説明

ランキンサイクルを実施する閉ループを制御する方法およびそれを使用したループ

【課題】ランキンサイクルを実施する閉ループを制御する方法およびそれを使用したループを提供する。
【解決手段】本発明は、自動車用のランキンサイクルを実施する閉ループ(10)を制御する方法であって、このループが、作動流体用の循環圧縮ポンプ(12)と、作動流体を加熱する高温源(16)が流れる熱交換器(14)と、高温の流体を膨張させる膨張手段(22)と、この作動流体を冷却する冷却流体(28)が流れる冷却器(26)とを有する方法に関する。本発明によれば、この方法は、車両の事故状況を検出した後、ループの内部と外気を連通させることを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランキンサイクルを実施する閉ループを制御する方法およびそれを使用したループに関する。
【背景技術】
【0002】
公知のように、ランキンサイクルは、外部熱源から得られる熱が流体を含む閉ループに伝達される熱力学的サイクルである。
【0003】
多数の種類のランキンサイクルループがあり、特に、作動流体の(液体/蒸気)相変化を伴うランキンサイクルループがある。
【0004】
この種のサイクルは一般に、液体形態で使用される作動流体が等エントロピー的に圧縮される段階と、その後に続く、圧縮された液体流体が、熱源と接触したときに加熱され気化される段階とから成る。
【0005】
この蒸気は次いで、他の段階において膨張機内で等エントロピー的に膨張させられ、最終段階で、この膨張した蒸気が、低温源に接触したときに冷却され凝縮される。
【0006】
これらの様々な段階を実施するために、ループは、流体を液体形態で循環させ圧縮する圧縮器ポンプと、圧縮された流体の少なくとも一部を気化させる高温の流体が流れる蒸発器と、この蒸気のエネルギーを機械的エネルギーまたは電気的エネルギーのような他のエネルギーに転換するタービンのような、蒸気を膨張させる膨張機と、蒸気に含まれる熱を、低温源、一般には、この蒸気を液体形態の流体に転換するように凝縮器内を流れる外気に奪わせるための凝縮器とを有する。
【0007】
この種のループでは、使用される流体は一般に水であるが、他の種類の流体、たとえば有機流体または有機流体混合物を使用してもよい。
【0008】
一例として、これらの有機流体はブタン、エタノール、ハイドロフルオロカーボン、アンモニア、二酸化炭素などであってよい。
【0009】
特に特許文献1によって、内燃機関、特に自動車に使用される内燃機関の排気ガスによって伝達される熱エネルギーを、蒸発器内を流れる流体を加熱し気化させる高温源として使用することも公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】フランス特許出願公開第2884555号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この場合、排気口の所で失われたエネルギーの大部分を再生し、ランキンサイクルループによって自動車に使用することのできるエネルギーに転換することによってこの機関のエネルギー効率を向上させることができる。
【0012】
場合によっては、作動流体は、高圧(最高で約40バール(40×10Pa)、または場合によっては80バール(80×10Pa))および400℃に近い非常に高い温度において循環させられる。これらの流体圧力および温度は、特にポンプに作用する制御システムによって、システムの寸法が適合される作動範囲内に維持され、膨張機とアクチュエータはループの様々な部材を駆動させる。
【0013】
また、特定の作動流体を使用する際、この流体が本来危険であり、特に可燃性を有する場合もある。
【0014】
したがって、車両の異常な状況、たとえば事故の場合、ランキンサイクルループを制御するシステムが、制御システム自体の誤動作またはセンサもしくは駆動アクチュエータの誤動作の結果として動作不能状態になることがある。
【0015】
高温源の熱慣性によって、または事故時に生じる可能性のある車両の発火後、作動流体の圧縮および温度が引き続き上昇することがある。この場合、この流体がランキンシステムの寸法に適合しない温度または圧力レベルに達する可能性がある。これらのレベルでは、ループの1つ以上の部材(流体循環配管、交換器など)が突然破壊され、別の事故が生じる恐れがある。
【0016】
