説明

ラミネート装置におけるワーク剥離方法とその機構

【課題】 二重の剥離シートが不要であるのみならず、加熱加工が実施された後のワークと上チャンバとの剥離を確実かつ速やかに行うことができるワーク剥離方法と、この方法を実施するための機構を提供すること。
【解決手段】 ダイヤフラム3を備えた上チャンバ1と熱板8を備えた下チャンバ6とを具備するラミネート装置LAによりワークWをラミネート加工するとき、前記チャンバ内で当該ワークWに対する加熱加工の後、前記ダイヤフラム3とワークWの間に気体を強制注入すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば太陽電池モジュール製造用などのラミネート装置において、ゴムシート等による柔軟な気密性ダイヤフラムを備えた上チャンバと熱板を備えた下チャンバが閉じて形成するチャンバの中で、前記熱板上に位置付けてラミネート加工されるワークと、上昇する上チャンバの付属部材(ダイヤフラムや剥離シートなど)との剥離を、確実かつ速やかに行う方法とそのための機構に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池モジュール用などのラミネート装置の概要は、ダイヤフラムを備えた上チャンバと熱板を備えた下チャンバとからラミネート加工工程用のチャンバが形成され、前記熱板上に被ラミネート材(ワーク)を配置し上,下両チャンバを閉じて前記被ラミネート材を加熱するとき、下チャンバを真空引きしてから上チャンバを大気圧に開放することにより、上記ダイヤフラムで仕切られた上,下チャンバの圧力差とその圧力差が作用するダイヤフラムによって前記ワークに所要ラミネートを施すことを基本形態とする装置であり、特許文献1などにより公知である。
【0003】
上記ラミネート装置においては、ラミネートのための材料の一つとしてEVAを使用することがあるが、EVAがワークからはみ出していると、このはみ出しEVAがダイヤフラムに付着してダイヤフラムを汚損するおそれがあるため、従来は当該ダイヤフラムをワークに対してカバー乃至遮蔽する趣旨で柔軟シート材による剥離シートを使用することが提案され、大半のラミネート装置はこの剥離シートをダイヤフラム側に備えている。
【0004】
しかし乍ら、剥離シートを備えたラミネート装置においても、はみ出しEVAが当該シートに付着すると、上チャンバの上昇時にワークが上チャンバと一緒に持上げられてしまうことがあり、そのワークが殊に太陽電池モジュールの場合にはガラスを構成材料としているため、持上げられたワークが落下すると、そのガラスが破損して歩留まりを低下させるのみならず、傍に居る作業員などが割れたガラスによって負傷する懸念もある。
【0005】
上記問題に対して従来、剥離シートをワークの上にもう一枚被せる形態(つまり、二重剥離シート形態)を採り、ワークの持上りを防ぐことも試みられているが、これは剥離シートを余分に必要とするのみならず、ラミネート工程の自動化の障害になっている。
【特許文献1】特開平10−95089号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明では、二重の剥離シートが不要であるのみならず、加熱加工が実施された後のワークと上チャンバとの剥離を確実かつ速やかに行うことができるワーク剥離方法と、この方法を実施するための機構を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決することを目的としてなされた本発明のワークの剥離方法の構成は、ダイヤフラムを備えた上チャンバと熱板を備えた下チャンバとを具備するラミネート装置によりワークをラミネート加工するとき、前記チャンバ内で当該ワークに対する加熱加工の後、前記ダイヤフラムとワークの間に気体を強制注入することを特徴とするものである。
【0008】
上記の剥離方法において、使用するラミネート装置の上チャンバがダイヤフラムの下に剥離シートを備えたものであるときは、ワーク剥離用の気体は当該剥離シートとワークの間に注入することとなる。この場合における前記剥離シートは、上チャンバに固定的に設けられたものでも自動巻取式で移動可能に設けたもののいずれであってもよい。
