説明

ランイントラフ

【課題】環境に左右されることなくトラフの開閉を行うことができ、作動調整等のメンテナンス作業が容易であるランイントラフを提供する。
【解決手段】圧延された棒鋼wが供給される樋状の受け部材11と、受け部材11が一端に取り付けられ一端が上下動するように設けられた揺動アーム12とを備え、揺動アーム12を揺動させてその一端を昇降させると、受け部材11から冷却床CBに棒鋼wが供給されるランイントラフ1であって、揺動アーム12を揺動させる揺動手段15が、その作動量を数値制御し得る非エア駆動のアクチュエータである。アクチュエータが数値制御されているので、設備のメンテナンス後に、メンテナンス前の状態に正確かつ容易に復帰させることができる。複数のアクチュエータを一括して調整することも可能となるので、調整作業を短時間かつ少人数で、最適な状態に容易に調整することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランイントラフに関する。
【背景技術】
【0002】
条鋼圧延設備では、圧延後所定の長さに切断された棒鋼を、棒鋼の冷却や矯正を行う冷却床に供給する際に、ランイントラフが使用される(例えば、特許文献1)。
図4に示すように、従来のランイントラフ100は揺動アーム101の先端に取り付けられた樋状受け部材102を備えており、この樋状受け部材102に対して、圧延され所定長さに切断された棒鋼が供給されるように構成されている。そして、棒鋼が供給された状態で揺動アーム101を揺動させて樋状受け部材102を下方に移動させれば、樋状受け部材102が保持している棒鋼を、シュート105を通して冷却床CBに落下させることができる。
そして、従来のランイントラフ100では、揺動アーム101を揺動させる装置として、荷重が小さく配管が安価かつ容易に施工できることから、エアシリンダ103が採用されている。
なお、以下では、揺動アーム101が揺動し、樋状受け部材102が上下に移動することを、単にトラフの開閉という。
【0003】
棒鋼は高速で圧延されてランイントラフ100に供給されるため、高速でトラフの開閉を行わなければならず、場合によっては数秒毎にトラフの開閉を行わなければならない。したがって、トラフの開閉を行うエアシリンダ103も高速かつ正確に作動させなければならない。
また、棒鋼が長尺のものである場合には、一本の棒鋼を複数の樋状受け部材102で支持しなければならず、ライン方向(棒鋼長手方向)に適正な落下状態を得るためには、各樋状受け部材102を作動させる複数のエアシリンダ103の作動タイミングを正確に調整しなければならない。タイミング調整が不十分な場合には棒鋼に曲がりが生じて製品不良となったり、冷却床上の所定のレーキ内に棒鋼が収まらず搬送不良を生じたり、隣接する棒鋼とあや状になってしまう不具合が生じる。
【0004】
トラフの開閉は、樋状受け部材102に材料が供給されたことを検出する材料検出器とタイマーに基づき、エアシリンダ103の作動を制御しているのであるが、トラフの開閉タイミングを調整するには、エアシリンダ103の作動速度を調整する必要がある。
しかし、エアシリンダ103の作動速度はスピードコントローラ等のつまみを人手で操作して調整しているため定量的な調整が困難であり、しかも、定量的な調整が困難であるから棒鋼の落下状態を見ながら作動速度の調整をせざるを得ない。
また、多数のエアシリンダ103を調整するには、全てのエアシリンダ103を同時に調整しなければならないが、つまみは各エアシリンダ103毎に設けられているので、各エアシリンダ103毎に作業員が必要となり、複数の作業者が長時間調整作業に従事しなければならない。
さらに、エアシリンダ103の作動速度は気温等の条件に左右されるため、ランイントラフを稼動している期間における環境等を考慮して作動速度を調整しなければならない。その場合、作動調整は非常に難しく、経験を有する熟練した作業者でなければ最適な状態に調整することが困難である。
しかも、エアシリンダはその作動頻度が非常に高いことから破損頻度が高くなり、エアシリンダが破損するたびに、エアシリンダの交換作業とともに上記のごときエアシリンダの作動調整が必要になるので、設備維持には多大な労力と費用を要している。
【0005】
