説明

リガンドに特異的に結合するタンパク質を効率的に選別する手法

【課題】特定のリガンドに対し特異的に結合するタンパク質を選別する方法を提供する。
【解決手段】多様化ライブラリーから、目的リガンドに特異的に結合するタンパク質を選択する方法であって、該ライブラリー中に存在するタンパク質と目的リガンドを接触させ、目的リガンドに結合するタンパク質を選択する工程、得られたタンパク質を対照リガンドと接触させ、該タンパク質と対照リガンドとの結合性の有無を判定する工程、および、対照リガンドとの結合性を有しないと判定された該タンパク質を選択する工程、を含んで成る方法からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のリガンドに対し特異的に結合するタンパク質を選別する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質、核酸または脂質など、生体内で様々な役割を担っている生体内因子は、酵素などのように単独でその機能を発揮するものも多いが、生体内因子同士の相互作用を通じて、情報を伝達していくことで、種々の生体内反応を誘導または制御していることが知られている。従って、生体内因子同士の相互作用を正確に解明していくことは、生体内反応を理解する上で重要であり、さらに、そのような反応機構に関する知識の蓄積により、特定の疾患等の治療方法または治療剤などの開発への手掛かりとしても極めて有用なことであると考えられる。
【0003】
生体内因子同士の相互作用、特に、タンパク質(例えば、抗体、受容体など)とその特異的リガンド(例えば、タンパク質、低分子化合物、脂質、糖鎖など)を研究する一つの手法として、ファージディスプレイ等の多様化ライブラリーから特定リガンドに特異的に結合するタンパク質を選別する方法などを挙げることができる。これらの方法において特定のリガンドに特異的に結合するタンパク質を同定する場合に、リガンドへの特異性や親和性をELISA(酵素免疫測定法)やRIAによって測定し、目的リガンドに特異的に結合する分子を選別することが多い(非特許文献1、非特許文献2)。
【0004】
【非特許文献1】Gramら, Proc. Natl. Acad. Sci., 89:3576−3580, 1992
【非特許文献2】Cumbersら, Nat. Biotechnol., 20:1129−1134,2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多様化ライブラリーが生み出すタンパク質などの生体内因子の多くが、目的のリガンド以外の因子に対しても非特異的な結合性を示すという問題点が確認されている。これにより、目的のリガンドへの結合性のみを指標に一次スクリーニングを行うと、過半が非特異的結合性因子となって、必要とされる特異的結合性を示す因子の取得が著しく困難になることが判明している。
本発明者らは、上記事情に鑑み、多様化ライブラリーから目的のリガンドに特異的結合性を示すタンパク質の選別方法について鋭意研究を行った結果、目的リガンドに特異的に結合するタンパク質の同定を容易化および効率化できる方法を見出した。
本発明は、多様化ライブラリーから目的リガンドに特異的に結合するタンパク質を選別する方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、リガンドに対する親和性を指標にタンパク質のスクリーニングを行なう際に、目的リガンドのみならず、対照リガンドに対する親和性を同時に測定し、比較することで、非特異的に目的リガンドに結合するタンパク質を排除し、所望のタンパク質を容易かつ効率的に同定する方法を完成するに至った。
すなわち、本発明、以下の(1)〜(11)に関する。
(1)本発明の第1の実施態様に係る発明は、「多様化ライブラリーから、目的リガンドに特異的に結合する少なくとも一種のタンパク質を選択する方法であって、
(a)該ライブラリー中に存在する種々のタンパク質と目的リガンドを接触させ、該タンパク質群と目的リガンドの混合物をインキュベートし、少なくとも一種のタンパク質と目的リガンドの複合体を回収する工程
(b)工程(a)で選別された少なくとも数種のタンパク質と目的リガンドと接触させ、該タンパク質と目的リガンドの混合物をインキュベートし、該タンパク質と目的リガンドの結合性を確認する工程、
(c)工程(a)で選別された少なくとも数種のタンパク質を1種類又は2種類の特定の対照リガンドと接触させ、該タンパク質と対照リガンドの混合物をインキュベートし、該タンパク質と対照リガンドが結合したかどうかを判別する工程、および、
(d)工程(b)において目的リガンドとの結合性が確認され、かつ、工程(c)において対照リガンドと結合しなかったタンパク質を選択する工程、
を含んで成る方法」である。
