説明

リソグラフィー装置、それを用いたデバイスの製造方法

【課題】外乱音波による振動の影響を抑えるのに有利なリソグラフィー装置を提供する。
【解決手段】リソグラフィー装置1は、基板6上にパターンを形成するためのパターニング手段5と、パターニング手段5を支持する支持構造体11とを備える。さらに、このリソグラフィー装置1は、支持構造体11と、基板6を保持し移動可能とする基板保持部7を載置する定盤10とに囲まれた第1領域R1に温度調節された気体を放出する第1吹き出し口17を、支持構造体11に対して第1領域R1の側に含む空調装置15と、支持構造体11を基準として第1領域R1とは反対側に存在する第2領域R2にて、第1吹き出し口17から発生する第1音波S1と同位相である第2音波S2を発生させる音波発生部21とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リソグラフィー装置、およびそれを用いたデバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスや液晶表示装置などの製造工程に含まれるリソグラフィー工程では、露光装置などのリソグラフィー装置により基板上に所望のパターンが形成される。例えば、露光装置は、原版(レチクルやマスク)のパターンを、投影光学系を介して感光性の基板(表面にレジスト層が形成されたウエハやガラスプレートなど)に転写する。この露光装置では、近年の高精度化に伴い、装置本体を設置する基礎(床面)などの外部からの振動に加え、装置自体に搭載されたステージ装置など、駆動部を有する構成要素の動作に起因した振動を低減させる高性能な除振(制振)対策が必要とされる。例えば、一般的な露光装置では、振動を高精度な加速度センサや変位センサにより検出し、その出力に基づいてアクチュエーターを駆動することで振動を抑制させるアクティブ振動制御などが採用されている。しかしながら、近年の露光装置に対する微細化の要求が高まるにつれ、振動を引き起こす外乱要因の1つとして空調機器から発生する騒音(音波)も考慮しなければならなくなってきた。特に、パターニング手段としての投影光学系を内包する鏡筒を支持する鏡筒定盤のような支持構造体は、マウント(除振装置)を介し支持台(定盤または床面)に対して非常に低剛性で支持されているため、空気を媒体として伝わる音波の影響を受けやすい。投影光学系の他にも、例えばレーザー干渉計などの高精度な計測機器を設置する基準定盤でもある鏡筒定盤が音波により直接加振されると、露光装置の精度に影響を及ぼす可能性が高い。そこで、特許文献1は、装置内部にて、外乱音波をセンサで感知し、スピーカーにより逆位相の音波を発生させることで、能動的に外乱音波自体を打ち消すリソグラフィー装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−152597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ある音波を逆位相の音波で打ち消すノイズキャンセリング技術を十分に適用できるのは、人間の耳のように音場が一様とみなせるような小さな空間においてである。したがって、露光装置のような大きな空間では、音波の波長にもよるが、十分に音波を打ち消すことが難しい。特許文献1に示す装置では、除振対象となる支持構造体の周囲に打ち消し用スピーカーを配置し、構造体付近の音場のみを局所的に打ち消すが、特に鏡筒定盤のような大きな構造物に対しては、それだけ多くのスピーカーを設置する必要があり、その制御も煩雑となる。さらに、スピーカーは、それ自体が発熱源となるため、レーザー干渉計の光路に熱が到達すると、局所的に気体の屈折率が変化してレーザー干渉計の読み取り誤差が発生し、計測精度に影響を及ぼす可能性もある。これに対し、スピーカーに冷却構造を持たせることで熱的な影響を抑えることも考えられるが、この場合にはスピーカーの配置や温調配管の引き回しなど、装置構成がさらに複雑化する。
【0005】
本発明は、このような状況を鑑みてなされたものであり、外乱音波による振動の影響を抑えるのに有利なリソグラフィー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、基板上にパターンを形成するためのパターニング手段と、パターニング手段を支持する支持構造体とを備えたリソグラフィー装置であって、支持構造体と、基板を保持し移動可能とする基板保持部を載置する定盤とに囲まれた第1領域に温度調節された気体を放出する第1吹き出し口を、支持構造体に対して第1領域の側に含む空調装置と、支持構造体を基準として第1領域とは反対側に存在する第2領域にて、第1吹き出し口から発生する第1音波と同位相である第2音波を発生させる音波発生部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、外乱音波による振動の影響を抑えるのに有利なリソグラフィー装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1実施形態に係る露光装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る露光装置の構成を示す図である。