【特許文献1】特開平9−267119号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑み、環境に左右されることなくトラフの開閉を行うことができ、作動調整等のメンテナンス作業が容易であるランイントラフを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明のランイントラフは、圧延された棒鋼が供給される樋状の受け部材と、該受け部材が一端に取り付けられ該一端が上下動するように設けられた揺動アームとを備え、該揺動アームを揺動させて前記一端を昇降させると、前記受け部材から冷却床に棒鋼が供給されるランイントラフであって、前記揺動アームを揺動させる揺動手段が、その作動量を数値制御し得る非エア駆動のアクチュエータであることを特徴とする。
第2発明のランイントラフは、第1発明において、前記アクチュエータが、回転式アクチュエータであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
第1発明によれば、アクチュエータはその作動量が数値制御されているので、設備のメンテナンス後に、メンテナンス前の状態に正確かつ容易に復帰させることができる。また、複数のアクチュエータを一括して調整することも可能となるので、メンテナンス作業を短時間かつ少人数で行うことができる。さらに、トラフ開閉タイミング等が環境に左右されることがないので、最適な状態に容易に調整することができる。
第2発明によれば、起動停止の動作が緩やかになるので、アクチュエータの損傷頻度を低下させることができ、設備維持に要する労力費用を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明のランイントラフは、トラフを開閉する駆動源として、その作動量を数値制御し得る非エア駆動のアクチュエータを採用し、かかるアクチュエータを採用することによって、トラフ開閉の安定性が高くなり、また、メンテナンス性を向上した点に特徴を有する。
【0010】
まず、本発明の特徴であるアクチュエータについて説明する前に、ランイントラフの全体構成について説明する。
【0011】
図1は本実施形態のランイントラフ1の概略説明図である。図2は図1のB矢視図である。図3は棒鋼受入供給装置10の作動状況を説明した図であり、(A)はトラフが閉じた状態であり、(B)はトラフが開いた状態である。
【0012】
図1において符号1は、圧延後の棒鋼が供給される本実施形態のランイントラフを示しており、符号CBはランイントラフ1から棒鋼が供給される冷却床を示している。
【0013】
図1に示すように、ランイントラフ1は棒鋼が供給される棒鋼受入供給装置10と、この棒鋼受入供給装置10から冷却床BCに棒鋼を受け渡すシュートSとを備えている。
図1のランイントラフ1は、4段の棒鋼受入供給装置10を複数備えており、各段の棒鋼受入供給装置10が順次棒鋼を受け入れて順次冷却床BCに棒鋼を供給するように構成されているが、棒鋼受入供給装置10を設ける数は特に限定されず、3段以下でもよいし5段以上でもよい。
【0014】
ランイントラフ1は、前記冷却床CBの上方に、同一構造に形成された複数のシュートSを備えている。この複数のシュートSは、それぞれ上下方向に沿って設けられた直線状ガイドSbを有している。
図2に示すように、複数のシュートSは、その直線状ガイドSbがランイントラフ1に対して棒鋼が供給される方向(図2では左右方向、以下、単にライン方向という)に沿って間隔を空けた状態で並ぶように配設されている。
【0015】
図1に示すように、各シュートSの直線状ガイドSbには、供給通路Shが設けられており、この供給通路Shの下端が前記冷却床CB上に位置するように配設されている。
また、各シュートSには、異なる高さに4つの投入口が設けられている。この4つの投入口はそれぞれ供給通路Shに連通されている。そして、各シュートSには、4つの投入口に向かって傾斜した4段のガイドSaが設けられている(図3参照)。
【0016】
よって、複数のシュートSにおけるガイドSaの上面に載せられた棒鋼は、その軸方向をライン方向と平行に保ったままガイドSa上面を移動して供給通路Sh内に入り、直線状ガイドSbに案内されて供給通路Shを通って冷却床CBに供給されるのである。
なお、隣接するシュートSは、そのライン方向における間隔が棒鋼の長さよりも短くなりように配設されているが、その理由は後述する。
【0017】
図1に示すように、前記シュートSにおける各段のガイドSaが設けられている高さには、各段のガイドSaに棒鋼を供給する棒鋼受入供給装置10がそれぞれ設けられている。
