説明

リチウム−遷移金属酸化物粉体およびその製造方法、リチウムイオン電池用正極活物質、並びにリチウムイオン二次電池

【課題】リチウム−遷移金属酸化物粒子表面の一部または全部にニオブ酸リチウムを含有する被覆層が形成され、且つ、圧粉体抵抗が低いリチウム−遷移金属酸化物粉体、当該リチウム−遷移金属酸化物粉体を含むリチウムイオン電池用正極活物質を提供する。
【解決手段】ニオブ酸リチウムを含有する被覆層によって表面の一部または全部が被覆されたリチウム−遷移金属酸化物粒子からなるリチウム−遷移金属酸化物粉体であって、炭素含有量が0.03質量%以下であるリチウム−遷移金属酸化物粉体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム−遷移金属酸化物粉体およびその製造方法、リチウムイオン電池用正極活物質、並びにリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高く、高電圧での動作が可能という特徴がある。そこで、小型軽量化を図りやすい二次電池として携帯電話等の情報機器に使用されている。また、近年、ハイブリッド自動車用等の大型動力用の二次電池としての需要も高まりつつある。
【0003】
リチウムイオン二次電池では、電解質として有機溶媒に塩を溶解させた非水溶媒電解質が一般的に用いられている。そして、当該非水溶媒電解質が可燃性のものであることから、リチウムイオン二次電池は安全性に対する問題を解決する必要がある。当該安全性を確保するために、リチウムイオン二次電池へ安全装置を組み込む等の対策が実施されているが、より抜本的な解決法として、上述した電解質を不燃性の電解質とすること、即ちリチウムイオン伝導性の固体電解質とする方法が提案されている。
【0004】
一般的に電池の電極反応は、電極活物質と電解質との界面で生じる。ここで、当該電解質に液体電解質を用いた場合は、電極活物質を含有する電極を電解質に浸漬することで、電解質が活物質粒子間に浸透し反応界面が形成される。一方、当該電解質に固体電解質を用いた場合は、固体電解質にこのような浸透機構はなく、あらかじめ電極活物質の粉体と固体電解質の粉体とを混合する必要がある。この為、全固体リチウム電池の正極は、通常、正極活物質の粉体と固体電解質との混合物となる。
【0005】
ところが、全固体リチウム電池では、正極活物質と固体電解質との界面をリチウムイオンが移動する際に発生する抵抗(以下、「界面抵抗」と記載する場合がある。)が増大し易い。当該界面抵抗が増大した場合、全固体リチウム電池において、電池容量等の性能が低下することになる。
【0006】
ここで、当該界面抵抗の増大は、正極活物質と固体電解質とが反応して正極活物質の表面に高抵抗部位が形成されることが原因である、とする報告(非特許文献1)がある。
そして、非特許文献1には、正極活物質であるコバルト酸リチウムの表面をニオブ酸リチウムによって被覆することにより界面抵抗を低減させ、全固体リチウム電池の性能向上を図る提案が開示されている。
【0007】
具体的には、コバルト酸リチウム等のリチウム−金属酸化物表面上へ、NbエトキシドやLiエトキシド等の金属アルコキシドが混合されたアルコール溶液を接触させた後、当該リチウム−金属酸化物を大気中で焼成して、表面にニオブ酸リチウムを被覆することが提案されている。
【0008】
一方、特許文献1にも、ニオブ酸リチウムで被覆されたコバルト酸リチウムの製造方法について提案されている。
具体的には、コバルト酸リチウムの表面に、NbエトキシドやLiエトキシド等の金属アルコキシドが混合されたアルコール溶液を接触させた後、当該コバルト酸リチウムを260℃〜300℃の比較的低温で焼成するものである。当該低温焼成によって、ニオブ酸リチウムで被覆されたコバルト酸リチウムの結晶化を抑制し、被覆層の界面抵抗を低減しようとする提案である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−129190号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Electrochemistry Communications、9(2007)、p.1486−1490