【図3】本発明の第3実施形態に係る露光装置の構成を示す図である。
【図4】従来の露光装置におけるレーザー干渉計への熱の影響を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について図面などを参照して説明する。
【0010】
(第1実施形態)
まず、本発明の第1実施形態に係るリソグラフィー装置の構成について説明する。このリソグラフィー装置は、半導体デバイスや液晶表示装置などの製造工程のうちのリソグラフィー工程にて使用される装置であり、本実施形態では基板(被処理基板)であるウエハやガラスプレートに対して露光処理を施す露光装置とする。以下、本実施形態の露光装置は、一例としてステップ・アンド・リピート方式を採用し、原版であるレチクルに形成されたパターンをウエハ上(基板上)に投影露光する投影型露光装置であるものとして説明を行う。図1は、本実施形態に係る露光装置1の構成を示す概略図である。なお、図1において、投影光学系の光軸に平行にZ軸を取り、該Z軸に垂直な平面内で走査露光時のウエハの走査方向にY軸を取り、該Y軸に直交する非走査方向にX軸を取って説明する。この露光装置1は、まず、照明光学系2と、レチクル3を保持するレチクルステージ4と、投影光学系5と、ウエハ6を保持するウエハステージ7と、制御部8とを備える。
【0011】
照明光学系(照明系)2は、例えば、レンズ、ミラー、ライトインテグレーター、または絞りなどの光学素子を含み、不図示の光源から照射された光を調整してレチクル3を照明する。光源としては、例えばパルス光源(レーザー)を使用する。使用可能なレーザーは、波長約193nmのArFエキシマレーザーや、波長約153nmのF2エキシマレーザーなどである。なお、レーザーの種類は、エキシマレーザーに限定されず、YAGレーザーなどを使用しても良く、レーザーの個数も限定されない。また、光源にレーザーが使用される場合には、レーザー光源からの平行光束を所望のビーム形状に整形する光束整形光学系や、コヒーレントなレーザーをインコヒーレント化するインコヒーレント光学系を使用することが望ましい。さらに、使用可能な光源は、パルス光源に限定されるものではなく、一または複数の水銀ランプやキセノンランプなどの連続光源も使用可能である。
【0012】
レチクル3は、例えば石英ガラス製の原版であり、転写されるべきパターン(例えば回路パターン)が形成されている。レチクルステージ4は、レチクル3を保持しつつ、XY軸方向に移動可能とする。パターニング手段としての投影光学系5は、照明光学系2からの照射光で照明されたレチクル3上のパターンを所定の倍率(例えば1/4または1/5)でウエハ6上に投影露光する。投影光学系5としては、複数の光学要素のみから構成される光学系や、複数の光学要素と少なくとも1枚の凹面鏡とから構成される光学系(カタディオプトリック光学系)が採用可能である。または、投影光学系5として、複数の光学要素と少なくとも1枚のキノフォームなどの回折光学要素とから構成される光学系や、全ミラー型の光学系なども採用可能である。
【0013】
ウエハ6は、表面上にレジストが塗布された、例えば単結晶シリコンからなる基板である。ウエハステージ(基板保持部)7は、ウエハ6を載置、および保持しつつ、XY軸方向に移動可能とする。
【0014】
制御部8は、露光装置1の各構成要素の動作および調整などを制御し得る。この制御部8は、例えばコンピュータなどで構成され、露光装置1の各構成要素に回線を介して接続され、プログラムなどにしたがって各構成要素の制御を実行し得る。本実施形態の制御部8は、少なくとも後述する空調装置15や音響装置20の動作を制御する。なお、制御部8は、露光装置1の他の部分と一体で(共通の筐体内に)構成してもよいし、露光装置1の他の部分とは別体で(別の筐体内に)構成してもよい。
【0015】
