説明

リグニン物質分離方法

【課題】酸やアルカリなどの薬剤を一切用いず、熱水(亜臨界水)を用いて、バイオマスからリグニン物質を省エネルギーで抽出するる。さらに、バイオマス中に多く含まれるセルロースを分解し、バイオマス水溶液、特にグルコース水溶液として回収することにより、メタン発酵、エタノール発酵、ブタノール発酵の原料として使用可能なバイオマスの有効利用、及び熱回収を含めたそのシステムの最適化を行なう。
【解決手段】常圧以上5MPa以下、180℃以上374℃以下の熱水により処理されたバイオマス水溶液を100℃以上180℃未満に冷却し、リグニン物質の熱水への溶解度を低下させ、熱水に溶解した抽出物を液状のリグニン物質とバイオマス水溶液とに分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスからリグニン物質およびグルコースを製造するために特に好適に用いられるリグニン物質分離方法に関する。さらに詳しくは、熱水を用いてバイオマスからリグニン物質を抽出、分離回収するリグニン物質分離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バイオマスを亜臨界水または超臨界水で処理して、リグニン状物質を得る技術としては、酸やアルカリなどの分解を促進する薬剤を添加する方法が知られている。
特許文献1には、超臨界流体に、酸またはアルカリを添加し、臨界点以上の温度で木材を処理する脱リグニン方法(パルプの製造方法)が開示されている。
特許文献2には、亜臨界水または超臨界水を用いて、天然又は合成高分子物質を加水分解または熱分解する方法が開示されている。2重量%以下の酸を添加し、セルロースの場合は、反応生成物としてグルコースを回収している。
【0003】
また、特許文献3には、熱水または水蒸気でリグノセルロースを処理し、リグニンを変性させ、アルカノールアミンでリグニンを抽出する方法が開示されている。
【特許文献1】特表平04−506544号公報
【特許文献2】特開平05−031000号公報
【特許文献3】特表2002−541355号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1〜3記載の方法では、リグニンを亜臨界水、水蒸気、超臨界水で抽出する場合に、酸やアルカリを使用しており、酸やアルカリの回収工程や抽出に用いた水を廃棄しなければならない問題を有している。
【0005】
また、抽出溶媒として、水蒸気や超臨界水を用いる場合は、熱エネルギーが熱水抽出に比較して、増大してしまう問題を有している。
【0006】
本発明は以上のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、酸やアルカリなどの薬剤を一切用いず、熱水(亜臨界水)を用いて、バイオマスからリグニン物質を省エネルギーで抽出することにより、環境にやさしくかつ高効率なリグニン物質分離方法を提供することにある。さらに、バイオマス中に多く含まれるセルロースを分解し、バイオマス水溶液、特にグルコース水溶液として回収することにより、メタン発酵、エタノール発酵、ブタノール発酵の原料として使用可能とすること特徴とするバイオマスの有効利用、ならびに熱回収を含めたそのシステムの最適化を行なうことにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者等は、上記目的を達成するために鋭意検討した。その結果、本発明者は、従来技術の現状に留意しつつ鋭意研究を重ねた結果、酸やアルカリなどの薬剤を一切用いず、常圧(0.1MPa)以上5MPa以下、180℃〜374℃以下の熱水により処理されたバイオマス由来リグニン物質、およびセルロースを分解することにより得られるバイオマス水溶液、特にグルコース水溶液を5MPa以下の圧力において、100℃〜180℃に冷却することにより省エネルギーで分離、回収できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は下記のリグニン物質の分離方法に関するものである。
【0009】
請求項1記載のリグニン物質分離方法は、上記の課題を解決するために、常圧以上5MPa以下、180℃以上374℃以下の熱水によりバイオマスを処理して得られたバイオマス処理液を、100℃以上180℃未満に冷却し、リグニン物質の前記熱水に対する溶解度を低下させ、前記熱水に溶解した抽出物を液状のリグニン物質とバイオマス水溶液とに分離することを特徴としている。
【0010】
上記の構成によれば、上記範囲内の熱水を用いることで、熱水を蒸発させることがないので、熱エネルギーの消費量が少なく、地球環境にやさしい条件下で、リグニン物質、およびバイオマス水溶液を抽出、分離回収することができる。
【0011】
請求項2記載のリグニン物質の製造方法は、上記の課題を解決するために、バイオマス処理液を100℃〜180℃に冷却する際に、絶対圧力を常温以上5MPa以下に保持することを特徴としている。