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、特許文献1および非特許文献1に記載の方法によって製造された、ニオブ酸リチウムで被覆されたコバルト酸リチウムの電気抵抗値を検討した。
ここで、コバルト酸リチウムは粉体であるので、所定の圧力を加えて圧粉体とし、当該コバルト酸リチウムの圧粉体の電気抵抗値(本発明において、「圧粉体抵抗」と記載する場合がある。)を測定することとした。尚、本発明において、当該所定の圧力とは、実施例1にて後述するように、φ20mmの金型に粉体1gを入れ、12kNの圧力を掛けたものである。
【0012】
当該検討の結果、本発明者らは、表面がニオブ酸リチウムで被覆されたコバルト酸リチウム粉体の圧粉体抵抗は、表面がニオブ酸リチウムで被覆されていないコバルト酸リチウム粉体の圧粉体抵抗に比較して高いことを知見した。つまり、上述した文献に記載の方法で製造された、表面がニオブ酸リチウムで被覆されたコバルト酸リチウムを正極活物質として全固体リチウム電池に適用した場合、当該正極活物質と固体電解質とが反応してしまうことにより、正極活物質の表面に高抵抗部位が形成されることは抑制出来たとしても、正極活物質自体の電気抵抗値は増大してしまうことを知見したものである。
【0013】
さらに、特許文献1および非特許文献1に記載の方法で使用される金属アルコキシドは、原料コストが非常に高価である。
【0014】
本発明は、上述の状況の下で為されたものであり、その解決しようとする課題は、リチウム−遷移金属酸化物粒子表面の一部または全部にニオブ酸リチウムを含有する被覆層が形成され、且つ、圧粉体抵抗が低いリチウム−遷移金属酸化物粉体、当該リチウム−遷移金属酸化物粉体を含むリチウムイオン電池用正極活物質、当該リチウムイオン電池用正極活物質を用いたリチウムイオン電池、金属アルコキシドを使用することなく上述したリチウム−遷移金属酸化物粉体を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上述したニオブ酸リチウムで表面が被覆されたリチウム−遷移金属酸化物粉体の電気抵抗値が増大する原因について研究をおこなった。
その結果、特許文献1および非特許文献1に記載の方法により、リチウム−遷移金属酸化物粉体の表面にニオブ酸リチウムを被覆する場合、原料として金属アルコキシド及び有機溶媒を使用する為、ニオブ酸リチウム中に金属アルコキシドまたは有機溶媒に由来する有機物や、当該有機物が分解して生成した炭素が残存していることを知見した。ここで、本発明者らは、当該残存有機物や炭素がリチウムの移動を阻害する要因となり、リチウム−遷移金属酸化物粉体の電気抵抗値を増大させている可能性に想到した。
【0016】
本発明者らは、さらに研究を進め、ニオブ酸錯体とリチウム塩とが溶解した溶液と、リチウム−遷移金属酸化物粉体とを接触させた後、当該リチウム−遷移金属酸化物粉体を300℃以上の温度で焼成する構成に想到した。そして、当該リチウム−遷移金属酸化物粉体を焼成することで、有機物(炭素)の含有量が少ないニオブ酸リチウムで表面が被覆されたリチウム−遷移金属酸化物粉体を得ることが出来た。そして本発明者らは、当該有機物(炭素)の含有量が少ないニオブ酸リチウムで表面が被覆されたリチウム−遷移金属酸化物粉体は、圧粉体抵抗が低いことを知見し本発明を完成するに至った。
【0017】
即ち、上述の課題を解決する為の第1の発明は、
ニオブ酸リチウムを含有する被覆層によって表面の一部または全部が被覆されたリチウム−遷移金属酸化物粒子からなるリチウム−遷移金属酸化物粉体であって、
炭素含有量が0.03質量%以下であることを特徴とするリチウム−遷移金属酸化物粉体である。
第2の発明は、
上述したニオブ酸リチウムを含有する被覆層の被覆厚みが、100nm以下であることを特徴とする第1の発明に記載のリチウム−遷移金属酸化物粉体である。
第3の発明は、