また、露光装置1は、ウエハステージ7を載置する定盤10と、投影光学系5を内包した鏡筒を支持(固定保持)する鏡筒定盤(支持構造体)11と、床面から延設され、除振器(除振装置)12を介して鏡筒定盤11を除振支持する複数の支柱13とを備える。なお、除振器12による除振機構は、パッシブ型や、アクチュエーターを含むアクティブ型などが適用可能であり、その形態は、特に限定されない。鏡筒定盤11は、図1に示すように、露光装置1内の領域(空間)を、ウエハステージ7側の第1領域R1と、第1領域R1とは反対側のレチクルステージ4側の第2領域R2とにZ軸方向の上下で仕切るように設置されている。なお、第1領域R1と第2領域R2とは、鏡筒定盤11にて完全に分離されている必要はなく、隙間などの存在により通気部分があってもよい。また、鏡筒定盤11は、さらに第1領域R1側の平面部に、ウエハステージ7の可動部の位置を高精度に光学的に計測するレーザー干渉計(位置計測部)14を備え、位置計測の基準となる基準定盤となる。ここで、ウエハステージ7は、その外周部に不図示の反射鏡(移動鏡)を設置している。レーザー干渉計14は、この反射鏡に向けてレーザーを照射し、その反射光を受光したときの出力を制御部8に送信する。制御部8は、このレーザー干渉計14からの出力に基づいて、ウエハステージ7の位置を算出する。このとき、レーザー干渉計14による計測精度を維持するためには、レーザーの光路が存在する第1領域R1内の雰囲気を一定に保持することが望ましい。そこで、露光装置1は、第1領域R1内の雰囲気を一定に保持するために、高精度に温度調節された気体を第1領域R1内に供給する空調装置15を備える。この空調装置15は、送風部16と、この送風部16にダクトを通じて接続された吹き出し口17を有し、吹き出し口17から放出する気体の温度や供給量などは、制御部8からの指令により制御される。吹き出し口17は、鏡筒定盤11に対して第1領域R1の側にて、特に鏡筒定盤11から吊り下げた形で支持されたレーザー干渉計14から投射されるレーザーの光路に向かって温調気体を放出可能なように設置される。また、吹き出し口17の開口形状は、例えば、図中Y軸方向が長く、Z軸方向が短い矩形とし得る。
【0016】
ここで、レーザー干渉計14は、上記のとおり鏡筒定盤11に支持されているため、鏡筒定盤11に振動が生じると、この振動の影響を直接受けることになる。例えば、上記のような空調装置15の吹き出し口17から発生する音波(騒音)は、鏡筒定盤11に振動を引き起こす外乱要因の1つとなり得る。そこで、露光装置1は、第1領域R1に存在する吹き出し口17から発生する第1音波S1と同位相となる第2音波S2を第2領域R2に向けて発生させることで、第1音波S1に起因した鏡筒定盤11の振動を抑える(打ち消す)ための音響装置20を備える。この音響装置20は、第2領域R2に設置され、第2音波S2を発生させるスピーカー(音波発生部)21を含み、このスピーカー21に対し、第1音波S1の発生と発生時の位相とを指示する。
【0017】
次に、露光装置1の作用について説明する。露光装置1は、ウエハステージ7上のウエハ6に対する露光処理として、まず、照明光学系2によりレチクルステージ4に保持されたレチクル3に向けて照明光を照射させる。そして、レチクル3に形成されたパターンの像が、投影光学系5を介してウエハ6上の所定のパターン形成領域(ショット)に転写される。このパターンの転写処理に際し、露光装置1は、レーザー干渉計14を用いてウエハステージ7(ウエハ6)の位置合わせを実施する。このとき、上記のように空調装置15の吹き出し口17から発生する音波に起因して鏡筒定盤11に振動が発生すると、投影光学系5のよるパターン像の投影や、レーザー干渉計14による計測結果などに影響を及ぼす可能性がある。このような振動を抑える対策として、従来の露光装置では、例えば、基準体やアクチュエーター(駆動機構)を用いた除振装置により、鏡筒定盤11に発生した振動を打ち消す方法が採用されている。しかしながら、外乱音波による外力は、鏡筒定盤11のような構造物の面に対して作用する面積力であるため、アクチュエーターにより完全に打ち消すことは難しい。なぜなら、面積力の分布に合わせて複数のアクチュエーターを適切な位置に配置しなければならないからである。さらに、外乱音波は、周波数ごとに波長が変わるため、構造物の周りに形成される音場も周波数ごとに変化する。したがって、制御部は、複数の位置に配置されたアクチュエーターをそれぞれ複雑に制御しなければならない。
【0018】
