説明

リサイクルポリエステル含有ポリエステル構造体及びその製造方法

【課題】ケミカルリサイクル及びメカニカルリサイクルによる再生PETを利用することにより、環境性を具備しながら、満足する経済性及び外観特性を有するポリエステル容器を提供する。
【解決手段】ポリエステル構造体において、エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂から成る容器をケミカルリサイクルして成るケミカルリサイクルポリエステル樹脂と、エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂から成る容器をメカニカルリサイクルしてなるメカニカルリサイクルポリエステル樹脂とをブレンドして成るブレンド物を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレンテレフタレートから成るボトルを再生して成るリサイクルポリエステルを含有するポリエステル構造体に関するものであり、より詳細には、ケミカルリサイクルによる再生ポリエステル及びメカニカルリサイクルによる再生ポリエステルの両方を含有するポリエステル構造体及びプリフォームの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル製ボトル(以下、「PETボトル」という)の消費は近年増大しており、使用済みPETボトルの再利用を図るべく、種々のリサイクル方法が確立されている。
PETボトルのリサイクル方法としては、一般に回収されたPETボトルを粉砕、アルカリ洗浄して繊維等に再利用するマテリアルリサイクルが主流であるが、マテリアルリサイクルによる再生PETを飲食用途のPETボトルに再利用する場合は、衛生性の問題から再生PETが直接飲食品に触れないことが必要であり、多層構成の中間層或いは外層として用いなければならないという制約があると共に、マテリアルリサイクルによる再生PETは、熱履歴が重なるため黄色味が強く、外観が重視されるPETボトルにおいては、エコマークを取得可能な25%以上の利用は困難である。
【0003】
またPETボトルの他のリサイクル方法としては、ケミカルリサイクル(化学分解法)及びメカニカルリサイクルが知られている。
ケミカルリサイクルは、回収されたPETボトルを化学分解して、原料レベルに差し戻してポリエチレンテレフタレートを再合成するものであり(特許文献1,2)、バージンPETと変わらないPETを再生することが可能であるが、バージンPETを生成するよりもコストがかかるという問題がある。
【0004】
一方、メカニカルリサイクルは、上述したマテリアルリサイクルにおけるアルカリ洗浄をより厳密に行うこと、或いは高温で真空乾燥すること等によって、マテリアルリサイクルよりもPETの汚れを確実に取り除くことを可能にした手法である(特許文献3,4)。このメカニカルリサイクルによる再生PETは、欧米では既に飲食品と直接触れる用途への使用が認められており、今後日本においてもかかる用途への利用の拡大が予想されるものであるが、マテリアルリサイクルと同様再生PETは黄色味が強いという問題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−53802号公報
【特許文献2】特開2002−166420号公報
【特許文献3】特開2003−523295号公報
【特許文献4】特開2007−531642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、ケミカルリサイクル或いはメカニカルリサイクルによる再生PETは、それ単独で飲食品用途への利用が可能であるという利点を有する一方、再生に要するコストや再生PETの色味等の問題で、大量生産されると共に外観特性が要求されるPETボトルに利用することは困難である。
従って本発明の目的は、ケミカルリサイクル及びメカニカルリサイクルによる再生PETを利用することにより、環境性を具備しながら、満足する経済性及び外観特性を有するポリエステル容器を提供することである。
本発明の他の目的は、ケミカルリサイクル及びメカニカルリサイクルによる再生PETから成るポリエステル容器を安定して供給可能なポリエステル容器の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂から成る容器をケミカルリサイクルして成るケミカルリサイクルポリエステル樹脂から成る層と、エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂から成る容器をメカニカルリサイクルしてなるメカニカルリサイクルポリエステル樹脂から成る層を有することを特徴とするポリエステル構造体が提供される。
