ラマン分光装置、及び分光装置
【課題】試料の二次元的なラマンスペクトルイメージを高速に検出する。
【解決手段】ラマン分光装置10は、レーザ光源20から発したレーザ光Lをシリンドリカルレンズ22及びスリット板23の通過により直線状に変形して試料Sへ照射する。試料Sから発生した直線状の散乱光Kはノッチフィルタ27でラマン散乱光Rのみが通過し、透過型グレーティング29でラマン散乱光RはY方向へ分光されCCD31でラマン散乱光Rの部位別にラマンスペクトルを検出する。試料Sへのレーザ光Lの照射箇所は反射ミラーの角度変更によりY方向へ移動し、CCD31は照射箇所の移動に同期して検出を行い二次元のラマンスペクトルイメージを得る。
【解決手段】ラマン分光装置10は、レーザ光源20から発したレーザ光Lをシリンドリカルレンズ22及びスリット板23の通過により直線状に変形して試料Sへ照射する。試料Sから発生した直線状の散乱光Kはノッチフィルタ27でラマン散乱光Rのみが通過し、透過型グレーティング29でラマン散乱光RはY方向へ分光されCCD31でラマン散乱光Rの部位別にラマンスペクトルを検出する。試料Sへのレーザ光Lの照射箇所は反射ミラーの角度変更によりY方向へ移動し、CCD31は照射箇所の移動に同期して検出を行い二次元のラマンスペクトルイメージを得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料へ直線状の光を照射することにより、二次元的なラマンスペクトルイメージを高速に得られるようにしたラマン分光装置、及び二次元的に発光の検出を行えるようにした分光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、試料へ光(単色光、レーザ光等)を照射して得たラマン散乱光のラマンスペクトルを検出して試料の特性を測定するラマン分光装置が存在する。ラマン分光装置で試料の一定範囲のラマンスペクトルを検出するには、スポット状のレーザ光を試料の検出対象となる領域内で走査し、レーザ光の照射箇所に対応付けてラマンスペクトルの測定(マッピング測定)を行うことが一般的である。
【0003】
また、図12に示すラマン分光装置1は他の従来装置の一例であり、反射ミラー1bを高速で往復回転して、レーザ光源1aが発するスポット状のレーザ光Lの照射箇所を一直線上で往復移動させることが特徴である。このような照射により載置台1c上の試料Sにおける直線状に並ぶ照射箇所から連続的に散乱光が発生し、散乱光は全体として擬似的に直線状になる。
【0004】
この散乱光は平行レンズ1d及びノッチフィルタ1eを通過してラマン散乱光になり、ラマン散乱光は透過型分光器1fで分光されて合焦レンズ1gでCCD1h(検出器)へ導かれる。CCD1hはラマン散乱光を取り込み、CCD1hに接続されたコンピュータ(図示せず)で試料Sの一定範囲(直線状に連続した照射箇所)に対するラマンスペクトルイメージが作成される。
【0005】
図13(a)は、別の従来のラマン分光装置2を示し、この装置はレーザ光源2aからスポット状より大きい光径を有する円形のレーザ光Lを載置台2b上の試料Sの表面Saへ照射し(図13(b)参照)、試料Sから生じた散乱光からバンドパスフィルタ2cで所要の波長成分のみを取り出すことを特徴にする。取り出された波長成分の散乱光は、上記のラマン分光装置1と同様の処理を経て円形状のラマン散乱光としてCCD2dへ導かれ、最終的に図13(c)に示す二次元のラマンイメージが作成される。
【0006】
なお、顕微鏡分光系及び分光検出光学系を有する顕微分光装置において、顕微鏡分光系により形成した拡大像の光を、スリットを通過させて点状又は線状の光で取り出すようにした装置が下記の特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開平2−147939号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図14(a)は、スポット状のレーザ光を照射する一般的なラマン分光装置におけるCCDでの受光検出状況を示す概略図である。CCDはX及びY方向に配列された複数の光電変換素子(ピクセル)で形成されており、図14(a)に示すようにCCDの略中央で受光した線状のラマン散乱光に対し、受光箇所からX方向へ上下に配列された各光電変換素子(図中、白矢印方向で示す)で検出された分光分のスペクトル強度を全て足し合わし、足し合わした結果をその列全体の測定強度としてCCDへ接続されたコンピュータへ送っている。
【0008】
なお、図14(b)はCCDで検出されたラマンスペクトルと波数との関係を示し、図14(a)の白矢印方向に配列された各ピクセルの検出強度を積算し、一次元のスペクトルをグラフ化したものである。図14(a)における箇所G1、G2、G3は、図14(b)に示す箇所G1、G2、G3にそれぞれ対応し、図14(b)のグラフピークより、図14(a)に係るCCD中の箇所G2でピーク強度に対応したイメージが投影されていることが分かる。
【0009】
従来の一般的なラマン分光装置のCCDでは、受光箇所を含む一方向(図14(a)ではX方向)に配列された光電変換素子を使って一次元的にラマンスペクトルを検出し、測定感度を向上させている。しかし、CCDが有する各光電変換素子を有効に用いていないので、従来の一般的なラマン分光装置ではラマンスペクトルの二次元的な検出を効率的に行えないと云う問題があった。
【0010】
また、図12に示すラマン分光装置1では、反射ミラー1bを高速で往復回転する駆動部(図中に示さず)が必要になり装置自体が大型になると共に装置コストも上昇すると云う問題がある。さらに、反射ミラー1bの往復回転する速度に対応させてCCD1hで光電変換されたラマンスペクトルの画像フレームをコンピュータで取り込むことが困難であるため、鮮明なラマンスペクトルの画像フレームを得るためには反射ミラー1bの往復回転の上限速度が制限されると云う問題がある。さらにまた、反射ミラー1bの往復回転により試料Sへの照射箇所を移動させるので、散乱光の強度が全体的に安定しないと云う問題がある。
【0011】
一方、図13(a)に示すラマン分光装置2は、二次元的なラマンイメージをCCD2dで検出するためにバンドパスフィルタ2cで所要の波長成分のみを取り出すので、検出可能な波長範囲が限定されると云う問題がある。この問題を具体的に図14(b)のグラフに基づき説明すると、バンドパスフィルタ2cが範囲Wの波数に係る波長成分のラマン散乱光を通過させる場合、ラマン分光装置2は範囲W内のみのラマン散乱強度を測定するためラマンスペクトルを測定できず、図13(a)のラマン分光装置2は特定波長に対する測定にのみ有効となり、広範囲の波長に応じた測定を行えない。なお、上述した各問題は表面増強ラマン分光装置にも生じると共に、蛍光分光装置及びホトルミネッセンス分光装置でも同様なことが生じる。
【0012】
本発明は、斯かる問題に鑑みてなされたものであり、測定波長が限定されることなく、ラマンイメージを安定して検出できるようにしたラマン分光装置を提供することを目的とする。
また、本発明は、二次元のラマンイメージを高速で効率良く検出できるようにしたラマン分光装置、及び二次元的な検出を行えるようにした分光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、第1発明に係るラマン分光装置は、試料へ光を照射して発生させた散乱光の中からラマン散乱光を通過させる遮光フィルタと、通過したラマン散乱光を分光する分光器と、分光されたラマン散乱光のラマンスペクトルを検出する複数の光電変換素子を二次元的に配列した検出器とを備えるラマン分光装置において、試料への光の照射形状を直線状に変形する変形手段を備え、前記分光器は、直線状の光の照射に応じて発生した直線状のラマン散乱光に対して直交する向きへ分光しており、前記検出器は、直線状のラマン散乱光に対して直交する向きに配列された光電変換素子でラマンスペクトルをラマン散乱光の部位別に検出するようにしてあることを特徴とする。
【0014】
第1発明にあっては、試料への光の照射形状を直線状にするので、発生する散乱光も安定した直線状の光になり、それに伴い検出器で取り込まれるラマン散乱光も直線状になる。また、分光器は直線状のラマン散乱光に対し直交する向きに分光するので、検出器では分光された向きに配列された光電変換素子でラマンスペクトルを検出できるようになる。その結果、検出器の光電変換素子は有効に利用されて、ラマン散乱光を部位別に検出し試料の複数箇所を一度に測定できるようになる。なお、試料への光の照射形状を直線状に変形する変形手段としては、シリンドリカルレンズ及び直線状の孔(スリット)が形成されたスリット板等を適用できる。また、ラマン分光装置には表面増強ラマン分光装置も含まれるものとする。
【0015】
第2発明に係るラマン分光装置は、試料へ光を照射して発生させた散乱光の中からラマン散乱光を通過させる遮光フィルタと、ラマン散乱光を分光する分光器と、分光されたラマン散乱光のラマンスペクトルを検出する複数の光電変換素子を二次元的に配列した検出器とを備えるラマン分光装置において、スポット状のビーム光を照射する複数の光源を備え、該複数の光源は、夫々照射したビーム光が連なって試料への照射形状が直線状の光になるように配置してあり、前記分光器は、前記複数の光源による直線状の光の照射に応じて発生した直線状のラマン散乱光に対して直交する向きへ分光しており、前記検出器は、直線状のラマン散乱光に対して直交する向きに配列された光電変換素子でラマンスペクトルをラマン散乱光の部位別に検出するようにしてあることを特徴とする。
【0016】
第2発明にあっては、複数の光源からビーム光を連なって試料へ照射するので、試料から発生する散乱光も安定した直線状の光になり、検出器で取り込まれるラマン散乱光も直線状にできる。また、ラマン散乱光に対して直交する向きへ分光することで、二次元的に配列される検出器の各光電変換素子で夫々受光が行われ、ラマン散乱光を部位別に検出して試料の多数箇所を同時に測定できるようになる。
【0017】
第3発明に係るラマン分光装置は、試料への光の照射箇所を直線状の光に対して直交する向きへ移動させる直交移動手段を備えることを特徴とする。
第3発明にあっては、試料への光の照射箇所を直線状の光に対して直交する向きへ移動させることにより、直線状の光で試料を走査した箇所に対応する部分に係るラマン散乱光が検出器で順次取り込まれることになり、試料を二次元的に走査して二次元的なラマンスペクトルイメージを高速に且つ安定して測定できるようになる。
【0018】
第4発明に係るラマン分光装置は、発生した散乱光の光軸に平行な軸を中心にして試料への光の照射箇所を回転移動させる回転移動手段を備えることを特徴とする。
