説明

ラスク様再加熱ベーカリー製品

【課題】フランスパンではなくケーキを使用したラスクであって、口溶けが良好で、油性感が低く、軽い食感でありながら、保管中や流通段階での損壊が防止された十分な硬さのラスク様再加熱ベーカリー製品を提供すること。
【解決手段】卵黄の配合量が澱粉類100質量部に対し40質量部未満であるスポンジケーキ生地を焼成して得られたケーキを使用したことを特徴とするラスク様再加熱ベーカリー製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラスクを製造する際に通常使用するフランスパンに代えて、スポンジケーキを使用したラスク様再加熱ベーカリー製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ラスクとは、特に定義はないが、老化して硬くなったパンを再生する一方法として古くから食されてきたもので、スライスしたパンの表面に、油脂と糖類の混合物、あるいは卵白と糖類の混合物等を塗布又は散布した後、加熱調理した、カリカリした食感が特徴の再加熱ベーカリー製品である。
【0003】
すなわち、ラスクとは、パンに含まれる水分を可能な限り除去し、糖類や油脂類を表面に付着させて焼成することにより、パンを使用していながら、ビスケットのような食感と風味と保存性を持たせた再加熱ベーカリー製品である。
【0004】
このラスクと似た製造方法の再加熱ベーカリー製品としては、ビスコッティやフレンチトーストが知られている。
ビスコッティは、ラスクで使用するパンに代えてクッキーを使用したものであり、岩のような硬い食感が特徴の再加熱ベーカリー製品である。
また、フレンチトーストは、油脂と糖類の混合物、あるいは卵白と糖類の混合物等を塗布又は散布する代わりに、パン全体に、卵類、牛乳、糖類からなる、いわゆる浸漬液を染み込ませたものであり、しっとりと柔らかい食感が特徴の再加熱ベーカリー製品である。
【0005】
しかし、ビスコッティは、ラスクに比べてさらに硬い食感で咀嚼しにくいものであり、通常はコーヒーや紅茶に浸して軟らかくしてから食するものであり、またフレンチトーストは、ラスクに比べてソフトな食感ではあるが、水分含量が高いため日持ちがしないという問題があった。
【0006】
そこで、最近、ラスクを製造する際に、従来使用されていたフランスパンに代えて、スポンジケーキやシフォンケーキを使用したラスクが「スポンジラスク」として商品化されている。
【0007】
このラスク様再加熱ベーカリー製品は、ラスクに比べ食感が軽く、日持ちも良好であるという特徴を有するものの、組織が脆弱である為、保管中や流通段階でひび割れが発生したり損壊するなど、商品価値を損ねるという問題があった。この点を解決する方法として、例えば、対称型トリグリセリド(1,3位に飽和脂肪酸残基、2位に不飽和脂肪酸残基)の含有量が30重量%以上の油脂にHLBが3〜13の乳化剤を添加してなる油脂組成物を付着させるという方法(たとえば特許文献1参照)が提案されているが、この方法では、ひび割れ防止効果が不十分であることに加え、油性感の強いラスク様再加熱ベーカリー製品になってしまう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−271305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
よって、本発明の目的は、フランスパンではなくケーキを使用したラスクであって、口溶けが良好で、油性感が低く、軽い食感でありながら、保管中や流通段階での損壊が防止された十分な硬さのラスク様再加熱ベーカリー製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記目的を達成すべく種々検討した結果、ラスクに使用するケーキの配合を、卵黄の含量を大きく削減するという、従来のスポンジケーキやバターケーキとは全く異なる特定の配合とし、また、その製法についてもできるだけグルテンを生成させるような強度のミキシングを行うという、従来のスポンジケーキの製法としては用いられない方法とすることにより、上記問題を解決しうることを知見した。
