説明

ラタノプロストのバイオアベイラビリティを向上させる方法

本発明は、ラタノプロストを含有する水性点眼薬組成物に有機アミンを添加することによってラタノプロストの眼におけるバイオアベイラビリティを向上させる方法に関する。この発明はさらに、有機アミンを添加することによってラタノプロストのより優れた眼におけるバイオアベイラビリティを達成する水性点眼薬組成物、ならびに、高眼圧症および緑内障の治療を必要とする被験者に上記組成物を投与することによって高眼圧症および緑内障を治療する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラタノプロストを含有する水性点眼薬組成物に有機アミンを添加することによってラタノプロストの眼におけるバイオアベイラビリティを向上させる方法に関する。本発明はさらに、ラタノプロストを含有する水性点眼薬組成物に有機アミンを添加することによってラタノプロストのより優れた眼におけるバイオアベイラビリティ/眼への浸透を達成する水性点眼薬組成物、ならびに、高眼圧症および緑内障の治療を必要とする被験者に上記組成物を投与することによって高眼圧症および緑内障を治療する方法に関する。この組成物は、良好な認容性を示す。
【背景技術】
【0002】
イソプロピルウノプロストン、タフルプロストまたはトラボプロストなどの他のプロスタグランジン誘導体のように、ラタノプロストは高親油性の薬剤である。緑内障の治療に用いられるラタノプロストの濃度は非常に低く、およそ0.005%(w/v)である。しかしながら、ラタノプロストは少量で薬効があるが、その少量を眼の表面に投与すべき最少有効量に減らすことが依然として必要である。一方、点眼薬組成物中の活性薬剤の量を減らすと、バランスが取れているが十分な浸透を繰返しかつ安全に得ることが危機的または不可能になる可能性がある。
【0003】
所望の目的で十分に安定性がありかつ薬効がある点眼薬を達成するために、水性点眼薬組成物にはアジュバント剤が含まれている。抗菌効果のためだけでなく、他の成分との相互作用を安定させて均質化するためにも、水性点眼薬組成物には防腐剤が含まれてきた。しかしながら、防腐剤は、角結膜疾患の主な病因としても知られており、安全上の目的で、塩化ベンザルコニウム(BAK)タイプの防腐剤などの防腐剤の濃度はできる限り低いことが好ましい。動物実験およびインビトロの実験によって、BAKなどの防腐剤が涙液層、角膜、結膜および線維柱帯細胞を含むいくつかの眼組織に対して有害な影響を引起すことが実証された(Baudouin C., Detrimental effect of preservatives in eyedrops: implications for the treatment of glaucoma. Acta Ophthalmol 2008; 86: 716-726(非特許文献1))。ウサギおよび人間でのいくつかの研究から得られた証拠も、BAKの存在が角膜上皮層に影響を及ぼす可能性があり、そのため透過性が低い薬剤の経角膜浸透を増大させる可能性があることを示唆した。しかしながら、最近の研究によれば、プロスタグランジン誘導体のファミリーの別のメンバーである、防腐剤としてBAKを含有しているタフルプロストと防腐剤フリーのタフルプロストとでは、ウサギ眼房水への角膜浸透は同等であることがわかった(Pellinen P, Lokkila J., Corneal penetration into rabbit aqueous humor is comparable between preserved and preservative-free tafluprost. Ophthalmic Res 2009; 41: 118-122(非特許文献2))。防腐剤の二元的役割(抗菌効果および安定化/可溶化効果)が、たとえば安定性のある防腐剤フリーの単位用量点眼薬製剤を調製することを困難にしていた。
【0004】
たとえばプロスタグランジン誘導体の濃度の低下を防ぐために、眼科用プロスタグランジン誘導体水溶液に非イオン界面活性剤および抗酸化剤が添加されてきた。国際公開第2004/037267号(スキャンポ)(特許文献1)のラタノプロスト組成物は、ポリソルベートまたはポリソルベートおよびEDTAを含んでいるが、実質的にBAKを含んでいない。欧州特許出願公開第1321144号明細書(参天)(特許文献2)では、非イオン界面活性剤、特にポリソルベートは、プロスタグランジン誘導体が樹脂製の容器の壁に吸着されることを防ぐことがわかった。特に防腐剤フリーの水性組成物を創製することが望ましい場合、プロスタグランジン誘導体を含む眼科用水性組成物においては、非イオン界面活性剤を使用することはほとんど不可避であった。
