説明

リグノセルロース物質の化学パルプの製造方法

【課題】従来の化学パルプの製造法において、SP蒸解法は、木質原料の選定問題、蒸解薬品の回収による環境問題、二酸化硫黄ガスの大気汚染問題があり、また、KP蒸解法も硫黄化合物による大気汚染および漂白排水のCOD、BOD、色度等の水質汚染問題が存在するため蒸解工程と漂白工程での使用薬品を平易して、更に、蒸解工程と漂白工程の廃液・排水を統合し、濃縮・燃焼によりエネルギーの回収を行い、クローズド化可能な化学パルプの製造方法を提供する。
【解決手段】蒸解と漂白の両工程で同じ薬品を採用し、核薬品は二酸化塩素あるいは過酸化水素、過酢酸、過蟻酸等又は前記過酸化物の発生剤のいずれか一つが前記蒸解工程及び漂白工程で積極的に脱リグニン化に有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグノセルロース物質を連続式又はバッチ式の化学パルプの製造方法に関する。詳細には、二酸化塩素あるいは過酸化水素、過酢酸、過蟻酸等又は前記過酸化物の発生剤のいずれか一つを用いてリグノセルロース物質を蒸解し、更に同酸化剤にて漂白を行い、高白色度の化学パルプを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リグノセルロース物質、特に木材チップ、による製紙用化学パルプの製造方法は、初めにアルカリ性ソ−ダパルプ化法(以下、AP蒸解法と記述)が1853年に、次いで酸性亜硫酸パルプ化法(以下、SP蒸解法と記述)が1866年に、そしてアルカリ性クラフトパルプ化法(以下、KP蒸解法と記述)が1870年に誕生した。前記蒸解法は未晒化学パルプを製造し、高白色度用紙で使用するには、前記未晒化学パルプが多段漂白を処理することが必要である。
【0003】
AP蒸解法は最も先立ち確立され、蒸解液に苛性ソーダを使用する蒸解方法である。蒸解廃液の黒液は、濃縮工程にて固形分(トータルソリッド:TS)を上げ、回収ボイラーで燃焼して熱量及び炭酸ソーダを回収し、核炭酸ソーダは苛性化工程を通じて苛性ソーダに変更し再利用する。AP蒸解法の苛性ソーダ回収率は約85%と低く、またパルプの強度が弱いとの特徴である。
【0004】
回収工程による苛性ソーダのロス分を補うためにAP蒸解法の黒液へ硫酸ソーダを補充すると、核硫酸ソーダが還元され、硫化ソーダに変更し、蒸解薬品(苛性ソーダ)の回収効率が向上し、更に蒸解速度が上がり、パルプの強度も向上する。ここで、KP蒸解法が誕生された。KP蒸解法によるパルプの製造方法において、苛性ソーダ、硫化ソーダ、炭酸ソーダを含む蒸解液である白液を用いてリグノセルロース物質を蒸解し、得られた未晒パルプと蒸解廃液(黒液という)を分別する。次の精選工程では、未蒸解チップ(ノットという)を除去し、蒸解装置(蒸解釜という)へ回収され、一方、未晒パルプは洗浄機で充分に洗浄し、その後酸素脱リグニンを行い、未晒パルプとして使用するかあるいは多段漂白にて高白色度化学パルプを製造する。KP蒸解法の蒸解薬品回収において、黒液は濃縮工程にて固形分を60%以上に上げ、次いで回収ボイラーで燃焼させ、エネルギーを回収・再利用し、同時に炭酸ソーダ及び硫化ソーダを回収し、苛性化工程を通じて蒸解白液を製造する。従って、KP蒸解法によるパルプの製造、蒸解薬品の回収、熱量の生産等が可能な製造方法として確立されている。更に、原料として特定の樹種を選定しない等の利点から、現在では世界の紙パルプの主要国で代表的な化学パルプの製造法となっている。改善されたKP蒸解法(以下、改良KP蒸解法と記述)は様々があり、例として、蒸解白液にアントラキノンなどのキノン系化合物を触媒量添加して蒸解することにより、針葉樹材、広葉樹材、非木材等の樹種を選ばず蒸解速度が速くなり、蒸解薬品および蒸気の節減をはじめとして蒸解釜のパルプ生産効率が向上する。また、同一カッパー価でのパルプ歩留が向上するため、原木の節減が可能となる等の効果が得られる。KP蒸解法の蒸解釜は、主にバッチ法あるいは蒸解度の向上やパルプ歩留、強度の向上を目指した連続式蒸解釜である。バッチ式の改良蒸解法としてSuperbatch蒸解法がよく知られており、改良された連続式釜蒸解法は、MCC(Modified Continuous Cooking)法、EMCC(Extended Modified Continuous Cooking)法、ITC(Isothermal Cooking)法、Lo−Solids法等があり、通常のKP蒸解法へと変換している。前記KP蒸解法、改良法を含む、は硫化水素、メチル硫化、ジメチル硫化、メチルメルカプタン等の硫黄化合物による大気汚染の問題がまだ残っている。
【0005】
SP蒸解法の蒸解液は、一般的に水、二酸化硫黄ガス及び重亜流酸カルシウムからなるが、亜硫酸を吸収する塩基の種類と蒸解液のpHとの組み合わせで種々の蒸解方法があり、各々の蒸解条件が異なっている。カルシウム塩基の亜硫酸蒸解液のpHが1.5−2.5、マグネシウム塩基の重亜流酸蒸解液のpHが2.5−5.5、ナトリウム及びアンモニウム塩基の亜硫酸蒸解液のpHが5.5−8.5等の蒸解法であるが、前記蒸解法を組み合わせることにより強度がより強く、歩留がより高いパルプの製造が可能になる。組み合わせの例として、1段目のpH5.0−7.5と2段目のpH1.5−3.0の組み合わせあるいは1段目のpH1.5−4.5と2段目のpH7.5−9.0の組み合わせである。しかし、いずれの蒸解法でも、高温で長時間の蒸解を実施する必要があり、一般に、蒸解時間は5−24時間で、蒸解温度は、酸性亜硫酸蒸解で125−150℃、重亜硫酸塩蒸解で160−166℃、アルカリ性亜硫酸塩蒸解で140−180℃である。蒸解液の循環装置の無い釜では底部に蒸気を吹き込んだり、循環装置があれば循環ポンプ出口にインジェクターを設けて蒸気を入れるという直接加熱が行われている。また、ヒーターによる間接加熱も行われている。蒸解薬品回収については、カルシウム塩基亜硫酸が熱のみを回収可能であるが薬品が回収しない蒸解法である。マグネシウム塩基の重亜流酸蒸解廃液は濃縮と燃焼工程により酸化マグネシウムがフルー(排)ガスから回収され、蒸解液に再利用する。ナトリウム塩基の中性亜硫酸蒸解廃液は濃縮・燃焼を通じて炭酸ソーダと硫化ソーダのスメルトが生成され、硫化ソーダは回収炉で再度燃焼させ硫化水素ガスを発生して、これにより二酸化硫黄ガスを生成し、蒸解液の製造に使用する。
