説明

リグノセルロース物質の蒸解方法

【課題】連続蒸解釜を用いて、針葉樹リグノセルロース物質の蒸解収率および蒸解性を向上する針葉樹リグノセルロース物質の蒸解方法の提供。
【解決手段】針葉樹リグノセルロース物質を浸透ゾーン(A)、蒸解ゾーン(B)を順に有し、蒸解ゾーンに少なくとも2つのストレーナーが設けられた蒸解装置で、該各ゾーン毎に、蒸解液を少なくとも1ヶ所添加し、かつ該ストレーナーから黒液を抽出する連続蒸解法であり、蒸解ゾーンの最高温度は165度未満であり、前記浸透ゾーンに、広葉樹リグノセルロース物質を蒸解して得られた黒液または蒸解抽出液を、対チップ10〜300質量%添加する針葉樹リグノセルロース物質の蒸解方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、針葉樹リグノセルロース物質の蒸解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リグノセルロース物質を製紙原料として多くの用途に使用するためには、蒸解処理して化学パルプとするか、あるいはリファイナー等を用いて機械的に処理して機械パルプとする必要がある。これらのパルプは、必要に応じて漂白処理され、所望の白色度に調整された後、製紙原料として使用される。現在、所望の白色度、パルプ特性に調整しやすいことから化学パルプ化法が主として用いられ、特にクラフト法と呼ばれる蒸解法は、薬品の再生が可能であり、使用原料の制限も少ない等の理由から化学パルプ化法の主流となっている。また、クラフト法は、装置の面でも発展してきており、連続蒸解釜と呼ばれる大量生産型でかつ大型のものが主流となっている。
【0003】
クラフト法の改良法としては、連続蒸解釜を用いたMCC法、EMCC法、ITC法、Lo−Solids法などが提案されている。MCC法は連続式蒸解釜への蒸解白液の添加を3分割し、一部を釜の中段や下段からチップと向流添加することで、蒸解工程の各段のアルカリ濃度を均一に保ち、過剰なアルカリによる木材中のセルロースの崩壊を抑制することでパルプ強度を向上する方法である。また、Lo−Solids法は黒液を抽出する工程と、抽出した黒液よりも溶解有機物の少ない液で液補充する工程を組み合わせることにより、蒸解工程を通して蒸解液中の溶解有機物を少なく保ち、均一な蒸解反応をなすことでパルプ強度を向上する方法である(特許文献1、2)。これらの改良法は何れもパルプ品質を改良する方法である。蒸解収率を向上させる方法としては、黒液を浸透ゾーンに戻し、蒸解のアルカリプロファイルを均一にし、低温長時間蒸解をする方法いわゆるCOMPACT COOKINGTM法、KOBUDOMARI法(特許文献3、4、5、非特許文献1)が知られているが、本方法では従来の蒸解法の蒸解収率を100とした場合、102〜103程度までしか向上できない。
【0004】
また、パルプ収率の向上を目指した、蒸解液の改善や脱リグニン助剤などの開発も進み、前者ではポリサルファイド蒸解法、後者ではキノン化合物の添加などが挙げられる。これらのうち、ポリサルファイド蒸解は、蒸解白液を酸化して硫化ナトリウムをポリサルファイド硫黄に変換したり、蒸解白液に直接硫黄を添加することにより、ヘミセルロースの末端基を酸化保護して高アルカリ性の蒸解白液へのヘミセルロース溶出を抑えるためパルプ収率が向上するとしている(非特許文献2)。また、黒液や緑液を利用して蒸解時の硫化ソーダ濃度を高めて脱リグニン性を促進する方法が提案されている。(特許文献6)一方、キノン化合物を添加するキノン蒸解では、キノン化合物がセルロースの末端基を酸化保護してセルロースの溶出を抑制し、パルプ収率が向上するとしている(特許文献7、8)。これらポリサルファイド蒸解とキノン蒸解を組合せた蒸解法も検討されている(特許文献9)が、いずれも蒸解収率の向上効果と比較して薬品コストが大きく、さほど普及が進んでいないのが現状である。
【0005】
