説明

ラマン分析装置

【課題】測定精度を向上させること。
【解決手段】測定対象(16)に照射される励起用の励起光を発生する励起光源(11)と、内部を光が透過可能な複数の光ファイバが束ねられたファイバ束(3)であって、測定対象(15)からのラマン光が入射される入射部(21)と、ラマン光が射出される射出部(22)と、を有するファイバ束(3)と、ラマン光を分光する分光部(28)と、前記分光された光を受光して検出する検出器(31)と、を備え、射出部(22)において、光ファイバの他端が、分光部(28)に対して入射される光の仰角(γ)に基づいて、弧状の線上に配置されたラマン分析装置(1)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光等の励起光を分析対象に照射し、散乱するラマン光を分光分析することで対象の分析を行うラマン分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象からの光を分光して測定する分光分析装置では、測定範囲を調整して測定する部位の視野を設定したり、分解能を調整するために絞り(スリット)を配置することが一般的である。絞りを使用した分光分析装置として、例えば、以下の特許文献1記載の技術が知られている。
特許文献1(特開2001−264166号公報)には、集光リレーレンズを通過した光を光ファイバのファイババンドル(20)に導入し、ファイババンドル(20)を通過した光を入射スリット(22)で絞って、分光器(3)で分光して、測定を行う構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−264166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、測定精度を向上させることを第1の技術的課題とする。
また、本発明は、測定速度を高速化することを第2の技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記技術的課題を解決するために、請求項1記載の発明のラマン分析装置は、
測定対象に照射される励起用の光を発生する励起光源と、
内部を光が透過可能な複数の光ファイバが束ねられたファイバ束であって、前記励起用の光が照射された前記測定対象からのラマン光が入射される前記光ファイバの一端側の入射部と、前記光ファイバの内部を透過したラマン光が射出される前記光ファイバの他端側の射出部と、を有する前記ファイバ束と、
前記各光ファイバの他端側から射出されたラマン光を、ラマン光に含まれる各波長のスペクトル成分に分光する分光部と、
前記分光された光を受光して検出する検出器と、
を備え、
前記射出部において、前記光ファイバの他端が、前記分光部の回折格子へ入射する光の仰角に基づいて、弧状の線上に配置された
ことを特徴とする。
【0006】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のラマン分析装置において、
複数の測定対象に対してそれぞれ接続される複数の入射部と、前記各入射部と接続される1つの射出部と、を有する前記ファイバ束、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載の発明によれば、前記光ファイバの他端が弧状の線上に配置されていない場合に比べて、分光された光のスペクトルの曲がりを低減でき、測定精度を向上させることができる。また、検出部が2次元アレイで構成された場合には、測定速度を高速化することができる。
請求項2記載の発明によれば、複数の測定対象を一度に分析することができ、測定速度を高速化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は本発明の実施例1のラマン分析装置の全体説明図である。
【図2】図2は測定対象の別の例の有機化合物製造装置の説明図である。
【図3】図3は測定対象の別の例の説明図であり、図3Aは測定対象の一例としてのパイプの説明図、図3Bは測定対象の一例としての岩石の説明図である。
【図4】図4は実施例1の光ファイバの説明図であり、図4Aは全体図、図4Bは測定対象側の端部の説明図、図4Cは測定対象側の端部の光ファイバの配列の説明図、図4Dは分析装置側の端部の説明図、図4Eは分析装置側の端部の光ファイバの配列の説明図である。
【図5】図5は光ファイバで導かれた光と回折格子で分光された波長毎の光と検出器との関係の説明図である。