前記リチウム−遷移金属酸化物が、コバルト酸リチウムであることを特徴とする第1または第2の発明に記載のリチウム−遷移金属酸化物粉体である。
第4の発明は、
被処理粉体1gをφ20mmの金型に入れ、12kNの圧力を掛けて圧粉体とした際の圧粉体抵抗が、6000Ω・cm以下であることを特徴とする第1から第3の発明のいずれかに記載のリチウム−遷移金属酸化物粉体である。
第5の発明は、
第1から第4の発明のいずれかに記載のリチウム−遷移金属酸化物粉体を含むことを特徴とするリチウムイオン電池用正極活物質である。
第6の発明は、
第5の発明に記載のリチウムイオン電池用正極活物質を、正極活物質として用いていることを特徴とするリチウムイオン二次電池である。
第7の発明は、
ニオブ酸リチウムを含有する被覆層によって表面の一部または全部が被覆されたリチウム−遷移金属酸化物粒子からなるリチウム−遷移金属酸化物粉体の製造方法であって、
ニオブ化合物とリチウム化合物とを含有する水溶液と、リチウム−遷移金属酸化物粉体とを混合して混合物を得る工程と、
当該混合物の水分を除去し、リチウム−遷移金属酸化物粉体表面にニオブ化合物とリチウム化合物とが被着した粉体を得る工程と、
当該粉体を300℃以上700℃以下で熱処理する工程とを含むことを特徴とするリチウム−遷移金属酸化物粉体の製造方法である。
第8の発明は、
上述したニオブ化合物がニオブ酸錯体である、ことを特徴とする第7の発明に記載のリチウム−遷移金属酸化物粉体の製造方法である。
第9の発明は、
上述したニオブ酸錯体が、ニオブ酸のペルオキソ錯体([Nb(O3−)、または、配位子にシュウ酸を有するニオブ酸錯体であることを特徴とする第8の発明に記載のリチウム−遷移金属酸化物粉体の製造方法である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施する為の形態について説明するが、「ニオブ酸リチウムを含有する被覆層によって表面の一部または全部が被覆されたリチウム−遷移金属酸化物」を、「表面がニオブ酸リチウムで被覆されたリチウム−遷移金属酸化物」と記載する場合がある。
【0019】
(1)リチウム−遷移金属酸化物粉体
本発明に係る表面がニオブ酸リチウムで被覆されたリチウム−遷移金属酸化物を製造する為の原料であるリチウム−遷移金属酸化物は、従来のリチウム二次電池用正極活物質として使用できるリチウム−遷移金属酸化物であれば、遷移金属の種類は問わない。
尤も、当該遷移金属の好適な例として、Co、Mn、Niが挙げられる。さらに、電池容量と安全性のバランスを考慮した場合、好適なリチウム−遷移金属酸化物の例としてコバルト酸リチウムが挙げられる。
【0020】
例えば、遷移金属としてNi、MnおよびCoからなる群より選択される少なくとも1種を含むリチウム−遷移金属酸化物としては、下記化学式1に示される化合物が好ましく挙げられる。
LiM1M22−x・・・・(化学式1)
【0021】
化学式1において、0<a≦1.2、0<b≦1、0≦c≦0.1、0.9≦b+c≦1、0≦x≦0.05、M1はNi、Co、Mnからなる群より選択される少なくとも1種であり、M2はAl、Mg、Ca、Ti、V、Cr、Fe、およびGaからなる群より選択される少なくとも1種であり、NはF、Cl、およびSからなる群より選択される少なくとも1種である。尚、aの値は、0.8<a≦1.2であることがさらに好ましい。
【0022】
リチウム−遷移金属酸化物粉体は市販品を使用してもよいが、例えば、下記の公知方法(コバルト酸リチウム粉体の製造例)で製造することも出来る。
アンモニア水、または、硫酸アンモニウムなどのアンモニウムイオンを添加した硫酸コバルト水溶液と、水酸化ナトリウム水溶液とを、反応溶液がpH12.0となるように混合してオキシ水酸化コバルトを生成させる。このとき反応温度は60℃以下とし、空気を吹き込みながら混合液を攪拌する。生成した球状のオキシ水酸化コバルトを含有する液に、含有されるコバルト1モルに対して、リチウムが1.0〜1.05モルとなるように炭酸リチウムを加えて混合した後、ろ過・洗浄、乾燥して粉体を得る。得られた粉体を800℃以上の温度で、3時間以上大気中で焼成することにより、コバルト酸リチウム粉体を得ることができる。