本発明の目的は、閉ループの破壊を制限するかあるいは場合によっては防止するように予防手段を講じるのを可能にする方法によって、前述の欠点を解消することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
したがって、本発明は、作動流体用の循環圧縮ポンプと、作動流体を加熱する高温源が流れる熱交換器と、高温の流体を膨張させる膨張手段と、この作動流体を冷却する冷却流体が流れる冷却型熱交換器とを有し、自動車用のランキンサイクルを実施する閉ループを制御する方法であって、車両の事故状況を検出した後、ループの内部と外気を連通させることから成ることを特徴とする方法に関する。
【0018】
この方法は、車両に対する激しい衝撃を検出した後、ループを外気と連通させることを含んでいてもよい。
【0019】
この方法は、自動車の火災を検出した後、ループを外気と連通させることを含んでもよい。
【0020】
この方法は、ループに設けられループを外気と連通させる開口部の絞り手段を制御することを含んでもよい。
【0021】
本発明は、作動流体用の循環圧縮ポンプと、作動流体を加熱する高温源が流れる熱交換器と、高温の流体を膨張させる膨張手段と、この作動流体を冷却する冷却流体が流れる冷却器と、流体用の循環配管とを有し、自動車用のランキンサイクルを実施する閉ループであって、車両の事故状況において動作する、ループの内部と外気を連通させる装置を有することを特徴とするループにも関する。
【0022】
この装置は、ループの少なくとも1つの部材に配置された開口部と、この開口部を制御する絞り手段とを有してよい。
【0023】
開口部は、少なくとも1つの交換器および少なくとも1つの循環配管のうちの少なくとも一方に設けることができる。
【0024】
絞り手段は、開口部を閉鎖する端位置と開口部を開放する別の端位置とを切り替える弁を有してもよい。
【0025】
高温源は、内燃機関の排気ガスから得ることができる。
【0026】
本発明の他の特徴および利点は、本発明による閉ループの制御システムによってランキンサイクルを実施する閉ループを示す唯一の図を参照して、非制限的な例として与えられる以下の説明を読んだときに明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】閉ループの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
この説明は、特に、相変化流体による閉ループに関するが、(たとえば、COによる)超臨界流体ループと呼ばれるループのような任意の他のランキンサイクルループを使用してもよい。
【0029】
図1において、ランキンサイクル閉ループ10は、このループ内を時計回り(矢印A)に循環する作動流体、ここでは水の循環圧縮手段12を有している。この手段は、この説明の残りの部分ではポンプと呼ばれ、この水をポンプの入口と出口との間で圧縮するのを可能にし、この水は、依然として液体形態であるが、高圧を受ける。
【0030】
このポンプは、有利なことに、電気モータ(不図示)のような任意の公知手段によって回転駆動される。
【0031】
このループは、蒸発器とも呼ばれ、ポンプから流入し、この蒸発器から高温の圧縮された蒸気の形態で流出する圧縮水が流れる熱交換器14を有してもよい。
【0032】
この蒸発器内を、内燃機関20の排気配管18内を循環する排気ガスから得られる高温源16が流れる。
【0033】
この機関は、自動車の内燃機関であることが好ましい。
【0034】
このループは、吸気口の所で高圧の圧縮水蒸気を受け取る受け取り膨張機22も有し、水蒸気は、この膨張機から膨張した低圧の蒸気の形態で流出する。
【0035】
一例として、この膨張機は、ロータ(不図示)が水蒸気によって回転駆動される膨張タービンである。このロータは、有利なことに、再生された機械的エネルギーを、例えば車輪を駆動する車両の伝動システムに使用するのを可能にするか、あるいは、たとえば発電機24のように再生された機械的エネルギーを他のエネルギーに転換するのを可能にする任意の公知の装置に連結される。
【0036】
ループは、この説明の残りの部分では凝縮器と呼ばれる冷却器26も有している。この凝縮器は、タービンから得られる膨張した低圧の蒸気をこの凝縮器を通過した後に液体形態の水に転換するのを可能にする。
【0037】
一例として、この凝縮器は、ここでは、膨張した蒸気を冷却し凝縮しつつ凝縮器内の入口面と出口面との間を流れる冷却流体28が流れる、冷却管とフィンの組立体から成っている。