【図6】図6は45度の入射角における検出されるスペクトルの説明図であって、縦軸にスペクトルの曲がりを取り横軸にスリットの高さを取った説明図であり、図6Aは従来の直線上のスリットを使用した場合に測定されるスペクトルの説明図、図6Bは実施例1の光ファイバをスリットに替えて使用した場合に測定されるスペクトルの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
なお、以下の図面を使用した説明において、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【実施例1】
【0010】
図1は本発明の実施例1のラマン分析装置の全体説明図である。
図1において、本発明の実施例1のラマン分析装置1は、分光部の一例としての装置本体2と、装置本体2に導波部の一例としてのファイバ束3を介して接続された4つのプローブヘッド4とを有する。なお、第1のプローブヘッド4a、第2のプローブヘッド4b、第3のプローブヘッド4c、第4のプローブヘッド4dは同様に構成されているため、第1のプローブヘッド4aについて詳細に説明して、その他のプローブヘッド4b〜4dについては、詳細な説明は省略する。
【0011】
各プローブヘッド4a〜4dには、励起用の光の一例としてのレーザー光が導入される励起光導入部6と、測定対象に対応して配置されてラマン光を含む測定対象からの測定光が導入されるプローブ導入部7と、測定光が導出される測定光導出部8とが設けられている。励起光導入部6には、ラマン励起用のレーザー光を出力する励起光源11が光ファイバ12により接続されている。
前記励起光導入部6から導入されたレーザー光は、予め設定された波長領域の光を透過させ、且つ、透過波長領域以外の波長領域の光を反射させるエッジフィルタ13により、反射される。反射されたレーザー光は、集光レンズ14を介してプローブ導入部7を通じて、測定対象15に照射される。なお、測定対象15については、後述する。
【0012】
測定対象からのラマン光を含む測定光は、プローブ導入部7からプローブヘッド4内に導入される。プローブヘッド4内に導入された測定光は、エッジフィルタ13で励起用のレーザー光(レーリー光)は反射され、ラマン光は透過する。エッジフィルタ13を透過したラマン光は、エッジフィルタ13で除去しきれなかったレーリー光を除去するためのノッチフィルタ16およびエッジフィルタ17を通過して、測定光導出部8に導かれる。
測定光導出部8には、複数の光ファイバが束ねられたファイバ束3の一端部の一例としての入射部21が接続されており、実施例1の入射部21は、各プローブヘッド4a〜4dの測定光導出部8に接続される4つの入射部21a〜21dからなる。
【0013】
ファイバ束3の他端部には、装置本体2の本体導入部2aに接続されると共に、4つのプローブヘッド4a〜4dからの光ファイバが集まった1つの射出部22が設けられている。装置本体2には、本体導入部2aから導入され、ラマン光を平行光にするコリメータ27が配置されている。コリメータ27で平行にされた光は、分光部材の一例としての透過型の回折格子28で分光される。
分光された光は、結像素子の一例としての結像レンズ29で結像されて、測定装置の一例としてのCCDカメラ31で撮像される。なお、実施例1のCCDカメラ31では、撮像面として、撮像素子が2次元的に配列されている(2次元アレイで構成されている)。
【0014】
(測定対象の説明)
(細胞組織の測定の例)
実施例1のラマン分析装置1は、測定対象15の一例として、人体の皮膚の測定に使用可能である。具体的には、人体の腕の皮膚において、皮膚ガンの可能性がある検査対象の部位15aに対して、皮膚ガンの可能性が低い肌の部位15b,15cや、皮膚ガンの可能性の低い黒子の部位15dに対して、それぞれ、4つのプローブヘッド4a〜4dが配置され、各部位15a〜15dに対するラマン測定が行われる。特に、皮膚ガンに関しては、切除すると転移を誘発する恐れがあるため、皮膚ガンの恐れのある部位の一部を切除して検査を行うことが困難であり、血液検査等で従来はガンの判断を行っていたが、実施例1のラマン分析装置1を使用することで、皮膚ガンの恐れの少ない測定データの基準となる部位15b〜15dにおけるラマンイメージと、皮膚ガンの恐れのある検査対象の部位15aのラマンイメージとを同時に測定し、比較することで、皮膚ガンであるか否かの判定に使用することが期待できる。さらに、各プローブヘッドごとにイメージ測定が可能であるので、正常細胞とガン細胞の境界を見分けることも期待できる。
【0015】