【0006】
AP蒸解法はSP蒸解法に比べパルプ強度、パルプ色度、経済性全て劣るためAP蒸解工場はKP蒸解法に変換した。また、SP蒸解法はKP蒸解法と比較すると、原料として特定の樹種を選定する欠点があり、パルプ白色度は高いがパルプ強度及び薬品回収の経済性が劣るため世界のSP蒸解工場の殆どがKP蒸解法に変換した。
【0007】
KP蒸解法の未晒パルプの白色度は低いため、高白色度用紙へ使用するには漂白が必要となる。しかし、漂白パルプ、漂白排水には、人体へ悪影響する有機塩素系化合物、例えばクロロホルム、2,3,7,8−テトラクロロジベンゾダイオキシン、2,3,7,8−テトラクロロジベンゾフラン、ポリクロロフェノ−ル等、を含まない非塩素漂白方法いわゆるECF(Elemental chlorine-free: 元素状塩素や次亜塩素酸塩を用いない)、TCF(Totally chlorine-free:完全に塩素漂白薬品を用いない)漂白方法が必要である。現在、クラフトパルプ漂白工場では、ECF漂白に酸素、苛性ソーダ、オゾン、二酸化塩素、過酸化水素、過酢酸、キレ−ト剤等、TCF漂白に酸素、苛性ソーダ、オゾン、過酸化水素、過酢酸、キレ−ト剤等が使用される。前記ECF漂白の一般的な多段漂白シーケンスは、ZD−E−D、ZD−E/P−D、DZ−E−D、DZ−E/P−D、A−Z−E−D、A−Z−Eo−D、A−Z−E−D−P、A−Z−Eo−D−P、AZ−E−D−D、A−Z−Eo−D−D、A−Z−E−P−D、D−Eo−D−D;D−Eo−P−D;D−Eo−D−P;D−Eo−P−P;D−Eop−D;D−Eop−D−P;A−D−Eo−D−D;A−D−Eo−P−D;A−D−Eo−D−P;A−D−Eo−P−P;A−D−Eop−D;A−D−Eop−D−P(Z:オゾン;D:二酸化塩素;E:アルカリ抽出;P:過酸化水素;A:酸処理;O:酸素;−:洗浄段)等が挙げられる。また、前記TCF漂白の一般的な多段漂白シーケンスは、Q−Z−Eo−P;Q−P−Eo−Z;Q−Po−Eo−Z;Q−Z−Po−P;Q−Z−Paa−P(Q:キレ−ト剤;Paa:過酢酸)等が実施されている。なお、前記漂白シーケンスには、酸素脱リグニン(O)が含まれる。従って、漂白クラフトパルプの製造は、チップ状の製造工程、蒸解工程による未晒パルプの製造、酸素脱リグニン化する工程、そして漂白工程前の酸処理A段(広葉樹パルプのみ)、及びECF、TCF多段漂白の工程計4−5工程が含まれる。更に、クラフトパルプの漂白工程から発生した排水は、製紙工場の総合排水のCOD、BOD、色度の源であり(例えば、Arsenault, R.M., Brezniak, S.J., Biotreatability of COD from process areas at a bleached kraft mill. In “Proceedings of 1997 Environmental Conference and Exhibit”, Tappi Press, Atlanta, GA, Book 2, pp. 899-907、参照。)、工場外へ排出するには、法令に定める水質、例えばCOD、pH等、の規制を守るために前記クラフトパルプ漂白排水は化学処理及び微生物処理を行うことが必要である。
【0008】
リグノセルロース物質、特に広葉樹チップ、のヘミセルロースであるキシランの側鎖を有する、4−O−メチルグルクロン酸残基がKP蒸解過程でアルカリ加水分解により脱メトキシールされ、ヘキセンウロン酸(HexA)基に変成する(例えば、Jiang, Z-h., Lierop, B.V., Berry, R., Hexenuronic acid groups in pulping and bleaching chemistry. TappiJournal 83(1):167-175 (2000)、参照。)HexA基の化学構造にはエノールエテール基を有し、特徴として、求電子および求核の攻撃を受けやすいため、ECF漂白方法、TCF漂白方法で使用される二酸化塩素、オゾン等を消費してしまうため、漂白薬品のコストアップの原因になる。また、HexA基は二酸化塩素、オゾンとの反応により蓚酸(シュウ酸)を生成し、精選設備においてカルシウムと結合することで蓚酸カルシウムとなり、スケールの問題を発生する。核蓚酸カルシウムスケールを防止するためには、漂白工程に入る前に未晒クラフトパルプは酸処理(A段)を行うことが一般的な対策である。また、特開2004−339628号公報には、ECF漂白方法において、特に初段での二酸化塩素を用いる漂白方法においては、漂白後のパルプが黄変化する問題を有し、この問題に対して、ECF漂白工程の前工程で、硫酸などによりクラフトパルプの酸処理を行い、黄変化の原因物質と考えられているHexA基を分解、除去する方法が開示されている。
【0009】
