説明

ラマン分光測定装置、並びにラマン分光測定装置用光ファイバおよびその作製方法

【課題】液体試料等に関する測定を簡便に行うことができる表面増強ラマン分光測定装置を得る。
【解決手段】測定光11の入射面となる一端面16bと、測定光11の出射面となる他端面16aとを有する光ファイバであって、上記他端面16aに、試料25に密着した状態下で測定光11が該他端面16aから出射したとき表面増強ラマン散乱を生じさせる金属体20、21が形成されてなる光ファイバ16と、この光ファイバ16に測定光11を入力させる測定光照射手段12、13、14と、金属体20、21に密着された試料25に測定光11が照射されることにより発生して光ファイバ16を伝搬した表面増強ラマン散乱光を分光検出する光検出手段15、27とから表面増強ラマン分光測定装置10を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はラマン分光測定装置、特に詳細には、金属体によりラマン散乱光を増強して検出可能とした表面増強ラマン分光測定装置に関するものである。
【0002】
また本発明は、そのようなラマン分光測定装置を構成するための光ファイバ、およびその作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
従来、ラマン効果を応用して試料中に含まれる物質を同定、検出するラマン分光測定が知られている。ラマン効果は、物質に光を入射させたとき、入射光とは異なる波長の光が散乱される現象であり、その散乱光(ラマン散乱光)と入射させた光との間のエネルギー差つまり波長の差は、物質の分子構造や結晶構造に対応したものとなる。ラマン分光測定はこの現象を利用し、単一波長の光を試料に照射し、そのとき発生したラマン散乱光を分光検出して、特定物質の同定等を行うものである。
【0004】
また最近では、ラマン散乱光を著しく増強して検出することができる表面増強ラマン分光測定(surface enhanced Raman scattering :SERS)が提案され、広く研究がなされている。この表面増強ラマン分光測定は、表面に微細な凹凸を有する金属体に接触させた状態の物質に光を照射すると、ラマン散乱光の強度が増強されることを利用して、極く少量の物質も検出可能にしたものである。特許文献1、2や非特許文献1には、この表面増強ラマン分光測定を行う装置の例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2006−514286号公報
【特許文献2】特開2008−164584号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Optics Express Vol.17, No.21 18556
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1等に示される従来の表面増強ラマン分光測定装置は、液体状の試料や、大きな固体である試料等についても測定可能となっているが、それらの測定に際しては、液状の試料を採取して所定の試料保持部に保持したり、固体の一部を切り取って切片を形成する等の面倒な作業が必要になっていた。
【0008】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、液体状の試料や、大きな固体である試料等についても簡便に表面増強ラマン分光測定を行うことができるラマン分光測定装置を提供することを目的とする。
【0009】
また本発明は、そのようなラマン分光測定装置を実現できる光ファイバおよび、その作製方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によるラマン分光測定装置用光ファイバは、
測定光の入射面となる一端面と、前記測定光の出射面となる他端面とを有する光ファイバであって、
前記他端面に、試料に密着した状態下で前記測定光が該他端面から出射したとき表面増強ラマン散乱を生じさせる、前記測定光および表面増強ラマン散乱光が透過可能な金属体が形成されていることを特徴とするものである。
【0011】
なお上記金属体は、測定光の波長よりも凹凸部分のサイズが小さい微細凹凸構造を有するものであることが望ましい。
【0012】
また上記微細凹凸構造はベーマイトからなるものや、さらには、酸化シリコンあるいは酸化アルミニウムが斜め蒸着されてなるものであることが望ましい。
【0013】
また上記金属体は、Au、Ag、Cu、Al、Pt、Ni、Ti、およびこれらの合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属を主成分とするものであることが望ましい。