(有機化合物製造装置の例)
図2は測定対象の別の例の有機化合物製造装置の説明図である。
実施例1のラマン分析装置1は、測定対象の一例として有機化合物製造装置15′に使用可能である。具体的には、有機化合物製造装置15′の一例として、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物の製造装置における複数のプロセス(工程)において、各プロセスにおける目的の生成物が生成されているかを分析するために使用可能である。
すなわち、第1プロセス15a′では、酢酸ビニルとエチレンをアルコール等の溶媒下で共重合して、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVAc)を作成する。第2プロセス15b′では、第1プロセス15a′で作成されたEVAcのアルコール溶液に、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ触媒を加えて、第1プロセス15a′において不純物として生成される酢酸ビニルエステル類を酢酸とアセトアルデヒドに分解する。第3プロセス15c′では、第2プロセス15b′後の溶液に、硫酸や塩酸等のアセタール化触媒を加えて、アセトアルデヒドをアセタール化合物に変化させる。第4プロセス15d′では、第3プロセス15c′後の溶液に、アルカリ触媒を加えて、鹸化して、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(EVOH)を生成する。
【0016】
そして、4つのプロセス15a′〜15d′のそれぞれに対して、4つのプローブヘッド4a〜4dが配置され、各プロセス15a′〜15d′におけるラマン光の測定が行われる。
なお、このようにエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(EVOH)を生成する技術は、例えば、特開2010−77352号公報等に記載されており、従来公知であるため、詳細な説明は省略する。
また、測定対象は、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物を製造する各プロセスに限定されず、1または複数の測定対象を有する構成であれば、任意の物体やプロセスを測定対象とすることが可能である。
【0017】
(パイプの例)
図3は測定対象の別の例の説明図であり、図3Aは測定対象の一例としてのパイプの説明図、図3Bは測定対象の一例としての岩石の説明図である。
図3Aにおいて、測定対象15の別の一例として、筒状体であるパイプ36の検査を行う場合には、パイプ15の異なる4つの被測定位置36a,36b,36c,36dに4つのプローブヘッド4a〜4dを配置して、各被測定位置36a〜36dにおいて、パイプ36に使用されている素材の変質等の劣化の測定を行うことが可能である。また、プローブヘッド4a〜4dを、パイプ36を貫通させてパイプ内部に露出させ、パイプの内部に流体等を流すことで、異なる4箇所における流体の状態を測定することが可能である。例えば、上流側で複数の流体を混合した場合には、4箇所の被測定位置36a〜36dにおける流体の混ざり具合を測定したり、流体の組成の分布を測定することも可能である。
【0018】
(固体の例)
図3Bにおいて、測定対象15の別の一例として、固体である岩石37の測定を行う場合には、岩石37の異なる4つの被測定位置37a,37b,37c,37dに4つのプローブヘッド4a〜4dを配置して、各被測定位置37a〜37dにおいて、岩石の組成を測定することが可能である。すなわち、組成不明の岩石37の測定を行う場合に、岩石37の色の異なる部位にそれぞれプローブヘッド4a〜4dを配置することで、岩石37の各部の測定をイメージで行うことができる。すなわち、イメージ測定により岩石の成長の過程の研究に応用することも期待できる。
また、岩石とは異なる固体の一例として、触媒の測定を行う場合には、触媒の表面の劣化について測定を行うことも可能である。
さらに、岩石とは異なる固体の一例として、例えば、動植物の細胞組織の異なる位置における組成の測定等を行うことも可能である。さらに、イメージ測定により細胞組織の成長の過程をリアルタイムで追跡する研究に応用することも期待できる。
【0019】
(光ファイバの説明)
図4は実施例1の光ファイバの説明図であり、図4Aは全体図、図4Bは測定対象側の端部の説明図、図4Cは測定対象側の端部の光ファイバの配列の説明図、図4Dは分析装置側の端部の説明図、図4Eは分析装置側の端部の光ファイバの配列の説明図である。