特開2000−239986号公報には、二酸化塩素を含有する薬品で脱リグニン化する工程を含む非木材植物の繊維をパルプ化するパルプ製造方法が開示されている。詳しいは、二酸化塩素の水溶液中で浸漬処理又は煮熟処理をする前に、前記非木材植物繊維が予め次亜塩素酸塩溶液又はアルカリ溶液にて浸漬処理されており、あるいは二酸化塩素の水溶液中で浸漬処理又は煮熟処理をする後に、前記非木材植物繊維がアルカリ溶液で浸漬処理されている非木材植物繊維をパルプ化する製造方法であるが、得られたパルプのカッパー価、白色度等のパルプ品質が記載されていない。更に、特開2000−239986号公報には、二酸化塩素単独で非木材植物繊維又は木質をパルプ化する製造方法が記載されず、人体に悪影響をするクロロホルムを発生する次亜塩素酸塩溶液を使用するため、紙パルプ企業のクロロホルムをなくす方針を反している。
【0010】
過酸化水素を含む薬品を用いて木材及び非木材をパルプ化する蒸解法については、特開1997−158073号、特開1997−158074号、特開1998−325090号、特開1999−286884号、特開2001−248083号、特開2002−371488号等があり、特に、特開2001−248083号公報には、木材及び非木材を過酸化水素アルカリ法(PA法)の蒸解薬品(水、過酸化水素又は過酸化水素発生剤、アルカリの水酸化物又は及び炭酸塩と重炭酸塩、及び過酸化水素安定剤からなる混合液又は混合液にアントラキノン類を加えたもの)のうち少なくとも2つ以上の成分でパルプ化するパルプ製造方法が開示されており、蒸解薬品の添加量は、原料の絶乾物に対し過酸化水素(H2O2 として)0.5−2%、アルカリ(Na2Oとして)12−15%、アントラキノン類0.01−0.1%、過酸化水素安定剤(DTPA、EDTA等)0.05−0.1%、である。また、前記PA法の蒸解温度は145〜175C、蒸解時間は30〜150分で、これに伴って蒸解圧力は1−3kg.cm−2となる。ブナ材チップから得られた未晒パルプのカッパーが13.5、白色度が48.5%、竹のチップから得られた未晒パルプのカッパーが13.5、白色度が52.5%との実施例の結果であった。即ち、前記PA法には、晒パルプのため漂白工程が含まれないパルプ製造方法となる。前記蒸解条件を調査すると、過酸化水素添加量に比べアルカリ添加量が多く、また、蒸解温度も高いため特開2001−248083号公開がPA法よりもむしろ前記AP蒸解法に過酸化水素を添加した改良AP蒸解法と見られる。
【特許文献1】特開2000−239986号公報
【特許文献2】特開2001−248083号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、SP蒸解法は、木質原料の選定問題、蒸解液のpHとパルプの使用用途による蒸解薬品の回収有無による環境問題、そして二酸化硫黄ガスの大気汚染問題という欠点がある。同様に、世界の紙パルプの主要国の代表的な化学パルプの製造法であるKP蒸解法も硫黄化合物による大気汚染および漂白排水のCOD、BOD、色度等の水質汚染の問題が存在し、また、漂白パルプがHexA基による黄変化する問題を有している。さらに、前記SPとKP蒸解法には多種類の蒸解薬品と漂白薬品が使用されており、複雑な化学パルプ化製造方法である。
【0012】
本発明は、以上のような課題に鑑み鋭意開発されたものであり、その目的とするところは、樹種の選定を必要とせず、蒸解工程での大気汚染と漂白排水による水質汚染共発生させず、蒸解工程と漂白工程で使用薬品を平易するため両工程にて同様の薬品を採用し、そして蒸解工程と漂白工程の廃液・排水を統合し、濃縮・燃焼によりエネルギーの回収を行い、クローズド化可能な化学パルプの製造方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、パルプ化原材料とする木材及び非木材のリグニンが植物の他の組成であるセルロースとヘミセルロースを接合して前記パルプ化原材料の繊維を結成する。一方、パルプ(繊維)化する蒸解工程には、蒸解薬品の作用によりリグニンの殆どが分解・除去され、得られた未晒化学パルプの残留リグニンが次の漂白工程で漂白薬品の作用にて更に分解・除去され、且つ、蒸解薬品及び漂白薬品は同一ものであり、漂白化学パルプの製造が可能と考え、リグニンに対して特異的な分解作用を有する化合物を詳細に調査すると、二酸化塩素あるいは過酸化水素、過酢酸、過蟻酸等又は前記過酸化物の発生剤のいずれか一つが積極的に脱リグニン化に有効であることを見出して、本発明を完成したものである。
【0014】
上述した目的を達成するために本発明となる各請求項に記載の発明が採用した手段の要旨とするところは、叙上の特許請求の範囲の欄に記載の通りである。
【0015】
請求項1記載の化学パルプ製造方法によると、パルプ化する薬品である二酸化塩素単独でチップ状あるいはおがくずのリグノセルロース物質中のリグニンを分解除去可能である。二酸化塩素は不安定なガスで、水への吸収濃度及び保管可能な濃度共1%程度までであるため本発明での使用二酸化塩素水は、パルプ化する生産現場にて市販方法を基に生成するものとする。前記市販方法とは、Mathieson法、Solvay法、R2法、R5−R8法、R10−R13法、SVP法等がある。(例えば、Fredette, M.C., Bleaching Chemicals : Chlorine dioxide. In “Pulp Bleaching : Principles and Practice”, Eds., Dence, C.W., Reeve, D.W., Tappi Press,1996, Atlanta, GA,pp. 59-69、参照)。更に、二酸化塩素は、空気との混合で爆発性を獲得するため、二酸化塩素によるパルプ処理は、通常、チタン金属あるいはガラスファイバーライニングした容器の中で100℃以下の温度雰囲気にて実施される。即ち、リグノセルロース物質を大気圧にて二酸化塩素による化学パルプ化可能である。