前記COMPACT COOKINGTM法、KOBUDOMARI法をはじめ、蒸解黒液を利用する方法が提案されている。従来蒸解において広葉樹アルカリパルプ蒸解の黒液を針葉樹アルカリ蒸解に添加して蒸解することにより、パルプ収率を向上させる方法が提案されている(特許文献10)が、蒸解温度やアルカリ添加率が高く、ストレーナーからの黒液抽出を行なわない従来蒸解では、広葉樹黒液を添加した際の白色度低下が大きい上、パルプ収率も低く、広葉樹黒液を添加して蒸解収率を向上させても、本発明で用いられる連続蒸解法で蒸解した場合のパルプ収率と同等となるに過ぎない。また、同一の蒸解装置において、浸透ゾーンの抽出黒液と蒸解ゾーンの抽出黒液を一緒にして浸透ゾーン開始時に添加する方法が提案されている(特許文献11)が、この方法では蒸解を均一に行なえるために得られるパルプ品質が向上するが、蒸解収率を向上する効果はみられない。
【特許文献1】特表平8−511583号公報
【特許文献2】特表平10−504614号公報
【特許文献3】米国特許第6086717号公報
【特許文献4】米国特許第6123807号公報
【特許文献5】米国特許6159336号公報
【特許文献6】特願2008−48160号明細
【特許文献7】特開昭52−37803号公報
【特許文献8】特開昭53−45404号公報
【特許文献9】特開2002−115190号公報
【特許文献10】特許昭56−17474号公報
【特許文献11】特許3832373号公報
【非特許文献1】具延、「COMPACT COOKINGTM法及びKOBUDOMARI法の蒸解パルプの収率評価法」、平成15年度 紙パルプ技術協会 年次大会 講演予稿集、p49〜59
【非特許文献2】山口章、「工場チップのポリサルファイド蒸解」、紙パ技協誌、第33巻第8号、p1〜9
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、連続蒸解釜を用いて針葉樹リグノセルロース物質の蒸解収率および蒸解性を向上する方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、針葉樹リグノセルロース物質を浸透ゾーン、蒸解ゾーンを順に有する連続蒸解装置を用いて蒸解する方法において、蒸解収率を向上する方法について種々検討を重ねた結果、浸透ゾーンに広葉樹リグノセルロースパルプを蒸解して得られた黒液を添加することで、脱リグニンを大幅に促進でき、蒸解収率を大幅に増加できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本願発明は以下の発明を包含する。
(1)針葉樹リグノセルロース物質を浸透ゾーン(A)、蒸解ゾーン(B)を順に有し、蒸解ゾーンに少なくとも2つのストレーナーが設けられた蒸解装置で、前記各ゾーン毎に蒸解液を少なくとも1ヶ所添加し、かつ該ストレーナーから黒液を抽出する連続蒸解法であり、蒸解ゾーンの最高温度は165℃未満であり、前記浸透ゾーンに、広葉樹リグノセルロース物質を蒸解して得られた黒液または蒸解抽出液を対チップ10〜300質量%添加する針葉樹リグノセルロース物質の蒸解方法。
(2)前記蒸解装置に添加する蒸解白液の80質量%以上を該浸透ゾーンの頂部に添加する(1)記載のリグノセルロース物質の蒸解方法。
(3)前記蒸解ゾーンのストレーナーで抽出した黒液の一部を該浸透ゾーンに添加する(1)又は(2)のいずれかに記載のリグノセルロース物質の蒸解方法。
(4)前記浸透ゾーンに添加する黒液が、対チップ50〜200質量%である(1)〜(3)のいずれか1項に記載のリグノセルロース物質の蒸解方法。
(5)前記浸透ゾーンの液比が2〜4である(1)〜(4)のいずれか1項記載のリグノセルロース物質の蒸解方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明者によれば、浸透ゾーン、蒸解ゾーンを順に有する連続蒸解装置において、蒸解釜に少なくとも2つのストレーナーが設けられ、該ストレーナーからの抽出黒液を浸透ゾーンに添加する連続蒸解法において、針葉樹リグノセルロース物質を蒸解する際に、蒸解温度を165℃未満に保ちながら、広葉樹リグノセルロース物質を蒸解して得られる黒液を該浸透ゾーンに添加することで、脱リグニンを大幅に促進でき、蒸解収率を大幅に増加できる、リグノセルロース物質の蒸解方法を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明においては、例えば図1に示すように、上部から底部にかけて、浸透ゾーン(A)を有する浸透ベッセル、また、上部から底部にかけて、蒸解ゾーン(B)、洗浄ゾーン(C)を順に有する連続蒸解釜、好ましくは、さらに蒸解ゾーン(B)が上部蒸解ゾーン(B1)と中部蒸解ゾーン(B2)と下部蒸解ゾーン(B3)に別れた連続蒸解釜が用いられる。