これに対して、従来の露光装置では、アクチュエーターを用いるものではなく、スピーカーにより外乱音波を打ち消すための音波を発生させる除振装置(音響装置)もある。このスピーカーにより発生した音波は、構造物に対して面積力を付与できるため、アクチュエーターを用いた場合と比較して単純な構成および制御で外乱音波による振動を抑えることができる。ここで、露光装置の内部では、空調装置の吹き出し口が外乱音波の音源(騒音源)となり得るが、このときの外乱音波を打ち消すには、吹き出し口が存在する空間にスピーカーを配置し、このスピーカーから逆位相の音波を発生させるのが一般的である。しかしながら、ある音波を逆位相の音波で十分に打ち消すことができるのは、人間の耳のように音場が一様とみなせるような小さな空間においてである。したがって、露光装置内の大きな空間における鏡筒定盤のような大きな構造体を除振対象とする場合には、その構造物に対して多くのスピーカーを設置する必要があり、その制御も煩雑となる。
【0019】
さらに、打ち消し用の音波を発生させるスピーカー自体が発熱源でもあることから、以下のような影響も及ぼし得る。図4は、従来の露光装置における空調装置の吹き出し口50および除振装置(音響装置)51のスピーカー52の配置と、レーザー干渉計53への熱の影響とを説明する概略図である。ここで、レーザー干渉計53は、本実施形態におけるレーザー干渉計14と同様に配置され、ウエハステージ54の位置を計測する。また、吹き出し口50も、本実施形態における吹き出し口17と同様に配置され、レーザー干渉計53から投射されるレーザーの光路55に向かって温調気体56を放出する。これらのレーザー干渉計53や吹き出し口50の位置に対し、スピーカー52は、吹き出し口50から発生する外乱音波S3に対して逆位相の音波S4を発生させることで外乱音波S3を打ち消すことができるように、吹き出し口50の近傍に配置される。このとき、除振装置51は、センサ57にて外乱音波S3を感知し、スピーカー52から発生させる音波S4の位相を適切に調整する。しかしながら、スピーカー52が吹き出し口50の近傍、例えば図4に示すように吹き出し口50の下部に配置されていると、スピーカー52により温められた気体58が舞い上がり、吹き出し口50からの温調気体56に乗って光路55上に到達してしまう。光路55上に到達した過剰な熱は、局所的に気体の屈折率を変化させてしまうため、レーザー干渉計53に読み取り誤差を生じさせ、結果的に計測精度に影響を及ぼす可能性がある。これに対して、例えば、スピーカー52に冷却構造を持たせることで熱的な影響を抑えることも考えられるが、その場合、スピーカー52の配置や温調配管の引き回しなど、装置内の構成がさらに複雑化する。
【0020】
そこで、本実施形態では、まず、上記のように鏡筒定盤11の平面、具体的には鏡筒定盤11の横断面中央部を通過する無限平面Pを基準として、Z軸方向の下部に位置する第1領域R1と、上部に位置する第2領域R2とを定義する。そして、第1領域R1に存在する吹き出し口17から発生する外乱音波である第1音波S1と、第2領域R2に存在するスピーカー21から発生する第2音波S2との両方の進行波により、鏡筒定盤11の上下面に同様の音場を形成させる。このとき、スピーカー21から発生させる第2音波S2は、第1音波S1と同位相の音波である。このように、第2音波S2を第1音波S1と同位相とすることで、第1領域R1側の音圧により鏡筒定盤11のZ軸上方向にかかる力Fと、第2領域R2側の音圧によりZ軸下方向にかかる力Fとが打ち消し合い、鏡筒定盤11にて発生し得る振動が抑制される。
【0021】
ここで、本実施形態でいう「同位相」とは、第1音波S1の位相に対して完全に同一の位相のみを示すものではない。以下、同位相と規定し得る位相の許容範囲について説明する。まず、第1音波S1に起因して鏡筒定盤11に力Fがかかるとき、第1音波S1と同位相(+φ)の第2音波S2により鏡筒定盤11にかかる力Fにて互いの外力を打ち消す場合、鏡筒定盤11には、以下の(数1)で現される力Fがかかる。
【0022】
【数1】

【0023】
また、力Fは、発生源の力Fよりも小さい必要があるため、さらに以下の(数2)および(数3)が成り立つ。
【0024】
【数2】

【0025】
【数3】

【0026】
すなわち、本実施形態では、第1音波S1の位相に対して、第2音波S2の位相が(数3)の条件を満たす位相φ分ずれていても、同位相として許容され得る。なお、例えば、第1音波S1と第2音波S2との音圧(振幅)が一致すると仮定した場合、力Fと力Fとは同一となるので、このときの位相は、以下の(数4)で現される。
【0027】
【数4】

【0028】
これらの同位相の上下の音波により鏡筒定盤11の上下面においても同位相で同様な音場を形成するためには、スピーカー21を、無限平面Pに対して騒音源である吹き出し口17の略面対称の位置に配置することが望ましい。
【0029】