【0005】
いくつかの眼科用組成物では、主に緩衝剤およびpH調整剤として有機アミンが用いられてきた。特開2003−146881号公報(東洋)(特許文献3)は、緩衝剤としてトロメタモールを用いて抗アレルギー性ペミロラストカリウムの沈殿を防ぐことを開示している。特開2003−327530号公報(三共)(特許文献4)によれば、塩化ベンザルコニウムなどのカチオン系殺菌剤の防腐効果をトロメタモールで増強させることができる。非イオン界面活性剤を有するトロメタモールをオキサジン−ピコリン酸の懸濁型製剤に組込むことによって、活性成分の付着が抑制されることがわかった(国際公開第2008/111630号(参天)(特許文献5))。とりわけトロメタモールを組成物に含有させることによって、眼に刺激を与えない防腐性眼科用組成物を処方できる(特開2004−002364号公報(ライオン)(特許文献6)、特開2003−300871号公報(ライオン)(特許文献7)および特開2003−206241号公報(テイカ)(特許文献8)。米国特許出願公開第2003/0055051号明細書(わかもと)(特許文献9)によれば、眼科用製剤にトロメタモールを添加することによって、優れているが刺激の少ない眼科用抗炎症効果を得ることができる。特開平11−302162号公報(キッセイ)(特許文献10)では、トロメタモールを組入れることによって、活性成分のより優れた抗アレルギー効果が得られる。フェニル酢酸系非ステロイド性抗炎症薬の眼内浸透の促進は、トロメタモールを含有する組成物から可能である(欧州特許出願公開第1808170号明細書(千寿)(特許文献11)。欧州特許出願公開第1916002号明細書(参天)(特許文献12)によれば、トロメタモールなどの有機アミンを添加することによって、ラタノプロストなどの熱的に不安定な薬剤の劣化を防ぐことができる。
【0006】
しかしながら、点眼薬処方およびさまざまな有機アミンについての上述のいくつかの文献にも関わらず、活性成分がラタノプロストのように高親油性である、防腐剤フリーの眼科用水性組成物に有機アミンを添加することによって、後者の経角膜浸透がより優れたものになり、したがって投与量が減少することに関連してラタノプロストの眼におけるバイオアベイラビリティを向上させることができるという開示または示唆はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2004/037267号
【特許文献2】欧州特許出願公開第1321144号明細書
【特許文献3】特開2003−146881号公報
【特許文献4】特開2003−327530号公報
【特許文献5】国際公開第2008/111630号
【特許文献6】特開2004−002364号公報
【特許文献7】特開2003−300871号公報
【特許文献8】特開2003−206241号公報
【特許文献9】米国特許出願公開第2003/0055051号明細書
【特許文献10】特開平11−302162号公報
【特許文献11】欧州特許出願公開第1808170号明細書
【特許文献12】欧州特許出願公開第1916002号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Baudouin C., Detrimental effect of preservatives in eyedrops: implications for the treatment of glaucoma. Acta Ophthalmol 2008; 86: 716-726
【非特許文献2】Pellinen P, Lokkila J., Corneal penetration into rabbit aqueous humor is comparable between preserved and preservative-free tafluprost. Ophthalmic Res 2009; 41: 118-122
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上述の問題を解決しようとするものであり、したがって本発明の目的は、ラタノプロストを含有する水性点眼薬組成物に有機アミンを添加することによって、防腐剤フリーの点眼薬組成物中のラタノプロストの眼におけるバイオアベイラビリティを向上させる方法を提供することである。
