説明

リアサスペンション構造体

【課題】ブレーキチューブをアクスルビームの長手方向一端側に偏在した位置で分岐させると共に、左右いずれか一方の車輪側にブレーキチューブの一方を配索し、他方の車輪側にブレーキチューブの他方を配索した場合であっても、ブレーキチューブに対して過度に大きな衝撃が加わり損傷あるいは破損することを防止可能なリアサスペンション構造体の提供を目的とした。
【解決手段】リアサスペンション構造体10は、アクスルビーム16と、ドライブシャフト14とを有するドディオン式のものである。アクスルビーム16には、ブレーキチューブ30が分岐させた状態で配索されている。ブレーキチューブ30は、アクスルビーム16の最後端をなす後端位置鉛直面50よりも前方、かつアクスルビーム16の上方の領域を通るように配索されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されるリアサスペンション構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に開示されているドディオン式サスペンション等のリアサスペンション構造体が提供されている。このサスペンション構造体は、リヤアクスルの両端をビームによって結合した、ドディオン式リヤサスペンションと称されるものである。特許文献1に開示されているサスペンション構造体においては、ブレーキチューブが左右に配されたサイドメンバに沿って配索されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−25440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したドディオン式のサスペンションにおいて採用されているアクスルビームのように、両端部に対して中間部が車両の後方に向けて屈曲した形状を有する構造体に対してブレーキチューブを配索する場合がある。このような構造を採用した場合、アクスルビームの中間に位置する屈曲部分を外れた位置においてブレーキチューブを左右に配索することができれば、車両後方から衝撃が加わった場合に大きな衝撃がブレーキチューブに加わること、及び車輪によって巻き上げられた石等がブレーキチューブに衝突することを回避できる。
【0005】
しかしながら、構造上の理由等により、ブレーキチューブをアクスルビームの長手方向一端側に偏在した位置で分岐させると共に、左右いずれか一方の車輪側にブレーキチューブの一方を配索し、他方の車輪側にブレーキチューブの他方を配索せざるを得ない場合がある。この場合、アクスルビームの中間に設けられた屈曲部分を通過するようにブレーキチューブを配索せざるを得ない。また、車両に対してアクスルビームを設置した状態においては、屈曲部分が車両後端側に向けて突出した状態になる。そのため、屈曲部分にブレーキチューブを配索すると、車両後方から衝撃が加わること、あるいは車輪によって巻き上げられた石等が衝突すること等により、ブレーキチューブが損傷あるいは破損等する可能性を完全に否定することができない。
【0006】
そこで、本発明は、ブレーキチューブをアクスルビームの長手方向一端側に偏在した位置で分岐させると共に、左右いずれか一方の車輪側にブレーキチューブの一方を配索し、他方の車輪側にブレーキチューブの他方を配索した場合であっても、ブレーキチューブに対して過度に大きな衝撃が加わり損傷あるいは破損することを防止可能なリアサスペンション構造体の提供を目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決すべく提供される本発明のリアサスペンション構造体は、車両後端部において左右の車輪を支持するアクスルビームと、前記車輪に駆動力を伝達するドライブシャフトとを有するドディオン式のものである。本発明のリアサスペンション構造体は、前記アクスルビームの長手方向一端側に偏在した位置において分岐されたブレーキチューブが、前記アクスルビームの両端部に到達するように配索されており、前記アクスルビームの一部又は全部が、前記ドライブシャフトの軸心位置よりも車両後端部側に位置しており、前記アクスルビームを断面視し、前記アクスルビームに対して車両後端部側において面接触する後端位置鉛直面と、前記アクスルビームの軸心位置を通る軸心位置鉛直面と、前記アクスルビームの軸心位置を通り車両前方側に向けて所定の角度だけ傾斜した傾斜面とを想定した場合において、前記後端位置鉛直面よりも車両前方側かつ前記軸心位置鉛直面よりも車両後端側の領域、あるいは前記軸心位置鉛直面よりも車両前方側かつ前記傾斜面よりも上方側の領域を通るように前記ブレーキチューブが配索されていることを特徴とするものである。
【0008】
本発明のリアサスペンション構造体においては、アクスルビームにおいてドライブシャフトの軸心位置よりも車両後端部側に位置する部分が存在している。このようなアクスルビームについて、上述した後端位置鉛直面、軸心位置鉛直面、及び傾斜面を想定した場合、後端位置鉛直面よりも車両前方側の領域(以下、「後突安全領域」とも称する)は、車両後方から衝撃が加わったとしても過度に大きな衝撃が作用しないと想定される領域である。また、軸心位置鉛直面よりも車両後端側の領域、及び軸心位置鉛直面よりも車両前方側であって傾斜面よりも上方側の領域(以下、「飛石安全領域」とも称す)は、車輪によって巻き上げられた石等が衝突する可能性が極めて低いと想定される領域である。言い換えれば、傾斜面よりも下方であって軸心位置鉛直面よりも車両前方側の領域は、車輪によって巻き上げられた石等が衝突する可能性が高いと想定される領域(以下、「飛石危険領域」とも称す)であり、この飛石危険領域を除外した領域が前述した飛石安全領域に相当する。