第4発明にあっては、散乱光の光軸に平行な軸を中心にして試料への光の照射箇所を回転移動させるので、回転移動に伴い直線状の照射光が試料を走査し、走査した箇所のラマン散乱光を検出器で順次取り込み、その結果、試料が走査された範囲に対応した二次元的なラマンスペクトルイメージを高速で測定できるようになる。
【0019】
第5発明に係るラマン分光装置は、発生した散乱光の光軸に沿って試料への光の照射箇所を移動させる平行移動手段を備えることを特徴とする。
第5発明にあっては、散乱光の光軸に沿って試料への光の照射箇所を移動させるので、試料への光の照射箇所が試料表面から深さ方向へ移動し、試料の深さ方向に対する二次元的なラマンスペクトルイメージを得られるようになると共に、上述した直線状の光に直交する移動又は回転移動と組み合わせることで、CTスキャンのような三次元的なラマンスペクトルイメージまでも測定可能になる。
【0020】
第6発明に係るラマン分光装置は、試料への光の照射箇所の移動に同期して前記検出器でラマンスペクトルの検出を行う手段を備えることを特徴とする。
第6発明にあっては、検出器でのラマンスペクトルの検出を、照射箇所の移動に同期させるので、鮮明な二次元又は三次元のラマンスペクトルイメージを得られ、試料の測定精度を高められる。
【0021】
第7発明に係る分光装置は、試料へ光を照射して生じさせた発光を分光する分光器と、分光された発光に係る検出を行う複数の光電変換素子を二次元的に配列した検出器とを備える分光装置において、試料への光の照射形状を直線状に変形する変形手段と、直線状に変形した光に対して試料への光の照射箇所を直交する向きへ移動させる直交移動手段とを備え、前記分光器は、直線状の光の照射に応じて生じた直線状の発光に対して直交する向きへ分光しており、前記検出器は、直線状の発光に対して直交する向きに配列された光電変換素子で発光の部位別に検出を行うようにしてあることを特徴とする。
【0022】
第7発明にあっては、試料への光の照射形状を直線状にすることで、試料から生じる発光も直線状になり、また、試料への光の照射箇所を直線状の光に対して直交する向きへ移動させることで、直線状の光で試料を走査した箇所に対応する部分に係る光が検出器で順次取り込まれることになり、試料を二次元的に走査して二次元的な検出結果を高速に且つ安定して得られるようになる。なお、第7発明に係る分光装置としては、蛍光分光装置及びホトルミネッセンス分光装置が該当する。
【発明の効果】
【0023】
第1発明にあっては、試料への光の照射形状を直線状にすることで、直線状のラマン散乱光を発生でき、また、分光器で直線状のラマン散乱光に対し直交する向きに分光することで、分光された向きに配列された光電変換素子でラマン散乱光を部位別に検出して試料の複数箇所を一度に測定でき、効率的な試料測定を実現できる。
第2発明にあっては、複数の光源からビーム光を連なって試料へ照射するので、検出器で直線状のラマン散乱光を取り込むことができ、また、ラマン散乱光に対して直交する向きへ分光することで、二次元的に配列される検出器の各光電変換素子で夫々受光を行い、ラマン散乱光を部位別に検出して試料の多数箇所を同時に測定できる。
【0024】
第3発明にあっては、試料への光の照射箇所を直線状の光に対して直交する向きへ移動することで、二次元的なラマンスペクトルイメージを高速に且つ安定して測定できる。
第4発明にあっては、散乱光に平行な軸を中心にして試料への光の照射箇所を回転移動することで、光が照射された範囲に対応した二次元的なラマンスペクトルイメージを高速で測定できる。
【0025】
第5発明にあっては、散乱光に平行な軸に沿って試料への光の照射箇所を移動することで、試料の深さ方向に対する二次元的なラマンスペクトルイメージを得られ、直線状の光に直交する移動又は回転移動と組み合わせることで三次元的なラマンスペクトルイメージも測定できる。
第6発明にあっては、検出器でのラマンスペクトルの検出を、照射箇所の移動に同期させることで、鮮明な二次元又は三次元のラマンスペクトルイメージを得られる。
【0026】
第7発明にあっては、試料への光の照射形状を直線状にすると共に、試料への光の照射箇所を直線状の光に対して直交する向きへ移動させることにより、直線状の光で試料を走査した箇所に対応する部分の光を検出器で順次取り込んで、二次元的な検出結果を高速に且つ安定して得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図1は、本発明の第1実施形態に係るラマン分光装置10の全体的な外観構成を示す概略斜視図である。第1実施形態のラマン分光装置10は、試料Sに対する検出を行うボックス状の光学系本体部11、試料Sへの光の照射及び照射箇所移動等に係る制御を行う制御装置12、操作及びイメージ画像の作成等を行うコンピュータ13、並びに操作内容及び測定した内容等の表示を行うモニタ14を第1接続線16、第2接続線17、及び第3接続線18で夫々接続し、各種信号の送受を可能にしている。
【0028】
光学系本体部11は、前面側となる一側面に測定窓11aを設けると共に、外面には垂直方向に立設するレール支柱15に沿って摺動可能に嵌合される摺動部11bが取り付けられ、摺動部11bに設けられた固定ネジ部11cで、測定対象の試料Sに応じた位置に光学系本体部11を固定できるようにしている。
【0029】
図2は、ラマン分光装置10の光学系本体部11の内部構成を示す装置正面方向からの構成図である。光学系本体部11は、光の照射系部分として、試料Sへレーザ光Lを照射するレーザ光源20、バンドパスフィルタ(BPF)21、レーザ光Lを所要方向へ拡大するシリンドリカルレンズ22、スリット板23、及びモータ25により試料Sへのレーザ光Lの照射箇所を移動させる反射ミラー24を有する。
【0030】
また、光学系本体部11は、光の検出系部分として、平行レンズ26、ノッチフィルタ(遮光フィルタ)27、透過型分光器(透過型グレーティング)29、合焦レンズ30、及びCCD(検出器)31を有する。このような光学系本体部11と制御装置12とを接続する第1接続線16は、CCD31で取り込まれたイメージ画像に係る信号が送られるCCD用コード16a、レーザ光源20の照射指示信号が送られる光源用コード16b、及びモータ25の駆動制御信号が送られるモータ用コード16cを有する。なお、図2では、レーザ光源20、モータ25、及びCCD31への給電用の電源ラインの図示を省略している。
【0031】
図3(a)は、図2における矢印A方向から見た場合の装置側面方向からの検出系部分の構成図であり、照射箇所Laの中央の点から発生したラマン散乱光の光路を示し、さらに、図3(b)は、照射箇所Laの一方の端点から発生したラマン散乱光の光路を示している。次に、上述した光学系本体部11の各部の詳細を、レーザ光源20でのレーザ光Lの照射からCCD31でのラマンスペクトルの検出までの処理に従って説明する。
【0032】
レーザ光源20は、スポット状のレーザ光Lを照射するものであり、光源用コード16bから送られる照射指示信号に基づきレーザ光Lの照射を行う。バンドパスフィルタ21はレーザ光源20から照射したレーザ光Lが通過するように配置され、通過によりレーザ光Lの不要な波長を除去する。
【0033】
図4(a)は、レーザ光Lが入射される側から見たシリンドリカルレンズ22の平面図である。シリンドリカルレンズ22はバンドバンドパスフィルタ21を通過したレーザ光Lが入射されるように配置されており、平面視では蒲鉾型の略半円形状である。シリンドリカルレンズ22へ入射されたスポット状のレーザ光Lは図中のX方向へのみ拡大され、レーザ光Lの照射形状を直線状に変形する。なお、各図で示されるX方向、Y方向は、図3(a)(b)に示すX方向及び図2に示すY方向に夫々対応している。
【0034】
図4(b)は、レーザ光Lが入射される側から見たスリット板23の平面図である。スリット板23は入射面23aの中央に、X方向に平行な直線状のスリット23bを開口している。スリット23bのY方向の開口幅は、シリンドリカルレンズ22で変形された直線状のレーザ光Lの幅より小さく設定されており、レーザ光Lがスリット23bを通過することで輝度が上昇し、輝度の上昇によりCCD31での測定感度も向上する。なお、上述したシリンドリカルレンズ22及びスリット板23は、本実施形態では試料Sへのレーザ光Lの照射形状を直線状に変形する変形手段として機能する。
【0035】
図4(c)は、スリット板23を通過して反射ミラー24で反射されたレーザ光Lが試料Sの表面Saへ照射された状況を示す。反射ミラー24はモータ25の駆動により所要角度範囲内で回転可能になっており、図2に示す角度では試料SのY方向における略中央箇所にレーザ光Lを照射できる。また、図2に示す状態から反時計方向へ反射ミラー24を回転させると、図7(a)に示すようにレーザ光Lの照射箇所LaはY方向に沿って図中の右方向へ移動する。なお、反射ミラー24を回転させるモータ25は制御装置12からモータ用コード16cを通じて送られる駆動制御信号で制御されている。
【0036】
試料Sにレーザ光Lが照射されることで試料Sから散乱光が生じるが、本実施形態では、図4(c)に示すようにレーザ光Lの直線状の照射箇所Laから直線状に所要長さL1を有する散乱光Kが発生する(図3(a)(b)参照)。発生した散乱光Kは平行レンズ26を通過して方向が整えられ、ノッチフィルタ(NF)27の通過でレーリー散乱光が除去されて、散乱光Kの中からラマン散乱光Rのみが通過する。
【0037】
ラマン散乱光Rは図4(c)に示すレーザ光Lの直線状の照射箇所La上の各点より放射状に発生し、平行レンズ26により平行光となった後、透過型グレーティング29で波長毎に分光される。本実施形態の透過型グレーティング29は、ラマン散乱光Rの光軸Rb(図2参照)に対して直交する仮想平面上でY方向(直線状のラマン散乱光Rに対して直交する向きに相当)へ分光を行う(図2の透過型グレーティング29から出る矢印参照)。波長毎に分光されたラマン散乱光Rは、合焦レンズ30を通過してCCD31で受光される。
【0038】
なお、図3(a)に示すように、CCD31の受光面31aで受光されるラマン散乱光Rの受光箇所Raは、試料Sのレーザ光Lの照射箇所Laに対し平行レンズ26及び合焦レンズ30の働きにより反転している(図中の照射箇所Laに係る矢印方向及び受光箇所Raに係る矢印方向)。
【0039】
図5(a)は、CCD31の受光面31a側からの平面図である。CCD31はX方向及びY方向に複数の光電変換素子32を配列して形成されている。図中、Y方向の位置(行)y1における直線状の受光箇所Raで受光されたラマン散乱光Rは、図4(c)で示される試料Sのレーザ光Lの照射箇所Laに対応したものである。
【0040】