【0010】
本発明の別の目的は、ラタノプロストを含む防腐剤フリーの水性点眼薬組成物であって、ラタノプロストの眼におけるバイオアベイラビリティは、有機アミンを添加することによって向上する、水性点眼薬組成物である。
【0011】
本発明のさらなる目的は、ラタノプロストを含む有効量の防腐剤フリーの水性点眼薬組成物を、高眼圧症および緑内障の治療を必要とする被験者に投与することによって、高眼圧症および緑内障を治療する方法であって、ラタノプロストの眼におけるバイオアベイラビリティは、有機アミンを添加することによって向上する、方法である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、ラタノプロストを含有する水性点眼薬組成物に有機アミンを添加することによって、点眼薬組成物のラタノプロストの眼におけるバイオアベイラビリティを向上させる方法に向けられる。
【0013】
この点で、有機アミンがヒドロキシ基を有する有機アミンであることが好ましく、ヒドロキシ基を有する有機アミンは、特に好ましくはトロメタモールである。
【0014】
さらに、本発明に係るこれらの方法では、水性点眼薬組成物が実質的に防腐剤を含有していないことも好ましい。
【0015】
水性点眼薬組成物が増粘剤を含有していることも好ましい。
本発明はまた、ラタノプロストを含む水性点眼薬組成物であって、ラタノプロストの眼におけるバイオアベイラビリティは、有機アミンを添加することによって向上する、水性点眼薬組成物に向けられる。
【0016】
この点で、有機アミンがヒドロキシ基を有する有機アミンであることが好ましく、ヒドロキシ基を有する有機アミンは、特に好ましくはトロメタモールである。
【0017】
さらに、本発明に係るラタノプロストを含む水性点眼薬組成物では、組成物が防腐剤を実質的に含有していないことも好ましい。
【0018】
組成物が増粘剤を含有していることも好ましい。
本発明に係るラタノプロストを含む水性点眼薬組成物では、実質的にポリエチレンからなる単位用量容器もしくは流体ディスペンサの中に、または、実質的にポリエチレンからなる容器材料と接触させて、ラタノプロストを0.0025〜0.005%(w/v)、トロメタモールを0.1〜1%(w/v)含み、眼科用液剤で従来から用いられている緩衝剤、pH調整剤、等張化剤および増粘剤を任意に含み、実質的に防腐剤を含んでいないことが好ましい。
【0019】
さらに、本発明はまた、ラタノプロストを含む有効量の水性点眼薬組成物を、高眼圧症および緑内障の治療を必要とする被験者に投与することによって、高眼圧症および緑内障を治療する方法であって、ラタノプロストの眼におけるバイオアベイラビリティは、有機アミンを添加することによって向上する、方法に向けられる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ラタノプロストを含有する水性点眼薬組成物に有機アミンを添加することによって、水性点眼薬組成物中のラタノプロストの眼におけるバイオアベイラビリティを向上させることができることがわかった。本発明は、無菌の、好ましくは単位用量タイプの処方として、均質な、安定性のある、防腐剤フリーの眼科用ラタノプロスト水溶液を提供できる。本発明に係る水性点眼薬組成物はまた、現在入手可能な市販製品よりも眼に対する刺激が少ない。本発明の水性点眼薬組成物はまた、(2〜8℃での)低温保管が必要な現在入手可能な市販製品とは異なって、室温で安定した状態を保つ。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1A】防腐剤フリーの試液Aからウサギ眼の眼房水へのラタノプロストの吸収を、キサラタンと比較して示す。
【図1B】防腐剤フリーの試液Bからウサギ眼の眼房水へのラタノプロストの吸収を、キサラタンと比較して示す。
【図1C】防腐剤フリーの試液Cからウサギ眼の眼房水へのラタノプロストの吸収を、キサラタンと比較して示す。
【図1D】防腐剤フリーの試液Dからウサギ眼の眼房水へのラタノプロストの吸収を、キサラタンと比較して示す。
【図2A】防腐剤フリーの試液Eを用いたときの、ラットに一度だけ局所投与した後の眼圧(IOP)を、キサラタンと比較して示す。
