説明

ランキンサイクル装置

【課題】酸による回路の構成部品の劣化を抑制することができるとともに、ポンプでのキャビテーションの発生を抑えることができるランキンサイクル装置を提供する。
【解決手段】フロン(HFC134a)よりなる冷媒が循環するランキンサイクル装置10において、冷媒の循環方向における第2ボイラ60より下流で、かつ膨張機20より上流にフィルタ18を設けた。このフィルタ18は、微細孔の大きさが4Åのゼオライトよりなる吸着材層18bを備え、その微細孔の大きさは冷媒の分子量により決定される大きさより小さくなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロカーボンからなる骨格を基本とする冷媒が用いられ、ポンプ、熱交換器、膨張機、及び凝縮器、を順次接続してなる回路を備えるランキンサイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のランキンサイクル装置においては、冷媒や潤滑油が熱交換器での加熱により分解するとフッ酸等の酸が生じ、この酸の存在により、ランキンサイクル装置における回路の構成部品の金属部、ゴム部、樹脂部等が劣化してしまう。このため、ランキンサイクル装置の回路内に、酸を捕捉する酸捕捉材を設置することが提案されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1では、冷媒(フッ素−塩素−炭化水素)が循環するランキンサイクル装置において、凝縮器と熱交換器(蒸発器)との間に吸着フィルタを設け、この吸着フィルタにより、冷媒の熱分解により生じた熱分解生成物が捕捉されるようになっている。
【0004】
また、特許文献2では、冷媒(水)が循環するランキンサイクル装置において、凝縮器と熱交換器(蒸発器)との間に水浄化手段を設け、この水浄化手段により、水に含まれる微少なスラッジに加え、陽イオンや溶存酸素等が捕捉(除去)されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭57−35527号公報
【特許文献2】特開2003−214102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1において、吸着フィルタが凝縮器より下流に設けられているため、冷媒が吸着フィルタを通過する際に、凝縮器で液化された液相の冷媒による大きな圧損が生じてしまう。このため、ポンプの吸入側では冷媒の圧力低下が生じてキャビテーションが発生してしまい、ポンプによる冷媒の移送能力が低下してしまう。また、ランキンサイクル装置において、熱交換器(蒸発器)で熱交換が行われる際に冷媒や潤滑油が分解されるため、熱交換器ではフッ酸(フッ化水素酸)、ギ酸、酢酸等の酸が発生しやすい。しかし、特許文献2において、水浄化手段は、冷媒の循環方向における熱交換器の上流(直前)に設けられている。このため、熱交換器で発生した酸は、膨張機、凝縮器とランキンサイクル装置の回路を流れた後、ようやく水浄化手段で捕捉されることとなり、膨張機や凝縮器が酸により劣化されやすい環境に曝されてしまっている。
【0007】
本発明は、上記従来の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、酸による回路の構成部品の劣化を抑制することができるとともに、ポンプでのキャビテーションの発生を抑えることができるランキンサイクル装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、フルオロカーボンからなる骨格を基本とする冷媒が用いられ、前記冷媒を吐出するポンプ、前記ポンプから吐出された冷媒と排熱源からの流体との間で熱交換させる熱交換器、前記熱交換器で熱交換された冷媒を膨張させて機械的エネルギーを出力する膨張機、及び前記膨張機から吐出された冷媒を凝縮する凝縮器、を順次接続してなる回路を備えるランキンサイクル装置である。そして、このランキンサイクル装置において、前記回路において前記熱交換器より下流で、かつ前記凝縮器より上流に、前記冷媒の分解により発生した酸を捕捉する酸捕捉材を設けた。
【0009】
これによれば、熱交換器での加熱による冷媒の分解によって生じた酸を、凝縮器より下流に流れる前に酸捕捉材で捕捉することができる。したがって、酸が凝縮器より下流のポンプ等といった回路の構成部品に供給されることを抑制することができ、各構成部品の金属部、ゴム部、樹脂部等が酸によって劣化することを抑制することができる。また、酸捕捉材は、ランキンサイクル装置の回路において熱交換器の下流で、凝縮器より上流に設けられている。このため、酸捕捉材には気相の冷媒が通過することになり、凝縮器によって液化された冷媒が酸捕捉材を通過することはない。したがって、液相の冷媒が酸捕捉材を通過することによる圧損に起因してポンプ吸入側にキャビテーションが生じることを抑制することができる。
