説明

ランス操作補助装置

【課題】長尺なランスを傾倒自在に一点支持して作業者が前記ランスを操作する補修作業に際して、ランスの操作を補助するランス操作補助装置を提供する。
【解決手段】チューブ23からロッド21を上方に向けて突出させるエアシリンダ2を、作業足場7に置いて作業者5が踏むアンカー3に対して、シャックル4により姿勢自在に連結して構成され、エアシリンダ2は、ランス6に少なくとも上方から係合するフック22をロッド21に設け、チューブ23の前室の前給排口にレギュレータ24を設け、前記レギュレータ24を介して前室に圧縮空気Apを給排し、チューブ23の後室の後給排口から前記後室に空気Anを自然給排するランス操作補助装置1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランスを傾倒自在に一点支持して作業者が前記ランスを操作する補修作業に用いるランス操作補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶射材料を吹き付けてコークス炉の炉壁を補修する際、溶射材料を吹き出すランスを傾倒自在に一点支持し、前記ランスを作業者が傾倒させて手動で操作する補修作業から、ランスを一体に組み込み、前記ランスの上下左右の移動を自動化した補修装置を用いる補修作業まで、様々ある。ランス自体も、伸縮又は非伸縮等や一重管〜三重管等の構造又は構成の違いが見られるが、いずれも数mの全長(伸縮するものは伸長した状態)となるランス本体の先端部に噴射ノズルを設けている。こうした長尺なランスは、噴射ノズルを突出させた前記先端部からランス本体の大部分をコークス炉に挿入し、基端部から供給される溶射材料及び反応ガスを前記噴射ノズルから吹き出すように使用される。
【0003】
特許文献1が開示する補修装置は、作業床(101)上を移動する台車(7)に搭載された移動台(8)に支持機構(9)を設け、前記支持機構にランス本体(基管1)を回転自在に軸支すると共に、前記ランス本体を俯仰自在に傾動(傾倒)させる傾動機構(11)を備えて構成される。ランスは、第1段ランス(2)〜第3ランス(4)及びランスヘッド(5)が前記ランス本体から出入りするテレスコピック型である。噴射ノズル(ノズル21)は、前記ランスヘッドに設けられる。傾動機構は、電動シリンダ又は油圧シリンダで、チューブが移動台に固定され、前記チューブから上方に向けて伸縮するロッドの先端部をロッド本体の支点より後方に軸着される(特許文献1・[0014][図1])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-181641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1が開示する補修装置は、ランスを傾動機構により傾倒させて先端部(ランスヘッド)に設けられた噴射ノズルの高さを加減できるので、前記噴射ノズルの高さを加減するランスの操作に作業者の労力を要しない。このように、ランスの操作をどんどん自動化していくと好ましく思えるが、前記自動化が進むとどうしても補修装置が大型化したり、高価になったりして、様々なコークス炉に導入し難くなる問題が出てくる。また、作業者がランスの傾倒角度を細やかに操作して、噴射ノズルの高さを微調整できることが望まれる。これから、ランスを傾倒自在に一点支持して作業者が操作する補修作業が好まれて利用されている。
【0006】
ランスを傾倒自在に一点支持する補修作業では、支点は作業足場に置いた専用の支持具や高所作業台の手摺として与えられる。いずれも、ランスに与えられる支点は、先端部からランス本体の大部分をコークス炉に挿入する関係から、基端部に偏って設けられる。このため、前記先端部から支点までのモーメントが大きくなり、作業者のランスを傾倒させる労力が大きくなる問題がある。この点、ランスが短かったり、一重管であったりすれば、前記モーメントはそれほど大きくならないが、ランスが長くなったり、冷却を考慮した二重管、三重管になったりすると、前記モーメントによる作業者の負担が無視できない。
【0007】