【0038】
この冷却流体は、ここでは周囲温度の外気であるが、水のような任意の他の冷却流体を使用して蒸気を凝縮してもよい。
【0039】
ループの様々な部材は、連続的に、ポンプを蒸発器に連結し(配管30)、蒸発器をタービンに連結し(配管32)、タービンを凝縮器に連結し(配管34)、凝縮器をポンプに連結する(配管36)のを可能にする流体循環配管30、32、34、36によって互いに連結され、それによって、作動流体が、液体形態または蒸気形態において矢印Aによって示される方向に循環する。
【0040】
広く知られているように、このループは、ループの管理を可能にする制御システム38に連結されている。特に、このシステムは、線40を通じてループの動作に関する情報を受信する。特に、これらの線のうちの数本は、このループ内に設けられた様々な検出器から、水(または水蒸気)の圧力または温度などの情報を受信する。システム38は、受信された情報から、所望の動作範囲を得るのに必要なループの部材を、制御線42を通じて制御する。これらの制御線は特に、ポンプ12およびタービン22に作用するのを可能にする。
【0041】
唯一の図に示されているループは、このループ内に含まれる流体の一部または全体を予防的に排出するのを可能にする閉ループ通気装置44も有する。
【0042】
この装置は、循環配管のうちの1本、ここでは、ポンプ12と蒸発器14との間に設けられた循環配管30に設けられた開口部46を有している。
【0043】
本発明の範囲から逸脱せずに、熱交換器および冷却型熱交換器のうちの少なくとも一方、ポンプ、タービンのような、ループの1つ以上の部材にこの開口部を設けてもよい。
【0044】
この開口部を密封または開放するようにこの開口部に絞り手段が配置されている。
【0045】
有利なことに、これらの絞り手段は、傾斜軸50の周りで傾斜する弁48、好ましくは双安定弁を含む。この弁の傾斜は、任意の公知の手段、一例としてここでは電気モータ(不図示)によって制御される。
【0046】
この弁の傾斜は、有利なことに、電気チルトモータに作用する制御システム38の制御線42によって制御される。
【0047】
この制御システム38は、線40を通じて車両異常状況管理ユニットからの情報も受信する。
【0048】
一例として、このユニットは、一般にクラッシュラインと呼ばれ、衝突、火災、車両の横転などのような自動車事故における結果を軽減するのに設けられる、事故コントローラ52であってもよい。
【0049】
したがって、このコントローラは、この事故状況、特に静止した物体または動いている物体に激しく衝突した場合の結果を軽減することを目的とした多くの予防措置を実施するのを可能にする。
【0050】
厳密に言えば、このコントローラは、数本が衝撃検知器および車両急減速検知器のうちの少なくとも一方のような検知器56に接続された情報線54を有している。
【0051】
コントローラは、この自動車事故の状況に関する情報を受信した後、1本以上の制御線58を通じて、車両安全部材を動作させる1つ以上の信号を送信する。これらの部材は、エアバッグおよびシートベルトプレテンショナのうちの少なくとも一方であってよい。
【0052】
これらの信号は、車両の電源の切断、特に歩行者と衝突した場合に衝撃吸収装置を構成するようなフードの引き上げ、歩行者が怪我するのを防止するようなワイパーブレードの引き込みも動作させることができる。
【0053】
制御システム38は、事故状況を検出したコントローラから得られる信号を受信した後、ループ通気も制御する。
【0054】
このシステムは、線42を通じて、弁48が、図に太い線によって示されているような開口部46の最初の閉位置からこの開口部46の開位置(図に点線によって示されている)に切り替わるように弁48のモータを制御する。
【0055】
したがって、ループの内部は、通気によって外気と連通する。
【0056】
したがって、開口部46はもはや密閉されず、ループ10に含まれる作動流体の全体または一部を重力によってあるいはループにおいて優勢な圧力の作用の下でこの開口部を通じて排出することができる。
【0057】
当然、この作動流体は、液体または気体の形態において矢印Aの循環方向に排出されてもよい。この流体は、ループに含まれている流体が、たとえば、1本以上の循環配管の詰まりのために従来の方向に循環できない場合、逆循環方向(矢印A’)に排出されてもよい。