【0010】
また、前記酸捕捉材は、前記酸を吸着する多孔質物質であるとともに、該多孔質物質における微細孔の大きさが、前記冷媒における分子量によって決まる分子の大きさよりも小さいものであってもよく、前記冷媒は、分子中の炭素数が2個以上のものであってもよい。これによれば、多孔質物質に冷媒が吸着されてしまうことを防止することができる。
【0011】
また、前記酸捕捉材は、前記膨張機及びポンプを形成する材料より卑な電位の金属よりなるものでもよい。
これによれば、熱交換器で冷媒から酸が発生しても、卑な電位の金属が犠牲電極となり、電池作用により卑な電位の金属で腐食が進むことになる。すなわち、酸が卑な電位の金属に吸着することで、酸が酸捕捉材に捕捉される。
【0012】
また、前記酸捕捉材は、塩基性物質であってもよい。これによれば、熱交換器で冷媒から酸が発生しても、塩基性物質が、酸と反応して中和される。すなわち、酸が酸捕捉材で捕捉される。
【0013】
また、前記酸捕捉材は、前記塩基性物質に、有機バインダ及び無機バインダのうちの少なくとも1つを添加して混練した混練物を、造粒し、さらに、球状に整粒して製造された中和材であってもよい。
【0014】
これによれば、酸捕捉材は、球状に整粒した中和材よりなるため、粉末状の塩基性物質そのものに比べると酸捕捉材としてのサイズが大きくなり、酸捕捉材が冷媒の流れによって流されにくくなる。そして、中和材が均一な球状に成形され、中和材には冷媒が局所的に作用する部位が存在していないため、冷媒の流れによって作用する圧力は中和材に均一に作用する。よって、中和材よりなる酸捕捉材は冷媒の流れによって粉砕されにくく、粉末化されにくい。したがって、このような中和材を酸捕捉材として用いることで、回路における、熱交換器より下流で、かつ凝縮器より上流に酸捕捉材を保持し続けることができ、酸捕捉材による酸の中和作用、すなわち、酸の捕捉作用を持続することができる。
【0015】
また、前記酸捕捉材は、前記回路において前記膨張機より上流に設けられていてもよい。これによれば、酸捕捉材は、酸が発生する熱交換器の直後に設けられている。したがって、酸捕捉材で酸を捕捉することにより、酸が膨張機、凝縮器、及びポンプと回路を流れることを防止することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、酸による回路の構成部品の劣化を抑制することができるとともに、ポンプでのキャビテーションの発生を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1の実施形態のランキンサイクル装置を模式的に示す図。
【図2】第2の実施形態のランキンサイクル装置を模式的に示す図。
【図3】第3の実施形態におけるフィルタを拡大して模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1の実施形態)
以下、本発明を車両に搭載されるランキンサイクル装置に具体化した第1の実施形態を図1にしたがって説明する。
【0019】
図1に示すように、ランキンサイクル装置10は、膨張機20、凝縮器30、ポンプ40、熱交換器としての第1ボイラ50、及び熱交換器としての第2ボイラ60を流路11,12,14,15,16により順次接続してなる回路を備えるとともに、酸捕捉材としてのフィルタ18を備えている。そして、ランキンサイクル装置10では、冷媒は、膨張機20、凝縮器30、ポンプ40、第1ボイラ50、第2ボイラ60、及びフィルタ18の並び順に沿って回路を流れるようになっており、回路での冷媒の流れる方向を、冷媒の循環方向とする。
【0020】
このランキンサイクル装置10では冷媒として、フルオロカーボンからなる骨格を基本とするものが用いられる(フルオロカーボン:FC、クロロフルオロカーボン:CFC、ハイドロクロロフルオロカーボン:HCFC、ハイドロフルオロカーボン:HFC、テトラフルオロプロペン:HFO−1234、ペンタフルオロプロペン:HFO−1225)。そして、本実施形態では、冷媒として、分子中に炭素(C)を2個有するとともに、分子量によって決まる分子の大きさが4.2オングストローム(Å)のもの(HFC134a:4.2Å)が用いられる。なお、上記冷媒は、高温環境下に曝されると、熱分解によりフッ酸(フッ化水素酸)、ギ酸、酢酸等の酸を生じさせる。また、ランキンサイクル装置10では、潤滑油が冷媒とともにランキンサイクル装置10を循環する。この潤滑油は、膨張機20及びポンプ40の摺動部における潤滑、密封、冷却等の役割を担うが、高温環境下に曝されると、熱分解により酸を生じさせる。
