説明

ランフラットタイヤの安全支持体用潤滑組成物

【課題】ランフラット走行時の耐揮発性、低流動性、耐熱性及び耐老化性に優れたランフラットタイヤの安全支持体用潤滑組成物を提供する。
【解決手段】グリセリン成分と二酸化ケイ素とを含むランフラットタイヤの安全支持体用潤滑組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランフラットタイヤの安全支持体用潤滑組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ランフラットタイヤは、タイヤがパンクした場合や、その他の原因でタイヤの空気圧が大きく低下しあるいはゼロとなった場合であっても、ある程度の距離を走行することが可能なタイヤをいい、車両の荷重と走行に耐え得る耐久性を要求される。
【0003】
上記ランフラットタイヤにおいて、ランフラット走行時(内圧低下時)のタイヤ内部の補強のために装着された支持体が、タイヤ内面に接触することによる磨耗を防ぐため、タイヤ内面に潤滑剤が塗布されることがある。潤滑剤としては、シリコーン系、ポリエチレングリコール系、ポリオキシエチレン系等が使用される。かかる潤滑剤は、タイヤ内面の磨耗を防ぐには有効であるが、ランフラットでの高速走行時に、支持体とタイヤ内面との摩擦による発熱を防ぐことができなかった。
【0004】
このような中、ランフラット走行時の発熱によるタイヤの劣化を遅らせるため、摩擦を減らし、車両が停止しているとき、あるいは膨らんだタイヤで走行している際に、潤滑剤の粘度を増加させ、流動性の低い潤滑組成物をタイヤ内面に用意することが試みられてきた。
【0005】
特許文献1では、潤滑組成物にシリコーンオイルと二酸化ケイ素を組み合わせた潤滑組成物を用いて、難燃性の高い潤滑剤を製造している。
【0006】
しかし、シリコーンオイルを用いた潤滑剤は、潤滑性能や、タイヤ内面のゴム性能の低下原因となる恐れがある。
【0007】
特許文献2には、潤滑組成物の主成分としてグリセリンと水、増粘剤として多糖類を用いた潤滑剤が開示されている。かかる潤滑剤は、潤滑性能を示し、ゴム部材の物性変化を起こさない点において優れている。
【0008】
しかし、増粘剤として多糖類を使用すると、流動性、耐熱性、及び耐老化性等において問題を生じる。
【0009】
潤滑組成物としては、ある程度均一に分散した状態を保たなければタイヤバランスが崩れ、走行時の騒音を引き起こす原因となる。また、ランフラット走行時には、パンクによりタイヤに穴があく恐れがあり、穴から潤滑剤が流れ出る可能性があるため、低流動性が必要となる。
【0010】
更に、ランフラット走行時の摩擦熱により、潤滑組成物が高温に達して揮発するため、耐揮発性に優れている必要があり、タイヤ内部は、通常走行時において、約40〜50℃程度の条件下で、長期にわたり、ある一定の潤滑性能を維持できる耐老化性が必要である。
【0011】
【特許文献1】特許3369239号公報
【特許文献2】特表2004−502590号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明は、ランフラット走行時の耐揮発性、低流動性、耐熱性及び耐老化性に優れたランフラットタイヤの安全支持体用潤滑組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下に示す潤滑組成物を用いることにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、グリセリン成分と二酸化ケイ素とを含むランフラットタイヤの安全支持体用潤滑組成物、に関する。
【0015】
本発明によると、ランフラット走行時におけるランフラットタイヤの安全支持体用潤滑組成物は、耐揮発性、低流動性、耐熱性及び耐老化性に優れたものとなる。
【0016】
前記グリセリン成分が、グリセリン、ジグリセリン、及びポリグリセリンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、より好ましくはポリグリセリンである。ここで、前記グリセリン成分は、耐揮発性及び耐熱性に優れているため、潤滑組成物の揮発温度を高くすることができ、ランフラット走行時においても、潤滑組成物の性能が保持され、耐久性を向上することができる。
【0017】