【0009】
本発明のリアサスペンション構造体においては、上述した後突安全領域、かつ飛石安全領域である領域にブレーキチューブが配索されている。従って、本発明のリアサスペンション構造体によれば、車両後方から衝撃が加わること、あるいは車輪によって巻き上げられた石等が飛散すること等により、ブレーキチューブが損傷あるいは破損等することを確実に防止することができる。
【0010】
また、上述したようにしてブレーキチューブの損傷あるいは破損を防止できるため、ブレーキチューブを車両本体側において予め分岐させることなく配索し、リアサスペンション構造体の近傍において分岐させる構成とすることが可能となる。これにより、従来技術のもののようにブレーキチューブを予め分岐させておき、左右に配されたサイドメンバに沿って配索する必要がなくなる。従って、リアサスペンション構造体近傍よりも上流側(車両本体側)の部分におけるブレーキチューブの固定部材の設置数を最小限に抑制することが可能となる。
【0011】
また、上述したようにブレーキチューブの固定点を抑制することにより、車両全体としての部品点数の抑制、及び軽量化を図り、ひいては燃費向上や製造コストの抑制に資することが可能となる。また、車両本体側においてブレーキチューブを分岐させる必要がないため、車両に対するブレーキチューブの設置及びメンテナンス作業を容易に実施することが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ブレーキチューブをアクスルビームの長手方向一端側に偏在した位置で分岐させると共に、左右いずれか一方の車輪側にブレーキチューブの一方を配索し、他方の車輪側にブレーキチューブの他方を配索した場合であっても、ブレーキチューブに対して過度に大きな衝撃が加わり、ブレーキチューブが破損あるいは損傷することを防止可能なリアサスペンション構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)は本発明の一実施形態に係るリアサスペンション構造体を車両上方側から見た状態を示す平面図、(b)は(a)のリアサスペンション構造体を車両後方側から見た状態を示す側面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るリアサスペンション構造体を示す斜視図である。
【図3】アクスルビームに対する後突安全領域、飛石安全領域、及び飛石危険領域の位置関係を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
続いて、本発明の一実施形態に係るリアサスペンション構造体10について、図面を参照しつつ詳細に説明する。リアサスペンション構造体10は、いわゆるドディオン式のサスペンションであり、車両の後端部に配置されるものである。図1に示すように、リアサスペンション構造体10は、駆動力を左右の車輪(後輪)に伝達するためのドライブシャフト14と、ドライブシャフト14とは別に設けられ車輪を支持するアクスルビーム16とを備えている。ドライブシャフト14の両端には、ブレーキドラム24が接続されている。
【0015】
図1及び図2に示すように、アクスルビーム16は、両端部18が略直線状であるが、軸方向略中央部分に両端部18に対して湾曲した湾曲部20を有している。アクスルビーム16は、ドライブシャフト14の軸線位置よりも車両後端側の位置であって、ドライブシャフト14よりも下方に配置されている。アクスルビーム16は、両端部18がドライブシャフト14の軸線方向と略平行になり、湾曲部20が車両後方側に向けて膨出するように取り付けられている。これにより、アクスルビーム16がデファレンシャル装置22と緩衝することなく設置されている。
【0016】
上述したアクスルビーム16には、車両側から取り出されたブレーキチューブ30が配索されている。ブレーキチューブ30は、アクスルビーム16の長手方向一端側(本実施形態では右方側)に偏在した位置において分岐され、それぞれがアクスルビーム16の両端部に設けられたブレーキドラム24に到達するように配索されている。
【0017】
ブレーキチューブ30は、車両に対する後方からの衝突、あるいは車輪によって巻き上げられ前方から後方に向けて飛散してくる石等の衝突により、過度に大きな衝撃が加わるのを防止可能な位置に配索されている。すなわち、アクスルビーム16の外周面において、車両後方から衝撃が加わったとしても過度に大きな衝撃が作用しないと想定される領域(後突安全領域α)であると共に、前方から飛散してきた石等が衝突する可能性が極めて低いと想定される領域(飛石安全領域β)にブレーキチューブ30が配索されている。言い換えれば、後突安全領域α内であって、車輪によって巻き上げられた石等が衝突する可能性が高いと想定される領域(飛石危険領域γ)を除く部分がブレーキチューブ30を配索するための領域(配索領域δ)となる。
【0018】
さらに詳細に説明すると、図3に示すように、アクスルビーム16を断面視し、アクスルビームに対して車両後端部側において面接触する後端位置鉛直面50、アクスルビームの軸心位置を通る軸心位置鉛直面52、及びアクスルビームの軸心位置を通り車両前方側に向けて所定の角度だけ傾斜した傾斜面54を想定した場合に、これらの面によって上述した後突安全領域α、飛石安全領域β、及び飛石危険領域γを規定することができる。傾斜面54の傾斜角θについては、車両の前輪とアクスルビーム16との距離、前輪とアクスルビーム16との間に存在する構造物の配置及び大きさ等を考慮し、適宜設定することが可能である。本実施形態では、傾斜角θが45度に設定されている。