【0021】
ランキンサイクル装置10において、膨張機20とポンプ40は、複合流体機械Fのハウジング内に設けられるとともに、そのハウジング内における膨張機20とポンプ40の間には、発電機又は電動機として機能するモータ・ジェネレータ70が設けられている。モータ・ジェネレータ70にはインバータ71を介してバッテリ72が接続されるとともに、モータ・ジェネレータ70で生じた電力はインバータ71を介してバッテリ72に蓄電されるようになっている。
【0022】
複合流体機械Fにおけるポンプ40の吐出ポート(図示せず)には、第1流路11を介して第1ボイラ50の吸熱器50aが接続されている。第1ボイラ50は、吸熱器50aに加え放熱器50bを備える。この放熱器50bは、排熱源としての車両エンジン51に接続された冷却水循環経路52上に設けられている。冷却水循環経路52上にはラジエータ53が設けられている。そして、車両エンジン51を冷却した冷却水(高温流体)は、排熱源からの流体として冷却水循環経路52を循環して放熱器50b及びラジエータ53で放熱する。よって、ポンプ40から吐出された液冷媒は、第1ボイラ50の吸熱器50aと放熱器50bとの間での熱交換により冷却水によって加熱される。そして、第1ボイラ50での熱交換により、ポンプ40吐出後の液冷媒は熱を吸収して徐々に蒸発し、蒸発温度で全て蒸発して冷媒ガスに相変化する。
【0023】
第1ボイラ50の吸熱器50aの吐出側には接続流路12を介して熱交換器としての第2ボイラ60の吸熱器60aが接続されている。第2ボイラ60は、吸熱器60aに加え放熱器60bを備える。この放熱器60bは、第1ボイラ50と共通の排熱源となる車両エンジン51に接続された排気通路13上に設けられている。そして、車両エンジン51からの排気ガスは、排熱源からの流体として放熱器60bで放熱した後、マフラ61から排気される。よって、第1ボイラ50を通過した冷媒ガスは、第2ボイラ60の吸熱器60aと放熱器60bとの間での熱交換により、第1ボイラ50通過後よりさらに加熱される。
【0024】
第2ボイラ60の吸熱器60aの吐出側には、第2流路14を介して膨張機20における吸入ポート(図示せず)が接続されている。そして、ランキンサイクル装置10での冷媒の循環方向において、第2ボイラ60より下流で、膨張機20より上流となる位置にはフィルタ18が設けられている。このフィルタ18は、ケース18a内に、多孔質物質を主成分としシート状に形成された吸着材層18bを挿入して形成されている。本実施形態では、多孔質物質としてゼオライトが用いられ、吸着材層18bが酸捕捉材として機能する。ゼオライトは、結晶中に多数の微細孔を持つアルミナ珪酸塩の総称である。そして、本実施形態では、ゼオライトにおける微細孔の大きさを表す単位(Å)が4Åに規定されたゼオライトが用いられる。そして、多孔質物質の微細孔には、冷媒の熱分解により生じた酸(フッ酸、ギ酸、酢酸、リン酸等)や潤滑油の熱分解により生じた酸が吸着される。一方、多孔質物質の微細孔には、その微細孔4Åより大きさい4.2Åの冷媒(HFC134a)は吸着されないようになっている。そして、第2ボイラ60で加熱された冷媒ガスが、フィルタ18の吸着材層18bを通過する際に、多孔質物質により第2ボイラ60で発生した酸が捕捉(吸着)されるようになっている。
【0025】
ランキンサイクル装置10において、フィルタ18通過後の冷媒ガスは、第2流路14及び吸入ポートを介して膨張機20に吸入されるようになっている。そして、膨張機20で膨張した低圧の冷媒ガスは、第3流路15及び吸入ポート(図示せず)を介して凝縮器30へ吸入されるようになっている。凝縮器30の吐出ポート(図示せず)には第4流路16を介してポンプ40の吸入ポート(図示せず)が接続されている。そして、凝縮器30では冷媒ガスが凝縮されて液冷媒に相変化し、その液冷媒は第4流路16及び吸入ポートを介してポンプ40に吸入されるようになっている。
【0026】
さて、上記構成のランキンサイクル装置10において、膨張機20に冷媒ガスが導入されて膨張し、この膨張により膨張機20が機械的エネルギー(駆動力)を出力する。そして、この駆動力によってモータ・ジェネレータ70の駆動軸(図示せず)が回転されるとともにポンプ40が駆動される。
【0027】
ポンプ40により、液冷媒が第1流路11を介して第1ボイラ50へ送られる。そして、第1ボイラ50において、吸熱器50aと放熱器50bとの間での熱交換により、液冷媒が車両エンジン51からの排熱を受けた冷却水によって加熱され、冷媒ガスに相変化する。
【0028】