このように、上記のような構成および設定により、露光装置1内の鏡筒定盤11のような大きな構造体を除振対象とする場合でも、その構造物に対して簡単な構成および制御にて効率良く除振することができる。また、振動打ち消し用の第2音波S2を発生させるスピーカー21は、レーザー干渉計14が設置されている第1領域R1とは異なる第2領域R2に設置されているため、レーザー干渉計14に対して熱的な影響を及ぼしづらいという利点もある。なお、制御部8は、吹き出し口17の特性、すなわち第1音波S1の位相などを予め実験などにより取得し、音響装置20に対して同様の音波を発生させるように設定しておけば、音響装置20(スピーカー21)を時間的に制御する必要はない。ただし、第2音波S2の位相と外乱音波である第1音波S1の位相とのタイミングを合わせる必要があるため、制御部8は、空調装置15の気体供給ONの信号をトリガーとしてスピーカー21から第2音波S2が発生されるように調整しておく必要がある。また、制御部8は、上下方向の力Fと力Fとが可能な限りつり合うように、鏡筒定盤11の上下面の面積の比(例えば5:4)に応じて、第2音波S2の音圧の設定を適宜調整することが望ましい。また、例えば、吹き出し口17や排気口などの騒音源が複数存在する場合は、それぞれの騒音源に対応した複数のスピーカー21を第2領域R2に設置してもよい。さらに、第2領域R2は、第1領域R1とは異なりレーザー干渉計14などの高精度な計測機器が存在せず、領域内を精密に温度調節する必要がないため、スピーカー21の熱対策も軽微なもので構わない。
【0030】
以上のように、本実施形態によれば、外乱音波による振動の影響を抑えるのに有利なリソグラフィー装置を提供することができる。
【0031】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係るリソグラフィー装置について説明する。第1実施形態のリソグラフィー装置(露光装置1)では、第1領域R1における第1音波S1に起因した振動を打ち消すために、第2領域R2において第1音波S1と同位相である第2音波S2をスピーカー21により発生させた。これに対して、本実施形態のリソグラフィー装置の特徴は、第2領域R2において、スピーカー21に換えて、第1音波S1を発生させる吹き出し口17と同様の吹き出し口を設置し、第1音波S1に起因した振動を打ち消す点にある。図2は、本実施形態に係る露光装置30の構成を示す概略図である。なお、図2において、図1に示す第1実施形態の露光装置1と同一構成のものには同一の符号を付し、説明を省略する。まず、第1領域R1において、第1吹き出し口31は、第1実施形態の吹き出し口17と同様の位置に配置され、同様の役割を担う。これに対し、第2領域R2に設置される第2吹き出し口32は、温度調節された気体を第2領域R2内に供給するものであり、この場合も、無限平面Pに対して騒音源である第1吹き出し口31の略面対称の位置に配置されるのが望ましい。これらの第1吹き出し口31と第2吹き出し口32とは、それぞれ第1ダクト33、第2ダクト34を介して空調装置35の同一の送風部36に接続されている。ここで、例えば、送風部36から各吹き出し口31、32までの距離、すなわち各ダクト33、34の内部領域の長さを略同一とすれば、送風部36に起因した音波が各吹き出し口31,32から発生する際の音波の位相をそろえることができる。したがって、本実施形態によれば、第1実施形態と同様に第2領域R2において外乱音波である第1音波S1と同位相の第2音波S2を発生させることで、第1領域R1における第1音波S1に起因した振動を打ち消すことができる。なお、第2領域R2では積極的な温度調節を要しないため、第2吹き出し口32に別途フィルタを介し、吹き出し流量を絞る構成としてもよい。このとき、フィルタとしては、一般的な集塵フィルタを積層させたものが採用可能である。このフィルタにて第2吹き出し口32から発生する音が吸収されてしまう可能性もあるが、例えば100Hz以下のような露光装置の性能に影響する低い周波数の音波に対する吸音効果が小さいフィルタを採用すればよい。さらに、第1ダクト33と第2ダクト34とのダクト径を変えることで、各吹き出し口31、32から発生する音波の音圧をそれぞれ調整することができるため、鏡筒定盤11の上下面の面積比に応じてダクト径を予め設定することが望ましい。