【0019】
すなわち、後端位置鉛直面50よりも車両前方側の領域は、後突安全領域αに相当する。また、軸心位置鉛直面52よりも車両後端側の領域、あるいは軸心位置鉛直面52よりも車両前方側であって傾斜面54よりも上方側の領域は、飛石安全領域βに相当する。これとは逆に、傾斜面54よりも下方であって軸心位置鉛直面52よりも車両前方側の領域は、飛石危険領域γに相当する。
【0020】
本実施形態のリアサスペンション構造体10において、ブレーキチューブ30は、アクスルビーム16の最後端をなす後端位置鉛直面50よりも前方、かつアクスルビーム16の上方の領域(配索領域δ)を通るように配索されている。このように、ブレーキチューブ30は、飛石危険領域γを回避し、後突安全領域αかつ飛石安全領域βに相当する配索領域δ内においてブレーキチューブ30が配索されている。従って、リアサスペンション構造体10によれば、車両後方からの衝突等による衝撃、あるいは車輪によって巻き上げられた石等が飛散することによる衝撃等により、ブレーキチューブ30が損傷あるいは破損等してしまうことを確実に防止することが可能である。
【0021】
なお、本実施形態においては、アクスルビーム16の断面形状が略円形である例を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、楕円形、矩形等の形状であっても良い。このようにアクスルビーム16が円形以外の断面形状を有するものである場合には、アクスルビーム16の外接円を想定し、この外接円を基準として後端位置鉛直面50、軸心位置鉛直面52、及び傾斜面54を設定と共に、これらの面を基準に後突安全領域α、飛石安全領域β、飛石危険領域γ、及び配索領域δを規定することとしても良い。
【0022】
また、本実施形態において例示したアクスルビーム16は、湾曲部20を有する形状のものであったが、本発明はこれに限定されるものではなく、略直線状に伸びるビームによって構成されていても良い。
【0023】
また、上述したように、リアサスペンション構造体10によればブレーキチューブ30の損傷あるいは破損を防止できる。そのため、ブレーキチューブ30を車両本体側において予め分岐させることなく配索しておき、リアサスペンション構造体10の近傍においてはじめて分岐させる構成を採用することができる。これにより、リアサスペンション構造体10の近傍よりも上流側、すなわち車両本体側の部分におけるブレーキチューブ30の固定点、及びブレーキチューブ30を固定するために用いる固定部材の数を最小限に抑制することが可能となる。
【0024】
さらに、リアサスペンション構造体10によれば、ブレーキチューブ30の固定点を抑制することができるため、車両全体としての部品点数の抑制、及び軽量化を図り、ひいては燃費向上や製造コストの抑制に資することが可能となる。また、車両本体側においてブレーキチューブ30を分岐させる必要がないため、車両に対するブレーキチューブの設置及びメンテナンス作業を容易に実施することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明のリアサスペンション構造体は、車両を構成するための部材として好適に使用できる。本発明によれば、車両本体側から取り出されたブレーキチューブをリアサスペンション構造体の近傍において分岐させ、配索させた構成とすることが可能となる。
【符号の説明】
【0026】
10 リアサスペンション構造体
14 ドライブシャフト
16 アクスルビーム
18 端部
20 湾曲部
30 ブレーキチューブ
50 後端位置鉛直面
52 軸心位置鉛直面
54 傾斜面
α 後突安全領域
β 飛石安全領域
γ 飛石危険領域
δ 配索領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両後端部において左右の車輪を支持するアクスルビームと、
前記車輪に駆動力を伝達するドライブシャフトとを有するドディオン式のリアサスペンション構造体であって、
前記アクスルビームの長手方向一端側に偏在した位置において分岐されたブレーキチューブが、前記アクスルビームの両端部に到達するように配索されており、
前記アクスルビームの一部又は全部が、前記ドライブシャフトの軸心位置よりも車両後端部側に位置しており、
前記アクスルビームを断面視し、前記アクスルビームに対して車両後端部側において面接触する後端位置鉛直面と、前記アクスルビームの軸心位置を通る軸心位置鉛直面と、前記アクスルビームの軸心位置を通り車両前方側に向けて所定の角度だけ傾斜した傾斜面とを想定した場合において、前記後端位置鉛直面よりも車両前方側かつ前記軸心位置鉛直面よりも車両後端側の領域、あるいは前記軸心位置鉛直面よりも車両前方側かつ前記傾斜面よりも上方側の領域を通るように前記ブレーキチューブが配索されていることを特徴とするリアサスペンション構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−49353(P2013−49353A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188377(P2011−188377)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】