【0016】
また、請求項1記載の化学パルプ製造方法によれば、パルプ化する工程で使用薬品として過酸化水素、過酢酸、過蟻酸等あるいは前記過酸化物の発生剤のいずれか一つを用いることによりチップ状あるいはおがくずのリグノセルロース物質中のリグニンを分解除去できる。
【0017】
従来、過酸化水素はパルプを漂白する薬品であり、一般的な漂白条件としては、温度が100℃以下、圧力が大気圧、pHがアルカリ側、パルプ中の重金属による自動分解を防止する目的でキレート剤(DTPA、EDTA等)も採用される。しかし、近年の技術によると、過酸化水素水に触媒としてタングステンあるいはより強力なモリブデンの酸ソーダを添加する(添加量:過酸化水素添加量の100−1 − 10−1程度)ことで、リグノセルロース物質中のリグニンと形成した金属過酸化物中間体との優先的反応により、セルロース酸化分解を抑制したリグニン酸化解裂脱リグニン処理の効果が見出した。更に、過酸化水素水と酸素を組み合わせ、温度100−130℃の範囲、圧力98−294kPaの範囲でパルプを処理した場合は、従来の低温、大気圧の条件に比べパルプ白色度が向上した改良過酸化水素漂白技術である。
本発明によれば蒸解(脱リグニン化)薬品とする過酸化水素は、100℃以下の温度雰囲気及び大気圧の条件あるいは温度100−130℃の範囲、圧力98−294kPaの範囲の条件下で前記リグノセルロースを脱リグニン化できる。特に、前記の温度100−130℃の範囲、圧力98−294kPaの範囲の条件を選定した場合、酸素を添加すべく、また、前記の各条件にキレート剤(DTPA、EDTA等)、タングステンあるいはモリブデンを使用し、脱リグニン効果の向上を図る。
【0018】
過蟻酸は現在、脱リグニン、漂白等に採用されていないが、過酢酸がクラフトパルプのECF、TCF漂白そして酸素脱リグニンで使用されている。一般に、過酸化水素は50−60%濃度のものを購入するが、過酢酸が爆発性を獲得するため漂白パルプ生産現場で製造・使用され、また、二酸化塩素と同様に漂白に使用する際、100℃以下と大気圧の条件下で採用される。酸素脱リグニン工程での使用においては、過酸化水素とTAED(テトラアセチルエチレンジアミン)あるいはPAG(ペンタアセチルグルコース)との反応を行い、過酢酸を生成することが一般の技術である(例えば、Kang, G.J., Malekian, A., Ni, Y., Formation of peracetic acid from hydrogen peroxide and pentaacetyl glucose to activate oxygen delignification, Tappi Journal, 3(1): 19-22 (2004)、参照)。
本発明によれば蒸解薬品とする過酢酸は、100C以下の温度雰囲気及び大気圧の条件下で前記リグノセルロースを脱リグニン化可能であり、更に、キレート剤(DTPA、EDTA等)、タングステンあるいはモリブデンを使用し、歩留および脱リグニン効果の向上を図る。
【0019】
請求項2記載の化学パルプ製造方法によると、パルプ化する工程から得られた白色度65−75%ISOの未晒化学パルプは、前記パルプ化する工程で使用された蒸解薬品を用いて引き続きに漂白を行い、前記未晒化学パルプの残存リグニンを分解除去可能で、パルプの白色度を80−90%ISOに上げられる。従来、二酸化塩素は、化学パルプ(KP、SP蒸解法等)の漂白剤であるため前記の蒸解された化学パルプにおいても二酸化塩素にて漂白が可能となる。即ち、チップ状あるいはおがくずのリグノセルロース物質は、蒸解工程及び漂白工程で同一の薬品である二酸化塩素を用いて最終白色度80−90%ISOの化学パルプを100℃以下の温度雰囲気及び大気圧にて製造可能である。
【0020】
同様に、パルプ化する蒸解工程及び漂白工程の両工程で過酸化水素、過酢酸、過蟻酸等又は前記過酸化物の発生剤のいずれか一つあるいは前記過酸化物の組み合わせを用いることにより、チップ状あるいはおがくずのリグノセルロース物質より最終白色度80−90%ISOの化学パルプを製造できる、請求項2に記載のリグノセルロース物質の化学パルプの製造方法。
【0021】
蒸解工程及び漂白工程の両工程で過酸化水素を用いた場合、100℃以下の温度雰囲気及び大気圧の条件あるいは温度100−130℃の範囲、圧力98−294kPaの範囲の条件下で前記リグノセルロース物質を脱リグニン化、漂白して最終白色度80−90%ISOの化学パルプを製造可能である。なお、温度100−130℃の範囲、圧力98−294kPaの範囲の条件を選定した場合、酸素を添加すべきである。また、前記の各条件にキレート剤(DTPA、EDTA等)、タングステンあるいはモリブデンを使用し、歩留および脱リグニン効果の向上を図る。
【0022】
蒸解工程及び漂白工程の両工程で過酢酸を使用した場合、100℃以下の温度雰囲気及び大気圧の条件下で前記リグノセルロース物質を脱リグニン化、漂白して最終白色度80−90%ISOの化学パルプを製造できる。前記の各条件にキレート剤(DTPA、EDTA等)、タングステンあるいはモリブデンを添加し、歩留及び脱リグニン効果の向上を図る。
【0023】
蒸解工程で過酸化水素を、漂白工程で過酢酸を使用した場合、蒸解工程は、100℃以下の温度雰囲気及び大気圧の条件あるいは温度100−130℃の範囲、圧力98−294kPaの範囲の条件下で、漂白工程は、100℃以下の温度雰囲気及び大気圧の条件下で前記リグノセルロース物質を脱リグニン化、漂白して最終白色度80−90%ISOの化学パルプを製造できる。因みに、蒸解工程の温度100−130℃の範囲、圧力98−294kPaの範囲の条件を選定した場合、酸素を添加すべきである。また、前記の各条件にキレート剤(DTPA、EDTA等)、タングステンあるいはモリブデンを使用し、歩留および脱リグニン効果の向上を図る。