(2)本発明の第2の実施態様に係る発明は、「前記工程(a)において前記目的リガンドと接触させるタンパク質が、宿主の表面上に提示されていることを特徴とする上記(1)に記載の方法」である。
(3)本発明の第3の実施態様に係る発明は、「前記目的リガンドおよび/または対照リガンドが担体に結合していることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の方法」である。
(4)本発明の第4の実施態様に係る発明は、「前記担体が磁気ビーズであることを特徴とする上記(3)に記載の方法」である。
(5)本発明の第5の実施態様に係る発明は、「前記工程(b)における結合性の有無の判定を、ELISA法、RIA法、表面プラズモン共鳴(SPR)法、ブロット法、リガンドビーズを用いた方法から成る群より選択される方法によって実施されることを特徴とする上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の方法」である。
(6)本発明の第6の実施態様に係る発明は、「前記目的リガンドおよび/または対照リガンドが標識されていることを特徴とする上記(5)に記載の方法」である。
(7)本発明の第7の実施態様に係る発明は、「前記多様化ライブラリーが、タンパク質発現ライブラリーであることを特徴とする上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の方法」である。
(8)本発明の第8の実施態様に係る発明は、「前記タンパク質発現ライブラリーが、抗体発現ライブラリーであることを特徴とする上記(7)に記載の方法」である。
(9)本発明の第9の実施態様に係る発明は」、「前記抗体発現ライブラリーが、抗体を細胞表面上に提示した細胞によって構成されるライブラリーであることを特徴とする上記(8)記載の方法」である。
(10)本発明の第10の実施態様に係る発明は、「前記細胞がDT40細胞であることを特徴とする上記(9)に記載の方法」
(11)本発明の第11の実施態様に係る発明は、「上記(1)ないし(10)のいずれかに記載の方法により選択されたタンパク質」である。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る方法を用いることにより、多様化ライブラリーから、目的のリガンドに特異的に結合するタンパク質を迅速、かつ、効率的に選別することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
1.多様化ライブラリー
本発明における「多様化ライブラリー」とは、多種多様なタンパク質を提示することができるライブラリーのことを意味する。多種多様なタンパク質を提示することができるライブラリーであれば如何なるものに対しても、本発明に係る方法を適用することができる。限定はしないが、例えば、多様なタンパク質を発現することができるファージライブラリー、細胞表面に多様なタンパク質を提示することができる細胞のライブラリーなどが利用可能であり、特に、細胞表面に多様化抗体分子を提示することができる細胞のライブラリーなどが適している。ここで、前記「細胞のライブラリー」としては、細胞表面上に多様な抗体分子を提示することができるニワトリ由来のDT40細胞によって構成されるライブラリーなどが利用可能である(WO2004/011644)。
本発明における「タンパク質」には、天然由来のタンパク質以外に、その変異体、その一部を構成するポリペプチド、さらには、人工的に合成されたペプチドなど、2以上アミノ酸が共有結合(例えば、ペプチド結合)などによって結合された分子が含まれる概念である。
本発明における「タンパク質発現ライブラリー」とは、上述の「多様化ライブラリー」に含まれるものであって、多種多様なタンパク質を発現することができる宿主集団などを表す概念である。ここで「宿主」としては、当業者が技術常識に基づいて想定可能もものの全てが含まれるが、例えば、原核細胞、真核細胞、ファージまたはウィルス、などが含まれる。また、「宿主」により発現されるタンパク質は、該「宿主」の細胞内で発現されてもよく、細胞表面上に発現されもよく、または、該「宿主」を培養して該タンパク質を発現させるために適した培地中に発現されてもよい。本発明に係る方法に適用することができる「タンパク質発現ライブラリー」は市販品を購入することもできる。
【0009】
本発明における「抗体発現ライブラリー」とは、上述の「タンパク質発現ライブラリー」に含まれるものであって、多種多様な抗体分子を発現することができる宿主集団などを表す概念である。宿主」としては、当業者が技術常識に基づいて想定可能もものの全てが含まれるが、例えば、原核細胞、真核細胞、ファージまたはウィルス、などが含まれ、好ましくは、真核細胞、ファージであり、より好ましくは、動物細胞、ファージであり、特に好ましくは、DT40細胞およびRamos細胞である。