ランスが長くなったり、二重管、三重管になったりしてモーメントが大きくなると、ランスの先端部に設けた噴射ノズルを目標の炉壁に接近させて、きちんと停止させる操作が難しくなり、噴射ノズルの高さを微調整できる利点が損なわれてしまう問題が出てくる。また、モーメントに対抗しながらランスを細かく操作しようとすると、ランスの行き過ぎる傾きを無理に抑えようとしてかえってランスがふらついたり、先端部から支点までが振動したりして、ランスを安定して操作できなくなり、やはり噴射ノズルの高さを微調整できる利点が損なわれてしまう問題を招く。
【0008】
このように、ランスを傾倒自在に一点支持して作業者が前記ランスを操作する補修作業は、ランスに掛かるモーメントが様々な問題をもたらしている。ランスが長尺にならざるを得ない現状を鑑みれば、モーメントそのものをなくすことはできない。そこで、長尺なランスのモーメントがもたらす問題を解決するべく、ランスを傾倒自在に一点支持して作業者が前記ランスを操作する補修作業に際して、ランスの操作を補助する、すなわちランスの先端部を下げるために前記ランスの支点から基端部の間を持ち上げる場合、ランスに掛かる勢いを減殺し、またランスの先端部を上げるために前記ランスの支点から基端部の間を押し下げる場合、ランスの押し下げに必要な力を補填できるランス操作補助装置を開発するため、検討した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
検討の結果開発したものが、チューブからロッドを上方に向けて突出させるシリンダを、作業足場に置いて作業者が踏むアンカーに対して、連結部材により姿勢自在に連結して構成され、シリンダは、ランスに少なくとも上方から係合する係合部をロッドに設け、チューブの前室の前給排口にレギュレータを設け、前記レギュレータを介して前給排口から前室に加圧媒体を給排し、チューブの後室の後給排口から前記後室に加圧媒体を自然給排するランス操作補助装置である。作業足場は、ランスを操作する作業者が立つ足場を意味し、作業者がアンカーを安定して踏み続けることのできる平面があれば足り、例えばコークス炉窯に面する作業床や高所作業台である。
【0010】
本発明のランス操作補助装置は、ランスの傾倒に際するランスの勢いの減殺や力の補填を、レギュレータが加圧媒体を自動給排して伸長又は縮退するシリンダのロッドにより実現する。ランス操作補助装置は、作業足場に置いたアンカーを作業者が踏みつけて位置固定し、前記アンカーに対して姿勢自在に支持されたシリンダから上方に向けて伸長又は縮退するロッドに設けた係合部を、支点から基端部の間(基端部含む。以下、同じ)でランスに少なくとも上方から係合する。係合部は、ランスの傾倒を妨げなければ、ランスを把持するクランプから構成してもよい。作業者は、支点とシリンダとの間に立ってもよいし、シリンダより基端部寄り、すなわち支点との間にシリンダを挟んで立ってもよい。
【0011】
シリンダは、加圧媒体を問わず、液圧シリンダ又は気圧シリンダのいずれも利用できるが、工場等では加圧媒体として空気(圧縮空気)が供給されていることから、空気圧シリンダ(エアシリンダ)が好適である。液圧シリンダは、給排がいずれも加圧媒体である。エアシリンダは、例えばピストンを押す圧縮空気を前室に給排し、大気(加圧されていない空気)を後室に給排する。これから、エアシリンダについては、後室に給排する大気(加圧されていない空気)も、本発明の加圧媒体の一種とみなす。レギュレータは、チューブの前給排口に直接設けるほか、前記前給排口に接続される加圧媒体の供給経路に介在させてもよい。自然給排は、チューブの後室の後給排口が開放され、加圧媒体が流入及び流出が自由であることを意味する。シリンダは、ランスの傾倒に応じてロッドを伸長又は縮短させながら、連結部材の働きにより、アンカーに対する姿勢(垂直面又は水平面内の傾き)を変化させる。
【0012】
連結部材は、アンカーに対してチューブを姿勢自在にする、すなわちチューブの姿勢を自在に変化させることのできる可撓部材(ワイヤー、ベルト等)又は屈曲部材(チェーン、シャックル、ユニバーサルジョイント等)の一つ又は組み合わせから構成される。係合部は、ランスとロッドとを着脱自在にする接続部材で、ロッド途中に設けてもよいが、通常ロッドの先端部に設けられ、持ち上がるランスに少なくとも上方から係合できればよく、フック(鉤)のほか、ランスの傾倒を妨げなければ、ランスを把持するクランプでもよい。
