ラジカル捕集膜
【課題】包装材、触媒反応、環境分析等の分野において、ラジカル捕集に好適に使用することが可能なラジカル捕集用膜材料を提供する。
【解決手段】粘土粒子の積層を配向させた粘土膜内にラジカル捕集剤が分散した複合粘土膜であって、積層した粘土の板状結晶の層間に、ラジカル捕集剤が分散した微細構造を有することを特徴とするラジカル捕集用膜材料、粘土及びラジカル捕集剤を、有機溶媒あるいは有機溶媒を主成分とする分散媒である液体に均一に分散させて、粘土及びラジカル捕集剤を含む均一な分散液とした後、この分散液を静置し、粘土粒子を沈積させるとともに、分散媒である液体を除去し、膜状に成形することにより自立膜とすることを特徴とするラジカル捕集用膜材料の製造方法、上記のラジカル捕集用膜材料を構成要素として含むことを特徴とするラジカル捕集作用を有する部材、及び上記のラジカル捕集用膜材料をラジカル捕集のために使用している製品。
【解決手段】粘土粒子の積層を配向させた粘土膜内にラジカル捕集剤が分散した複合粘土膜であって、積層した粘土の板状結晶の層間に、ラジカル捕集剤が分散した微細構造を有することを特徴とするラジカル捕集用膜材料、粘土及びラジカル捕集剤を、有機溶媒あるいは有機溶媒を主成分とする分散媒である液体に均一に分散させて、粘土及びラジカル捕集剤を含む均一な分散液とした後、この分散液を静置し、粘土粒子を沈積させるとともに、分散媒である液体を除去し、膜状に成形することにより自立膜とすることを特徴とするラジカル捕集用膜材料の製造方法、上記のラジカル捕集用膜材料を構成要素として含むことを特徴とするラジカル捕集作用を有する部材、及び上記のラジカル捕集用膜材料をラジカル捕集のために使用している製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多種のラジカルの捕集に好適に適用することができるラジカル捕集シートあるいはフィルムに関するものであり、更に詳しくは、自立膜として使用可能な機械的強度を有し、粘土粒子の積層を高度に向上させた粘土配向薄膜をマトリックスとして、該粒子配向の揃った粘土薄膜内に、ラジカル捕集剤が分散した複合粘土膜からなるラジカル捕集用膜材料及びその製造方法に関するものである。
【0002】
本発明は、粘土粒子の積層を配向させた粘土膜内にラジカル捕集剤が均一に分散した複合粘土膜であって、例えば、食品類及び茶葉の鮮度保持包装材料、ラジカル反応における触媒シート、空気や排ガス等の気体中及び水、排水、溶剤等の液体を含む流動体、更に、固体や固体物質のラジカル濃度測定のための環境分析シートなどに広く利用することが可能な新しいラジカル捕集用膜材料を提供するものである。
【背景技術】
【0003】
一般に、ラジカルに関与する反応は、我々の身近にたくさんある。例えば、生物の生存に欠かせない呼吸や代謝関係、食品の腐敗、プラスチックの劣化、退色、大気汚染による光化学スモッグの発生などの、自然界に関する現象もラジカル反応によるものであり、ラジカルは、非常に様々な観点で興味深い。しかし、ラジカルは、一般的に寿命が非常に短く、濃度も低いため、ラジカルを直接検出し、同定、定量することが極めて困難である。代表的なラジカル観測、同定及びラジカル濃度定量方法として、スピントラップ法・スカベンジング法がある。
【0004】
スピントラップ法は、反応系中にスピントラップ剤と呼ばれるラジカル補足剤を加え、生成した短寿命ラジカルを補足して、スピン付加物と呼ばれる寿命の長いラジカルに変換する方法である(非特許文献1、及び非特許文献2参照)。本手法により、系内にラジカルが存在することを明らかにすることができるだけではなく、そのESRシグナルを解析することにより、多くの場合、最初に系内に発生したラジカルの構造を決めることが可能である。
【0005】
なお、ESRとは、Electron Spin Resonance又はElectron Paramagnetic Resonance;電子常磁性共鳴法である。ラジカルや遷移金属イオンのように不対電子を持ち、そのスピンによって磁性を示す物質を常磁性物質といい、ESRは、常磁性物質の不対電子による吸収スペクトル法で、その電子状態やそれが置かれている環境についての情報を与える。代表的なスピントラップ剤は、ニトロソ化合物とニトロン化合物に大別され、いずれの場合にも、ラジカル補足後はニトロキシドになる。
【0006】
しかし、ニトロソ化合物は、二量体を作りやすく、ニトロン化合物は、活性ラジカル種に対する捕獲能力が必ずしも高いとはいえず(非特許文献3参照)、嵩高いラジカルや安定化された反応性の乏しいラジカルのトラップ剤としては、うまく働かないという問題点がある。スピンスカベンジング法は、ペプチドやタンパク質由来の生体ラジカル種を安定ニトロキシルラジカルで捕獲することによって、より安定な反磁性の化合物とし、質量分析を行なうことで、元のラジカル種を同定するといった研究が報告されている。
【0007】
スピントラップ法では、スピントラップ剤を用いると、生成するスピン付加物のESRスペクトルが非常に似通っていることから、元のラジカル種の同定を行なうことは非常に困難となり、また、安定ニトロキシルラジカルとはいえ、ラジカルであることから、質量分析の測定条件に耐えられず、分解等が起こってしまい、分析が容易ではないといった欠点を抱えている。
【0008】
スピンスカベンジング法では、これらの欠点を解消できると考えられる。同時に、スピントラップ反応に比べ、スピンスカベンジング反応の反応性が10倍ほど高い(非特許文献4参照)例もあり、各種ラジカル種を分析する上で、このスピンスカベンジング反応は、非常に有用ではないかと考えられる。しかし、従来のラジカル捕集剤で活性ラジカル種(例えば、OHラジカル)を捕獲し、安定化しても、安定性が十分でなく、数分の寿命で失活してしまい、ラジカル種の同定・定量が困難であった。
【0009】
【非特許文献1】Acc.Chem.Res.,4.31(1971)
【非特許文献2】Chem.Rev.,78.37(1978)
【非特許文献3】Analytical Chemistry,54.14(1982)
【非特許文献4】J.Am.Chem.Soc.,125,8655 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような状況の中で、本発明者らは、従来のラジカル捕集剤の存在状態の形態を変化させることにより、活性ラジカル種を捕獲し、安定性を向上させ、更にラジカル種の選択捕獲が可能な新規材料を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねる課程において、粘土分散溶液を調製し、これにラジカル捕集剤を少量混合し、均一な分散液を得た後、この分散液を水平に静置し、粘土粒子を沈積させるとともに、分散媒である液体を固液分離手段で分離して膜状に成形した後、これを支持体から剥離することにより、粘土粒子が配向した粘土薄膜内にラジカル捕集剤が均一に分布した複合粘土膜が得られることを見出し、この膜がラジカルを効率よく捕集し、かつ選択捕獲でき、しかもラジカルを安定に保持することを見出し、更に研究を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、粘土粒子の積層を高度に配向させた粘土膜内にラジカル捕集剤が分散した複合粘土膜であって、多種のラジカルの捕集に好適に適用することが可能な新規ラジカル捕集用膜材料を提供することを目的とするものである。また、本発明は、自立膜として使用可能な機械的強度を有し、粘土粒子の積層を高度に向上させた粘土配向薄膜をマトリックスとして、該粒子配向の揃った粘土薄膜内に、ラジカル捕集剤が分散した微細構造を有するラジカル捕集用複合粘土膜の製造技術及び該ラジカル捕集用粘土膜材料のラジカル捕集機能を利用した製品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)粘土粒子の積層を配向させた粘土膜内にラジカル捕集剤が分散した複合粘土膜であって、積層した粘土の板状結晶の層間に、ラジカル捕集剤が分散した微細構造を有することを特徴とするラジカル捕集用膜材料。
(2)粘土膜の主要構成成分が、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト及びノントロナイトのうちの一種以上である、前記(1)に記載の膜材料。
(3)粘土が、有機カチオン処理あるいはシリル化処理をされた変性粘土である、前記(1)に記載の膜材料。
(4)ラジカル捕集剤が、ニトロソ化合物、ニトロン化合物、安定ニトロキシルラジカルのうちの一種以上である、前記(1)に記載の膜材料。
(5)粘土とラジカル捕集剤の重量比が、99/1〜50/50である、前記(1)に記載の膜材料。
(6)膜が、円、正方形、長方形などの任意の平面形状を有し、自立膜として用いることが可能である、前記(1)に記載の膜材料。