本実施形態のCCD31は、上述したように透過型グレーティング29でY方向に分光が行われることから、ラマン散乱光Rの分光されたラマンスペクトルをY方向(直線状のラマン散乱光Rの受光箇所Raに対して直交する向きに相当)に沿って配列された各光電変換素子32で検出している。
【0041】
具体的には、受光箇所RaのX方向における部位が、位置(列)x1である第1部位R1に対して位置x1に配列された光電変換素子32で検出を行う。以下、同様に、第2部位R2に対しては位置x2に配列された光電変換素子32で、第3部位R3に対しては位置x3に配列された光電変換素子32で、第4部位R4に対しては位置x4に配列された光電変換素子32で、第5部位R5に対しては位置x5に配列された光電変換素子32で夫々検出を行う。このような検出の仕方を行うことで、CCD31は二次元的に配列された各光電変換素子32を有効に活用している。
【0042】
なお、受光箇所Raの検出される部位は図5(a)に示すように5箇所に限定されるものではなく、最低は1箇所から最高はX方向に配列される光電変換素子の数までの範囲でコンピュータ13により適宜設定できるようになっている。
【0043】
検出部位を1箇所にする場合は、従来と同様なCCDの用い方になり、また、複数の部位を検出する場合は、検出部位に近い列の光電変換素子32で検出されたラマンスペクトルを足し合わすことも可能である。例えば、X方向に240個の光電変換素子32が配列されており、ラマン散乱光Rの24等分された箇所を夫々検出する場合は、1箇所あたり10列分の光電変換素子32を用いて、10列分の検出結果を足し合わして各箇所の測定結果にすることが可能であり、このようにすることで測定感度の向上を図れる。また、複数箇所を測定する場合は、各箇所の間には検出に使用しない光電変換素子32を設けてもよい。
【0044】
図5(b)に示すグラフは、位置x1に配列された各光電変換素子32で検出されたラマンスペクトルの強度を示しており、Y方向における位置に応じたラマンスペクトルの強度が判明する。
【0045】
図6は、CCD31の各光電変換素子32で全体的に検出されたラマンスペクトルに係る1つのフレームfの画像イメージを示す三次元グラフ的な概略図である。この画像イメージのフレームfは、横軸をY方向ではなく、透過型グレーティング29で分光された各波長の逆数である波数にすると共に、フレームfの二次元平面に直交する軸を検出されたスペクトルの強度にしており、X方向における各部位の強度を波数に対応させて示している。
【0046】
よって、図2に示すラマン分光装置10の光学系本体部11では、試料Sにレーザ光Lを照射することで図6に示すようなラマンスペクトルイメージに係るフレーム画像を得ることができ、得られたフレーム画像に係る信号は、制御装置12を介してコンピュータ13へ送られ、コンピュータ13での所要の処理を経て図6に示すようなグラフをモニタ14で表示できる。
【0047】
なお、制御装置12は、コンピュータ13で設定された内容に基づき、レーザ光源20へ照射指示信号を所定のタイミングで送る制御を行うと共に、モータ25の駆動制御信号を所定のタイミングで送る制御を行う。また、コンピュータ13には試料測定に係る各種項目の設定に係る処理、CCD31から得られた画像フレームを取り込んでモニタ14に表示する処理、取り込んだ画像フレームに基づき二次元又は三次元的なラマンスペクトルイメージの画像を形成する処理、制御装置に対する処理等を規定したプログラムが記録されており、このプログラムに従いコンピュータ13は所定の処理を行う。
【0048】
本実施形態のラマン分光装置10では、図6に示すようなフレームfの画像イメージが得られると、次に、制御装置12はモータ25へ駆動制御信号を送り反射ミラー24の角度を変えて、図7(a)に示すように、レーザ光Lの試料Sへの照射箇所Laを位置y1から位置y2へ移動させる。そのため、モータ25及び反射ミラー24は、照射箇所Laを直線状のレーザ光Lに対して直交する向きへ移動させる直交移動手段として機能する。なお、図7(a)では、位置y1から右方向へ照射箇所Laを移動させているが、勿論左方向へ移動させることも、往復移動させることも可能である。
【0049】
照射箇所Laが移動すると、上記の場合と同様に位置y2における照射箇所Laから散乱光Kが生じて、ノッチフィルタ27を通過したラマン散乱光RのラマンスペクトルをCCD31で検出し、以降同様に、照射箇所Laを位置y3、y4・・・と移動させる毎にCCD31でラマンスペクトルの検出を行う。そのためCCD31は、動画を撮像するようにラマンスペクトルを検出する。即ち、本実施形態ではCCD31での検出を照射箇所Laの移動に同期させており、CCD31で検出された画像イメージのフレームのコンピュータ13での取り込みを照射箇所Laの移動に同期させてコンピュータ13の制御に基づき行っている。
【0050】
図7(b)は、フレーム取込及びレーザ光移動に係るタイミングを示すタイミングチャートである(横軸は時間t)。具体的には、レーザ光の照射箇所Laが移動している間、CCD31での検出に係るラマンスペクトルの画像イメージのフレーム取込を停止し、レーザ光の照射箇所Laが移動を停止している間は、CCD31でラマンスペクトルを検出して画像イメージのフレーム取込を行う。
【0051】
よって、制御装置12は、上述したタイミングチャートに従ってモータ25へ駆動制御信号を間欠的に送ると共に、コンピュータ13の制御によりCCD31では、検出された画像イメージに係る信号(フレームf)を駆動制御信号が送られていない間に取り込んでコンピュータ13へ送る。その結果、フレーム取込とレーザ光移動が時期的に重ならず、CCD31で検出された画像イメージが鮮明になる。
【0052】
また、コンピュータ13では、照射箇所Laの移動に同期してCCD31で取り込んだ画像イメージのフレームfを照射箇所Laの位置に対応させて合成し、図8に示すような試料Sに含まれる含有成分の特性に係る二次元のXYイメージを作成する。このXYイメージはモニタ14でも表示され(図1参照)、試料Sの特性の測定及び解析が行われる。よって、本実施形態のラマン分光装置10では、試料Sの特性を示すラマンスペクトルの二次元イメージを高速に且つ鮮明に得ることができるため試料Sを効率良く迅速に測定できる。
【0053】
なお、第1実施形態に係るラマン分光装置10は、上述した形態に限定されるものではなく、種々の変形例の適用が可能である。例えば、レーザ光源20から照射されるスポット状のレーザ光Lを直線状に変形するために、シリンドリカルレンズ22とスリット板23との両方ではなく、いずれか一方のみを用いてレーザ光Lの変形を行うようにしてもよい。また、レーザ光LのY方向への照射箇所Laの移動には、反射ミラー24を回転させる以外に、光学系本体部11自体をY方向へ移動すること、試料SをY方向へ移動することも適用できる。
【0054】
光学系本体部11自体をY方向へ移動する場合は、反射ミラー24の角度を固定し、図1に示す光学系本体部1の摺動部11bにレール支柱15に沿って摺動を駆動するためモータ(リニアモータ等)を含む直動機構を設けて制御装置12で制御する。この場合、直動機構が直交移動手段として機能する。また、試料SをY方向へ移動させる場合は、試料Sを保持する保持台を設けると共に、保持台をレール支柱15に沿って移動させるモータを含む移動機構を設けて制御装置12で制御する。この場合、固定された光学系本体部11に対し試料Sが移動することで、相対的に照射箇所Laも移動し、保持台及び移動機構が直交移動手段として機能する。
【0055】
図9(a)は、第1実施形態の別の変形例に係るラマン分光装置35の要部を示す概略図である。この変形例のラマン分光装置35は、垂直方向(Z方向)に下から試料S及び光学系本体部36が配置されており、試料Sを載置する載置台42がモータ43(平行移動手段に相当)により垂直方向(散乱光Kの光軸Ka)沿って移動するようにしたことが特徴である。即ち、載置台42を支持する支持棒42aに設けられた直動機構(図示せず)を、制御装置の制御によりモータ43で駆動することにより載置台42は上下し、試料Sに照射されるレーザ光Lの焦点が合致した照射箇所Laを垂直方向へ上下させる。
【0056】
具体的には、図9(b)に示すように、載置台42を上昇させていくと、試料Sの表面Saで反射するように合わされていた照射箇所Laが、表面Saから試料Sの厚み方向へ内方となる深層位置Sb、さらには一段と内方となる深層位置Scへと移動し、試料Sの厚み方向(深さ方向)に係るラマンスペクトルの検出をCCD48で行えるようになる。
【0057】
なお、光学系本体部36の検出系は、分光器46の前段に共焦点光学系として、試料側レンズ37及び平行レンズ45を配置すると共に、試料側レンズ37と平行レンズ45との間で試料上の焦点と共役になる焦点位置B(以下、共焦点位置Bと称す)に光学ストップとして検出系スリット板38を配置した構成にしている。検出系スリット板38は、通常の共焦点光学系で用いられるピンホールではなく縦長に開口したスリット38aを設けており、スリット38aの長手方向を照射箇所Laに対して平行にすることで、照射箇所Laから発生したラマン散乱光は、スリット38aに応じて直線状に焦点を結ぶためスリット38aを通過する。さらに、焦点位置からZ軸方向に外れた点から発生したラマン散乱光は、共焦点位置Bでは光束が広がり、スリット38aを殆ど透過できない。なお、平行レンズ45、ノッチフィルタ44、透過型分光器46、合焦レンズ47、及びCCD48の配置は、図2に示す構成と同様であり、また、光学系本体部36は照射系にレーザ光源40及びスリット板41を配置している。
【0058】
さらに、変形例のラマン分光装置35においても、載置台42を上下させるのではなく、載置台42を固定して光学系本体部36にモータを含む直動機器(平行移動手段に相当)を設けて光学系本体部36自体を上下に移動させる構成も可能である。
【0059】
さらにまた、変形例のラマン分光装置35に係る散乱光Kの光軸Kaに沿って照射箇所Laを移動させる構成は、図1、2等に係るラマン分光装置10の照射箇所LaをY方向に移動させる構成と組み合わせることも可能である。この場合、先ず、試料Sの同一深さとなる面全体のラマンイメージスペクトルを検出し、その検出が終了すると試料の深さ方向の位置を変えて、変えた面において同様に検出を行うようにすることが好適である。このような組み合わせ構成を適用すると、コンピュータ13では、最終的に試料Sの表面Saだけでなく、三次元的なラマンスペクトルイメージを形成でき、より試料Sの詳細な測定及び解析を行える。
【0060】