【0012】
上記の構成によれば、バイオマス処理液を上記温度範囲内に冷却する際にも圧力範囲を所定範囲に保持することで、熱水を蒸発させないので、熱エネルギーの消費量が少なく、地球環境にやさしいリグニン物質、およびバイオマス水溶液を抽出、分離回収することができる。
【0013】
請求項3記載のリグニン物質分離方法は液状のリグニン物質を分離したバイオマス水溶液を回収することを特徴としている。
【0014】
上記の構成によれば、回収されたグルコース溶液等のバイオマス水溶液を、例えば、殺菌なしにメタン発酵、エタノール発酵、ブタノール発酵の原料とすることにより有効に利用することが可能である。
【0015】
請求項4記載のリグニン物質の製造方法は、上記の課題を解決するために、バイオマスが農業廃棄物、林産廃棄物、産業廃棄物からなる群より選ばれる少なくとも1種の廃棄物であることを特徴としている。
【0016】
上記の構成によれば、廃棄するバイオマスを有効に物質として回収使用することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
酸やアルカリなどの薬剤を一切用いず、省エネルギーで、バイオマスからリグニンおよびグルコース水溶液を回収することができ、抽出したリグニンはリグニンプラスチックとして、セルロースを分解して得られたバイオマス水溶液、特にグルコース水溶液は高温で処理されているため、殺菌なしにメタン発酵、エタノール発酵、ブタノール発酵の原料とすることにより有効に利用することができる。
また、本発明のリグニン物質分離方法により、例えば、バイオマス由来物質の回収におけるシステム構成を適宜構築することにより、熱エネルギー試算、および物質収支計算によるプロセスの最適化を図ることができる。これにより、抽出残渣を含め、廃棄するバイオマスを有効に物質および熱エネルギーとして回収使用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の一実施形態について以下に説明する。
本発明におけるバイオマスとは、リグニンを含むバイオマスであれば特に限定されないが、農業廃棄物、林産廃棄物、水産廃棄物、産業廃棄物、一般廃棄物、栽培作物などが例示される。
【0019】
農業廃棄物としては、籾殻、稲わら、麦わら、バガス、とうもろこしかす、大豆かすなどを例示し得る。
林産廃棄物としては、林地残材、間伐材、工場残廃材などを例示し得る。
水産廃棄物としては、海草類を例示し得る。
産業廃棄物としては、下水汚泥、食品工場残渣、食品工場排水汚泥、建築廃材、剪定残渣などを例示し得る。
一般廃棄物としては、食品廃棄物を例示し得る。
【0020】
栽培作物としては、さとうきび、てんさい、水陸稲、ばれいしょ、かんしょ、さといも、とうもろこし、針葉樹、広葉樹、ささ、竹、落花生、大豆、海草などを例示し得る。
バイオマスの有効利用の観点およびリグニン含有量の観点からは、農業廃棄物、林産廃棄物、産業廃棄物が好ましい。リグニン含有量および廃棄物の処理の観点からは、籾殻、稲わら、麦わら、とうもろこしかす、林地残材、間伐材、工場残廃材、建築廃材、剪定残渣が特に好ましい。
【0021】
本発明で用いる抽出容器の材質は、熱水およびバイオマスの分解物を含む熱水の操作温度、操作圧力において、耐久性を有しておれば特に限定はされない。
【0022】
容器材料としては、炭素鋼、高クロム鋼、ステンレス鋼、ニッケル合金、チタン合金などを例示できる。また、容器材質は、単独材料のみならず、炭素鋼、高クロム鋼、ステンレス鋼などに、セラミックライニング、樹脂ライニング、貴金属ライニング、ニッケルライニング、チタンライニングしたものを例示し得る。
【0023】
抽出操作は、バッチ式、半連続式、連続式のいずれでもかまわない。
バッチ式の場合は、所定量のバイオマスおよび水を抽出容器に仕込んだのち、所定温度、所定圧力に調整され、熱水中にリグニン物質を抽出する。バイオマスの形状は特に限定されないが、抽出時間を短くする観点からは、数センチメートル以下のチップ状が好ましい。抽出容器の加熱は特に限定されないが、抽出容器の外部、または内部加熱コイルにより加熱される。加熱媒体も特に限定されないが、高圧蒸気、高圧水、熱媒体油、燃焼ガス、高温ガスなどを例示し得る。また、電気による誘導加熱も適用し得る。
半連続式の場合は、所定量のバイオマスを抽出容器に仕込んだのち、所定温度の熱水が抽出容器に供給され、熱水中にリグニン物質を抽出する。バイオマスの形状は特に限定されないが、抽出時間を短くする観点からは、数センチメートル以下のチップ状が好ましい。熱水を供給するポンプは、特に限定されないが、ダイヤフラム式、プランジャー式、スネーク式、ギア式、渦巻き式などを例示し得る。抽出容器の加熱は特に限定されないが、抽出容器の外部、または内部加熱コイルにより加熱される。また、熱水供給部分に熱交換器を設けて、水を加熱することも可能である。加熱媒体も特に限定されないが、高圧蒸気、高圧水、熱媒体油、燃焼ガス、高温ガスなどを例示し得る。また、電気による誘導加熱も適用し得る。