図1、図4において、実施例1のファイバ束3では、入射部21a〜21dは、同様の形状に形成されており、縦8つ横8つ、すなわち8×8の格子状に光ファイバの他端41が配列されている。
また、射出部22では、4つの入射部21a〜21dから延びる光ファイバの一端42が一列に配列されており、8×8×4=256個の光ファイバの一端42が一列に配列されている。
なお、実施例1のCCDカメラ31では、射出部22の配列に対応して、光ファイバの一端42が配列される方向(直線S1の方向)に沿って、256個の画素が配置され、一端42が配列される方向に垂直な方向である分光された波長の分布する方向に沿って、測定する波長λ〜λに対応する数の画素が配列されている。
【0020】
図5は光ファイバで導かれた光と回折格子で分光された波長毎の光と検出器との関係の説明図である。
図4、図5において、射出部22の光ファイバの一端42と、入射部21a〜21dの光ファイバの他端41との対応関係は、第1の入射部21aの1行1列、2行1列、…、8行1列、8行2列、7行2列、…、1行2列、1行3列、…、2行8列、1行8列の順に、射出部22の上端から並んでおり、続けて、第1の入射部21aと同様にして、第2の入射部21bの1行1列、2行1列、…、1行8列、第3の入射部21cの1行1列、…、1行8列、第4の入射部21dの1行1列、…、1行8列の順に、配置されている。
図4、図5において、実施例1では、射出部22では、各光ファイバの一端42は、直線S1に対して弧状の曲線S2に沿って配置されている。
【0021】
図6は45度の入射角における検出されるスペクトルの説明図であって、縦軸にスペクトルの曲がりを取り横軸にスリットの高さを取った説明図であり、図6Aは従来の直線上のスリットを使用した場合に測定されるスペクトルの説明図、図6Bは実施例1の光ファイバをスリットに替えて使用した場合に測定されるスペクトルの説明図である。
図6Aにおいて、ラマン分析装置において、測定対象からの光の測定をする場合には、従来、スリットを通過した光を平行光にして、回折格子(グレーティング)で分光して測定を行う。ここで、スリットが一般に使用される直線状のスリットの場合、回折格子における分散により、図6Aに示すように、測定されるスペクトル像は曲がる。これに対して、実施例1のように、ファイバ束3の射出部22において、各ファイバの一端42を曲率半径Rを有する曲線S2に沿って配列することで、図6Bに示すように、スペクトル像のカーブが矯正される。
【0022】
射出部22の一端42が配列される弧状の曲線S2の曲率半径Rは、回折格子28へ入射される光の仰角(俯角)に依存する。
すなわち、一般の回折格子において、回折格子への光の入射角をα、回折角をβ、格子定数をσ(1/σ:溝の本数)、波長をλ、次数をmとした場合に、以下の回折格子の分散式である式(1)が成立する。
sinα+sinβ=m×λ/σ …式(1)
【0023】
ここで、式(1)は、回折格子の溝に対して垂直な面である主平面内に光が入射した場合の式であり、実際のラマン分析装置1では、入射スリットの高い位置から入射する光は光が斜め上(または斜め下)から入射される。この場合のように回折格子の面に対して仰角(または俯角)を持って入射される場合には、仰角(俯角)をγとした場合、回折格子の分散式は、以下の式(2)となる。
cosγ×(sinα+sinβ)=m×λ/σ …式(2)
この式を書き直すと以下の式(3)となる。
sinα+sinβ=m×λ/(σ×cosγ) …式(3)
【0024】
したがって、式(3)から、仰角γがゼロでない場合は、cosγ<1となり、溝の本数1/σが、1/(σ×cosγ)>1/σとなって、溝の本数が、見かけ上増えることになる。したがって、仰角(俯角)がある場合(すなわち、斜め入射の場合)には、入射角αを一定に固定すると、回折角βは大きくなり、結像されるスペクトル線に曲がりが生じる。
逆に言えば、スペクトルの像が直線になるための入射スリットの曲がり(曲線S2の曲率半径R)は、回折角βを一定にすることで演算することができる。
【0025】
(曲線S2の設定方法)
したがって、曲線S2は、以下に示す(1)〜(4)のようにして求めることが可能である。
(1)分光部(透過型回折格子28)の全体配置を決める。
(2)分光部の分散により検出器の中心にくる(中心にしたい)波長である測定中心波長λ(例えば、λn/2)を選択する。