各々のゾーンは、ストレーナーにより区切られる。本発明においては、浸透ゾーンが連続蒸解釜上部に設置された1ベッセル蒸解装置においても好適に用いられる。例えば図1の場合には、リグノセルロース物質に蒸解液導入管2から蒸解白液が添加された後、浸透ゾーン(A)を出るまでの工程が浸透ゾーン、木釜の頂部からストレーナ−3までの工程が上部蒸解ゾーン、ストレーナー3からストレーナー4までの工程が中部蒸解ゾーン、ストレーナー4からストレーナー5までの工程が下部蒸解ゾーン、ストレーナー5からパルプが木釜から出るまでの工程が洗浄ゾーンである。本発明において、蒸解ゾーンの最高温度は165℃未満である。最高温度が165℃以上の場合には、蒸解中のヘミセルロース成分等の溶出によるパルプ収率の低下が大きい。
【0011】
本発明においては、必ず蒸解白液が洗浄ゾーンを除く、前記各ゾーンに1ヶ所以上添加される。例えば、図1の場合、蒸解白液は蒸解液導入管2によって浸透ゾーン、蒸解液導入管1によって蒸解ゾーンに分割添加される。蒸解白液の添加比率としては、浸透ゾーンへの添加比率が、全白液の50質量%以上である。浸透ゾーンへの添加比率がこれより少ない場合、浸透ゾーンでのアルカリが不足し、脱リグニンが進まなくなる。有効アルカリ添加率は総計で絶乾木材重量当たり10〜30質量%、好ましくは15〜25質量%である。本発明において、浸透ゾーンの白液添加比率が80質量%以上であることが好ましい。浸透ゾーンへの白液添加比率を高め、浸透ゾーンのアルカリ濃度を上げることで、チップへのアルカリ浸透が進み、続く蒸解ゾーンで脱リグニンが進みやすくなり、発明の効果がさらに大きくなる。
【0012】
本発明において、蒸解補助剤として公知のポリサルファイドや環状ケト化合物、例えばベンゾキノン、ナフトキノン、アントラキノン、アントロン、フェナントロキノン及び前記キノン系化合物のアルキル、アミノ等の核置換体、或いは前記キノン系化合物の還元型であるアントラヒドロキノンのようなヒドロキノン系化合物、さらにはディールスアルダー法によるアントラキノン合成法の中間体として得られる安定な化合物である9,10−ジケトヒドロアントラセン化合物等から選ばれた1種或いは2種以上が添加されてもよく、その添加率は通常の添加率であり、例えば、木材チップの絶乾重量当たり0.001〜1.5質量%である。また、その他使用できる蒸解助剤としては、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)等のキレート剤や、各種界面活性剤等が挙げられ、特に限定されるものではない。これらの蒸解助剤は、蒸解白液同様に分割添加することが可能であり、添加場所も限定されるものではない。
【0013】
本発明においては、針葉樹および広葉樹の両方を扱っているパルプ工場で容易に入手できる広葉樹の蒸解抽出液または蒸解黒液を、針葉樹を蒸解する際の浸透ゾーンに添加して蒸解する。装置上可能であれば、浸透ゾーンより前のスチーミングベッセルやチップビンに広葉樹蒸解黒液を添加することもできる。また、チップビン、スチーミングベッセル、浸透ゾーンが一体型の装置に対しても広葉樹黒液を添加することができる。蒸解法としては、クラフト蒸解法が好適であるが、公知のソーダ蒸解やソーダ−アントラキノン蒸解に対しても好適に用いることができる。
【0014】
本発明においては、広葉樹黒液を針葉樹に添加して蒸解することにより、広葉樹黒液に豊富に含まれるキシランが針葉樹パルプに吸着することでパルプ収率が大幅に増加し、かつ広葉樹黒液中のアルカリ分及び硫黄化合物が脱リグニンを促進すると考えられる。自己の針葉樹黒液を用いる場合には、黒液中のアルカリ分による脱リグニン効果は得られるが、硫黄化合物による脱リグニン効果が弱いため脱リグニンの促進は限定され、黒液中のキシラン含有量も低いためにパルプ収率の増加も限定される。
【0015】
本発明において、広葉樹の蒸解黒液を対チップ10〜300質量%、より好ましくは50〜200質量%添加して蒸解する。蒸解黒液の添加量が対チップ10質量%未満では、広葉樹黒液から供されるキシラン量が少ないため、浸透ゾーンおよび蒸解ゾーンにおいてキシラン濃度が低すぎてパルプに吸着できず、蒸解収率が増加しないために適さない。一方、広葉樹蒸解黒液の添加量が対チップ300質量%を超えると、浸透ゾーンにおけるアルカリ濃度が低くなり、蒸解性が悪化するために適さない。広葉樹蒸解黒液の添加量が50〜200質量%においては、浸透ゾーンにおけるキシラン濃度、アルカリ濃度ともに好適であり、蒸解収率および蒸解性共に大幅に向上するために好ましい。