連続式の場合は、1ミリメートル程度に粉砕されたバイオマスと水との混合物をスラリーポンプで、所定圧力まで昇圧し、抽出容器に供給する。スラリーを供給するポンプは、特に限定されないが、ダイヤフラム式、プランジャー式、スネーク式、ギア式、渦巻き式などを例示し得る。抽出容器の加熱は特に限定されないが、抽出容器の外部、または内部加熱コイルにより加熱される。また、スラリー供給部分に熱交換器を設けて、水を加熱することも可能である。加熱媒体も特に限定されないが、高圧蒸気、高圧水、熱媒体油、燃焼ガス、高温ガスなどを例示し得る。また、電気による誘導加熱も適用し得る。
本発明のリグニン分離方法において、バイオマスを処理する際の熱水の圧力・温度条件は、常圧以上5MPa以下、かつ、180℃以上374℃以下であり、より好ましくは、1MPa以上5MPa以下、かつ、180℃以上300℃未満であり、さらに好ましくは、1.5MPa以上4MPa以下、かつ、200℃以上250℃未満である。
分離回収の操作圧力は、抽出時の温度、および圧力にも依存するが、熱水が沸騰しない圧力以上に保持されていれば問題なく、通常は、常圧以上5MPa以下が選択される。
バイオマス処理液を冷却する際の操作温度は、100℃以上180℃未満の間で適宜選択される。100℃より温度が低い場合は、熱エネルギーを多くロスし、180℃以上である場合は、バイオマス処理液からのリグニンの分離が十分でなく、さらに、グルコースがさらに低分子化合物となるため、好ましくない。バイオマス処理液を冷却する際の操作温度(冷却保持温度)として、120℃〜150℃を選択した場合、バイオマス処理液からのリグニンの分離度、熱エネルギーの消費の観点から好ましい。
【0024】
所定時間の抽出操作を行い、熱水中にリグニンを抽出し、残存する固形分を上記の条件により分離し、リグニン物質、およびバイオマス水溶液を得ることができる。抽出されるリグニンの分子量(重量平均分子量)は、プラスチック原料とするために、300から5000であることが好ましい。望ましい流動性、軟化点の観点からは、分子量は500から3000であることが特に好ましい。
【実施例1】
【0025】
粒子径1mmに粉砕した廃木材チップ(ひのき)3.6gを、35cmのステンレス容器に封入し、水を毎分2.4cm流通させながら、250℃まで15分で昇温し、250℃、5MPaに保持した。このときの滞留時間は15分となった。回収部を120℃に保持し、各留分を一定時間毎にサンプリングし、水可溶分を高速液体クロマトグラフにより、グルコース濃度を測定し、固形分原料重量に対して15%の回収率を得た。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明のリグニン物質分離方法の用途としては、バイオマスからリグニン物質を抽出し、プラスチック材料として利用することが挙げられる。さらに、セルロースについても分解し、バイオマス水溶液、特にグルコース水溶液として回収することにより、殺菌なしにメタン発酵、エタノール発酵、ブタノール発酵の原料とすることができる。特に、廃棄されている農業廃棄物、林産廃棄物、産業廃棄物を原料として利用することにより、地球環境問題に貢献できる。









【特許請求の範囲】
【請求項1】
常圧以上5MPa以下、180℃以上374℃以下の熱水によりバイオマスを処理して得られたバイオマス処理液を、100℃以上180℃未満に冷却し、リグニン物質の前記熱水に対する溶解度を低下させ、前記熱水に溶解した抽出物を液状のリグニン物質とバイオマス水溶液とに分離することを特徴とするリグニン物質分離方法。
【請求項2】
バイオマス処理液を100℃以上180℃未満に冷却する際に、絶対圧力を、常圧以上5MPa以下に保持することを特徴とする請求項1記載のリグニン物質分離方法。
【請求項3】
液状のリグニン物質を分離除去したバイオマス水溶液を回収することを特徴とする請求項1または2記載のリグニン物質抽出方法。
【請求項4】
バイオマスが農業廃棄物、林産廃棄物、産業廃棄物からなる群より選ばれる少なくとも1種の廃棄物である請求項1〜3のいずれか1項記載のリグニン物質抽出方法。















【公開番号】特開2006−255676(P2006−255676A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−80607(P2005−80607)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年3月24日 社団法人化学工学会主催の「化学工学会 第70年会」において文書をもって発表
【出願人】(591167430)株式会社KRI (211)
【Fターム(参考)】