(3)測定中心波長λの光が結像する2次元アレイ検出器(CCDカメラ31)の位置に、直線状のスリットをセットした条件で(セットするものと仮定して)、回折格子の分散式である式(3)を使用して、入射スリットの曲がり(入射角αの各波長におけるズレ)を計算する。
(4)入射スリットの曲がりを円弧に近似する。なお、近似には、例えば最小二乗法を使用することが可能である。
【0026】
(実施例1の作用)
前記構成を備えた実施例1のラマン分析装置1では、各部位15a〜15d等において測定を行う場合に、4つのプローブヘッド4a〜4dからラマン励起光が照射され、各プローブヘッド4a〜4dから4つの入射部21a〜21dを有するファイバ束3を介して、発生したラマン光が装置本体2に導入される。各部位15a〜15d等からのラマン光は、分光部28で分光され、2次元アレイのCCDカメラ31で測定される。すなわち、いわゆるポリクロメータとして機能する。このとき、図5に示すように、ファイバ束3の光ファイバの一端42の1つ1つを画素と見た場合に、各画素毎に、波長λ〜λのスペクトル強度が、CCDカメラ31の各対応する行(回折格子により分散する方向)で一度に測定される。したがって、透過型回折格子28を回転(波長の走査)させなくても、一度に、複数の部位15a〜15d等における各画素毎に波長λ〜λのスペクトル分析を行うことができ、多くの場所について短時間で測定を行うことができる。
【0027】
また、実施例1のラマン分析装置1では、ファイバ束3の射出部22において、光ファイバの一端42が、仰角γに対応する弧状の曲線S2に沿って配置されている。したがって、光ファイバの一端42を直線S1上に沿って配置する場合に比べて、図6に示すように、測定されるスペクトル像の曲がりが低減される。したがって、実施例1のラマン分析装置1では、CCDカメラ31において、同じ波長のスペクトルが縦一列に並ぶので、列の配置列をファイバの入射部21a〜21d側の配列に並び直すだけで、そのままラマンバンドのイメージが測定できる。
従来技術では、図6Aに示すように、スペクトル像が曲がっている場合には、CCDカメラ31の画素において、各行で測定されるスペクトルの波長が異なるため、各々に対して波長校正を実施する必要がある。このため、同じ波長のスペクトル強度によるラマン像を作成するには波長校正やスペクトルの内挿などの複雑な計算を要する上、さらに含まれるノイズにより測定データに大きな誤差を生むことにもなる。すなわち、同じ波長のスペクトルが曲がるため、ラマンバンドに対するCCDカメラ31の各画素(ピクセル)の寄与が異なり、各行のスペクトル純度や波長の正確さ、さらにはS/N比等にバラツキが出てしまい、全体として制度の低い分析になる。したがって、実施例1の方法により測定の精度が向上し、測定結果の信頼性が向上している。
【0028】
また、実施例1のラマン分析装置1では、複数のプローブヘッド4a〜4dを備えており、各プローブヘッド4a〜4dがファイバ束3を介して1つの装置本体2に接続されている。したがって、複数の部位15a〜15d等の全てまたは一部を選択して、同時に測定することが可能になっており、部位15a〜15d等のそれぞれに分析装置を設置したり、分析装置を移動したりする場合に比べて、分析作業を簡便に行うことができる。特に、光ファイバの長さは、任意の長さに設定可能であり、部位15a〜15d等どうしの距離が離れていても、ファイバ束3を対応させることで容易に接続することが可能である。
【0029】
(変更例)
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、種々の変更を行うことが可能である。本発明の変更例(H01)〜(H08)を下記に例示する。
(H01)前記実施例において、検出器としてCCDカメラ31を例示したが、これに限定されず、測定目的の波長等に応じて、任意の検出器を採用可能であり、波長を選択するためのフィルター等を使用する構成とすることも可能である。
(H02)前記実施例において、光学素子として、エッジフィルタや結像レンズ等を例示したが、これに限定されず、光路の設定や仕様等に応じて、光学素子を増減したり、反射鏡やトロイダル鏡等の他の光学素子を使用することも可能である。
【0030】
(H03)前記実施例において、分光部として、透過型回折格子28を使用する構成を例示したが、これに限定されず、反射型の回折格子等、従来公知の任意の分光部を採用することが可能である。