【0032】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係るリソグラフィー装置について説明する。第1実施形態のリソグラフィー装置(露光装置1)では、制御部8は、第1音波S1を発生させる吹き出し口17の特性を予め実験などにより取得しておき、音響装置20に対して第1音波S1と同位相である第2音波S2を発生させるように設定していた。これに対して、本実施形態のリソグラフィー装置の特徴は、音響装置20が音響センサを用いて吹き出し口17から発生する第1音波S1を逐一検出し、検出されたデータに基づいてスピーカー21が発生させる第2音波S2の位相を適宜調整する点にある。図3は、本実施形態に係る露光装置40の構成を示す概略図である。なお、図3において、図1に示す第1実施形態の露光装置1と同一構成のものには同一の符号を付し、説明を省略する。音響装置20は、スピーカー21に加え、第1領域R1の吹き出し口17の近傍に設置され、第1音波S1を検出する音響センサ41を備える。この場合、音響装置20は、制御部8からの音波発生指示を受け、音響センサ41により得られたデータ(位相を特定するデータ)に基づいて、第1音波S1と同位相となるよう適宜調整された第2音波S2をスピーカー21から発生させる。また、音響装置20は、第2音波S2の位相の他に、音圧も適宜調整することも可能となる。このように、本実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果を奏すると共に、不規則で突発的に変動した第1音波S1に対しても適宜対応することができる。
【0033】
なお、上記の構成に加え、スピーカー21からの発熱に起因した、鏡筒定盤11や、投影光学系5を内包した鏡筒などへの熱的な影響を抑えるために、スピーカー21に冷却構造体(温度調節部)42を設置する構成もあり得る。また、第2領域R2において、スピーカー21から発生する第2音波S2は、鏡筒定盤11の他にも、例えば鏡筒などの構造体に振動を与えることで露光精度へ直接影響を及ぼす可能性もある。そこで、露光装置40は、鏡筒の周囲に、スピーカー21から発生した第2音波S2の影響を受けないように遮蔽部材(遮蔽板)43を設置してもよい。なお、この遮蔽部材43は、遮蔽部材43自体の振動が露光精度に影響しないように、鏡筒定盤11や鏡筒とは独立して支持されることが望ましい。例えば、遮蔽部材43は、図3に示すように、定盤10や支柱13の外周部に配置された基礎構造体であるベースフレーム44から鏡筒を囲うように設置される。
【0034】
(他の実施形態)
上記実施形態では、リソグラフィー装置として露光装置を一例に説明したが、本発明のリソグラフィー装置は、これに限定されず、例えばインプリント装置や荷電粒子線描画装置などとすることもできる。まず、インプリント装置は、基板上の未硬化樹脂をモールド(型)により成形して硬化させて、基板上に硬化した樹脂のパターンを形成する装置である。このインプリント装置は、パターニング手段として、モールドを保持するモールド保持機構(型保持部)を含む。例えば、この型保持部を支持する支持構造体を基準に上記実施形態の構成を適用すれば、上記実施形態と同様の作用、効果を奏する。一方、荷電粒子線描画装置は、パターニング手段として含まれる電子光学系を介し、荷電粒子線でパターンを基板上に描画する装置である。例えば、この電子光学系を支持する支持構造体を基準に上記実施形態の構成を適用すれば、上記実施形態と同様の作用、効果を奏する。
【0035】
(デバイスの製造方法)
次に、本発明の一実施形態のデバイス(半導体デバイス、液晶表示デバイスなど)の製造方法について説明する。半導体デバイスは、ウエハに集積回路を作る前工程と、前工程で作られたウエハ上の集積回路チップを製品として完成させる後工程を経ることにより製造される。前工程は、前述の露光装置を使用して感光剤が塗布されたウエハを露光する工程と、ウエハを現像する工程を含む。後工程は、アッセンブリ工程(ダイシング、ボンディング)と、パッケージング工程(封入)を含む。液晶表示デバイスは、透明電極を形成する工程を経ることにより製造される。透明電極を形成する工程は、透明導電膜が蒸着されたガラス基板に感光剤を塗布する工程と、前述の露光装置を使用して感光剤が塗布されたガラス基板を露光する工程と、ガラス基板を現像する工程を含む。本実施形態のデバイス製造方法によれば、従来よりも高品位のデバイスを製造することができる。
【0036】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 露光装置
5 投影光学系
6 ウエハ
7 ウエハステージ
10 定盤
11 鏡筒定盤
15 空調装置
17 第1吹き出し口
21 スピーカー
R1 第1領域
R2 第2領域
S1 第1音波
S2 第2音波

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にパターンを形成するためのパターニング手段と、該パターニング手段を支持する支持構造体とを備えたリソグラフィー装置であって、