【0023】
(2)ニオブ化合物とリチウム化合物とを含有する水溶液
ニオブ酸化物は水溶液に溶解しないため、ニオブ化合物とリチウム化合物とを含有する水溶液の原料としては適していない。そこで、ニオブ化合物とリチウム化合物とを含有する水溶液の原料として、水溶性があるニオブ酸錯体を使用する。ニオブ酸錯体を含有する水溶液とリチウム塩等のリチウム化合物を混合することにより、ニオブ化合物とリチウム化合物とを含有する水溶液を得ることができる。
【0024】
〈ニオブ酸錯体〉
上述したニオブ酸錯体は、水溶性であれば特に制限はない。尤も、好適なニオブ酸錯体の例として、ニオブ酸のペルオキソ錯体([Nb(O3−)、配位子にシュウ酸を有するニオブ酸錯体が例示される。ニオブ酸のペルオキソ錯体は、化学構造中に炭素を含有しないので、特に好適である。一方、シュウ酸は化学構造中に炭素を含有するものの、エトキシドやメトキシドより熱分解し易く、酸素を多く含む構造である為、本発明に係るニオブ酸錯体の原料として使用可能である。
【0025】
ニオブ酸のペルオキソ錯体は、例えば下記の方法で得ることができる。
過酸化水素水にニオブ酸(Nb・nHO)を添加して、混合する。ここで、当該混合の際、ニオブ酸1モルに対して、過酸化水素が8モル以上となるようにすることが好ましい。過酸化水素が反応中に分解する可能性があることを考慮すると、ニオブ酸1モルに対して、過酸化水素が10モル以上となるようにすることが更に好ましい。当該混合では、ニオブ酸は過酸化水素水に溶解しないが乳白色の懸濁溶液を得ることが出来る。そして、当該懸濁液にアンモニア水を添加し、混合することにより透明なニオブ酸のペルオキソ錯体を得ることができる。
【0026】
ここで、当該懸濁液にアンモニア水を添加する際、ニオブ酸1モルに対して、アンモニアが1モル以上となるようにすることが好ましい。アンモニアが反応中に揮発することを考慮すると、ニオブ酸1モルに対して、アンモニアが2モル以上となるようにすることが更に好ましい。さらに、当該アンモニア水に代えて、アルカリ性溶液を添加することもできる。この場合、アルカリ性溶液の添加量は、添加後の液のpHが10以上、好ましくは、11以上となる量とする。当該アルカリ性溶液として水酸化リチウム水溶液を選択し、これを添加することもできる。
【0027】
配位子にシュウ酸を有するニオブ酸錯体は、公知の方法で得ることができる。
例えば、水に水酸化ニオブとシュウ酸とアンモニア水を順次添加する方法、シュウ酸水溶液に酸化ニオブを添加する方法、が挙げられる。
【0028】
上述の方法で得られたニオブ酸錯体を含有する水溶液に、リチウム塩を添加することにより、ニオブ化合物とリチウム化合物とを含有する水溶液を得ることができる。添加するリチウム塩の量は、リチウムとしてのモル数が、前記水溶液中に含まれるニオブとしてのモル数と等モルとする。添加するリチウム塩化合物の好適な例としては、水酸化リチウム(LiOH)、硝酸リチウム(LiNO)、硫酸リチウム(LiSO)が挙げられる。
【0029】
(3)水分除去工程
上述の方法で得られたニオブ酸錯体とリチウム塩化合物とを含有する水溶液と、リチウム−遷移金属酸化物粉体を混合した後、水分を除去することにより、表面にニオブ化合物とリチウム化合物が被着したリチウム−遷移金属酸化物粉体を得ることができる。
水分を除去する方法は公知の方法を使用できるが、混合物を加熱して水分を蒸発させる方法を用いることができる。
【0030】
水溶液中に含まれるニオブとリチウムとの量と、リチウム−遷移金属酸化物粉体の量との関係を調整することにより、目的とするニオブ酸リチウムで被覆された粉体の平均被覆厚さを、目標とする平均被覆厚さに調整することができる。当該目標とする平均被覆厚さは、被覆するリチウム−遷移金属酸化物粉体の比表面積と、上述した水溶液中に含まれるニオブとリチウムとの量と、リチウム−遷移金属酸化物粉体の量との関係から算出すれば良い。本願で、ニオブ酸リチウムの被覆厚みとは、前記の方法で算出される平均被覆厚さを指す。