本発明によればまた、エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂から成る容器をケミカルリサイクルして成るケミカルリサイクルポリエステル樹脂と、エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂から成る容器をメカニカルリサイクルしてなるメカニカルリサイクルポリエステル樹脂とをブレンドして成るブレンド物を含有することを特徴とするポリエステル構造体が提供される。
【0008】
本発明のポリエステル構造体においては、
1.前記ケミカルリサイクルポリエステル樹脂とメカニカルリサイクルポリエステル樹脂のブレンド比が、99:1乃至50:50(重量比)の範囲にあり、前記ブレンド物が、25重量%以上の量で含有されていること、
2.前記ブレンド物から成る層と、バージンのエチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂又はケミカルリサイクルポリエステル樹脂から成る層を有すること、
3.カラーb値が+2乃至−10の範囲に調整された、バージンのエチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂又はケミカルリサイクルポリエステル樹脂を含有すること、
4.Ge、Sb、Ti、Alから成る金属化合物群のうち、少なくとも二種以上の金属化合物を含有すること、
が好適である。
【0009】
本発明によれば更に、エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂から成る容器をケミカルリサイクルして成るケミカルリサイクルポリエステル樹脂を製造する製造工程と、エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂から成る容器をメカニカルリサイクルしてなるメカニカルリサイクルポリエステル樹脂を製造する製造工程と、前記ケミカルリサイクルポリエステル樹脂とメカニカルリサイクルポリエステル樹脂をブレンドしてプリフォームを製造する製造工程から成るプリフォームの製造方法であって、前記ケミカルリサイクルポリエステル樹脂とメカニカルリサイクルポリエステル樹脂のブレンド比が99:1乃50:50(重量比)の範囲にあり、ケミカルリサイクルポリエステル樹脂とメカニカルリサイクルポリエステル樹脂から成るリサイクルポリエステル樹脂を25重量%以上の量で含有するプリフォームを製造することを特徴とするプリフォームの製造方法が提供される。
本発明のプリフォームの製造方法においては、
1.カラーb値が+2乃至−10の範囲に調整された、バージンのエチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂又はケミカルリサイクルポリエステル樹脂を配合して、プリフォームのカラーb値を+2乃至−2の範囲にすること、
2.エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂から成る容器の回収量に応じたケミカルリサイクルポリエステル樹脂の供給量を基準に、前記メカニカルリサイクルポリエステル樹脂の配合量を変化させること、
が好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリエステル構造体によれば、エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂から成る容器をケミカルリサイクルして成るケミカルリサイクルポリエステル樹脂(以下、「ケミカルリサイクルによる再生PET」という)及びエチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂から成る容器をメカニカルサイクルして成るメカニカルリサイクルポリエステル樹脂(以下、「メカニカルリサイクルによる再生PET」という)を用いて成形されていることにより、環境負荷の低減に貢献することができると共に、飲食品に直接使用することも可能である。
またケミカルリサイクル及びメカニカルリサイクルによる再生PETを組み合わせで用いることにより、上述したように、それぞれが有する利点及び欠点を互いに補うことができ、経済性及び外観特性に優れた再生PETから成る構造体を提供することが可能となる。
更に、カラーb値が調整されたケミカルリサイクルによる再生PET或いはバージンポリエステルを、メカニカルリサイクルによる再生PETと組み合わせることによって、メカニカルリサイクルによる再生PETが有する黄色味を調整することが可能になり、外観特性に優れた容器を製造することが可能になる。