そして、冷媒ガスは、接続流路12を介して第2ボイラ60へ送られるとともに、第2ボイラ60において、吸熱器60aと放熱器60bとの間での熱交換により、冷媒ガスが車両エンジン51からの排気ガスによって加熱される。この第2ボイラ60では、排気ガスの持つ高温の熱エネルギにより、冷媒ガス及び潤滑油が分解されると、冷媒ガスからフッ酸等の酸が生じるとともに、潤滑油からも酸が生じる。
【0029】
この酸は、冷媒ガスとともに第2ボイラ60から第2流路14へ導出された直後にフィルタ18に導入される。すると、フィルタ18内では、吸着材層18bにおける多孔質物質の微細孔に酸が吸着され、冷媒ガスから酸が除去される。このとき、多孔質物質における微細孔の大きさ(4Å)が、冷媒の大きさ(4.2Å)より小さいため、多孔質物質の微細孔に冷媒が吸着されることが防止される。
【0030】
そして、フィルタ18を通過し、酸が除去された冷媒ガスは、第2流路14を介して吸入ポートから膨張機20に導入されて膨張し、この膨張により膨張機20が機械的エネルギー(駆動力)を出力する。そして、この駆動力によってモータ・ジェネレータ70の駆動軸(図示せず)が回転されるとともにポンプ40が駆動される。
【0031】
このとき、車両エンジン51からの排熱量が大きく、膨張機20からの出力により、駆動軸が予め設定された所定回転数を越えて回転する場合には、モータ・ジェネレータ70を発電機として機能させて駆動軸の回転数を抑えるようにする。そして、所定回転数を越える出力は電力に変換され、インバータ71を介してバッテリ72に充電される。
【0032】
膨張機20で膨張を終えて圧力が低下した冷媒ガスは、吐出ポートを介して第3流路15へ吐出される。第3流路15へ吐出された冷媒ガスは、凝縮器30を通過して液化し(液冷媒)、第4流路16を介してポンプ40に導入される。そして、膨張機20からの出力により駆動されるポンプ40により、液冷媒は第1流路11を介して第1ボイラ50へ供給される。以後、上述したように、冷媒は、第2ボイラ60、フィルタ18、膨張機20、凝縮器30、及びポンプ40を流れて、車両エンジン51が駆動されている間は、冷媒はランキンサイクル装置10を循環する。
【0033】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)ランキンサイクル装置10の回路において、冷媒の循環方向における第2ボイラ60より下流であり、膨張機20より上流に吸着材層18bを備えたフィルタ18を設けた。そして、第2ボイラ60通過後の冷媒ガスをフィルタ18に導入するようにした。このため、第2ボイラ60での加熱による冷媒ガス及び潤滑油の分解によって生じた酸をフィルタ18の吸着材層18bで捕捉することができる。したがって、酸が膨張機20やポンプ40等のランキンサイクル装置10の回路の構成部品に供給されることを抑制することができ、各構成部品の金属部、ゴム部、樹脂部等が酸によって劣化することを抑制することができる。
【0034】
(2)フィルタ18(吸着材層18b)は、ランキンサイクル装置10の回路において、冷媒の循環方向における第2ボイラ60の下流に設けられている。このため、本実施形態では、特許文献1のように、フィルタ18が凝縮器30より下流に配置されることによって、液相の冷媒がフィルタ18を通過し、大きな圧損を発生させることがない。すなわち、吸着材層18bには圧損の小さい気相の冷媒ガスが通過することになり、冷媒のフィルタ18通過による圧損を小さくすることができ、圧損に起因してポンプ40吸入側にキャビテーションが生じることを抑制することができるため、ポンプ40による冷媒の移送能力の低下を抑えることができる。
【0035】
(3)フィルタ18(吸着材層18b)は、ランキンサイクル装置10の回路において、冷媒の循環方向における第2ボイラ60の下流であり、膨張機20の上流に設けられている。すなわち、吸着材層18bは、酸が発生する第2ボイラ60の直後に設けられている。したがって、吸着材層18bで酸を捕捉することにより、酸が膨張機20、凝縮器30、及びポンプ40とランキンサイクル装置10の回路を流れてしまうことが無く、酸により膨張機20、凝縮器30、ポンプ40、さらには各流路11〜15等が劣化してしまうことを防止することができる。
【0036】
(4)冷媒として、分子中の炭素数が2個であるとともに、分子量によって決定される分子の大きさが4.2Åのもの(HFC134a)を用いた。一方、フィルタ18は、酸を吸着する多孔質物質(ゼオライト)よりなる吸着材層18bを備える。そして、この多孔質物質として、微細孔の大きさが4Åのものを採用した。このため、吸着材層18bでは、多孔質物質の微細孔に酸を吸着することができるとともに、冷媒が微細孔に吸着されることをなくすことができる。よって、吸着材層18bを設けても、ランキンサイクル装置10の回路を循環する冷媒の流量が減ることを防止することができる。