【0009】
次に、本発明方法を実施するためのワーク剥離機構の構成は、ダイヤフラムを備えた上チャンバと熱板を備えた下チャンバとを具備するラミネート装置において、上チャンバ又は下チャンバの側面に、チャンバ内のワークとダイヤフラム又は剥離シートの間に気体を吹込み注入する気体注入手段を設けたことを特徴とするものである。
【0010】
上記のワーク剥離機構において、気体注入手段はチャンバ内へ向けた圧縮エアなどの気体吹出口を移動可能に、具体的には上下動又は左右動或は前後動、若しくは、これらの適宜組合せ態様で設けることが望ましい。気体吹出口の移動は、ワークとダイヤフラム又は剥離シートの剥離状況に対応してワークの剥離をより効率よく行うためである。この趣旨で、気体吹出口を複数個設けることが好ましい。また、気体吹出口は、ラミネート装置におけるワークの移送方向の前後に設けると、気体吹込みによるワークと剥離シートとの引き剥がし効果を高めることができる。
【発明の効果】
【0011】
ダイヤフラムを備えた上チャンバと熱板を備えた下チャンバとを具備するラミネート装置によりワークをラミネート加工するとき、前記チャンバ内で当該ワークに対する加熱加工の後、前記ダイヤフラムとワークの間に圧縮エア等の気体を強制注入してワークとダイヤフラム又は剥離シートの剥離を促進するようにしたので、ワークがダイヤフラムや剥離シートに付着して上チャンバと一緒に持上げられなくなり、ワーク落下によるワーク破損や作業員の危険を未然に回避できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、図を参照して本発明のワーク剥離方法とその機構の具体的な実施の形態例について説明する。図1は本発明を適用するラミネート装置の要部の構成を説明するための正断面図、図2〜図6は、図1のラミネート装置によるラミネート工程に本発明剥離方法を適用した例における本発明剥離機構の動作を時系列的に示した断面図である。即ち、図2はワークのラミネート加工における最終段階の断面図、図3は図2の状態から上チャンバを少し上昇させて本発明機構の始動準備状態を示す断面図、図4は本発明機構の動作でワークと剥離シートが剥離し始めた状態の断面図、図5は本発明機構の作用が進みワークと剥離シートが完全に剥離された状態の断面図、図6は図5の状態から上チャンバが原位置に上昇復帰した状態の断面図である。
【0013】
図1において、1は、下面側をチャンバ2に形成し、そのチャンバ2内にダイヤフラム3と剥離シート4を備えた上チャンバで、気体の給排口5をチャンバ2に通じて具備しており、加工前は図1の上昇位置をスタート原点として位置付けられている。なお、本発明は剥離シート4を備えない上チャンバ1を備えたラミネート装置にも適用可能である。
【0014】
同じく、図1において、6は、上面側をチャンバ7に形成し、そのチャンバ内に上面が一例として平坦面状をなす熱板8と、該熱板8の上を、図1の例では、右方向に走行するチャンバ内搬送コンベア9を備えた下チャンバで、この下チャンバ6もチャンバ7に通じた気体の給排口10を具備している。なお、9a,9bは前記コンベア9におけるコンベアベルトが掛回された支持ローラで、内部に駆動ローラを有する。Wは下チャンバ6におけるコンベア9の上に載置状態にあるラミネート対象のワークである。
【0015】
上記の構成を備えた上チャンバ1と下チャンバ6を主体として、例えば、太陽電池モジュールをワークWとする公知のラミネート装置LAの一例を形成する。図1のラミネート装置LAは、その手前(図1の左方)に、次のワークWを上記ラミネート装置LAに搬入する搬入コンベアICが付設されていると共に、当該ラミネート装置LAでラミネートされたワークWを次工程などへ搬送されるための搬出コンベアOCが付設されている。なお、前記の搬入,搬出両コンベアICとOCにおいて、21は搬送ベルト、22は該ベルトが掛回されたローラである。
【0016】