【0058】
したがって、この予防的な排出は、この異常車両状況、ここでは事故を検出した後長時間経過してから生じる可能性のあるループ破壊を防止することができる。
【0059】
このことは、特にこの自動車に対処する救助隊の介入時に、状況の悪化を回避する助けになる。
【0060】
あるいは、弁48を直接事故コントローラ52から延びる線58のうちの1本によって制御してもよい。
【0061】
当然、この車両事故状況は、火災のような任意の他の事態に関する状況であってよく、その場合、外気との連通によってループを予防的に空にして突然のループ破壊を回避することができる。
【0062】
この火災を、事故コントローラ52に接続された煙感知器または温度検出器のような任意の公知の手段によって検出してもよい。
【0063】
本発明の範囲から逸脱せずに、開口部46を循環配管および、ループ部材、すなわち交換器、ポンプ、タービンなどのうちの1つのうちの少なくとも一方に配置してもよい。
【符号の説明】
【0064】
10 ランキンサイクル閉ループ
12 循環圧縮手段
14 熱交換器
16 高温源
18 排気配管
20 内燃機関
22 膨張機
26 冷却器
30、32、34、36 流体循環配管
38 制御システム
42 制御線
46 開口部
48 弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体用の循環圧縮ポンプ(12)と、前記作動流体を加熱する高温源(16)が流れる熱交換器(14)と、高温の流体を膨張させる膨張手段(22)と、この作動流体を冷却する冷却流体(28)が流れる冷却型熱交換器(26)とを有し、自動車用のランキンサイクルを実施する閉ループ(10)を制御する方法であって、
車両の事故状況を検出した後、前記ループの内部と外気を連通させることを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記車両に対する激しい衝撃を検出した後、前記ループを前記外気と連通させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
自動車の火災を検出した後、前記ループを前記外気と連通させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ループに設けられ前記ループを前記外気と連通させる開口部(46)の絞り手段(48)を制御することを含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
作動流体用の循環圧縮ポンプ(12)と、前記作動流体を加熱する高温源(16)が流れる熱交換器(14)と、高温の流体を膨張させる膨張手段(22)と、この作動流体を冷却する冷却流体が流れる冷却器(26)と、前記流体用の循環配管(30、32、34、36)とを有し、自動車用のランキンサイクルを実施する閉ループであって、
車両の事故状況において動作する、前記ループの内部と外気を連通させる装置を有することを特徴とする閉ループ。
【請求項6】
前記装置は、前記ループの少なくとも1つの部材に配置された開口部(46)と、この開口部を制御する絞り手段(48)とを有する、請求項5に記載の閉ループ。
【請求項7】
開口部(46)は、少なくとも1つの交換器(14、26)に設けられる、請求項6に記載の閉ループ。
【請求項8】
開口部(46)は、少なくとも1本の循環配管(30、32、34、36)に設けられる、請求項6に記載の閉ループ。
【請求項9】
前記絞り手段は、開口部(46)を閉鎖する端位置と前記開口部を開放する別の端位置とを切り替える弁(48)を有する、請求項6に記載の閉ループ。
【請求項10】
高温源(16)は、内燃機関(20)の前記排気ガスから得られる、請求項1に記載の閉ループ。

【図1】
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【公開番号】特開2013−96696(P2013−96696A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−234416(P2012−234416)
【出願日】平成24年10月24日(2012.10.24)
【出願人】(591007826)イエフペ エネルジ ヌヴェル (261)
【氏名又は名称原語表記】IFP ENERGIES NOUVELLES
【Fターム(参考)】