【0037】
(第2の実施形態)
次に、本発明を具体化した第2の実施形態を図2にしたがって説明する。なお、以下の説明では、第1の実施形態のランキンサイクル装置10のフィルタ18以外は構成部材が同じであるため、第1の実施形態のランキンサイクル装置10と同一構成について同一符号を付すなどし、その重複する説明を省略又は簡略する。
【0038】
図2に示すように、ランキンサイクル装置10の回路において、冷媒の循環方向における第2ボイラ60より下流であり、膨張機20より下流であるとともに凝縮器30より上流にはフィルタ19が設けられている。このフィルタ19において、ケース19a内には、塩基性物質を主成分としシート状に成形された第1吸着層19bが設けられるとともに、冷媒の循環方向における第1吸着層19bより下流には多孔質物質を主成分としシート状に形成された第2吸着材層19cが設けられている。そして、本実施形態では、第1吸着層19b(塩基性物質)と第2吸着材層19c(多孔質物質)が酸捕捉材として機能する。
【0039】
第1吸着層19bの塩基性物質としては、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム等が用いられる。また、第2吸着材層19cの多孔質物質としては、第1の実施形態と同様にゼオライトが用いられる。
【0040】
さて、第2の実施形態において、この第2ボイラ60での排気ガスの持つ高温の熱エネルギにより、冷媒ガス及び潤滑油が分解されると、冷媒ガスからフッ酸等の酸が生じるとともに、潤滑油からも酸が生じる。
【0041】
この酸は、冷媒ガスとともに第2ボイラ60から第2流路14へ導出され、さらに、膨張機20で膨張した直後にフィルタ19に導入される。すると、フィルタ19内では、酸が、第1吸着層19bにおける塩基性物質と反応して中和される。すなわち、酸が酸捕捉材で捕捉される。さらに、第1吸着層19bを通過した酸は、第2吸着材層19cにおける多孔質物質の微細孔に吸着され、冷媒ガスから酸が除去される。また、第1吸着層19bでの酸と塩基性物質との反応により生成した水も、第2吸着材層19cにおける多孔質物質の微細孔に吸着され、冷媒ガスから水が除去される。
【0042】
したがって、上記第2の実施形態によれば、第1の実施形態の(2)〜(4)と同様の記載に加え、以下のような効果を得ることができる。
(5)フィルタ19に、塩基性物質を主成分とする第1吸着層19bと、多孔質物質よりなる第2吸着材層19cとを並設した。そして、第1吸着層19bで酸を中和させて、酸を捕捉し、さらに、第2吸着材層19cでも酸を吸着して捕捉することができる。よって、冷媒ガス中の酸を2度に亘って捕捉することができ、より効果的に酸を捕捉することができる。
【0043】
(6)フィルタ19に、塩基性物質を主成分とする第1吸着層19bと、多孔質物質よりなる第2吸着材層19cとを並設した。そして、第1吸着層19bでの酸との中和により発生した水を第2吸着材層19cで吸着して捕捉することができる。したがって、ランキンサイクル装置10の回路を水が循環することを抑制することができる。
【0044】
(7)フィルタ19は、ランキンサイクル装置10の回路において、冷媒の循環方向における第2ボイラ60の下流において、膨張機20より下流で、かつ凝縮器30より上流に設けられている。よって、フィルタ19が膨張機20より上流に設けられる場合と比べると、フィルタ19には低温の冷媒ガス及び潤滑油が導入される。ここで、多孔質物質として用いられるゼオライトは、低温の方が酸の吸着効率がよい物性を有する。よって、フィルタ19が膨張機20より下流で、凝縮器30より上流に設けられることで、冷媒ガス及び潤滑油の分解によって生じた酸をフィルタ19により効率的に捕捉することができる。
【0045】
(第3の実施形態)
次に、本発明を具体化した第3の実施形態を図3にしたがって説明する。なお、以下の説明では、第1の実施形態のランキンサイクル装置10のフィルタ18以外は構成部材が同じであるため、第1の実施形態のランキンサイクル装置10と同一構成について同一符号を付すなどし、その重複する説明を省略又は簡略する。
【0046】
第3の実施形態では酸捕捉材を、塩基性物質を主成分とした中和材に具体化している。塩基性物質としては、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム等を用いている。そして、第3の実施形態では、塩基性物質をそのままフィルタに設けるのではなく、図3に示すように、塩基性物質を球状に整粒して中和材Mとしたものをフィルタ21内に設けている。