各受入供給装置10の受け部材12は、隣接する前記シュートS間に配設されている。この受け部材12は、ライン方向に沿って延びた、上方に開口を有する樋状の部材であり、ランイントラフ1に供給される棒鋼を受け入れて、棒鋼の軸方向をライン方向と平行に保ったまま、棒鋼を支持することができるものである。
なお、受け部材12は、その軸方向の長さが、隣接する前記シュートSにおける各段のガイドSa同士間の距離よりも短くなるように調整されているが、その理由は後述する。
【0018】
図1に示すように、前記受け部材12は揺動アーム11の先端に取り付けられている。この揺動アーム11は、その先端と基端との間の部分がフレームに設けられた軸に取り付けられており、この軸を支点として、ライン方向と直交する垂直面内において揺動できるように配設されている。
しかも、この揺動アーム11は、その基端が揺動手段15に連結されており、揺動手段15が作動すると、アーム16と連結部材17とからなるリンク機構を介して基端が上下に移動するように連結されている。
つまり、揺動手段15が作動すると、揺動アーム11の基端が上下に移動されて揺動アーム11が揺動し、揺動アーム11の先端とともに受け部材12が上下に移動するのである。
上記の揺動手段15が、本発明の特徴であるトラフを開閉する駆動源であるが、詳細は後述する。
【0019】
つぎに、ランイントラフ1における棒鋼受入供給装置10の作動を説明する。
図3に示すように、棒鋼受入供給装置10が棒鋼wを受け入れるときには、揺動手段15によって揺動アーム11が揺動され、受け部材12が上方に移動した状態(トラフ閉の状態)で保持される。このとき、受け部材12は、棒鋼wをガイドSaの上面よりも上方で保持できる位置に配設される(図3(A))。
【0020】
図3(A)の状態で、棒鋼受入供給装置10の棒鋼wが受け部材12に供給される。
上述したように、隣接するシュートSは、そのライン方向における間隔が棒鋼wの長さよりも短くなるように配設されており、受け部材12の軸方向の長さも、隣接する前記シュートSにおける各段のガイドSa同士間の距離よりも短くなるように調整されているから、受け部材12に支持されている棒鋼wの一部は、複数のシュートSにおけるガイドSaの上方に配置された状態となる。
【0021】
そして、所定のタイミングとなると、揺動手段15によって揺動アーム11が揺動され、受け部材12が下方に移動される。すると、受け部材12とともに棒鋼wも下方に移動する。
【0022】
なお、各段の棒鋼受入供給装置10が複数の受け部材12および複数の揺動手段15を有している場合において、複数の揺動手段15を作動させるタイミングはとくに限定されない。例えば、複数の受け部材12によって支持された棒鋼wの軸方向がライン方向と平行な状態で落下するように複数の揺動手段15は制御してもよいし、棒鋼wの軸方向中央部が軸端部よりも早く落下するように複数の揺動手段15を制御してもよい。
【0023】
図3(A)の状態から受け部材12が下方に移動すると、やがて、複数のシュートSにおけるガイドSaの上方に配置されていた棒鋼wはガイドSaの上面に接触する。この状態からさらに受け部材12が下方に移動すると、棒鋼wは受け部材12から離脱し、ガイドSaの上面のみで支持されるようになる(トラフ開の状態)(図3(B))。
すると、棒鋼wはガイドSaの上面を移動して投入口から供給通路Shに入るから、供給通路Shから冷却床CB上に棒鋼wを供給することができる。
【0024】
そして、棒鋼wがガイドSaの上面を移動して供給通路Shに入れば、揺動手段15が作動して揺動アーム11が揺動し、受け部材12が上方に移動して棒鋼wを供給できる状態に復帰する。
【0025】
上記作業をくり返すことによって棒鋼wを順次冷却床CBに供給することができるのである。
【0026】
つぎに、本発明の特徴であるトラフ開閉の駆動源である揺動手段15について説明する。
上述した揺動手段15は、例えば、サーボモータやステッピングモータ等の作動量を数値制御できる非エア駆動の回転式アクチュエータである。この揺動手段15は、アーム16と連結部材17とからなるリンク機構を介して、揺動アーム11の基端がその主軸に連結されている。
このため、揺動手段15の主軸を回転させれば、揺動アーム11を揺動させることができ、トラフの開閉を行うことができる。
しかも、揺動手段15は、図示しない制御手段によって作動量が数値制御されているので、設備のメンテナンス後に、メンテナンス前の状態に正確かつ容易に復帰させることができる。例えば、メンテナンス前のデータを記録しておけば、そのデータを使用すれば即座にメンテナンス前の状態に復帰させることができる。