【0013】
アンカーは、作業足場に置いて作業者が踏みつけることにより、連結部材を介してシリンダの浮き上がりを防止する部分で、作業者が安定して踏みつけることができれば、構成部材の素材や全体構成又は全体構造を問わない。これから、本発明に利用されるアンカーは、耐熱性が要求される場合、もちろん金属板又は金属パイプから構成されることになるが、それほど耐熱性が要求されない場合(作業床や高所作業台はそれほど熱くならない)、樹脂板又は樹脂パイプや木製の平板又は棒材でも構わない。また、後述するように、2部材から構成されるアンカーであれば、金属板又は金属パイプや耐熱性を備えた樹脂板又は樹脂パイプを組み付けて構成してもよい。
【0014】
作業者は、加圧媒体を給排するレギュレータに設定圧力を設定し、補修作業を開始する。レギュレータの設定圧力は、加圧媒体の供給側(一次側)に対する供給先(二次側)の圧力で、本発明ではシリンダの前室の加圧媒体の圧力にあたる。すなわち、シリンダの前室の加圧媒体の圧力が設定圧力を上回ると、レギュレータを通して前室の加圧媒体が排出され、逆に前記前室の加圧媒体の圧力が設定圧力を下回るとレギュレータを通して加圧媒体が前室へ供給される。これにより、シリンダは、前室の加圧媒体の圧力が設定圧力になるようにロッドを伸縮させ、前記ロッドの伸縮を上回るランスの姿勢変化を抑制する。
【0015】
ランスの先端部を下げる場合、作業者がランスの支点から基端部の間を持ち上げる。シリンダは、ランスに少なくとも上方から係合部を係合させているため、ロッドがランスに引き上げられてピストンを上昇させ、前室の加圧媒体を圧縮する。こうして圧縮された前室の加圧媒体は、レギュレータの設定圧力を超えると、レギュレータを通して前室から排出される。同時に後室へ加圧媒体が流入するが、前記後室への加圧媒体の流入はピストンの上昇を特に妨げない。しかし、前室からの加圧媒体の排出は、ピストンが上昇する際の抵抗となる。こうして、レギュレータを通して前室からの加圧媒体の排出がランスの上昇に対する抵抗になり、ランスの支点から基端部の間を持ち上げる際にランスに掛かる勢いを減殺する。
【0016】
「加圧媒体の排出がランスの上昇に対する抵抗にな」るとは、ロッドを引き上げるランスの上昇に比べてロッドの伸長が遅れ気味であることを意味する。このように、ロッドの伸長がランスの引き上げに比べて遅延していると、シリンダとアンカーとを結ぶ連結部材は緊張したままとなり、作業者に踏まれたアンカーがランスに従って連れ上がりすることを防止できる。このとき、アンカーに掛かる負荷は、ランスを持ち上げる力ではなく、ランスの先端部から支点までの長さに比例するモーメントに対抗する力であり、ランスを操作する前のアンカーを作業者が踏んで安定にランスを支持できていれば、そのまま作業者の踏む力だけでアンカーを押さえ込むことができる。
【0017】
ランスの先端部を上げる場合、作業者がランスの支点から基端部の間を押し下げる。係合部がランスに上方から係合しているだけであれば、前記ランスの支点から基端部がロッドを引き上げようとしていた負荷が低下するため、前記負荷の低下に応じてロッドを縮短してピストンを下降させ、前室の加圧媒体を膨張させる。係合部がランスを把持していれば、前記ランスの支点から基端部と共にロッドを縮短してピストンを下降させ、前室の加圧媒体を膨張させる。膨張した前室の加圧媒体がレギュレータの設定圧力を下回ると、レギュレータを通して外部の供給源から新たな加圧媒体が供給される。同時に後室から加圧媒体が流出するが、前記加圧媒体の後室からの流出はピストンの下降を特に妨げない。前室への加圧媒体の流入は、ピストンの下降を促す力となる。こうして、レギュレータを通して前室へ流入する加圧媒体がロッドの縮短を助け、ランスの支点から基端部の間を押し下げる際に必要な力を補填する。
【0018】
ランスの支点から基端部の間を押し下げてロッドを縮短させる場合、前室へ加圧媒体を供給してピストンを強制的に押し下げることから、ランスの下降に遅れることなくロッドの縮短が追随する。このように、ロッドの縮短がランスの押し下げに遅れることなく追随していると、シリンダとアンカーとを結ぶ連結部材は緊張したままとなり、係合部がランスから外れてランスの支点から基端部の間を押し下げる際に必要な力を補填する働きを損ねる虞がなくなる。このとき、アンカーに掛かる負荷は、ランスを持ち上げる力ではなく、ランスの先端部から支点までの長さに比例するモーメントに対抗する力であり、ランスを操作する前のアンカーを作業者が踏んで安定にランスを支持できていれば、そのまま作業者の踏む力だけでアンカーを押さえ込むことができる。