【0047】
ここで中和材Mについて詳細に説明する。中和材Mは、以下の工程を経て製造される。まず、塩基性物質に有機バインダ及び無機バインダのうちの少なくとも1つを添加するとともに、混練して混練物を調整する混練工程を行う。この混練工程を行うことにより、各種バインダによって塩基性物質同士を結合して成形することが可能になる。なお、有機バインダとしては、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、澱粉、リグニン、ポリビニルアルコール等が挙げられ、無機バインダとしてはセメント、ベントナイト、水ガラス、セピオライト、カオリン、カオリナイト、アタパルシャイト等が挙げられる。
【0048】
次に、混練工程で得られた混練物を粒状に成形する造粒工程を行う。この造粒工程は、撹拌造粒、流動層造粒、押し出し造粒等の製造方法を適宜選択して行われる。造粒工程で得られた造粒物は、形状が不均一になっている。そして、造粒物の形状を均一にするため、造粒工程後に整粒工程を行う。この整粒工程により、造粒物が均一な粒径を有する球状に精製され、顆粒状の中和材Mが製造される。
【0049】
図3に示すように、球状に整粒された中和材M(塩基性物質)は、酸捕捉材としてフィルタ21内に設けられている。フィルタ21は、ランキンサイクル装置10の回路における第2ボイラ60より下流で、かつ膨張機20より上流の流路14上に設けられている。
【0050】
フィルタ21は、箱状をなすケース22を備えるとともに、ケース22の一つの側壁22aには、冷媒の流入口22bが形成されるとともに、流入口22bが形成された側壁22aに対向する他の側壁22cには、冷媒の流出口22dが形成されている。ケース22内において、他の側壁22cの内面には、メッシュフィルタ24が固着されている。メッシュフィルタ24は、流出口22d全体を覆うとともに、他の側壁22c内面全体を覆うように設けられている。なお、メッシュフィルタ24は、少なくとも流出口22d全体を覆うように設けられていればよく、他の側壁22c内面全体を覆っていなくてもよい。
【0051】
そして、中和材Mは、ケース22内に充填されている。中和材Mは、直径0.5〜5mmに整粒されるのが好ましい。中和材Mの直径が0.5mmより小さくなると、中和材Mがメッシュフィルタ24の網目を通過可能になってしまい、中和材Mが流出口22dからケース22外へ流出してしまうため好ましくない。また、中和材Mの直径が5mmより大きくなると、ケース22内での中和材Mの総表面積が小さくなってしまう。すると、中和材M(塩基性物質)と酸との反応可能面積が小さくなってしまうため好ましくない。そして、メッシュフィルタ24からの中和材Mの流出を抑制しつつ、中和材Mの総表面積が小さくなることを回避するために、中和材Mは直径1〜2mmに整粒されるのがより好ましい。
【0052】
さて、第3の実施形態において、第2ボイラ60での排気ガスの持つ高温の熱エネルギにより、冷媒ガス及び潤滑油が分解されると、冷媒ガスからフッ酸等の酸が生じるとともに、潤滑油からも酸が生じる。
【0053】
この酸は、冷媒ガスとともに第2ボイラ60から第2流路14へ導出され、流入口22bからフィルタ21内に導入される。すると、フィルタ21内では、酸が、中和材Mの塩基性物質と反応して中和される。すなわち、酸が酸捕捉材で捕捉される。
【0054】
(実施例1〜3、及び比較例1〜2)
次に、実施例及び比較例を挙げて第3の実施形態をさらに具体的に説明する。
実施例1では、塩基性物質として水酸化カルシウムを用いるとともに、有機バインダとしてカルボキシメチルセルロースを用いて混練工程を行い、混練物を調整した。実施例2では、塩基性物質として水酸化カルシウムを用いるとともに、無機バインダとしてセピオライトを用いて混練工程を行い、混練物を調整した。実施例3では、塩基性物質として水酸化カルシウムを用いるとともに、有機バインダとしてのカルボキシメチルセルロースと、無機バインダとしてのセピオライトを併用して混練工程を行い、混練物を調整した。そして、実施例1〜3では、混練物の造粒工程、及び整粒工程を行い、顆粒状(均一な球状)をなす中和材Mを製造した。
【0055】
一方、比較例1では、塩基性物質として水酸化カルシウムだけを造粒工程で粒状に成形した調整物を製造した。また、比較例2では、塩基性物質として水酸化カルシウムを用いるとともに、無機バインダ及び有機バインダのうちの少なくとも1つを用いて混練工程を行い、得られた混練物を造粒工程で粒状に成形した調整物を製造した。
【0056】