図10(a)は、第1実施形態のさらに別の変形例に係るラマン分光装置50の要部を示す概略図である。この変形例のラマン分光装置50は、垂直方向(Z方向)に試料S及び光学系本体部51が配置され、試料Sを載置面62a上に載置する載置台62がモータ65(回転移動手段に相当)によりZ方向に平行な軸(散乱光Kの光軸Ka)である載置台62の支柱62bを中心に回転移動するようにしたことが特徴である。支柱62bには回転ギア63が取り付けられており、この回転ギア63にモータ65のモータ軸に取り付けた駆動ギア64が噛合し、モータ軸の回転により支柱62bの中心Cを軸に回転する。なお、回転方向は時計回転方向及び反時計回転方向のいずれも可能である。
【0061】
一方、光学系本体部51は位置が固定されており、レーザ光源60から発する所要光径のレーザ光Lをスリット板61で直線状に変形し、試料Sの一部分へ照射する。この変形例では、図10(b)に示すように、Y方向に平行な直線状のスリット61aを形成したスリット板61を用いると共に、図10(c)に示すように、試料Sの表面Sa上におけるレーザ光Lの照射箇所Laを、試料Sの中心から法線方向となるY方向に平行な図中の右側部分になるようにしている。また、照射箇所Laから発生した散乱光Kは、平行レンズ66、ノッチフィルタ67、透過型グレーティング68、及び合焦レンズ69を通過し、ラマン散乱光のラマンスペクトルがCCD70で検出される。
【0062】
試料Sがモータ65により回転すると、レーザ光Lの照射箇所Laも試料Sの表面Sa上を回転移動し、この回転移動に同期してCCD70でラマンスペクトルの検出を行うことで、二次元的なラマンスペクトルのイメージ画像を得られる。なお、試料Sの回転により照射箇所Laが移動する軌跡の形状は、ドーナツ状になる。また、この変形例のラマン分光装置50に係る照射箇所Laの回転は、試料Sを載置する載置台62を固定する一方、光学系本体部51の方を回転移動させる構成も適用できる。この場合は、光学系本体部51を散乱光Kの光軸Kaに平行な軸を中心にして回転できるように配置すると共に、光学系本体部51を回転移動させる駆動部を設けて、光学系本体部51の回転移動に同期させてCCD70で検出を行うようにする。
【0063】
さらに、変形例のラマン分光装置50の回転移動に係る構成は、図9(a)に示す別の変形例のラマン分光装置35のZ方向に移動させる構成と組み合わせることも可能であり、この場合も、回転移動により一定深さとなる同一面で検出を行ってから、深さ方向の位置を変えて順次検出を行うようにすることが好適である。
【0064】
図11(a)は、本発明の第2実施形態に係るラマン分光装置80の要部(レーザ光照射系及び検出系)の構成を示す概略図である。第2実施形態のラマン分光装置80は、複数(図では3個)のレーザ光源81a〜81cを用いて合成された直線状のレーザ光Lを試料Sの表面へ照射することを特徴にしている。
【0065】
各レーザ光源81a〜81cは、発光ダイオード等の半導体素子を有してスポット状のビーム光(レーザ光)D1〜D3を発し、各ビーム光D1〜D3が連なって合成されたレーザ光Lが形成される。よって、図11(b)に示すように、試料Sの表面Saへの照射箇所Laの形状が全体として直線状になるように各レーザ光源81a〜81cは平行的に相互の間隔を詰めて配置されている。
【0066】
また、各レーザ光源81a〜81cから発せられた各ビーム光D1〜D3はスリット板82を通過して輝度を高めるようにされているが、このスリット板82は、図中のX方向に平行なスリットを有している。第2実施形態のラマン分光装置80におけるモータ84で回転移動する反射ミラー83、平行レンズ85、ノッチフィルタ86、透過型グレーティング88、合焦レンズ89、及びCCD90等の構成及び処理は、図1、2、3等に示す第1実施形態に係るラマン分光装置10と同様なので説明を省略する。
【0067】
このような第2実施形態のラマン分光装置80でも、試料Sへの照射箇所Laの形状は直線状になり、ラマンスペクトルをラマン散乱光の部位別に検出できると共に、照射箇所Laの移動により二次元的なラマンスペクトルを高速且つ安定して得ることができる。なお、第2実施形態のラマン分光装置80でも、第1実施形態に係る各種変形例の適用が可能である。
【0068】
また、上述した第1実施形態のラマン分光装置10(各種変形例も含む)、及び第2実施形態のラマン分光装置80に係る構成は、表面増強ラマン分光装置にも適用可能である。さらに、蛍光分光装置及びホトルミネッセンス分光装置に対しても、各実施形態のラマン分光装置10、80(各種変形例も含む)における関連する構成を適用することも可能である。
【0069】
例えば、蛍光分光装置及びホトルミネッセンス分光装置に図2に示すようなシリンドリカルレンズ22、スリット板23、及びモータ25により回転する反射ミラー24を有する照射系を適用し、試料Sへ照射する光の形状を直線状に変形すると共に、直線状の光に対して試料への光の照射箇所を直交する向きへ移動し、試料から直線状の発光を生じさせる。さらに、蛍光分光装置及びホトルミネッセンス分光装置が有する検出系の分光器で試料からの発光を分光する際、図2に示す形態と同様に前記直線状の発光に対して直交する向きへ分光し、検出器に相当する複数の光電変換素子を二次元的に配列したCCDで、前記直線状の発光に対して直交する向きに配列された光電変換素子で部位別に発光の検出を行うようにする。このように蛍光分光装置及びホトルミネッセンス分光装置においても、上述した構成を適用することで、二次元的な検出結果を高速に且つ安定して得られる。
【0070】
なお、蛍光分光装置及びホトルミネッセンス分光装置においても、上述した図2に示す同等な構成以外に、図9(a)、図10(a)、及び図11(a)に示す同等な構成も適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の第1実施形態に係るラマン分光装置の外観を示す概略斜視図である。
【図2】第1実施形態のラマン分光装置を示す装置正面方向からの構成図である。
【図3】光学系本体部を示す装置側面方向からの構成図であり、(a)は照射箇所の中央点から発生したラマン散乱光の光路を示す構成図、(b)は照射箇所の端点から発生したラマン散乱光の光路を示す構成図である。
【図4】(a)はシリンドリカルレンズを示す平面図、(b)はスリット板を示す平面図、(c)は試料への照射箇所を示す平面図である。
【図5】(a)はCCDでの検出状況を示す平面図、(b)はCCDでの所要位置で検出されたラマンスペクトルの強度を示すグラフである。
【図6】CCD全体で検出されたラマンスペクトルの強度を示す三次元的なグラフの画像イメージに係るフレームの概略図である。
【図7】(a)は試料における照射箇所の移動状況を示す平面図、(b)はフレーム取込及びレーザ光移動の同期関係を示すタイミングチャートである。
【図8】ラマン分光装置で得られたラマンスペクトルのXYイメージを示す概略図である。
【図9】(a)は第1実施形態の変形例に係るラマン分光装置の要部を示す概略図であり、(b)は試料の深さ方向におけるレーザ光の照射状況を示す概略図である。
【図10】(a)は第1実施形態の別の変形例に係るラマン分光装置の要部を示す概略図、(b)はスリット板を示す平面図、(c)は試料への照射箇所の位置を示す平面図である。
【図11】(a)は本発明の第2実施形態に係るラマン分光装置の要部を示す概略図、(b)は試料へのレーザ光の照射形状を示す平面図である。
【図12】従来のラマン分光装置の構成を示す概略図である。
【図13】(a)は別の従来のラマン分光装置の構成を示す概略図、(b)は試料へのレーザ光の照射形状を示す平面図、(c)は得られたラマンイメージを示す概略図である。
【図14】(a)は従来の一般的なラマン分光装置におけるCCDでの検出状況を示す概略図であり、(b)は検出されたラマンスペクトルと波数との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0072】
10 ラマン分光装置
11 光学系本体部
12 制御装置
13 コンピュータ
20 レーザ光源
22 シリンドリカルレンズ
23 スリット板
24 反射ミラー
25 モータ
27 ノッチフィルタ
29 透過型グレーティング
31 CCD
32 光電変換素子
K 散乱光
L レーザ光
La 照射箇所
R ラマン散乱光
S 試料
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料へ直線状の光を照射することにより、二次元的なラマンスペクトルイメージを高速に得られるようにしたラマン分光装置、及び二次元的に発光の検出を行えるようにした分光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、試料へ光(単色光、レーザ光等)を照射して得たラマン散乱光のラマンスペクトルを検出して試料の特性を測定するラマン分光装置が存在する。ラマン分光装置で試料の一定範囲のラマンスペクトルを検出するには、スポット状のレーザ光を試料の検出対象となる領域内で走査し、レーザ光の照射箇所に対応付けてラマンスペクトルの測定(マッピング測定)を行うことが一般的である。
【0003】
また、図12に示すラマン分光装置1は他の従来装置の一例であり、反射ミラー1bを高速で往復回転して、レーザ光源1aが発するスポット状のレーザ光Lの照射箇所を一直線上で往復移動させることが特徴である。このような照射により載置台1c上の試料Sにおける直線状に並ぶ照射箇所から連続的に散乱光が発生し、散乱光は全体として擬似的に直線状になる。
【0004】
この散乱光は平行レンズ1d及びノッチフィルタ1eを通過してラマン散乱光になり、ラマン散乱光は透過型分光器1fで分光されて合焦レンズ1gでCCD1h(検出器)へ導かれる。CCD1hはラマン散乱光を取り込み、CCD1hに接続されたコンピュータ(図示せず)で試料Sの一定範囲(直線状に連続した照射箇所)に対するラマンスペクトルイメージが作成される。
【0005】
図13(a)は、別の従来のラマン分光装置2を示し、この装置はレーザ光源2aからスポット状より大きい光径を有する円形のレーザ光Lを載置台2b上の試料Sの表面Saへ照射し(図13(b)参照)、試料Sから生じた散乱光からバンドパスフィルタ2cで所要の波長成分のみを取り出すことを特徴にする。取り出された波長成分の散乱光は、上記のラマン分光装置1と同様の処理を経て円形状のラマン散乱光としてCCD2dへ導かれ、最終的に図13(c)に示す二次元のラマンイメージが作成される。
【0006】