また本発明のプリフォームの製造方法によれば、ケミカルリサイクル及びメカニカルリサイクルのそれぞれによって再生されたPETを所定量比でブレンドしてプリフォームを成形することにより、環境性に優れると共に、飲食品用途に使用可能なプリフォームを製造することが可能になる。
【0011】
更に、メカニカルリサイクルに比して安定して再生PETの供給が可能なケミカルリサイクルよる再生PETの供給量を基準に、メカニカルリサイクルによる再生PETの配合量を変化させることにより、バージンPETから成るものと同程度の品質を有すると共に環境性に優れたプリフォームを、効率よく安定して製造することができる。
また、ある製品について原料の採掘から製造、消費、廃棄処分までの工程に投入されるエネルギー消費或いは排出されるCOを合計して環境負荷を評価するライフサイクル分析(LCA)を考慮した場合、メカニカルリサイクルによる再生PETのインベントリ(LCI)は、ケミカルリサイクルによる再生PET或いはバージンのPETのLCIよりも小さく、ケミカルリサイクルによる再生PETはバージンのPETのLCIよりも小さいことから、メカニカルリサイクルによる再生PETを配合することによって、ケミカルリサイクルによる再生PET及びバージンPETから成るプリフォームよりも環境負荷の少ないポリエステル構造体を提供することができる共に、メカニカルリサイクルによる再生PETの欠点がケミカルリサイクルによる再生PETで補われ、外観特性にも優れたプリフォームやボトル等のポリステル構造体を提供することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(ポリエステル樹脂)
回収PETのケミカルリサイクルの方法としては、前述したように種々の方法が提案されているが、例えば上記特許文献1の場合、(i)回収PETを粉砕、洗浄、異物分別等を行った後、フレーク又はペレット状にする前処理工程、(ii)前処理で得られたフレーク又はペレットを、エチレングリコールを用いて解重合して、ビス−β−ヒドロキシエチルテレフタレート(BHET)を得る解重合工程、(iii)PET以外のプラスチック成分を除去する異物除去工程、(iv)得られたBHETを濃縮するBHET濃縮工程、(iv)BHETを原料とするPET生成工程、から成っており、原料レベルまで解重合することにより蒸留、濾過などの高度な精製手法が採用できることから、かかるケミカルリサイクルによる再生PETは、バージンPETと同様の性質を有している。
【0013】
一方、回収PETのメカニカルリサイクルの方法においても種々の方法が提案されているが、基本的には、回収PETを粉砕、洗浄、異物分別等を行った後、フレーク又はペレット状にする所謂マテリアルリサイクルによる再生PETを、熱、真空脱気、清浄ガス等の種々の手段で更に厳密且つ高度に洗浄を行うことにより、PETの汚れを確実に取り除く方法である。
また、回収PETの固有粘度はバージンのPETに比して低いため、前述の洗浄工程を兼ねて、あるいは洗浄工程と併用して固相重合に相当する加熱処理、ベント付多軸押出機を用いた溶融処理などを行い、バージンPETと同等の固有粘度まで回復させる工程を有することがある。
いずれの手法にせよ、メカニカルリサイクルによる再生PETは、熱履歴を経ているため、黄色味が強く、多くの場合はカラーb値が+3.0以上であり、+5を上回るものもある。
また、バージンのPETを製造した際に使用された触媒をそのまま含有していることから、PET樹脂の製造に一般的に用いられるGe、Sb、Ti、Alを含有する金属化合物を複数種含有している。
【0014】
本発明においては、従来公知のすべてのケミカルリサイクル法及びメカニカルリサイクル法によって得られた、ケミカルリサイクルによる再生PET及びメカニカルリサイクルによる再生PETを使用することができる。
これらの再生PETは、プリフォーム及びボトルを成形性よく成形し得るよう、重量比1:1のフェノール/テトラクロロエタン混合溶媒を用い、30℃にて測定した固有粘度が、0.60乃至1.40dL/gの範囲にあることが好ましい。また融点が200乃至275℃の範囲にあること、ガラス転移温度が30℃以上、特に50乃至120℃の範囲にあることが好ましい。
【0015】
また上記再生PETと組合せで用いられるバージンのPETとしては、従来包装容器の分野で用いられているエチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂を使用することができ、ジカルボン酸成分の50%以上、特に80%がテレフタル酸であり、ジオール成分の50%以上、特に80%以上がエチレングリコールであるポリエステル樹脂を好適に用いることができる。