【0024】
蒸解工程で過酢酸を、漂白工程で過酸化水素を用いた場合、蒸解工程は、100℃以下の温度雰囲気及び大気圧の条件、そして漂白工程は、100℃以下の温度雰囲気及び大気圧の条件あるいは温度100−130℃の範囲、圧力98−294kPaの範囲の条件下で前記リグノセルロース物質を脱リグニン化、漂白して最終白色度80−90%ISOの化学パルプを製造可能である。なお、漂白工程で温度100−130℃の範囲、圧力98−294kPaの範囲の条件を選定した場合、酸素を添加すべく、また、前記の各条件にキレート剤(DTPA、EDTA等)、タングステンあるいはモリブデンを使用し、歩留および脱リグニン効果の向上を図る。
【0025】
請求項3記載の化学パルプ製造方法によれば、蒸解工程と漂白工程の間に酸素脱リグニン化工程を設ける場合、蒸解工程からの未晒パルプのカッパー価を下げられ、次の漂白工程での酸化漂白剤の使用量を低減でき、安価な製造コストが図れ、同時に最終白色度80−90%ISOの化学パルプを製造可能である。酸素脱リグニンは、前記二酸化塩素あるいは過酸化水素、過酢酸、過蟻酸等あるいは前記過酸化物の発生剤のいずれか一つを使用する蒸解工程から得られた未晒パルプに適正で、核酸素脱リグニンは、アルカリ性pHと反応温度150℃以下の条件下で行う工程である。一方、蒸解工程と漂白工程の間に酸素脱リグニン工程を設けなくて良いが、後の漂白工程での酸化漂白剤の使用量が低減できず、コストがかかる、請求項3に記載のリグノセルロース物質の化学パルプの製造方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、蒸解工程と漂白工程で同一の薬品を使用するため各工程の廃液・排水の品質は同等で且つ主な組成は水溶性リグニン分解物であり、核廃液・排水を統合して濃縮と燃焼により廃液・排水の処分、及びCOD、BOD、色度等の水質汚染の問題がなく、更に、エネルギーを回収・再利用する。また、使用薬品がリグニンとの反応過程で消費・分解されるため薬品の回収は必要なく、SP、KP蒸解法と異なり、漂白化学パルプの生産工程がクローズド化可能で且つ短く平易になる。
【0027】
本発明は、蒸解工程と漂白工程で使用薬品が硫黄物質を含まなく、SP、KP蒸解法と異なり、大気汚染の問題がなく、環境に優しい化学パルプの製造方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面を用いて本発明を詳細に説明する。図1は本実施形能に係る木質リグノセルロース物質の化学パルプの製造方法のフローを示す工程図である。図1には、前記木質リグノセルロース物質のチップ化工程、パルプ化する蒸解工程、酸素脱リグニン工程、漂白工程計4工程が含まれる。各工程の説明は以下の通りである。
【0029】
(1)チップ化工程
本発明のリグノセルロース物質の化学パルプの製造方法において、前記木質リグノセルロース物質の皮を剥いた丸太1はチッパー2にてチッピングを行い、チップを作り、チップパイル3として在庫する。同様に、購入木質チップの場合でもチップパイルとして在庫する必要がある。使用量を明確する目的でコンベヤーベルトにてチップをチップメーターを有するチップサイロ4に転送し保管する。サイロ4から払い出したチップは次のパルプ化する蒸解工程へ送る前にサイズを揃う必要があり、チップ厚み選別器5にて選定した後、50mm以下の粒径の丸穴又は50mm以下の四角穴を有する上部スクリーン6および5mm以上の粒径の丸穴を有する下部スクリーン6でスクリーニングを行い、過大チップはスライサーへ送り、再利用し、皮及び過小チップはボイラーで燃焼させ、熱を回収する。揃ったチップの平均サイズは厚みが2mm−3mm、長さが20−35mm、幅が10−25mmである。
【0030】
(2)パルプ化する蒸解工程
チップスクリーン6から選定されたチップは、チップビン7に送り、未晒化学パルプの生産高による回転数を設定されたチップメーター8を通過して、蒸解薬品の浸透を強化するためにスチ−ミングベッセル9に投入し、150kPa以下の低圧蒸気で脱気する。その後、チップシュート10を通過しポンプ11でパルプ化する反応器(蒸解釜という)に搬送する。前記蒸解釜はバッチ方式と連続方式の2種があり、いずれの場合、製造されたパルプはブロータンク15に入れる。
【0031】
(2−1)バッチ生産式(A)
(2−1−1)蒸解薬品は二酸化塩素の場合
未晒化学パルプの生産高及びバッチ蒸解釜の容量により一定のチップ重量をバッチ式蒸解釜12に投入し、圧力150kPa以下を維持しながら濃度10g.L−1以下の二酸化塩素水を添加し、蒸気の投入を行い、反応温度98℃、望ましくは65−85℃、までに加熱し、前記バッチ蒸解釜には液循環設備およびヒーターが付着され、添加した二酸化塩素液の残存二酸化塩素がなくなるとその液を廃止して新鮮二酸化塩素液を入れ替え、カッパー価20−30程度のパルプを得られるまで二酸化塩素処理を継続する。蒸解後のパルプは、ブロータンク15に入れる。なお、前記二酸化塩素処理は室温でも起きるが、65−85℃での反応に比べ、カッパー価20−30のパルプを得るための二酸化塩素原単位が高く反応時間も長くなる。因みに、二酸化塩素原単位とは、製造されたパルプの1トン風乾(ADT:air-dry ton)に対する二酸化塩素の消費量(kg)と言う。1ADTは、0.9トン絶乾(ODT:oven-dry ton)と相当する。
