説明

ラジアントチューブ

【課題】U字管の局所的な加熱を防止しながら、一端に燃焼バーナを内装した第1直管と一端に炉外排ガス接続管を接続した第4直管との離間距離が小さいラジアントチューブを提供する。
【解決手段】一端に燃焼バーナが接続されると共に他端が第1ベントに接続された第1直管と、一端が炉外に連通すると共に他端が第3ベントに接続される第4直管とを平行に配置する。また、第2直管及び第3直管を、第1直管及び第4直管と平行となるように配置すると共に第2ベントで接続し、第2直管を第1ベントに、第3直管を第2ベントにそれぞれ接続してラジアントチューブを構成する。そのとき、第1直管、第2直管、第3直管、及び第4直管を、以下の式を満たすように配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射管式の熱処理炉等で使用されるラジアントチューブに関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板や条鋼線材などを熱処理する熱処理炉には、直火式と放射管(ラジアントチューブ)式とがある。直火式の熱処理炉では、炉内に燃焼バーナを設置し、鋼片は直接燃焼雰囲気中にさらされる。放射管式の熱処理炉では、炉内にラジアントチューブを配置し、ラジアントチューブからの輻射熱により鋼板や条鋼線材を加熱する。
このような、放射管式の熱処理炉で使用されるラジアントチューブとして、一端に燃焼バーナを内装し、他端にU字型のベントを接続した第1直管と、一端に炉外排ガス接続管と他端にU字型ベントを接続した第2直管と、を連通接続して構成されたUチューブ型ラジアントチューブがある。特許文献1は、このようなラジアントチューブの一例を開示している。
【0003】
また、熱処理炉において、W型ラジアントチューブも一般的に用いられている。このW型ラジアントチューブでは、一端に燃焼バーナが内装され且つ他端にU字型の第1ベントが接続された第1直管と、一端に炉外排ガス接続管が接続され且つ他端にU字型の第3ベントが接続された第4直管と、が平行に配置されている。さらに、第1直管及び第4直管より短い第2直管と第3直管が設けられ、第2直管と第3直管とがU字型の第2ベントで接続されると共に、第2直管は前記第1ベントに、第3直管は前記第2ベントにそれぞれ接続されている。さらに、第1〜第4直管が連通接続し、同一平面上に配置されている。特許文献2は、このようなラジアントチューブの一例を開示している。
【0004】
近年、このような熱処理炉における急速加熱や高応答性を実現するために、抵抗加熱や誘導加熱等の電気加熱方式を用いることが提案されている。しかし、製造コストや省エネルギー化の観点から、ガス燃焼によるラジアントチューブを使用したいという要望が、依然高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−25536号公報
【特許文献2】実開昭60−102241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の放射管式熱処理炉における急速加熱や高応答性を実現するには、特許文献2に開示されるようなW型ラジアントチューブにおいて、第1〜第4直管間のそれぞれの離間距離をできるだけ小さくすることが望まれる。しかし、第1〜第4直管間のそれぞれの離間距離を単純に小さくすると、以下のような問題が生じる。
W型ラジアントチューブにおいて、同一平面上に配置された第1〜第4直管のそれぞれの離間距離を小さくするためには、各直管をつなぐU字管の曲率半径を小さくすればよい。しかし、U字管は鋳造品であることが多く、曲率半径が小さい製品を作るのは困難である。
【0007】
また、W型ラジアントチューブにおいて曲率半径の小さなU字管を用いると、U字管内火炎の偏りが大きくなる。この火炎の偏りによってU字管が局所的に加熱され、局所的に高温となる。この局所的高温は、U字管の熱破損や高温腐食等を引き起こしラジアントチューブの寿命を短くする。
さらに、単純にU字管の曲率半径を小さくするだけで連接する直管同士の離間距離を小さくすると、U字管内で火炎が偏って上述のような問題が起こるだけでなく、燃焼側の直管部と排気側の直管とで熱膨張量に差が生じる。その熱膨張量の差による応力がU字管で良好に緩和できず、U字管もしくはその近傍で応力集中による破損が生じやすくなる。