なお、顕微鏡分光系及び分光検出光学系を有する顕微分光装置において、顕微鏡分光系により形成した拡大像の光を、スリットを通過させて点状又は線状の光で取り出すようにした装置が下記の特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開平2−147939号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図14(a)は、スポット状のレーザ光を照射する一般的なラマン分光装置におけるCCDでの受光検出状況を示す概略図である。CCDはX及びY方向に配列された複数の光電変換素子(ピクセル)で形成されており、図14(a)に示すようにCCDの略中央で受光した線状のラマン散乱光に対し、受光箇所からX方向へ上下に配列された各光電変換素子(図中、白矢印方向で示す)で検出された分光分のスペクトル強度を全て足し合わし、足し合わした結果をその列全体の測定強度としてCCDへ接続されたコンピュータへ送っている。
【0008】
なお、図14(b)はCCDで検出されたラマンスペクトルと波数との関係を示し、図14(a)の白矢印方向に配列された各ピクセルの検出強度を積算し、一次元のスペクトルをグラフ化したものである。図14(a)における箇所G1、G2、G3は、図14(b)に示す箇所G1、G2、G3にそれぞれ対応し、図14(b)のグラフピークより、図14(a)に係るCCD中の箇所G2でピーク強度に対応したイメージが投影されていることが分かる。
【0009】
従来の一般的なラマン分光装置のCCDでは、受光箇所を含む一方向(図14(a)ではX方向)に配列された光電変換素子を使って一次元的にラマンスペクトルを検出し、測定感度を向上させている。しかし、CCDが有する各光電変換素子を有効に用いていないので、従来の一般的なラマン分光装置ではラマンスペクトルの二次元的な検出を効率的に行えないと云う問題があった。
【0010】
また、図12に示すラマン分光装置1では、反射ミラー1bを高速で往復回転する駆動部(図中に示さず)が必要になり装置自体が大型になると共に装置コストも上昇すると云う問題がある。さらに、反射ミラー1bの往復回転する速度に対応させてCCD1hで光電変換されたラマンスペクトルの画像フレームをコンピュータで取り込むことが困難であるため、鮮明なラマンスペクトルの画像フレームを得るためには反射ミラー1bの往復回転の上限速度が制限されると云う問題がある。さらにまた、反射ミラー1bの往復回転により試料Sへの照射箇所を移動させるので、散乱光の強度が全体的に安定しないと云う問題がある。
【0011】
一方、図13(a)に示すラマン分光装置2は、二次元的なラマンイメージをCCD2dで検出するためにバンドパスフィルタ2cで所要の波長成分のみを取り出すので、検出可能な波長範囲が限定されると云う問題がある。この問題を具体的に図14(b)のグラフに基づき説明すると、バンドパスフィルタ2cが範囲Wの波数に係る波長成分のラマン散乱光を通過させる場合、ラマン分光装置2は範囲W内のみのラマン散乱強度を測定するためラマンスペクトルを測定できず、図13(a)のラマン分光装置2は特定波長に対する測定にのみ有効となり、広範囲の波長に応じた測定を行えない。なお、上述した各問題は表面増強ラマン分光装置にも生じると共に、蛍光分光装置及びホトルミネッセンス分光装置でも同様なことが生じる。
【0012】
本発明は、斯かる問題に鑑みてなされたものであり、測定波長が限定されることなく、ラマンイメージを安定して検出できるようにしたラマン分光装置を提供することを目的とする。
また、本発明は、二次元のラマンイメージを高速で効率良く検出できるようにしたラマン分光装置、及び二次元的な検出を行えるようにした分光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、第1発明に係るラマン分光装置は、試料へ光を照射して発生させた散乱光の中からラマン散乱光を通過させる遮光フィルタと、通過したラマン散乱光を分光する分光器と、分光されたラマン散乱光のラマンスペクトルを検出する複数の光電変換素子を二次元的に配列した検出器とを備えるラマン分光装置において、試料への光の照射形状を直線状に変形する変形手段を備え、前記分光器は、直線状の光の照射に応じて発生した直線状のラマン散乱光に対して直交する向きへ分光しており、前記検出器は、直線状のラマン散乱光に対して直交する向きに配列された光電変換素子でラマンスペクトルをラマン散乱光の部位別に検出するようにしてあることを特徴とする。
【0014】
第1発明にあっては、試料への光の照射形状を直線状にするので、発生する散乱光も安定した直線状の光になり、それに伴い検出器で取り込まれるラマン散乱光も直線状になる。また、分光器は直線状のラマン散乱光に対し直交する向きに分光するので、検出器では分光された向きに配列された光電変換素子でラマンスペクトルを検出できるようになる。その結果、検出器の光電変換素子は有効に利用されて、ラマン散乱光を部位別に検出し試料の複数箇所を一度に測定できるようになる。なお、試料への光の照射形状を直線状に変形する変形手段としては、シリンドリカルレンズ及び直線状の孔(スリット)が形成されたスリット板等を適用できる。また、ラマン分光装置には表面増強ラマン分光装置も含まれるものとする。
【0015】
第2発明に係るラマン分光装置は、試料へ光を照射して発生させた散乱光の中からラマン散乱光を通過させる遮光フィルタと、ラマン散乱光を分光する分光器と、分光されたラマン散乱光のラマンスペクトルを検出する複数の光電変換素子を二次元的に配列した検出器とを備えるラマン分光装置において、スポット状のビーム光を照射する複数の光源を備え、該複数の光源は、夫々照射したビーム光が連なって試料への照射形状が直線状の光になるように配置してあり、前記分光器は、前記複数の光源による直線状の光の照射に応じて発生した直線状のラマン散乱光に対して直交する向きへ分光しており、前記検出器は、直線状のラマン散乱光に対して直交する向きに配列された光電変換素子でラマンスペクトルをラマン散乱光の部位別に検出するようにしてあることを特徴とする。
【0016】
第2発明にあっては、複数の光源からビーム光を連なって試料へ照射するので、試料から発生する散乱光も安定した直線状の光になり、検出器で取り込まれるラマン散乱光も直線状にできる。また、ラマン散乱光に対して直交する向きへ分光することで、二次元的に配列される検出器の各光電変換素子で夫々受光が行われ、ラマン散乱光を部位別に検出して試料の多数箇所を同時に測定できるようになる。
【0017】
第3発明に係るラマン分光装置は、試料への光の照射箇所を直線状の光に対して直交する向きへ移動させる直交移動手段を備えることを特徴とする。
第3発明にあっては、試料への光の照射箇所を直線状の光に対して直交する向きへ移動させることにより、直線状の光で試料を走査した箇所に対応する部分に係るラマン散乱光が検出器で順次取り込まれることになり、試料を二次元的に走査して二次元的なラマンスペクトルイメージを高速に且つ安定して測定できるようになる。
【0018】
第4発明に係るラマン分光装置は、発生した散乱光の光軸に平行な軸を中心にして試料への光の照射箇所を回転移動させる回転移動手段を備えることを特徴とする。
第4発明にあっては、散乱光の光軸に平行な軸を中心にして試料への光の照射箇所を回転移動させるので、回転移動に伴い直線状の照射光が試料を走査し、走査した箇所のラマン散乱光を検出器で順次取り込み、その結果、試料が走査された範囲に対応した二次元的なラマンスペクトルイメージを高速で測定できるようになる。
【0019】
第5発明に係るラマン分光装置は、発生した散乱光の光軸に沿って試料への光の照射箇所を移動させる平行移動手段を備えることを特徴とする。
第5発明にあっては、散乱光の光軸に沿って試料への光の照射箇所を移動させるので、試料への光の照射箇所が試料表面から深さ方向へ移動し、試料の深さ方向に対する二次元的なラマンスペクトルイメージを得られるようになると共に、上述した直線状の光に直交する移動又は回転移動と組み合わせることで、CTスキャンのような三次元的なラマンスペクトルイメージまでも測定可能になる。
【0020】
第6発明に係るラマン分光装置は、試料への光の照射箇所の移動に同期して前記検出器でラマンスペクトルの検出を行う手段を備えることを特徴とする。
第6発明にあっては、検出器でのラマンスペクトルの検出を、照射箇所の移動に同期させるので、鮮明な二次元又は三次元のラマンスペクトルイメージを得られ、試料の測定精度を高められる。
【0021】
第7発明に係る分光装置は、試料へ光を照射して生じさせた発光を分光する分光器と、分光された発光に係る検出を行う複数の光電変換素子を二次元的に配列した検出器とを備える分光装置において、試料への光の照射形状を直線状に変形する変形手段と、直線状に変形した光に対して試料への光の照射箇所を直交する向きへ移動させる直交移動手段とを備え、前記分光器は、直線状の光の照射に応じて生じた直線状の発光に対して直交する向きへ分光しており、前記検出器は、直線状の発光に対して直交する向きに配列された光電変換素子で発光の部位別に検出を行うようにしてあることを特徴とする。
【0022】
第7発明にあっては、試料への光の照射形状を直線状にすることで、試料から生じる発光も直線状になり、また、試料への光の照射箇所を直線状の光に対して直交する向きへ移動させることで、直線状の光で試料を走査した箇所に対応する部分に係る光が検出器で順次取り込まれることになり、試料を二次元的に走査して二次元的な検出結果を高速に且つ安定して得られるようになる。なお、第7発明に係る分光装置としては、蛍光分光装置及びホトルミネッセンス分光装置が該当する。
【発明の効果】
【0023】
第1発明にあっては、試料への光の照射形状を直線状にすることで、直線状のラマン散乱光を発生でき、また、分光器で直線状のラマン散乱光に対し直交する向きに分光することで、分光された向きに配列された光電変換素子でラマン散乱光を部位別に検出して試料の複数箇所を一度に測定でき、効率的な試料測定を実現できる。
第2発明にあっては、複数の光源からビーム光を連なって試料へ照射するので、検出器で直線状のラマン散乱光を取り込むことができ、また、ラマン散乱光に対して直交する向きへ分光することで、二次元的に配列される検出器の各光電変換素子で夫々受光を行い、ラマン散乱光を部位別に検出して試料の多数箇所を同時に測定できる。
【0024】
第3発明にあっては、試料への光の照射箇所を直線状の光に対して直交する向きへ移動することで、二次元的なラマンスペクトルイメージを高速に且つ安定して測定できる。
第4発明にあっては、散乱光に平行な軸を中心にして試料への光の照射箇所を回転移動することで、光が照射された範囲に対応した二次元的なラマンスペクトルイメージを高速で測定できる。
【0025】
第5発明にあっては、散乱光に平行な軸に沿って試料への光の照射箇所を移動することで、試料の深さ方向に対する二次元的なラマンスペクトルイメージを得られ、直線状の光に直交する移動又は回転移動と組み合わせることで三次元的なラマンスペクトルイメージも測定できる。
第6発明にあっては、検出器でのラマンスペクトルの検出を、照射箇所の移動に同期させることで、鮮明な二次元又は三次元のラマンスペクトルイメージを得られる。