【0014】
ここで、上述のように測定光の波長よりも凹凸部分のサイズが小さい微細凹凸構造を有する金属体が適用されているラマン分光測定装置用光ファイバは、本発明による一つのラマン分光測定装置用光ファイバの作製方法を好適に用いて作製することができる。
【0015】
すなわち、本発明による一つのラマン分光測定装置用光ファイバの作製方法は、
前記光ファイバの他端面の上に第1の金属または金属酸化物からなる薄膜を形成する薄膜形成工程と、
前記薄膜を水熱反応させることにより前記第1の金属または金属酸化物の水酸化物からなる微細凹凸構造層を形成する微細凹凸構造層作製工程と、
該微細凹凸構造層の表面に、第2の金属からなる金属微細凹凸構造層を形成する金属層作製工程とを有することを特徴とするものである。
【0016】
また、上述のようにベーマイトからなる微細凹凸構造を有するラマン分光測定装置用光ファイバは、本発明による別のラマン分光測定装置用光ファイバの作製方法を好適に用いて作製することができる。
【0017】
すなわち、本発明による別のラマン分光測定装置用光ファイバの作製方法は、
光ファイバの前記他端面にアルミニウム薄膜を形成し、
このアルミニウム薄膜の部分を水の中に浸漬して煮沸することにより該薄膜を、微細凹凸構造を有するベーマイト膜とし、
このベーマイト膜の上に金属膜を蒸着することを特徴とするものである。
【0018】
なお、上記のアルミニウム薄膜は、蒸着によって形成することが望ましい。
【0019】
他方、本発明によるラマン分光測定装置は、
上述した本発明によるラマン分光測定装置用光ファイバと、
この光ファイバに前記一端面から測定光を入力させて、前記他端面から出射させる測定光照射手段と、
前記金属体に密着された試料体に測定光が照射されることにより発生して前記光ファイバを伝搬した表面増強ラマン散乱光を分光検出する光検出手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0020】
なお本発明のラマン分光測定装置においては、前記光ファイバの他端部を含む一部が、その他の光ファイバ部分に対して、ファイバコネクタを介して着脱自在とされていることが望ましい。
【0021】
また本発明のラマン分光測定装置においては、
前記測定光照射手段が、光源と、この光源から発せられた測定光を前記光ファイバの一端面から該光ファイバ内に入力させるレンズ光学系とを有するものであり、
前記光検出手段が、前記レンズ光学系内に配置されて、前記一端面から出射した表面増強ラマン散乱光を測定光の光路から分岐させる光分岐手段と、この光分岐手段により分岐された表面増強ラマン散乱光を検出する光検出器とを含むものであることが特に望ましい。
【0022】
またそれに限らず、本発明のラマン分光測定装置においては、
前記測定光照射手段が、光源と、この光源から発せられた測定光を前記光ファイバの一端面から該光ファイバ内に入力させる入力光学系とを有するものであり、
前記光検出手段が、光ファイバの途中に介設されて、この光ファイバを伝搬している表面増強ラマン散乱光を取り出すファイバカプラと、このファイバカプラにより取り出された表面増強ラマン散乱光を検出する光検出器とを含むものとされてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によるラマン分光測定装置は、
測定光の入射面となる一端面と、前記測定光の出射面となる他端面とを有する光ファイバであって、前記他端面に、試料に密着した状態下で前記測定光が該他端面から出射したとき表面増強ラマン散乱を生じさせる、前記測定光および表面増強ラマン散乱光が透過可能な金属体が形成されてなる光ファイバと、
この光ファイバに前記一端面から測定光を入力させて、前記他端面から出射させる測定光照射手段と、
前記金属体に密着された試料体に測定光が照射されることにより発生して前記光ファイバを伝搬した表面増強ラマン散乱光を分光検出する光検出手段とを備えて構成されているので、このラマン分光測定装置によれば、金属体が形成された光ファイバの他端面の近傍部分を液体試料中に浸漬させたり、あるいはこの光ファイバの他端面近傍部分を操作して金属体を大きな固体試料に密着させたりすることによって、表面増強ラマン分光測定を行うことができる。このようにして本発明のラマン分光測定装置によれば、液状試料を採取したり、固体試料の一部を切り取って切片を形成したりする面倒な作業は不要にして、液状試料や大きな固体試料に関する測定を簡便に実行可能となる。
【0024】
また、本発明のラマン分光測定装置によれば、光ファイバの他端面に形成された金属体に密着する試料体に、該他端面から出射した測定光を照射するようにしているので、測定光を試料の測定面に集光させる必要がなく、よって、この集光のために光学系を調整する面倒な作業も不要で極めて簡便に測定を行うことができる。