【0011】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、卵黄の配合量が澱粉類100質量部に対し40質量部未満であるスポンジケーキ生地を焼成して得られたケーキを使用したことを特徴とするラスク様再加熱ベーカリー製品を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のラスク様再加熱ベーカリー製品は、口溶けが良好で、油性感が低く、軽い食感でありながら、保管中や流通段階での損壊が防止された十分な硬さを有する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のラスク様再加熱ベーカリー製品について詳述する。
従来のスポンジケーキは、水分が多く、ソフトでしっとりした口溶けのよい食感が特徴であり、その基本的な配合は、卵類、穀粉類、糖類を等量混合する(三同割)ものであるのに対し、本発明で使用するケーキは、卵黄の配合量が澱粉類100質量部に対し40質量部未満、好ましくは30質量部未満、より好ましくは20質量部未満であるスポンジケーキ生地を焼成して得られたものである。なお、下限については特に制限はないが、10質量部であることが好ましい。
【0014】
なお、上記スポンジケーキ生地に使用する卵黄としては、例えば、全卵、生卵黄、殺菌全卵、殺菌卵黄、加塩全卵、加塩卵黄、加糖全卵、加糖卵黄、粉末全卵、粉末卵黄、酵素処理全卵、酵素処理卵黄等の卵黄を含有する卵類を用いることができる。本発明では、これらの卵黄を含有する卵類の中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。なお、上記卵黄の含有量は、該卵黄を含有する卵類中の卵黄の純含有量をいうものとし、また、粉末全卵や粉末卵黄の場合は全卵や卵黄の水分含量に換算して計算するものとする。
【0015】
また上記スポンジケーキ生地の水分含量は、澱粉類100質量部に対し、好ましくは50〜100質量部、より好ましくは75〜95質量部である。50質量部未満では、得られるラスク様再加熱ベーカリー製品の食感が硬くなってしまいやすく、100質量部を超えると、保管中や流通段階で損壊しやすくなってしまう。
【0016】
なお、上記卵黄中の水分含量は約50質量%に過ぎないので、不足分は、下記の糖類やその他成分として水分含量の高い原材料を使用して調整する。
なお、上記スポンジケーキ生地に使用する澱粉類としては、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム粉、全粒粉などの小麦粉類、ライ麦粉、大麦粉、米粉などのその他の穀粉類、アーモンド粉、へーゼルナッツ粉、カシューナッツ粉、オーナッツ粉、松実粉などの堅果粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、タピオカ澱粉、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉、モチ米澱粉などの澱粉や、これらの澱粉をアミラーゼなどの酵素で処理したものや、α化処理、分解処理、エーテル化処理、エステル化処理、架橋処理、微細化、グラフト化処理などの中から選ばれた1種又は2種以上の処理を施した化工澱粉等が挙げられ、本発明では、澱粉類中、好ましくは小麦粉類を50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは100質量%使用する。
【0017】
なかでも本発明では、上記澱粉類として、強力粉を、好ましくは澱粉類のうちの30〜100質量%、より好ましくは澱粉類のうちの50〜100質量%使用することが、口溶けが良好で、軽い食感でありながら、保管中や流通段階での損壊が防止された十分な硬さを有するラスク様再加熱ベーカリー製品が得られる点で好ましい。
すなわち、本発明では、上記スポンジケーキ生地に使用する澱粉類として、小麦粉のみを使用し、その小麦粉のうちの好ましくは30〜100質量%、より好ましくは50〜100質量%が強力粉であることが好ましい。
【0018】
また、上記スポンジケーキ生地の糖類含量は、澱粉類100質量部に対し、好ましくは50〜150質量部、より好ましくは60〜100質量部である。50質量部未満では、良好な組織のケーキが得られず、150質量部を超えると、焦げの激しいラスク様再加熱ベーカリー製品となってしまう。
【0019】
上記糖類としては、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、酵素糖化水飴、乳糖、還元澱粉糖化物、異性化液糖、ショ糖結合水飴、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、ソルビトール、還元乳糖、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖、デキストリン等を用いることができる。本発明では、これらの糖類の中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0020】