(7)膜の厚さが、1mmよりも薄く、面積が1cm2よりも大きい、前記(1)に記載の膜材料。
(8)ヒドロキシルラジカル、アルコキシルラジカル、及び/又はヒドロキシエチルラジカルを捕集後、一ヶ月以上失活させずに保持する特性を有する前記(1)に記載の膜材料。
(9)粘土及びラジカル捕集剤を、有機溶媒あるいは有機溶媒を主成分とする分散媒である液体に均一に分散させて、粘土及びラジカル捕集剤を含む均一な分散液とした後、この分散液を静置し、粘土粒子を沈積させるとともに、分散媒である液体を除去し、膜状に成形することにより自立膜とすることを特徴とするラジカル捕集用膜材料の製造方法。
(10)粘土が、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト及びノントロナイトのうちの一種以上である、前記(9)に記載の膜材料の製造方法。
(11)ラジカル捕集剤が、ニトロソ化合物、ニトロン化合物、安定ニトロキシルラジカルのうちの一種以上である、前記(9)に記載の膜材料の製造方法。
(12)粘土及びラジカル捕集剤を含む均一な分散液において、粘土とラジカル捕集剤の重量比が99/1〜50/50である、前記(9)に記載の膜材料の製造方法。
(13)粘土及びラジカル捕集剤を含む均一な分散液を調製した後、それを脱気処理する、前記(9)に記載の膜材料の製造方法。
(14)前記(1)から(8)のいずれかに記載のラジカル捕集用膜材料を構成要素として含むことを特徴とするラジカル捕集作用を有する部材。
(15)前記(1)から(8)のいずれかに記載のラジカル捕集用膜材料をラジカル捕集のために使用している製品。
【0013】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明の膜材料は、粘土膜内にラジカル捕集剤が分散した複合粘土膜であって、積層した粘土の板状結晶の層間に、ラジカル捕集剤が均一に分散した微細構造を有することを特徴とするラジカル捕集用膜材料である。粘土は、シリカ、アルミナ、マグネシア等により構成される無機物質である。粘土の板状結晶は、最も一般的な2対1型粘土の場合、厚さ約1ナノメートル、平面方向の大きさが、例えば、数十ナノメートルから数百ナノメートルである。粘土の板状結晶は、同じ向きに重ね合わせて、配向させた積層体を作製することが可能であり、板状結晶の間に種々の化合物を挟んだ形状の複合体、いわゆるナノコンポジットを作製することが可能である。本発明も、積層した粘土の板状結晶の中に、ラジカル捕集剤と呼ばれる有機分子が分子レベルで分散していることから、ナノコンポジットの一種である。
【0014】
本発明で用いる粘土としては、天然あるいは合成物、好適には、例えば、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、マガディアイト、アイラライト、カネマイト、イライト、セリサイトのうちの一種以上、更に好適には、それらの天然あるいは合成物の何れか、あるいはそれらの混合物が例示される。
【0015】
本発明では、有機カチオンとしての第四級アンモニウムカチオン、あるいは第四級ホスホニウムカチオンと複合化された変性粘土が好適に用いられる。また、本発明では、粘土にシリル化剤を反応させた変性粘土が好適に用いられる。その場合、変性粘土における有機カチオン組成及びシリル化剤が、それぞれ30重量パーセント未満である場合が好適である。本発明で用いる分散媒としては、変性粘土が分散し、添加物が溶解するものであれば特に限定されるものではなく、種々の極性の溶剤を用いることが可能であり、例えば、エチルアルコール、エーテル、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、アセトン、トルエンなどが例示される。
【0016】
本発明で使用されるニトロソ化合物は、分子中に、下記に示す構造部位を含む化合物である。ただし、式中、Rは、水素原子又はアルキル基を示す。また、上記構造部位を含むものであれば、環状構造のものも使用可能である。
【0017】
【化1】
【0018】
本発明で使用されるニトロン化合物は、分子中に、下記に示す構造部位を含む化合物である。式中、R1、R2、R3は、水素原子又はアルキル基を示す。また、上記構造部位を含むものであれば、環状構造のものも使用可能である。
【0019】
【化2】
【0020】
本発明で使用される安定ニトロキシルラジカルは、分子中に、下記に示す構造部位を含む化合物である。式中、R1、R2は、水素原子又はアルキル基を示す。また、上記構造部位を含むものであれば、環状構造のものも使用可能である。
【0021】
【化3】
【0022】
本発明の膜材料の製造方法においては、最初に、変性粘土及びラジカル捕集剤が溶解可能な分散媒である液体に、変性粘土及びラジカル捕集剤を加えた均一な分散液の調製を行う。この調製方法として、変性粘土を分散させてからラジカル捕集剤を加える方法、ラジカル捕集剤を含む溶液に変性粘土を分散させる方法、並びに変性粘土及びラジカル捕集剤を同時に分散媒に加えて分散液とする方法のいずれでもよいが、作業の容易さからは、変性粘土とラジカル捕集剤を同時に分散媒に加えることが好ましい。
【0023】
この場合、変性粘土と各種ラジカル捕集剤の全固体に対する割合は、99/1〜50/50であり、更に好ましくは95/5〜80/20である。この時、ラジカル捕集剤の割合が低すぎる場合、使用の効果が現れず、また、ラジカル捕集剤の割合が高すぎる場合、調製した膜中に、ラジカル捕集剤が不均一に分布し、偏在することになり、結果として、得られる膜の均一性が低下し、ラジカル捕集剤使用の効果が薄れる。
【0024】
次に、変性粘土及びラジカル捕集剤を含む分散液を水平に静置し、粘土粒子をゆっくりと沈積させるとともに、例えば、分散媒である液体をゆっくりと蒸発させ、膜状に成形する。このようにして形成された膜材料は、例えば、種々の固液分離方法、遠心分離、ろ過、真空乾燥、凍結真空乾燥及び加熱蒸発法の何れか、あるいはこれらの方法を組み合わせて乾燥させ、乾燥したラジカル捕集膜材料を得る。
【0025】
本発明では、粘土粒子の積層を高度に配向させた粘土膜が好適に用いられるが、本発明において、粘土粒子の積層を高度に配向させるとは、粘土粒子の単位構造層(厚さ約1ナノメートル)を、層面の向きを均一にして積み重ね、層面に垂直な方向に、高い周期性を持たせることを意味する。このような粘土粒子の配向を得るためには、粘土及びラジカル捕集剤を含む、希薄で均一な分散液を水平に静置し、粘土粒子をゆっくりと沈積させるとともに、分散媒である液体をゆっくりと蒸発させ、膜状に成形することが重要である。
【0026】
このプロセスにおける好適な製造条件を示すと、粘土分散液中の粘土と各種ラジカル捕集剤の全固体に対する割合は、99/1〜50/50であり、更に好ましくは95/5〜80/20である。このとき、ラジカル捕集剤は、積層した粘土の板状結晶の層間に分散した微細構造を有しており、ラジカル捕集剤分子の動きは、上下に接する粘土の板状結晶に強く制限され、それにより、他のラジカル捕集剤との相互作用による失活が妨げられると考えられる。
【0027】
変性粘土及びラジカル捕集剤を含む分散液を、事前に脱気処理しない場合は、得られる膜材料に気泡に由来する孔ができ易くなるという問題が生ずる場合がある。また、乾燥条件は、液体分を蒸発によって取り除くに十分であるように設定される。このとき、温度が低すぎると、乾燥に時間がかかるという問題がある。また、温度が高すぎると、分散液の対流が起こり、粘土粒子の配向度が低下するという問題がある。本発明の、膜材料の厚さについては、分散液に用いる固体量を調整することによって、任意の厚さの膜を得ることができる。
【0028】
このように、本発明の膜材料は、粘土粒子の積層が高度に配向し、自立膜として用いることが可能であり、フレキシビリティーに優れ、更に、均一に分散しているラジカル捕集剤によるラジカル捕集能力を持つことを特徴としている。また、本発明の膜材料は、例えば、はさみ、カッター等で容易に円、正方形、長方形などの任意の大きさ、形状に切り取ることができる。更に、本発明の膜材料は、好適には、厚さは1mmよりも薄く、面積は1cm2よりも大きいことを特徴としている。
【0029】
後記する実施例に示されるように、有機カチオンとしての第四級アンモニウムイオンで有機化した粘土に、ラジカル捕集剤(PBN(N−tert−Butyl−α−Phenylnitrone))を混合した膜のX線回折パターンには、底面間隔3.22ナノメートル及び2.41ナノメートルにピークが観察される。この値は、粘土のみの底面間隔の値の約1.24ナノメートルよりも、それぞれ1.98ナノメートル及び1.17ナノメートル大きく、この増加量は、混合したラジカル捕集剤(PBN)の平均分子サイズよりも大きい。
【0030】