【0010】
2.目的リガンドおよび対照リガンド
本発明における「目的リガンド」および「対照リガンド」は、タンパク質と結合するものであれば如何なるものであってもよく、限定はしないが、例えば、タンパク質、核酸、脂質、糖質、低分子化合物など、当業者が想定し得るものの全てを包含する。また、本発明における「対照リガンド」は、タンパク質と結合するものであれば如何なるものであってもよく、限定はしないが、例えば、タンパク質、核酸、脂質、糖質、低分子化合物など、当業者が想定し得るものの全てを包含するが、好ましくは、「目的リガンド」との関係において、「目的リガンド」のアミノ酸配列との間にけるアミノ酸同一性が低く(およそ30%以下、より好ましくは、20%以下、さらに好ましくは10%以下である)、かつその「対照リガンド」自体が非特異的な結合活性を有さないものである。本発明において用いられる「対照リガンド」は、1種類であっても、複数種類であってもよく、例えば、2種類以下、好ましくは1種類であって、限定はしないが、オボアルブミン又は卵白リゾチームなどのタンパク質、脂質、糖質など、「目的リガンド」との関係において特定の因子を選択することが可能である。
また、「目的リガンド」または「対照リガンド」は、標識されていてもよく、該標識は当該技術分野において通常用いられる方法および標識化合物であれば、如何なる方法および物質を用いてもよい。限定はしないが、蛍光標識などが好適に使用できる。
【0011】
3.目的リガンドに結合するタンパク質の選択
本発明において、目的リガンドと結合するタンパク質の選択は当該技術分野における通常の知識に基づいて行なうことができる。例えば、適当な担体に目的リガンドを結合させ、結合した目的リガンドを多様化ライブラリーに存在するタンパク質と接触させ、適切な条件下でインキュベートした後、生じた担体−目的リガンド−タンパク質の複合体を遠心分離などにより回収し、目的リガンドと結合するタンパク質を選択することができる。目的リガンドと結合するタンパク質が得られた場合において、該タンパク質を発現する宿主が単一クローンでないときには、限界希釈法及びサブカルチャーにより単一クローンを得ることができる。このようして得られた幾つかのタンパク質は、目的リガンドと異なる親和性により結合するものである。
ここで用いられる「担体」としては、限定はしないが、セファロースビーズ、アガロースビーズ、ガラス基質、磁気ビーズなど、適切なものを使用することができるが、特に、磁気ビーズが好ましい。
目的リガンドとタンパク質との結合を行なわせる条件としては、目的リガンドに応じて当業者において設定することができる。特に限定はしないが、例えば、選択を望むタンパク質が抗体分子である場合には、約4℃〜37℃程度の温度にて、約15分〜24時間程度インキュベートする条件などを設定することができる。
さらに、目的リガンドと結合するものとして得られたタンパク質が、目的リガンドと結合することを確認する方法としては、当該技術分野において周知の方法により行なうことができ、例えば、ELISA法、RIA法、表面プラズモン共鳴(SPR)法、ブロット法、リガンドビーズを用いた方法などが利用可能である。ここで用いられる目的リガンドは標識されているものを用いてもよい。あるいは、目的リガンドに特異的に結合するタンパク質に特異的に結合する物質(例えば、抗体などのタンパク質、核酸、脂質など)などが入手可能な場合には、標識されているか、またはされていない該物質を用いて通常の方法により目的リガンドと該タンパク質との結合特異性を確認することができる。
【0012】
4.目的リガンドと結合するタンパク質と対照リガンドとの結合性の判定
目的リガンドとの結合性を指標にして選択されたタンパク質と対照リガンドとの結合性を判定する方法としては、当該技術分野において周知の方法により行なうことができる。
例えば、ELISA法、RIA法、表面プラズモン共鳴(SPR)法、ブロット法、リガンドビーズを用いた方法などが利用可能である。ここで用いられる対照リガンドは標識されているものを用いてもよい。あるいは、対照リガンドに特異的に結合するタンパク質に特異的に結合する物質(例えば、抗体などのタンパク質、核酸、脂質など)などが入手可能な場合には、標識されているか、またはされていない該物質を用いて通常の方法により対照リガンドと該タンパク質との結合特異性を確認することができる。
ここで、目的リガンドとは結合するが対照リガンドとは結合しないタンパク質であるか否かの判定は、用いる方法によって異なるが、例えば、結合の強さをO.D.値(タンパク質とリガンドとの結合を検出するのに適した波長により測定される吸光度)などで表現した場合において、目的リガンドとの結合性を示すO.D.値/対照リガンドとの結合性を示すO.D.値の値が、少なくとも2以上、オボアルブミンを対照リガンドとしたときには少なくとも1.0以上、卵白リゾチームを対照リガンドとしたときには、少なくとも0.7以上である場合に、目的リガンドと特異的に結合し、対照リガンドとは結合性を有しないタンパク質であると判定することができる。