【0019】
アンカーは、作業足場に置いて作業者が踏みつけ、連結部材を介してシリンダを姿勢自在に位置固定できれば、構成又は構造を問わないが、連結部材を接続する本体部と、前記本体板に交差する補助部とを一体にした構成にすると、ランスに対して身体を斜めに開く作業者が、自然な足の開きに応じて、例えば右足で本体部を踏み、左足で補助部を踏み分けることができる。また、本体部の端部に、前記本体部に直交する補助部を一体にしたアンカーとすれば、補助部を軸として本体部を上方に持ち上げ、前記補助部を滑らせて持ち上げたままの本体部を水平旋回させる、すなわちアンカーの向きを容易に変更できる。
【0020】
アンカーは、単一部材で構成される場合や、上述のように、本体部及び補助部の2部材から構成される場合でも、各部材の作業足場に向いた下面が平坦面、反対の上面が凸面であることが望ましい。作業者は、補修作業の間、負荷の掛かるアンカーを踏み続ける必要がある。平坦面であるアンカーの下面は、アンカーを作業足場に安定して置けるようにする。また、凸面であるアンカーの上面は、例えば作業者が踵又は爪先を作業足場に接地して前記踵又は爪先を軸に足を倒すように押し付けたり、土踏まずが跨ぐように足全体で押し付けたりできるようにし、作業者が長時間にわたってアンカーを踏みやすくする。アンカーの上面は、凸面であれば、段差があっても、全体に円滑面であってもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明のランス操作補助装置は、アンカーにより作業足場に対して姿勢自在に位置固定したシリンダの前室へレギュレータにより加圧媒体を自動給排させることにより、ランスを傾倒自在に一点支持して作業者が前記ランスを操作する補修作業に際し、先端部を下げるために支点から基端部の間を持ち上げるランスに掛かる勢いを減殺し、また先端部を上げるために支点から基端部の間を押し下げるランスの前記押し下げに必要な力を補填して、ランスを操作する作業者の労力を大きく減らす効果をもたらす。また、シリンダは、ロッドの係合部をランスに少なくとも上方から常に係合しているので、ランスの支点から基端部の間がモーメントにより持ち上がることが抑制でき、作業者によるランスの細かな傾倒操作がやりやすくなる効果をもたらす。
【0022】
シリンダを姿勢自在に位置固定するアンカーは、連結部材を接続する本体部と補助部とを交差させて構成することにより、作業者が踏みつける部位を増やし、アンカーを踏む作業者の姿勢に自由度を与え、例えばランスの傾倒操作がしやすい姿勢を作業者に取らせることもできるようにする。また、アンカーは、下面を平坦面とし、上面を凸面とすることにより、作業足場に安定して置き、かつ作業者が踏みやすくなり、アンカーを踏む作業者の負担を軽減する。これから、前記本体部及び補助部の下面が平坦面、上面が凸面であれば、作業者がどのような姿勢を取ろうとも、長時間にわたって安定してアンカーを踏み続けることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に基づくランス操作補助装置の構成を表す斜視図である。
【図2】本例のランス操作補助装置を作業者より基端部寄りに配置した使用状態を表す斜視図である。
【図3】本例のランス補助装置に補助されて、ランスを水平にした状態を表す側面図である。
【図4】本例のランス補助装置に補助されて、ランスの先端部を下げた状態を表す側面図である。
【図5】本例のランス補助装置に補助されて、ランスの先端部を上げた状態を表す側面図である。
【図6】本例のランス操作補助装置を作業者より支点寄りに配置した使用状態を表す斜視図である。