特に、2.41ナノメートルのピークは、ラジカル捕集剤(PBN)の混合量が増加するに従って大きくなる。そのため、底面間隔2.41ナノメートルで表される層構造は、ラジカル捕集剤(PBN)と粘土との複合体の一形態であると考えられる。以上の結果より、ラジカル捕集剤は積層した粘土の板状結晶の層間に分散する微細構造を有していることが示された。
【0031】
同様に、ラジカル捕集剤(4−Oxo−TEMPO)混合後のX線回折パターンにも、底面間隔3.57ナノメートル、及び底面間隔2.44ナノメートルにピークが観察される。これらの値も粘土のみの底面間隔よりも、それぞれ2.33ナノメートル、1.20ナノメートル大きく、この増加量は、混合したラジカル捕集剤(4−Oxo−TEMPO)の平均分子サイズよりも大きい。
【0032】
また、2.41ナノメートルのピークは、ラジカル捕集剤(4−Oxo−TEMPO)の混合量が増加するに従って大きくなる。そのため、この副層は、ラジカル捕集剤(4−Oxo−TEMPO)で形成される層であると考えられる。よって、この場合においても、ラジカル捕集剤は、積層した粘土の板状結晶の層間に分散する微細構造を有していることが示された。
【0033】
従来のラジカル捕集剤では、活性ラジカル種(例えば、OHラジカル)を捕獲し、安定化しても、安定性が十分でなく、数分の寿命で失活してしまう又は捕獲が不可能である。しかし、本発明における膜材料は、後記する実施例に示されるように、ラジカル捕集剤(PBN)混合膜の活性ラジカル捕獲後のESRチャートを見てみると、活性ラジカルトラップ後、一ヶ月経過した場合でも、スピン付加物の安定性が確認された。
【0034】
本発明の膜材料は、粘土粒子の積層が高度に配向し、自立膜として用いることが可能であり、フレキシビリティーに優れ、更に、均一に分散しているラジカル捕集剤によるラジカル捕集能力を有し、ラジカル捕集能力に優れるという特徴を有する。本発明の膜材料は、例えば、食品類や茶葉などの鮮度保持包装材、化学産業分野におけるラジカル反応の触媒シート、空気や排ガス等の気体中及び水、排水、溶剤等の液体を含む流動体、更に、固体や固体物質のラジカル濃度測定のための環境分析シートなどに広く利用することが可能である。
【0035】
また、本発明では、上記膜材料を、廃液を出さない簡便な工程で製造することが可能であり、また、溶媒を除去し、膜材料を形成させた後、支持体表面から剥離せずに支持体の保護膜として用いることも可能であり、これによって、支持体の防食、防汚、耐熱性向上、ラジカル反応を原因とする劣化を遅延させることが可能である。
【発明の効果】
【0036】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)通常活性ラジカル種(例えば、ヒドロキシルラジカル)は、活性が高く、寿命が非常に短いため、ラジカル捕集剤で捕獲することは非常に困難であり、たとえ捕獲したとしても、安定性も非常に低く、数分で失活してしまうため、ラジカル種の同定・定量が困難であったが、本発明の膜材料においては、ヒドロキシルラジカルが捕獲され、また、その安定性も、数分ではなく、一ヶ月以上確認された。
(2)本発明により、ヒドロキシルラジカルよりも大きなラジカル分子であるヒドロキシエチル分子の捕獲も可能である。
(3)ヒドロキシエチルラジカルは、ヒドロキシルラジカルと少し性質が異なり、通常ラジカル捕集剤で容易に捕獲可能であるが、溶液中においては、捕獲された翌日には全て失活してしまう。しかし、本発明の膜材料においては、ヒドロキシルラジカルの場合と同様に、一ヶ月以上安定であった。
(4)本発明により、粘土と捕集物の重量比による活性ラジカル種の捕獲選択性が確認された。
(5)本発明により、活性ラジカル種の捕獲・安定化向上による活性ラジカル種の容易な同定・定量が可能となる。
(6)本発明の膜材料は、ラジカル捕集剤単体状態では確認されない、同一のラジカル捕集剤による活性ラジカル種の選択的捕獲が可能なことにより、用途に即した膜材料として使用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0038】
(1)変性粘土の作製
天然の精製ベントナイトであるクニピアP(クニミネ工業株式会社製)60グラムを蒸留水600cm3に分散させた。次に、この分散液に、市販のテトラブチルアンモニウムブロミド特級試薬を60グラム混合し、25℃で2時間振とう攪拌することにより、均一な分散液を調製した。この分散液を6000回転、10分間の遠心分離機にかけ、固液分離した。更に、ホモジナイザーを用いて20分間混合した。得られた固体を水洗浄し、乾燥、粉砕することにより、変性粘土を作製した。この変性粘土の塩素濃度は、150ppm以下であった。
【0039】
(2)ラジカル捕集剤が均一に分布した複合粘土膜の製造
次に、作製した変性粘土4.00gと、ラジカル捕集剤としてPBN(N−tert−Butyl−α−Phenylnitrone)を所定の割合で100cm3のトルエンに加え、プラスチック製密封容器にテフロン(登録商標)回転子とともに入れ、25℃で2時間激しく振とうし、均一な分散液を得た。このとき、所定の割合を変えることで、粘土とPBNとの重量割合の異なった分散液を作製した。粘土のPBNに対する重量比は、2.00g/2.00g(PBN50%)から3.96g/0.04g(PBN1%)までとした。
【0040】
次に、真空脱泡装置により、この分散液の脱気を行った。次いで、この分散液を、厚さ0.1mmのテフロン(登録商標)フィルムを貼り付けた金属板に塗布した。塗布には、ステンレス製地へらを用いた。スペーサーをガイドとして利用し、均一厚の粘土ペースト膜を成型した。このトレイを室温で自然乾燥することにより、厚さ約40マイクロメートルの均一な複合粘土薄膜を得た。これを一昼夜静置後、生成した複合粘土膜をトレイから剥離して、自立した、フレキシビリティーに優れた膜を得た。
【0041】
(3)各種活性ラジカル種発生方法
ヒドロキシルラジカルに関しては、一般的に知られているフェントン試薬(Free Radical Biology&Medicine.,15,435(1993)参照)を利用した。具体的には、シャーレ上で過酸化水素水1.00ml(1.0×10−4mol)に、硫酸鉄2.78×10−2g(1.0×10−4mol)を加えることにより、ヒドロキシルラジカル1.00×10−4molを発生させた。また、ヒドロキシエチルラジカルに関しては、フェントン試薬に更に数滴のエタノールを滴下することにより発生させた
【0042】
(4)ラジカル捕獲方法
上記(3)で示した方法で、ラジカルを発生させたシャーレに、約1cm四方の上記複合粘土膜を入れ、約15分間、激しい発熱を伴う反応が終了するまで各種反応液に浸した。その後、ラジカル捕集剤が均一に分布した複合粘土膜を、6時間、真空乾燥により乾燥した。
【0043】
(5)粘土薄膜の特性
ラジカル捕集剤が均一に分布した複合粘土膜のX線回折チャートを図1に示す。粘土薄膜の底面反射ピーク001のd=3.22ナノメートルに加えて、新たな底面反射ピークがd=2.41ナノメートルの位置に観察された。この新たな底面反射ピークは、ラジカル捕集剤により新たな層が形成されたことを示していると考えられる。
【0044】
(6)ラジカル捕集剤が均一に分布した複合粘土膜(PBN粘土薄膜)のESRチャート(図2)と、活性ラジカル(主に、ヒドロキシルラジカル)捕獲後のラジカル捕集剤が均一に分布した複合粘土膜のESRチャート(図3)を比較すると、ラジカル捕獲後のESRチャートにラジカル捕獲を示すピークが確認された。更に、一ヶ月後のESRチャート(図4)を見てみると、スピン付加物が安定であることを示している。また、図5〜図7では、活性ラジカル(主に、ヒドロキシエチルラジカル)捕獲時のESRチャートに関して示した。特に、PBN混合量5%、15%のものが、非常にラジカル捕集能力が高く、しかもスピン付加物の安定性も高いことが分かった。
【0045】
比較例1
フェントン試薬中にPBN(N−tert−Butyl−α−Phenylnitrone)粉末を過剰に投入し、ESR測定により、ラジカル捕獲の有無を確認した。具体的には、シャーレ上で過酸化水素水1.00ml(1.0×10−4mol)に硫酸鉄2.78×10−2g(1.0×10−4mol)を加えることにより、ヒドロキシルラジカル1.00×10−4molを発生させた。また、ヒドロキシエチルラジカルに関しては、フェントン試薬に更に数滴のエタノールを滴下することにより、発生させた。
【0046】
この反応溶液中に、4.5×10−2g(2.5×10−4mol)のPBN(N−tert−Butyl−α−Phenylnitrone)粉末を投入し、激しい発熱を伴った反応後、約15分静置した。反応終了後の混合溶液をマイクロピペットに取り、マイクロピペットの両端をガラス細工により封管した。封管したマイクロピペットをESR測定管に入れ、ESR測定を行なった。ESR測定の結果、ラジカル捕集の際に観測されるESRシグナルは、どちらのラジカル発生溶液に関しても観測されなかった。(図11〜図12)