【0025】
また本発明のラマン分光測定装置は、液体試料を採取したり、固体試料の切片を形成することなくラマン分光測定を可能とするものであるから、各種試料をリモート検出、測定する上で好適なものとなる。
【0026】
さらに本発明のラマン分光測定装置は、その光ファイバが内視鏡の先端部を構成するように形成することにより、医療診断分野での表面増強ラマン分光測定にも対応できるものとなる。
【0027】
なお本発明のラマン分光測定装置において特に、光ファイバの他端部を含む一部が、その他の光ファイバ部分に対して、ファイバコネクタを介して着脱自在とされている場合は、金属体が試料に密着して汚れたとき上記一部を適宜新しいものと取り替えることにより、次々と能率良く測定を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1の実施形態による表面増強ラマン分光測定装置を示す概略側面図
【図2】図1の装置を構成する光ファイバの作製方法を説明する図
【図3】本発明の第2の実施形態による表面増強ラマン分光測定装置の一部を示す概略図
【図4】本発明の第3の実施形態による表面増強ラマン分光測定装置の一部を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の第1の実施形態による表面増強ラマン分光測定装置10の概略側面形状を示すものである。図示されるようにこの表面増強ラマン分光測定装置10は、測定光11を発する例えば半導体レーザなどの光源12と、この光源12から発散光状態で発せられた測定光11を平行光化するコリメーターレンズ13と、平行光となった測定光11を後述する光ファイバ16の入射端面上で収束させる集光レンズ14と、この集光レンズ14およびコリメーターレンズ13の間に配置されたビームスプリッタ15と、光ファイバ16とを有している。
【0030】
光ファイバ16は、コア17およびその外周に配置されたクラッド18とを有する、例えばマルチモード光ファイバである。この光ファイバ16の図中上端面となる一端面16bは測定光11の入射端面とされている。すなわち測定光11は上記集光レンズ14により、この入射端面(より詳しくはコア17の端面)で収束するように集光される。一方この光ファイバ16の図中下端面となる他端面16aの上には、共に微細凹凸構造を有するベーマイト膜20および金薄膜21がこの順に形成されている。この微細凹凸構造は、例えば後述する方法によって形成することができ、その凹部の平均径や平均深さは、測定光11や後述する表面増強ラマン散乱光の各波長よりも十分に小さい1nm〜500nm程度とされている。なお測定光11の波長は一例として780nm、表面増強ラマン散乱光の波長は790nm〜900nm程度である。
【0031】
またこの表面増強ラマン分光測定装置10は、ビームスプリッタ15の側方に配置された測定光カットフィルタ26と、この測定光カットフィルタ26を透過して来る後述のラマン散乱光を分光検出する分光器27と、この分光器27の出力を処理する例えばコンピュータシステムからなるデータ処理手段28とを有している。
【0032】
以下、上記構成を有する表面増強ラマン分光測定装置10の作用について、液体試料について測定を行う場合を例に挙げて説明する。ラマン分光測定に際しては図1に示される通り、一般的な容器24に貯えられている液体試料25の中に、光ファイバ16の他端面16aの近傍部分が浸漬される。その後、光源12がONにされ、そこから発せられたレーザ光等の測定光11がレンズ13および14に入射する。そこで測定光11は集光レンズ14により前述のように集光されて、光ファイバ16のコア17に入力される。
【0033】
上記測定光11はコア17を伝搬した後、光ファイバ16の他端面16aから出射し、金薄膜21に密着している液体試料25に照射される。この測定光11の照射により、液体試料25からラマン散乱光が生じる。このラマン散乱光は図1に一点鎖線で示すように光ファイバ16の主にコア17に入射してそこを伝搬し、コア17から出射する。出射したラマン散乱光は集光レンズ14により集光され、ビームスプリッタ15で反射し、測定光カットフィルタ26を透過して分光器27に入射する。
【0034】
上記ラマン散乱光は、測定光11とは異なる波長のものであり、それら2つの光の間の波長の差つまりエネルギー差は、液体試料25に含まれる分析対象物質の分子構造や結晶構造に対応したものとなる。分光器27はラマン散乱光を分光検出し、その検出結果をデータ処理手段28に入力する。データ処理手段28は入力された分光検出結果に基づいて、液体試料25に含まれる分析対象物質の同定等を行う。