【0027】
また、各段の棒鋼受入供給装置10が複数の受け部材12および複数の揺動手段15を有している場合には、各揺動手段15に対して、制御手段から所望のタイミングで指示を与えることができる。
例えば、同じ段に属する全ての揺動手段15に対して、制御手段から同時に同じ指示を与えることもできる。すると、全ての揺動手段15の作動タイミングや作動スピード等を確実に同期させることができるから、複数の受け部材12のトラフ開閉タイミングやトラフ開閉速度等を確実に合わせることができる。
【0028】
そして、一つの制御手段から、全ての揺動手段15に対して一括して指示を供給したり、各揺動手段15に個別に指示を供給したりすることができる。つまり、一つの制御手段で全ての揺動手段15の調整ができるから、調整作業を短時間かつ少人数で行うことができる。とくに、全ての揺動手段15に対して同じ指示を供給する場合には、全ての揺動手段15に対して同時に一括して指示を供給することができるので、好適である。
【0029】
そして、非エア駆動であるから、気温等の環境の変化が揺動手段15の作動に影響しない。つまり、気温等の環境の変化がトラフ開閉タイミングやトラフ開閉速度等に影響しないので、トラフ開閉タイミング等を最適な状態に容易に調整することができる。
【0030】
なお、揺動手段15は、電動モータ、油圧モータ等の回転式アクチュエータに限られず、非エア駆動の数値制御が可能なアクチュエータであれば、油圧シリンダやステッピングシリンダーでもよいが、トラフの開閉頻度が。揺動手段15が回転式アクチュエータであれば、以下の利点もある。
ランイントラフ1に供給される棒鋼の走行速度は、最大で25m/s以上のものもあり、棒鋼の切断長さが100m前後の場合であれば数秒に1回という開閉動作を行わなければならない。棒鋼の切断長さが100mであって4つの棒鋼受入供給装置10を備えている場合でも、トラフは8秒前後内に一回という高頻度で開閉動作が行われる。かかる場合でも、揺動手段15として、回転式アクチュエータを使用すれば、直線運動するアクチュエータに比べて起動停止の動作が緩やかになる。すると、アクチュエータの損傷頻度を低下させることができ、設備維持に要する労力費用を抑えることができる。
【0031】
なお、上記実施形態のランイントラフ1では、受け部材12が下方に移動するとシュートSに棒鋼wが供給される場合を説明したが、本発明のランイントラフは、受け部材12が上方に移動するとシュートSに棒鋼wが供給される構成であってもよいのは、いうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本実施形態のランイントラフ1の概略説明図である。
【図2】図1のB矢視図である。
【図3】棒鋼受入供給装置10の作動状況を説明した図であり、(A)はトラフが閉じた状態であり、(B)はトラフが開いた状態である。
【図4】従来のランイントラフ100の概略説明図である。
【符号の説明】
【0033】
1 ランイントラフ
11 受け部材
12 揺動アーム
15 揺動手段
CB 冷却床
w 棒鋼

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延された棒鋼が供給される樋状の受け部材と、該受け部材が一端に取り付けられ該一端が上下動するように設けられた揺動アームとを備え、該揺動アームを揺動させて前記一端を昇降させると、前記受け部材から冷却床に棒鋼が供給されるランイントラフであって、
前記揺動アームを揺動させる揺動手段が、その作動量を数値制御し得る非エア駆動のアクチュエータである
ことを特徴とするランイントラフ。
【請求項2】
前記アクチュエータが、回転式アクチュエータである
ことを特徴とする請求項1記載のランイントラフ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−307572(P2008−307572A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−157630(P2007−157630)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(502235326)住友重機械テクノフォート株式会社 (122)
【Fターム(参考)】