【実施例2】
【0047】
(1)ラジカル捕集剤が均一に分布した複合粘土膜の製造
PBN(N−tert−Butyl−α−Phenylnitrone)混合膜作製時と同様の変性粘土4.00gと、ラジカル捕集剤として4−Oxo−TEMPO(2,2,6,6,−tetramethyl−4−oxopiperidine−1−oxyl)を所定の割合で100cm3の有機溶媒に加え、プラスチック製密封容器にテフロン(登録商標)回転子とともに入れ、25℃で2時間激しく振とうし、均一な分散液を得た。このとき、粘土と4−Oxo−TEMPOとの重量割合の異なる分散液を作製した。粘土の4−Oxo−TEMPOに対する重量比は、2.00g/2.00g(4−oxoTEMPO50%)から3.96g/0.04g(4−oxoTEMPO1%)までとした。
【0048】
次に、真空脱泡装置により、この分散液の脱気を行った。次いで、この分散液を、厚さ0.1mmのテフロン(登録商標)フィルムを貼り付けた金属板に塗布した。塗布には、ステンレス製地へらを用いた。スペーサーをガイドとして利用し、均一厚の分散液を成型した。このトレイを室温で自然乾燥することにより、厚さ約40マイクロメートルの均一な複合粘土薄膜を得た。一昼夜静置後、生成した複合粘土膜を、トレイから剥離して、自立した、フレキシビリティーに優れた膜を得た。
【0049】
(2)各種活性ラジカル種発生方法
ヒドロキシルラジカルに関しては、一般的に知られているフェントン試薬(非特許文献5参照)を利用した。具体的には、シャーレ上で過酸化水素水2.00ml(1.0×10−4mol)に硫酸鉄5.56×10−2g(1.0×10−4mol)を加えることにより、ヒドロキシルラジカル2.00×10−4molを発生させた。また、ヒドロキシエチルラジカルに関しては、フェントン試薬に更に数滴のエタノールを滴下することにより、発生させた。
【0050】
(3)ラジカル捕獲方法
上記(2)で示したラジカル発生方法で、ラジカル発生が起こっているシャーレに、約1cm四方に切断したラジカル捕集剤が均一に分布した複合粘土膜を入れ、約15分間、激しい発熱を伴う反応が終了するまで各種反応液に浸した。その後、ラジカル捕集剤が均一に分布した複合粘土膜を、6時間、真空下で乾燥した。
【0051】
(4)粘土薄膜の特性
ラジカル捕集剤が均一に分布した粘土薄膜のX線回折チャートを図8に示す。粘土薄膜の底面反射ピーク001のd=3.57ナノメートルに加えて、新たな底面反射ピークがd=2.45ナノメートルの位置に観察された。この新たな底面反射ピークは、ラジカル捕集剤により新たな層が形成されたことを示していると考えられる。
【0052】
(5)ラジカル捕集剤が均一に分布した複合粘土膜(4−Oxo−TEMPO粘土薄膜)(図9)と活性ラジカル捕獲後のラジカル捕集剤(4−Oxo−TEMPO粘土薄膜)が均一に分布した複合粘土膜のESRチャート(図10)を比較すると、ラジカル捕獲後のESRチャートにラジカル捕獲を示すピークの減少が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上詳述したように、本発明は、粘土の板状結晶が積層したマトリックス中にラジカル捕集剤が分散した微細構造を有することを特徴とするラジカル捕集用膜材料、その製造方法、及びその部材等に係るものであり、本発明により、自立膜として用いることが可能であり、優れたフレキシビリティーを有し、250℃を超える高温条件下で使用し得る、化学的に安定な、粘土配向膜内にラジカル捕集剤が均一に分布した複合粘土薄膜及びその製造技術を提供することができる。本発明では、粘土の粒子配向を揃えることにより、粘土のバリアー性、耐熱性に優れた膜を提供することが可能である。
【0054】
本発明の膜材料は、ラジカル捕獲性能、及びラジカル捕獲選択性能に優れていることから、例えば、食品類や茶葉などの鮮度保持包装材及び包装製品、化学産業分野におけるラジカル反応の触媒シート、空気や排ガス等の気体中及び水、排水、溶剤等の液体を含む流動体、及び固体や固体物質のラジカル濃度測定のための環境分析シートなどに広く利用することが可能であり、本発明は、上記膜材料を構成要素として含むラジカル捕集作用を有する部材、上記膜材料をラジカル捕集のために使用している製品を提供することが可能である。また、本発明では、上記膜材料を、廃液を出さない簡便な工程で製造することが可能であり、また、溶媒を除去し、膜材料を形成させた後、支持体表面から剥離せずに支持体の保護膜として用いることも可能であり、これによって、支持体の防食、防汚、耐熱性向上、ラジカル反応に基づく劣化を遅延させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の、ラジカル捕集剤を用いた膜材料(PBNの全固体に対する重量割合は15%)のX線回折チャートを示す図である。
【図2】本発明の、ラジカル捕集剤(スピントラップ剤)を用いた膜材料(PBNの全固体に対する重量割合は5%)のESRチャートを示す図である。
【図3】本発明の、ラジカル捕集剤を用いた膜材料(PBNの全固体に対する重量割合は5%)の活性ラジカル(主に、ヒドロキシルラジカル)捕獲後のESRチャートを示す図である。
【図4】本発明の、ラジカル捕集剤を用いた膜材料(PBNの全固体に対する重量割合は5%)の活性ラジカル(主に、ヒドロキシルラジカル)捕獲一ヶ月後のESRチャートを示す図である。
【図5】本発明の、ラジカル捕集剤(スピントラップ剤)を用いた膜材料(PBNの全固体に対する重量割合は15%)のESRチャートを示す図である。
【図6】本発明の、ラジカル捕集剤を用いた膜材料(PBNの全固体に対する重量割合は15%)の活性ラジカル(主に、ヒドロキシエチルラジカル)捕獲後のESRチャートを示す図である。
【図7】本発明の、ラジカル捕集剤を用いた膜材料(PBNの全固体に対する重量割合は15%)の活性ラジカル(主にヒドロキシエチルラジカル)捕獲一ヶ月後のESRチャートを示す図である。
【図8】本発明の、ラジカル捕集剤を用いた膜材料(4−Oxo−TEMPOの全固体に対する重量割合は15%)のX線回折チャートを示す図である。
【図9】本発明の、ラジカル捕集剤(ラジカルスカベンジング剤)を用いた膜材料(4−Oxo−TEMPOの全固体に対する重量割合は15%)のESRチャートを示す図である。
【図10】本発明の、ラジカル捕集剤を用いた膜材料(4−Oxo−TEMPOの全固体に対する重量割合は15%)のラジカル捕獲後のESRチャートを示す図である。
【図11】ラジカル捕集剤(PBN粉末)の活性ラジカル(主に、ヒドロキシルラジカル)捕獲後のESRチャートを示す図である。
【図12】ラジカル捕集剤(PBN粉末)の活性ラジカル(主に、ヒドロキシエチル
【技術分野】
【0001】
本発明は、多種のラジカルの捕集に好適に適用することができるラジカル捕集シートあるいはフィルムに関するものであり、更に詳しくは、自立膜として使用可能な機械的強度を有し、粘土粒子の積層を高度に向上させた粘土配向薄膜をマトリックスとして、該粒子配向の揃った粘土薄膜内に、ラジカル捕集剤が分散した複合粘土膜からなるラジカル捕集用膜材料及びその製造方法に関するものである。
【0002】
本発明は、粘土粒子の積層を配向させた粘土膜内にラジカル捕集剤が均一に分散した複合粘土膜であって、例えば、食品類及び茶葉の鮮度保持包装材料、ラジカル反応における触媒シート、空気や排ガス等の気体中及び水、排水、溶剤等の液体を含む流動体、更に、固体や固体物質のラジカル濃度測定のための環境分析シートなどに広く利用することが可能な新しいラジカル捕集用膜材料を提供するものである。
【背景技術】
【0003】
一般に、ラジカルに関与する反応は、我々の身近にたくさんある。例えば、生物の生存に欠かせない呼吸や代謝関係、食品の腐敗、プラスチックの劣化、退色、大気汚染による光化学スモッグの発生などの、自然界に関する現象もラジカル反応によるものであり、ラジカルは、非常に様々な観点で興味深い。しかし、ラジカルは、一般的に寿命が非常に短く、濃度も低いため、ラジカルを直接検出し、同定、定量することが極めて困難である。代表的なラジカル観測、同定及びラジカル濃度定量方法として、スピントラップ法・スカベンジング法がある。
【0004】
スピントラップ法は、反応系中にスピントラップ剤と呼ばれるラジカル補足剤を加え、生成した短寿命ラジカルを補足して、スピン付加物と呼ばれる寿命の長いラジカルに変換する方法である(非特許文献1、及び非特許文献2参照)。本手法により、系内にラジカルが存在することを明らかにすることができるだけではなく、そのESRシグナルを解析することにより、多くの場合、最初に系内に発生したラジカルの構造を決めることが可能である。
【0005】