【0035】
ここで本装置においては、微細凹凸構造を有する金属体(ベーマイト膜20および金薄膜21)を液体試料25に接触させた状態で該液体試料25に測定光11を照射しているので、ラマン散乱光を著しく増強して検出することができる。また本装置によれば、液体試料25に対して上述のように測定光11を照射させているので、測定光11を試料の測定面に集光させる必要がなく、よって、この集光のために光学系を調整する面倒な作業も不要で極めて簡便に測定を行うことができる。
【0036】
また、本実施形態の表面増強ラマン分光測定装置10においては、微細凹凸構造を有するベーマイト膜20および金薄膜21が形成されている光ファイバ16の他端面16aの近傍部分を液体試料25中に浸漬させて測定が行われるので、特に液状試料25を採取する作業は不要になり、この点からも簡便に測定が可能となる。したがって、自然界において滞留したり、流れている池沼水や河川水などの液体試料に関しても、この表面増強ラマン分光測定装置10を持ち運んで容易に測定が可能となる。
【0037】
またこの表面増強ラマン分光測定装置10は、液体試料を採取したり、固体試料の切片を形成することなくラマン分光測定を可能にするものであるから、各種試料をリモート検出、測定する上で好適なものとなる。またこの表面増強ラマン分光測定装置10は、その光ファイバが内視鏡の先端部を構成するように形成すれば、医療診断分野での表面増強ラマン分光測定にも適したものとなり得る。
【0038】
さらに、光ファイバ16の他端面16aの近傍部分を操作して、ベーマイト膜20および金薄膜21を大きな固体試料に密着させることによって、その固体試料に関する測定を行うことも可能である。その場合も、固体試料の一部を切り取って切片を形成するような作業は不要にして、固体試料に関する測定を簡便に行うことができる。
【0039】
なお前記測定光カットフィルタ26としては、表面増強ラマン散乱光を透過させる一方、液体試料25等で反射した測定光11は遮断するノッチフィルタや、あるいは短波長カットフィルタなどが用いられる。
【0040】
以上の説明から明らかな通り本実施形態では、光源12、コリメーターレンズ13および集光レンズ14から測定光照射手段が構成されている。また、ラマン散乱光を分光検出する光検出手段は、光分岐手段としてのビームスプリッタ15、測定光カットフィルタ26および分光器27から構成されている。
【0041】
次に、本実施形態に適用された光ファイバ16の作製方法について、図2を参照して説明する。なおこの図2において、図1中の要素と同等の要素には同番号を付してあり、それらについての説明は特に必要のない限り省略する(以下、同様)。この光ファイバ16の作製に当たっては、まず、同図(1)に示すようにマルチモード光ファイバである光ファイバ16が用意され、次に同図(2)に示すようにその他端面16aにアルミニウム薄膜20Aが蒸着により形成される。
【0042】
次に同図(3)に示すように、光ファイバ16の他端面近傍部分が容器Bに貯えられた水W内に浸漬され、この状態で水Wを沸騰させることにより、光ファイバ16の上記部分が煮沸される。この煮沸処理によりアルミニウム薄膜20Aは、表面に微細凹凸構造を有するベーマイト膜20になる。次に同図(4)に示すように光ファイバ16を水Wから取り出し、その後同図(5)に示すようにベーマイト膜20の上に、例えば蒸着によって金薄膜21が形成される。この金薄膜21も、その下のベーマイト膜20に倣って表面に微細凹凸構造を有するものとなる。以上により、表面増強ラマン分光測定装置用の光ファイバ16が完成する。
【0043】
なお本発明の表面増強ラマン分光測定装置用光ファイバは、以上述べた方法以外の方法によって作製されてもよい。多くの場合、微細凹凸構造を有する金属体は、光ファイバの他端面の上に第1の金属または金属酸化物からなる薄膜を形成する薄膜形成工程と、上記薄膜を水熱反応させることにより上記第1の金属または金属酸化物の水酸化物からなる微細凹凸構造層を形成する微細凹凸構造層作製工程と、該微細凹凸構造層の表面に、第2の金属から成る金属微細凹凸構造層を形成する金属層作製工程とから形成することができる。
【0044】
ここで、上記第2の金属は、金(Au),銀(Ag),銅(Cu),アルミニウム(Al)、プラチナ(Pt)またはこれらを主成分とする合金であることが好ましく、特にAuあるいはAgが好ましい。また上記第2の金属からなる金属層を形成する金属層作製工程には、例えば金属蒸着法を適用することができる。そのように蒸着法を適用し、また第2の金属として金を用いる場合、蒸着膜厚は30nm以上とすることが望ましい。あるいは、蒸着法を適用し、第2の金属として銀を用いる場合、蒸着膜厚は150nm以下とすることが望ましい。