本発明は、カッパー価という方法を基にパルプ中の残存リグニンの指数とし、カッパー価の測定方法では、過マンガン酸カリウムの一定添加量の半分が消費されるように測定パルプのサンプル量を調整し精度が高いため、世界中の様々な紙パルプ技術協会が標準法として使用している(例えば、Dence, C.W., In ”Methods in Lignin Chemistry”, Eds. Lin, S.Y., Dence, C.W., Springer-Verlag, Berlin, 1992, pp. 48-52、参照)。
【0032】
(2−1)バッチ生産式(A)
(2−1−2)蒸解薬品は過酸化物の場合
前記二酸化塩素蒸解薬品と同様に、チップをバッチ式蒸解釜12に投入した後、過酸化物を添加し、且つ、段落(0021)−(0024)に記載蒸解工程での使用過酸化物の条件下で蒸解を行い、過酸化物の一定添加率を維持するには、蒸解廃液に新鮮過酸化物を追加添加して蒸解釜内に循環させ、再使用し、カッパー価100程度のパルプを得るまで過酸化物の蒸解を継続する。蒸解後のパルプは、ブロータンク15に入れる。
【0033】
(2−2)連続生産式(B)
(2−2−1)蒸解薬品は二酸化塩素の場合
未晒パルプの連続生産式は、バッチ生産式の圧力、二酸化塩素の濃度、二酸化塩素処理の温度等の条件と同様であるが操業性が異なっている。詳しくは、チップ中に二酸化塩素を浸透する設備である第一塔13(連続蒸解釜という)と第二塔連続蒸解釜14から結成される連続蒸解釜二塔式であり、両釜はダウンフロー方式で第一塔連続蒸解釜には少なくとも2液循環ゾーン、第二塔連続蒸解釜には少なくとも三液循環ゾーンが含まれ、そして第一塔連続蒸解釜及び第二塔連続蒸解釜の合計滞留時間が少なくとも12時間またはその以上となる。チップは、シュート10より循環ポンプP1に行き、搬送液とする二酸化塩素水にて浸透連続蒸解釜13に流送され、核連続蒸解釜13のトップセパレーターでチップと二酸化塩素液を分別してチップ及び新規二酸化塩素水は浸透連続蒸解釜13に入り、搬送用二酸化塩素液は循環ポンプP1に戻り、残存二酸化塩素がなくなると新規二酸化塩素液を入れ替える。浸透連続蒸解釜13の上部循環ポンプP2から連続蒸解釜内の廃液を抽出・排出し、新規二酸化塩素を添加し、ヒーターH1にて加熱させ、連続蒸解釜内に入れる。同様に、下部循環ポンプP3から連続蒸解釜内の廃液を抽出・排出し、新規二酸化塩素を注入し、ヒーターH2にて加熱させ、連続蒸解釜内に投入する。部分的に脱リグニンされたチップは第二連続蒸解釜14に送り、上部循環ゾーンのポンプP4から連続蒸解釜内の廃液を抽出・排出し、新規二酸化塩素液と置き換え、ヒーターH3で加熱して上部循環ゾーンに入れる。次いで、中間循環ゾーンのポンプP5から連続蒸解釜内の廃液を抽出し新規二酸化塩素液を注入してヒーターH4で加熱した後中間循環ゾーンに入れる。同様に、下部循環ゾーンのポンプP6で連続蒸解釜内の廃液を抽出し新規二酸化塩素液を添加して、ヒーターH5で加熱させ下部循環ゾーンに入れ、脱リグニンを行う。連続蒸解釜14の底部内のスクレーパー及びブローディバイスにてパルプをブローし、ブロータンク15にて置く。バッチ生産式と同様に、連続生産式からのパルプのカッパー価が20−30とする。
本発明は前記未晒パルプを連続的に生産する2塔式に限定されるものではなく、2塔以上の式も応用できる。
【0034】
(2−2)連続生産式(B)
(2−2−2)蒸解薬品は過酸化物の場合
前記二酸化塩素連続蒸解と同様に、過酸化物を蒸解薬品として使用した場合、連続蒸解釜が2塔式あるいは2塔以上の方式、且つ、第一塔には少なくとも2液循環ゾーン、第二塔には少なくとも三液循環ゾーンが含まれ、そして第一塔及び第二塔の合計滞留時間が少なくとも12時間またはその以上とする。過酸化物の連続蒸解作業は、前記二酸化塩素連続蒸解法と同等で、段落(0021)−(0024)に記載蒸解工程での使用過酸化物の条件下で蒸解を行い、更に、過酸化物の一定添加率を維持するには、蒸解廃液に新鮮過酸化物を追加添加して蒸解釜内に循環させ、再使用し、カッパー価100程度のパルプを得るまで過酸化物の蒸解を継続する。蒸解後のパルプは、ブロータンク15に入れる。
【0035】
(2−3)二酸化塩素あるいは過酸化物蒸解工程による廃液の利用
前記木質リグノセルロースのリグニン(プロトリグニンと言う)は、主にフェノール構造及び非フェノール構造から結成され、二酸化塩素と反応すると、脱メトキシ基、ベンゼン環の開裂等の反応が行われ、水溶性のメタノール、o−ベンゾキノン、p−ベンゾキノン、ムコン酸等が生成される。(例えば、Dence, C.W., In ”Pulp Bleaching - Principles and Practice”, Eds. Dence, C.W., Reeve, D.W., Tappi Press, Atlanta, GA, 1996, pp. 132-138、参照)。即ち、二酸化塩素蒸解工程からの廃液中には、低分子のリグニン分解物およびメタノールが存在する。
一方、過酸化水素は、プロトリグニンの側鎖構造のエノン基と反応すると、側鎖のαとβの結合が破裂され、カルボン酸および芳香族アルデヒドあるいは芳香族カルボン酸の構造が生成される。芳香族アルデヒド、芳香族カルボン酸の構造は更に分解される。また、過酸化水素はプロトリグニンのオルトーキノン、パラーキノンの構造と反応し、最終反応生成物が主にカルボン酸である。(例えば、Dence, C.W., In ”Pulp Bleaching - Principles and Practice”, Eds. Dence, C.W., Reeve, D.W., Tappi Press, Atlanta, GA, 1996, pp. 163-181、参照)。即ち、過酸化水素蒸解工程からの廃液中には、低分子のリグニン分解物質である。