なお、ESRとは、Electron Spin Resonance又はElectron Paramagnetic Resonance;電子常磁性共鳴法である。ラジカルや遷移金属イオンのように不対電子を持ち、そのスピンによって磁性を示す物質を常磁性物質といい、ESRは、常磁性物質の不対電子による吸収スペクトル法で、その電子状態やそれが置かれている環境についての情報を与える。代表的なスピントラップ剤は、ニトロソ化合物とニトロン化合物に大別され、いずれの場合にも、ラジカル補足後はニトロキシドになる。
【0006】
しかし、ニトロソ化合物は、二量体を作りやすく、ニトロン化合物は、活性ラジカル種に対する捕獲能力が必ずしも高いとはいえず(非特許文献3参照)、嵩高いラジカルや安定化された反応性の乏しいラジカルのトラップ剤としては、うまく働かないという問題点がある。スピンスカベンジング法は、ペプチドやタンパク質由来の生体ラジカル種を安定ニトロキシルラジカルで捕獲することによって、より安定な反磁性の化合物とし、質量分析を行なうことで、元のラジカル種を同定するといった研究が報告されている。
【0007】
スピントラップ法では、スピントラップ剤を用いると、生成するスピン付加物のESRスペクトルが非常に似通っていることから、元のラジカル種の同定を行なうことは非常に困難となり、また、安定ニトロキシルラジカルとはいえ、ラジカルであることから、質量分析の測定条件に耐えられず、分解等が起こってしまい、分析が容易ではないといった欠点を抱えている。
【0008】
スピンスカベンジング法では、これらの欠点を解消できると考えられる。同時に、スピントラップ反応に比べ、スピンスカベンジング反応の反応性が10倍ほど高い(非特許文献4参照)例もあり、各種ラジカル種を分析する上で、このスピンスカベンジング反応は、非常に有用ではないかと考えられる。しかし、従来のラジカル捕集剤で活性ラジカル種(例えば、OHラジカル)を捕獲し、安定化しても、安定性が十分でなく、数分の寿命で失活してしまい、ラジカル種の同定・定量が困難であった。
【0009】
【非特許文献1】Acc.Chem.Res.,4.31(1971)
【非特許文献2】Chem.Rev.,78.37(1978)
【非特許文献3】Analytical Chemistry,54.14(1982)
【非特許文献4】J.Am.Chem.Soc.,125,8655 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような状況の中で、本発明者らは、従来のラジカル捕集剤の存在状態の形態を変化させることにより、活性ラジカル種を捕獲し、安定性を向上させ、更にラジカル種の選択捕獲が可能な新規材料を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねる課程において、粘土分散溶液を調製し、これにラジカル捕集剤を少量混合し、均一な分散液を得た後、この分散液を水平に静置し、粘土粒子を沈積させるとともに、分散媒である液体を固液分離手段で分離して膜状に成形した後、これを支持体から剥離することにより、粘土粒子が配向した粘土薄膜内にラジカル捕集剤が均一に分布した複合粘土膜が得られることを見出し、この膜がラジカルを効率よく捕集し、かつ選択捕獲でき、しかもラジカルを安定に保持することを見出し、更に研究を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、粘土粒子の積層を高度に配向させた粘土膜内にラジカル捕集剤が分散した複合粘土膜であって、多種のラジカルの捕集に好適に適用することが可能な新規ラジカル捕集用膜材料を提供することを目的とするものである。また、本発明は、自立膜として使用可能な機械的強度を有し、粘土粒子の積層を高度に向上させた粘土配向薄膜をマトリックスとして、該粒子配向の揃った粘土薄膜内に、ラジカル捕集剤が分散した微細構造を有するラジカル捕集用複合粘土膜の製造技術及び該ラジカル捕集用粘土膜材料のラジカル捕集機能を利用した製品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)粘土粒子の積層を配向させた粘土膜内にラジカル捕集剤が分散した複合粘土膜であって、積層した粘土の板状結晶の層間に、ラジカル捕集剤が分散した微細構造を有することを特徴とするラジカル捕集用膜材料。
(2)粘土膜の主要構成成分が、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト及びノントロナイトのうちの一種以上である、前記(1)に記載の膜材料。
(3)粘土が、有機カチオン処理あるいはシリル化処理をされた変性粘土である、前記(1)に記載の膜材料。
(4)ラジカル捕集剤が、ニトロソ化合物、ニトロン化合物、安定ニトロキシルラジカルのうちの一種以上である、前記(1)に記載の膜材料。
(5)粘土とラジカル捕集剤の重量比が、99/1〜50/50である、前記(1)に記載の膜材料。
(6)膜が、円、正方形、長方形などの任意の平面形状を有し、自立膜として用いることが可能である、前記(1)に記載の膜材料。
(7)膜の厚さが、1mmよりも薄く、面積が1cm2よりも大きい、前記(1)に記載の膜材料。
(8)ヒドロキシルラジカル、アルコキシルラジカル、及び/又はヒドロキシエチルラジカルを捕集後、一ヶ月以上失活させずに保持する特性を有する前記(1)に記載の膜材料。
(9)粘土及びラジカル捕集剤を、有機溶媒あるいは有機溶媒を主成分とする分散媒である液体に均一に分散させて、粘土及びラジカル捕集剤を含む均一な分散液とした後、この分散液を静置し、粘土粒子を沈積させるとともに、分散媒である液体を除去し、膜状に成形することにより自立膜とすることを特徴とするラジカル捕集用膜材料の製造方法。
(10)粘土が、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト及びノントロナイトのうちの一種以上である、前記(9)に記載の膜材料の製造方法。
(11)ラジカル捕集剤が、ニトロソ化合物、ニトロン化合物、安定ニトロキシルラジカルのうちの一種以上である、前記(9)に記載の膜材料の製造方法。
(12)粘土及びラジカル捕集剤を含む均一な分散液において、粘土とラジカル捕集剤の重量比が99/1〜50/50である、前記(9)に記載の膜材料の製造方法。
(13)粘土及びラジカル捕集剤を含む均一な分散液を調製した後、それを脱気処理する、前記(9)に記載の膜材料の製造方法。
(14)前記(1)から(8)のいずれかに記載のラジカル捕集用膜材料を構成要素として含むことを特徴とするラジカル捕集作用を有する部材。
(15)前記(1)から(8)のいずれかに記載のラジカル捕集用膜材料をラジカル捕集のために使用している製品。
【0013】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明の膜材料は、粘土膜内にラジカル捕集剤が分散した複合粘土膜であって、積層した粘土の板状結晶の層間に、ラジカル捕集剤が均一に分散した微細構造を有することを特徴とするラジカル捕集用膜材料である。粘土は、シリカ、アルミナ、マグネシア等により構成される無機物質である。粘土の板状結晶は、最も一般的な2対1型粘土の場合、厚さ約1ナノメートル、平面方向の大きさが、例えば、数十ナノメートルから数百ナノメートルである。粘土の板状結晶は、同じ向きに重ね合わせて、配向させた積層体を作製することが可能であり、板状結晶の間に種々の化合物を挟んだ形状の複合体、いわゆるナノコンポジットを作製することが可能である。本発明も、積層した粘土の板状結晶の中に、ラジカル捕集剤と呼ばれる有機分子が分子レベルで分散していることから、ナノコンポジットの一種である。
【0014】
本発明で用いる粘土としては、天然あるいは合成物、好適には、例えば、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、マガディアイト、アイラライト、カネマイト、イライト、セリサイトのうちの一種以上、更に好適には、それらの天然あるいは合成物の何れか、あるいはそれらの混合物が例示される。
【0015】
本発明では、有機カチオンとしての第四級アンモニウムカチオン、あるいは第四級ホスホニウムカチオンと複合化された変性粘土が好適に用いられる。また、本発明では、粘土にシリル化剤を反応させた変性粘土が好適に用いられる。その場合、変性粘土における有機カチオン組成及びシリル化剤が、それぞれ30重量パーセント未満である場合が好適である。本発明で用いる分散媒としては、変性粘土が分散し、添加物が溶解するものであれば特に限定されるものではなく、種々の極性の溶剤を用いることが可能であり、例えば、エチルアルコール、エーテル、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、アセトン、トルエンなどが例示される。
【0016】
本発明で使用されるニトロソ化合物は、分子中に、下記に示す構造部位を含む化合物である。ただし、式中、Rは、水素原子又はアルキル基を示す。また、上記構造部位を含むものであれば、環状構造のものも使用可能である。