また、上記スポンジケーキ生地の油脂含量は、澱粉類100質量部に対し、好ましくは10〜50質量部、より好ましくは15〜35質量部である。10質量部未満では、保管中や流通段階で損壊しやすいラスク様再加熱ベーカリー製品となってしまい、50質量部を超えると、保管中や流通段階で損壊しやすいことに加え、油性感の強いラスク様再加熱ベーカリー製品となってしまう。
上記油脂としては、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、カカオ脂、サル脂、牛脂、豚脂、乳脂、魚油、鯨油等の各種の植物油脂及び動物油脂、並びにこれらに水素添加、分別及びエステル交換から選択された一又は二以上の処理を施した加工油脂や、MCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)等があげられる。本発明では、これらの油脂の中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0021】
上記スポンジケーキ生地には、一般のスポンジケーキ生地材料として使用することのできるその他の原料を使用することができる。該その他の原料としては、甘味料、牛乳、水、食塩、乳化剤、調味料、香辛料、着香料、着色料、ココア、チョコレート、ナッツ類、ヨーグルト、チーズ、抹茶、紅茶、コーヒー、豆腐、黄な粉、豆類、野菜類、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、果物、ハーブ、肉類、魚介類、保存料、日持ち向上剤、酵素等を適宜用いることができる。上記その他の原料は、本発明の目的を損なわない限り、任意に使用することができるが、好ましくは、上記澱粉類100質量部に対して合計で100質量部以下、より好ましくは50質量部以下となる範囲で使用する。
【0022】
なお、上記スポンジケーキ生地の製造方法については、別立て法、後粉法、あるいは製菓用起泡剤や製菓用起泡性乳化脂を用いたオールインミックス法等の方法が挙げられるが、本発明においては、オールインミックス法を用いることが好ましい。
得られたスポンジケーキ生地は、常法に従い焼成し、本発明で使用するケーキを得る。
次いで、該ケーキを、必要に応じ、スライスした後、更に必要に応じ乾燥焼きをした後、通常のラスクと同様に、油脂と糖類の混合物、あるいは卵白と糖類の混合物等を塗布又は散布した後、再焼成し、本発明のラスク様再加熱ベーカリー製品を得る。なお、油脂と糖類の混合物、あるいは卵白と糖類の混合物を塗布又は散布する際に、シナモン、ハーブ等の風味原料を同時に使用してもよい。
【0023】
再加熱条件については、フランスパンを使用した通常のラスクに比べて本発明で使用するスポンジケーキは焦げやすいため、温度は好ましくは80〜150℃、より好ましくは100〜150℃とする。
ここで得られた本発明のラスク様再加熱ベーカリー製品は、フランスパンではなくケーキを使用したラスクであるが、口溶けが良好で、油性感が低く、軽い食感でありながら、保管中や流通段階での損壊が防止された十分な硬さを有する。
【実施例】
【0024】
以下に実施例および比較例をあげて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
〔実施例1〕
【0025】
全卵(正味)(卵黄含有量33%)(水分含有量75%)50質量部、上白糖75質量部、製菓用起泡性乳化脂(株式会社ADEKA製:トルテ)(水分含有量32%)15質量部、水40質量部をミキサーボウルに投入し、これをたて型ミキサーにセットし、ワイヤーホイッパーを使用して、低速10秒混合後、高速3分ホイップした。
ここに、あらかじめ混合して篩っておいた、強力粉100質量部、ベーキングパウダー1質量部の混合物を添加し、低速2分混合した。
さらに液状油脂(ナタネ油)20質量部を添加して、さらに低速30秒混合、中速10秒混合し、後粉法により、澱粉類100質量部に対し卵黄の配合量が16.5質量部、澱粉類100質量部に対し水分含有量が83質量部であるスポンジケーキ生地を得た。