【0045】
また、前記金属層作製工程として、前記微細凹凸構造層の表面に前記第2の金属からなる金属微粒子を分散させる、金属微粒子分散工程を適用してもよい。その場合、金属微粒子としては、直径100nm以下のものを用いることが好ましい。
【0046】
また、前記第1の金属としては、例えばアルミニウム(Al)、前記金属酸化物としてアルミナ(Al)を用いることができる。
【0047】
他方、前記水酸化物は、バイヤーマイトおよびベーマイトの少なくとも一方からなるものであることが望ましい。
【0048】
さらに微細凹凸構造を有する金属体としては、上述の各工程から形成するものに限らず、例えば表面が粗面化された金属体が適用されてもよい。粗面化方法としては、酸化還元等を利用した電気化学的な方法等が挙げられる。
【0049】
さらに微細凹凸構造を有する金属体は、その他の公知の構造からなるものでもよい。例えば、J.AM.CHEM.SOC. 2005, Vol.127, 14992-14993, ”Nanosphere arrays with controlled sub-10-nm gaps as surface-enhanced raman spectroscopy substrates”には、ITO基板上に、CTAB(cetyltrimethylammonium bromide)で表面修飾した複数のAu粒子を配列させてなる金属層が示されており、また特開2005-233637号公報には、基板上に金ナノロッド薄膜を形成してなる金属層が開示されており、本発明においてはそれらの金属層も適宜用いることができる。
【0050】
次に図3を参照して、本発明の第2の実施形態について説明する。図3は、本発明の第2の実施形態による表面増強ラマン分光測定装置の一部、すなわち光ファイバの部分を概略的に示すものである。本実施形態においては、図1の装置における光ファイバ16と同様の光ファイバ30が設けられ、そしてこの光ファイバ30には、ファイバカプラ31を介して別の光ファイバ32が結合されている。なお光ファイバ30の測定光が出射する他端面30aには、図1の装置におけるものと同様のベーマイト膜20および金薄膜21(共に図示せず)が形成されている。
【0051】
光ファイバ30と別の光ファイバ32とは、それぞれのコアが互いに近接した状態に配置、固定されて、方向性結合器であるファイバカプラ31を構成している。そして両光ファイバ30、32の結合長は、他端面30aから入射して光ファイバ30を伝搬した所定波長のラマン散乱光だけが光ファイバ32に乗り移るような長さに設定されている。そこで、ファイバカプラ31から光ファイバ32を介して、ラマン散乱光のみを光検出器(例えば図1に示した分光器27)に入射させることが可能になる。つまり本実施形態ではファイバカプラ31および光ファイバ32が、測定光検出手段の一部を構成している。
【0052】
なおこの図3の構成において、光源としては図1に示した光源12と同様のものを適用することができ、またそこから発せられた測定光を光ファイバ30の一端面(上記他端面30aと反対側の端面)から該光ファイバ30内に入力させる入力光学系も、図1に示したレンズ13および14からなるものを適用することができる。
【0053】
次に図4を参照して、本発明の第3の実施形態について説明する。図4は、本発明の第3の実施形態による表面増強ラマン分光測定装置の一部、すなわち光ファイバの部分を概略的に示すものである。この図4の構成は、図3に示した構成と対比すると、光ファイバ30にファイバコネクタ41を介して別の光ファイバ40が接続可能とされている点が基本的に異なっている。ファイバコネクタ41は両光ファイバ30および40を着脱自在に結合するものであり、結合された両光ファイバ30および40により本発明の光ファイバが構成されている。なお、光ファイバ40の他端面40aには、図1の装置におけるものと同様のベーマイト膜20および金薄膜21(共に図示せず)が形成されている。
【0054】
以上の構成によれば、光ファイバ40のベーマイト膜20および金薄膜21等が試料に密着して汚れたとき、光ファイバ40を適宜新しいものと取り替えることにより、次々と能率良く測定を行うことが可能になる。
【符号の説明】
【0055】
10 表面増強ラマン分光測定装置
11 測定光
12 光源
13 コリメーターレンズ
14 集光レンズ
15 ビームスプリッタ
16、30、32、40 光ファイバ
16a、30a、40a 光ファイバの他端面
16b 光ファイバの一端面
17 コア
18 クラッド
20 ベーマイト
21 金薄膜