【0031】
(4)焼成工程
上述した表面にニオブ化合物とリチウム化合物が被着したリチウム−遷移金属酸化物粉体を、300℃以上700℃以下の温度で焼成することにより、ニオブ酸リチウムで表面が被覆されたリチウム−遷移金属酸化物粉体を得ることができる。
【0032】
当該焼成温度が300℃以上であると、表面のニオブ化合物とリチウム化合物とが十分反応して、ニオブ酸リチウム(LiNbO)となり、未反応のリチウム塩と非晶質な酸化ニオブとして残留しない。
一方、表面の被覆物をニオブ酸リチウムとするためには、添加したリチウム塩類の分解温度以上の温度で焼成することが好ましい。ここで、焼成温度が700℃以下であれば、リチウム−遷移金属酸化物粉体と生成したニオブ酸リチウムの間で相互拡散がおこり、ニオブ酸リチウムがリチウム−遷移金属酸化物粉体内部まで拡散してしまうことを回避出来る。また焼成温度が700℃以下であれば、粒子同士の焼結により粗大粒子が形成されることも回避出来る。
これらの理由により、焼成温度は、300℃以上600℃以下とすることが更に好ましく、300℃以上500℃以下とすることが一層好ましい。焼成の雰囲気は大気で良いが、酸化性ガスも使用することができる。焼成時間は、0.5時間以上10時間以下とすることが出来る。
【0033】
(5)ニオブ酸リチウムで表面が被覆されたリチウム−遷移金属酸化物の粉体
得られたニオブ酸リチウムで表面が被覆されたリチウム−遷移金属酸化物粉体の炭素含有量は、0.03質量%以下であった。これは、ニオブ化合物の製造原料として炭素を含有しないまたは炭素が離脱し易い原料を用いるニオブ酸錯体を用い、リチウム化合物の製造原料として炭素を含有しないリチウム塩化合物を使用した為であると考えられる。
【0034】
本発明に係るニオブ酸リチウムで表面が被覆されたリチウム−遷移金属酸化物粉体は、当該粉体の炭素含有量を0.03質量%以下とすることにより、実施例1にて後述する条件で圧粉体とした際の圧粉体抵抗を、6000Ω・cm以下とすることが出来た。
【0035】
当該圧粉体抵抗が高いニオブ酸リチウムで表面が被覆されたリチウム−遷移金属酸化物粉末を、正極活物質として全固体リチウム電池に使用した場合、当該正極活物質と固体電解質とが反応して当該正極活物質の表面に高抵抗部位が形成されることは、抑制することが出来る。しかし、当該正極活物質自体の電気抵抗値が高い為に、高抵抗部位形成抑制による電池特性の改善効果は、限定的なものになってしまうと考えられる。
【0036】
ニオブ酸リチウムで表面が被覆されたリチウム−遷移金属酸化物粉末のニオブ酸リチウム平均被覆厚さは、1nm以上、100nm未満であることが好ましい。平均被覆厚さが、100nm未満の場合には、粉体の圧粉体抵抗が抑えられ、1nm以上の場合には、正極活物質と固体電解質との反応による正極活物質表面の高抵抗部位形成を十分抑制出来る。この粉体の圧粉体抵抗および上述の抵抗部位形成の抑制を考慮すると、ニオブ酸リチウム平均被覆厚さは、1nm〜50nmであることが更に好ましく、2nm〜30nmが一層好ましい。
【実施例】
【0037】
(実施例1)
実施例1に係るリチウム−遷移金属酸化物粉体を以下の方法で製造した。
平均粒径5.14μm、BET値が0.234m/gのコバルト酸リチウム(LiCoO)粉体を準備した。
純水10gに、濃度30質量%の過酸化水素水5.8gを添加した過酸化水素水溶液を準備した。当該過酸化水素水溶液へ、ニオブ酸(Nb・6.1HO(Nb含有率70.7%))0.6gを添加した。当該ニオブ酸の添加後、更に、濃度28質量%のアンモニア水0.96gを添加し、十分に攪拌して透明溶液を得た。得られた透明溶液に水酸化リチウム・1水和物(LiOH・HO)0.134gを入れ、リチウムとニオブ酸錯体とを含有する水溶液を得た。
【0038】
前記リチウムとニオブ酸錯体とを含有する水溶液を90℃に加熱し、ここへ前記コバルト酸リチウム粉体30gを添加し、スターラーを用いて攪拌した。目視にて水分がなくなったと判断されるまで、温度を90℃で保持して水分を蒸発させ、粉体を得た。その後、当該粉体を大気中140℃で1時間加熱して乾燥し、乾燥粉体を得た。得られた乾燥粉体を、空気中400℃で3時間焼成し、ニオブ酸リチウムで表面が被覆されたコバルト酸リチウム粉体を得た。