そして、実施例1〜3で製造された中和材M、及び比較例1〜2で得られた調整物をフィルタ21に充填し、ランキンサイクル装置10で冷媒を約100時間循環させた。循環後、中和材M及び調整物の状態を確認した。その結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

表1に示すように、球状に成形した中和材Mを用いた実施例1〜3では、中和材Mが粉末化することなく、中和材Mに異常が見られなかった。一方、比較例1〜2では、調整物が粉末化してしまっていた。
【0058】
したがって、上記第3の実施形態によれば、第1の実施形態の(2)、(3)と同様の記載に加え、以下のような効果を得ることができる。
(8)ランキンサイクル装置10の回路において、冷媒の循環方向における第2ボイラ60より下流であり、膨張機20より上流に、塩基性物質を主成分とする中和材Mを酸捕捉材として備えたフィルタ21を設けた。そして、第2ボイラ60通過後の冷媒ガスをフィルタ21に導入するようにした。このため、第2ボイラ60での加熱による冷媒ガス及び潤滑油の分解によって生じた酸を、中和材Mの塩基性物質で中和させて、酸を捕捉することができる。したがって、酸が膨張機20やポンプ40等のランキンサイクル装置10の回路の構成部品に供給されることを抑制することができ、各構成部品の金属部、ゴム部、樹脂部等が酸によって劣化することを抑制することができる。
【0059】
(9)酸捕捉材は、塩基性物質を有機バインダ及び無機バインダの少なくとも1つによって結合し、造粒し、さらに、球状に整粒して製造された中和材Mよりなるものである。このため、粉末状の塩基性物質そのものに比べると酸捕捉材としてのサイズが大きくなり、酸捕捉材(中和材M)が、冷媒ガスの流れによってフィルタ21から流されにくくなる。よって、酸捕捉材として塩基性物質を単体で用いる場合に比べると、酸捕捉材(中和材M)をフィルタ21に保持しやすくなり、酸捕捉材による酸の中和作用、すなわち、酸の捕捉作用を持続することができる。
【0060】
(10)酸捕捉材は、球状に整粒して製造された中和材Mよりなるものである。例えば、中和材が、整粒工程を経ず、円柱状、角柱状等の不均一な形状に成形されたものであると、それらの突出部や角部等には冷媒ガスが局所的に作用しやすく、粉砕されやすく、粉末化されやすい。しかし、本実施形態では、中和材Mは整粒工程を経ることで均一な球状に成形されているため、冷媒ガスの圧力が中和材Mの表面に均一に作用し、中和材Mは粉砕されにくく、粉末化されにくい。よって、このような中和材Mを酸捕捉材として用いることで、酸捕捉材の直径が小さくなりすぎること(粉末化されること)を抑制でき、酸捕捉材が粉末としてフィルタ21から流出してしまうことを抑制することができる。その結果として、酸捕捉材をフィルタ21に保持し続けることができ、酸捕捉材による酸の中和作用、すなわち、フィルタ21による酸の捕捉作用を持続することができる。
【0061】
なお、本実施形態は以下のように変更してもよい。
○ 第1の実施形態では酸捕捉材として多孔質物質に具体化したが、酸捕捉材を、膨張機20及びポンプ40を形成する材料(鉄)より卑な電位の金属に具体化してもよい。卑な電位の金属としては、マグネシウム合金、亜鉛、アルミニウム合金等が挙げられ、標準電極電位が膨張機20及びポンプ40を形成する材料より低い金属によって形成されている。言い換えると、卑な電位の金属は、膨張機20及びポンプ40を形成する材料である鉄よりもイオン化傾向の高い(イオン化しやすい)金属によって形成されている。
【0062】
このように構成した場合、第2ボイラ60で冷媒及び潤滑油から酸が発生しても、卑な電位の金属が犠牲電極となり、電池作用により卑な電位の金属で腐食が進むことになる。すなわち、酸が酸捕捉材で捕捉される。したがって、酸捕捉材を、膨張機20及びポンプ40を形成する材料(鉄)より卑な電位の金属に変更しても、上記実施形態の(1)〜(3)と同様の効果を得ることができる。
【0063】
○ 第1の実施形態では酸捕捉材として多孔質物質に具体化したが、酸捕捉材として、塩基性物質に具体化してもよい。塩基性物質としては例えば水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。このように構成した場合、第2ボイラ60で冷媒及び潤滑油から酸が発生しても、塩基性物質が、酸と反応して中和される。すなわち、酸が酸捕捉材で捕捉される。したがって、酸捕捉材を、塩基性物質に変更しても、上記実施形態の(1)〜(3)と同様の効果を得ることができる。
【0064】
○ 各実施形態では、熱交換器として第1ボイラ50と第2ボイラ60を設けたが、熱交換器を、車両エンジン51の排気ガスと熱交換させるものである第2ボイラ60のみとし、第1ボイラ50は無くてもよい。