上記バージンPETにおいて、テレフタル酸以外のカルボン酸成分としては、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、p−β−オキシエトキシ安息香酸、ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェノキシエタン−4,4’−ジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、アジピン酸、セバシン酸等を挙げることができる。エチレングリコール以外のジオール成分としては、1,4−ブタンジオール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6−へキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、グリセロール、トリメチロールプロパン等を挙げることができる。
かかるバージンPETも、再生PETと同様の範囲の固有粘度、融点、ガラス転移温度を有していることが好ましい。
【0016】
本発明において、上記ケミカルリサイクルによる再生PET及びメカニカルリサイクルによる再生PETをブレンドして用いるブレンド物は、ケミカルリサイクルによる再生PET及びメカニカルリサイクルによる再生PETを、99:1乃至50:50、特に95:5乃至50:50のブレンド比(重量比)で用いることが好適である。バージンPETと同様の性質を有するケミカルリサイクルによる再生PETをメカニカルリサイクルによる再生PETと等量以上の量で用いることにより、バージンPETにより得られたプリフォームやボトル等のポリエステル構造体に近似した性質を有することが可能になると共に、メカニカルリサイクルによる再生PETに特有の黄色味を低減させることが可能になる。また、メカニカルリサイクルによる再生PETのブレンド比率は、ポリエステル構造体全体の40重量%程度までとするのが好ましい。
上記ケミカルリサイクルによる再生PET及びメカニカルリサイクルによる再生PETのブレンド物は、ドライブレンド又はメルトブレンドの何れによって混合されていてもよい。
【0017】
本発明においては、上記メカニカルリサイクルによる再生PETが、Lab表色系で表されるカラーb値で+3以上の黄色味を有している場合に、かかるメカニカルリサイクルによる再生PETと組合せで使用されるケミカルリサイクルによる再生PET及びバージンPETとして、黄色と補色の関係にある青(紫)味を付与するために、カラーb値が+2乃至−10の範囲に調整されたものを使用し、ケミカルリサイクルによる再生PETとメカニカルリサイクルによる再生PETの多層構造体及びブレンド物のカラーb値が+2乃至−2の範囲にすることができる。
これにより、メカニカルリサイクルによる再生PETが有する黄色味が目立たなくなり、ポリエステル構造体の外観特性を向上させることが可能となる。
ケミカルリサイクルによる再生PET及びバージンPETの色味を上記範囲に調整するには、従来公知の青色系の染料及び顔料を配合することにより調整することができ、その配合量は、使用するメカニカルリサイクルによる再生PETの黄色味の程度、及び多層構造においては層厚み比又ブレンド物においてはブレンド比等によって異なり、一概に規定することはできないが、ポリエステル構造体の全樹脂量の0.1乃至50ppm程度であることが好適である。
【0018】
(ポリエステル構造体)
本発明のポリエステル構造体は、上記再生PETを組合せで用いることが重要な特徴であり、少なくとも、これらの再生PETから成るそれぞれの層の両方を有するか、或いはこれらの再生PETをブレンドして成るブレンド物から成る層を有するものである。
また本発明のポリエステル構造体においては、ポリエステル構造体中に含まれるケミカルリサイクルによる再生PETをメカニカルリサイクルによる再生PETの合計量が、全使用樹脂の25重量%以上含有することが、環境負荷の低減という点で好ましい。
尚、本発明のポリエステル構造体は、前述した通り、メカニカルリサイクルによる再生PETが回収PETを生成したときに用いた金属触媒を含んでいることから、ケミカルリサイクルによる再生PETの金属触媒、更にはバージンPETの金属触媒が含有されていることから、Ge、Sb、Ti、Alから成る金属化合物群のうち、少なくとも二種以上を含有するものである。
【0019】
本発明のポリエステル構造体においては、上述したように、ケミカルリサイクルによる再生PETから成る層及びメカニカルリサイクルによる再生PETから成る層の両方を有するか、或いはケミカルリサイクルによる再生PET及びメカニカルリサイクルによる再生PETのブレンド物から成る層を有する限り、種々の層構成を採用することができる。
以下に、層構成の一例を示す。尚、ケミカルリサイクルによる再生PETから成る層を「CR」、メカニカルリサイクルによる再生PETから成る層を「MR」、これらのブレンド物から成る層を「BL」、バージンのPETから成る層を「V」と表記する。