【0026】
第7発明にあっては、試料への光の照射形状を直線状にすると共に、試料への光の照射箇所を直線状の光に対して直交する向きへ移動させることにより、直線状の光で試料を走査した箇所に対応する部分の光を検出器で順次取り込んで、二次元的な検出結果を高速に且つ安定して得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図1は、本発明の第1実施形態に係るラマン分光装置10の全体的な外観構成を示す概略斜視図である。第1実施形態のラマン分光装置10は、試料Sに対する検出を行うボックス状の光学系本体部11、試料Sへの光の照射及び照射箇所移動等に係る制御を行う制御装置12、操作及びイメージ画像の作成等を行うコンピュータ13、並びに操作内容及び測定した内容等の表示を行うモニタ14を第1接続線16、第2接続線17、及び第3接続線18で夫々接続し、各種信号の送受を可能にしている。
【0028】
光学系本体部11は、前面側となる一側面に測定窓11aを設けると共に、外面には垂直方向に立設するレール支柱15に沿って摺動可能に嵌合される摺動部11bが取り付けられ、摺動部11bに設けられた固定ネジ部11cで、測定対象の試料Sに応じた位置に光学系本体部11を固定できるようにしている。
【0029】
図2は、ラマン分光装置10の光学系本体部11の内部構成を示す装置正面方向からの構成図である。光学系本体部11は、光の照射系部分として、試料Sへレーザ光Lを照射するレーザ光源20、バンドパスフィルタ(BPF)21、レーザ光Lを所要方向へ拡大するシリンドリカルレンズ22、スリット板23、及びモータ25により試料Sへのレーザ光Lの照射箇所を移動させる反射ミラー24を有する。
【0030】
また、光学系本体部11は、光の検出系部分として、平行レンズ26、ノッチフィルタ(遮光フィルタ)27、透過型分光器(透過型グレーティング)29、合焦レンズ30、及びCCD(検出器)31を有する。このような光学系本体部11と制御装置12とを接続する第1接続線16は、CCD31で取り込まれたイメージ画像に係る信号が送られるCCD用コード16a、レーザ光源20の照射指示信号が送られる光源用コード16b、及びモータ25の駆動制御信号が送られるモータ用コード16cを有する。なお、図2では、レーザ光源20、モータ25、及びCCD31への給電用の電源ラインの図示を省略している。
【0031】
図3(a)は、図2における矢印A方向から見た場合の装置側面方向からの検出系部分の構成図であり、照射箇所Laの中央の点から発生したラマン散乱光の光路を示し、さらに、図3(b)は、照射箇所Laの一方の端点から発生したラマン散乱光の光路を示している。次に、上述した光学系本体部11の各部の詳細を、レーザ光源20でのレーザ光Lの照射からCCD31でのラマンスペクトルの検出までの処理に従って説明する。
【0032】
レーザ光源20は、スポット状のレーザ光Lを照射するものであり、光源用コード16bから送られる照射指示信号に基づきレーザ光Lの照射を行う。バンドパスフィルタ21はレーザ光源20から照射したレーザ光Lが通過するように配置され、通過によりレーザ光Lの不要な波長を除去する。
【0033】
図4(a)は、レーザ光Lが入射される側から見たシリンドリカルレンズ22の平面図である。シリンドリカルレンズ22はバンドバンドパスフィルタ21を通過したレーザ光Lが入射されるように配置されており、平面視では蒲鉾型の略半円形状である。シリンドリカルレンズ22へ入射されたスポット状のレーザ光Lは図中のX方向へのみ拡大され、レーザ光Lの照射形状を直線状に変形する。なお、各図で示されるX方向、Y方向は、図3(a)(b)に示すX方向及び図2に示すY方向に夫々対応している。
【0034】
図4(b)は、レーザ光Lが入射される側から見たスリット板23の平面図である。スリット板23は入射面23aの中央に、X方向に平行な直線状のスリット23bを開口している。スリット23bのY方向の開口幅は、シリンドリカルレンズ22で変形された直線状のレーザ光Lの幅より小さく設定されており、レーザ光Lがスリット23bを通過することで輝度が上昇し、輝度の上昇によりCCD31での測定感度も向上する。なお、上述したシリンドリカルレンズ22及びスリット板23は、本実施形態では試料Sへのレーザ光Lの照射形状を直線状に変形する変形手段として機能する。
【0035】
図4(c)は、スリット板23を通過して反射ミラー24で反射されたレーザ光Lが試料Sの表面Saへ照射された状況を示す。反射ミラー24はモータ25の駆動により所要角度範囲内で回転可能になっており、図2に示す角度では試料SのY方向における略中央箇所にレーザ光Lを照射できる。また、図2に示す状態から反時計方向へ反射ミラー24を回転させると、図7(a)に示すようにレーザ光Lの照射箇所LaはY方向に沿って図中の右方向へ移動する。なお、反射ミラー24を回転させるモータ25は制御装置12からモータ用コード16cを通じて送られる駆動制御信号で制御されている。
【0036】
試料Sにレーザ光Lが照射されることで試料Sから散乱光が生じるが、本実施形態では、図4(c)に示すようにレーザ光Lの直線状の照射箇所Laから直線状に所要長さL1を有する散乱光Kが発生する(図3(a)(b)参照)。発生した散乱光Kは平行レンズ26を通過して方向が整えられ、ノッチフィルタ(NF)27の通過でレーリー散乱光が除去されて、散乱光Kの中からラマン散乱光Rのみが通過する。
【0037】
ラマン散乱光Rは図4(c)に示すレーザ光Lの直線状の照射箇所La上の各点より放射状に発生し、平行レンズ26により平行光となった後、透過型グレーティング29で波長毎に分光される。本実施形態の透過型グレーティング29は、ラマン散乱光Rの光軸Rb(図2参照)に対して直交する仮想平面上でY方向(直線状のラマン散乱光Rに対して直交する向きに相当)へ分光を行う(図2の透過型グレーティング29から出る矢印参照)。波長毎に分光されたラマン散乱光Rは、合焦レンズ30を通過してCCD31で受光される。
【0038】
なお、図3(a)に示すように、CCD31の受光面31aで受光されるラマン散乱光Rの受光箇所Raは、試料Sのレーザ光Lの照射箇所Laに対し平行レンズ26及び合焦レンズ30の働きにより反転している(図中の照射箇所Laに係る矢印方向及び受光箇所Raに係る矢印方向)。
【0039】
図5(a)は、CCD31の受光面31a側からの平面図である。CCD31はX方向及びY方向に複数の光電変換素子32を配列して形成されている。図中、Y方向の位置(行)y1における直線状の受光箇所Raで受光されたラマン散乱光Rは、図4(c)で示される試料Sのレーザ光Lの照射箇所Laに対応したものである。
【0040】
本実施形態のCCD31は、上述したように透過型グレーティング29でY方向に分光が行われることから、ラマン散乱光Rの分光されたラマンスペクトルをY方向(直線状のラマン散乱光Rの受光箇所Raに対して直交する向きに相当)に沿って配列された各光電変換素子32で検出している。
【0041】
具体的には、受光箇所RaのX方向における部位が、位置(列)x1である第1部位R1に対して位置x1に配列された光電変換素子32で検出を行う。以下、同様に、第2部位R2に対しては位置x2に配列された光電変換素子32で、第3部位R3に対しては位置x3に配列された光電変換素子32で、第4部位R4に対しては位置x4に配列された光電変換素子32で、第5部位R5に対しては位置x5に配列された光電変換素子32で夫々検出を行う。このような検出の仕方を行うことで、CCD31は二次元的に配列された各光電変換素子32を有効に活用している。
【0042】
なお、受光箇所Raの検出される部位は図5(a)に示すように5箇所に限定されるものではなく、最低は1箇所から最高はX方向に配列される光電変換素子の数までの範囲でコンピュータ13により適宜設定できるようになっている。
【0043】
検出部位を1箇所にする場合は、従来と同様なCCDの用い方になり、また、複数の部位を検出する場合は、検出部位に近い列の光電変換素子32で検出されたラマンスペクトルを足し合わすことも可能である。例えば、X方向に240個の光電変換素子32が配列されており、ラマン散乱光Rの24等分された箇所を夫々検出する場合は、1箇所あたり10列分の光電変換素子32を用いて、10列分の検出結果を足し合わして各箇所の測定結果にすることが可能であり、このようにすることで測定感度の向上を図れる。また、複数箇所を測定する場合は、各箇所の間には検出に使用しない光電変換素子32を設けてもよい。
【0044】
図5(b)に示すグラフは、位置x1に配列された各光電変換素子32で検出されたラマンスペクトルの強度を示しており、Y方向における位置に応じたラマンスペクトルの強度が判明する。
【0045】
図6は、CCD31の各光電変換素子32で全体的に検出されたラマンスペクトルに係る1つのフレームfの画像イメージを示す三次元グラフ的な概略図である。この画像イメージのフレームfは、横軸をY方向ではなく、透過型グレーティング29で分光された各波長の逆数である波数にすると共に、フレームfの二次元平面に直交する軸を検出されたスペクトルの強度にしており、X方向における各部位の強度を波数に対応させて示している。
【0046】
よって、図2に示すラマン分光装置10の光学系本体部11では、試料Sにレーザ光Lを照射することで図6に示すようなラマンスペクトルイメージに係るフレーム画像を得ることができ、得られたフレーム画像に係る信号は、制御装置12を介してコンピュータ13へ送られ、コンピュータ13での所要の処理を経て図6に示すようなグラフをモニタ14で表示できる。
【0047】
なお、制御装置12は、コンピュータ13で設定された内容に基づき、レーザ光源20へ照射指示信号を所定のタイミングで送る制御を行うと共に、モータ25の駆動制御信号を所定のタイミングで送る制御を行う。また、コンピュータ13には試料測定に係る各種項目の設定に係る処理、CCD31から得られた画像フレームを取り込んでモニタ14に表示する処理、取り込んだ画像フレームに基づき二次元又は三次元的なラマンスペクトルイメージの画像を形成する処理、制御装置に対する処理等を規定したプログラムが記録されており、このプログラムに従いコンピュータ13は所定の処理を行う。
【0048】
本実施形態のラマン分光装置10では、図6に示すようなフレームfの画像イメージが得られると、次に、制御装置12はモータ25へ駆動制御信号を送り反射ミラー24の角度を変えて、図7(a)に示すように、レーザ光Lの試料Sへの照射箇所Laを位置y1から位置y2へ移動させる。そのため、モータ25及び反射ミラー24は、照射箇所Laを直線状のレーザ光Lに対して直交する向きへ移動させる直交移動手段として機能する。なお、図7(a)では、位置y1から右方向へ照射箇所Laを移動させているが、勿論左方向へ移動させることも、往復移動させることも可能である。