【0008】
第1〜第4直管間のそれぞれの離間距離を小さくするには、上記以外の問題もある。
1方向燃焼方式の燃焼バーナを持つW字型ラジアントチューブにおいては、排気側直管(第4直管)と燃焼側管(第1直管)との間に、熱交換部、燃焼用空気ダクト、排ガス循環ガス調整用弁等を連接しなければならず、第1直管と第4直管の間の離間距離をある程度確保しなければならず、単純には離間距離を小さくできない。
【0009】
また、燃焼バーナが蓄熱式バーナのような交互燃焼方式のバーナを有するW字型ラジアントチューブにおいては、排気側直管(第4直管)と燃焼側管(第1直管)の内部に蓄熱レンガを有するだけでなく、排気側直管(第4直管)と燃焼側管(第1直管)との間に燃焼用空気ダクト及び排ガスと燃焼空気との切替弁等を連接しなければならない。1方向燃焼方式の燃焼バーナを持つW字型ラジアントチューブを同じく、第1直管と第4直管の間の離間距離をある程度確保しなければならず、単純には離間距離を小さくできない。
【0010】
加えて、放射管式熱処理炉において、急速加熱や高応答性を実現するためにラジアントチューブを複数台設置する場合、ラジアントチューブ毎にラジアントチューブと燃焼バーナ及び燃焼用空気及び排ガス循環ガス調整用弁等を固定するプレート(バンク)を用いる。ラジアントチューブを交換する場合は、バンクと炉体とを溶断・溶接して取替える。このような事情から、熱処理炉の急速加熱や高応答性を実現するためにラジアントチューブを多数増設すると、ラジアントチューブの取付部であるバンクの数も増加し、ラジアントチューブの更新費用が大きくなってしまう。
【0011】
そこで本発明は、上記問題点に鑑み、U字管の局所的な加熱を防止しながら、熱処理炉における急速加熱や高応答性を実現するラジアントチューブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
本発明のラジアントチューブは、一端に燃焼バーナが接続されると共に他端が第1ベントに接続された第1直管と、一端が炉外に連通すると共に他端が第3ベントに接続される第4直管とが平行に配置され、第2直管及び第3直管が、前記第1直管及び前記第4直管と平行となるように配置されると共に第2ベントで接続され、前記第2直管は前記第1ベントに、前記第3直管は前記第2ベントにそれぞれ接続されるものであって、前記第1直管、第2直管、第3直管、及び第4直管が、以下の式を満たすように配置されていることを特徴とする。
【0013】
【数1】

L12:第1直管の中心軸と第2直管の中心軸を結ぶ直線の長さ
L23:第2直管の中心軸と第3直管の中心軸を結ぶ直線の長さ
L34:第3直管の中心軸と第4直管の中心軸を結ぶ直線の長さ
L13:第1直管の中心軸と第3直管の中心軸を結ぶ直線の長さ
L24:第2直管の中心軸と第4直管の中心軸を結ぶ直線の長さ
d1:第1直管の直径
d2:第2直管の直径
d3:第3直管の直径
d4:第3直管の直径
【0014】
また、前記第1直管の中心軸と前記第2直管の中心軸を結ぶ直線と、前記第2直管の中心軸と前記第3直管の中心軸を結ぶ直線とのなす仰角をθaとし、前記第3直管の中心軸と前記第4直管の中心軸を結ぶ直線と、前記第2直管の中心軸と前記第3直管の中心軸を結ぶ直線とのなす仰角をθbとしたときに、θa及びθbが所定の角度に設定されていてもよい。
【0015】
さらに、20°≦θa,θb≦115°であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るラジアントチューブによれば、U字管の局所的な加熱を防止しながら、熱処理炉等における急速加熱や高応答性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】放射管(ラジアントチューブ)式の熱処理炉の全体を示す図である。
【図2】(a)は、ラジアントチューブの上面図、(b)は、(a)におけるB−B断面を示す図である。
【図3】(a)は、ラジアントチューブの斜視図、(b)は、(a)におけるC−C断面を示す図である。