内層から外層に向かって、CR/MR、CR/MR/CR、V/MR/CR、V/CR/MR/V、BL、V/BL、V/BL/V、CR/BL、CR/BL/CR等を例示できる。
上記ケミカルリサイクルによる再生PETから成る層及びメカニカルリサイクルによる再生PETから成る層を有するポリエステル構造体においては、99:1乃50:50の厚み比で用いることが好適である。
尚、前述した通り、メカニカルリサイクルによる再生PETは、欧米やオーストラリア等では既に食品に直接触れる使用も認められていて、多層構造によらずとも上記ブレンドの単層構造とすることもできるが、ケミカルリサイクルによる再生PET、或いはバージンPETを使用する場合には、これらを内面側にすることにより上記以外の国においても、飲食品用途に適用可能なポリエステル構造体として用いることができる。
【0020】
本発明のポリエステル構造体は、リサイクルによるボトルtoボトルという観点からは、プリフォーム及びこのプリフォームを二軸延伸ブロー成形して得られるボトルであることが特に好適である。
ボトルを成形するためのプリフォームの製造は、押出成形、射出成形、圧縮成形等のそれ自体公知の成形法で行うことができ、多層プリフォームの場合は、共押出成形法、同時射出成形法、逐次射出法、圧縮成形法等で製造することができる。
尚、メカニカルリサイクルによる再生PETにおいては、バージンPETに比して、既に固有粘度の低下が生じていたり、また水分の吸着及び吸収も生じている場合があるため、プリフォームの製造に利用する際には固有粘度の低下が生じやすい状態となっていることから、メカニカルリサイクルによる再生PETの含有量が多い場合には、ベント付多軸押出機で可塑化を行い、固有粘度の実質上の低下を抑制することが望ましい。
本発明のポリエステルボトルは、上記プリフォームを105℃以上の高温に加熱して、このプリフォームを軸方向に引っ張り延伸すると共に周方向にブロー延伸し、必要により熱固定することにより製造することができる。
多層プリフォームの成形とその延伸ブロー成形とは、上記の通りコールドパリソン方式で実施することが好ましいが、形成される多層プリフォームを完全に冷却しないで延伸ブロー成形を行うホットパリソン方式にも適用できる。
【0021】
延伸ブロー成形に先立って、プリフォームを熱風、赤外線ヒーター、高周波誘導加熱等の手段で延伸温度まで予備加熱し、この加熱されたプリフォームを、それ自体公知の延伸ブロー成形機中に供給し、金型内にセットして、延伸棒の押し込みにより軸方向に引張延伸すると共に、流体の吹き込みにより周方向に延伸する。
最終製品であるポリエステルボトルにおける延伸倍率は、面積倍率で1.5乃至25倍、軸方向延伸倍率で1.2乃至6倍、周方向延伸倍率で1.2乃至4.5倍の範囲にあることが好ましい。延伸ブロー成形されたボトルは、それ自体公知の手段で熱固定することもできる。熱固定は、ワンモールド法で、ブロー成形金型中で行うこともできるし、また、ツーモールド法で、ブロー成形金型とは別個の熱固定用金型で行うこともできる。
他の延伸ブロー成形としては、本願の出願人に係る特許第2917851号公報に例示されるように、プリフォームを、一次ブロー金型を用いて最終ブロー成形体よりも大きい寸法の一次ブロー成形体とし、次いで、この一次ブロー成形体を加熱収縮させた後、二次ブロー金型を用いて二軸延伸ブロー成形を行って最終ブロー成形体とする二段延伸ブロー成形が挙げられる。この延伸ブロー成形によれば、底部が十分に延伸薄肉化され、熱間充填、加熱滅菌時の底部の変形、耐衝撃性に優れたブロー成形体を得ることができる。
【0022】
本発明のプリフォームを製造するに際して、ケミカルリサイクルによる再生PETとメカニカルリサイクルによる再生PETの使用量は、ケミカルリサイクルによる再生PETの供給量を基準に、メカニカルリサイクルによる再生PETの供給量を決定することが望ましい。
すなわち、ケミカルリサイクル法においては、回収PETからPETの原料であるBHETを生成し、かかるBHETを用いてPETを生成することから、回収PETの種類、品質や回収量に左右されることなく、安定して供給することが可能である。これに対して、メカニカルリサイクル法では、回収PETをマテリアルリサイクルして成るフレーク又はペレットを高度に洗浄して再生したものであり、その供給量は回収PETの量に依存するが、季節的な変動或いは海外からの需要等によって回収PETの種類、品質や回収量は必ずしも一定でなく、ケミカルリサイクルによる再生PETに比して安定供給が確実でないおそれがある。このため、本発明のプリフォームの製造方法においては、ケミカルリサイクルによる再生PETを、再生PETの50重量%以上の量で使用し、メカニカルリサイクルによる再生PETを補助的に使用することにより、プリフォームを安定して供給することができると共に、得られるプリフォームの色味も、メカニカルリサイクルによる再生PETの影響を可及的に低減し、外観特性に優れたプリフォームを提供することが可能になる。