【図7】補助パイプのみを踏んでアンカーを水平旋回させている使用状態を表す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態について図を参照しながら説明する。本発明のランス操作補助装置1は、例えば図1に見られるように、ロッド21を突出させるエアシリンダ(シリンダ)2のチューブ23の下端部に設けたチューブ側リング235を、作業足場7(後掲図7参照)に置いて作業者5が踏むアンカー3に設けたアンカー側リング311と、シャックル(連結部材)4により姿勢自在に連結して構成される。シャックル4は、チューブ側リング235及びアンカー側リング311に対してそれぞれ自由度を有し、全体として2自由度を確保する。エアシリンダ2は、アンカー3に対してそれほど大きく姿勢変化しないので、アンカー3に対する自由度はシャックル4による2自由度で十分である。
【0025】
アンカー3は、長尺の本体パイプ31と短尺な補助パイプ32とを直交させた平面視T字状である。本体パイプ31は、金属製パイプを圧潰して、開放端部を上面及び下面を密着させた扁平面としながら、補助パイプ32との接続端部に向けて前記開放端部から徐変に上面を膨らませ、前記接続端部で上面を金属製パイプそのままの湾曲面(凸面)、下面を平坦面とした異形断面である。また、補助パイプ32は、金属製パイプを圧潰して、上面を金属製パイプそのままの湾曲面(凸面)、下面を平坦面とした断面かまぼこ形である。シャックル4は、本体パイプ32の開放端部の上面に設けられたアンカー側リング311に連結される。
【0026】
エアシリンダ2は、チューブ23の前室232(後掲図3参照)の前給排口231(図1中、レギュレータ24の接続位置で図示)にレギュレータ24を設け、前記レギュレータ24を介して前給排口231から前室232に圧縮空気(加圧媒体)Ap又は空気Anを給排し、チューブ23の後室234の後給排口233(図1中、引き出し線の指示位置で図示)を開放し、前記後給排口233から前記後室234に大気中から空気Anを自然給排する。シャックル4は、チューブ23の下端に設けられたチューブ側リング235に連結される。
【0027】
ロッド21は、ランス6に上方から断面凹形の周溝を有するローラ221を係合させるフック(係合部)22を先端部に設けている。フック22は、ランス6に少なくとも上方から係合すればよいため、ローラ221がなくても構わない。しかし、後述するように、ランス6の支点62から基端部63の間を持ち上げたり(後掲図4参照)、押し下げたり(後掲図5参照)すると、ランス6に対するフック22の係合位置が前後するため、前記フック22の移動を円滑にし、かつ傾倒するランス6に対して常に同様に周溝を係合させる円形のローラ221を前記ランスに係合させる構成が好ましい。
【0028】
レギュレータ24は、供給先(二次側)となるチューブ23の前給排口231に流出口(二次側口)を接続し、供給側(一次側)となる圧縮空気Apの媒体供給ホース25を流入口(一次側口)に接続している。レギュレータ24は、チューブ23の前室232へ供給された圧縮空気Apの圧力を加減する設定ノブ241と、前記圧力を表示する圧力計242とを備えている。これにより、作業者5は、フック22を係合させながら支持したランス6が特定の姿勢(通常、水平状態)で安定するように、圧力計242を見ながら設定ノブ241を廻して設定圧力を調整する。例えば先端部61から支点62までの長さが6mとした二重管仕様のランス6の場合、レギュレータ24の設定圧力は0.15MPa〜0.2MPaである。
【0029】
ランス操作補助装置1は、図2に見られるように、例えば作業足場7に置いた支持具71に一点支持されたランス6に対し、前記支持具71により与えられるランス6の支点62から基端部63の間に配置する。アンカー3は、エアシリンダ2を連結する開放端部をランス6の基端部63に向けた本体パイプ31をランス6とほぼ平行にし、補助パイプ32を前記ランス6に交差する向きにして作業足場7に置く。本体パイプ31及び補助パイプ32の向きは自由であり、作業者5が好みに応じて設定できる。
【0030】