【図4】(a)〜(e)は、それぞれラジアントチューブの2段配置を示す図である。
【図5】2段配置のラジアントチューブの熱流束比を、従来配置のラジアントチューブの熱流束比と比較したグラフである。
【図6】L/d=3.0のときの、ラジアントチューブの直管の配置角度と熱流束比との関係を表すグラフである。
【図7】L/dが様々な値をとるときのラジアントチューブの直管の配置角度の範囲を示したグラフである。
【図8】ラジアントチューブの有効伝熱量の計測結果を示すグラフである。
【図9】ラジアントチューブの第1直管〜第4直管の温度を計測した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を、図を基に説明する。
スラブやビレット等の鋼片を圧延し、鋼板や条鋼線材などを製造する熱間圧延装置は、上流側から、熱処理炉、粗圧延機、仕上げ圧延機が順番に配置されており、この内の熱処理炉では、鋼片を熱間圧延可能な温度にまで均一に加熱する。
一般的に熱処理炉には、直火式と放射管式とがある。本発明の実施形態による放射管式熱処理炉1では、炉内にラジアントチューブ2aを多数配置し、ラジアントチューブ2aからの輻射熱により鋼片を加熱する。
【0019】
図1を参照して、本発明の実施形態における放射管式熱処理炉1の構成について説明する。図1(a)は、放射管式熱処理炉1のうち、加熱帯3と均熱帯4の概略構成を示す図である。図1(b)は、放射管式熱処理炉1のラジアントチューブ2aの概略構成を、図1(a)における矢印Aで示す方向から見た図である。
本実施形態による放射管式熱処理炉(連続焼鈍炉)1は、鋼板が搬送される方向の上流側から下流側に向かって順に、予熱帯、加熱帯3、均熱帯4、急冷帯、再加熱帯、過時効帯、最終冷却帯などの区分を備えている。予熱帯、加熱帯3、均熱帯4、及び再加熱帯には、鋼板を加熱するためのラジアントチューブ(放射管)2aが多数配備されている。
【0020】
図1(a)に示す放射管式熱処理炉1の加熱帯3は、複数個の搬送ロール5を有しており、これら搬送ロール5によって紙面に向かって上下方向に鋼板を搬送しながら、先の予熱帯で予熱された鋼板を加熱する。加熱帯3を構成する炉側壁には多数のラジアントチューブ2aが配備されており、各搬送ロール5間で搬送される鋼板はその両面がラジアントチューブ2aに面していて、ラジアントチューブ2aからの輻射熱を受ける。
【0021】
一方、加熱帯3に続く均熱帯4も加熱帯3と略同様の構成を有しており、炉内には多数のラジアントチューブ2aが配備されていて、搬送ロール5間で搬送される鋼板は、ラジアントチューブ2aからの輻射熱を受ける。
図1(b)は、上述したラジアントチューブ2aの拡大図を示している。ラジアントチューブ2aは、熱処理炉1の側壁に設置され、ラジアントチューブ2aの端部が熱処理炉1の外に露出している。炉外に露出した2つの端部のうち、1つの端部には燃焼バーナ6が取り付けられ、他の端部には炉外排ガス接続管7が取り付けられている。燃焼バーナ6と炉外排ガス接続管7は、排気熱を燃焼用空気に伝達するとともに燃焼空気に排気ガスを一定割合加える熱交換部を介してつながっている。
【0022】
図2を参照して、上述の放射管式熱処理炉1で用いられる、本発明の実施形態によるラジアントチューブ2aの構成をさらに詳しく説明する。図2は、ラジアントチューブ2aの構成を示す図であり、図2(a)は、ラジアントチューブ2aの上面図を示し、図2(b)は、図2(a)のラジアントチューブ2aにおけるA−A断面を示している。
図2(a)を参照すると、ラジアントチューブ2aは、第1直管8a、第2直管9a、第3直管10a、及び第4直管11aを有する。さらに、ラジアントチューブ2aは、第1直管8aと第2直管9aとを接続する第1U字管(第1ベント)12、第2直管9aと第3直管10aとを接続する第2U字管(第2ベント)13、及び第3直管10aと第4直管11aとを接続する第3U字管(第3ベント)14を有している。
【0023】
第1直管8a〜第4直管11aは、例えば、耐酸化特性及び耐高温クリープ特性に優れた鉄、ニッケル、及びクロムを含む耐熱鋳鋼で形成されており、互いに平行となるように配置されると共に、それぞれほぼ同一の直径(第1直管〜第4直管の肉厚が小さいので、各直管の内径と考えてもよい)を有する直線状の円筒である。