前記ポリグリセリンのグリセリン単位が、10以下であることが好ましい。グリセリン単位が、10を超えると、増粘剤である二酸化ケイ素が分散し、増粘効果が得られない傾向にある。
【0018】
前記二酸化ケイ素は、その表面を疎水性処理したものであって、凝集粒子径が100μm以下であることが好ましい。前記二酸化ケイ素の凝集粒子径が100μmを超える場合は、二酸化ケイ素のグリセリン成分に対する分散性が悪くなる。
【0019】
前記グリセリン成分と二酸化ケイ素の混合比(重量部)が、グリセリン成分:二酸化ケイ素=100:3〜15であることが好ましい。ここで、二酸化ケイ素の混合比が前記範囲を超える場合、増粘効果大きくなりすぎ、前記潤滑組成物を混合することができない。一方、二酸化ケイ素の混合比が前記範囲を下回る場合、増粘効果が小さく、粘度が低いため、低流動性を得ることができない。
【0020】
本発明の潤滑組成物の粘度が、30℃及び70℃において、10〜3000Pa・sであることが好ましい。前記範囲を超える場合は、粘度が高く、作業性が劣ることになる。一方前記範囲を下回る場合、潤滑剤の粘度が低く、低流動性を満たすことができない。
【0021】
本発明の潤滑組成物の使用により、タイヤバランスが崩れることなく、タイヤのパンクによる潤滑組成物の抜け落ちが少なくなり、ランフラット走行時における耐久性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、詳細を説明する。
【0023】
本発明におけるグリセリン成分としては、特に限定されないが、例えば、グリセリン、ジグリセリン、及びポリグリセリンなどが挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0024】
本発明における、潤滑組成物には、無機系増粘剤である二酸化ケイ素が含まれる。前記二酸化ケイ素は、有機系増粘剤(例えば、多糖類)と比較して、タイヤ内部で長期保存しても、潤滑剤としての性能を維持することができ、耐老化性に優れたものが得られる。
【0025】
本発明における二酸化ケイ素は、疎水性処理したものが好ましく、より好ましくは、シランカップリング剤を用いて、二酸化ケイ素の粒子表面を疎水性処理したものが好ましい。二酸化ケイ素の粒子表面を、疎水性処理したものを用いることで、低流動性を実現することができ、粘度の温度依存性も低くすることができる。なお、疎水性処理なしの二酸化ケイ素を用いると、グリセリン成分中に、凝集した二酸化ケイ素の粒子が分散してしまい、増粘効果が十分に得られない傾向にある。
【0026】
本発明における潤滑組成物の粘度は、30℃において、10〜3000Pa・sであることが好ましく、より好ましくは、50〜2000Pa・sである。また、70℃においては、30℃の場合と同様、10〜3000Pa・sであることが好ましく、より好ましくは、50〜2000Pa・sである。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。なお、実施例等における配合割合及び物性等の評価方法は以下の通りである。
【0028】
実施例及び比較例の配合割合を表1、評価結果を表2に示した。なお、一部の評価 (熱老化による粘度変化、熱老化による粘度保持率)については、実施例4〜6及び比較例1について行った。
【0029】
各種の潤滑組成物を表1の割合で調製した。
(1)主剤:グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン(グリセリン単位:3)
(2)増粘剤:二酸化ケイ素(アエロジル R972、デグサ社製)
多糖類:キサンタンガム(ケルザン、三昌社製)
【0030】
<実施例1>
本発明における潤滑組成物として、グリセリン100重量部と二酸化ケイ素5重量部を、ハイブリッドミキサーで混合し、潤滑剤を得た。
【0031】
実施例2〜6及び比較例については、実施例1と同様の方法で潤滑剤を得た。
【0032】
〔粘度〕
30℃及び70℃における潤滑組成物の粘度(Pa・s)を、JIS K 7117−1に示されるブルックフィールド回転粘度計のA型(東機産業製、TV−10形粘度計、ローター:No.7、回転数:2.5、5rpm)を用いて測定した。これらの評価結果を表2に示した。
【0033】
〔粘度保持率〕
粘度の保持率(%)については、次式により計算した。