【図2B】防腐剤フリーの試液Fを用いたときの、ラットに一度だけ局所投与した後の眼圧(IOP)を、キサラタンと比較して示す。
【図2C】防腐剤フリーの試液Fを用いたときの、ラットに繰返し投与した後の眼圧(IOP)を、キサラタンと比較して示す。
【図3A】5℃で保管中のラタノプロスト単位用量点眼薬組成物の予備的安定性を示す。
【図3B】25℃で保管中のラタノプロスト単位用量点眼薬組成物の予備的安定性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、ラタノプロストを含有する水性点眼薬組成物に有機アミンを添加することによって、点眼薬組成物のラタノプロストの眼におけるバイオアベイラビリティを向上させる方法である。本発明はまた、ラタノプロストを含む水性点眼薬組成物であって、ラタノプロストの眼におけるバイオアベイラビリティは、有機アミンを添加することによって向上する、水性点眼薬組成物を提供する。さらに、本発明はまた、ラタノプロストを含む有効量の水性点眼薬組成物を、高眼圧症および緑内障の治療を必要とする被験者に投与することによって、高眼圧症および緑内障を治療する方法であって、ラタノプロストの眼におけるバイオアベイラビリティは、有機アミンを添加することによって向上する、方法を提供する。
【0023】
本発明は、無菌の、好ましくは単位用量タイプの処方として、均質な、安定性のある、防腐剤フリーの眼科用ラタノプロスト水溶液を提供することができる。本発明に係る水性点眼薬組成物はまた、現在入手可能な市販製品よりも眼に対する刺激が少ない。本発明の水性点眼薬組成物はまた、(2〜8℃での)低温保管が必要な現在入手可能な市販製品とは異なって、室温で安定した状態を保つ。
【0024】
本明細書では、「実質的に防腐剤を含有していない」または「防腐剤フリー」とは、組成物(溶液)が全く防腐剤を含有していないか、または、組成物(溶液)が、検出できないもしくは防腐効果をもたらさない濃度で防腐剤を含有していることを意味する。
【0025】
「バイオアベイラビリティ」とは、薬剤が標的組織に吸収され、標的組織で利用可能になる程度および割合を指す。「眼におけるバイオアベイラビリティ」とは、より具体的に、水性点眼薬組成物を含む薬剤を局所投与した後の眼房水中の薬剤の濃度を指す。
【0026】
「安定性」とは、水性点眼薬組成物を含む薬剤の化学的および物理的安定性を指す。
ラタノプロストが均質にかつ安定的に水溶液に溶解している限り、ラタノプロストおよび有機アミン以外の成分は特に限定されないであろう。しかしながら、単回投与の形態で用いられるように安定性のあるバイオアベイラブルな処方を提供するために本発明の水性点眼薬組成物では非イオン界面活性剤(ポリソルベート、クレモホールなど)または防腐剤が不要であることは注目に値する。
【0027】
水性点眼薬組成物中のラタノプロストの濃度および投与頻度は、治療すべき被験者のタイプおよび症状に応じてさまざまであり得る。たとえば、0.0005〜0.01%(w/v)、好ましくは0.001〜0.0075%(w/v)、より好ましくは0.0025〜0.005%(w/v)の濃度でラタノプロストを含有する水性点眼薬組成物が、1日に1〜4回、好ましくは1〜2回、より好ましくは1回点眼されてもよい。
【0028】
本発明はラタノプロストの眼におけるバイオアベイラビリティの向上、ならびに、ラタノプロストの眼圧(IOP)低下作用の向上を提供するため、薬効がある製品を依然として実現しながら、先行技術の製品と比較して、水性点眼薬組成物中のラタノプロストの量を減らすことができる。
【0029】
有機アミンは水溶性の有機アミンであり、たとえば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタモールおよびメグルミンなどのヒドロキシ基を有する有機アミンを含む。好ましい有機アミンはトロメタモールである。
【0030】
有機アミンの濃度は、たとえばトロメタモールの場合、好ましくは0.01〜1%(w/v)、より好ましくは0.05〜0.75%(w/v)の範囲内である。
【0031】