従来のラミネート装置LAにおいては、ラミネートのための加熱加圧のあとワークWと剥離シート4とが付着して上チャンバ1の上昇と一緒にワークWが持上げられて落下するのを防ぐため、搬入コンベアICの上にある加工前のワークWに、別の剥離シートSsを人手により被せ、また加工後に搬出コンベアOCの上で前記剥離シートSsを人手により取外していたが、本発明によるワークの剥離方法を適用すれば、前記のような加工前の剥離シートSsの被せ作業や加工後の剥離シートSsの取外し作業が不要となる。以下、この点について図2〜図6により説明する。
【0017】
本発明方法では、チャンバ内での加熱加圧によるラミネート加工が終ったワークWと上チャンバ1が備えた剥離シート4に付着が生じても、それを剥がすため、図1に例示したように、上チャンバ1の前後の両側面(図1の左右側、ワークWの搬送方向の前後)に、上下機構(図示せず)を内臓したブラケット部材11と12に、それぞれ空気吹出ノズル13と14を設けることにより、本発明ワーク剥離機構の一例を形成し、これにより本発明剥離方法を実施するようにした。
【0018】
図2のラミネート装置LAにおいて、ワークWは、チャンバ内へ搬入した後、上,下チャンバ1,6を閉じてその内部で真空引きと加熱(通常熱板温度は100℃以上に設定する)を施し、ラミネートに必要十分な時間が経過した時点で、上チャンバ1側に大気を導入して加圧することにより、溶融したEVAの隙間に気泡が残留しないラミネート加工が施される。EVAは一般的に60℃程度が融点であるため、加工が終了し上下チャンバ1,6が開放した状態では、当該EVAは溶けて接着剤のようにどろどろに軟化した状態である。
【0019】
上下チャンバ1,6をそのまま開放してしまう(上チャンバ1を上昇させる)と、EVAの接着力および静電気による力で剥離シート4とワークWは付着したまま上チャンバ1と一緒に上昇してしまう。勿論、剥離シート4自体にも「剥離性」が付与されているが、溶けたEVAを付着させないほどの剥離性をもっているものはない。また、ワークWが持ち上がらないまでも、はみ出したEVAが剥離シート4に付着していると、次回に加工するワークWを汚してしまうだけでなく、ワークと剥離シートに対する更なる接着力となって、ワークW持ち上がりの危険度が増大する要因となる。
【0020】
そこで、本発明では図3に示すように、上昇させる上チャンバ1を、ワークWが持ち上がらない程度の中間で停止させ、図4に示すように上チャンバ1の側方に設けた吹出ノズル13と14からエアーブローを行う。このエアーブローによって溶けたEVAは、吹付けられるエアーによる冷却効果でどろどろの溶融状態から固まり始めるため、剥離し易くなる。
【0021】
また、吹出ノズル13,14から吹出されるエアーブローの流速によってもワークWと剥離シート4の剥離が進行する。これは、例えばガラスビン等に貼られたラベル等を破ることなく剥がすには、ラベルをその端から徐々に剥がしていくと破れないで剥がれるという剥離進行(又は剥離拡大)の原理が知られているが、エアーブローの効果はこの剥離進行の現象に似ているので、冷却によってEVAの付着を最小に抑制しつつ付着を剥すことが可能となるのである。
【0022】
上記のようにしてワークWと剥離シート4とが、図5に示すように、十分に剥離した状態になっているのが確認できたら、図6に示すように上チャンバ1を完全に上昇させる。ここで、ワークWもしくはEVAの付着をさらに防止するため、上チャンバ1が完全に上昇するまで、エアーブローを継続してもよい。
【0023】
上記のエアーブローによるワーク剥離機構は、ラミネート装置LAの形態に応じて上下動機構を備えたものでは、上チャンバ1が上昇しつつあるときも、吹出ノズル13,14の位置をワークWと剥離シート4の剥がれ部位に対向した位置に保持することができる。また、この剥離機構は、図の例では上チャンバ1の側に設けたが、下チャンバ6の側に設置することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は以上の通りであって、以下に述べる効果が得られるので、産業上の利用可能性は大である。