【0039】
前記コバルト酸リチウム粉体のBET値(比表面積)と、用いたリチウムおよびニオブの量から計算した、実施例1に係るニオブ酸リチウムで表面が被覆されたコバルト酸リチウム粉体における粒子表面を被覆したニオブ酸リチウムの平均厚さは15nmであった。
【0040】
(ニオブ酸リチウムで表面が被覆されたコバルト酸リチウム粉体中の炭素量測定)
ニオブ酸リチウムで表面が被覆されたコバルト酸リチウム粉体中の炭素量は、微量炭素・硫黄分析装置である堀場製作所製EMIA−U510を用いて行なった。
上記の方法で測定した、実施例1に係るニオブ酸リチウムで表面が被覆されたコバルト酸リチウム粉体中の炭素量は、0.013質量%であった。
【0041】
(ニオブ酸リチウムで表面が被覆されたコバルト酸リチウム粉体の圧粉体抵抗測定方法)
ニオブ酸リチウムで表面が被覆されたコバルト酸リチウム粉体の圧粉体の電気抵抗値(圧粉体抵抗)の測定は、三菱化学製粉体測定システムMCP−PD51を用いて行なった。具体的には、コバルト酸リチウム粉体試料1gを、φ20mmの金型に粉体入れ、12kNの圧力を掛けて圧粉体とし、当該圧粉体の電気抵抗値(圧粉体抵抗)を測定した。
上述の方法で測定した、実施例1に係るニオブ酸リチウムで表面が被覆されたコバルト酸リチウム粉体の圧粉体の圧粉体抵抗は3.4×10Ω・cmであった。
以上の評価結果を表1に示す。
【0042】
(実施例2)
実施例1にて使用したリチウム化合物を、水酸化リチウム・1水和物(LiOH・HO)0.134gから硝酸リチウム(LiNO)0.220gとした以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係るニオブ酸リチウムで表面が被覆されたコバルト酸リチウム粉体を製造した。
当該実施例2に係るニオブ酸リチウムで表面が被覆されたコバルト酸リチウム粉体に対し、実施例1と同様の評価をおこなった。以上の評価結果を表1に示す。
【0043】
(実施例3)
実施例1にて使用したリチウム化合物を、水酸化リチウム・1水和物(LiOH・HO)0.134gから硫酸リチウム・1水和物(LiSO・HO)0.204gとした以外は、実施例1と同様にして、実施例3に係るニオブ酸リチウムで表面が被覆されたコバルト酸リチウム粉体を製造した。
当該実施例3に係るニオブ酸リチウムで表面が被覆されたコバルト酸リチウム粉体に対し、実施例1と同様の評価をおこなった。以上の評価結果を表1に示す。
【0044】
(比較例1)
比較例1に係るリチウム−遷移金属酸化物粉体を以下の方法で製造した。
エタノール10g中へ、Nbエトキシド(Nb(OC)1.7g、および、Liメトキシド(LiOCH)10%メタノール溶液2.03gを添加、攪拌して得られた溶液を1.37g分取した。当該1.37g分取した溶液へ、エタノール10gを添加してLiNbアルコキシド溶液を得た。
【0045】
前記LiNbアルコキシド溶液11.37gへ、実施例1で説明したコバルト酸リチウム粉体を10g添加し、80℃に加熱しながらスターラーを用いて攪拌した。目視にてエタノールがなくなったと判断されるまで、温度を80℃で保持して、エタノールを蒸発させ、粉体を得た。その後、当該粉体を大気中140℃で1時間加熱して乾燥した。乾燥粉体を空気中400℃で3時間焼成し、比較例1に係るニオブ酸リチウムで表面が被覆されたコバルト酸リチウム粉体を得た。
【0046】
使用したコバルト酸リチウム粉体の比表面積と、用いたリチウムおよびニオブの量から実施例1と同様に計算した、比較例1に係るニオブ酸リチウムで表面が被覆されたコバルト酸リチウム粉体の粒子表面を被覆したニオブ酸リチウムの平均厚さは15nmであった。
【0047】
得られた比較例1に係るニオブ酸リチウムで表面が被覆されたコバルト酸リチウム粉体について、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0048】
