱しつつ該タップを引き抜き、
タップ抜け孔の開口近傍部に接着剤を注入し、
前記ラグスクリューをタップ抜け孔に螺進させつつラグスクリュー先端部により前記接着剤をタップ抜け孔内で押散して、タップ抜け孔とラグスクリューとの間に接着剤を充満させ、
かき乱し面に膠着して形成された接着剤固化層でもってねじ抜け耐力の向上が図られるとともに、タップ抜け孔内にラグスクリューの歯面との間にガタの生じない雌ねじが形成され、前記下孔にラグスクリューを不動状態にしておくことができるようにしたことを特徴とするラグスクリューの木製構造部材螺着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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