本発明に係る水性点眼薬組成物はまた、緩衝剤、溶媒、pH調整剤、等張化剤、増粘剤などの眼科用組成物で用いられる従来の添加剤を含んでいてもよい。本発明の水性点眼薬組成物で用いられる好ましい添加剤は、増粘剤である。好適な増粘剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、デキストランおよびポリアクリル酸などのセルロース誘導体を含むが、それらに限定されない。好適な緩衝剤の例は、リン酸二水素ナトリウム二水和物、ホウ酸、ホウ砂、クエン酸またはe−アミノカプロン酸を含むが、それらに限定されない。等張化剤の具体例は、グリセロール、ソルビトール、マンニトールおよび他の糖アルコール、プロピレングリコール、塩化ナトリウム、塩化カリウムおよび塩化カルシウムを含むが、それらに限定されない。
【0032】
本発明に係る眼科用ラタノプロスト水溶液のpHは、好ましくは4〜8、より好ましくは5〜7である。pH調整剤として、水酸化ナトリウムおよび/または塩酸などの一般的なpH調整剤が用いられてもよい。
【0033】
本発明に係る眼科用ラタノプロスト水溶液は、好ましくは、実質的にポリエチレンからなる容器に詰められるか、または、実質的にポリエチレンからなる材料と接触させられる。容器材料は、ポリエチレン以外の材料、たとえばポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレートおよびナイロン6を少量含んでいてもよい。上記材料の量は、好ましくは、容器材料総量の約5〜10%に過ぎない。
【0034】
本発明に係る眼科用ラタノプロスト水溶液を詰めて保管するための容器は、ユーザフレンドリーな眼への局所送達に好適なすべての容器の形態を含み、好ましくは単位用量の形態の容器を含む。その結果、容器は、たとえば瓶、管、アンプル、ピペット、および微量の無菌流体を供給するための流体ディスペンサからなる群から選択されてもよい。
【0035】
本発明に係る眼科用ラタノプロスト水溶液の容器は、好ましくは押出ブロー成形法によって製造される。押出ブロー成形は、たとえばポリエチレン多数回投与容器を製造するために一般的に用いられる射出ブロー成形と比較して、容器の内面をより平滑にする。内面がより平滑であることによって、射出ブロー成形によって製造されるポリエチレン容器と比較して、ポリエチレン容器中のプロスタグランジンの化学的安定性がより優れたものになる。さらに、単回投与容器を用いると、成形プロセス中に熱によって滅菌され、容器のさらなる滅菌が不要であり、これも単回投与容器中のプロスタグランジンの安定性を向上させる。プロスタグランジン点眼薬製品を滅菌するための従来の技術は、溶液を充填する前に毒性の強いエチレンオキサイドガスで空のプラスチック容器を処理することで構成される(欧州特許出願公開第1825855号明細書(参天)および欧州特許出願公開第1349580号明細書(ノバルティス)参照)。しかしながら、特にポリエチレン容器での単位用量調製では、本発明の点眼薬組成物の調製で用いられるはるかにスムーズな滅菌プロセス(充填プロセス中の加熱滅菌)が薦められる。
【0036】
本発明の目的のためには単位用量容器が好ましいが、本発明に係る眼科用ラタノプロスト水溶液は、微量の無菌流体を供給するための流体ディスペンサ、または、実質的にポリエチレンからなる容器材料と眼科用ラタノプロスト水溶液が接触するその他の容器タイプでも、可溶性を保ち、安定性を保ち、バイオアベイラブルである。このような流体ディスペンサは、たとえば米国特許第5,614,172号明細書(ウルザファルム)に開示されている。
【0037】
本発明に係る防腐剤フリーの眼科用ラタノプロスト水溶液は、単位用量ピペットおよびディスペンサを含む上述の好適な容器の中、室温で保管できる。安定性試験によれば、本発明に係る防腐剤フリーの眼科用ラタノプロスト水溶液は、長期間にわたって、少なくとも9ヶ月にわたって、5℃および25℃でポリエチレン容器の中で安定であることがわかった。
【0038】
本発明に係るラタノプロストを含む水性点眼薬組成物では、実質的にポリエチレンからなる単位用量容器もしくは流体ディスペンサの中に、または、実質的にポリエチレンからなる容器材料と接触させて、組成物はラタノプロストを0.0025〜0.005%(w/v)、トロメタモールを0.1〜1%(w/v)含み、眼科用液剤で従来から用いられている緩衝剤、pH調整剤、等張化剤および増粘剤を任意に含み、実質的に防腐剤を含んでいないことが好ましい。
【0039】
以下の実施例は、本発明を決して限定することなく本発明を説明する。
【実施例1】
【0040】
ニュージーランドホワイト品種のオスの白色ウサギを用いた。各ウサギで、一方の眼に試液A、B、CまたはDのうちの1つを局所的に投与し、他方の眼に基準液(キサラタン)を投与した。試液A、B、CおよびDで用いられたラタノプロスト/トロメタモール比は以下のとおりであった:
(1) 試液A
ラタノプロスト/トロメタモール比:0.013(ラタノプロスト濃度:0.005%)
(2) 試液B
ラタノプロスト/トロメタモール比:0.017(ラタノプロスト濃度:0.005%)
(3) 試液C
ラタノプロスト/トロメタモール比:0.017(ラタノプロスト濃度:0.005%)
(4) 試液D
ラタノプロスト/トロメタモール比:0.029(ラタノプロスト濃度:0.0035%)
各時点でウサギを犠牲にし(時点当たりの治療当たり4匹の動物)、眼房水サンプルを取得した。ラタノプロスト酸の濃度は、HPLC/MS法を用いて測定した。試液A、B、CおよびDの結果をそれぞれ図1A、図1B、図1Cおよび図1Dに示す。
【0041】
図1A〜図1Cは、試液中のラタノプロスト濃度がキサラタン中のラタノプロスト濃度と同じであるときの、異なるラタノプロスト/トロメタモール比を有する防腐剤フリーの試液からウサギ眼の眼房水へのラタノプロストの吸収を、キサラタンと比較して示す。図1Dでは、試液中のラタノプロスト濃度は、キサラタン中のラタノプロスト濃度の70%であった。
【0042】
図1A〜図1Dでは、防腐剤フリーの試液中のラタノプロスト/トロメタモール比を増大させることによって、ウサギ眼の眼房水へのラタノプロストの経角膜浸透が向上することがわかる。
【実施例2】
【0043】
IOPに対する眼科用液剤の影響を検討するために、スプラーグ・ドーリーラットを用いた。試液EおよびFを一方の眼に単回投与または頻回投与で(8日にわたって)局所的に(5ml)投与し、他方の眼に基準液(市販のキサラタン)を投与した。試液EおよびFで用いられたラタノプロスト/トロメタモール比は以下のとおりであった:
(1) 試液E
ラタノプロスト/トロメタモール比:0.020(キサラタン中のラタノプロスト濃度と同じラタノプロスト濃度)
(2) 試液F
ラタノプロスト/トロメタモール比:0.029(ラタノプロスト濃度:キサラタンの70%)
試験当たり6〜12匹の動物を用いた。投与後0時間および2時間、4時間、6時間および8時間(またはさらに10時間)で投与する前に、IOPを測定した。測定は、TonoLabリバウンドトノメータで行なった。
【0044】
図2A〜図2Bは、異なるラタノプロスト/トロメタモール比および異なるラタノプロスト濃度を有する防腐剤フリーの試液を用いたときの、ラットに単回局所投与後のIOPを、キサラタンと比較して示す。図2B〜図2Cは、ラタノプロスト/トロメタモール比が0.029(ラタノプロスト濃度がキサラタンの70%)である処方を単回投与後および(8日にわたって)頻回投与後のIOPに対する影響を比較する。
【0045】
これらの結果から、市販製品ではIOPがすぐに上昇し、数時間後(6〜8時間後)にのみIOP低下作用が見られることがわかる。本発明に係る組成物は、ラタノプロストのような眼用プロスタグランジンが投与されたときに一般的である有害な初期IOP上昇を引起さない。本発明に係る組成物では、現在市販されている製品よりもIOP低下作用が早く開始する。IOP低下作用は、単回点眼後と頻回点眼後とで同じレベルのままであり、その薬効の喪失は、ラタノプロストのような眼用プロスタグランジンの頻回投与にしばしば見られ得る。さらに、本発明に係る組成物のIOP低下作用は、ラタノプロスト濃度が市販製品中のラタノプロストの量の70%に過ぎない状態でさえ、市販製品のIOP低下作用よりも優れている。
【実施例3】
【0046】
ニュージーランドホワイト品種の白色ウサギで、キサラタンおよび本発明に係る防腐剤フリーのラタノプロストの眼に対する急性の刺激についてのパラメータとして、瞬目の頻度を検討した。治療グループ当たり6匹のウサギを用い、各ウサギで、一方の眼に試液のうちの1つを局所投与し、他方の眼は未治療の対照としての役割を果たした。試液を1日、30分間隔で10回点眼した。1回目と10回目の点眼後、1分間、瞬目の頻度を測定した。結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
市販のキサラタンでは、10回目の点眼後、未治療の眼と比較して、瞬目の頻度が統計的に非常に高くなった。治療が施された眼は、未治療の眼よりも頻繁に瞬目した。防腐剤フリーのラタノプロストグループでは、それぞれの眼に大きな違いは検出されなかった。さらに、キサラタングループとラタノプロストグループとの違いを比較すると10回目の点眼後が統計的に大きく(未治療の眼を治療が施された眼から差し引いた。p=0.0005、students t−test)、キサラタングループで瞬目の頻度がより高かった。本発明に係る組成物はより認容性が高い。