25 液体試料
26 測定光カットフィルタ
27 分光器
28 データ処理手段
31 ファイバカプラ
41 ファイバコネクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定光の入射面となる一端面と、前記測定光の出射面となる他端面とを有する光ファイバであって、
前記他端面に、試料に密着した状態下で前記測定光が該他端面から出射したとき表面増強ラマン散乱を生じさせる、前記測定光および表面増強ラマン散乱光が透過可能な金属体が形成されていることを特徴とするラマン分光測定装置用光ファイバ。
【請求項2】
前記金属体が、前記測定光の波長よりも凹凸部分のサイズが小さい微細凹凸構造を有するものであることを特徴とする請求項1記載のラマン分光測定装置用光ファイバ。
【請求項3】
前記微細凹凸構造がベーマイトからなるものであることを特徴とする請求項2記載のラマン分光測定装置用光ファイバ。
【請求項4】
前記微細凹凸構造が酸化シリコンあるいは酸化アルミニウムが斜め蒸着されてなるものであることを特徴とする請求項2記載のラマン分光測定装置用光ファイバ。
【請求項5】
前記金属体の主成分が、Au、Ag、Cu、Al、Pt、Ni、Ti、およびこれらの合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属であることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載のラマン分光測定装置用光ファイバ。
【請求項6】
請求項2記載のラマン分光測定装置用光ファイバを作製する方法であって、
前記光ファイバの他端面の上に第1の金属または金属酸化物からなる薄膜を形成する薄膜形成工程と、
前記薄膜を水熱反応させることにより前記第1の金属または金属酸化物の水酸化物からなる微細凹凸構造層を形成する微細凹凸構造層作製工程と、
該微細凹凸構造層の表面に、第2の金属からなる金属微細凹凸構造層を形成する金属層作製工程とを有することを特徴とするラマン分光測定装置用光ファイバの作製方法。
【請求項7】
請求項3記載のラマン分光測定装置用光ファイバを作製する方法であって、
光ファイバの前記他端面にアルミニウム薄膜を形成し、
このアルミニウム薄膜の部分を水の中に浸漬して煮沸することにより該薄膜を、微細凹凸構造を有するベーマイト膜とし、
このベーマイト膜の上に金属膜を蒸着することを特徴とするラマン分光測定装置用光ファイバの作製方法。
【請求項8】
前記アルミニウム薄膜を、蒸着によって形成することを特徴とする請求項7記載のラマン分光測定装置用光ファイバの作製方法。
【請求項9】
請求項1から5いずれか1項記載のラマン分光測定装置用光ファイバと、
この光ファイバに前記一端面から測定光を入力させて、前記他端面から出射させる測定光照射手段と、
前記金属体に密着された試料体に測定光が照射されることにより発生して前記光ファイバを伝搬した表面増強ラマン散乱光を分光検出する光検出手段とを備えたことを特徴とするラマン分光測定装置。
【請求項10】
前記光ファイバの他端部を含む一部が、その他の光ファイバ部分に対して、ファイバコネクタを介して着脱自在とされていることを特徴とする請求項9記載のラマン分光測定装置。
【請求項11】
前記測定光照射手段が、光源と、この光源から発せられた測定光を前記光ファイバの一端面から該光ファイバ内に入力させるレンズ光学系とを有するものであり、
前記光検出手段が、前記レンズ光学系内に配置されて、前記一端面から出射した表面増強ラマン散乱光を測定光の光路から分岐させる光分岐手段と、この光分岐手段により分岐された表面増強ラマン散乱光を検出する光検出器とを含むものであることを特徴とする請求項9または10記載のラマン分光測定装置。
【請求項12】
前記測定光照射手段が、光源と、この光源から発せられた測定光を前記光ファイバの一端面から該光ファイバ内に入力させる入力光学系とを有するものであり、
前記光検出手段が、光ファイバの途中に介設されて、この光ファイバを伝搬している表面増強ラマン散乱光を取り出すファイバカプラと、このファイバカプラにより取り出された表面増強ラマン散乱光を検出する光検出器とを含むものであることを特徴とする請求項9または10記載のラマン分光測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−242272(P2012−242272A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113490(P2011−113490)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】