(比較例2)
LiNbアルコキシド溶液を得る方法を、エタノール10g中へ、Nbエトキシド(Nb(OC)3.6g、および、Liメトキシド(LiOCH)10%メタノール溶液4.3gを添加、攪拌して得る方法に変更した以外は、比較例1と同様にして、比較例2に係るニオブ酸リチウムで表面が被覆されたコバルト酸リチウム粉体を製造した。
【0049】
得られた比較例2に係るニオブ酸リチウムで表面が被覆されたコバルト酸リチウム粉体について、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0050】
(対照例1)
実施例1で説明したコバルト酸リチウム粉体であって、ニオブ酸リチウムで表面を被覆しないものを製造し、対照例1に係るコバルト酸リチウム粉体とした。
【0051】
得られた対照例1に係るコバルト酸リチウム粉体について、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0052】
【表1】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニオブ酸リチウムを含有する被覆層によって表面の一部または全部が被覆されたリチウム−遷移金属酸化物粒子からなるリチウム−遷移金属酸化物粉体であって、
炭素含有量が0.03質量%以下であることを特徴とするリチウム−遷移金属酸化物粉体。
【請求項2】
上述したニオブ酸リチウムを含有する被覆層の被覆厚みが、100nm以下であることを特徴とする請求項1に記載のリチウム−遷移金属酸化物粉体。
【請求項3】
前記リチウム−遷移金属酸化物が、コバルト酸リチウムであることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウム−遷移金属酸化物粉体。
【請求項4】
被処理粉体1gをφ20mmの金型に入れ、12kNの圧力を掛けて圧粉体とした際の圧粉体抵抗が、6000Ω・cm以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のリチウム−遷移金属酸化物粉体。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のリチウム−遷移金属酸化物粉体を含むことを特徴とするリチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項6】
請求項5に記載のリチウムイオン電池用正極活物質を、正極活物質として用いていることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
ニオブ酸リチウムを含有する被覆層によって表面の一部または全部が被覆されたリチウム−遷移金属酸化物粒子からなるリチウム−遷移金属酸化物粉体の製造方法であって、
ニオブ化合物とリチウム化合物とを含有する水溶液と、リチウム−遷移金属酸化物粉体とを混合して混合物を得る工程と、
当該混合物の水分を除去し、リチウム−遷移金属酸化物粉体表面にニオブ化合物とリチウム化合物とが被着した粉体を得る工程と、
当該粉体を300℃以上700℃以下で熱処理する工程とを含むことを特徴とするリチウム−遷移金属酸化物粉体の製造方法。
【請求項8】
上述したニオブ化合物がニオブ酸錯体である、ことを特徴とする請求項7に記載のリチウム−遷移金属酸化物粉体の製造方法。
【請求項9】
上述したニオブ酸錯体が、ニオブ酸のペルオキソ錯体([Nb(O3−)、または、配位子にシュウ酸を有するニオブ酸錯体であることを特徴とする請求項8に記載のリチウム−遷移金属酸化物粉体の製造方法。

【公開番号】特開2012−74240(P2012−74240A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217900(P2010−217900)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000224798)DOWAホールディングス株式会社 (550)
【Fターム(参考)】