【実施例4】
【0049】
低密度ポリエチレン容器中の防腐剤フリーのラタノプロストの安定性を5℃および25℃で9ヶ月にわたって試験した。この試験における防腐剤フリーの水性ラタノプロスト処方の組成は、pHを7.0に調整するために、ラタノプロストが0.003%であり、トロメタモールが0.3%であり、塩化ナトリウムおよび塩酸/水酸化ナトリウムが0.9%であった。
【0050】
上で調製された組成物のうち0.3mlがポリエチレン単位用量容器の本体部に充填され、加熱することによって容器の上部で封止された。紙でコーティングされたアルミニウムポリエチレン箔で容器を包装し、冷蔵庫またはインキュベータで保管した。
【0051】
ラタノプロストの濃度をHPLC/UVによって測定した。時間ゼロ値と比較した結果を図3A〜図3Bに示す。これらの結果は、ラタノプロスト濃度が少なくとも9ヶ月にわたって5℃および25℃で同じレベルのままであることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラタノプロストを含有する水性点眼薬組成物に有機アミンを添加することによって、前記点眼薬組成物のラタノプロストの眼におけるバイオアベイラビリティを向上させる方法。
【請求項2】
前記有機アミンは、ヒドロキシ基を有する有機アミンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ヒドロキシ基を有する前記有機アミンは、トロメタモールである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記水性点眼薬組成物は、実質的に防腐剤を含有していない、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記水性点眼薬組成物は、増粘剤を含有している、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ラタノプロストの眼におけるバイオアベイラビリティが、有機アミンを添加することによって向上された、ラタノプロストを含む水性点眼薬組成物。
【請求項7】
前記有機アミンが、ヒドロキシ基を有する有機アミンである、請求項6に記載の水性点眼薬組成物。
【請求項8】
ヒドロキシ基を有する前記有機アミンが、トロメタモールである、請求項7に記載の水性点眼薬組成物。
【請求項9】
防腐剤または非イオン界面活性剤を実質的に含有していない、請求項7に記載の水性点眼薬組成物。
【請求項10】
粘性促進剤をさらに含む、請求項6に記載の水性点眼薬組成物。
【請求項11】
実質的にポリエチレンからなる単位用量容器もしくは流体ディスペンサの中に、または、実質的にポリエチレンからなる容器材料と接触させて、ラタノプロストを0.0025〜0.005%(w/v)、トロメタモールを0.1〜1%(w/v)含み、眼科用液剤で従来から用いられている緩衝剤、pH調整剤、等張化剤および増粘剤を任意に含み、実質的に防腐剤を含んでいない、請求項6に記載の水性点眼薬組成物。
【請求項12】
ラタノプロストを含む有効量の水性点眼薬組成物を、高眼圧症および緑内障の治療を必要とする被験者に投与することによって、高眼圧症および緑内障を治療する方法であって、ラタノプロストの眼におけるバイオアベイラビリティは、有機アミンを添加することによって向上する、方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【公表番号】特表2012−532091(P2012−532091A)
【公表日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−551134(P2011−551134)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【国際出願番号】PCT/JP2010/004179
【国際公開番号】WO2011/001634
【国際公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(000177634)参天製薬株式会社 (177)
【Fターム(参考)】