二酸化塩素あるいは過酸化物を用いて木質チップを蒸解した場合、前記蒸解薬品の容量と使用チップの重量の比率は一般的に8以上になるため得られた廃液の容量が大きく、TSが逆に低く、ボイラーで燃焼するには、前記TSが55%以上になるように濃縮工程が必要となる。アルカリパルプ(例:クラフトパルプ)の黒液濃縮措置と同様のものを使用し、核濃縮措置の名はエバポレータと呼ばれ、一般には多段エバポレータであり、段数は7段まで、各段は1塔以上可能で(1塔は熱交換器及び蒸気/液の分離器を有する)、初段から最終段までは、濃縮用蒸気の温度を上げることにより(例:80℃→95℃→105℃→115℃→130℃→145℃→145℃)、リグニン分解物を含む廃液の温度も増加し(例:65℃→80℃→95℃→105℃→115℃→125℃→125℃)、結果として廃液のTSが上昇する(例:3.5%→7%→14.5%→30%→45%→60%→65%)。濃縮蒸解廃液はボイラーで燃焼させ、蒸気として熱を回収し、核蒸気は蒸解あるいは酸素脱リグニン工程、漂白工程等で使用し、省エネルギーを図る。
【0036】
(3)酸素脱リグニン工程
前記二酸化塩素蒸解、過酸化物蒸解から得られたパルプのカッパー価は各々20−30、100と高く、漂白工程での薬品低減を図るために酸素脱リグニンを通じてカッパー価を低減することが必要となる。前記酸素脱リグニン工程において、pHが強アルカリ側で、温度が150℃以下、反応器のトップ圧力を高くするが686kPaを越えなく、反応器が1塔あるいは1塔以上(2−3塔)の方式で、滞留時間は塔数に関係なく1塔が30分以上との条件とする。アルカリ源として、苛性ソーダ、苛性カリウム、炭酸ソーダ、炭酸カリウム、水酸化マグネシウム等がある。酸素脱リグニン工程の廃液は専用タンクに保蔵し、酸素脱リグニン反応器のメークアップ水として再利用し、剰余廃液は蒸解工程の廃液と混合し、濃縮・燃焼によりエネルギーを回収する。
【0037】
(4)漂白工程
前記未晒パルプのISO白色度は、蒸解工程後が65−75%、酸素脱リグニン工程後が少ないとも68−78%となり、目標白色度80−90%を達成するには、1段あるいは2段漂白が必要とし、且つ漂白剤は蒸解工程で使用薬品と同等のものであるため漂白排水は、蒸解廃液と混合して濃縮・燃焼によりエネルギーを回収し、漂白化学パルプの製造工程がクローズド化可能になる。漂白剤として二酸化塩素を使用した場合、温度が98℃以下、pHが3−6の範囲、滞留時間が90分以上との条件下で漂白を行う。一方、漂白剤は過酸化物である場合、段落(0021)−(0024)に記載漂白工程での使用過酸化物の条件下で漂白を実施する。
【0038】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、もとより本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0039】
水分48.5%の広葉樹チップ(絶乾340g)をポリエチレン袋に入れ、水道水(5L)を導入し、吸引器の圧力下で一晩浸漬させ、遠心分離にて脱水を行った。次に、二酸化塩素水(濃度:6.5−7.8g.L−1)を添加し、一定の反応時間で85℃の恒温槽につけた後、水道水で冷やし、200メッシューのスクリーンで洗浄を行った。反応時間は15時間以上になると、チップが柔らかく部分的にパルプ化したため英国標準離解器にて処理し、ラボ用6カットフラットスクリーンでパルプと未蒸解チップを分離し、パルプは脱水後5℃で保管し、チップはまた二酸化塩素蒸解を行った。核二酸化塩素蒸解/洗浄/フラットスクリーン処理の分離サイクルを繰り返し、計87時間で二酸化塩素蒸解を終了した。二酸化塩素蒸解の最終回から得られたリジェックトは105Cで乾燥し、パルプは遠心分離機にて脱水を行い、白色度(70.9%ISO)、カッパー価(10.2)、残留リグニン(酸可溶及び酸未可溶:6.3%)、歩留(55.1%)を測定した。結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【実施例2】
【0041】
前記実施例1のチップを使用し、室温で二酸化塩素蒸解を行い、パルプを作成した。実施例1の85℃で製造されたパルプに比べ、室温で得られたパルプは、反応時間が8.5倍長く、二酸化塩素添加率も1.6倍高いが、パルプの歩留が約10ポイント高い結果であり、木質リグノセルロースは低温で二酸化塩素による分解が少ないことが判った。結果を表2に示す。
【0042】
【表2】

【実施例3】
【0043】
おがくず(絶乾300g)を用い、パルプ化の作業手順は前記実施例1と同様であるが、75℃の恒温槽で二酸化塩素蒸解を実施した。おがくずからのパルプは前記実施例1のパルプと比較すると、おがくずのサイズが小さいため反応時間は半分以下と短いが二酸化塩素添加率は1.3倍高い結果であった。結果を表3に示す。
【0044】
【表3】

【実施例4】
【0045】
前記実施例1のチップを用いるが蒸解薬品は過酸化水素であり、そしてパルプ化の作業手順は前記実施例1と同様にした。前記実施例1の二酸化塩素パルプに比べ過酸化水素パルプは、白色度(71.3%ISO)が同等で、歩留が8ポイント高く、カッパー価(99.7)が約10倍高いが残留リグニン(酸可溶及び酸未可溶:19.8%)が約3倍高いためパルプの残留二酸化塩素リグニンと残留過酸化水素リグニンの構造が異なり、そして二酸化塩素、過酸化水素のパルプ化反応性は全く違うことが判った。結果を表4に示す。
【0046】
【表4】

【実施例5】
【0047】