作業者5は、補助パイプ32を右足53の爪先で踏み、本体パイプ31を左足の爪先で踏み、ランス6の支点62及び基端部63の間を右手51及び左手52で持つ。アンカー3を構成する本体パイプ31は、開放端から接続端に向けて徐変に断面形状を変化させているが、下面が平坦面、上面が凸面である。また、補助パイプ32は、両端にわたって同一断面で、下面が平坦面、上面が凸面である。これにより、アンカー3は本体パイプ31及び補助パイプ32の下面を作業足場7に接面させて安定に置ける。また、作業者5は、踵を作業足場7に接地して前記踵を軸に右足53及び左足54をそれぞれ踏み込むようにして、本体パイプ31及び補助パイプ32の上面を踏みつけることができる。
【0031】
エアシリンダ2は、ランス6の作業者5及び基端部63の間にフック22のローラ221を上方から前記ランス6に係合させる。本例のランス6は、基端部63に溶射材料及び反応ガスの材料供給ホース(図示略)の接続部(カプラ)を設けており、ローラ221は前記接続部に引っかかることにより、フック22が基端部63から後方へ逸脱することを防止できる。こうした接続部がない場合、ランス6の傾倒によりフック22がローラ221を転動又はランス6に摺動させてわずかに前後するため、基端部63から十分に前方へフック22のローラ221を係合させればよい。
【0032】
作業者5は、ランス6による補修作業の開始前、レギュレータ24の設定圧力を調整及び設定する。設定圧力は、作業者5がランス6を傾けずに持った状態(図2参照)で、図3に見られるように、ランス6の先端部61から支点62までによるモーメントに対抗してエアシリンダ2がロッド21を下向きに引くことにより前記支点62から基端部63までを押し下げ、水平姿勢のランス6が平衡するように設定する。ランス6は、一度にコークス炉内へ挿入するのではなく、徐々に挿入する長さを延ばしていくことから、前記設定圧力は、挿入する長さを徐々に延ばすランス6がその都度水平姿勢で平衡できるように、調整及び設定を繰り返す。
【0033】
ランス6の先端部61を下げる場合、図4に見られるように、作業者5がランス6の支点62から基端部63の間を持ち上げる(図2参照)。ランス6は、支点62を軸として傾倒するところ、先端部61を大きく下降させる。このように、ランス6の支点62から基端部63を持ち上げる操作は、先端部61を下げる。エアシリンダ2は、ランス6にフック22のローラ221を上方から係合させているため、作業者5により持ち上げられるランス6に連れてロッド21が引き上げられることによりピストン211を上昇させ、前室232の圧縮空気Apを更に圧縮する(図4中、密なクロスハッチングで図示)。
【0034】
圧縮された前室232の圧縮空気Apは、レギュレータ24の設定圧力を超えると、前記レギュレータ24を通して前室232から排出される。同時に後室234へ大気中から空気Anが流入するが、前記後室234への空気Anの流入はピストン211の上昇を特に妨げない。しかし、前室234からの圧縮空気Apの排出は、ピストン211が上昇する際の抵抗となる。こうして、レギュレータ24を通して前室234からの圧縮空気Apの排出がランス6の上昇に対する抵抗になり、ランス6の支点62から基端部63の間を持ち上げる際にランス6に掛かる勢いを減殺する。
【0035】
ロッド21の伸長がランス6の引き上げに比べて遅れ気味であると、エアシリンダ2とアンカー3とを結ぶシャックル4はチューブ側リング235及びアンカー側リング311双方に係合して緊張したままとなり、作業者5に踏まれたアンカー3がランス6に従って連れ上がりすることを防止できる。このとき、アンカー3に掛かる負荷は、ランス6を持ち上げる力ではなく、ランス6の先端部61から支点62までの長さに比例するモーメントに対抗する力であり、ランス6を操作する前のアンカー3を作業者が踏んで安定にランス6を支持できていれば、そのまま作業者5の踏む力だけでアンカー3を押さえ込むことができる。
【0036】
ランス6の先端部61を上げる場合、図5に見られるように、作業者5がランス6の支点62から基端部63の間を押し下げる(図2参照)。ランス6は、支点62を軸として傾倒するところ、先端部61を大きく上昇させる。このように、ランス6の支点62から基端部63を押し下げる操作は、先端部61を上げる。フック22のローラ221がランス6に上方から係合しているので、前記ランス6の支点62から基端部63がロッド6を引き上げようとしていた負荷が低下すると、前記負荷の低下に応じてロッド21を縮短してピストン211を下降させ、前室232の圧縮空気Apを膨張させる(図5中、粗なクロスハッチングで図示)。