【0065】
○ 各実施形態では、冷媒としてHFC134a(分子中の炭素数が2個)を用いたが、炭素数が3個以上のものを用いてもよく、冷媒はフルオロカーボンからなる骨格を基本としたものであれば適宜変更してもよい。
【0066】
○ 第1及び第2の実施形態では、多孔質物質(ゼオライト)として、微細孔の大きさが4Åのものを採用したが、多孔質物質における微細孔の大きさが、冷媒の分子量によって決定される分子の大きさより小さくなれば、多孔質物質は、用いる冷媒に合わせて適宜変更してもよい。
【0067】
○ 第2の実施形態において、酸捕捉材を、多孔質物質に加え、膨張機20及びポンプ40を形成する材料より卑な電位の金属と、塩基性物質と、から構成してもよい。すなわち、フィルタ19には3層の吸着材層が設けられる。さらに、酸捕捉材として、膨張機20及びポンプ40を形成する材料より卑な電位の金属と、塩基性物質と、から構成してもよいし、多孔質物質と、膨張機20及びポンプ40を形成する材料より卑な電位の金属と、から構成してもよい。
【0068】
○ 第1の実施形態において、酸捕捉材を、多孔質物質に加え、膨張機20及びポンプ40を形成する材料より卑な電位の金属と、塩基性物質と、から構成してもよい。すなわち、フィルタ19には3層の吸着材層が設けられる。又は、酸捕捉材として、膨張機20及びポンプ40を形成する材料より卑な電位の金属と、塩基性物質との2層で構成してもよいし、多孔質物質と、膨張機20及びポンプ40を形成する材料より卑な電位の金属との2層で構成してもよい。又は、酸捕捉材として、多孔質物質と塩基性物質との2層で構成してもよい。
【0069】
○ 第2の実施形態において、膨張機20より下流であり、凝縮器30より上流に設けるフィルタ19には、酸捕捉材として、多孔質物質、膨張機20及びポンプ40を形成する材料より卑な電位の金属、又は塩基性物質のいずれか1つを設けてもよい。
【0070】
○ 第1の実施形態において、多孔質物質を主成分とする吸着材層18bに、塩基性物質及び卑な金属の少なくとも一方を混在させてもよい。
○ 第3の実施形態において、酸捕捉材を、中和材Mに加え、膨張機20及びポンプ40を形成する材料より卑な電位の金属と、から構成してもよい。
【符号の説明】
【0071】
M…酸捕捉材としての中和材、10…ランキンサイクル装置、18b…酸捕捉材としての吸着材層、19b…酸捕捉材としての第1吸着層、19c…酸捕捉材としての第2吸着材層、20…膨張機、30…凝縮器、40…ポンプ、50…熱交換器としての第1ボイラ、51…排熱源としての車両エンジン、60…熱交換器としての第2ボイラ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルオロカーボンからなる骨格を基本とする冷媒が用いられ、
前記冷媒を吐出するポンプ、
前記ポンプから吐出された冷媒と排熱源からの流体との間で熱交換させる熱交換器、
前記熱交換器で熱交換された冷媒を膨張させて機械的エネルギーを出力する膨張機、
及び前記膨張機から吐出された冷媒を凝縮する凝縮器、を順次接続してなる回路を備えるランキンサイクル装置において、
前記回路において前記熱交換器より下流で、かつ前記凝縮器より上流に、前記冷媒の分解により発生した酸を捕捉する酸捕捉材を設けたランキンサイクル装置。
【請求項2】
前記酸捕捉材は、前記酸を吸着する多孔質物質であるとともに、該多孔質物質における微細孔の大きさが、前記冷媒における分子量によって決まる分子の大きさよりも小さいものである請求項1に記載のランキンサイクル装置。
【請求項3】
前記冷媒は、分子中の炭素数が2個以上のものである請求項2に記載のランキンサイクル装置。
【請求項4】
前記酸捕捉材は、前記膨張機及びポンプを形成する材料より卑な電位の金属よりなる請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載のランキンサイクル装置。
【請求項5】
前記酸捕捉材は、塩基性物質である請求項1〜請求項4のうちいずれか一項に記載のランキンサイクル装置。
【請求項6】
前記酸捕捉材は、前記塩基性物質に、有機バインダ及び無機バインダのうちの少なくとも1つを添加して混練した混練物を、造粒し、さらに、球状に整粒して製造された中和材である請求項5に記載のランキンサイクル装置。
【請求項7】
前記酸捕捉材は、前記回路において前記膨張機より上流に設けられている請求項1〜請求項6のうちいずれか一項に記載のランキンサイクル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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