第1直管8aと第4直管11aはほぼ同じ長さであり、第2直管9aと第3直管10aはほぼ同じ長さである。第1直管8a及び第4直管11aと比較して、第2直管9a及び第3直管10aは、第2U字管13の開口部(第2直管9a又は第3直管10aとの接続部)から第2U字管13の曲部の頂点までの距離だけ短い。
【0024】
第1U字管12〜第3U字管14は、ほぼ同じ曲率半径を有する曲管であり、第1直管8a〜第4直管11aとほぼ同一の直径を有する。また、第1U字管12〜第3U字管14は、第1直管8a〜第4直管11aと同じく、耐酸化特性及び耐高温クリープ特性に優れた鉄、ニッケル、及びクロムを含む耐熱鋳鋼で形成されている。
第1U字管12〜第3U字管14は、ほぼ同じ曲率半径を有するので、ラジアントチューブ2aにおいて、第1直管8aと第2直管9aの間隔、第2直管9aと第3直管10aの間隔、第3直管10aと第4直管11aの間隔は、それぞれほぼ等しくなる。このように構成されたラジアントチューブ2aの第1直管8aに燃焼バーナ6が接続されると共に第4直管11aに炉外排ガス接続管7が接続され、ラジアントチューブ2aが加熱される。
【0025】
図2(b)を参照して、第1直管8a〜第4直管11aの配置についてさらに詳細に説明する。図2(b)は、2(a)におけるラジアントチューブ2aのA−A断面図を示している。図2(b)において、一点鎖線の交点は、それぞれ第1直管8a〜第4直管11aの中心軸(軸芯)の位置を示している。
図2(b)において、第1直管8a〜第4直管11aは、第1直管8aの中心軸と第3直管10aの中心軸を結ぶ直線と、第2直管9aの中心軸と第4直管11aの中心軸を結ぶ直線とが略平行となるように配置されている。つまり、本実施形態によるラジアントチューブ2aの第1直管8a〜第4直管11aは、単一平面上には配置されておらず、第1直管8aと第3直管10aが配置される平面と、第2直管9aと第4直管11aが配置される平面とが異なる。このとき、第1直管8aの中心軸と第3直管10aの中心軸を結ぶ直線は、第2直管9aの中心軸と第4直管11aの中心軸を結ぶ直線とほぼ同じ長さである。
【0026】
このように、第1直管8aと第3直管10aが配置される平面と、第2直管9aと第4直管11aが配置される平面とは、互いに平行となると共に段形状を構成していると見ることもできる。以下、図2(b)に示すような、第1直管8aと第3直管10aが配置される平面と、第2直管9aと第4直管11aが配置される平面とが異なるような配置を、2段配置と呼ぶ。
【0027】
尚、ラジアントチューブ2aは、第1直管8aと第3直管10aが配置される平面が、被加熱体に対向するように熱処理炉1に配備される。
以上の説明で、本実施形態によるラジアントチューブの第1直管8a〜第4直管11aが、互いにほぼ平行となるように配置されており、且つその配置が2段配置を形成していることを述べた。
【0028】
以下に、図3を参照して、ラジアントチューブ2aにおける第1直管8a〜第4直管11aの2段配置を特徴づけるパラメータについて説明する。図3(a)は、図2に示すラジアントチューブ2aとは異なる別のラジアントチューブ2bを表す斜視図であり、図3(b)は、図3(a)に示すラジアントチューブ2bのB−B断面図である。図3(b)右上の白抜き矢印は、図3(a)に示すラジアントチューブ2bの観察方向を示している。図3(a)に示すラジアントチューブ2bでは、第1直管8b〜第4直管11bの配置が、互いにほぼ平行な2段配置となっている。
【0029】
このような2段配置を特徴づけるパラメータについて、以下に説明する。
図3(b)において、第1直管8b〜第4直管11bの中心軸の位置である各中心が破線で結ばれている。各中心を結ぶ破線の長さは、各直管の中心軸の間隔を表しているので、それぞれを間隔Lで表すこととし、かつ各直管に付した序数を用いて、第1直管8bの中心軸と第2直管9bの中心軸の間隔を間隔L12と表し、第1直管8bの中心軸と第3直管10bの中心軸の間隔を間隔L13と表し、同様に他の間隔も、各直管に付した序数を用いて、間隔L14、間隔L23、間隔L24、間隔L34と表す。
【0030】