(イ) ワークと上チャンバの部材(ダイヤフラム又は剥離シート)との付着をラミネート工程の中で自動的に剥がすことができるので、ワークの持上がりを阻止できワーク落下による破損や危険を未然に防止できる。
(ロ) チャンバに備えた剥離シートとワーク間に、別の剥離シートを被せたり、取外したりする手作業を省略できる。即ち、通常この別の剥離シートの着,脱作業は人手により行うため、手間と材料費がかかるが、この点が節減できる。また、ラミネート装置内およびその前後に自動コンベアを配置したシステムを構築しても、上記剥離シートの着,脱作業があると完全自動化できないが、本発明機構を採用するとラミネート装置の完全自動化を視野に入れた省力化を実現できる。
(ハ) ワークを持上げないまでも、ワークからはみ出したEVAは必ず剥離シートに付着するが、本発明の気体吹込み(エアーブロー)による冷却と気体流速によって剥離シートに付着するEVAが最少となり、次のワークに前ワーク加工時のEVAが付着してワークを汚す可能性も最少となる。また、人手により剥離シートを掃除する作業や、出荷前にワーク自体の汚れを落とす作業も軽減することができる。
(ニ) 更には、上チャンバに設けられる剥離シートの自動巻取り機構を装備したラミネート装置では、上記エアーブローの冷却および剥離効果で、剥離シート側に付着するEVAが最少となり、また冷却されて固くなったEVAは剥がれ易くなっているので、剥離シートの巻取り機構に備えられたクリーニング機構の作用をより効果的に得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明を適用するラミネート装置の要部の構成を説明するための正断面図。
【図2】ワークのラミネート加工における最終段階の断面図。
【図3】図2の状態から上チャンバを少し上昇させて本発明機構の始動準備状態を示す断面図。
【図4】本発明機構の動作でワークと剥離シートが剥離し始めた状態の断面図。
【図5】本発明機構の作用が進みワークと剥離シートが完全に剥離された状態の断面図。
【図6】図5の状態から上チャンバが原位置に上昇復帰した状態の断面図。
【符号の説明】
【0026】
1 上チャンバ
2 チャンバ
3 ダイヤフラム
4 剥離シート
5 給排口
6 下チャンバ
7 チャンバ
8 熱板
9 搬送コンベア
9a,9b コンベアベルトの支持ローラ
10 給排口
11,12 ブラケット部材
13,14 空気吹出ノズル
Ss 剥離シート
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤフラムを備えた上チャンバと熱板を備えた下チャンバとを具備するラミネート装置によりワークをラミネート加工するとき、前記チャンバ内で当該ワークに対する加熱加工の後、前記ダイヤフラムとワークの間に気体を強制注入することを特徴とするラミネート装置におけるワーク剥離方法。
【請求項2】
ラミネート装置の上チャンバがダイヤフラムの下に剥離シートを備えたものであるときは、ワーク剥離用の気体は当該剥離シートとワークの間に注入する請求項1のラミネート装置におけるワーク剥離方法。
【請求項3】
気体の強制注入は、圧縮気体をチャンバ内に吹込む請求項1又は2のラミネート装置におけるワーク剥離方法。
【請求項4】
ダイヤフラムを備えた上チャンバと熱板を備えた下チャンバとを具備するラミネート装置において、上チャンバ又は下チャンバの側面に、チャンバ内のワークとダイヤフラム又は剥離シートの間に気体を吹込み注入する気体注入手段を設けたことを特徴とするラミネート装置におけるワークの剥離機構。
【請求項5】
気体注入手段は、チャンバ内へ向けた気体の吹出口を、上下動可能又は左右動可能若しくは前後動可能、またはいずれかの組合せ態様で設けた請求項4のラミネート装置におけるワークの剥離機構。
【請求項6】
気体注入手段の気体吹出口は、チャンバにおけるワークの移送方向に関し前後又は左右に設けた請求項4のラミネート装置におけるワークの剥離機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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