前記支持構造体と、前記基板を保持し移動可能とする基板保持部を載置する定盤とに囲まれた第1領域に温度調節された気体を放出する第1吹き出し口を、前記支持構造体に対して前記第1領域の側に含む空調装置と、
前記支持構造体を基準として前記第1領域とは反対側に存在する第2領域にて、前記第1吹き出し口から発生する第1音波と同位相である第2音波を発生させる音波発生部と、
を備えることを特徴とするリソグラフィー装置。
【請求項2】
前記支持構造体は、前記第1領域の側にて、前記基板保持部の前記基板を保持した可動部の位置を光学的に計測する位置計測部を支持し、
前記第1吹き出し口は、前記位置計測部から投射される光の光路に前記温度調節された気体が向かうように設置されることを特徴とする請求項1に記載のリソグラフィー装置。
【請求項3】
前記第2音波を前記第1音波と同位相となるように調節する音響装置を有し、
前記音波発生部は、前記音響装置に接続されたスピーカーであることを特徴とする請求項1または2に記載のリソグラフィー装置。
【請求項4】
前記音波発生部は、該音波発生部からの発熱を調節する温度調節部を有することを特徴とする請求項3に記載のリソグラフィー装置。
【請求項5】
前記音波発生部から第2音波を発生させるよう前記音響装置に指示する制御部を有し、
前記音響装置は、前記第1音波を検出する音響センサを有し、
前記制御部は、前記音響センサによる出力に基づいて、前記第2音波の位相を前記第1音波の位相に合わせることを特徴とする請求項3または4に記載のリソグラフィー装置。
【請求項6】
前記パターニング手段および前記支持構造体とは独立して支持され、前記パターニング手段を前記第2音波から遮蔽するための遮蔽部材を備えることを特徴とする請求項3ないし5のいずれか1項に記載のリソグラフィー装置。
【請求項7】
前記音波発生部は、前記第2領域に温度調節された気体を放出する第2吹き出し口であることを特徴とする請求項1または2に記載のリソグラフィー装置。
【請求項8】
前記空調装置は、前記第1吹き出し口と前記第2吹き出し口とへ同一の送風部から前記気体を供給することを特徴とする請求項7に記載のリソグラフィー装置。
【請求項9】
前記第1吹き出し口と前記送風部とは第1ダクトを介して接続され、
前記第2吹き出し口と前記送風部とは第2ダクトを介して接続され、
前記第1ダクトの内部領域の長さと、前記第2ダクトの内部領域の長さとは、前記第2音波が前記第1音波と同位相になるように設定されることを特徴とする請求項8に記載のリソグラフィー装置。
【請求項10】
前記第2吹き出し口は、該第2吹き出し口から放出される前記気体の流量を、前記第1吹き出し口から放出される前記気体の流量よりも小さくするフィルタを備えることを特徴とする請求項7ないし9のいずれか1項に記載のリソグラフィー装置。
【請求項11】
前記第2音波の音圧は、前記支持構造体での前記第1領域と前記第2領域とに接するそれぞれの面積の比に基づいて調節されることを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1項に記載のリソグラフィー装置。
【請求項12】
前記パターニング手段は、少なくとも投影光学系を含み、
前記リソグラフィー装置は、前記投影光学系を介して前記パターンの像を前記基板上に露光する露光装置であることを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1項に記載のリソグラフィー装置。
【請求項13】
前記パターニング手段は、少なくとも型を保持する型保持部を含み、
前記リソグラフィー装置は、前記基板上の未硬化樹脂を前記型により成形して硬化させて、前記基板上に硬化した樹脂の前記パターンを形成するインプリント装置であることを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1項に記載のリソグラフィー装置。
【請求項14】
前記パターニング手段は、少なくとも電子光学系を含み、
前記リソグラフィー装置は、前記電子光学系を介して荷電粒子線で前記パターンを前記基板上に描画する描画装置であることを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1項に記載のリソグラフィー装置。
【請求項15】
請求項12に記載のリソグラフィー装置を用いて基板を露光する工程と、
その露光した基板を現像する工程と、
を含むことを特徴とするデバイス製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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