【0016】
本発明において、浸透ゾーンにおける液比は2〜4が好ましい。液比を2未満にすると、原料に蒸解白液が十分に浸透しない場合がある上に、原料が釜内を沈降し難くなり不均一蒸解となるため適さない。一方、液比が4より大きくなると浸透ゾーンでのアルカリ濃度が低くなり、続く蒸解ゾーンで脱リグニンが進み難くなるために発明の効果が得難くなる。
【0017】
本発明の浸透ゾーンおよび蒸解ゾーンにおいては、向流蒸解および並流蒸解に関して、特に限定するものではなく、状況に応じて向流蒸解および並流蒸解が適宜選択される。例えば、蒸解ゾーンを上部蒸解ゾーンと下部蒸解に分けた場合には、向流蒸解+向流蒸解、向流蒸解+並流蒸解、並流蒸解+並流蒸解、並流蒸解+向流蒸解の4つの組み合わせが可能である。これらの選択は、原料となるリグノセルロース物質の性状や、操業性、経済性、パルプ品質等を考慮して行なわれる。本発明において、少なくとも1ヶ所以上のストレーナーから黒液が抽出される。広葉樹蒸解黒液を添加するとパルプの白色度が低下するという問題があるが、ストレーナーから黒液を抽出することで白色度低下を抑制することができる。
【0018】
本発明においては、エネルギー回収の観点から、広葉樹蒸解黒液に加えて自己の針葉樹黒液を蒸解ゾーンのストレーナーから抽出して浸透ゾーンに添加することが好ましい。蒸解に必要なエネルギーを効率的に回収できるので、蒸気使用量を削減することが可能である。
【0019】
本発明の洗浄ゾーンにおける条件は、特に限定されるものではないが、釜内での洗浄の効率化を考慮すると、向流洗浄とするのが好ましい実施形態である。
【0020】
本発明では、前記未漂白パルプは、洗浄、粗選及び精選工程を経て、公知のアルカリ酸素漂白法により脱リグニンすることもできる。本発明に使用されるアルカリ酸素漂白法は、公知の中濃度法或いは高濃度法がそのまま適用できるが、現在、汎用的に用いられているパルプ濃度が8〜15%で行われる中濃度法が好ましい。
【0021】
前記中濃度法によるアルカリ酸素漂白法において、アルカリとしては苛性ソーダあるいは酸化されたクラフト白液を使用することができ、酸素ガスとしては、深冷分離法からの酸素、PSA(Pressure Swing Adsorption)からの酸素、VSA(Vacuum Swing Adsorption)からの酸素等が使用できる。前記酸素ガスとアルカリは中濃度ミキサーにおいて中濃度のパルプスラリーに添加され、混合が十分に行われた後、加圧下でパルプ、酸素及びアルカリの混合物を一定時間保持できる反応塔へ送られ、脱リグニンされる。
【0022】
酸素ガスの添加率は、絶乾パルプ質量当たり0.5〜3質量%、アルカリ添加率は0.5〜4質量%、反応温度は80〜120℃、反応時間は15〜100分、パルプ濃度は8〜15%であり、この他の条件は公知のものが適用できる。本発明では、アルカリ酸素漂白工程において、上記アルカリ酸素漂白を連続して複数回行い、できる限り脱リグニンを進めるのが好ましい実施形態である。
【0023】
アルカリ酸素漂白が施されたパルプは次いで洗浄工程へ送られ、洗浄後、多段漂白工程へ送られ、多段漂白処理することもできる。
【0024】
本発明の多段漂白処理は、特に限定されるものではないが、二酸化塩素(D)、アルカリ(E)、酸素(O)、過酸化水素(P)、オゾン(Z)、過酸等の公知の漂白剤と漂白助剤を組み合わせるのが好適である。例えば、多段漂白処理の初段は二酸化塩素漂白段(D)やオゾン漂白段(Z)を用い、二段目にはアルカリ抽出段(E)や過酸化水素段(P)、三段目以降には、二酸化塩素や過酸化水素を用いた漂白シーケンスが好適に用いられる。三段目以降の段数も特に限定されるわけではないが、エネルギー効率、生産性等を考慮すると、合計で三段あるいは四段で終了するのが好適である。また、多段漂白処理中にエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)等によるキレート剤処理段を挿入してもよい。
【実施例】