次に、第1直管8bの中心と第2直管9bの中心を結ぶ破線と、第2直管9bの中心と第3直管10bの中心を結ぶ破線とがなす角度を角度θaと表し、第2直管9bの中心と第3直管10bの中心を結ぶ破線と、第3直管10bの中心と第4直管11bの中心を結ぶ破線とがなす角度を角度θbと表す。
さらに、第1直管8b〜第4直管11bの各直径を直径dとし、各直管に付した序数を用いて、それぞれ直径d1〜直径d4と表す。
【0031】
このように定めたパラメータを変化させることで、様々な2段配置を実現することができる。本実施形態では、第1直管8b〜第4直管11bの直径である直径d1〜直径d4をそれぞれ一定値とし、間隔L12〜間隔L34と、角度θa及び角度θbとを変化させることで、様々な2段配置を実現する。
ここでは、それぞれの2段配置を説明するために、間隔Lと直径dの比(L/d)を導入する。さらに本実施形態では、直径d1〜直径d4を同一であると仮定して、各直径を直径dで代表して表す。具体的には、直径dに対する間隔L12又は間隔L34の比を、比L12/d又は比L34/dと表し、直径dに対する間隔L13又は間隔L24の比を、比L13/d又は比L24/dと表す。また、間隔L12、間隔L13、間隔L24、及び間隔L34が同一の値である場合、各間隔を間隔Lで代表して表す。この場合、直径dに対する間隔Lの比を、比L/dと表す。
【0032】
図4は、2段配置の構成例を5つ示している。図4は、図3(b)に示す断面図と同様の、ラジアントチューブ2bの断面図を示している。図4(a)は、比L/dの値が1.2で、角度θa及び角度θbが共に60°であるときの2段配置を示している。
また、図4(b)は、比L/dの値が2.0で、角度θa及び角度θbが共に60°であるときの2段配置を示している。
【0033】
図4(c)は、比L/dの値が3.0で、角度θa及び角度θbが共に60°であるときの2段配置を示している。
つまり、図4(a)〜図4(c)において、第1直管8b〜第4直管11bの中心軸をつないで得られる四辺形は、互いに相似なひし形である。
図4(d)は、比L12/d及び比L34/dの値が共に1.2、比L13/d及び比L24/dの値が共に2.0であって、角度θa及び角度θbが共に40°であるときの2段配置を示している。
【0034】
また図4(e)は、比L12/d及び比L34/dの値が共に1.5、比L13/d及び比L24/dの値が共に3.0であって、角度θa及び角度θbが共に35°であるときの2段配置を示している。比L12/d及び比L34/dを同一の値とすると共に、比L13/d及び比L24/dを同一の値とし、角度θa及び角度θbを同一の角度とすれば、第1直管8b〜第4直管11bの中心をつないで得られる四角形は、平行四辺形となる。
【0035】
このように、第1直管8b〜第4直管11bは、様々な2段配置に構成することができる。第1直管8b〜第4直管11bを上述のような2段配置に構成し、第1直管8bと第3直管10bが配置される平面が被加熱体に向くようにラジアントチューブ2bを配備すると、第1直管8b〜第4直管11bを同一平面上で平行に配置した従来配置(1段配置)のラジアントチューブに比較して、ラジアントチューブ2bから被加熱体に向かう輻射熱の熱流束値が大きくなる。
【0036】
図5のグラフに、その比較結果を示している。図5は、ラジアントチューブ2bの比L/dに対する熱流束比の変化を示すグラフである。グラフ中、2点鎖線は、従来配置(1段配置)のラジアントチューブにおける熱流束比の変化を示し、実線は、2段配置のラジアントチューブ2bにおける熱流束比の変化を示している。この結果は、被加熱面が、各ラジアントチューブに対して無限平行平面である場合を想定して得られたものであり、1段配置のラジアントチューブの比L/dが2.00となるとき(直管同士の間隔が直管の直径に等しいとき)の熱流束値に対する、各熱流束値の比を示している。
【0037】
図5のグラフによると、2段配置において比L/dが3.40以下であれば、熱流束比は1.0以上となり、実用上有効な熱流束比が得られる。しかし、比L/dが1.20以下では、1段配置のラジアントチューブが示す熱流束比とほぼ同等の値となり、1段配置に対する有用性がほとんどない。このことから、比L/dは、実用上、1.20以上3.40以下とするのがよい。特に、比L/dを、1.20以上3.0以下とするとよいことを本願発明者らは知見している。