【0017】
【化1】
【0018】
本発明で使用されるニトロン化合物は、分子中に、下記に示す構造部位を含む化合物である。式中、R1、R2、R3は、水素原子又はアルキル基を示す。また、上記構造部位を含むものであれば、環状構造のものも使用可能である。
【0019】
【化2】
【0020】
本発明で使用される安定ニトロキシルラジカルは、分子中に、下記に示す構造部位を含む化合物である。式中、R1、R2は、水素原子又はアルキル基を示す。また、上記構造部位を含むものであれば、環状構造のものも使用可能である。
【0021】
【化3】
【0022】
本発明の膜材料の製造方法においては、最初に、変性粘土及びラジカル捕集剤が溶解可能な分散媒である液体に、変性粘土及びラジカル捕集剤を加えた均一な分散液の調製を行う。この調製方法として、変性粘土を分散させてからラジカル捕集剤を加える方法、ラジカル捕集剤を含む溶液に変性粘土を分散させる方法、並びに変性粘土及びラジカル捕集剤を同時に分散媒に加えて分散液とする方法のいずれでもよいが、作業の容易さからは、変性粘土とラジカル捕集剤を同時に分散媒に加えることが好ましい。
【0023】
この場合、変性粘土と各種ラジカル捕集剤の全固体に対する割合は、99/1〜50/50であり、更に好ましくは95/5〜80/20である。この時、ラジカル捕集剤の割合が低すぎる場合、使用の効果が現れず、また、ラジカル捕集剤の割合が高すぎる場合、調製した膜中に、ラジカル捕集剤が不均一に分布し、偏在することになり、結果として、得られる膜の均一性が低下し、ラジカル捕集剤使用の効果が薄れる。
【0024】
次に、変性粘土及びラジカル捕集剤を含む分散液を水平に静置し、粘土粒子をゆっくりと沈積させるとともに、例えば、分散媒である液体をゆっくりと蒸発させ、膜状に成形する。このようにして形成された膜材料は、例えば、種々の固液分離方法、遠心分離、ろ過、真空乾燥、凍結真空乾燥及び加熱蒸発法の何れか、あるいはこれらの方法を組み合わせて乾燥させ、乾燥したラジカル捕集膜材料を得る。
【0025】
本発明では、粘土粒子の積層を高度に配向させた粘土膜が好適に用いられるが、本発明において、粘土粒子の積層を高度に配向させるとは、粘土粒子の単位構造層(厚さ約1ナノメートル)を、層面の向きを均一にして積み重ね、層面に垂直な方向に、高い周期性を持たせることを意味する。このような粘土粒子の配向を得るためには、粘土及びラジカル捕集剤を含む、希薄で均一な分散液を水平に静置し、粘土粒子をゆっくりと沈積させるとともに、分散媒である液体をゆっくりと蒸発させ、膜状に成形することが重要である。
【0026】
このプロセスにおける好適な製造条件を示すと、粘土分散液中の粘土と各種ラジカル捕集剤の全固体に対する割合は、99/1〜50/50であり、更に好ましくは95/5〜80/20である。このとき、ラジカル捕集剤は、積層した粘土の板状結晶の層間に分散した微細構造を有しており、ラジカル捕集剤分子の動きは、上下に接する粘土の板状結晶に強く制限され、それにより、他のラジカル捕集剤との相互作用による失活が妨げられると考えられる。
【0027】
変性粘土及びラジカル捕集剤を含む分散液を、事前に脱気処理しない場合は、得られる膜材料に気泡に由来する孔ができ易くなるという問題が生ずる場合がある。また、乾燥条件は、液体分を蒸発によって取り除くに十分であるように設定される。このとき、温度が低すぎると、乾燥に時間がかかるという問題がある。また、温度が高すぎると、分散液の対流が起こり、粘土粒子の配向度が低下するという問題がある。本発明の、膜材料の厚さについては、分散液に用いる固体量を調整することによって、任意の厚さの膜を得ることができる。
【0028】
このように、本発明の膜材料は、粘土粒子の積層が高度に配向し、自立膜として用いることが可能であり、フレキシビリティーに優れ、更に、均一に分散しているラジカル捕集剤によるラジカル捕集能力を持つことを特徴としている。また、本発明の膜材料は、例えば、はさみ、カッター等で容易に円、正方形、長方形などの任意の大きさ、形状に切り取ることができる。更に、本発明の膜材料は、好適には、厚さは1mmよりも薄く、面積は1cm2よりも大きいことを特徴としている。
【0029】
後記する実施例に示されるように、有機カチオンとしての第四級アンモニウムイオンで有機化した粘土に、ラジカル捕集剤(PBN(N−tert−Butyl−α−Phenylnitrone))を混合した膜のX線回折パターンには、底面間隔3.22ナノメートル及び2.41ナノメートルにピークが観察される。この値は、粘土のみの底面間隔の値の約1.24ナノメートルよりも、それぞれ1.98ナノメートル及び1.17ナノメートル大きく、この増加量は、混合したラジカル捕集剤(PBN)の平均分子サイズよりも大きい。
【0030】
特に、2.41ナノメートルのピークは、ラジカル捕集剤(PBN)の混合量が増加するに従って大きくなる。そのため、底面間隔2.41ナノメートルで表される層構造は、ラジカル捕集剤(PBN)と粘土との複合体の一形態であると考えられる。以上の結果より、ラジカル捕集剤は積層した粘土の板状結晶の層間に分散する微細構造を有していることが示された。
【0031】
同様に、ラジカル捕集剤(4−Oxo−TEMPO)混合後のX線回折パターンにも、底面間隔3.57ナノメートル、及び底面間隔2.44ナノメートルにピークが観察される。これらの値も粘土のみの底面間隔よりも、それぞれ2.33ナノメートル、1.20ナノメートル大きく、この増加量は、混合したラジカル捕集剤(4−Oxo−TEMPO)の平均分子サイズよりも大きい。
【0032】
また、2.41ナノメートルのピークは、ラジカル捕集剤(4−Oxo−TEMPO)の混合量が増加するに従って大きくなる。そのため、この副層は、ラジカル捕集剤(4−Oxo−TEMPO)で形成される層であると考えられる。よって、この場合においても、ラジカル捕集剤は、積層した粘土の板状結晶の層間に分散する微細構造を有していることが示された。
【0033】
従来のラジカル捕集剤では、活性ラジカル種(例えば、OHラジカル)を捕獲し、安定化しても、安定性が十分でなく、数分の寿命で失活してしまう又は捕獲が不可能である。しかし、本発明における膜材料は、後記する実施例に示されるように、ラジカル捕集剤(PBN)混合膜の活性ラジカル捕獲後のESRチャートを見てみると、活性ラジカルトラップ後、一ヶ月経過した場合でも、スピン付加物の安定性が確認された。
【0034】
本発明の膜材料は、粘土粒子の積層が高度に配向し、自立膜として用いることが可能であり、フレキシビリティーに優れ、更に、均一に分散しているラジカル捕集剤によるラジカル捕集能力を有し、ラジカル捕集能力に優れるという特徴を有する。本発明の膜材料は、例えば、食品類や茶葉などの鮮度保持包装材、化学産業分野におけるラジカル反応の触媒シート、空気や排ガス等の気体中及び水、排水、溶剤等の液体を含む流動体、更に、固体や固体物質のラジカル濃度測定のための環境分析シートなどに広く利用することが可能である。
【0035】
また、本発明では、上記膜材料を、廃液を出さない簡便な工程で製造することが可能であり、また、溶媒を除去し、膜材料を形成させた後、支持体表面から剥離せずに支持体の保護膜として用いることも可能であり、これによって、支持体の防食、防汚、耐熱性向上、ラジカル反応を原因とする劣化を遅延させることが可能である。
【発明の効果】
【0036】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)通常活性ラジカル種(例えば、ヒドロキシルラジカル)は、活性が高く、寿命が非常に短いため、ラジカル捕集剤で捕獲することは非常に困難であり、たとえ捕獲したとしても、安定性も非常に低く、数分で失活してしまうため、ラジカル種の同定・定量が困難であったが、本発明の膜材料においては、ヒドロキシルラジカルが捕獲され、また、その安定性も、数分ではなく、一ヶ月以上確認された。
(2)本発明により、ヒドロキシルラジカルよりも大きなラジカル分子であるヒドロキシエチル分子の捕獲も可能である。
(3)ヒドロキシエチルラジカルは、ヒドロキシルラジカルと少し性質が異なり、通常ラジカル捕集剤で容易に捕獲可能であるが、溶液中においては、捕獲された翌日には全て失活してしまう。しかし、本発明の膜材料においては、ヒドロキシルラジカルの場合と同様に、一ヶ月以上安定であった。
(4)本発明により、粘土と捕集物の重量比による活性ラジカル種の捕獲選択性が確認された。
(5)本発明により、活性ラジカル種の捕獲・安定化向上による活性ラジカル種の容易な同定・定量が可能となる。
(6)本発明の膜材料は、ラジカル捕集剤単体状態では確認されない、同一のラジカル捕集剤による活性ラジカル種の選択的捕獲が可能なことにより、用途に即した膜材料として使用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0038】