【0025】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、もちろん本発明はこれによって何等制限されるものではない。また、特に示さない限り、パルプカッパー価の評価および蒸解収率の測定は以下の方法で行った。なお、実施例及び比較例における薬品の添加率は乾燥チップ質量当たりの質量%示す。
【0026】
1.カッパー価の測定
JIS P 8211に準じて行った。
【0027】
2.蒸解収率の測定
蒸解収率の測定は、下記の式より算出した。
蒸解収率(%)= 投入した絶乾チップ(g)/蒸解後の絶乾パルプ(g)×100
【0028】
実施例1
図1の1ベッセル蒸解釜を用い、ラジアータパインチップ絶乾500gに対し、有効アルカリとして20%、硫化度28%、液比2に相当する蒸解白液1リットルを図1の蒸解液導入管2から添加し、対チップ200質量%に相当する広葉樹蒸解黒液1リットルを黒液導入管3から浸透ゾーンに添加して蒸解をスタートさせた。なお、浸透ゾーンにおいては並流蒸解が行われ、浸透ゾーンにおけるチップの滞留時間は37分、温度は125℃であった。続く蒸解ゾーンは並流蒸解で行ない、チップの滞留時間257分、蒸解温度160℃であった。ストレーナー6,7から、黒液抽出管18,19を介して、チップ絶乾500gに対し2.5リットルの黒液を抽出し、フラッシュタンク16に送った。その後、洗浄ゾーンでは、洗浄ろ液導入管21および22を介して、希釈洗浄水として未晒パルプの洗浄濾液2.6リットルを釜底部から添加した。洗浄ゾーンにおけるチップの滞留時間は30分であった。
得られたパルプのカッパー価および蒸解収率を表1に示した。
【0029】
実施例2
実施例1において、有効アルカリとして17%、硫化度28%、液比2に相当する蒸解白液1リットルを添加した以外は実施例1と同様の操作を行なった。得られたパルプのカッパー価および蒸解収率を表1に示した。
【0030】
実施例3
実施例1において、有効アルカリとして20%、硫化度28%、液比3.5に相当する蒸解白液1.75リットルを添加し、浸透ゾーンに添加する広葉樹蒸解黒液を対チップ50質量%に相当する0.25リットルとした以外は実施例1と同様の操作を行なった。得られたパルプのカッパー価および蒸解収率を表1に示した。
【0031】
実施例4
実施例1において、有効アルカリとして20%、硫化度28%、液比3.9に相当する蒸解白液1.95リットルを添加し、浸透ゾーンに添加する広葉樹蒸解黒液を対チップ10質量%に相当する0.05リットルとした以外は実施例1と同様の操作を行なった。得られたパルプのカッパー価および蒸解収率を表1に示した。
【0032】
実施例5
実施例1において、有効アルカリとして20%、硫化度28%、液比2に相当する蒸解白液1リットルを添加し、浸透ゾーンに添加する広葉樹蒸解黒液を対チップ300質量%に相当する1.5リットルとした以外は実施例1と同様の操作を行なった。得られたパルプのカッパー価および蒸解収率を表1に示した。
【0033】
実施例6
実施例1において、広葉樹蒸解黒液の代わりに、広葉樹蒸解抽出液を添加した以外は実施例1と同様の操作を行った。得られたパルプのカッパー価及び蒸解収率を表1に示した。
【0034】
比較例1
実施例1において、有効アルカリとして20%、硫化度28%、液比4に相当する蒸解白液2リットルを添加し、黒液を添加しなかった以外は実施例1と同様の操作を行なった。得られたパルプのカッパー価および蒸解収率を表1に示した。
【0035】
比較例2
実施例1において、図1のストレーナー6より抽出した針葉樹抽出黒液を対チップ200質量%(1リットル)浸透ゾーンに添加した以外は実施例1と同様の操作を行なった。得られたパルプのカッパー価および蒸解収率を表1に示した。
【0036】
比較例3
実施例1において、有効アルカリとして20%、硫化度28%、液比3.95に相当する蒸解白液1.975リットルを添加し、浸透ゾーンに添加する広葉樹蒸解黒液を対チップ5質量%に相当する0.025リットルとした以外は実施例1と同様の操作を行なった。得られたパルプのカッパー価および蒸解収率を表1に示した。
【0037】
比較例4
実施例1において、有効アルカリとして20%、硫化度28%、液比2に相当する蒸解白液1リットルを添加し、浸透ゾーンに添加する広葉樹蒸解黒液を対チップ330質量%に相当する1.65リットルとした以外は実施例1と同様の操作を行なった。得られたパルプのカッパー価および蒸解収率を表1に示した。