【0038】
図5のグラフは、比L/dだけを決めた時の熱流束比を示すものであるが、実際の2段配置の構成においては、比L/dを決定して各直管間の間隔を決定すると共に、角度θa及び角度θbも決定することができる。今、比L/dの値に3.0を採用し、角度θaと角度θbが等しいとして、それぞれの角度を角度θで代表して表す。
図6に示すグラフは、比L/dを3.0とした場合において、1段配置のラジアントチューブの熱流束値に対する2段配置のラジアントチューブ2bの熱流束値の比を、角度θごとに示すグラフである。
【0039】
図6において、角度θが110°以下であれば、熱流束比が1.0以上となり、実用上有用な熱流束比が得られる。しかし、角度θが35°以下であれば、熱流束比はほぼ一定となり、角度θが35°以下となるような曲率半径の小さなU字管を製造することが困難であるため、実用上の有用性がほとんどない。このことから、比L/d=3.0においては、角度θを35°以上110°以下とするのが好ましいと判断できる。
【0040】
図5及び図6を用いた説明では、比L12/d、比L24/d、比L34/d、及び比L13/dが等しい値である場合(各直管の中心軸がひし形又は平行四辺形の頂点に配置される場合)を前提としている。しかし、比L12/d、比L24/d、比L34/d、及び比L13/dの値を様々に変化させても2段配置を実現することができる。
そこで、本願発明者らは、ラジアントチューブ2bからの熱伝達を伝熱シュミレーションすることにより、L12/dを1.2〜3.0の間で可変とした際に、熱流束比が1.0以上(従来の1段配置以上)となり、実用上有用な熱流束比が得られる直管の配置角度の範囲を明らかにした。図7にその結果を示す。
【0041】
図7の伝熱シミュレーションにおいて、L12/dとL34/dは等しく、L13/dとL24/dは等しいと仮定している。また、角度θaと角度θbが等しいと仮定して、それぞれの角度をθで代表して表している。
図7の横軸はL12/dの値を示しており、縦軸は角度θの値を示している。パラメータとしてL13/dの値を1.2〜3.0の間で設定(L13/d=1.2,1.5,2.0,2.5,3.0)し、L13/dの各値においてL12/dの値を変化させたときに、従来の1段配置に対する熱流束比が1.0以上となる角度θを示している。
【0042】
L13/dの値が3.0の場合、L12/dの値を1.20とすると、角度θが約20度のとき熱流束比が1.0以上となる。同様に、L13/dの値が3.0の場合、L12/dの値を順に1.50,2.00,2.50,3.00とすると、角度θがそれぞれ約30度、約40度、約50度、約60度のとき熱流束比が1.0以上となる。
同様に、L13/dの値が2.5,2.0,1.5,1.2の場合も、それぞれL12/dの値を1.20,1.50,2.00,2.50,3.00として熱流束比が1.0以上となる角度θをプロットすると、図7に示す結果より、θ(θa,θb)が20°以上115°以下の場合には、実用上有用な熱流束比が得られることが明らかとなった。
【0043】
本願発明者らは、更に検証を行っており、50°≦θ/(L12/L13)≦70°の関係を満たす場合、つまり、L12/L13の値が決まれば、上記関係を満たす角度θの範囲で熱流束比が1.0以上(従来の1段配置の熱流束以上)となり、実用上有用な熱流束比が得られるラジアントチューブ2bの構成となることをも知見している。
[実施例]
図8及び図9を参照しつつ、上述の実施形態による2段配置のラジアントチューブ(RT)2bを用いた有効伝熱量の計測結果と、第1直管8b〜第4直管11bのチューブ温度の計測結果について、従来の1段配置のラジアントチューブ(RT)と比較しながら説明する。
【0044】
図8は、ラジアントチューブの有効伝熱量の計測結果を示すグラフであって、本実施例におけるラジアントチューブ2bの結果と従来の1段配置のラジアントチューブの結果を示している。
図9は、ラジアントチューブの第1直管〜第4直管の温度を計測した結果を示すグラフであり、ラジアントチューブの形状に沿って第1直管の燃焼バーナが取り付けられた位置からの各距離における直管のチューブ温度を示している。