【0023】
本発明のポリエステル構造体は、上述したように、プリフォーム及びボトルであることが特に好適であるが、勿論、シート、フィルム、カップ、トレイ等の形状の構造体であってもよい。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
各評価は、食品に直接触れる使用が認められた状況を想定して、メカニカルリサイクルによる再生PETの最も好適な利用形態であるブレンドの単層構成で行った。
多層プリフォームとした場合でも、プリフォームの全体重量に対して適切なブレンド比となるように調整すれば、同様の結果が得られることが期待できる。
【0025】
(バージンPET)
新光合繊社製PETボトル用樹脂5015Wを入手し、バージンPET材料1として使用した。材料の固有粘度は0.83であり、ハンター色差計によるカラーb値は−0.8であり、金属含有量はアンチモン(Sb)元素換算で180ppmであった。
また、日本ユニペット社製PETボトル用樹脂RT−543CTを入手し、色味の異なるバージンPET材料2として使用した。材料の固有粘度は0.77であり、カラーb値は+1.0であり、金属含有量はゲルマニウム(Ge)元素換算で45ppmであった。
【0026】
(ケミカルリサイクルによる再生PET)
ペットリファインテクノロジー社製PETボトル用樹脂KP−123を入手し、ケミカルリサイクルによる再生PET材料として使用した。材料の固有粘度は0.82であり、カラーb値は−3.0であり、金属含有量はアンチモン(Sb)元素換算で230ppmであった。
【0027】
(メカニカルリサイクルによる再生PET)
日本国内にて回収された廃PETボトルを原料とした粉砕フレークを用い、苛性ソーダを含む洗浄液にて85℃で30分間処理を行った後、リン酸水溶液を添加して中和処理を行い、さらに純水を使用して残留薬剤を除去したうえで、成形温度285℃に設定されたベント式揮発物除去装置を備えた二軸押出機を用いてペレット化した。得られたペレットを予備結晶化した後に、窒素気流下200℃に設定された固相重合装置にて4時間処理したものを、メカニカルリサイクルに相当する再生PET材料TEST−Aとして使用した。材料の固有粘度は0.83であり、カラーb値は+8.5であり、金属含有量はアンチモン(Sb)元素換算で100ppm、ゲルマニウム(Ge)元素換算で24ppm、チタン(Ti)元素換算で2ppmであった。
【0028】
1.[固有粘度の測定]
ポリエステル樹脂またはプリフォームを約3g凍結粉砕して140℃15分間乾燥した後、0.20g計量し、1,1,2,2−テトラクロロエタン/フェノール(1/1)(重量比)の混合溶媒を20ml用いて120℃で15分間撹拌して完全に溶解して室温まで冷却した後グラスフィルターを通して試料とする。ブレンド後に関しては、成形時と同じ重量比でポリエステル樹脂を混合した後、凍結粉砕した。25℃に温調されたウベローデ粘度計((株)離合社製)を用いて試料および溶媒の落下時間を計測し、次式により固有粘度[η]を求めた。
[η]=(−1+√(1+4K’ηSp))/2K’C
ηSp=(τ−τ)τ
ここで、
[η]:固有粘度(dl/g)
ηSp:比粘度(−)
K’:ハギンスの恒数(=0.33)
C:濃度(=1g/dl)
τ:試料の落下時間(sec)
τ:溶媒の落下時間(sec)
【0029】
2.[色相の測定]
ポリエステル樹脂またはプリフォームの色相について、日本電色工業製ハンター色差計SE−2000を用いて測定した。色相であるカラーb値は、値が大きくなると黄色みが強く感じられ外観を損ねる。黄色みの低い順列に従って、+1.5以下を○、+1.5を越えて+2.0以下を△、+2.0を上回るものを×の評価を行った。
カラーb値のマイナス側は特に制限はないが、−5を下回るとやや青味がかった印象となる。好適には−2.0以上が好ましい。
【0030】
3.[ヘーズの測定]
ボトルのヘーズについて、胴部の平坦な部分に対して厚み方向のヘーズを、日本電色工業製ヘーズメーターNDP−1001DPを用いて測定した。ヘーズが低いものが透明性に優れた良好な外観であり、5以下を良品と判断した。
【0031】
4.[金属含有量の測定]
ポリエステル樹脂またはプリフォーム中に含まれる金属成分の含有量について、バリアン社製ICP発光分光分析装置720ESを用いて測定した。
なお、今回の評価の範囲ではAlは検出されなかったため、表1から除外した。
【0032】
5.[プリフォーム成形]