(1)変性粘土の作製
天然の精製ベントナイトであるクニピアP(クニミネ工業株式会社製)60グラムを蒸留水600cm3に分散させた。次に、この分散液に、市販のテトラブチルアンモニウムブロミド特級試薬を60グラム混合し、25℃で2時間振とう攪拌することにより、均一な分散液を調製した。この分散液を6000回転、10分間の遠心分離機にかけ、固液分離した。更に、ホモジナイザーを用いて20分間混合した。得られた固体を水洗浄し、乾燥、粉砕することにより、変性粘土を作製した。この変性粘土の塩素濃度は、150ppm以下であった。
【0039】
(2)ラジカル捕集剤が均一に分布した複合粘土膜の製造
次に、作製した変性粘土4.00gと、ラジカル捕集剤としてPBN(N−tert−Butyl−α−Phenylnitrone)を所定の割合で100cm3のトルエンに加え、プラスチック製密封容器にテフロン(登録商標)回転子とともに入れ、25℃で2時間激しく振とうし、均一な分散液を得た。このとき、所定の割合を変えることで、粘土とPBNとの重量割合の異なった分散液を作製した。粘土のPBNに対する重量比は、2.00g/2.00g(PBN50%)から3.96g/0.04g(PBN1%)までとした。
【0040】
次に、真空脱泡装置により、この分散液の脱気を行った。次いで、この分散液を、厚さ0.1mmのテフロン(登録商標)フィルムを貼り付けた金属板に塗布した。塗布には、ステンレス製地へらを用いた。スペーサーをガイドとして利用し、均一厚の粘土ペースト膜を成型した。このトレイを室温で自然乾燥することにより、厚さ約40マイクロメートルの均一な複合粘土薄膜を得た。これを一昼夜静置後、生成した複合粘土膜をトレイから剥離して、自立した、フレキシビリティーに優れた膜を得た。
【0041】
(3)各種活性ラジカル種発生方法
ヒドロキシルラジカルに関しては、一般的に知られているフェントン試薬(Free Radical Biology&Medicine.,15,435(1993)参照)を利用した。具体的には、シャーレ上で過酸化水素水1.00ml(1.0×10−4mol)に、硫酸鉄2.78×10−2g(1.0×10−4mol)を加えることにより、ヒドロキシルラジカル1.00×10−4molを発生させた。また、ヒドロキシエチルラジカルに関しては、フェントン試薬に更に数滴のエタノールを滴下することにより発生させた
【0042】
(4)ラジカル捕獲方法
上記(3)で示した方法で、ラジカルを発生させたシャーレに、約1cm四方の上記複合粘土膜を入れ、約15分間、激しい発熱を伴う反応が終了するまで各種反応液に浸した。その後、ラジカル捕集剤が均一に分布した複合粘土膜を、6時間、真空乾燥により乾燥した。
【0043】
(5)粘土薄膜の特性
ラジカル捕集剤が均一に分布した複合粘土膜のX線回折チャートを図1に示す。粘土薄膜の底面反射ピーク001のd=3.22ナノメートルに加えて、新たな底面反射ピークがd=2.41ナノメートルの位置に観察された。この新たな底面反射ピークは、ラジカル捕集剤により新たな層が形成されたことを示していると考えられる。
【0044】
(6)ラジカル捕集剤が均一に分布した複合粘土膜(PBN粘土薄膜)のESRチャート(図2)と、活性ラジカル(主に、ヒドロキシルラジカル)捕獲後のラジカル捕集剤が均一に分布した複合粘土膜のESRチャート(図3)を比較すると、ラジカル捕獲後のESRチャートにラジカル捕獲を示すピークが確認された。更に、一ヶ月後のESRチャート(図4)を見てみると、スピン付加物が安定であることを示している。また、図5〜図7では、活性ラジカル(主に、ヒドロキシエチルラジカル)捕獲時のESRチャートに関して示した。特に、PBN混合量5%、15%のものが、非常にラジカル捕集能力が高く、しかもスピン付加物の安定性も高いことが分かった。
【0045】
比較例1
フェントン試薬中にPBN(N−tert−Butyl−α−Phenylnitrone)粉末を過剰に投入し、ESR測定により、ラジカル捕獲の有無を確認した。具体的には、シャーレ上で過酸化水素水1.00ml(1.0×10−4mol)に硫酸鉄2.78×10−2g(1.0×10−4mol)を加えることにより、ヒドロキシルラジカル1.00×10−4molを発生させた。また、ヒドロキシエチルラジカルに関しては、フェントン試薬に更に数滴のエタノールを滴下することにより、発生させた。
【0046】
この反応溶液中に、4.5×10−2g(2.5×10−4mol)のPBN(N−tert−Butyl−α−Phenylnitrone)粉末を投入し、激しい発熱を伴った反応後、約15分静置した。反応終了後の混合溶液をマイクロピペットに取り、マイクロピペットの両端をガラス細工により封管した。封管したマイクロピペットをESR測定管に入れ、ESR測定を行なった。ESR測定の結果、ラジカル捕集の際に観測されるESRシグナルは、どちらのラジカル発生溶液に関しても観測されなかった。(図11〜図12)
【実施例2】
【0047】
(1)ラジカル捕集剤が均一に分布した複合粘土膜の製造
PBN(N−tert−Butyl−α−Phenylnitrone)混合膜作製時と同様の変性粘土4.00gと、ラジカル捕集剤として4−Oxo−TEMPO(2,2,6,6,−tetramethyl−4−oxopiperidine−1−oxyl)を所定の割合で100cm3の有機溶媒に加え、プラスチック製密封容器にテフロン(登録商標)回転子とともに入れ、25℃で2時間激しく振とうし、均一な分散液を得た。このとき、粘土と4−Oxo−TEMPOとの重量割合の異なる分散液を作製した。粘土の4−Oxo−TEMPOに対する重量比は、2.00g/2.00g(4−oxoTEMPO50%)から3.96g/0.04g(4−oxoTEMPO1%)までとした。
【0048】
次に、真空脱泡装置により、この分散液の脱気を行った。次いで、この分散液を、厚さ0.1mmのテフロン(登録商標)フィルムを貼り付けた金属板に塗布した。塗布には、ステンレス製地へらを用いた。スペーサーをガイドとして利用し、均一厚の分散液を成型した。このトレイを室温で自然乾燥することにより、厚さ約40マイクロメートルの均一な複合粘土薄膜を得た。一昼夜静置後、生成した複合粘土膜を、トレイから剥離して、自立した、フレキシビリティーに優れた膜を得た。
【0049】
(2)各種活性ラジカル種発生方法
ヒドロキシルラジカルに関しては、一般的に知られているフェントン試薬(非特許文献5参照)を利用した。具体的には、シャーレ上で過酸化水素水2.00ml(1.0×10−4mol)に硫酸鉄5.56×10−2g(1.0×10−4mol)を加えることにより、ヒドロキシルラジカル2.00×10−4molを発生させた。また、ヒドロキシエチルラジカルに関しては、フェントン試薬に更に数滴のエタノールを滴下することにより、発生させた。
【0050】
(3)ラジカル捕獲方法
上記(2)で示したラジカル発生方法で、ラジカル発生が起こっているシャーレに、約1cm四方に切断したラジカル捕集剤が均一に分布した複合粘土膜を入れ、約15分間、激しい発熱を伴う反応が終了するまで各種反応液に浸した。その後、ラジカル捕集剤が均一に分布した複合粘土膜を、6時間、真空下で乾燥した。
【0051】
(4)粘土薄膜の特性
ラジカル捕集剤が均一に分布した粘土薄膜のX線回折チャートを図8に示す。粘土薄膜の底面反射ピーク001のd=3.57ナノメートルに加えて、新たな底面反射ピークがd=2.45ナノメートルの位置に観察された。この新たな底面反射ピークは、ラジカル捕集剤により新たな層が形成されたことを示していると考えられる。
【0052】
(5)ラジカル捕集剤が均一に分布した複合粘土膜(4−Oxo−TEMPO粘土薄膜)(図9)と活性ラジカル捕獲後のラジカル捕集剤(4−Oxo−TEMPO粘土薄膜)が均一に分布した複合粘土膜のESRチャート(図10)を比較すると、ラジカル捕獲後のESRチャートにラジカル捕獲を示すピークの減少が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上詳述したように、本発明は、粘土の板状結晶が積層したマトリックス中にラジカル捕集剤が分散した微細構造を有することを特徴とするラジカル捕集用膜材料、その製造方法、及びその部材等に係るものであり、本発明により、自立膜として用いることが可能であり、優れたフレキシビリティーを有し、250℃を超える高温条件下で使用し得る、化学的に安定な、粘土配向膜内にラジカル捕集剤が均一に分布した複合粘土薄膜及びその製造技術を提供することができる。本発明では、粘土の粒子配向を揃えることにより、粘土のバリアー性、耐熱性に優れた膜を提供することが可能である。
【0054】