【0038】
比較例5
実施例2において、蒸解温度を165℃とした以外は実施例1と同様の操作を行なった。得られたパルプのカッパー価および蒸解収率を表1に示した。
【0039】
【表1】

【0040】
表1の実施例1〜5と比較例1を比較することから明らかなように、浸透ゾーンに広葉樹黒液を添加することでパルプのカッパー価が大幅に低下し、蒸解収率も大きく増加したことがわかる。また、実施例1と比較例2を比較すると、自己の針葉樹黒液を浸透ゾーンに添加するよりも、広葉樹黒液を添加することでパルプカッパー価が大幅に低下し、蒸解収率も大きく増加したことがわかる。また、実施例2と比較例1を比較すると、広葉樹黒液を用いることで、同一カッパー価のパルプを得るために必要なアルカリ量を大きく削減でき、かつパルプ収率も大きく増加できることがわかる。一方、比較例1と比較例3、4を比較すると、広葉樹黒液の添加量が少なすぎるとカッパー価、蒸解収率とも変化がなく、逆に添加量が多すぎると蒸解収率は増加するもののカッパー価が増加してしまうことがわかる。また、比較例5と実施例2との比較により、蒸解温度が高いとカッパー価が低下することがわかる一方、実施例1との比較により、同一カッパー価の時の蒸解収率の低下が大きいことがわかる。
【0041】
また、実施例1〜3と実施例4、5を比較すると、広葉樹黒液の添加量が少ないと、カッパー価の低下や蒸解収率の増加幅が少なくなり、逆に広葉樹黒液の添加量が多いと、蒸解収率は増加するがカッパー価が下がりにくくなることがわかる。
一方、実施例1と実施例6を比較すると、広葉樹の蒸解黒液ではなく蒸解抽出液を添加する場合には、蒸解抽出液にはより高濃度のアルカリと低濃度のキシランが含まれるために、パルプのカッパー価が低下するが、収率増加効果が若干低くなることがわかる。
このように本発明は、大掛かりな設備改造を必要とせずに低カッパー価のパルプを高収率で得ることができ、かつ蒸解に必要なアルカリを削減でき、連続蒸解装置を用いたリグノセルロース物質の蒸解方法に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】連続蒸解釜
【符号の説明】
【0043】
1、2:白液導入管
3 :黒液導入管
A :浸透ゾーン
B :蒸解ゾーン
C :洗浄ゾーン
5〜7:ストレーナー
8〜11:ポンプ
12〜14:ヒーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
針葉樹リグノセルロース物質を浸透ゾーン(A)、蒸解ゾーン(B)を順に有し、蒸解ゾーンに少なくとも2つのストレーナーが設けられた蒸解装置で、前記各ゾーン毎に蒸解液を少なくとも1ヶ所添加し、かつ該ストレーナーから黒液を抽出する連続蒸解法であり、蒸解ゾーンの最高温度は165℃未満であり、前記浸透ゾーンに、広葉樹リグノセルロース物質を蒸解して得られた黒液または蒸解抽出液を対チップ10〜300質量%添加することを特徴とする針葉樹リグノセルロース物質の蒸解方法。
【請求項2】
前記蒸解装置に添加する蒸解白液の80質量%以上を該浸透ゾーンの頂部に添加することを特徴とする請求項1記載のリグノセルロース物質の蒸解方法。
【請求項3】
前記蒸解ゾーンのストレーナーで抽出した黒液の一部を該浸透ゾーンに添加することを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載のリグノセルロース物質の蒸解方法。
【請求項4】
前記浸透ゾーンに添加する黒液が、対チップ50〜200質量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のリグノセルロース物質の蒸解方法。
【請求項5】
前記透ゾーンの液比が2〜4であることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載のリグノセルロース物質の蒸解方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−144289(P2010−144289A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−323441(P2008−323441)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】