(1)温度変化による粘度保持率=(70℃における粘度/30℃における粘度)×100
(2)熱老化による粘度保持率=(老化後の粘度/老化前の粘度)×100

(1)温度変化による粘度保持率は、50%以上であることが好ましく、その評価結果を表2に示した。(2)熱老化による粘度保持率は、80%以上であることが好ましく、その評価結果を表4に示した。熱老化による粘度保持率については、実施例4〜6及び比較例1について評価した。なお、上記の粘度保持率を下回ると、タイヤバランスに悪影響を及ぼす原因となる。
【0034】
〔流れ性〕
5cm×5cmの正方形のガラス板表面に、2gの潤滑剤を70℃に熱したものを塗布した。そのガラス板を70℃に保温したオーブンの中に投入し、潤滑剤を塗布した面が垂直になるように設置した。30分後、その潤滑剤がガラス板をどの程度すべり落ちたかで、潤滑剤の流動性を評価した(表2)。流れ性の評価基準は、塗布後、ガラス板を垂直に流れ落ちたものを×、正方形の枠をはみ出して流れたものを△、まったく変化がなかったものを○とした。
【0035】
〔熱老化性〕
熱老化性の評価基準は、潤滑剤を入れたサンプル瓶を90℃に設定したオーブン内に20日間静置し、その際の粘度変化を目視により観察した。潤滑剤が固化したものを×、低粘度化したものを△、粘度に変化が見られなかったものを○とした(表2)。
【0036】
〔熱老化による粘度変化〕
熱老化による粘度変化は、潤滑剤を入れたサンプル瓶を90℃に設定したオーブン内に20日間静置した際の粘度変化を測定した(表3)。なお、評価は実施例4〜6及び比較例1について行った。
【0037】
〔熱重量減少率〕
150℃重量減少率(%)は、熱重量測定装置(TA Instruments社製、TGA2950)を用いて測定した。測定条件は、昇温速度10℃/分、窒素雰囲気下(窒素ガス80ml/分)で、室温から500℃まで昇温させた際の、150℃における潤滑剤の重量減少率を求めた(表2)。150℃重量減少率については、次式により計算した。

150℃重量減少率=(150℃まで昇温した時の重量/測定開始時の重量)×100

【0038】
(表1)配合表

【0039】
(表2)評価結果

【0040】
(表3)熱老化による粘度変化

【0041】
(表4)熱老化による粘度保持率

【0042】
表2に示した評価結果から、本発明に示した潤滑組成物を用いた実施例1〜7のいずれにおいても、耐揮発性、低流動性、耐熱性及び耐老化性に優れたランフラットタイヤの安全支持体用潤滑組成物が得られた。
【0043】
一方、グリセリン、水及び多糖類を含む比較例1は、流れ性、熱老化性、加熱による重量の減少率が高く、実施例より潤滑性能が劣ることを確認できた。
【0044】
また、グリセリン及び多糖類を含む比較例2は、粘度測定ができず、流れ性も悪く、熱老化性試験においては、加熱中に固化することが確認された。
【0045】
表3に示した評価結果から、実施例4〜6においては、熱老化日数が経過しても、粘度の変化は認められなかった。一方、比較例1においては、日数の経過により、著しく粘度が低下し、熱老化が観察された。
【0046】
表4に示した評価結果から、実施例4〜6においては、熱老化日数が経過しても、粘度保持率の変化は認められなかった。一方、比較例1においては、日数の経過により、著しく粘度保持率が低下し、熱老化が観察された。
【0047】
以上より、本発明の潤滑組成物を用いることにより、耐揮発性、低流動性、耐熱性及び耐老化性に優れたランフラットタイヤの安全支持体用潤滑組成物を得られることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリン成分と二酸化ケイ素とを含むランフラットタイヤの安全支持体用潤滑組成物。
【請求項2】
前記グリセリン成分が、グリセリン、ジグリセリン、及びポリグリセリンからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1記載のランフラットタイヤの安全支持体用潤滑組成物。
【請求項3】
前記ポリグリセリンのグリセリン単位が、10以下である請求項2記載のランフラットタイヤの安全支持体用潤滑組成物。
【請求項4】
前記二酸化ケイ素は、その表面を疎水性処理したものであって、前記二酸化ケイ素の凝集粒子径が100μm以下である請求項1〜3記載のランフラットタイヤの安全支持体用潤滑組成物。
【請求項5】
前記グリセリン成分と二酸化ケイ素の混合比(重量部)が、グリセリン成分:二酸化ケイ素=100:3〜15である請求項1〜4記載のランフラットタイヤの安全支持体用潤滑組成物。
【請求項6】
30℃及び70℃における粘度が、10〜3000Pa・sである請求項1〜5記載のランフラットタイヤの安全支持体用潤滑組成物。

【公開番号】特開2007−277414(P2007−277414A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−105836(P2006−105836)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】