本発明の膜材料は、ラジカル捕獲性能、及びラジカル捕獲選択性能に優れていることから、例えば、食品類や茶葉などの鮮度保持包装材及び包装製品、化学産業分野におけるラジカル反応の触媒シート、空気や排ガス等の気体中及び水、排水、溶剤等の液体を含む流動体、及び固体や固体物質のラジカル濃度測定のための環境分析シートなどに広く利用することが可能であり、本発明は、上記膜材料を構成要素として含むラジカル捕集作用を有する部材、上記膜材料をラジカル捕集のために使用している製品を提供することが可能である。また、本発明では、上記膜材料を、廃液を出さない簡便な工程で製造することが可能であり、また、溶媒を除去し、膜材料を形成させた後、支持体表面から剥離せずに支持体の保護膜として用いることも可能であり、これによって、支持体の防食、防汚、耐熱性向上、ラジカル反応に基づく劣化を遅延させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の、ラジカル捕集剤を用いた膜材料(PBNの全固体に対する重量割合は15%)のX線回折チャートを示す図である。
【図2】本発明の、ラジカル捕集剤(スピントラップ剤)を用いた膜材料(PBNの全固体に対する重量割合は5%)のESRチャートを示す図である。
【図3】本発明の、ラジカル捕集剤を用いた膜材料(PBNの全固体に対する重量割合は5%)の活性ラジカル(主に、ヒドロキシルラジカル)捕獲後のESRチャートを示す図である。
【図4】本発明の、ラジカル捕集剤を用いた膜材料(PBNの全固体に対する重量割合は5%)の活性ラジカル(主に、ヒドロキシルラジカル)捕獲一ヶ月後のESRチャートを示す図である。
【図5】本発明の、ラジカル捕集剤(スピントラップ剤)を用いた膜材料(PBNの全固体に対する重量割合は15%)のESRチャートを示す図である。
【図6】本発明の、ラジカル捕集剤を用いた膜材料(PBNの全固体に対する重量割合は15%)の活性ラジカル(主に、ヒドロキシエチルラジカル)捕獲後のESRチャートを示す図である。
【図7】本発明の、ラジカル捕集剤を用いた膜材料(PBNの全固体に対する重量割合は15%)の活性ラジカル(主にヒドロキシエチルラジカル)捕獲一ヶ月後のESRチャートを示す図である。
【図8】本発明の、ラジカル捕集剤を用いた膜材料(4−Oxo−TEMPOの全固体に対する重量割合は15%)のX線回折チャートを示す図である。
【図9】本発明の、ラジカル捕集剤(ラジカルスカベンジング剤)を用いた膜材料(4−Oxo−TEMPOの全固体に対する重量割合は15%)のESRチャートを示す図である。
【図10】本発明の、ラジカル捕集剤を用いた膜材料(4−Oxo−TEMPOの全固体に対する重量割合は15%)のラジカル捕獲後のESRチャートを示す図である。
【図11】ラジカル捕集剤(PBN粉末)の活性ラジカル(主に、ヒドロキシルラジカル)捕獲後のESRチャートを示す図である。
【図12】ラジカル捕集剤(PBN粉末)の活性ラジカル(主に、ヒドロキシエチル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘土粒子の積層を配向させた粘土膜内にラジカル捕集剤が分散した複合粘土膜であって、積層した粘土の板状結晶の層間に、ラジカル捕集剤が分散した微細構造を有することを特徴とするラジカル捕集用膜材料。
【請求項2】
粘土膜の主要構成成分が、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト及びノントロナイトのうちの一種以上である、請求項1に記載の膜材料。
【請求項3】
粘土が、有機カチオン処理あるいはシリル化処理をされた変性粘土である、請求項1に記載の膜材料。
【請求項4】
ラジカル捕集剤が、ニトロソ化合物、ニトロン化合物、安定ニトロキシルラジカルのうちの一種以上である、請求項1に記載の膜材料。
【請求項5】
粘土とラジカル捕集剤の重量比が、99/1〜50/50である、請求項1に記載の膜材料。
【請求項6】
膜が、円、正方形、長方形などの任意の平面形状を有し、自立膜として用いることが可能である、請求項1に記載の膜材料。
【請求項7】
膜の厚さが、1mmよりも薄く、面積が1cm2よりも大きい、請求項1に記載の膜材料。
【請求項8】
ヒドロキシルラジカル、アルコキシルラジカル、及び/又はヒドロキシエチルラジカルを捕集後、一ヶ月以上失活させずに保持する特性を有する、請求項1に記載の膜材料。
【請求項9】
粘土及びラジカル捕集剤を、有機溶媒あるいは有機溶媒を主成分とする分散媒である液体に均一に分散させて、粘土及びラジカル捕集剤を含む均一な分散液とした後、この分散液を静置し、粘土粒子を沈積させるとともに、分散媒である液体を除去し、膜状に成形することにより自立膜とすることを特徴とするラジカル捕集用膜材料の製造方法。
【請求項10】
粘土が、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト及びノントロナイトのうちの一種以上である、請求項9に記載の膜材料の製造方法。
【請求項11】
ラジカル捕集剤が、ニトロソ化合物、ニトロン化合物、安定ニトロキシルラジカルのうちの一種以上である、請求項9に記載の膜材料の製造方法。
【請求項12】
粘土及びラジカル捕集剤を含む均一な分散液において、粘土とラジカル捕集剤の重量比が99/1〜50/50である、請求項9に記載の膜材料の製造方法。
【請求項13】
粘土及びラジカル捕集剤を含む均一な分散液を調製した後、それを脱気処理する、請求項9に記載の膜材料の製造方法。
【請求項14】
請求項1から8のいずれかに記載のラジカル捕集用膜材料を構成要素として含むことを特徴とするラジカル捕集作用を有する部材。
【請求項15】
請求項1から8のいずれかに記載のラジカル捕集用膜材料をラジカル捕集のために使用している製品。
【請求項1】
粘土粒子の積層を配向させた粘土膜内にラジカル捕集剤が分散した複合粘土膜であって、積層した粘土の板状結晶の層間に、ラジカル捕集剤が分散した微細構造を有することを特徴とするラジカル捕集用膜材料。
【請求項2】
粘土膜の主要構成成分が、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト及びノントロナイトのうちの一種以上である、請求項1に記載の膜材料。
【請求項3】
粘土が、有機カチオン処理あるいはシリル化処理をされた変性粘土である、請求項1に記載の膜材料。
【請求項4】
ラジカル捕集剤が、ニトロソ化合物、ニトロン化合物、安定ニトロキシルラジカルのうちの一種以上である、請求項1に記載の膜材料。
【請求項5】
粘土とラジカル捕集剤の重量比が、99/1〜50/50である、請求項1に記載の膜材料。
【請求項6】
膜が、円、正方形、長方形などの任意の平面形状を有し、自立膜として用いることが可能である、請求項1に記載の膜材料。
【請求項7】
膜の厚さが、1mmよりも薄く、面積が1cm2よりも大きい、請求項1に記載の膜材料。
【請求項8】
ヒドロキシルラジカル、アルコキシルラジカル、及び/又はヒドロキシエチルラジカルを捕集後、一ヶ月以上失活させずに保持する特性を有する、請求項1に記載の膜材料。
【請求項9】
粘土及びラジカル捕集剤を、有機溶媒あるいは有機溶媒を主成分とする分散媒である液体に均一に分散させて、粘土及びラジカル捕集剤を含む均一な分散液とした後、この分散液を静置し、粘土粒子を沈積させるとともに、分散媒である液体を除去し、膜状に成形することにより自立膜とすることを特徴とするラジカル捕集用膜材料の製造方法。
【請求項10】
粘土が、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト及びノントロナイトのうちの一種以上である、請求項9に記載の膜材料の製造方法。
【請求項11】
ラジカル捕集剤が、ニトロソ化合物、ニトロン化合物、安定ニトロキシルラジカルのうちの一種以上である、請求項9に記載の膜材料の製造方法。
【請求項12】
粘土及びラジカル捕集剤を含む均一な分散液において、粘土とラジカル捕集剤の重量比が99/1〜50/50である、請求項9に記載の膜材料の製造方法。
【請求項13】
粘土及びラジカル捕集剤を含む均一な分散液を調製した後、それを脱気処理する、請求項9に記載の膜材料の製造方法。
【請求項14】
請求項1から8のいずれかに記載のラジカル捕集用膜材料を構成要素として含むことを特徴とするラジカル捕集作用を有する部材。
【請求項15】
請求項1から8のいずれかに記載のラジカル捕集用膜材料をラジカル捕集のために使用している製品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−248078(P2007−248078A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−68429(P2006−68429)
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】
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