150℃で4時間乾燥したポリエステル樹脂をホッパーへ供給し、成形温度としてバレルの設定温度が280℃に設定された射出成形機を用いて26gの500mlボトル用プリフォームを作成した。このとき金型温度は15℃に設定し、成形サイクルを33秒とした。
【0033】
6.[ボトル成形]
前記のプリフォームを赤外線加熱で18秒間加熱し、105℃の延伸温度に達した後ブロー金型内に挿入した。ブロー金型内に設置されたプリフォームを、ストレッチロッドにより縦方向延伸すると共にエアブローにより横方向延伸することで内容量500mlの二軸延伸ボトルを成形した。この時、ブローエアーは28℃に調整し、プレブロー圧は0.9MPa、メインブロー圧は3.7MPaに設定した。また、金型温度は60℃に設定した。胴部の平均肉厚は約0.3mmであった。
【0034】
7.[リサイクル性]
再生PETを25%以上使用することで、エコマークを取得することが可能となるため、環境負荷低減の観点からのリサイクル性評価として、再生PETを25%以上使用しているポリエステル構造体について○、それ以下は×とした。
【0035】
(実施例1)
メカニカルリサイクルによる再生PET材料TEST−Aと、ケミカルリサイクルによる再生PET材料KP−123とを25:75の重量比でブレンドし、プリフォームを成形した。得られたプリフォームおよびこのプリフォームから成形したボトルの評価結果を表1に示す。
【0036】
(実施例2)
TEST−AとKP−123とのブレンド比を重量比で15:85とした以外は実施例1と同様にプリフォームを成形した。得られたプリフォームおよびボトルの評価結果を表1に示す。
【0037】
(実施例3)
TEST−AとKP−123とのブレンド比を重量比で40:60とした以外は実施例1と同様にプリフォームを成形した。得られたプリフォームおよびボトルの評価結果を表1に示す。
【0038】
(実施例4)
バージンPET材料1の5015Wと、メカニカルリサイクルによる再生PET材料TEST−Aと、ケミカルリサイクルによる再生PET材料KP−123とを50:15:35の重量比でブレンドし、プリフォームを成形した。得られたプリフォームおよびこのプリフォームから成形したボトルの評価結果を表1に示す。
【0039】
(実施例5)
5015WとTEST−AとKP−123とのブレンド比を重量比で50:25:25とした以外は実施例4と同様にプリフォームを成形した。得られたプリフォームおよびボトルの評価結果を表1に示す。
【0040】
(実施例6)
5015WとTEST−AとKP−123とのブレンド比を重量比で25:25:50とした以外は実施例4と同様にプリフォームを成形した。得られたプリフォームおよびボトルの評価結果を表1に示す。
【0041】
(実施例7)
バージンPET材料2のRT−543CTと、メカニカルリサイクルによる再生PET材料TEST−Aと、ケミカルリサイクルによる再生PET材料KP−123とを50:15:35の重量比でブレンドし、プリフォームを成形した。得られたプリフォームおよびこのプリフォームから成形したボトルの評価結果を表1に示す。
各材料のブレンド比は実施例4と同様であり、バージンPET材料の色味の変更により、プリフォームの色調が調整しうることが示された。
【0042】
(比較例1)
バージンPET材料1の5015Wのみを用いて、プリフォームを成形した。得られたプリフォームおよびこのプリフォームから成形したボトルの評価結果を表1に示す。
いうまでもなく容器としての性能は何ら問題ないが、本願で課題とするリサイクル性において不適当である。
【0043】
(比較例2)
5015Wと、メカニカルリサイクルによる再生PET材料TEST−Aとを75:25の重量比でブレンドし、プリフォームを成形した。得られたプリフォームおよびこのプリフォームから成形したボトルの評価結果を表1に示す。
色味は許容範囲であるが、ヘーズが高く、不適当であった。
【0044】
(比較例3)
5015WとTEST−Aとのブレンド比を重量比で85:15とした以外は比較例2と同様にプリフォームを成形した。得られたプリフォームおよびボトルの評価結果を表1に示す。
容器性能は問題なかったが、リサイクル性が満足されない。
【0045】
(比較例4)
5015WとTEST−Aとのブレンド比を重量比で50:50とした以外は比較例2と同様にプリフォームを成形した。得られたプリフォームおよびボトルの評価結果を表1に示す。
色味が許容範囲を超え、不適当であった。
【0046】
(参考例)
ケミカルリサイクルによる再生PET材料KP−123のみを用いて、プリフォームを成形した。得られたプリフォームおよびこのプリフォームから成形したボトルの評価結果を表1に示す。
前述の通り、バージンPET材料と同等に扱えるので容器性能は問題なく、エコマークも取得できるが、主にコストの面で広範な採用には課題がある。