【0049】
照射箇所Laが移動すると、上記の場合と同様に位置y2における照射箇所Laから散乱光Kが生じて、ノッチフィルタ27を通過したラマン散乱光RのラマンスペクトルをCCD31で検出し、以降同様に、照射箇所Laを位置y3、y4・・・と移動させる毎にCCD31でラマンスペクトルの検出を行う。そのためCCD31は、動画を撮像するようにラマンスペクトルを検出する。即ち、本実施形態ではCCD31での検出を照射箇所Laの移動に同期させており、CCD31で検出された画像イメージのフレームのコンピュータ13での取り込みを照射箇所Laの移動に同期させてコンピュータ13の制御に基づき行っている。
【0050】
図7(b)は、フレーム取込及びレーザ光移動に係るタイミングを示すタイミングチャートである(横軸は時間t)。具体的には、レーザ光の照射箇所Laが移動している間、CCD31での検出に係るラマンスペクトルの画像イメージのフレーム取込を停止し、レーザ光の照射箇所Laが移動を停止している間は、CCD31でラマンスペクトルを検出して画像イメージのフレーム取込を行う。
【0051】
よって、制御装置12は、上述したタイミングチャートに従ってモータ25へ駆動制御信号を間欠的に送ると共に、コンピュータ13の制御によりCCD31では、検出された画像イメージに係る信号(フレームf)を駆動制御信号が送られていない間に取り込んでコンピュータ13へ送る。その結果、フレーム取込とレーザ光移動が時期的に重ならず、CCD31で検出された画像イメージが鮮明になる。
【0052】
また、コンピュータ13では、照射箇所Laの移動に同期してCCD31で取り込んだ画像イメージのフレームfを照射箇所Laの位置に対応させて合成し、図8に示すような試料Sに含まれる含有成分の特性に係る二次元のXYイメージを作成する。このXYイメージはモニタ14でも表示され(図1参照)、試料Sの特性の測定及び解析が行われる。よって、本実施形態のラマン分光装置10では、試料Sの特性を示すラマンスペクトルの二次元イメージを高速に且つ鮮明に得ることができるため試料Sを効率良く迅速に測定できる。
【0053】
なお、第1実施形態に係るラマン分光装置10は、上述した形態に限定されるものではなく、種々の変形例の適用が可能である。例えば、レーザ光源20から照射されるスポット状のレーザ光Lを直線状に変形するために、シリンドリカルレンズ22とスリット板23との両方ではなく、いずれか一方のみを用いてレーザ光Lの変形を行うようにしてもよい。また、レーザ光LのY方向への照射箇所Laの移動には、反射ミラー24を回転させる以外に、光学系本体部11自体をY方向へ移動すること、試料SをY方向へ移動することも適用できる。
【0054】
光学系本体部11自体をY方向へ移動する場合は、反射ミラー24の角度を固定し、図1に示す光学系本体部1の摺動部11bにレール支柱15に沿って摺動を駆動するためモータ(リニアモータ等)を含む直動機構を設けて制御装置12で制御する。この場合、直動機構が直交移動手段として機能する。また、試料SをY方向へ移動させる場合は、試料Sを保持する保持台を設けると共に、保持台をレール支柱15に沿って移動させるモータを含む移動機構を設けて制御装置12で制御する。この場合、固定された光学系本体部11に対し試料Sが移動することで、相対的に照射箇所Laも移動し、保持台及び移動機構が直交移動手段として機能する。
【0055】
図9(a)は、第1実施形態の別の変形例に係るラマン分光装置35の要部を示す概略図である。この変形例のラマン分光装置35は、垂直方向(Z方向)に下から試料S及び光学系本体部36が配置されており、試料Sを載置する載置台42がモータ43(平行移動手段に相当)により垂直方向(散乱光Kの光軸Ka)沿って移動するようにしたことが特徴である。即ち、載置台42を支持する支持棒42aに設けられた直動機構(図示せず)を、制御装置の制御によりモータ43で駆動することにより載置台42は上下し、試料Sに照射されるレーザ光Lの焦点が合致した照射箇所Laを垂直方向へ上下させる。
【0056】
具体的には、図9(b)に示すように、載置台42を上昇させていくと、試料Sの表面Saで反射するように合わされていた照射箇所Laが、表面Saから試料Sの厚み方向へ内方となる深層位置Sb、さらには一段と内方となる深層位置Scへと移動し、試料Sの厚み方向(深さ方向)に係るラマンスペクトルの検出をCCD48で行えるようになる。
【0057】
なお、光学系本体部36の検出系は、分光器46の前段に共焦点光学系として、試料側レンズ37及び平行レンズ45を配置すると共に、試料側レンズ37と平行レンズ45との間で試料上の焦点と共役になる焦点位置B(以下、共焦点位置Bと称す)に光学ストップとして検出系スリット板38を配置した構成にしている。検出系スリット板38は、通常の共焦点光学系で用いられるピンホールではなく縦長に開口したスリット38aを設けており、スリット38aの長手方向を照射箇所Laに対して平行にすることで、照射箇所Laから発生したラマン散乱光は、スリット38aに応じて直線状に焦点を結ぶためスリット38aを通過する。さらに、焦点位置からZ軸方向に外れた点から発生したラマン散乱光は、共焦点位置Bでは光束が広がり、スリット38aを殆ど透過できない。なお、平行レンズ45、ノッチフィルタ44、透過型分光器46、合焦レンズ47、及びCCD48の配置は、図2に示す構成と同様であり、また、光学系本体部36は照射系にレーザ光源40及びスリット板41を配置している。
【0058】
さらに、変形例のラマン分光装置35においても、載置台42を上下させるのではなく、載置台42を固定して光学系本体部36にモータを含む直動機器(平行移動手段に相当)を設けて光学系本体部36自体を上下に移動させる構成も可能である。
【0059】
さらにまた、変形例のラマン分光装置35に係る散乱光Kの光軸Kaに沿って照射箇所Laを移動させる構成は、図1、2等に係るラマン分光装置10の照射箇所LaをY方向に移動させる構成と組み合わせることも可能である。この場合、先ず、試料Sの同一深さとなる面全体のラマンイメージスペクトルを検出し、その検出が終了すると試料の深さ方向の位置を変えて、変えた面において同様に検出を行うようにすることが好適である。このような組み合わせ構成を適用すると、コンピュータ13では、最終的に試料Sの表面Saだけでなく、三次元的なラマンスペクトルイメージを形成でき、より試料Sの詳細な測定及び解析を行える。
【0060】
図10(a)は、第1実施形態のさらに別の変形例に係るラマン分光装置50の要部を示す概略図である。この変形例のラマン分光装置50は、垂直方向(Z方向)に試料S及び光学系本体部51が配置され、試料Sを載置面62a上に載置する載置台62がモータ65(回転移動手段に相当)によりZ方向に平行な軸(散乱光Kの光軸Ka)である載置台62の支柱62bを中心に回転移動するようにしたことが特徴である。支柱62bには回転ギア63が取り付けられており、この回転ギア63にモータ65のモータ軸に取り付けた駆動ギア64が噛合し、モータ軸の回転により支柱62bの中心Cを軸に回転する。なお、回転方向は時計回転方向及び反時計回転方向のいずれも可能である。
【0061】
一方、光学系本体部51は位置が固定されており、レーザ光源60から発する所要光径のレーザ光Lをスリット板61で直線状に変形し、試料Sの一部分へ照射する。この変形例では、図10(b)に示すように、Y方向に平行な直線状のスリット61aを形成したスリット板61を用いると共に、図10(c)に示すように、試料Sの表面Sa上におけるレーザ光Lの照射箇所Laを、試料Sの中心から法線方向となるY方向に平行な図中の右側部分になるようにしている。また、照射箇所Laから発生した散乱光Kは、平行レンズ66、ノッチフィルタ67、透過型グレーティング68、及び合焦レンズ69を通過し、ラマン散乱光のラマンスペクトルがCCD70で検出される。
【0062】
試料Sがモータ65により回転すると、レーザ光Lの照射箇所Laも試料Sの表面Sa上を回転移動し、この回転移動に同期してCCD70でラマンスペクトルの検出を行うことで、二次元的なラマンスペクトルのイメージ画像を得られる。なお、試料Sの回転により照射箇所Laが移動する軌跡の形状は、ドーナツ状になる。また、この変形例のラマン分光装置50に係る照射箇所Laの回転は、試料Sを載置する載置台62を固定する一方、光学系本体部51の方を回転移動させる構成も適用できる。この場合は、光学系本体部51を散乱光Kの光軸Kaに平行な軸を中心にして回転できるように配置すると共に、光学系本体部51を回転移動させる駆動部を設けて、光学系本体部51の回転移動に同期させてCCD70で検出を行うようにする。
【0063】
さらに、変形例のラマン分光装置50の回転移動に係る構成は、図9(a)に示す別の変形例のラマン分光装置35のZ方向に移動させる構成と組み合わせることも可能であり、この場合も、回転移動により一定深さとなる同一面で検出を行ってから、深さ方向の位置を変えて順次検出を行うようにすることが好適である。
【0064】
図11(a)は、本発明の第2実施形態に係るラマン分光装置80の要部(レーザ光照射系及び検出系)の構成を示す概略図である。第2実施形態のラマン分光装置80は、複数(図では3個)のレーザ光源81a〜81cを用いて合成された直線状のレーザ光Lを試料Sの表面へ照射することを特徴にしている。
【0065】
各レーザ光源81a〜81cは、発光ダイオード等の半導体素子を有してスポット状のビーム光(レーザ光)D1〜D3を発し、各ビーム光D1〜D3が連なって合成されたレーザ光Lが形成される。よって、図11(b)に示すように、試料Sの表面Saへの照射箇所Laの形状が全体として直線状になるように各レーザ光源81a〜81cは平行的に相互の間隔を詰めて配置されている。
【0066】
また、各レーザ光源81a〜81cから発せられた各ビーム光D1〜D3はスリット板82を通過して輝度を高めるようにされているが、このスリット板82は、図中のX方向に平行なスリットを有している。第2実施形態のラマン分光装置80におけるモータ84で回転移動する反射ミラー83、平行レンズ85、ノッチフィルタ86、透過型グレーティング88、合焦レンズ89、及びCCD90等の構成及び処理は、図1、2、3等に示す第1実施形態に係るラマン分光装置10と同様なので説明を省略する。
【0067】
このような第2実施形態のラマン分光装置80でも、試料Sへの照射箇所Laの形状は直線状になり、ラマンスペクトルをラマン散乱光の部位別に検出できると共に、照射箇所Laの移動により二次元的なラマンスペクトルを高速且つ安定して得ることができる。なお、第2実施形態のラマン分光装置80でも、第1実施形態に係る各種変形例の適用が可能である。