(H04)前記実施例において、回折格子28を固定とする構成を例示したが、回折格子28を上下方向に延びる回転軸を中心に回転可能な構成として、回転角度を制御することで測定する波長を変化させることも可能である。したがって、例えば、まず、波長λ〜λの領域の測定を行った後に、回折格子28を回転させて波長λn+1〜λ2nの領域の測定を行い、さらに回折格子28を回転させて波長λ2n+1〜λ3nの領域の測定を行うことが可能となり、3回の撮像でλ〜λ3nの領域、すなわち3n個の波長について測定をすることができ、測定を大幅に高速化することが可能となる。
【0031】
(H05)前記実施例において、2次元アレイのCCDカメラ31を例示したが、これに限定されず1次元アレイのCCDカメラや1素子のみの検出器を使用することも可能である。したがって、縦長の画素を横一列に並べた1次元アレイを分光部の分散方向に配置すると、特定の画素に対して、複数の波長の測定が可能であり、ポリクロメータの走査なしで、スペクトルを最大信号、最小ノイズ、最大スペクトル分解で測定することができる。また、実施例1の構成では、分光部がポリクロメータとして機能するのに対して、1次元アレイを直線S1に対応する方向に沿って並べ且つ回折格子28を回転させて波長の走査を行うと、各画素について波長のスペクトルの測定を行う構成、いわゆるモノクロメータとして機能する。さらに、検出器が1素子のみの場合、モノクロメータとして機能し、検出器を最小にすることができ、検出器からのノイズも押さえることができる。
【0032】
(H06)前記実施例において、ラマンイメージ画像を撮像する際に、入力されるレーザー光の波長は、特定の波長のものを使用したが、これに限定されず、例えば、励起波長が異なる光源ユニットを並べて使用することも可能である。
(H07)前記実施例において、8×8の格子状に配列したが、これに限定されず、測定したい部分の形状に応じて直線状や波状、短冊状、櫛歯状等、任意の配列とすることが可能である。特に、スリットを使用する場合には、スリットの形状に制約が発生する場合が多いが、光ファイバを使用した場合には、スリットに比べて、配列の自由度を高めることができる。
【0033】
(H08)前記実施例において、測定対象物として、皮膚の部位15a〜15dやプロセス15a′〜15d′やパイプ、固体を例示したが、これらに限定されず、例えば、皮膚以外の患部や内臓等の臓器、摘出された生体、腫瘍、細胞等の分子イメージの測定、別の高分子材料(高分子の結晶性の違いや結晶の分布状態を検査)や、薬剤や錠剤(構成されている成分や不純物の検査)、岩石以外の鉱物(組成や含有する不純物の検査)、文化財の材料の同定等について検査することも可能である。
【符号の説明】
【0034】
1…ラマン分析装置、
3…ファイバ束、
11…励起光源、
15…測定対象、
21…入射部、
22…射出部、
28…分光部、
31…検出器、
γ…仰角、
S2…線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象に照射される励起用の光を発生する励起光源と、
内部を光が透過可能な複数の光ファイバが束ねられたファイバ束であって、前記励起用の光が照射された前記測定対象からのラマン光が入射される前記光ファイバの一端側の入射部と、前記光ファイバの内部を透過したラマン光が射出される前記光ファイバの他端側の射出部と、を有する前記ファイバ束と、
前記各光ファイバの他端側から射出されたラマン光を、ラマン光に含まれる各波長のスペクトル成分に分光する分光部と、
前記分光された光を受光して検出する検出器と、
を備え、
前記射出部において、前記光ファイバの他端が、前記分光部の回折格子へ入射する光の仰角に基づいて、弧状の線上に配置された
ことを特徴とするラマン分析装置。
【請求項2】
複数の測定対象に対してそれぞれ接続される複数の入射部と、前記各入射部と接続される1つの射出部と、を有する前記ファイバ束、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載のラマン分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−122851(P2012−122851A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273978(P2010−273978)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年9月1日 分子科学会発行の「第4回分子科学討論会2010 講演要旨集(CD−ROM)」に発表
【出願人】(593230855)株式会社エス・テイ・ジャパン (13)
【Fターム(参考)】