【0047】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のポリエステル構造体は、特にプリフォーム及びボトルとして有用に使用でき、飲食品用途にも使用することができる。
また環境負荷が低減されており、使用樹脂の25%以上の量で再生PETを使用することによりエコマークを取得することができ、環境性を重視する商品の容器として有効に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂から成る容器をケミカルリサイクルして成るケミカルリサイクルポリエステル樹脂から成る層と、エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂から成る容器をメカニカルリサイクルしてなるメカニカルリサイクルポリエステル樹脂から成る層を有することを特徴とするポリエステル構造体。
【請求項2】
エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂から成る容器をケミカルリサイクルして成るケミカルリサイクルポリエステル樹脂と、エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂から成る容器をメカニカルリサイクルしてなるメカニカルリサイクルポリエステル樹脂とをブレンドして成るブレンド物を含有することを特徴とするポリエステル構造体。
【請求項3】
前記ケミカルリサイクルポリエステル樹脂とメカニカルリサイクルポリエステル樹脂のブレンド比が、99:1乃至50:50(重量比)の範囲にあり、前記ブレンド物が、25重量%以上の量で含有されている請求項2記載のポリエステル構造体。
【請求項4】
前記ブレンド物から成る層と、バージンのエチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂又はケミカルリサイクルポリエステル樹脂から成る層を有する請求項2又は3記載のポリエステル構造体。
【請求項5】
カラーb値が+2乃至−10の範囲に調整された、バージンのエチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂又はケミカルリサイクルポリエステル樹脂を含有する請求項1乃至4の何れかに記載のポリエステル構造体。
【請求項6】
Ge、Sb、Ti、Alから成る金属化合物群のうち、少なくとも二種以上の金属化合物を含有することを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載のポリエステル構造体。
【請求項7】
エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂から成る容器をケミカルリサイクルして成るケミカルリサイクルポリエステル樹脂を製造する製造工程と、エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂から成る容器をメカニカルリサイクルしてなるメカニカルリサイクルポリエステル樹脂を製造する製造工程と、前記ケミカルリサイクルポリエステル樹脂とメカニカルリサイクルポリエステル樹脂をブレンドしてプリフォームを製造する製造工程から成るプリフォームの製造方法であって、
前記ケミカルリサイクルポリエステル樹脂とメカニカルリサイクルポリエステル樹脂のブレンド比が99:1乃50:50(重量比)の範囲にあり、ケミカルリサイクルポリエステル樹脂とメカニカルリサイクルポリエステル樹脂から成るリサイクルポリエステル樹脂を25重量%以上の量で含有するプリフォームを製造することを特徴とするプリフォームの製造方法。
【請求項8】
カラーb値が+2乃至−10の範囲に調整された、バージンのエチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂又はケミカルリサイクルポリエステル樹脂を配合して、プリフォームのカラーb値を+2乃至−2の範囲にする請求項7記載のプリフォームの製造方法。
【請求項9】
前記エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂から成る容器の回収量に応じたケミカルリサイクルポリエステル樹脂の供給量を基準に、前記メカニカルリサイクルポリエステル樹脂の配合量を変化させる請求項7又は8記載のプリフォームの製造方法。

【公開番号】特開2011−256328(P2011−256328A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133794(P2010−133794)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】