前記実施例1の二酸化塩素パルプを用い、二段の二酸化塩素漂白を行った。二酸化塩素蒸解実験と同様に、二酸化塩素漂白実験もポリエチレン袋及び恒温槽にて実施した。即ち、二酸化塩素パルプ(100g絶乾)をポリエチレン袋に入れ、次いで二酸化塩素水(パルプ絶乾に対する添加率:0.776%)を添加し、そしてパルプ濃度は14%になるように水道水で調整して手でこねた後75℃の恒温槽、120分間の条件下で漂白初段D1を行った。パルプは、200メッシューのスクリーンで洗浄した後、前記D1段の温度、反応時間、パルプ濃度の条件で二酸化塩素漂白第二段D2を実行した。前記D2段の二酸化塩素添加率が0.12%(パルプ絶乾に対する添加率)であった。漂白後の二酸化塩素パルプの最終白色度と歩留を表6に示す。
(比較例1)
【0048】
前記実施例1のチップを用い、KP蒸解を行った。チップ(400g絶乾)は5リットルのオートクレーブに入れ、チップに対する活性アルカリ17.2%と相当する白液(活性アルカリ:108g.L−1as Na2O;硫化度:30%)容量を添加し、液とチップの比率4になるように水道水で調整し、温度165℃と反応時間60分間の条件下でKP蒸解を実施した。得られたパルプは、200メッシューのスクリーンで洗浄し、ラボ用6カットフラットスクリーンにてパルプと未蒸解ノットを分離した。パルプの分析結果は、カッパー価が21.1、歩留が51.0%であった。次に、パルプ(180g絶乾)は前記5リットルのオートクレーブにて温度100℃、反応時間42分、パルプ濃度10%、苛性ソーダ3.15%(パルプ絶乾に対する添加率)と酸素3%(パルプ絶乾に対する添加率)の条件下で酸素脱リグニンを行った後、水道水で洗浄した。酸素脱リグニン後のカッパー価11.8のパルプを用い、Do−E−D1−D2の4段二酸化塩素漂白シーケンスで漂白を行った。クラフトパルプの漂白条件を下表に示し、漂白手順は前記二酸化塩素パルプの漂白と同様であった。
【0049】
【表5】

【0050】
クラフトパルプ比較例の結果を表6に示す。漂白後の二酸化塩素パルプに比べ、漂白クラフトパルプは、最終白色度がほぼ同等であるが、歩留が約5.5ポイント低い結果であった。
【0051】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、二酸化塩素あるいは過酸化水素、過酢酸、過蟻酸等又は前記過酸化物の発生剤のいずれか一つを用いて、リグノセルロース物質を連続式又はバッチ式にて蒸解し、更に同酸化剤で得られた未晒化学パルプを漂白して高白色度化学パルプを製造し、蒸解工程及び漂白工程からの廃液・排水を統合して、濃縮・燃焼によりエネルギーを回収・再利用するという高効率、且つ、工業化可能な化学パルプ生産方法を提供し、更に、製造設備・装置はついでに紙パルプ産業で使用されているため前記化学パルプの製造は工業的に実施可能である。また、蒸解薬品は硫黄化合物を含まなく、大気の汚染が起こらず、廃液・排水は排出しないため全生産工程のクローズド化が可能になり、前記化学パルプ製造方法が環境に優しいである。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本実施形態に係るリグノセルロース物質の漂白化学パルプ製造方法の連続 製造装置の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0054】
1 :木質丸太
2 :チッパー
3 :チップパイル
4 :チップサイロ
5 :チップ厚み選別器
6 :チップスクリーン
7 :チップビン
8 :回転式チップメーター
9 :スチーミングベッセル
10 :チップシュート
11 :チップポンプ
12 :バッチ式蒸解釜
13 :連続式第一塔蒸解釜
14 :連続式第二塔蒸解釜
15 :パルプブロータンク
16 :ノッター
17 :スリットスクリーン
18 :加圧フィルター(洗浄機)
19 :酸素脱リグニン反応器
20 :酸素脱リグニン後パルプブロータンク
21 :クリーナー
22 :漂白タワー
23 :流送タワー
A :バッチ式
B :連続式
H :ヒーター
P :ポンプ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学パルプの製造方法であって、チップ状あるいはおがくずのリグノセルロース物質をパルプ化する蒸解工程において、前記リグノセルロース物質を二酸化塩素あるいは過酸化水素、過酢酸、過蟻酸等又は前記過酸化物の発生剤のいずれか一つで脱リグニン化する蒸解工程を含むリグノセルロース物質の化学パルプの製造方法。
【請求項2】
化学パルプの製造方法であって、前記二酸化塩素あるいは過酸化水素、過酢酸、過蟻酸等又は前記過酸化物の発生剤のいずれか一つによる脱リグニン化する蒸解工程から生成された化学パルプが最終白色度80−90%ISOを得るために同酸化剤で漂白を行う漂白工程を含むリグノセルロース物質の化学パルプの製造方法。
【請求項3】
化学パルプの製造方法であって、前記二酸化塩素あるいは過酸化水素、過酢酸、過蟻酸等又は前記過酸化物の発生剤のいずれか一つによる蒸解工程と漂白工程の間に酸素脱リグニン化工程を設けるあるいは設けないことを含むリグノセルロース物質の化学パルプの製造方法。
【請求項4】
前記リグノセルロース物質が針葉樹、広葉樹等の木材あるいは藁、バガス、ケナフ、竹、靱皮繊維(楮、三椏等)等の非木材である、請求項1−3のいずれか一つに記載のリグノセルロース物質の化学パルプの製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2010−144273(P2010−144273A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−321709(P2008−321709)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(308038211)
【Fターム(参考)】