以上のような工程を経て得られたタンパク質は、目的リガンドに対して特異的に結合するタンパク質であると判断することができる。
【0013】
以下に実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0014】
本実施例においては、免疫グロブリン遺伝子座において体細胞組換えを誘発させ、種々のイムノグロブリン分子を産生しているDT40細胞集団の中から、ストレプトアビジンに特異的に結合する抗体分子を選別する方法について説明する。該DT40細胞集団の調製方法については、WO2004/011644を参照のこと。
【0015】
1.ストレプトアビジンに特異的に結合する抗体の選別
培養細胞:
DT40細胞は、5%のCO恒温槽にて5%のCO、39.5℃で培養した。培地は、IMDM培地(Invitrogen社)を用い、10%FBS、1%ニワトリ血清、ペニシリン100単位/ml、ストレプトマイシン100μg/ml,2−メルカプトエタノール55μMを加えて使用した。また、トリコスタチンA(和光純薬)は、メタノールに5mg/mlに溶解したものをストックとし、最終濃度が2.5ng/mlとなるよぅに適宜培地で希釈して用いた。細胞濃度は10〜10個/mlに保ちながら培養を続けた。
【0016】
ストレプトアビジン磁気ビーズの作製:
磁気ビーズはDynabeads M−280 Tosylactivated (Dynal社)を、また磁気スタンドはDynal MPC (Dynal社)を用いた。ビーズ200μlを500μlのバッファーA(0.1M リン酸ナトリウム、pH7.4)で3回洗った後、バッファーA、400μl中で240μgのストレプトアビジン(ナカライテスク社)と37℃で24時間、回転により攪拌しながら反応させた。次にビーズをバッファーC(10mM リン酸ナトリウム、pH7.4,150mM NaCl,0.1% BSA)500μlで2回洗浄した。その後バッファーD(0.2M Tris−HCl、pH8.5,0.1% BSA)500μlを加え、37℃で4時間、回転により攪拌しながら反応させ、ブロッキングを行った。その後500μlのバッファーCで2回洗浄した後、0.02%アジ化ナトリウムを含むバッファーC、400μlに懸濁した。
【0017】
ウサギIgG磁気ビーズの作製:
磁気ビーズはDynabeads M−280 Tosylactivated (Dynal社)を、また磁気スタンドはDynal MPC(Dynal社)を用いた。ビーズ200μlを500μlのバッファーA(0.1M リン酸ナトリウム、pH7.4)で3回洗った後、バッファーA、200μl中で120μgのウサギIgG(SIGMA社)と37℃で一晩、回転により攪拌しながら反応させた。次にビーズをバッファーC(10mM リン酸ナトリウム、pH7.4,150mM NaCl,0.1% BSA)200μlで2回洗浄した。その後バッファーD(0.2M Tris−HCl、pH8.5,0.1% BSA)200μlを加え、37℃で4時間、回転により攪拌しながら反応させ、ブロッキングを行った。その後500μlのバッファーCで2回洗浄した後、0.02%アジ化ナトリウムを含むバッファーC、200μlに懸濁した。
【0018】
ストレプトアビジン磁気ビーズおよびウサギIgG磁気ビーズによるセレクション:
トリコスタチンA、2.5ng/mlで7週間処理した野生型DT40細胞約5×10個を洗浄バッファー(1%BSAを含むPBS)10mlで1回、さらに1mlで一回洗浄したのち、1mlの洗浄バッファー中でストレプトアビジン磁気ビーズ(ウサギIgG磁気ビーズによるセレクションの場合はウサギIgG磁気ビーズ)5×10個と混合し、4℃で30分間、穏やかに回転させつつインキュベートした。その後1mlの洗浄バッファーで5回洗浄した。最後に、磁気ビーズに結合した細胞を500μlに懸濁し、これを30mlの培地に加えたのち、96穴プレートに300μlずつ分注し、39.5℃で培養した。1週間後、培養上清でELISAを行った。
【0019】
2枚のプレートによるELISA:
2枚の96穴イムノプレート・マキシソープ(NaigeNunc社)を用意し、それぞれに5μg/mlのストレプトアビジン(ナカライテスク)およびオボアルブミン(Sigma社)(いずれもPBSに溶解)を200μl加え、室温で一晩放置してプレートに固定した(ウサギIgG磁気ビーズによるセレクションの場合は、ウサギIgG(SIGMA社)および卵白リゾチーム(SIGMA社)を用いた)。その後0.5%スキムルク200μlにより室温で1時間ブロッキングし、ELISA洗浄バッファー(0.05% Tween20を加えたPBS)200μlで3回洗浄した。ここに細胞培養上清100μlを加え、室温で1時間反応させた。なお、ここで培養上清は、同じものをストレプトアビジン固定プレートとオボアルブミン固定プレートの両方に(ウサギIgG磁気ビーズセレクションの場合はウサギIgG固定プレートと卵白リゾチーム固定プレート)100μlずつ分注した。その後ELISA洗浄バッファー200μlで5回洗浄し、ホースラディッシュペルオキシダーゼ共役ヤギ抗ニワトリIgM抗体(Bethyl社)をPBSにより2000倍に希釈して100μlずつ加えた。室温で45分間反応後、ELISA洗浄バッファーで5回洗浄し、その後TMB+(Dako社)を100μl加え、室温で4分間反応させた後、1N硫酸100μlにより反応を停止させた。定量は、mQuant Biomolecular Spectrometer(Bio-Tek Instruments社)により450nmの吸光を測定して行った。
【0020】
【表1】

【0021】
ELISAの結果を表1および図1に示す。表1は、ストレプトアビジンに反応する抗体(全部で28クローン)のELISAの結果をO.D.値で示すと共に、同じクローンのオボアルブミンとの反応性に関するELISAの結果もO.D.値で示している。また、表1をグラフ化したものが、図1である。
ストレプトアビジンと反応した全28クローンのうち、その多くがオボアルブミンにも反応していることが明らかとなった。これらのクローンの一つ(クローン22:クローンSD−10と命名)がストレプストレプトアビジンにのみ特異的に反応することが示された(表1中、クローン22、図1中、矢印で示すグラフを参照)。ストレプトアビジンに対し高い親和性を示しているクローンはいずれもオボアルブミンに対しても強く反応しているため、ストレプトアビジンに対する親和性のみを指標に選別を行うと、どのようなリガンドにも非特異的に結合する抗体を選別する確率が極めて高いことが実験的に明らかになった。一方、本発明の方法を用いれば、こうした非特異的な抗体を当初から効率的に除外できることが確認された。実際、ストレプトアビジン単独でアッセイを行うと28クローンが候補として選別されるが、そのほとんどがオボアルブミンに対しても強く結合する。そのようなクローンを除外することにより、即座に1クローンに限定することが可能になった。本実験では目的リガンドをストレプトアビジン、対照リガンドをオボアルブミンにしているが、それ以外特定タンパク質との組み合わせ(例えば、目的リガンド:対照リガンド=ウサギIgG:スキムミルク、卵白リゾチーム:スキムミルク)でもこの手法が有効であることが確認されている。実際に卵白リゾチームを用いた結果も図2に示す。96穴プレートの53個のウエルに細胞の存在が認められた。このうちウサギIgGに対し0.D.値が1以上で反応したものは6クローンあった(クローン3、13、31、35、38、47)。リゾチームへの反応性を同時に検討した事により、これら6クローンがウサギIgGに特異的であるかどうかが即座に判別できた。
【0022】
2.特異性の確認
ストレプトアビジン特異性検証のためのELISA用培養上清の作製:
さらなる特異性をELISAにより解析するのに用いた培養上清は、血清由来のIgM等を除去するため、以下のようにして調製した培地を用いた。ニワトリ血清(Invitrogen社)から50%飽和硫安によりイムノグロブリンを沈殿として除去し、上清をPBSに透析した。透析により生じた体積増加をCentri Prep(Amicon社)による濃縮で補正し、抗体除去ニワトリ血清とした。これをAIM−V無血清培地(Invitrogen社)に6%の濃度で加えた。ここに約10/mlの濃度で細胞を加え、2日培養し、培養上清をとりELISAを行った。
【0023】
ストレプトアビジン特異性検証のためのELISA:
96穴イムノプレート・マキシソープに5μg/mlのストレプトアビジン、オボアルブミン、ヒトIgG(Sigma社)、また0.5%スキムミルク(Difco社)(いずれもPBSに溶解)を200μl加え、室温で一晩放置してプレートに固定した。その後0.5%スキムルク200μlにより室温で1時間ブロッキングし、ELISA洗浄バッファー200μlで3回洗浄した。ここに細胞培養上清を1倍から3,125倍まで、6段階に5倍ずつ希釈したものを100μl加え、室温で1時間反応させた。なお、ここで用いたクローンは、さきのSD10を一度限界希釈して得られたクローンSD10−1を用いた。その後ELISA洗浄バッファー200μlで5回洗浄し、ホースラディッシュペルオキシダーゼ共役ヤギ抗ニワトリIgM抗体をPBSにより2,000倍に希釈して100μlずつ加えた。室温で45分間反応後、ELISA洗浄バッファーで5回洗浄し、その後TMB+を100μl加え、室温で4分間反応させた後、1N硫酸100μlにより反応を停止させた。定量は、mQuant Biomolecular Spectrometerにより450nmの吸光を測定して行った。