【0045】
図8及び図9に示す計測結果を説明する前に、本計測で用いた2段配置のラジアントチューブ2b及び1段配置のラジアントチューブ、及び各ラジアントチューブを設置して有効伝熱量を計測した計測炉の構成について説明する。
従来の1段配置のラジアントチューブは、第1直管〜第4直管が同一平面上で互いに平行となるように配置されるとともにそれぞれU字管でつながれて構成されており、各直管の内径(d)は194mmである。隣接する直管の中心軸(軸芯)間の距離(L)の内径(d)に対する比であるL/dは1.67である。このとき、1段配置のラジアントチューブの、第1直管から第4直管にわたる幅は、約1200mmである。
【0046】
一方、本発明に係る2段配置のラジアントチューブ2bは、図3(b)に示すパラメータのうち、d1〜d4は194mm、L13/dは1.39、θa及びθbは67°である。このような2段配置のラジアントチューブ2bを2基用意する。これら2基のラジアントチューブを、それぞれの第1直管と第3直管が同一平面上で互いに平行且つ等間隔となるように後述する計測炉のバンクに取り付ける。このとき、一方のラジアントチューブの第1直管から他方のラジアントチューブの第3直管の背後にある第4直管にわたる幅は、約1200mmである。
【0047】
実験を行った計測炉は、6面からなる略直方体の外形を有しており、そのうちの1側面に、上述の各ラジアントチューブが保持されている。この計測炉は、計測炉内で保持されたラジアントチューブを挟み込むように設けられた平行な2面の伝熱計測パネル有しており、これら2面の伝熱計測パネルは、ラジアントチューブから所定間隔(約300mm程度)離れている。この伝熱計測パネルの内部には冷却水が供給されるので、その水温の上昇量を基にしてラジアントチューブから伝熱計測パネルへの有効伝熱量を得ることができる。
【0048】
詳しくは、従来の1段配置のラジアントチューブの場合は、第1直管〜第4直管がそれぞれ2面の伝熱計測パネルと平行になるように、従来の1段配置のラジアントチューブは、計測炉内で保持される。また、2段配置のラジアントチューブ2bの場合は、2基のラジアントチューブ2bの第1直管と第3直管が、一方の伝熱計測パネルと対向しつつ平行になるように、且つ、第2直管と第4直管が、他方の伝熱計測パネルと対向しつつ平行になるように2基のラジアントチューブ2bは計測炉内で保持される。
【0049】
伝熱計測パネル以外の残りの面は、耐火レンガなどで構成され、2面の伝熱計測パネルとともにラジアントチューブを包囲して密閉している。
このように計測炉で保持されたラジアントチューブの第1直管にバーナを取り付けて燃焼させ、計測を行った。この計測において、入熱、出熱、及びRT(ラジアントチューブ)温度を計測評価項目とした。入熱としては、排ガスから廃熱として回収された熱エネルギーとしての空気顕熱と、コークス炉ガス(Coke Oven Gas)燃焼熱とを計測した。出熱としては、2面の伝熱計測パネルへの伝熱量である有効伝熱量と、炉壁放熱量と、排ガス顕熱量とを計測した。RT温度としては、ラジアントチューブの形状に沿って第1直管の燃焼バーナが取り付けられた位置からの各距離における直管のチューブ温度を計測した。
【0050】
燃焼ガスは、コークス炉ガス(COG)であり、空気比は、1.2とした。ラジアントチューブ1基あたりの燃焼量を、60kW〜180kWの間で変化させた。排ガスからの廃熱回収率は、25%であった。
図8は、このように計測された計測評価項目のうち、1段配置RT(従来)及び2段配置RT(本実施例)における有効伝熱量を、近似直線で示している。1段配置RT(従来)及び2段配置RT(本実施例)共に、ラジアントチューブ1基あたりの燃焼量の変化に対して、有効伝熱量の変化はほぼ比例している。
【0051】
例えば、ラジアントチューブ1基あたりの燃焼量が約160kWのとき、1段配置RTの有効伝熱率は約100kWであるのに対し2段配置RTの有効伝熱率は約145kWとなっている。これにより、本実施例における2段配置RTの加熱能力は、従来の2段配置RTの加熱能力の約1.5倍であることがわかる。