【0068】
また、上述した第1実施形態のラマン分光装置10(各種変形例も含む)、及び第2実施形態のラマン分光装置80に係る構成は、表面増強ラマン分光装置にも適用可能である。さらに、蛍光分光装置及びホトルミネッセンス分光装置に対しても、各実施形態のラマン分光装置10、80(各種変形例も含む)における関連する構成を適用することも可能である。
【0069】
例えば、蛍光分光装置及びホトルミネッセンス分光装置に図2に示すようなシリンドリカルレンズ22、スリット板23、及びモータ25により回転する反射ミラー24を有する照射系を適用し、試料Sへ照射する光の形状を直線状に変形すると共に、直線状の光に対して試料への光の照射箇所を直交する向きへ移動し、試料から直線状の発光を生じさせる。さらに、蛍光分光装置及びホトルミネッセンス分光装置が有する検出系の分光器で試料からの発光を分光する際、図2に示す形態と同様に前記直線状の発光に対して直交する向きへ分光し、検出器に相当する複数の光電変換素子を二次元的に配列したCCDで、前記直線状の発光に対して直交する向きに配列された光電変換素子で部位別に発光の検出を行うようにする。このように蛍光分光装置及びホトルミネッセンス分光装置においても、上述した構成を適用することで、二次元的な検出結果を高速に且つ安定して得られる。
【0070】
なお、蛍光分光装置及びホトルミネッセンス分光装置においても、上述した図2に示す同等な構成以外に、図9(a)、図10(a)、及び図11(a)に示す同等な構成も適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の第1実施形態に係るラマン分光装置の外観を示す概略斜視図である。
【図2】第1実施形態のラマン分光装置を示す装置正面方向からの構成図である。
【図3】光学系本体部を示す装置側面方向からの構成図であり、(a)は照射箇所の中央点から発生したラマン散乱光の光路を示す構成図、(b)は照射箇所の端点から発生したラマン散乱光の光路を示す構成図である。
【図4】(a)はシリンドリカルレンズを示す平面図、(b)はスリット板を示す平面図、(c)は試料への照射箇所を示す平面図である。
【図5】(a)はCCDでの検出状況を示す平面図、(b)はCCDでの所要位置で検出されたラマンスペクトルの強度を示すグラフである。
【図6】CCD全体で検出されたラマンスペクトルの強度を示す三次元的なグラフの画像イメージに係るフレームの概略図である。
【図7】(a)は試料における照射箇所の移動状況を示す平面図、(b)はフレーム取込及びレーザ光移動の同期関係を示すタイミングチャートである。
【図8】ラマン分光装置で得られたラマンスペクトルのXYイメージを示す概略図である。
【図9】(a)は第1実施形態の変形例に係るラマン分光装置の要部を示す概略図であり、(b)は試料の深さ方向におけるレーザ光の照射状況を示す概略図である。
【図10】(a)は第1実施形態の別の変形例に係るラマン分光装置の要部を示す概略図、(b)はスリット板を示す平面図、(c)は試料への照射箇所の位置を示す平面図である。
【図11】(a)は本発明の第2実施形態に係るラマン分光装置の要部を示す概略図、(b)は試料へのレーザ光の照射形状を示す平面図である。
【図12】従来のラマン分光装置の構成を示す概略図である。
【図13】(a)は別の従来のラマン分光装置の構成を示す概略図、(b)は試料へのレーザ光の照射形状を示す平面図、(c)は得られたラマンイメージを示す概略図である。
【図14】(a)は従来の一般的なラマン分光装置におけるCCDでの検出状況を示す概略図であり、(b)は検出されたラマンスペクトルと波数との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0072】
10 ラマン分光装置
11 光学系本体部
12 制御装置
13 コンピュータ
20 レーザ光源
22 シリンドリカルレンズ
23 スリット板
24 反射ミラー
25 モータ
27 ノッチフィルタ
29 透過型グレーティング
31 CCD
32 光電変換素子
K 散乱光
L レーザ光
La 照射箇所
R ラマン散乱光
S 試料
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料へ光を照射して発生させた散乱光の中からラマン散乱光を通過させる遮光フィルタと、通過したラマン散乱光を分光する分光器と、分光されたラマン散乱光のラマンスペクトルを検出する複数の光電変換素子を二次元的に配列した検出器とを備えるラマン分光装置において、
試料への光の照射形状を直線状に変形する変形手段を備え、
前記分光器は、直線状の光の照射に応じて発生した直線状のラマン散乱光に対して直交する向きへ分光しており、
前記検出器は、直線状のラマン散乱光に対して直交する向きに配列された光電変換素子でラマンスペクトルをラマン散乱光の部位別に検出するようにしてあることを特徴とするラマン分光装置。
【請求項2】
試料へ光を照射して発生させた散乱光の中からラマン散乱光を通過させる遮光フィルタと、ラマン散乱光を分光する分光器と、分光されたラマン散乱光のラマンスペクトルを検出する複数の光電変換素子を二次元的に配列した検出器とを備えるラマン分光装置において、
スポット状のビーム光を照射する複数の光源を備え、
該複数の光源は、夫々照射したビーム光が連なって試料への照射形状が直線状の光になるように配置してあり、
前記分光器は、前記複数の光源による直線状の光の照射に応じて発生した直線状のラマン散乱光に対して直交する向きへ分光しており、
前記検出器は、直線状のラマン散乱光に対して直交する向きに配列された光電変換素子でラマンスペクトルをラマン散乱光の部位別に検出するようにしてあることを特徴とするラマン分光装置。
【請求項3】
試料への光の照射箇所を直線状の光に対して直交する向きへ移動させる直交移動手段を備える請求項1又は請求項2に記載のラマン分光装置。
【請求項4】
発生した散乱光の光軸に平行な軸を中心にして試料への光の照射箇所を回転移動させる回転移動手段を備える請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のラマン分光装置。
【請求項5】
発生した散乱光の光軸に沿って試料への光の照射箇所を移動させる平行移動手段を備える請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のラマン分光装置。
【請求項6】
試料への光の照射箇所の移動に同期して前記検出器でラマンスペクトルの検出を行う手段を備える請求項3乃至請求項5のいずれかに記載のラマン分光装置。
【請求項7】
試料へ光を照射して生じさせた発光を分光する分光器と、分光された発光に係る検出を行う複数の光電変換素子を二次元的に配列した検出器とを備える分光装置において、
試料への光の照射形状を直線状に変形する変形手段と、
直線状に変形した光に対して試料への光の照射箇所を直交する向きへ移動させる直交移動手段とを備え、
前記分光器は、直線状の光の照射に応じて生じた直線状の発光に対して直交する向きへ分光しており、
前記検出器は、直線状の発光に対して直交する向きに配列された光電変換素子で発光の部位別に検出を行うようにしてあることを特徴とする分光装置。
【請求項1】
試料へ光を照射して発生させた散乱光の中からラマン散乱光を通過させる遮光フィルタと、通過したラマン散乱光を分光する分光器と、分光されたラマン散乱光のラマンスペクトルを検出する複数の光電変換素子を二次元的に配列した検出器とを備えるラマン分光装置において、
試料への光の照射形状を直線状に変形する変形手段を備え、
前記分光器は、直線状の光の照射に応じて発生した直線状のラマン散乱光に対して直交する向きへ分光しており、
前記検出器は、直線状のラマン散乱光に対して直交する向きに配列された光電変換素子でラマンスペクトルをラマン散乱光の部位別に検出するようにしてあることを特徴とするラマン分光装置。
【請求項2】
試料へ光を照射して発生させた散乱光の中からラマン散乱光を通過させる遮光フィルタと、ラマン散乱光を分光する分光器と、分光されたラマン散乱光のラマンスペクトルを検出する複数の光電変換素子を二次元的に配列した検出器とを備えるラマン分光装置において、
スポット状のビーム光を照射する複数の光源を備え、
該複数の光源は、夫々照射したビーム光が連なって試料への照射形状が直線状の光になるように配置してあり、
前記分光器は、前記複数の光源による直線状の光の照射に応じて発生した直線状のラマン散乱光に対して直交する向きへ分光しており、
前記検出器は、直線状のラマン散乱光に対して直交する向きに配列された光電変換素子でラマンスペクトルをラマン散乱光の部位別に検出するようにしてあることを特徴とするラマン分光装置。
【請求項3】
試料への光の照射箇所を直線状の光に対して直交する向きへ移動させる直交移動手段を備える請求項1又は請求項2に記載のラマン分光装置。
【請求項4】
発生した散乱光の光軸に平行な軸を中心にして試料への光の照射箇所を回転移動させる回転移動手段を備える請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のラマン分光装置。
【請求項5】
発生した散乱光の光軸に沿って試料への光の照射箇所を移動させる平行移動手段を備える請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のラマン分光装置。
【請求項6】
試料への光の照射箇所の移動に同期して前記検出器でラマンスペクトルの検出を行う手段を備える請求項3乃至請求項5のいずれかに記載のラマン分光装置。
【請求項7】
試料へ光を照射して生じさせた発光を分光する分光器と、分光された発光に係る検出を行う複数の光電変換素子を二次元的に配列した検出器とを備える分光装置において、
試料への光の照射形状を直線状に変形する変形手段と、
直線状に変形した光に対して試料への光の照射箇所を直交する向きへ移動させる直交移動手段とを備え、
前記分光器は、直線状の光の照射に応じて生じた直線状の発光に対して直交する向きへ分光しており、
前記検出器は、直線状の発光に対して直交する向きに配列された光電変換素子で発光の部位別に検出を行うようにしてあることを特徴とする分光装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2006−113021(P2006−113021A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−303221(P2004−303221)
【出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]