直径90mmのスポンジケーキ型に底紙と側紙をあて、ここに上記スポンジケーキ生地150gを流しいれ、固定オーブンを使用し、180℃で25分焼成し、スポンジケーキを得た。
得られたスポンジケーキは室温まで冷却した後、厚さ10mmにスライスし、表面に、バター5gとグラニュー糖2gの混合物を塗布し、固定オーブンを使用し、130℃で38分焼成し、本発明のラスク様再加熱ベーカリー製品を得た。
得られたラスク様再加熱ベーカリー製品は、フランスパンではなくケーキを使用したラスクであるが、口溶けが良好で、軽い食感でありながら、保管中や流通段階での損壊が防止された十分な硬さを有していた。
〔実施例2〕
【0026】
卵50質量部、上白糖75質量部、製菓用起泡性乳化脂(株式会社ADEKA製:トルテ)20質量部、水40質量部をミキサーボウルに投入し、これをたて型ミキサーにセットし、ワイヤーホイッパーを使用して、低速10秒混合後、あらかじめ混合して篩っておいた強力粉100質量部とべーキングパウダー1質量部の混合物、さらに液状油脂(ナタネ油)20質量部を添加し、低速2分、中速5分混合し、オールインミックス法により、澱粉類100質量部に対し卵黄の配合量が16.5質量部、澱粉類100質量部に対し水分含有量が83質量部であるスポンジケーキ生地を得た。
直径90mmのスポンジケーキ型に底紙と側紙をあて、ここに上記スポンジケーキ生地150gを流しいれ、固定オーブンを使用し、180℃で25分焼成し、スポンジケーキを得た。
得られたスポンジケーキは室温まで冷却した後、厚さ10mmにスライスし、表面に、バター5gとグラニュー糖2gの混合物を塗布し、固定オーブンを使用し、130℃で38分焼成し、本発明のラスク様再加熱ベーカリー製品を得た。
得られたラスク様再加熱ベーカリー製品は、フランスパンではなくケーキを使用したラスクであるが、口溶けが良好で、軽い食感でありながら、実施例1で得られたラスク様再加熱ベーカリー製品に比べ、さらに保管中や流通段階での損壊が防止された十分な硬さを有していた。
〔比較例1〕
【0027】
卵130質量部、上白糖120質量部、起泡性水中油型乳化脂(株式会社ADEKA製:トルテ)20質量部をミキサーボウルに投入し、これをたて型ミキサーにセットし、ワイヤーホイッパーを使用して、低速10秒混合後、あらかじめ混合して篩っておいた強力粉100質量部とべーキングパウダー1質量部の混合物、さらに液状油脂(ナタネ油)20質量部を添加し、低速2分、中速5分混合し、オールインミックス法により澱粉類100質量部に対し卵黄の配合量が42.9質量部、澱粉類100質量部に対し水分含有量が105質量部であるスポンジケーキ生地を得た。
直径90mmのスポンジケーキ型に底紙と側紙をあて、ここに得られたスポンジケーキ生地150gを流しいれ、固定オーブンを使用し、180℃で25分焼成し、スポンジケーキを得た。
得られたスポンジケーキは厚さ10mmにスライスし、表面に、バター5gとグラニュー糖2gの混合物を塗布し、固定オーブンを使用し、130℃で38分焼成し、比較例のラスク様再加熱ベーカリー製品を得た。
得られたラスク様再加熱ベーカリー製品は、フランスパンではなくケーキを使用したラスクであり、口溶けが良好であるが、極めて脆い食感と物性であり、手で持っただけで簡単に損壊してしまうような不良な物性であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
卵黄の配合量が澱粉類100質量部に対し40質量部未満であるスポンジケーキ生地を焼成して得られたケーキを使用したことを特徴とするラスク様再加熱ベーカリー製品。
【請求項2】
上記スポンジケーキ生地の水分含有量が澱粉類100質量部に対し50〜100質量部であることを特徴とする請求項1記載のラスク様再加熱ベーカリー製品。
【請求項3】
上記澱粉類として、強力粉を使用したことを特徴とする請求項1又は2記載のラスク様再加熱ベーカリー製品。
【請求項4】
上記スポンジケーキ生地が、オールインミックス法により得られたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のラスク様再加熱ベーカリー製品。

【公開番号】特開2010−252665(P2010−252665A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105027(P2009−105027)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】