図9は、上述の計測された計測評価項目のうち、1段配置RT(従来)及び2段配置RT(本実施例)におけるRT(ラジアントチューブ)温度を、近似曲線で示している。図9において、2段配置RTのチューブ温度は、異なるバーナを用いて計測された2通りの結果が示されており、一方を2段配置RT1、他方を2段配置RT2として示している。
【0052】
1段配置RT、2段配置RT1、及び2段配置RT2において、チューブ温度は、第1直管から第2直管にかけて1700mmから2200mmあたりの距離でピークを示すが、第3直管から第4直管にかけて順に低下する傾向にある。しかし、1段配置RTに比べて、2段配置RT1及び2段配置RT2の低下の程度は低く抑えられており、このことは、図8における結果の裏付けとなっている。例えば、1段配置RTにおいて、距離6000mm付近での温度は約450°であるが、2段配置RT1、及び2段配置RT2において、距離6000mm付近での温度は約620°〜630°である。その差は、170°〜180°にも及ぶ。
【0053】
なお、2段配置RT1と2段配置RT2とでは、用いられたバーナが異なるため、図9における温度変化が若干異なるが、温度変化の特性は非常に似ているといえる。よって、図9に示された計測結果は、ラジアントチューブの形状に依存したものであると考えることができる。
以上のとおり、2段配置ラジアントチューブを用いれば、ラジアントチューブの稠密化を実現することができ、従来では1段配置ラジアントチューブが1基だけ取り付けられていたバンクに、2基の2段配置ラジアントチューブを取り付けることができる。
【0054】
これによって本願発明は、ラジアントチューブの稠密化による熱流束の増加を実現できると共に、バッチ式熱処理炉や連続式熱処理炉などの熱設備に設置することのできるラジアントチューブの数を増加させることができる。
ところで、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0055】
1 放射管式熱処理炉
2a,2b ラジアントチューブ
3 加熱帯
4 均熱帯
5 搬送ロール
6 燃焼バーナ
7 炉外排ガス接続管
8a,8b 第1直管
9a,9b 第2直管
10a,10b 第3直管
11a,11b 第4直管
12 第1U字管
13 第2U字管
14 第3U字管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に燃焼バーナが接続されると共に他端が第1ベントに接続された第1直管と、一端が炉外に連通すると共に他端が第3ベントに接続される第4直管とが平行に配置され、第2直管及び第3直管が、前記第1直管及び前記第4直管と平行となるように配置されると共に第2ベントで接続され、前記第2直管は前記第1ベントに、前記第3直管は前記第2ベントにそれぞれ接続されるラジアントチューブであって、
前記第1直管、第2直管、第3直管、及び第4直管が、以下の式を満たすように配置されていることを特徴とするラジアントチューブ。
【数2】

L12:第1直管の中心軸と第2直管の中心軸を結ぶ直線の長さ
L23:第2直管の中心軸と第3直管の中心軸を結ぶ直線の長さ
L34:第3直管の中心軸と第4直管の中心軸を結ぶ直線の長さ
L13:第1直管の中心軸と第3直管の中心軸を結ぶ直線の長さ
L24:第2直管の中心軸と第4直管の中心軸を結ぶ直線の長さ
d1:第1直管の直径
d2:第2直管の直径
d3:第3直管の直径
d4:第3直管の直径
【請求項2】
前記第1直管の中心軸と前記第2直管の中心軸を結ぶ直線と、前記第2直管の中心軸と前記第3直管の中心軸を結ぶ直線とのなす仰角をθaとし、
前記第3直管の中心軸と前記第4直管の中心軸を結ぶ直線と、前記第2直管の中心軸と前記第3直管の中心軸を結ぶ直線とのなす仰角をθbとしたときに、
θa及びθbが所定の角度に設定されていることを特徴とする請求項1に記載のラジアントチューブ。
【請求項3】
20°≦θa,θb≦115°であることを特徴とする請求項2に記載のラジアントチューブ。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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