【0024】
特異性検証のためのELISAの結果を図2に示す。図1に示されるSD−10を限外希釈して得られたSD−10−1が、当初目的としたストレプトアビジンにのみ強く反応することが確認された。なお、本発明を適用しない場合は同様のアッセイを28クローンについて行う必要があることから、少なくとも28倍のコスト削減効果があることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、種々の抗体分子をそれぞれ細胞表面に提示したニワトリDT40細胞の多様化ライブラリーから、ストレプトアビジン磁気ビーズによりストレプトアビジンに特異的に結合性を示す抗体を産生する細胞を選択し、細胞培養上清を用いてELISAを行った結果を示す。22番クローン(矢印)が、SD−10。
【図2】図2は、抗ウサギIgG抗体を選別する際、オボアルブミンではなく卵白リゾチームを対象抗原として用いELISAを行った結果を示す。
【図3】図3は、図1で最終的に選別された抗体の種々のリガンド(ストレプトアビジン、オボアルブミン、hIgG(ヒトIgG)、スキムミルク)に対する特異性をELISAにより詳細に検討した結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多様化ライブラリーから、目的リガンドに特異的に結合する少なくとも一種のタンパク質を選択する方法であって、
(a)該ライブラリー中に存在する種々のタンパク質と目的リガンドを接触させ、該タンパク質群と目的リガンドの混合物をインキュベートし、少なくとも一種のタンパク質と目的リガンドの複合体を回収する工程
(b)工程(a)で選別された少なくとも数種のタンパク質と目的リガンドと接触させ、該タンパク質と目的リガンドの混合物をインキュベートし、該タンパク質と目的リガンドの結合性を確認する工程、
(c)工程(a)で選別された少なくとも数種のタンパク質を1種類又は2種類の特定の対照リガンドと接触させ、該タンパク質と対照リガンドの混合物をインキュベートし、該タンパク質と対照リガンドが結合したかどうかを判別する工程、および、
(d)工程(b)において目的リガンドとの結合性が確認され、かつ、工程(c)において対照リガンドと結合しなかったタンパク質を選択する工程、
を含んで成る方法。
【請求項2】
前記工程(a)において前記目的リガンドと接触させるタンパク質が、宿主の表面上に提示されていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記目的リガンドおよび/または対照リガンドが担体に結合していることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記担体が磁気ビーズであることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記工程(b)における結合性の有無の判定を、ELISA法、RIA法、表面プラズモン共鳴(SPR)法、ブロット法、リガンドビーズを用いた方法から成る群より選択される方法によって実施されることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記目的リガンドおよび/または対照リガンドが標識されていることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記多様化ライブラリーが、タンパク質発現ライブラリーであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記タンパク質発現ライブラリーが、抗体発現ライブラリーであることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記抗体発現ライブラリーが、抗体を細胞表面上に提示した細胞によって構成されるライブラリーであることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記細胞がDT40細胞であることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかに記載の方法により選択されたタンパク質。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−149383(P2006−149383A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−322469(P2005−322469)
【出願日】平成17年11月7日(2005.11.7)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】