【0037】
膨張した前室232の圧縮空気Apがレギュレータ24の設定圧力を下回ると、レギュレータ24を通して新たな圧縮空気Apが供給される。同時に後室234から空気Anが流出するが、前記空気Anの後室234からの流出はピストン211の下降を特に妨げない。前室232への圧縮空気Apの流入は、ピストン211の下降を促す力となる。こうして、レギュレータ24を通して前室232へ流入する圧縮空気Apがロッド21の縮短を助け、ランス6の支点62から基端部63の間を押し下げる際に必要な力を補填する。
【0038】
ランス6の支点62から基端部63の間を押し下げてロッド6を縮短させる場合、前室232へ圧縮空気Apを供給してピストン211を強制的に押し下げるから、ランス6の下降に遅れることなくロッド21の縮短が追随する。このように、ロッド21の縮短がランス6の押し下げに遅れずに追随していると、エアシリンダ2とアンカー3とを結ぶシャックル4は緊張したままとなり、フック22がランス6から外れる虞がない。このとき、アンカー3に掛かる負荷は、ランス6を持ち上げる力ではなく、ランス6の先端部61から支点62までの長さに比例するモーメントに対抗する力であり、ランス6を操作する前のアンカー3を作業者が踏んで安定にランス6を支持できていれば、そのまま作業者5の踏む力だけでアンカー3を押さえ込むことができる。
【0039】
作業者5は、図6に見られるように、支点62との間にエアシリンダ2を挟んで立ってもよい。この場合、アンカー3は、上記例示と反対向き、すなわちシリンダ2を挟んで補助パイプ32が支点62より遠い側に位置する向きで、作業足場7に置く。そして、作業者5は、補助パイプ32を右足53の外側で踏み、本体パイプ31を左足の踵で踏み、フック22を挟むランス6の前後を右手51及び左手52で持つ。ランス6は、支点62及び基端部63に対するシリンダ2の位置関係が上記例示と同じであるため、上述と同様に操作して傾倒させることができる。
【0040】
アンカー3は、図7に見られるように、右足53で押さえつけた補助パイプ32を軸として、上面に左足54を添えて持ち上げた姿勢にある本体パイプ31を水平旋回させて、アンカー3の向きを変えることができる。シリンダ2は、左足54による本体パイプ31の押さえ付けを緩める又はなくすとチューブ23下端を位置固定できなくなるので、ランス6を持ち上げてもロッド21を伸長させることなく、全体を上昇させる。これにより、作業者5が持ち上げるランス6に連れて、本体パイプ31も持ち上げることができ、残る補助パイプ32を作業足場7に摺接させて、首を横に降るように、アンカー3の本体パイプ31の水平向きを変えることができる。
【符号の説明】
【0041】
1 ランス操作補助装置
2 エアシリンダ
21 ロッド
22 フック
23 チューブ
231 前給排口
232 前室
233 後給排口
234 後室
24 レギュレータ
25 媒体供給ホース
3 アンカー
31 本体パイプ
32 補助パイプ
4 シャックル
5 作業者
6 ランス
61 先端部
62 支点
63 基端部
7 作業足場

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チューブからロッドを上方に向けて突出させるシリンダを、作業足場に置いて作業者が踏むアンカーに対して、連結部材により姿勢自在に連結して構成され、
シリンダは、ランスに少なくとも上方から係合する係合部をロッドに設け、チューブの前室の前給排口にレギュレータを設け、前記レギュレータを介して前給排口から前室に加圧媒体を給排し、チューブの後室の後給排口から前記後室に加圧媒体を自然給排するランス操作補助装置。
【請求項2】
アンカーは、連結部材を接続する本体部と、前記本体部に交差する補助部とを一体にして構成される請求項1記載のランス操作補助装置。
【請求項3】
アンカーは、作業足場に向いた下面が平坦面、反対の上面が凸面である請求項1又は2記載のランス操作補助装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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